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シナリオ詳細

<大樹の嘆き>囚われし商人たちのカプリース

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●翡翠国境
 翡翠国、森林地帯。女性が一人、腕を抑えて走っている。腕には突き刺さったままの弓が痛々しく姿を見せていて、僅かに滴る血が草木を濡らす。
 女性は気の影に隠れると、ゆっくりと息を吐いた。自らの右腕に突き刺さった矢を、ゆっくりと抜いた。激痛に呻きながら、腕をスカーフで縛りつけて止血を図る。
「どうして……」
 女性が呟き、カバンから消毒薬を取り出す。私物ではなく、売り物だった。彼女は、伝承国から出発した隊商の内の一人だ。翡翠国は鎖国状態だが、完全に門戸を閉ざしているわけではない、ごくわずかながら、商取引を行う集団がいて、彼女の隊商は、そうした商人たちのうちの一つだった。
 少し前、翡翠が突如として国境線を封鎖した。そうとは知らず国境付近に到着した隊商は、突如として森林警備達に捕まり、囚われの身となってしまう。
 囚われの間のことは解らないが、その間、警備隊の間では、殺すだのなんだのと言う物騒な話し合いがされていたらしい。翡翠の幻想種は些か過激ではあったが、まさかそのような手段に打って出るとは、彼女たちも寝耳に水の事態である。
 結果として、どうやら処刑が決まったらしい。驚く隊商たちは、しかし黙って死ぬ気は無く、警備隊の隙をついて三々五々に脱出を図った。まとまって、一丸となって逃げるような余裕はなかった。どうにかこうにか森に逃げ込んだ仲間は数名。それもすぐにバラバラになって、消息がつかめない……。
「ううっ……」
 痛みに意識をもうろうとさせながら――矢じりに毒が塗られていなかったのは幸いだった――女性は意識を集中させると、一羽の小鳥を召喚した。使い魔(ファミリアー)の類である。彼女はその脚に、救出を願う手紙をまきつけると、国境から外に向かって放った。
「……運が良ければ、誰かに……」
 そう呟いた瞬間、あちこちから草木をかき分ける足音が聞こえた。それが、彼女を探す追手であることに気づいて、彼女は息をひそめた。

 ――そのSOS(クエスト)の発生を拾ったのは、たまたま国境沿いを偵察していた特異運命座標たちであった。

●隊商救出
「ふむ……どうやら急ぎの要件らしいな」
 と、特異運命座標たちと同様、翡翠国境付近の調査を行っていた『理想の』クロエ(p3y000162)である。
「手紙の内容によれば……手紙の主はクレア・フェンネル。隊商の女性だ。昨今の翡翠での異変に巻き込まれたらしい」
 翡翠国での異変――つい先ごろから、国内に通じるサクラメントが一斉停止したという事件だ。同時に翡翠国に関する調査を目的とするクエストも、システムから発令された。
 つまり、これは何らかの異常事態が、翡翠国内部で発生したと疑われる。
 そのため、特異運命座標たちは新たに発令された様々なクエストの解決に乗り出したわけだが、どうやら今回の件も、そんな一連の『翡翠国の異変』に関するクエストとして、システムから発令されたもののようだ。
「翡翠国の国境線付近……広大な森林の広がる地帯だ。そこで人探し、となると少々骨が折れるだろう。
 が、今回は手掛かりがある。このファミリアーだ」
 と、クロエは手紙を運んできた使い魔(ファミリアー)の小鳥を、その手にのせて見せた。
「ファミリアーは、主と五感を共有する……その性質は、現実でのそれとおおむね同じらしい。と言う事は、こちらの準備が整えば、おそらくこのファミリアーが、持ち主……クレアと言う商人の下へ案内してくれるはずだ」
 つまり、クレアを見つけるだけなら、そう難しくはない。森林警備隊が徘徊している以上、敵との戦闘は免れまいが、それでもやみくもに探すよりはいいだろう。
「問題は……おそらく、他の隊商のメンバーも、逃げ回っているだろうという事だ。システム上の、クエストの達成条件を見て欲しい。成功条件は『クレアの救出』だが、サブクエストとして『5名の商人の救出』ともなっている。
 つまり、この森には、逃げおおせた5人の商人も存在するという事なのだろう。だが、彼らを探すには手掛かりが乏しい。この辺は……やり込み要素、と言う奴なのだろうな。人命がかかっているのに、些か軽い言葉だが……」
 クロエは苦虫を嚙み潰したような顔をして、そう言った。とはいえ、システムからは、他の商人の確保はおまけ要素、と言う事になっているらしい。さほど大きな報酬は見込めないだろうし、余計な動きをしていれば、要らぬリスクを抱え込むことになるだろう。が、見捨てておくのも些か心苦しい。
「最終的な判断は皆に任せるが……とにかく、クエストの成功条件は『クレアの救出』だ。それだけは忘れないでくれ。
 ……それでは、あまり時間もない。作戦会議は、すまないが道中で頼む。それでは、どうか気を付けて、いってらっしゃい」
 そう言って、クロエは特異運命座標たちを送り出した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 翡翠国、森林警備隊から逃げだしてきた商人たち。
 彼女たちを救出しましょう。

●成功条件
 クレアの救出
  サブクエスト――五名の商人たちの救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 ROOにて、翡翠国の国境が封鎖、および国内に通じるサクラメント(セーブ・ワープポイント)が使用不可になるという事態が発生しました。
 それに前後し、翡翠国へと向かっていた隊商のメンバー。彼女たちはこの異変に巻き込まれ、突如攻撃的になった森林警備隊によって捕縛され、あまつさえ処刑を宣告されてしまいます。
 隙を見て森へと逃げ出したメンバーですが、自力では逃げ切れず、外部へと救出を依頼します。そのクエストを受け取ったのが、みなさん特異運命座標たちです。
 みなさんは、迷宮森林とよばれる森林地帯にむかい、商人たちを探し回る森林警備隊のメンバーを撃退しつつ、商人クレアを救出してください。
 なお、サブクエストとして、この地にバラバラに逃げた5名の商人を救出する、と言うものもあります。
 とはいえ、こちらはやり込み要素ですので、まずはクレアを救出することに注力してください。
 クエスト発生時刻は昼。特に移動等に制限はありませんが、森林地帯と言う事もあり、移動や調査に関する適切なプレイングやスキルがあれば、判定にプラスが発生することがあり得ます。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●エネミーデータ
 森林警備隊・警備兵×???
 主に弓で武装した警備兵たちです。強力な弓矢を使った攻撃を行ってきますが、近距離~至近レンジの攻撃手段に乏しいという弱点もあります。
 散開して森を探索しているようです。彼女たちに容赦の二文字は存在しません。商人たちを見つければ、その場で抹殺を図るでしょう。

●救助対象
 クレア・フェンネル
  救助の手紙を送った隊商のメンバーの一人です。皆さんを誘導するファミリアーの主で、ファミリアーの指示に従えば、少なくともクレアの居る場所にはたどり着くことはできます。(とはいえ、あまり探索に時間をかけていては、クレアが敵に発見される可能性はありますが……)
  ファミリアーを使用することはできますが、基本的に戦闘能力はありません。ケガもおっているので、あまり無理はさせないようにするのがいいと思います。

 商人たち ×5
  五名の商人たちが、迷宮森林内に逃げ込んでいます。全員が人間種で、見れば商人と分かるものとします。(システム上でターゲット名とか出ます。ROOなので)。
  基本的に、どこに潜んでいるかはわかりません。クレアなら、大体どの方面に逃げたかはわかるかもしれません。
  が、彼らの救出は、基本的にはおまけ要素です。クレアの救出を最優先としましょう。

●サクラメントについて
 リスポーン(死亡後、数回復活できる)専用のサクラメントが、特異運命座標たちが侵入する森林入り口に存在します。
 死亡しても数回は復活出来ますが、合流には相応に時間がかかります。なるべく無理はしない方がいいでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <大樹の嘆き>囚われし商人たちのカプリース完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3x000273)
妖精勇者
ヨハナ(p3x000638)
普通の
リースリット(p3x001984)
希望の穿光
シラス(p3x004421)
竜空
WYA7371(p3x007371)
人型戦車
リュティス(p3x007926)
黒狼の従者
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ

●森林の救出劇
 森の中を、2羽の小鳥が飛ぶ――小鳥が導くのは、八人の特異運命座標たちだ。商人たちを救うため、特異運命座標たちは迷宮森林へと足を踏み入れたのだ。
 二羽の小鳥、その内の一羽は、助けを待つ商人、クレアが放ったファミリアーだ。残る一羽は、『人型戦車』WYA7371(p3x007371)の放ったドローンであり、索敵と警戒をその身に担っている。
「可能な限り、こちらでも敵を探知しますが、それでも限界はあります」
 WYA7371が言った。
「警戒は厳にお願いします……ネイコ、サーチの反応はどうですか?」
「今のところ……ううん、引っ掛かった! このままだと正面からぶつかるよ!」
 『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)の言葉に、仲間達に緊張が走る。やはり、敵との戦闘は避けられない。ならば、如何にこちらの被害を少なくするかだ。
「避けられないなら、奇襲を仕掛けた方がいいね。敵は弓使い。懐にもぐりこめればかなり有利に戦えるはずだよ」
「よし、ならさっさと動こう」
 『竜空』シラス(p3x004421)が言った。
「いいぜ、俺が壁になる。その隙にオフェンス陣でトドメと行こう。
 ああ、念のため、殺しはなるべくなしにしとこう。うまくすれば『事情』が聞けるかもしれないし、そうでなくても、これ以上よそ者の印象を下げずに済むだろ」
 事情、つまり、「何故急に翡翠国が鎖国状態になったのか」についてだ。元より翡翠国は排他的であったが、先日のサクラメント異常も含め、ここ最近の動きはあまりにもおかしい。
「賛成です。甘いかもしれませんが、人が死ぬのを視たくは無いです」
 『普通の』ヨハナ(p3x000638)がそう言うのへ、仲間達は頷いて見せた。
「じゃあ……よろしくお願いします、シラス」
 リースリット(p3x001984)が言うのへ、シラスは頷いた。同時、シラスは潜伏の衣を脱ぎ捨て、森を駆ける。その姿に気づいた3人の幻想種たちが、慌てた声をあげた。
「な、何者だ!?」
「例の商人たち……じゃないぞ! 別口の侵入者か!?」
「悪いが、一気に無力化させてもらうぜ!」
 シラスが叫び、息を吸い込む、次の瞬間、一気に吐き出された吐息は雷のエフェクトを纏い、幻想種たちを巻き込んだ! 激しい雷が、幻想種たちを打ち据える!
「くそ、よそ者め! こうまでして我々に危害を加えるか!」
 幻想種の男が、手にした弓を引き絞り、鋭い矢を撃ち放つ。強烈な一撃がシラスの身体に迫るが、シラスの防御能力は並ではない。その矢は竜の鱗を貫通することなどは出来なかった。
「おい、待て! 俺達は幻想種の恨みを買うような心当たりは――」
 現実にはあるな、確かに、と一瞬胸中に思い浮かべて、こほん、と咳払い。
「とにかく、なぜ俺達や商人を襲う! 幻想種は話も通じなくなったのか?」
「だまれ! 先に我らが森を荒らしたのはよそ者であるお前達だ!」
「森を荒らした? まて、そこんところ詳しく……」
「問答無用!」
 さらなる攻撃の矢が、シラスに迫る。シラスは翼で自身を覆うようにし、逆鱗(きゅうしょ)を守った。
「話にならねぇ……たのむ!」
 シラスが叫ぶ。同時、シラスが攻撃を引き付ける隙に、仲間達は攻撃態勢を整えている。
「承知いたしました。広範囲を撃ち貫きます、御留意を」
 『黒狼の従者』リュティス(p3x007926)がライフルを構える。ロングバレルの銃口、そこにリュティスは魔力を集中させる。銃口が激しく明滅するや、刹那、解き放った! 放たれし光、光弾は直線状のすべてを撃ち貫きながら直進、二人の幻想種を巻き込んで撃ち抜く!
「くっ……!」
 ダメージを受けた幻想種が、片膝をつく。しかし、痛みにこらえながら立ち上がると、リュティスに向けて矢を番える。射貫くような眼は、明確な殺意に満ちている。憎悪。敵意。そう言った激しいもの。
「ルージュアターーーック!」
 刹那、横合いより振りぬかれた『不思議なエフェクトの攻撃』が、幻想種を貫いた。強烈ながら、しかし決して命を奪わぬ一撃。喰らった幻想種が昏倒すると同時に、矢がでたらめな方向に放たれて、地面に力なく突き刺さった。
「リュティスねーちゃん、矢とんでっちゃったか!?」
 攻撃の主――『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)が慌てたように叫んで尋ねるのへ、リュティスは優雅に一礼。
「いいえ、大丈夫です、ルージュ様。お心遣い感謝いたします」
 そう言うリュティスへ、ルージュは頬をこすりながら、えへへ、とわらう。
「いいぜ! 妹だもん、ねーちゃんを助けるのは当然だよな!」
 リュティスが再度、静かに一礼。一方、残る幻想種へと、リースリットの風の魔刃が斬りかかる! 中空を飛ぶ風精の魔刃、それが幻想種の身体を打ち据え、その意識を刈り取った。
「あと一人です!」
 リースリットが叫ぶのへ、
「まかせて!」
 と叫んで上空へと飛びあがったのは、『妖精勇者』セララ(p3x000273)だ!
「究極! スーパーセララキーーーック!」
 その叫びと共に空中でくるりと回転、そのまま落下の勢いを乗せた稲妻を纏う飛び蹴りを放つ! 一撃が幻想種の身体に叩き込まれた瞬間、衝撃が大地を走り、激しい爆発を巻き起こした! セララはその爆発をの勢いを借りて跳躍、くるくると回転しつつ華麗に着地。ダメージに目を回して倒れた幻想種が意識を失う。
「よし! 全員不殺でトドメ!」
 Vサインなどするセララに、リースリットが微笑んだ。
「お疲れさまでした。ですが、本当に問答無用で襲い掛かってきましたね」
「はい。あの憎悪、敵意……ただ事とは思えません」
 リースリットの言葉に、リュティスが自身に向けられた視線を思い起こしながら言う。
「それに、森を荒らした……とか言ってたな? どうなってんだ? 確かに翡翠の幻想種ってのは排他的だって聞いたけど……」
 シラスが尋ねるのへ、ネイコは首をかしげた。
「ううん、まだまだ情報が足りないね……ただ、翡翠の森に、誰かが異変を起こした……って事なのかな?」
「ひとまず、考察は後にしましょう」
 ヨハナが言った。
「ええ。今は、クレアの救出を最優先としましょう。それに、今回の作戦だけですべての情報(ピース)が得られるとも限りません」
 WYA7371の言葉に、仲間達は頷く。クレアのファミリアーは、特異運命座標たちが無事であることを確認すると、再び森林の空を飛び始めた。

●クエストクリアと、決断と
「くっ……」
 腕が痛むのを、クレアはこらえた。はぁ、と息を吐くが、そこに絶望の色はない。と言うのも、ファミリアーは、術者と視覚などを共有できる。つまり、今、自身が潜むこの場所に、助けが近づいていることをわかっているからだ。そう思うとすぐに、数名の足音が聞こえてくる。わずかに緊張するが、ファミリアーからの情報と照らし合わせれば、それが救助者である特異運命座標たちであることがすぐにわかる。果たして間もなくして、クレアの目の前に、
「大丈夫ですか?」
 と、ヨハナが現れたのだ。
「ええ、無事よ……腕は痛むけれど。でも、良かった……」
 安どのため息をつくクレアを、ヨハナは優しく抱き起した。
「ノートルダム商会の子よね……私達も伝承の隊商だから、お父さんとは何度かやり取りさせてもらったことがあるわ」
「はい、私も『知って』います。確か皆さんの隊商のメンバーは、ウーリアさん、メイヴェンさん……」
「ウーリアは、最初に処刑台に連れて行かれて……森には逃げだせなかったと思う。ごめんなさい、何もできなかった。メイヴェンは一緒に逃げたけど、森ではぐれてしまって……」
 ヨハナが、WYA7371へと目くばせする。WYA7371は頷くと、ドローンを飛ばす。
「疲れたでしょう。安心して下さい、クレア。あなたとお仲間の安全は我々が守ります。
 ……ネイコ、サーチを続けてください。シラス、クレアを隠す位置で待機を。セララは、目視と聴覚での確認をお願いします」
「まかせて」
「了解だ」
「おっけーだよ!」
 WYA7371の言葉に、ネイコ、シラス、セララがそれぞれの役割を全うすべく動き出す。
「失礼いたします、クレア様」
 と、リュティスが言った。リュティスとリースリットが、クレアの前に立つ。二人の姿に、クレアがわずかに身じろぎをするが、
「……ごめんなさい」
「いいえ、こんな事の後です。すこし、傷を見せてください」
 と、リースリットが微笑む。幻想種。二人のアバターの種族はそれである。もちろん、クレアには本能的に、PCたる二人はこのクエストにおいて敵ではないという事を理解しているが、しかし現実の人間同様の思考……心を持つNPCである。殊はそう単純ではない。
 リュティスが、ゆっくりと、クレアの腕に手を伸ばす。
「リュティスさん、傷口は……?」
「適切な処置です。これ以上は本格的な治療が必要ですが……」
「ええ、私の出番ですね」
 リースリットがその手を傷口に向けて掲げると、暖かで柔らかな風が、その手のうちに巻き起こった。癒しの風、生命の息吹がクレアの痛々しい傷を、少しずつ治していく。
「少し待っててくださいね。念のため、後でちゃんと医者には見てもらう必要がありますが、ここから街に戻るくらいは持ちます」
「ありがとう……本当に、命の恩人だわ……」
 クレアが申し訳なさそうに頭を下げるのへ、二人は頭を振った。
「いいえ、間に合ってよかったです」
 リースリットが言う。
「そのままでいいから、ごめんだけど、聞いてくれ。クレアのねーちゃん」
 と、ルージュが言った。
「おれ達の仕事は、これでおわりの予定なんだ。つまり、クレアねーちゃんを助けて、連れて帰って、それでめでたしめでたし、って事になってるんだ。
 ……でも、この森にはまだ、逃げてる商人のにーちゃんやねーちゃんたちがいるんだよな?」
 ルージュの言葉に、クレアは少し息を飲み込んでから、頷いた。
「そこで、クレアねーちゃんに聞きたいんだ。
 ねーちゃんとしては、危険を冒してでも残りの商人の人達も救いたいか?」
 まっすぐに、真剣な瞳で。問うように、ルージュは見つめた。
「この仕事のクライアントは、クレアねーちゃんだ。おれ達はねーちゃんの助けに応じて来たから。
 だから、ねーちゃんがもう無理だ、って言うなら、おれたちは従うよ。
 でも、もしねーちゃんが、他の商人の人達も助けたいって言うんだったら、おれたちは全力で、それをやってみせる。
 ねーちゃんがどうしたいかによって、この先の行動は変えても良いんだぜ?」
 その言葉に、クレアは瞳を閉じて、はぁ、と息を吐いた。しばし、逡巡するような時間。リースリットの癒しの風の優しい音だけが、辺りに響いている。
 ゆっくりと、クレアはルージュを見つめた。
「ほんと言えば、こわい。
 もう帰って、全部夢だったんだ、悪い夢だったんで思いながら、ふかふかのベッドで寝たい。
 でも、夢じゃないのよね。起きた時に、隊商の仲間達が傍にいないのは、嫌だわ。
 だって、隊商のみんなって、もう家族みたいなものなの。
 ……助けられなかった人もいるけど、もしこの森に、まだ助けられる人がいるなら。
 ごめんなさい。たすけて、ほしい」
「おっけー、ねーちゃん」
 にっ、と、ルージュは笑った。
「そうだよな! 家族は仲良くするもんだぜ! にーちゃんやねーちゃんを妹を助けるみたいに、妹がにーちゃんやねーちゃんをたすけるみたいに!」
「かしこまりました。では、これよりさらなる救出作戦を開始いたします」
 リュティスが、ゆっくりと一礼。
「可能な限りで構いません。森に逃げてこられた心当たりのある方の、特徴やお名前……何でも構いません。教えてください。
 此方が、この森の警備隊から聞きだisた情報によれば、森の中に逃げ込んだ人間種は、クレア様を除いて5名との事……おそらく、これが商人の皆様でしょう」
 クエストのシステムで五人と表示されている、と正直には言わずに、NPCにも伝わる様に方便を混ぜつつ言う。
「分かった。確かに、逃げながら見た人影と一致してる……大体どっちの方に逃げたかはわかる。ノートルダム商会の子……ヨハナちゃんなら、名前を言えば顔も解るはずだわ。伝えてあげて」
「よし! じゃあクレアねーちゃん、もう少しだけ、一緒にがんばろーぜ!」
 そう言って、ルージュが、おーっ、と片手をあげた。

●救えるだけの命を
 クレアを伴い、特異運命座標たちは再度森の中を出発する。此処からは、クエストに規定されているもので言えばおまけ、やり込み要素……本来ならば、危険性を考えれば、やらなくてもいい仕事だ。クレアを連れて行かなければならないし、商人を助ければ助けるほど、護衛対象……あえて言い方を悪くすれば、『足手まとい』は増える。特異運命座標たちの全滅は、畢竟、クエストの失敗だ。人命を優先すればするほど、作戦の成功確率は下がっていくし、特異運命座標たちの損耗も増える。
 ひどいトレードだった。特異運命座標たちは商人たちを一人ずつ、確実に助けていったが、その分、特異運命座標たちの緊張感とダメージは上昇していく。
 だが……特異運命座標たちは決めたのだ。救えるだけの命は、この場で救おうと。その思惑にどのようなものがあったとしても、目指すはコンプリート。ならば、この程度の傷で止まってはいられない!
「セララ! ストラーッシュ!!」
 セララが振り上げた剣、そこから発生した斬撃のエフェクトが、大地を駆けるように飛び、翡翠の幻想種たちを打ち貫く。妖精勇者の聖なる一撃は、罪を憎んで人を憎まず、悪を斬ろうとも、その生命までは奪わない。
「道が開いたよ! 突破しよう!」
 WYA7371が頷いた。
「了解。リュティス、リースリット、ルージュ。クレアや商人の皆さんをお願いします。
 ヨハナ、残る商人は……」
「情報通りだと、リッキィさんですね。まだ若い男性の方だったと『知って』います」
「了解、情報をアップデートしてサーチ。敵の数が増えてきました、おそらくは、活動限界はもう僅か。
 この間に見つけられようともみつけられなくとも、撤退を開始します」
「きにくわねーけど、しょうがねーな! 俺の方もまぐれ当たりが重なってボロボロだ!」
 シラスが、ボロボロになった自身の鱗を見やりながら嘆くように言う。
「シラス様、クレア様方を落とさぬようにお気を付けください」
 リュティスが言うのへ、
「ごめんね、お願いね……?」
 と、クレアがシラスの背の上で申し訳なさそうに言う。シラスは、
「へいへい、そこは任せな?」
 と言ってみせた。
 一方、WYA7371のサーチに、NPCの表示が引っかかる。それがリッキィと言う名の商人であることを察知する――が、
「まずいよ! 近くに敵がいる!」
 セララが叫んだ。WYA7371が頷いた。
「私が突貫します。後は――」
「大丈夫、私が追い付く、追い付いて見せる! リースリット、遠距離から攻撃お願い!」
 ネイコが頷き、WYA7371と共に走る! 流石に先に動いたのはWYA7371、
「さあ、Step on it。さっさと終わらせましょう」
 接近と共に振るわれたレーザーブレードが、翡翠の幻想種たちを薙ぎ払った!
「くそ、増援か……!?」
 叫ぶ幻想種へ、続くネイコが空中から飛び込む!
「ご安全に! カラミティストライク!」
 ド派手なエフェクト共に、四方に放たれる衝撃! 幻想種たちを薙ぎ払い、残る商人……リッキィの傍に立つ。
「大丈夫? もう安心だよ!」
「あなたは……もしかして、救助の……?」
 リッキィがそう言うのへ、ネイコは力強く頷いた。一方、リースリットの放つ火炎竜巻が、幻想種たちの行く手を阻むように燃え盛った!
「彼ら商人達が貴方達に何かした訳でも無いでしょうに! 何故、そんなに殺したがるのです! 何が貴方達をそこまでさせるのです!?」
 その叫びに、憎悪のこもった声が返ってくる。
「白々しい事を! 貴様らのせいで、『大樹の嘆き』が現れたのだ!」
「『大樹の嘆き』……?!」
 リースリットの叫びに、答えるものは無い。リュティスは銃を構えつつ、
「皆様、シラス様の傍へ! このまま敵の足を止めます離脱しましょう!」
 引き金を引く。弾丸が幻想種の脚水戸に着弾し、リースリットの火炎竜巻がさらに激しく燃え盛った。
「さぁ、リッキィ! こっちだよ!」
 セララが手招きするのへ、WYA7371、そしてネイコがリッキィを伴い、走ってくる。
「シラス君、もう一人乗せられる?」
 ネイコが尋ねるのへ、シラスは頷いた。
「ああ、乗せてくれ! このまま走るぞ!」
「よーし、これでにーちゃんもねーちゃんもみんな助けられたぞ!」
 ルージュのが叫ぶのへ、ヨハナが頷く。
「ええ、縁のある同業を救えたのは僥倖です。さぁ、詰めを誤ってはいけません。速やかに離脱を」
 その言葉に、仲間達は一斉に走り出した。最期の力を振り絞り、迷宮森林の外へ。
 しばしの時間の後に、一行は森の外への脱出に成功する。
 クエストクリア、の文字が画面に踊り、ほんのわずかな追加報酬が、インベントリに追加される。
 だが、彼らの達成感を覚えたのは、シラスの背で生還の喜びに抱き合う、六つの命を救えたことに対するものだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヨハナ(p3x000638)[死亡]
普通の
WYA7371(p3x007371)[死亡]
人型戦車
現場・ネイコ(p3x008689)[死亡]
ご安全に!プリンセス

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、商人たちは無事救い出されました。
 

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