PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月没>老陰の雫

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


「んんんんん――今宵はなんともいかんのぉ」
 R.O.Oが世界、東に位置する神光(ヒイズル)が帝都――
 空に浮かぶ満天の星々を見据えながら、しかし吐息零すのは帝都を守護せし四神が一角、玄武だ。近頃、帝都の影にて蠢く『闇』があらば、機嫌の悪くなる『柱』もいて困りものである……と。顎に手を当て玄武は悩む様に。
 いつもであれば『ぱーりぃじゃあああ!』と陽気に事を進めんとするのが玄武だが――さしもに斯様な雰囲気ではない。母たる『豊底比売』の心が曇っているのであれば、静観してばかりもおれぬものだ。
 あのお方こそこの国の光。あのお方こそこの国の神。
 それを妨げようとする輩のなんと愚かしい事か……
 ましてや聞いた所によれば夜妖の力を身に纏い、闇に傾倒する者まで現れる始末。
「度し難いの」
 なにゆえにあのお方の恩寵を受け入れられぬというのか。
 愚かな者がいるが故にこそ嘆き悲しまれておる――
 ――故に。
「やむなしであるの。偶には動かねばなるまいよ」
 玄武は視線を寄こす。微かな星の光に照らされし其処に在るは――一つの黒衣。
 一見すれば人の様に見えるが、違う。その黒衣の下は亀が一体、蛇が二体……
 それらは三つで一つ。正に玄武の血脈にして直属の化身。
 ――名を『黒虎』
「往け。母の御心を知らぬ愚か者どもを――潰してくるのだ」
 瞬間、気配が消える。
 親たる玄武の意志に沿う為。引いては更にその上位たる母神の為。
 朝敵滅殺。
 いまぞ朝敵の血と命にて、母の安寧を護らん……


 帝都の郊外には高天京特務高等警察:月将七課の拠点がある。
 ……というよりも郊外だからこそ、というべきだろうか。帝都の中枢は神霊らの領域としての力が強く、何か行動しようとすれば感知されてしまう事もある。彼らに抗う為の場所を用意するとなれば――自然とそう言った所からは離れるものだ。
 ここは本拠ではないが、ある程度の人員が集えるだけのスペースがある詰所。
 そこへと至っていたのはイレギュラーズだ――いや、今この場においてはローレットのイレギュラーズというより、月将七課の一員たる者というべきだろうか。
「……んっ、なんだ?」
 が、その時。
 背筋に走る悪寒の様な気配に気が付いたのはさて誰だったか。
 ――何か来る。それは勘の様なモノではあったが、しかし誰もが感じた確信でもあり……

 瞬間。詰所内にありし電信が鳴り響く――それは。

『イレギュラーズですね? 時間がないので手短に伝えます。
 今、そちらに『敵』が向かっています。至急迎撃の態勢を整えてくださいッ!』
 月ヶ瀬 庚の声だ。『高天京壱号映画館』の館長にして、『渾天儀【星読幻灯機】』ほしよみキネマの開発者――単純に言うと未来を予知する能力を宿しているのがほしよみキネマだ。
 これをもって各地に生じている異変などの解決に役立てている訳である、が。
 今宵ほしよみキネマが感知したのは彼ら自身の危機。
『そちらに向かっているのは帝都を護りし四神、玄武の血族です!』
「――玄武?」
『彼らは『侵食の月』に影響されています。『国産みの母』である豊底比売を害する者を許しはしない者達……今から逃げるのは間に合いません。どうにか切り抜けてください……!』
 ――侵食の月。それは、今神光の国を襲っている現象の事だ。
 共同戦線を張る事になった天香・遮那曰く、この世を文字通り侵食している証。
 現実の希望ヶ浜でも妙な皆既月食が発生しており……全ては真正怪異による影響だと目されている。そして本来、神光を守護する筈の四神達はこの影響に既に飲まれているのだ。
 故に彼らは攻撃してくる。
 母たる水神、国産みの女神『豊底比売』の力を妨げようとする者達を……
 話し合いなど通じないだろう。むしろ彼らは母の汚す影に対する怒りで溢れているかもしれぬから。
 ……周囲を見渡す。この拠点には机や本棚などがある。
 玄武の血族とやらが来るのはもう少しだけ時間的余裕がありそうだ。その前にバリケードを作るなり、戦闘の態勢を整えるなりは出来るだろうか。或いはこの拠点で迎え撃つより、開けて戦いやすい外で相対するという手段もあるだろう。
 ――星天の輝きが示している。
 北の星がやってくると。
 その眷属が闇を滅ぼさんと――やってくると。

GMコメント

●クエスト達成条件
 玄武化身『黒虎』の撃破

●フィールド
 帝都郊外・高天京特務高等警察:月将七課の拠点です。
 皆さんは拠点内部でも戦えますし、外でも戦えます。
 内部は机や本棚などがあり、これらを使用し簡易的なバリケードや障害物を作る事も可能かもしれません。後述する玄武の血族が戦場に辿陸までは少しだけ時間的余裕があります。ただしそう言ったものが幾らでも作れる程十全にある訳ではない事は注意してください。
 外は多少の木々があったりしますが、基本的には開けた地形の場所です。

 時刻は夜。多少の星光がある為、光源を特別に用意しなくてもそこまで視界には困らないでしょうが、光源などがあるとより遠くまで鮮明に見る事が出来る事でしょう。

●敵戦力『玄武化身:黒虎』
 黒き衣に身を包んだ人型――の様に見えますが、その体は『亀』
 その両腕はそれぞれ『蛇』の頭になっている存在です。
 玄武の血脈にして直属の化身。それゆえに玄武の思想にも染まり切っている事でしょう。
 亀の部分と、両腕の蛇の部分で合計『三体』の敵がいると思ってください。

 亀は神秘攻撃を。蛇は物理攻撃を行ってきます。
 亀が生きていると全体の防御力が常に一定数上昇しています。
 蛇の部分は片方がHP、片方がAPを常に回復する力を宿しています。

 また、亀は味方に『反』と『棘』を付与するスキルを時折行使してくるようです。更に同時に自身を中心としレンジ2以内に『霧』の様なモノを発生させ、視界を悪くする能力も持っているのだとか。

 蛇の部分は基本的に攻撃を担当します。
 HPの回復を担当している腕は遠距離攻撃を。
 APの回復を担当している腕は近距離攻撃を得意とするようです。
 BSの類を齎してくるかは不明です。

●ほしよみキネマ
 https://rev1.reversion.jp/page/gensounoyoru
 こちらは帝都星読キネマ譚<現想ノ夜妖>のシナリオです。
 渾天儀【星読幻灯機】こと『ほしよみキネマ』とは、陰陽頭である月ヶ瀬 庚が星天情報を調整し、巫女が覗き込むことで夜妖が起こすであろう未来の悲劇を映像として予知することが出来るカラクリ装置です。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

●魔哭天焦『月閃』
 当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
 プレイングで月閃を宣言した際には、数ターンの間、戦闘能力がハネ上がります。
 夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
 またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
 月閃はイレギュラーズに強大な力を与えますが、その代償は謎に包まれています。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <月没>老陰の雫完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

桃花(p3x000016)
雷陣を纏い
シフォリィ(p3x000174)
クィーンとか名前負けでは?
セララ(p3x000273)
妖精勇者
マーク(p3x001309)
データの旅人
アンドレイ(p3x001619)
わーるどいずまいん♂
悠月(p3x006383)
月将
壱狐(p3x008364)
神刀付喪
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス

リプレイ


 光を害す者許すまじ――
 殺意の塊。己が力をもって闇を祓わんとするは玄武の眷属。
 近づいてくる気配が既に肌に感じられる。まさかあの陽気な四神の一柱がこのような……
「四神と敵対状態にあるのは理解してたつもりだけど……相対すると、改めて実感するね」
「チッ。マブダチから刺客を送られるとはな――ま、現実の話は現実の事。こっちの玄武とはまだ会った事すらねぇから仕方ねぇが……ちょいとばっかし思う所はあるもんだぜ」
 施設の外。そこで至るであろう敵を待ち構えるのは『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)と『黒武護』アンドレイ(p3x001619)だ。敵が神光の帝都にある光であるならば『こういう事』もあり得るのだろうが……
 しかし実際に目の当たりにすると、カムイグラの事変では味方だった四神が敵とはなんともいえぬ感覚が胸中にあるものだ。特にアンドレイは玄武と親しい仲でもある――
「だが関係ねぇ。俺様は逃げも隠れもしねえよ……奴さんも来たようだしな」
 マークらと共に整える戦闘態勢。眼前の果てを見据えれば『奴』が来る。
 目立つように、俺様を見よとばかりにアンドレイが一歩更に前へ。
「あの陽気なジジイまで刺客を差し向けてくるたぁナ。
 っても、こいつボコっちまえば本人もその内出てくんだロ。やるっきゃねぇナ!」
「気休めですが。土剋水、備えられるだけは備えましょうか」
 同時。『殲滅給仕』桃花(p3x000016)は築いていたバリケードより出でて相対するものだ。それは拠点を防衛するためのもの……に、見せかけた『隠れ場所』の構築といった所か。敵がこちらの戦力を全て把握している訳ではないだろう――故に奇襲を行う為の死角を作ったのだ。
 上手く行けば先手を制しうる。そうでなくとも射線を区切る為に使えるかもしれぬ。
 その作業は『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)も行っていた。どれ程の効力があるかは知れぬが、しかし何もせぬよりは遥かにと。広場の各所にバリケードを配置し、更には光源確保の為に職人魂費やして灯篭を設置。
 いずれにせよ奴の注意を引き付ける為にも前に出れ――ば。
 霧が出てきた。
 それは奴の権能が一つ。玄武より与えられし、幻霧か。
 奥より這いずるは黒虎。イレギュラーズ達を抹殺しに来た――刺客。

『――』

 その身より放たれるは只管なる殺意。天に仇名す者らを誅する為。
 奴の視線は拠点前で仁王立ちしているマークやアンドレイにまず注がれていて――
「……あの『ぱーりぃ』大好き玄武さんも本気になって潰しにかかってくる辺り、『侵食の月』って本当に性質が悪いよね。これは解決していかないと……いつかは玄武さん本人も出てくるような事態になるのかな?」
「さて――しかし、黒虎とは……確か……玄武をそう扱っている地域があると聞いた覚えがあります。四神の他の面々にもあのような存在がいても不思議ではないですし、そう言った存在がこれからも放たれるやもしれませんね」
 その際に、影に身を潜ませているのは『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)と『月将』悠月(p3x006383)だ。奇襲のタイミングを見据え、いつでもとばかりに己が刃をその手中に。
 情報通り『奴』以外はいないようだ――悠月の思考はあの黒虎の存在そのものへと。
 ……もしや、五虎、五龍の概念を受けた化身・眷属が四神や黄龍それぞれにいるのかもしれない。少なくとも玄武がこのような手合いを出してきた以上は、いても不思議ではないと言えるだろう。
『我らが母の恩寵を受け取らぬ不心得共よ……即刻死するが良い。それのみが汝らの救い』
「ねぇ、玄武さんや豊底比売様って何を望んでるのかな。もし良ければ教えてくれると嬉しいな――目的によっては協力できるかもだしね」
『協力? 異な事を……母なる神はいつとてこの大地を愛しているのみ。それを害そうと神逐を企むが貴様らではないか――問答は無用。死するが良い』
 さすれば『妖精勇者』セララ(p3x000273)が問を投げかけるものだが……黒虎からはにべもない。強大に育った光は國を侵食しようとしているのだが、彼らにとってはそれでよしという訳だ。
 むしろ何故それを受け入れぬ? ――彼らの主張はそんな所だろうか。
 直後、黒虎から放たれる一撃がイレギュラーズ達を襲う。
 怨敵死すべしと。幾度も『死ね』としか口にせぬ輩――対話の余地はないというのか?
「ボクは玄武さんや豊底比売様とも友達になりたいだけなんだけどなぁ。
 でもいいよ! 今度は君の親玉さん達の所にでも直接言って話すとするから!」
「まずは――降りかかる火の粉を払うとしましょうか!」
 故に跳躍し、往く。セララが聖剣を構え、黒虎へと前進し。
 同時に『クィーンとか名前負けでは?』シフォリィ(p3x000174)は皆に支援の加護を齎すものだ。どの距離からでも対応しやすき様に――まさか四神の眷属と戦う事になるとは思ってもいなかった、が。
「全てはこの場を凌いでからです……!」
 何を思うも。何を願うも――力をもって征さねば無意味なのだから。


 黒虎は一体にして三体。それぞれが力を持ち、玄武の力を示している。
 蛇は循環を。亀は堅牢を。
 その上でイレギュラーズらに撃を紡ぐのだ――万全の態勢から敵を圧殺せんと。
「だがそうはいかねぇゼ!! 桃花チャンをそう簡単に崩せると思うなよ、エビ野郎!!」
 しかしイレギュラーズ側も準備する時間はあったのだ――まずもって飛び出したのは桃花。その身に纏いし気配は異様にして、まるで妖が如く。誰ぞであろうと『危険』であるとすぐさま察せられよう――
『これは……闇に身を堕とした末路か。哀れな』
「へっ! 何とでもいいな――ほらよ! テメェらの大好きな妖様だゼェ!!」
 奴の注意を引き付けんとする。討伐してみろ――それとも妖様を放置するか?
「よし、今だッ――! 突破口は私が切り開くよ。皆、続いてっ!」
「如何に四神の眷属と言えど、貴方の有り様は見逃せません故に」
 であれば、視界の端から切り込むのはネイコと悠月だ。
 バリケードから飛び出し奇襲するように。狙うは体力の回復を常に齎す蛇の部分――まずはここを切り落とし、敵の牙城を崩さんと。派手なエフェクトと共にネイコが斬撃を叩き込めば、悠月は霧の中心点にいるであろう黒虎を見定める――
 敵の姿は見えづらい。しかし気配はそこに在り、全く見えない訳でもなければ。
「狙えます、ね」
 放つ。其は陣の形成。清冽なる無数の氷刃が地より湧き出でり、敵を刻まん。
 些か勘も混じるが、しかし範囲を穿つそれは多少の誤差があろうと黒虎を呑み込んで。
「敵は三体で一つ――三体バラバラには移動できない筈だ。
 どれか一つを止めれば、ここで足止めできる! 押し込んでいこう!!」
「ふふーん! 霧で見えにくいぐらいで、どうにかなると思った? ボクらは止まらないよ!」
 直後。マークが剣撃一閃。黒虎の中でも蛇を狙いて大上段より振り下ろす。
 高速の一撃が紡がれ――更にはセララも往くものだ。低空を滑空するように飛び、ランプを霧の隅へ。割れにくい所にて光源とし――敵の姿が見えれば雷撃纏わせ聖剣一つ。放たれる斬撃が敵を捉えて。
「桃花ァ! 一度変わるぞ、俺様に任せなァ!!」
 同時。マークとセララの撃によって紡がれた隙間に、桃花とアンドレイが入れ替わる。奴を怒らせる立場の入れ替えだ。体力にまだ余裕がある内にローテーションし、常に同じ状況を作り続ける。
 握り締める五指。アンドレイの拳がまるで岩の様に頑強に込められ――一撃。
 電撃もついでに送り込んでやるとしよう。
「どうだ――痺れるだろ?」
 魂ごと痺れてこちらを見るがいい、と。
「援護します――入れ替わりの際に注意を! 黒虎を自由にさせてはいけませんから!」
「この朝廷からも独立した特務高等警察の拠点に攻め込むとは……良い度胸なのです。しかし些か無謀だったのではないですか? たった一体――いえ三体だろうが、それだけで蹂躙できるとでも?」
 そしてそんなアンドレイへと更なる強化の加護をシフォリィが齎し。
 位置を調整した壱狐が――背後より敵を纏めて穿つ。陽光の如く、輝かしき構えから放たれるのは術式が込められた一太刀。切り口より発せられる千差万別の刃文が黒虎の身に染まって。
『――言ってくれる。この程度で玄武様の眷属を屠れると思うてか』
 されど、黒虎も未だ健在。
 亀の力が防御を齎し、気力を齎す蛇が常に全力の術の行使を可能とさせるのだ――
『貴様らの拠点諸共潰れてしまうが良いわ……!』
「させっかよォ!! 焼海老になりやがレ――この偽物海老野郎がァ――!!」
 振るわれる黒虎の撃。
 対応するように桃花が携帯式焼却炉――つまり火炎放射器――で狙えば纏めて消毒してやるものだ。ハッハ――!! エビは丸焼きダァ~~!! え、何? 黒虎……ブラックタイガーの和名は牛海老? そんな細かい事はぁ良いんだヨ!!


 黒虎との戦いは丁度互角――と言った所だっただろうか?
 亀が健在で防御性能が高く、またその加護により攻撃をある程度反射する力が付与されていればイレギュラーズ側にも積もる被害が存在する。数の上で優勢であるが故にこそ桃花→アンドレイ→マーク→ネイコの順で抑えを順繰りさせる事が出来ていたのは幸いだったが、それでも傷は増えつつあった。何より蛇自体の攻撃もあるのだから――
「だけど――これ以上やらせるもんか!
 そっちが幾ら守護の力を張っても、そのたびに割っていくだけの事だよッ!」
 その時。まず動いたのがネイコだ――奴の守護の力を消し飛ばす。
 握り締める剣。踏み込み繰り出す斬撃には、破壊の力が宿っている――
 衝撃が大きい為に仲間に声を掛けて空間を確保する必要はある、が。
『ぬぅ……この程度で、小癪なッ!!』
 マトモに決まれば黒虎の加護を消滅させる事も十分に可能だ。
 ――うん、大丈夫。
「私達はこんなとこでやられたりなんてしないよ……だって!」
 だって私はこっちの玄武さんともいつか皆で、一緒に。
「『ぱーりぃ』してわいわい騒ぎたいんだもんっ!」
「はっはッ――! そうだよなぁ、こんな手下如きに手古摺ってる場合じゃねぇよなぁ!」
 直後。ネイコの言に続くのは、アンドレイだ。
 彼に宿る不屈の闘志が傷を凌駕する。治癒し、昇華され、戦いの力を再び宿さん。
「俺様はこんな所で終わる男じゃあねぇんだよ。もっとデケェ舞台でもなきゃ――なぁ!」
 そうだ。四神級ならばいざ知らず、その配下に負けてなんとするものか。
 マブダチのアイツの前に立つ時あらばと考えると、黒虎如き超えずしてなんとする。
 ――故に焼き尽くす。
 殴りつける拳が災厄を齎し黒虎そのものを包まん。
 奴の霧とてこれだけの至近であれば――是非もなし!
『おのれ……あくまでも抗い続けるか。母なる神の救済を跳ねのけて!』
「ふむ、なんと言われようが結構ですが……どうやら機運が悪いのではないですか?」
 蛇の一撃。アンドレイの身に叩きつけながら、もう一方の方で圧を彼方へ。
 此方が撃を重ねるごとに激しくなる抵抗――されど壱狐は気付いていた。
 黒虎には勢いが段々と掛け始めている、と。
 片方の蛇の身は明らかに傷が多く、崩れ始めている――故、そこへ。
「退かぬのならば結構。仕舞まで――討滅させていただくとしましょう!」
「気を付けろ! 追い詰めた際の奥の手が無いとも限らないッ最後まで油断はしないように!」
 防御の上から叩き割る一撃を壱狐は繰り出さん。
 亀が健在であろうとも、遥かにその耐久を超える一刀を繰り出せば関係ないのだ。
 万物、砕けば宜しい。追い詰められているが故にこそ放てる一閃が黒虎へと――
 さすれば蛇の一体が欠ける。
 体力を循環させていた個体が消滅した事により、奴の体力には限界が見え始めよう――が、それでも油断してはならぬと常に警戒するのはマークだ。奴が霧に紛れて逃げぬか、視界の色を二値化させ常に黒き厚みを捉え続ける。
 いやそれだけではない――近接状態も維持し、どこにも行けぬ様にしよう。
『ぬうう――ッ! 母の光が失われれば闇が跋扈しよう! それでも良いと抜かすか!!』
「どう言い繕おうと本質は変わりませんよ。四神の眷属が人を害するのも、夜妖が人を害するのも、同じことです。それとも己らが害するのは神に選ばれた行為だから問題ないとでも言いますか――? それこそ己の身を誤解した、あまりに傲慢な言い草かと思いますが」
 引き続き紡がれるマークの一閃。更に、悠月もまた亀の加護を消さんと氷剣一つ。
 ――放つ。
 清き水を触媒とする術により生み出される刀状のソレは、加護を突き抜け硝子が砕ける様な音を醸し出せばあらゆるを清めるものだ。ただ暴れるだけの存在など、四神だろうが夜妖だろうが変わりはせぬ――
 神とその眷属ならば良いというのなら、人は神の意のままにあるべき従属物である、と?
「むしろ彼らこそ夜妖を使役しているようにも見えますが……さて。
 その有り様。一体いつから形成され……そのように考えていたのか」
 問うても無駄か。生み出された眷属如き、当初からきっと『そう』であったのだろうと。
 ……これもR.O.Oのバグ故、と考えるのは簡単だが。
 その裏には――はたして一体何がいる事かと。
「日出ずる国を蝕む月の光……その眩しさに、眼が眩んでいるものばかりなのかもしれませんね」
 故にシフォリィも呟くものだ。遮蔽物に身を隠しつつ、支援を引き続き行い。
「ま、何がいようと全部纏めて焼き払ってやるぜェ!!
 まずはテメェから消毒だ、ヒャッハ――!!」
「全力全壊――ギガセララブレイク!」
 ネイコに続き悠月も加護の消失に努めているならば、張り直す暇もない。
 無防備なるそこへと紡がれるのは――桃花とセララの一撃だ。炎と雷閃が黒虎を襲い。
『させぬッ! 主命は必ず果たさせてもらうッ――!』
 瞬間。黒虎の、もう片方の蛇がセララの方へと向く。それはまるで迎撃の様に。
 蛇の口が彼女を捉え――形成される圧がセララの一撃と衝突し――激しく瞬く衝撃音。
 だけど退かない。
 身を焼かれる様な痛みを感じても、そんなのは大した事じゃあないんだ。
 ボクはヒイズルを守るために戦う。この国を……そして。
「皆の笑顔を――守るんだ!!」
 だから、押し切る。
 自らの身と引き換えにもう片方の蛇にも大きな傷を与えれ、ば。
『おのれ……こうなれば、一人でも多く……天に命をッ!!』
「この野郎、まだ続けやがるか!! しつけぇ野郎だぜ!!」
「あびャ~! まずいまずい最後っ屁が、結構激しいぞコイツゥ!!」
 黒虎が全霊をもってして最後の一撃を紡がんとイレギュラーズに攻勢を仕掛ける。
 それは防御を捨てた悪あがき。されど最後の輝きは決して油断できるようなものでもない。アンドレイが受け止めるも、激しき攻勢に桃花の消毒拳(火炎放射)すら間に合わぬ。いや、そもそも下手打てば仲間を巻き込んでしまう技能も多いのだ――超接近戦となれば中々なんでもよい、という訳にはいかず。
『死ぬがよい――母なる神の為に!!』
「……危険な力だけど……今は使うしか無い、か」
 瞬間。黒虎の撃を受け止めたのは――マークだ。

「――月閃」

 同時に唱えるのは闇の証。騎士鎧の姿から、白い軍服姿に変化するは刹那の出来事。
 力が湧き出る。何処からか知らぬが、しかし。
 黒虎の攻撃を完全に受け止めたマークはそのまま眼光を鋭く、敵を見据えて。
「四神の眷属よ。これで仕舞だ――その力、在るべき所に帰参するがいい」
 両断する。
 軍刀をまるで居合が如く。見えぬ神速の一刀が、亀の甲羅を叩き割り……
『おぉ……玄武様、申し訳、ございま――』
 その身はまるで砂の如く。風に消える砂粒の如く――失せて果てた。
 ――周囲が明るさを取り戻す。
 元々夜ではあったが、奴が発していた霧があらば、より視界は不良となっていた。それが晴れれば彼方にある――家の光だろうか――が見えて。透き通る世界を取り戻したものだ。
「しかし、現実世界で起こっていることがROOに干渉してくるだなんて……いえ、本当に現実から? デスカウントはもとより、この月閃も……怪しいですよね。なんの意味もないとは思えない気がします……」
 で、あればと。周囲の安全を確認したシフォリィが呟くものだ。
「……もしかして真実は逆で、こちらのROOの結果が現実に干渉しているのでは……?」
 この世界はあくまでデータ。
 少なくとも今の所、現実にこちらから何か影響を齎しているとは思えない、が。
 しかしリンクしている所があるのであれば――『ない』とは言い切れぬ。
「さて。R.O.Oもどのように進んでいくか……でしょうかね。未だ見えぬバグの真髄はどこにあるか……」
「ともあれまずはここから離脱しましょうか。またあのような輩が襲ってこないとも限りませんし」
 悠月も思考を巡らせ、しかし一度この領域から離脱すべきだと壱狐は言を。
 夜空を見上げれば月が一つ、出ていた。
 浸食の月。アレははたしてR.O.Oを侵すか、それとも……

成否

成功

MVP

なし

状態異常

セララ(p3x000273)[死亡]
妖精勇者

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 玄武の眷属は見事撃退に成功しました――
 ……しかしいずれは四神級が出てくるかもしれませんね。
 ともあれ今は勝利したに間違いはありません。おめでとうございます!

 それではありがとうございました。

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