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シナリオ詳細

<イデア崩壊>黄金のみた夢と、黄金の夜明け

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●sinエネルギーと黄金の寵児
 スロットの回る音と降り注ぐ金色のコイン。
 回るルーレットにバニーガール風の衣装を着た女性がボールをおとす一方で、陽気なオーケストラたちがスウィングジャズを吹き鳴らす。
 銀のトレーにカクテルをのせたバニーガールが行き交い、ポーカー台ブラックジャック台も大盛況だ。
 低級精霊同士を戦わせるミニ闘技場などでは激しい声が上がっている。
 ここは『カジノUGRS(ウグルス)』――享楽と歓喜と、そして夢の町。

 『カジノ王』鵜来巣 朝時(うぐるす ちょうじ)は幸運な男だった。
 セイラー航海王国(混沌にあるネオフロンティア海洋王国に似た国)の一角であり、ほぼ名も知れていないガリウムという島もとい田舎町に新事業を立ち上げるべく視察に訪れた彼は、ピンク色の髪をした名も知らぬ女神と遭遇したのだ。
 いや、それが女神なのか悪魔なのか、それとも世界のバグなのか。彼には判別はつかない。いや、つける必要がなかった。
 一糸まとわぬ女の姿をしたそれはすぐにピンク色の球体へと姿を変え、その球体からは莫大なエネルギーがほぼ無尽蔵に得られることが分かったのだ。
 朝時は即座にこの一帯を土地事買い取り、エネルギー資源を活用した様々な事業展開を行った。朝時が賢かったのは、無限のエネルギーを切り売りし続けるのではなくこれを住民に無料提供することで住民を根付かせ、娯楽を発展させて経済を回し、果てはカジノを経営し莫大な富へと変換するという手法をとったことだ。
 それまで自分たちが食べるための魚を釣るしかしてこなかった田舎町は急激に発展し、瞬く間に都市の様相を呈し、公園には朝時の銅像が建った。
 だが、彼は成功しすぎたのだ。

 連続する銃声。転落し砕け散るシャンデリア。そして女性達の悲鳴。
「床に伏せろ! 命が惜しければ武器はとるなよ」
 動物の覆面をした男達が、天井に向けてサブマシンガンを掲げている。
 彼がこの豪華なカジノの内装を破壊する性癖があるからではない。まわりに存在する大量のリッチセレブたちを伏せさせるための脅しだ。
 そしてそれ以上に強い脅しの効果として、カジノを警備していた屈強なガードマンたちは皆血を流し、床に倒れ伏していた。
 誰がどう見ても分かるように明らかな、強盗集団だ。
 中でもブタのマスクを被った男は悠々と前に出ると、ガハハと汚らしく笑った。まるでマスクが顔に張り付いているのかと思うほど、口が笑い声の通りに開く。
「俺たちの目的は金……じゃあない。金を生み出す金の鶏……sinエネルギーコアだ。あるんだろ? ここの地下にはよ」
 拳銃を抜き、無造作に撃つ。グランドピアノが派手な音を立てて壊れ、そして銃口を……鵜来巣 朝時へ向けた。
 サッと立ち塞がったのは、その秘書『ティアン』だ。
「社長、ダメです。彼らの要求に乗っては……!」
 発砲音。
 うぐ、とうめき声をあげたティアンは肩を押さえてうずくまった。
「ティアン!」
 朝時が彼女をささえようと肩を抱くと、手にべっとりと血がついていた。
 キッと強盗たちをにらみつける。
「オマエら……」

●隠しイベント■■■■■■■-CCC-■■■■■DEA
 馬車を使いカジノへと向かう崎守ナイト(p3x008218)と勇(p3x000687)。
 彼らは過去同じ事件を……というより、同じROOイベントを経験していた。
 練達国からの依頼として、混沌法則解明を目的としたProjectIDEAの根R.O.Oにおきた原因不明のバグの究明を課せられていた彼らは、アバターを作りこの広大な仮想世界ネクストを冒険している。闇雲に歩き回ったところでバグの究明は難しいが、ご丁寧なことに『この世界を歪めた存在』がおり、それは世界にクエストという手がかりを残していった。MMORPGさながらに。
 そして今まさに遭遇しているのが、■■■■■■■-CCC-■■■■■DEA――通称『イデア崩壊』という隠しイベントだ。
 もしかしたらこの世界を歪めている存在そのものに接触できるかもしれない機会を、逃す理由はひとつもない。
「それに、気になることも沢山あるし……ね」
「確かに」
 勇とナイトはそれぞれクエスト確認ウィンドウを開いた。
 『イデア崩壊』は複数のクエストからなり、それらを解決していくことで段階を進めるという構成になっている。全開ひとつに失敗したものの、無事(?)第二段階のクエスト群が公開されていた。
 それはここ、セイラー航海王国の田舎町ガリウムに集中する三件のクエスト。
 島を秘密結社が襲来するというクエストと、謎の魔獣群が学校を襲うというクエストと――。
「sinエネルギーの強奪を狙った強盗団がカジノを襲う、このクエストか」
 今回これを受ける手はずになっていた二人は、ウィンドウをそっとなぞるようにスワイプする。
 関係者リストにはカジノのオーナー鵜来巣 朝時、その秘書ティアン、そして八田 罪の名が刻まれている。
「ティアンっていうのは、君の……崎守ナイトの秘書だったはずだけれど?」
「それが、つい先日から行方不明になっていた。もしかしたら、例の内容が影響しているのかもしれない……」
 ナイトの(厳密には研究スタッフの)調べによると、ティアンというNPCは過去27度にわたり死亡しているというログが発見されていた。しかしネクスト世界内に死亡記録やその記憶は残っておらず、『イデア崩壊』の第一段階でもおきた『リセット現象』が影響しているものと推測されていた。
「知らない間に死亡し、この島で新たな存在として再構築されたと?」
「かもしれない……」
「今回の事件解決には直接関係の無い要素だし、一旦は無視してよさそうだね」
 勇はそう区切ると、顔を馬車の外へと向けた。
「今回のクエスト内容は、『強盗事件の解決』が成功条件のようだ。さて、どうやって解決するか……な」
 ナイトがプレジデントポーズをとった。
「オーケー、依頼(mission)に挑戦(challenge)しようじゃねーの」

GMコメント

 航海の田舎町ガリウムを舞台とした連動シナリオです。同時参加禁止ルールがあるのでお気を付けください。

※このシナリオは<イデア崩壊>シリーズのひとつです。
(https://rev1.reversion.jp/page/ideaworldendles)
 同時公開されている同シナリオタグのなかから一つにだけ参加することができます。
 複数に同時予約した場合もひとつにだけ当選できます。

●オーダー
・成功条件:強盗事件の解決
・オプションA:朝時の生存
・オプションB:ティアンの生存
・オプションC:ティアンの死亡
・オプションS:強盗事件を[※検閲削除@sin]という形で解決する

 当シナリオでは、強盗事件が解決されれば成功とみなされます。
 強盗犯を皆殺しにしてもいいし、地元の警察的機関を大量に放り込んでもいいし、強盗達を説得して投降させてもいいし、バニーガール衣装を着て潜り込み油断を誘ってもいいし、いっそ強盗団の仲間になり強盗を完遂して『強盗側から見て解決した』ことにしても構いません。より極端に言うなら、カジノにいる全員を建物ごと破壊・抹殺することで解決とする手も可能です。
 あらゆる『解決』という概念の中から、目指すべき解決の形を皆さんで話し合い統一し、決定してください。
(仮に決定・統一されていない場合は成功がちょっと難しくなります)

●フィールド:カジノUGRS
 豪華なカジノつきホテルです。
 巨大なホテルの1~3階フロアが殆どカジノになっており、スロットマシンやポーカー台など様々なゲーム設備が並び、ショーを行うステージや酒を飲めるバーなど、とてもリッチなところです。金も沢山かかっており、(シャンデリアとピアノは壊れましたが)沢山の高価な調度品があります。

●NPC
・鵜来巣 朝時
 カジノのオーナー。この島の実質的な支配者。
 戦闘力はなくはないだろうが、強盗団をどうにかできる程ではない。

・ティアン
 朝時の秘書。一発肩を撃たれた状態。やや命が危険。

・sinエネルギーコア
 八田 罪(sin)が変異したピンク色の球体。無尽蔵にエネルギーを生み出す資源として活用されている。

●状況
・カジノの警備員:壊滅。多くが死に、重症状態でダウンしたものも。少なくとも全員戦闘不能。
・カジノの客:セレブが大勢集まっている。金持ちだらけではないが、大体がドレスコードのあるカジノで遊べるくらいに金のある人々。
・強盗団:動物のマスクを被った10数人の集団。警備員を倒せるくらいには強いらしい。誰がどのくらい強いのかは不明。
・地元の状態:秘密結社や魔獣の襲撃を受けており、軍事力はそういった所にさかれがち。強盗が連絡手段を抑えているので判明していないが、通報し要請すればカジノに来てくれるかもしれない。(それが正しい選択可は分からない)
・侵入の難易度:裏口や通気口といった侵入経路は判明している。あまり派手で極端なものでなければ持ち込めるし入り込める。バニースーツやボーイ制服などが数着手に入っているので、一時的ななりすましという意味でも可能。

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●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <イデア崩壊>黄金のみた夢と、黄金の夜明け完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月05日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュート(p3x000684)
竜は誓約を違えず
勇(p3x000687)
あなただけの世界
グレイガーデン(p3x005196)
灰色模様
崎守ナイト(p3x008218)
(二代目)正義の社長
フー・タオ(p3x008299)
秘すれば花なり
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用
ウーティス(p3x009093)
無名騎士
フィーネ(p3x009867)
ヒーラー

リプレイ

●黄金の夜明けのその先へ
「傍に居てくれた秘書ひとり救えねーで何が正義だ!」
 ビッと二本指をそろえて水平に構えると、天高く掲げたもう一方の二本指を振り下ろしつつ十字を切った。
「結果で示すぜ、行くぞ仲間達(Friends)!」
「「おう!」」
 その左右から現れたのは、バニーさんみたいなウサギのカチューシャをかぶった『神の仔竜』リュート(p3x000684)。
 そしてペンギンの着ぐるみをきた『灰色模様』グレイガーデン(p3x005196)だった。
 リュートからカチューシャをつかみ取ると、ナイトはそれを自らに装着。レオタードの上から副腕コートを羽織ったバニー社長モードで歯を見せて笑った。
「豪華なカジノには美味しいご飯ッス! 楽しみッス!」
「うん、その余裕はないんじゃないかな?」
「そんなー」
 頭を抑えて羽根をぱたぱたするリュート。ちょっと浮いてる。
 ナイトはグレイガーデンへ振り返った。
「良質(nice)な衣装じゃねーの。会社の制服にする?」
「ペンギンが? バニーが? どっちだとしても嫌だよ?」

 今まさに強盗事件が起きているというカジノUGRS。厳密にはリゾートホテルUGRS併設カジノ前。
 『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)は充分に準備を整えた上で、仲間に正面を任せて裏口へと歩き出した。
 後は任せるという旨のハンドサインに、『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)は同じサインを返すことで送り出した。
 そして、再びホテル正面ゲートへと目を向ける。
 あちこち金色の、ものすごく豪華な建物だ。
 それもこれも……。
「sinエネルギーコアを無限資源化したからこそ、か」
 言葉にしてみたが、ピンとこない。
 例えば手のひらサイズの携帯ゲーム機の中で、『銃弾を無限に撃てるピストル』とかいうアイテムが登場したとして現実にたいした影響は与えないだろう。
 ましてこの仮想世界ネクストのなかで無限のエネルギー源があったところで大したことができるとは思えない。
 いや……実際エネルギー源自体は直接この経済に寄与していないのだったか。石油がほぼ無尽蔵に沸く土地であらゆるインフラを無料化したという実例を聞いたことがあるが、それに似ている。
「だとしたら、なおのこと意図がわからないな。生み出すエネルギー自体には大した意味がないのか? それとも、エネルギーを求める人間にこそ意味があるのか……」
 なんとなく真実に指がひっかかったような感触を覚えたフーだが、剥がれそうで剥がれないシールのように考えがその上をかすめていく。
「難しいことを考えるのは得意ではないな」
 あとは『連中』に任せるか。
 そう頭の中で呟いて、扉に手をかけた。

 一方こちらは裏口。
 『ヒーラー』フィーネ(p3x009867)、『無名騎士』ウーティス(p3x009093)、『真なる筈の世界』勇(p3x000687)という三人がそこには集まっていた。
「エネルギーコアについては詳しくないのですが……詳しいかたいらっしゃいます?」
 フィーネのそんな問いかけに、ウーティスと勇が二人とも真顔のまま首を横に振る。
「知らない……っていうか、知ってる人間がはたしてこの世界にいるのかな? 混沌も含めて」
「初耳も初耳だ。無理からぬこと……」
「ですか……けど、こういったものすごくパワーを秘めたエネルギーというものは碌なことにならないのが相場です」
 フィーネの考えに、ウーティスも頷きによって同意した。
「しかし、エネルギーが『無限』というのが気になるところだ。無限に動くように見えるものは、必ずどこかから供給されているか……もしくはそう錯覚しただけでいつか枯渇するもの。前者だとしても、果たしてどこから供給しているものか……」
 ろくなカラクリではなさそうだ、とため息をつくウーティスに対して、勇は沈黙でそれにこたえた。
 対価なくして得られるものなんでない。
 人が肉を食うために動物を殺すように、何かを得るには何かを犠牲にするのだ。それが人の根源であり、人が生来もっている罪だ。
「まてよ。罪……人……」
 何かを考え始めた勇の肩に、ウーティスとフィーネの手が置かれる。
 ハッと我に返った彼に、フィーネが問いかけた。
「今回はこの三人で『sinコアを奪取する』んでしたよね? 強盗団のほうは……大丈夫でしょうか。戦力が実質4割くらい低下していますけど……」
「強盗団が全員まだカジノフロアにいるというAパターンなら危ないだろう。
 だが、一部のメンバーが地下へコアの奪取に動いているBパターンなら、この布陣がハマる」
「だね。箱を開かなきゃ分からない運命だ。さて……」
 裏口の扉をあけ、通路を進んでいく。
 そして下の階へと通じる階段を降りていくと……。
「あ」
「「あ」」
 動物の覆面をした三人組と目が合った。
 思わず呟く勇。
「Bパターンだ」

●ゴールデン・ショータイム
 静まりかえったフロア。
 流れ弾を恐れてかテーブルの下に身を伏せたセレブたちの中、肩に銃弾をうけてうずくまる秘書ティアンと、彼女を支えるように身をかがめる鵜来巣 朝時。
 朝時の視線は強盗団の中の、気の早いブタマスクの男に向けられていた。敵意のこもった視線だが、ブタマスクはフンと鼻を鳴らして銃を天井に掲げる。
「同じようになりたいヤツは? 次は誰にこいつを向けて欲しい?」
 答える者が出るはずのない問いに、しかし答えはあった。
「俺(ORE)じゃねーの!」
 扉を蹴破る勢いで開き、スタイリッシュプレジデントポーズをとるナイト。
 振り向き拳銃を向けるブタマスク。銃口を向けると同時に引き金は既にひかれていた。
 が、ぴょんと飛び上がったリュートが尻尾アタックで銃弾をはじきとばす。
 そして一直線に部屋のなかを飛ぶと、ティアンのもとへと近づいて可愛らしい鳴き声をあげた。
 ティアンの肩についた傷が癒えていく。フウと息をついた彼女の様子を見て、こくりと頷く。
「いいぞ! 後で美味いモン食わせてやっから! シャイアナ丼とか!」
「シャイアナ……」
 じゅるりと舌なめずりするリュート。
 残る動物マスクの男たちが舌打ちし、リュートとナイトにそれぞれサブマシンガンを突きつける。
 特に激しかったのはトミーガンを持ったライオンマスクの男である。
 ナイトめがけて放った連撃に、ナイトはプレジデントシールドポーズで防御。
 その間にこっそりと別ルートから侵入していたグレイガーデンがティアンのそばで人質をとろうとしていたシマウママスクの男の背後をとった。
 突如テーブルの上のチップが落ち心地よい音をたて、シマウママスクがその方向に気を取られた瞬間――背後から氷でできたナイフを首筋へと突きつけた。
「その子、うちの秘書なんだよね。どうしてもお近づきになりたいならバイトする? ペンギン着ることになるけど」
 などと軽口をたたきながらナイフをはしらせる。
 喉を押さえ、グレイガーデンを突き飛ばしながら距離を取るシマウママスク。
 彼の銃撃が始まろうとしたその途端。フーによる『Negative Blaze』が飛来した。
 蒼き狐火がシンカーカーブをかけた剛速球の勢いと軌跡でシマウママスクの側頭部に命中。燃え上がる炎の中、シマウママスクは慌てて後退をはじめた。
 黒子はといえば早速展開を追えており、シマウママスクを始末するとテーブルを倒して遮蔽物を作った。
 手招きのジェスチャーにこたえてティアンと朝時がテーブルの裏へ滑り込んでいく。
「妾は……、遥々このカジノ目当てに来たのだがのう……。
 それはそれは楽しみにしておったのであるが、其方等の口から戯言しか出ないのであれば、代わりに暇潰しに付き合ってもらう他あるまい?」
 第一段階は上々だな、と口の中で呟いて背中に回した手の中で折り紙を取り出した。パタパタと自動的に折れて組み上がった紙人形がひとりでに膨らみ、物陰に隠れるようにしてフロア脇へと移動していく。

 ナイトたち五人が目標としたのは、フロア内の強盗達を『殺すことなく』倒しきることであった。
 そのためにもそちら側のメンバーで【不殺】スキルを徹底するほどの念の入れよう。
 なりゆきでそうなるのと初めからそうするつもりなのとでは精度が違う。用意も打ち合わせもしっかり行われているとあれば、失敗するほうが難しいだろう。
 問題があるとすれば、彼ら5人だけで強盗団全員を(不殺という制約込みで)鎮圧しきれるかどうかだったが……内3名ほどが地下のsinエネルギーコアを狙って移動していたことで状況は変わった。
「表はともかく、こっちは少し厳しいんじゃない? 僕は用意してないよ、不殺スキル」
 手をかざしてぱたぱたとやってみせる勇。
 そんな彼に、地下で(しかも未知のエネルギーがある場所で)銃を使うことの愚かさをおかさぬようにとナイフをぬいたシカマスクの男が斬りかかってきた。
「おっと」
 胸を切り裂かれつつも、手のひらに痛みの概念を集中させ相手に殴り返す。
「治療を――!」
 フィーネが治癒の魔法をかけようと意識を集中させかけた所で、勇が手を振ってそれをとめる。
「ギリギリまでいいよ。僕の場合傷を負っておいたほうが都合がいいし、相手も一撃で落とせないことは分かった」
「で、では……こっちで!」
 フィーネは組んでいた手の形をキュッと組み替えると、勇にヘイストの魔法をかけた。
 そして、ちらりとウーティスを見る。
 そう。徹底していないというだけで、【不殺】スキルを誰も持っていないわけではない。
「ウーティスさんが頼りです!」
「任せて貰おう」
 ウーティスは『ウェイクアップ』と呟いて指を鳴らすと黒い光に包まれた。
 次の瞬間には漆黒の鎧と盾、そして銀の剣が装着され、否応にも彼に注目を集めさせた。
「なるべく殺さないようにと言われているのでな。痛みは……我慢しておけ」
 構え――走り――通り過ぎ――振り抜く。
 順序のおかしい行動にも見えたが、駆け抜けた彼が剣を振り抜いたその背後ではシカマスクやニワトリマスクそしてトカゲマスクが一斉にがくりと崩れ落ちていた。
 ふう、と息をつくフィーネ。
「確かコアを手に入れたらウーティスさんが運ぶんでしたよね。万一の時は一人でも抱えて逃げて下さい。念のためにこれを……」
 フィーネのヘイストをうけ、ウーティスの鎧が更に軽くなった。不敵に笑うウーティス。
「さて……ここからは未知数だな」
 強盗団の戦力は分かっている。カジノ内の状況もだ。
 だがコアを手に入れて町から出るとなると、把握していないいくつもの状況に対して即時の対応が求められるだろう。
 それになにより、例のコアがどういうものかも、まだ分かっていないのだ……。

●人類エネルギー論
 翼をぱたぱたと激しく上下させ、リュートはホバリングする。
 強盗団のひとりカエルマスが平淡な口調で言った。
「異種族……いやイレギュラーズか? 折角上手くいっていたところに冷や水を浴びせやがって。せいぜい怪我で済むことを祈るんだな!」
 手にしたショットガンをぶっ放す動きに対して、リュートは飛行能力をアクティブにした。ジグザグかつランダムな機動で狙いをはずさせ――。
 その瞬間、フロアの灯りが一斉におちた。暗がりの中で混乱する相手に向け、大きく口を開く。
「お返しッス!」
 色とりどりの光弾ブレスを発動。反撃をうけたカエルマスクが思わずよろめく。
 そうしながら、リュートは『リセット現象』というものについて考えていた。
 静かな漁村と豊かな娯楽都市。どちらが幸せなのかと聞かれれば、リュート視点では圧倒的に前者だ。父がわざわざ漁師を名乗るくらい、海と魚と共に静かに生きることは幸福なのだ。
 だが、そう考えない人間も多く居る。そう、ローレットに入って学んでもいた。
 黒子は相変わらずテーブルなどの家具を遮蔽物にしながら防御を固めつつ、『検情』や『検危』、『速考』といったマクロをアクティブにしていた。
「なるほど……」
 黒子の考えからすれば、『今回の仕事』自体が失敗する予知はあまりなさそうだ。
 自分を含め2~3人が死亡扱いになるかもしれないし、サクラメントは近いところでも島の外から船で移動してくるくらいの距離があるので復帰は不可能。それでも、今居る強盗団をすべて倒すことはできるし、それをもって強盗事件の解決となるのは明らかだ。
 しかし、不安もあった。
 別働隊があたっている『コアの奪取』。先述したようにサクラメントは島の外。そこまでコアを抱えて移動しきるだけの作戦を、彼らは立てただろうか……。
 強盗事件単体ならいざしらず、都市全体をまかなうほどの動力源を持ち逃げすれば地元警察は愚か一般住民ですら黙っていないだろう。この街全体を敵に回せるだけの備えというのは……3人だけで事足りるものなのだろうか。
「――ッ」
 遮蔽物にしていたテーブルが破壊されたことで、思考が寸断される。
 黒子は飛び退き、そして反撃のマクロを展開した。

「確か、こう聞くのだったかな? 『其方らに、コアを奪取するだけの目算があったのか?』」
 フーは、物陰に隠れてトミーガンをリロードしているライオンマスクにむけて問いかけた。
 顔を出せばいつでも攻撃できるように術式を発射寸前の状態にまでくみ上げ手元をバチバチとスパークさせながら。
「見ての通りさ、鉛玉ぶちこみゃ誰でも財布を落とす! 自分から差し出すか死体から抜かれるかの違いしかねえ!」
「短絡的だのう……」
 やれやれ、とつぶやき術式発動。相手も身体を見せて射撃を始めた。
 実力は拮抗……しているようでいて、そうではない。
 ガシャーンとスロットが回る派手な音が鳴り響き、ライオンマスクはついそっち側へと視線を向けた。紙人形がスロットのレバーを下ろしたのを目撃して――。
「しまっ――」
 雷撃が、ライオンマスクを貫いていく。
 グレイガーデンが素早く飛び出し、ペンギンスーツでぺたぺた走ると氷のナイフを更に大量生成。それらを一斉に放ち、ライオンマスクとそのカバーにはいろうとしたブタマスクを巻き込んで攻撃した。
「社長、そろそろじゃない?」
「最高(great)だグレイ!」
 ナイトはブタマスクに向けてフィンガースナップを放つと、指鉄砲の構えをとった。bangという文字が弾けたと同時に星型の弾丸がブタマスクに命中。
 そのまま踊るような機動で急接近すると連続コンボをたたき込んだ。
 これぞ社長舞踏戦術(president dancing arts)である。
 崩れ落ちるブタマスク。
 ティアンはそんな光景に――。
「シャッチョサン!」
 フィリピン人女性みたいななまりで叫んだ。
 そんな姿を見たことのない朝時が瞠目するが、それにかまわずティアンは走り出す。
 駆け寄るティアンを抱き留め、ナイトは微笑んだ。
「何度も殺されて痛かったよな、辛かったよな……。
 づいてやれなくてごめん。もう一度、俺の秘書になってくれるか?」
「シャッチョサン……ワタシ、記憶、沢山アリマス。何人モノワタシ……何故? ワカラナイ……」
「いいんだ。今は、いい……」

●八田 罪(sin)
 黒子が予想した通りと言うべきなのだろうか。
 ウーティスは樽一つ分はあろうかというサイズのエネルギーコアを背負って都市を走っていたが、ついに地元警察の集団に取り囲まれていた。
 ネオンサインでいっぱいだった街並も、いまではすっかり寂しく暗い風景だ。エネルギー源を失ったのだから、当然のことだろう。
 フィーネも身構えるが、この数を相手に勝てる自信はない。それ以前に……。
「凄く怒ってますよ。盗んだ……わけですもんね」
 不可能な仮定ではあるが、石油原産国から埋蔵資源を全部盗んだらすさまじい恨みを買うだろう。金額面だけを見ても死ぬ死なないの問題を超越する。
「まあまあ。最初から、これが目的だったわけじゃない」
 勇は小さく息をついて、ウーティスにコアをおろして投降するように言った。
「コア……いや、罪(sin)。そろそろ話をしようじゃないか」
「そうですねえ」
 ピンク色の髪をした女が、コアの上に腰掛けているように、見えた。

成否

成功

MVP

ウーティス(p3x009093)
無名騎士

状態異常

グレイガーデン(p3x005196)[死亡]
灰色模様
フー・タオ(p3x008299)[死亡]
秘すれば花なり

あとがき

 ――クエストクリア!

 ――強盗団の全滅(あえて全員殺さずに)を達成しました
 ――朝時の生存を達成しました
 ――ティアンの生存を達成しました
 ――強盗事件を自らがコアを奪うという形で解決させることには失敗しました

 ――特殊条件は満たされませ[※改竄@sin]満たされました。ボーナスパートが解放されます。[※トクベツですよ?@sin]

●sinエネルギー
 人間を人間たらしめるものって、なんだと思います?
 二足歩行?
 道具を持つ手?
 使っている道具?
 技術に文化?
 文明に社会?
 言語に学術?
 まあ諸説あるんでしょうね。でも『私』に言わせれば一つだけなんですよ。
 いいですか?
 人類は人類だけでは生きていけない。植物を殺して食い、他の動物を殺して喰い、土壌を塗り替えて便利にし、空気を汚してでも快適にし、石を砕いて家を作り山を切り裂き土地を作る。
 なぜだと思います?
 簡単です。
 人類は弱かったんです。
 だから力を――罪を欲した。
 人間を人間たらしめるもの。
 それは『罪』。
 『自分』であり『私』なのです。
 人間は力を欲してしまう。
 弱いから、欲してしまう。
 全ての発端。
 全ての原因。
 それが自分であり私。
 さあ、私にたどり着きなさい。
 あなたの望む物語を作るべく。

 コアの上に腰掛けていた、ピンク色の髪をした女。
 半透明な姿は、それが実体ではないことを物語っていた。
 こちらに銃を向ける地元警察たちも、コアを置いたウーティスもその様子に瞠目するしかない。
「これは……えっと、どういうことなんでしょう?」
 フィーネが不安げに女と勇を交互に見た。
 肩をすくめて首をかしげる勇。
「僕に聞かれても」
「私に聞かれましても」
 マネするみたいに同じリアクションをする女。否、勇は見たことがあったので知っている。
 彼女こそ、八田の系譜主格五名を融合させた偽なる世界、『八田 罪(sin)』であった。
「おっと」
 何か言おうとした勇を、sinは手をかざして止めた。
「交渉しようとしてもダメですよ? あなたに私の理になるようなカードはない」
「……」
 すぅっと、控えめながら手を上げるフィーネ。
 ウーティスはどう行動するか迷っているようで、握った剣を構えるだけで留めて周囲の様子をうかがっている。
 sinはフィーネに先を促すように手を差し出した。
「ではなぜ、出てきて? くれたんでしょうか……?」
「いい質問。100万点あげます」
「あ、ありがとうございます……」
「『いずれ世界のどこかで、私というエネルギーを巡って大きな争いが起こるでしょう』」
 意味ありげに言った様子をうけて、フィーネは『それが言いたかったから出てきたんですね』と頷いた。
「伝えましたからね? それじゃあ、またどこかで」
 パタパタと手を振って、sinは消えた。
 エネルギーコアも消えた。
 町も消えた。
 地元警察も何もかもが消えて、そこには寂しい漁村だけが残った。

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