PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<月没>律の調べ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 月暈は何処なりて。
 夏を残した空に秋の冴えた風が吹いた。四季麗らかなる神光の地を踏み締めたのは高天京特務高等警察:月将七課の神使達。
 凜と背筋を伸ばせば諦星の都会の風がしたり顔で背を押した。煉瓦道を叩いた靴音は文明開化のかほりをさせて。

 ――Rapid Origin Online 2.0 イベント『帝都星読キネマ譚』

 第二幕とも相成れば、諦星へと様変わりした帝都の様子も随分と身に馴染んだ。
 見慣れぬ景色もMMOの新マップとして認識すれば随分と馴染みやすい。新たに与えられた立ち位置も己を定義するイベントの新要素に他ならない。
 神咒曙光の景色を眺める『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)の指先がすう、となぞったのは『侵食度』のパラメーター。
「表示するなら内容も紹介して欲しいよね。こう言う没入系ゲームだと見ず知らずのパラメーターが表示されるのは漫画でも良く在ることなんだけど!」
 饒舌な少女ははっとしたように「って、言ってた~」と誤魔化すように微笑んだ。『真性怪異』と呼ばれた再現性東京の異形の影響が色濃いこの国は夜妖<ヨル>の侵食が月に映し出された。
 暗き闇に覆い隠された月のその輪郭が夜空に眩いばかりに映し出される。『侵食の月』――それが、異変の一端なのだそうだ。

「……兎に角、侵食を止めなくっちゃ。だって、現実世界にだって影響があるんでしょう?」
 慌てたように、そう口にして。スノウローズは重たい高天京壱号映画館の扉を開いた。
 しん、と静まり返ったその場所で、『渾天儀【星読幻灯機】』ほしよみキネマが映し出した未来は――


 華やかなる帝都の街を静かに歩く射干玉の髪の娘が一人。
 闇にも紛れる黒衣に身を包み、ブーツが水溜まりを蹴り飛ばす。……そういえば、先程も雲行きが怪しかったか。
 ぱたぱたと、地を叩いた雨音に紛れるように女は走り出した。
 足が縺れる。転びそうになる体を奮起させ、前へ――

「ひぃ、ふう、みぃ……」

 たん、たん。
 鞠を付く音が響いた。女の喉から引き攣った声が漏れ出でる。叫声の形にもなり得ぬ、恐ろしき存在。

「よ、いつ、む、なな、や……」

 たん、たん。
 近付く、その音に女は尻餅をついた。仰け反った背は水溜まりにばしゃりと倒れ込む。泥に塗れた女の目が驚愕に見開かれた。
「いいなあ。自由に、歩き回れる足」
 鞠がころころと転がり落ちた。
「わたしも、おひぃさまにおねがいしたら、あし、貰えるかなあ……?
 かみさまに、おねがいしてたんだあ。ずっと、ずっとね。……おねえさん、足を頂戴」
 目を見開いた女の目の前に――地を這いずる小さな少女と、紅色の翼が、見えた。


「キャアアアアア――――――――!!!!!」
 耳を劈くような叫声を発したスノウローズは「失礼!」と慌てたように頬を赤らめた。
「ち、違うんです。怖くって。……あれは、活性化してる夜妖かな。
 最近、とっても夜妖事件が多いみたいでね。あのお姉さんを護らなくっちゃ。折角『今から起こる未来』を見れたんだし!」
 スノウローズはやる気に満ちあふれたように笑みを零した。
 帝都を騒がせる夜妖事件。ソレを解決する事が侵食を食い止めることに近付くなら――
「雪薔薇の君、鳥渡待ってください。映像はまだ続いているようですよ」
「ひえ?」
 月ヶ瀬 庚の言葉にスノウローズが画面をまじまじと見遣る。映写機はカラカラと音を立てて回り続けている。

 地を這いずる少女の背後から、紅色の翼を生やした小さな少年が顔を出した。
「『朱雀様』の眷属として……あねさまの御心にはこたえないと。おひぃさまを愚弄したんでしょう?」
「張宿(ちこり)、あし、とってもいいのお?」
「どうぞ。このおねえさんはね、おひぃさまの御前に捧げる膳を溢したらしいんだ。
 まさか、まさか、神光の守護者の膳を引っくり返して知らんぷりをするなんて。おひぃさまを信じない奴がいるから、おひぃさまがかなしむんだ」
「んー?」
 幼児の会話を聞いていた女は違うと首を振る。偶然にも膳を一つ溢しただけ。清掃はした。
 中務卿にだって、申告した。ただの、それだけだったのに――

「ぼくは張宿(ちこり)。朱雀(あね)さまの眷属。
 ぼくらは、きみを――『豊底のおひぃさま』を愚弄する奴を許さない」

GMコメント

 日下部あやめと申します。どうぞ、宜しくお願い致します。

●目的
 『夜妖?』の撃破

●夜妖
 ずるずると地を這う少女です。足が潰されており、凄い勢いで腕だけで動いてきます。
 鞠を腕でとんとんと付いており、足を有する存在を羨んでいるようです。知能は幼い少女レベルです。
 基本的に物理攻撃が中心です。鞠を投げる、雨水を使役するなどの遠距離攻撃も可能です。張宿を庇うなど大切にする行動を取ります。

●張宿
 ちこり。朱雀の眷属を名乗っている少年です。赤い翼を生やしており、強敵であるようです。
 夜妖が倒された場合は撤退します。夜妖が生存時はともに戦います。
 彼は被害者女性を『豊底のおひぃさま』を愚弄する存在であると認識している様です。

●被害者女性
 中務省にお勤めの女房。豊底様の御前に捧げる膳を零してから、何ものかに見られている気がして帰路を急いでいました。
 神様を愚弄したつもりではなく、偶然の行いです。夜妖に追いかけられて、自宅とは別の道へと迷い込んでしまったようです。

●シチュエーション
 帝都の人気のない道です。外灯は少なく雨が降っています。水溜まりに倒れ込んだ被害者女性を発見することが出来ます。
 夜妖と張宿が攻撃を仕掛ける前に、横槍を入れることが出来そうです。

●侵食度
 当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。

●『侵食の月』
 突如として希望ヶ浜と神咒曙光に現われた月です。闇に覆い隠されていますが、徐々に光を取り戻していく様子が見て取れます。
 一見すればただの皆既月食ですが、陽がじわじわと月を奪い返そうと動いています。それは、魔的な気配を纏っており人々を狂気に誘います。
 佐伯操の観測結果、及び音呂木の巫女・音呂木ひよのの調査の結果、それらは真性怪異の力が『侵食』している様子を顕わしているようです。
 R.O.Oではクエストをクリアすることで、希望ヶ浜では夜妖を倒すことで侵食を防ぐ(遅らせる)ことが出来るようですが……

●ほしよみキネマ
 https://rev1.reversion.jp/page/gensounoyoru
 こちらは帝都星読キネマ譚<現想ノ夜妖>のシナリオです。
 渾天儀【星読幻灯機】こと『ほしよみキネマ』とは、陰陽頭である月ヶ瀬 庚が星天情報を調整し、巫女が覗き込むことで夜妖が起こすであろう未来の悲劇を映像として予知することが出来るカラクリ装置です。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <月没>律の調べ完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リアナル(p3x002906)
音速の配膳係
吹雪(p3x004727)
氷神
悠月(p3x006383)
月将
WYA7371(p3x007371)
人型戦車
タイム(p3x007854)
希望の穿光
ひめにゃこ(p3x008456)
勧善懲悪超絶美少女姫天使
ねこ神さま(p3x008666)
かみさまのかけら
アマト(p3x009185)
うさぎははねる

リプレイ


 ガス灯がぼやりと雨降る街路を照らしている。その灯りを避け進んだ炉端には一人の女が座り込む。
 濡れそぼった射干玉の髪は整える時間も余す事無かったか。黒衣の外套に無理くり詰め込まれぐしゃりと乱れていた。流行りのブーツが雨に濡れるのも気に止めず雨溜に足を突っ込んだ状態で女は尻餅をついた。雨除けの外套の下に着用していたお気に入りのワンピィスが汚れることなど気にも止めずに。
「ひ――」
 縺れたのは足だけではない。舌は緊張に固くなり、解く事も難解だ。怪異(もののけ)だ。そう呼ぶしかないその存在の前に、余りにもぞんざいに、それでいて天の恵みのように飛び込んだのは桜の花咲かすような鮮やかさ。
「いやいや、ちょっと待ってください?」
 そのスカートをパフェと喩えたならば、フリルとレースの盛り付けは十分にリボンはメインディッシュと言わんばかりに大きく揺らぐ。海向こうの姫君が如き姿の『勧善懲悪超絶美少女姫天使』ひめにゃこ(p3x008456)は淑やかさよりもツッコミに極振りでその姿を現した。
「ちょっとご飯こぼしただけとかどんだけ心狭いんですか!?
 そんなんで処罰受けてたらひめなんか毎日なんですけど! 冷静になってください!」
「は――」
 一体、誰。そう問うことも出来ない女に『調査の一歩』リアナル(p3x002906)は「間に合ったか」と問い掛けた。嘆息する彼女は怪異の傍らに立っていた明け色の翼の少年を睨め付ける。
「朱雀の……ねぇ」
 リアナルが知っている『現実』の朱雀と言えば寝坊助であった筈だ。眠たげに眼を擦った愛らしい稚児。それの眷属が此程までに苛立っているのは恐らくは雲間よりその姿を覗かせた月の所為か――まずは被害者を守ろうと女の前に立ったリアナルに遅れ『うさぎははねる』アマト(p3x009185)が駆け寄った。
「お怪我はありませんか?」
 雨模様では出歩く者も多くない。下手な一般人の合流を避けるために路地に看板を立て出来うる限りの通行を避けたというアマトは女を安心させるように背を撫でた。無言で肯くことしか出来ない彼女の足は震え力も入らない。
「……高天京特務高等警察」
 吐き捨てるように少年は言った。朱雀の眷属、張宿の焔の如き瞳が立ちはだかった悠月(p3x006383)を睨め付ける。
「貴方は朱雀の眷属『張宿』で間違いはありませんね? 罪科とも呼べぬ行いにこの様な仕打ち……。
 これが仮にも『四神』の眷属を名乗る者の振る舞いとは、まこと嘆かわしいものです。尤も、そのおかげで分かり易い、という点だけは助かりますが……」
 狂気たるものがなんぞやと。問わずとも分かると悠月は紫苑に光る瞳を細めた。挑発に張宿は「何だと」とその身に焔を纏う。赫々たる炎には氷がお似合いと広がり、そして収縮したのは季節外れの凍氷。
「まったく、夜妖だけでも大変なのに、最近は四神の眷属まで……此の地を守るどころかこんな風に平和を乱してどうするの?」
「おひぃ様への信仰こそがこの国の発展に役立つことを知らないお前が説教をするな!」
 まるで幼子の癇癪の如く。勢いを付けた言葉を吐いた張宿に『氷神』吹雪(p3x004727)は肩を竦めた。
 これもあの『月』の影響――天蓋より覗いた光に『月将』タイム(p3x007854)は息を飲む。侵食の影響に背筋にひやりとした気配が伝った。悍ましい、影に張り付いた狂気。
「現実では友好的な四神と眷属もおかしくなっちゃってる。……駄目だよ、ゲームの中でもそんな怖い顔みたくない。だから、やるわ」
「あねさまは純朴で大人しくなければならないって?」
 タイムに「お前はあねさまの何を知っているの?」と嘲笑う張宿は高天京警察こそ『和を乱す存在』であると信ずるが如く。
 しゃん、と鈴なる様に音鳴らしてから『かみさまのかけら』ねこ神さま(p3x008666)は紅玉の如き瞳にクエスチョンを浮かべて首を傾る。
「ねこです。よろしくおねがいします。この国ではお膳が少々粗相しただけで許さない神様がいるらしいですよ。
 驚きの心の狭さです。その熱狂、少々歪で見てられないですよ。
 仮にも『四神』の眷属を名乗るのであればその価値を己の中に確りと立たせるべきです。遠き先達からの忠言ですよ」
 遠き御国の遠神。淡々と紡いだ言の葉は全く響き渡らないか。張宿が『馬鹿にされた』と感じたか、腕に力を込めた夜妖が「うう」と唸りながら地を這いずった。潰された足からは止まることなく血紅が溢れて流れ出す。
 ――当機は戦闘モードに移行します。
『人型戦車』WYA7371(p3x007371)はシステムメッセージを耳にする。背に浮かんでいた機装・砲装はフルアクティベート。
 完膚なきまでの制圧モードに移行し、右腕の兵装が音立てて変形した。レーザーブレードは最大出力を持って夜妖の行く手を阻む。
「さあ、Step on it。さっさと終わらせましょう」
「うああ――!」
 ぎいん、音立てぶつかりあった。一撃と一打。「いたぁい」と呻いた夜妖の様子を見るに知恵が廻る方ではないのだろう。
 攻撃以上に、言葉にも含みを持たせWYA7371は光が如きレーザーブレードの切っ先を彼女に向けて。
「――‬さあ、当機がいる限り大切な張宿を庇うことは成りません。まず倒すべきは……当機(わたし)ですよ、お嬢さん」
 ソレこそ引き金であるように。リアナルとアマトが女房の身を庇い、保護をする。くるりと振り返ってから一つ咳払い。
 ゴールデンプレミアムラグジュアリーアーマーに身を纏って居たひめにゃこは気を取り直したように張宿へと向き直った。
「うーん……皆さんが言葉を尽しても言っても無駄のようで……完全に狂気に当てられてるっぽいですね。
 ここはやはり一旦女子力(ぼうりょく)で行きましょう! 歯ァ食いしばってください☆」


 彼女の名をアマトは知らない。彼女も己の名を名乗ることはしないだろう。言霊とし、神に知られる事が恐ろしいのだと唇は噤まれて。
「大丈夫ですからね」
 そろそろと、後退する。夜に紛れ、天の目を退ける様に。皓々たる月を隠した雲の暈。天蓋から注ぐ闇ならば紛れることは屹度、易くて。
「あなた、たちは」
 女の震えた声音にアマトは懐から特務高等警察手帳を取り出した。リアナルは小さく頷いて。張宿の視線が逸れたことを確認し、アマトと共に盾となったリアナルは「そういうわけだ」と笑みを零しビット型の翼を展開した。
 リアルでは相棒と呼ぶに相応しい五輪バイクに合体し、届けるのは第三の配達物。勇ましさ、ソレこそは絶望の海を越えて来た衛士達に与えられる素晴らしき届け物。
「――此花知夜」
 code:認証。
 読み上げると共にその身に降注いだ災厄は彼女に力を与えたもうた。帝都の闇夜を切り裂いたのは一面の銀化粧。装った白に身震いひとつ、張宿は「冬まで掌握して、つくづく腹が立つ!」と憤慨したように言い放った。
 ぱきりと音を立てた雨水が薄く研ぎ澄まされた氷と化した。吹雪は雨の量が降れば動きにくくもなるかとその動きを一瞥し――「ソレだけで止められるなんて、思わないで!」
 天より飛来する紅色の。まじまじとその姿を双眸に映し込んでから悠月の鴉の濡れ羽は広がった。淡く波打った鮮やかなる宵の色。
 その足下に広がる陣は清冽なる気配を醸し出す。白鷲の如く、氷は無数の刃を生み出した。天をも裂いて、張宿へ向けて飛び込んでゆく。
 四神の眷属とて、その体は人の子を模している。白鷺の羽が掠めた頬より燃え滾るような赤い血潮が見えた。
「あああああ、張宿が、いたそぉ……」
「余所見ですか? お嬢さん」
 張宿から引き離すように、WYA7371は彼女と張宿の射線上にその身を投じた。分断を狙えば、執拗にも輪を掛けて、執拗に、執拗に、弾幕を放つ。エネルギーバレットの一斉掃射は天蓋より降る星の如く。
 夜妖は「わああ」と幼子のような声音を漏らした。ぴちゃりと跳ねた雨水が、招来しWYA7371の体を襲おうとも気になど止めない。被害者とされた女性を守りきることが化せられたオーダーなのだから。
「雨だなんて、酷いわね! ふふ、足を探してるの? あの人よりわたしのはどう?
 けど、そちらが良いなら。あなたは誰の相手をしたいかしら? わたしなんてどう?」
 タイムはすうと息を吸い込んだ。たった一つの拳を為せば、何ものにだってなれてしまう。現実では考えたことの無かった在り方に仮想はなりたい者になれるワンダーランドのようにうさぎのその身を誘って。
 傷付くことは怖いけど。何時でも守ってくれる人が居る。それだけで、前に立つ誰かの気持ちが分かるかも――なんて、強がりだってひとつやふたつ。
「誰だって良いよ。所詮はただの人。『神霊や眷属(ぼくら)』より劣るだろう!」
「ええ!? そんなことを言うんですかぁっ!? ひめですよ? 可愛いですよ!?」
 引き剥がされた夜妖。ソレが居なければ攻撃だって集中砲火できる。ひめにゃこは飛びかからん勢いで叫んだ。
 ひめにゃこから生成されるニャコニウムが特殊エネルギーに変換されて放たれる――気がしたメロメロビームを真っ正面から受ける張宿にねこ神さまは首を傾いだ。
「どう思いますか? 黒ねこさん」
 答えやしない黒ねこさんはここぞとばかりに攻撃を放ち続ける。影ねこは鋭い爪と牙を突き立てて『愚か者』を離しやしない。
「さてさて、おかしいですね。神の僕が夜妖と手を結んでいます」
 神様は多様性がある筈だ。それを侵食(くる)わせる事さえ可笑しくて。陽に愛された肌を有するねこ神さまはふと、独りごちる。
 思えばヒイズルでは常にそうだった。夜妖を狩れと駆り立てたのは星読みキネマが描いた被害を観た双子の巫女とねこ達の心の内の声。
 それは、そう在るべきと記された未来のようで。――ヒイズルも、豊底比売という神も、大切なピースが抜け落ちているのかも。
 そう思えて仕方が無くて、ねこ神さまは「確かに『豊底比売』はこの国の母なる存在(かみ)なのかもしれません」と囁いた。
 眩く豊かとなる御威光に。甘えてばかりでは人為らざると同じではあるまいか。


「てけてけ……で合ってるよな? 下半身がない化物。…んー…朱雀との関連性は見えてこないし、単純にそこにいる夜妖って感じなのか?
 それとも張宿とやらに共通点があるのか……まぁ考えてもわからんか。今は」
 夜妖たるものが何ものであるかをこの場で詳らかにはできようもない。ならば、思考の答えも出ないかとリアナルは第一の配達物で仲間達へと『贈物』を届け続けた。
「てけ~?」
 首を捻った夜妖。最初から引き離せたのは僥倖でもそれなりの強靱さは流石は異形たるものか。
「さぁさぁそうやって庇ってるだけじゃあ貴方の欲しい足は手に入らないですよ!
 なんだったらひめの健康で白くて綺麗な可愛いお御足あげちゃいましょうか!?」
 これ見よがしに太ももをぺしぺしと見せ付けたひめにゃこは出来る限りの見方の生存を考えた。夜妖を倒しきれば、残る張宿だけである。
 足は自慢だ。捥がれたってキャラメイキングで戻せる。そんな自身を胸にしたひめにゃこは張宿を逃すべからずと目を光らせて。
 WYA7371は夜妖を事前に引き離せたのが僥倖だと惹き付けることを止めなかった。
「泣こうが喚こうが、あなたの好きにはさせません。ええ、当機は人型戦車。血も涙もございませんから」
 機械には血も涙もあっては行けない。冷徹なるシステムガールは夜妖の撃破を目指し、仲間達と共に攻撃を重ね続ける。
「どうして、じゃまするのぉ? あしぃ、ほしい」
 手を伸ばす夜妖に「いやー、欲しいのはわかりますけどー」と自慢げなひめにゃこは気を引くように微笑んだ。
 WYA7371が惹き付けた夜妖を巻き込むように、清き水を触媒に氷の刃が作られた。蓮華は不浄を払いのける。
 夜妖であると聞いていた。それは、知る者とはないのだろう。まるで明確なる『四神の眷属』の如く――使い魔であるような錯覚。
(…………例えば。希望ヶ浜の夜妖の一部或いは全てが真性怪異の眷属として発生している存在なのであれば、此方においても同様ある可能性は、有り得る話か。つまり、広義の意味でヒイズルの夜妖は豊底比売の眷属として発生している……?)
 その推論は遠からず。そう認識させるように夜妖に攻撃が重なれば張宿は「大丈夫か」と手を掛ける。使い魔の主人の如き素振りを見せて。
「大切な子なのかしら?」
 凍て付く気配を纏う吹雪に張宿は「別に」と言った。代わりなど他に居ると良いながら視線はついぞ戻らない。
「おひぃさまは人を殺せと、そう望んでいるの?
 そんなことないでしょ……? 人を産んだ神が、そんなことを!」
 吐き出した言葉に「でも、粗相をしたんだ。高貴なるお方に対して、それは論ずるにも値しないでしょ」と張宿は言い捨てる。
 タイムはぐ、と息を飲んだ。アマトには彼の事が理解出来ない。彼が怒っている意味は分かれど、『おひぃさま』の代弁者となりうる理由は底には存在しない。
「張宿様はおひぃさまのことが大切だから、おひぃさまが傷つけられたって怒るのですね」
 アマトは張宿をまじまじと見遣ってから言った。
 込めた想いが力を『生み出す』イースターエッグを手にして、勿忘草の色をした髪を揺らがせた小さな兎に張宿は「当たり前でしょ」と言った。
「ごはんをわざとこぼされたり、捨てられたり、投げつけられたら、アマトだって悲しくなります。
 でも、たまたまで、悪意も傷つける意思も何もないのなら、それはしかたないことではないのですか?
 ごめんなさいって片付けて、もう一度用意するのではだめなのですか?」
「そもそも、違うんだよ。下賤の者共が受けた恩を返すのに一度の失敗を行う事が間違いだ。そうするべきでない、分かる?」
 翼を揺らした張宿に聞く耳を持たないのだとねこ神さまは嘆息した。通常の彼と出会えたならば、屹度、失敗を咎める事はしないだろう。
 もう一度のチャンスを与えてあねさま――朱雀と共に、今度は上手く往く事を願うだろう。その在り方さえも狂わすからこそ神と呼ばれるのであって、主なるものとされるのである。
「この国は、何時から神の名の下に恐怖の支配を始めたのです?」
 悠月は問い掛けた。ヒイズルという名のこの国の歴史が『そういう成り立ち』であった可能性もある。国家元首は神の化身や神の子と称されることだってあった。故に、異界より召喚される者を神使と持て囃すのではないか。
「……誰かのためにごはんを用意するっていうのは、誰かにごはんを用意してもらうっていうのは、素敵なことのはず。おひぃさまにとってはそうではないの?」
 アマトは声が届いて欲しいと願う様に、そう言った。辿々しく紡いだ言ノ葉に張宿は言葉を返すこと亡く小さく笑う。
「この分からず屋――!!」
 タイムは叫んだ。至近距離へと飛び込んで、拳を張宿の翼へと叩き付ける。鳥は飛べなければ地に落ちる。
 逃さぬようにと翼を折ってしまえと『作戦』をなぞり迫り上げた気持ちに水差すように己の良心が叫びを上げた。こんな気分の良くない行いは罪悪感だけが付き纏う。
 ――月閃さえ使えば、こんな残酷なやり方でも躊躇せずに居られるのだろうか。
「神が何たるを忘れたオロカモノには手痛いお灸を据えてやるのです!!」
 神の名の下に人々を誅する存在のどこが神聖か――『四神』の僕とも在ろうモノが本分を忘れ人を害する獣と堕ちてどうしますか。
 ねこ神さまはその神聖を猫たちに込めた。
 女房を庇う様に立っていたリアナルは「帰りはちゃんと送るから、もうちょっと待っててくれよ」と囁いて。彼女を安心させるための手段は自身らが講じれば良い。
 それ以上に今見たショッキングな出来事全てを飲み干して貰わねばならない。恐怖の象徴の如く生み出された夜妖は惹き付けるWYA7371とほぼ相打ちにもなりながら闇の中へと消え失せた。
 凍て付く氷が張宿に迫り往く。雨水は疾うに凍り付き、最早動くことはない。足を絡め取るように張宿は逃げる機会をうかがっていた。
 夜妖だけではない。彼を捉えることも目標だった。神使達は射干玉の夜に紛れることを赦しやしない。
「ッ――」
 翼は折れた。傷付き、逃げ出すための道さえ塞がれた張宿は苛立ちを讃えた瞳で特務警察のかんばせを眺めて居た。
「誅罰を、誰が望んだのです。朱雀ですか、それとも――?」
 問うた悠月へ「あねさまを愚弄するな」と飛びかかった彼の体は随分と脆いようにも感じられる。
 白鷺の羽が天より落ちる。
 幼く華奢な体躯をして居るようにも思えた少年はがくりと膝を付いた。

「あねさま――」

 震える声音が、紡がれた。天に覗いた月がまるで『おひぃさま』が見て居るようで心地よい。
 死は遠い幻想のように、秋の気配に惑わされた。少年の体を抱え上げ、連れ帰ろうと伝える吹雪はふと、天を見上げ息を飲む。
 雲が隠した月は半分ばかりかんばせを覗かせてコチラを嗤っているかのようだった――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

WYA7371(p3x007371)[死亡]
人型戦車
ねこ神さま(p3x008666)[死亡]
かみさまのかけら

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 張宿くんは連れ帰られ、スノウローズがきちんと庚くんにお渡しさせていただきました。
 彼が詳しく何かを知っているのかは分かりませんが、傷付いた翼は暫く癒えないでしょう……。

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