シナリオ詳細
<グランドウォークライ>ゴールデン・ロアー
オープニング
●破壊的律動
「成る程ね。『公爵』の言ってた通りだ。
酷い横紙破りは俺様にだけは言われたくねぇだろうがよ」
力こそ全てを標榜する『鋼鉄』に激震が走ったのはその絶対論理が故である。
個人の武力ばかりを尊び、歴代の皇帝――統治者さえ『最も強い者』を任じ続けたこの国はきっと遥かな昔から歪だった。
歪なまま――余りにも幸運に、余りにも必然的に危ういバランスは成立してしまっていた。
つまる所『こう』なる目は常に隣に存在していたのである。
実際に『なる』までは誰一人それに気付かなかっただけで――
「まぁ、酷い『詰み』だわな」
荒涼とした鋼鉄の荒野に激戦の痕がある。
スチールグラードから数キロ、首都を間近に臨む街道付近の戦場はゼシュテリオンの正規部隊とシャドーレギオン達が激突を続ける重要ポイントだ。
鋼鉄軍人達は精強に粘り強く戦うだろうが、劣勢を跳ね返すのは並大抵の苦労では済むまい。
ましてや敵勢力が街道を制圧したとあっては後詰めを堰き止める事も叶うまい。
「――とは言え、だ」
激しい戦闘の直後である。
撤退を余儀なくされたゼシュテリウス側に代わり、ふらりと場に現れた『何者か』は残存するシャドーレギオンを睥睨していた。
小破や中破の機体もあり、それは抵抗の激しさを言葉よりも物語っている。
再び動き出そうとする自軍の前に現れた『彼』にそれ等は警戒の色を示していた。
たかが『一人』を前に軍勢が――である。
エクスギア・EX(エクス)さえ駆っていない個を前にたじろいでいる。
「とは言え、俺様はこの国が嫌いじゃねえんだ。こっちも、混沌の方も――な」
危うく立ち昇る気配は臨界に近い程に刺々しさを増していた。
戦う程に強くなり、戦える程に上機嫌を極めていく――しかし彼は今回の事件が『嫌い』だった。
彼は美しさを損なう戦いを許さない。
徹底的に敵を破壊しようとする時、生じ得る『律動』は自身でかけた鎖を引きちぎっても良いという免罪符に他なるまい。
「――まぁ、そういう訳だ。オマエ達」
飄々と魔術師が力を開放した時、シャドーレギオン達は一斉に武装を構え彼に敵対した。
「多分、目的は同じだろ。仲間とは言わねぇが今回は共闘って事にしとこうぜ。ただ――」
振り返らず、エクスギアを駆って急行してきたイレギュラーズに『自分勝手な話』が飛んだ。
「――どっちが多くぶっ壊せるか、一つ競争するとしよう!」
- <グランドウォークライ>ゴールデン・ロアーLv:40以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別EX
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2021年09月26日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●街道にて
「こんなもん、普通なら負け戦だよなぁ」
軽く言った『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)の口元に呆れの笑みが浮かんでいた。
見渡す限りの敵、敵、敵――
イレギュラーズが急行してきた『現場』はグランドウォークライ――広域戦場の中でも取り分け分厚い戦力を誇る敵の跋扈する『地獄』であった。
「はぇ~こんなにたくさんお相手さんがいるなんて大変そうだね~。
……時間稼ぎってお話だったんだけど、これは骨が折れちゃいそう」
リュカと同様に半ば感心するかのような口調で言った『月将』ハンモちゃん(p3x008917)の感想も大差無いだろう。
敵主力部隊から街道を開放し、釘付けにした上で増援を待て――
口で言うのは余りにも容易いが、往々にして実行するのはそうならない。
彼我の戦力差は一目瞭然であり、如何ともし難い程の状況はまるで覆し得るものではない。
もし仮に誰かがこの戦場に放り込まれたなら、絶望する姿を想像するのは難くない。
もし仮に混沌にある自分が『これ』に立ち向かわねばならぬのなら、どうしても楽観的な未来を描く事は困難だっただろう。
『それに疑う余地がない程に、彼等のこなさねばならないミッションは簡単なものでは有り得ない』。
「でも、厳しい状況だけどやることは簡単だね」
目の前に立ち塞がる『魔術師』と新手(イレギュラーズ)に武装を構えた敵を油断なく見据え『天真爛漫』スティア(p3x001034)が言った。
「状況がどれ位のものだったとしても――別に私達が倒してしまっても構わないんだよね?」
「違いない」
スティアの言葉を『オオカミ少年』じぇい君(p3x001103)が肯定した。
リュカにせよ、ハンモちゃんにせよ、スティアにせよ、このじぇい君にせよ――
R.O.Oにおけるアバターは今日、普段と同じ形をしていなかった。
リュカは大剣を備えた竜人の如き鉄機を駆る。ハンモちゃんは胴回りの太いずんぐりむっくりとした機体、スティアは大きな翼を広げた細いフォルムの機体、じぇい君は灰色に狼頭を持つ機体を駆っている。
「すごい、すごいのです!
私がロボットに乗る日が来るとは思いませんでした!
この格好いい騎士みたいな機体で――さあ、鉄拳をお見舞いしてやりますから!」
「うん。ロボに乗るのは初めてだから、正直ワクワクしてくるね」
フルプレートの騎士を思わせる重厚な機体で腕をぶす『双ツ星』コル(p3x007025)にもう一度じぇい君が頷いた。
R.O.O(ゲーム)の中ならではの戦闘は今回、イレギュラーズに特別な機会を用意していた。
つまる所、この戦いは『鋼鉄動乱』における例外だ。エクスギアによる『兵器同士の戦争』めいている。
彼等が何処か楽しそうにすらこの現場に立ち向かう事が出来るのはR.O.Oがゲームだから、という理由は大きい。
「精々、望まれた事を越えて示しましょう。ROOにおいても我々は運命(きせき)なのだとご理解頂く事といたしましょう」
「仮想世界には理不尽が付き物。だとしても、理不尽に抗うと決めた私が此処で諦めてなるものか!」
まぁ、尤も。『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)や『描く者』スキャット・セプテット(p3x002941)の言葉を聞くまでも無く、である。
(国を救い、キールさんにも勝つ――それぐらいの奇跡を起こせなきゃ、アイツを鳥籠から出す事なんて!)
言わぬ内心のその言葉を察するまでもなく、である。
こんな場所に好き好んでやって来る彼等の場合、仮にこれが命賭けの戦争だったとしても結論は大きく変わらないのかも知れないのだが――
「ただでさえ大変な状況に更に乱入者とは――」
――馬鹿げた程の戦況をややこしくする存在こそが敵軍、自軍双方が示す『圧倒的なスケール』の中で例外とも唯一人の男である。
黒を基調とした比較的小型の機体(クロス)に乗った『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)がそれでも視界の中に見下ろしたのが件の魔術師その人である。
スチールグラード方面から現場に急行したパーティの機体群と巨大兵器を多数備える敵軍の丁度中間地点に立っている。
(キ、キール・エイラット氏、と言えばあの魔導書ゲーティアの原本をお持ちとの噂の方ですね!?
い、色々お話をお聞きしたいトコロですが……まずは目の前の大群の殲滅と参りましょう
無様を晒せば興味すら持たれないでしょうからね!)
とんでもなく珍しい『本』を持ち合わせる彼は『アルコ空団“蒼き刃の”』ドウ(p3x000172)にとって格別の興味の対象である。
そんな機械仕掛けの魔人めいた男は笑いながらイレギュラーズに水を向けたばかりだった。
――まぁ、そういう訳だ。オマエ達。
どっちが多くぶっ壊せるか、一つ競争するとしよう!
「まぁ、競争って位だしな――味方ならいいんじゃねーか?」
何せ使えるものは猫の手でも借りたい位の惨状である。
「はい! 一先ず敵でないなら問題ありませんねっ……
冒険者たるもの使えるものは何でも使え、ですね!」
今にも始まりそうな戦争(ドンパチ)と軽く言った『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)に気を取り直したカノンは敵の群れを睥睨した。
幾つかの事態の急変に身構え、警戒を見せていた敵軍もこれ以上止まる事はあるまい。
状況は既に煮詰まり、限界まで張り詰めた緊張感が爆発した時こそが戦いの始まりなのだと――誰の肌にも分からせていた。
「で、オマエ達はそれでオーケーなの?」
「――その勝負、お受け致します!」
キールの「オマエ」のイントネーションに少しだけ微妙な顔をした後、ドウがハッキリと大声で返事をした。
それが始まり。
緊張は解放され、夥しい敵軍が動き出す。
迎え撃つはたった十騎のエクスギア、そしてたった一人の魔術師だ――
●会戦
「じぇい君、行きまーす!」
これだけは言っておかないと。
「素敵な魔術師さんからお誘いを受けたことだし――ちょっとだけ頑張りますか!」
何とも言えない流し目を一つ送り、ハンモちゃんが怪気炎を上げる。
彼の駆る機体は鈍重そうな見た目に反して素早い。圧倒的な反応速度を見せた彼は向かってきた手近な中小機竜に一早い迎撃の構えを見せていた。
黄昏時、黄金色の稲穂が如き香りの波濤。想起せしは可能性に満ちた喜び、それに勝る優越――
「あなた達の色褪せた現実を塗り替えましょう、だから縋って、最期まで!」
広がる『香り』は鉄機さえも狂わせるハンモちゃんの手管である。
飛び出した彼は扇形に噴き出す広範の牽制をもってして敵の出鼻を挫いていた。
「ほー、やるじゃん?」
『素敵な魔術師』が感心したような声を上げたが、元より敵の数は甚大である。
一度動き出した彼等は一人の牽制で止まるような数ではなく、同時に誰かが囲まれれば敗北は不可避なのだから気を抜ける余裕はない。
「――捧げなさい。貴方方を糧に貴方のお仲間、屠って差し上げましょう!」
ツルギの駆るのは彼に似合いのハウント――殉教の騎士を思わせる白銀の機体である。
彼の愛馬――タキオンを思わせるロボットホースにまたがったハウントはハンモちゃんを追い抜くように前に出て側面から回り込もうとした敵機を強く撃つ。
「幸か不幸か敵の数には困らないようですからね――」
「――不幸だとは思いますが、それはそれとしてお受けした以上は勝ちませんと!」
おっかない師匠の教育がいいのか、案外なる生来の負けず嫌いなのか何なのか――蒼色に染まる細身の機体が躍動した。
(アバターの能力と機体が連動する、と言うのは不思議な感覚ですが……これなら!)
風を纏う蒼迅(ドウ)は対に備えた二刀を絢爛舞踏の如く展開し、敵群に飛び込んでいる。
イレギュラーズ側の組む陣形は実に流動的だった。
敵は無数、乱戦は当然の予測。陣形に明確な形状を定める意味は殆ど無い。
元より期待値の低い秩序の維持ならば、互いの攻撃範囲を意識しながら連携の取れる距離で臨機応変に立ち回る事が余儀なくされるのは間違いない。
必要なのは偏に『孤立しない事』。そして範囲攻撃が重要である以上は『友軍を巻き込まない事』だ。
その辺りを念頭に置きながらツルギやドウは前に出て、ハンモちゃんは僅かな距離をおいて戦いを展開している。
そして要素はもう一つ。
(キールさんは何者でしょう?
これ程の存在感を考えれば現実でもさぞ有名な方なのでしょうが……
……劣勢にあってこの加勢は心底ありがたいです)
コルは自身の為すべき連携を十人十騎のイレギュラーズとキール・エイラットのツーマンセルのイメージで描いていた。
広範に放たれたコルの雷撃に動きを鈍らせた敵機を「ナイスアシスト!」と『引き千切った』キールが笑う。
「お返しだ」
と律儀に彼が蹴り飛ばした中型の機兵がコルの目の前に転がってきた。
「フェアだねー。嫌いじゃねーぜ、そういうのっ!」
吠えたルージュが放った自称『愛の光』――光線が敵を貫いた。
『何だか知らねーけど最強と聞いた愛の力』は猛烈な破壊力でその一機を中破させている。
「つーか競争はするけどよ、あくまで『ついで』だからな。
邪魔も変な対抗心も――卑怯な真似はしねーよ。
キールのにーちゃんとはあくまで味方だ。正々堂々と全力でな!
負けたらおれが未熟だっただけだしよ!」
「つーかよ。あのボス、赤と機竜でおれと被ってるじゃねーかっ! そっちのが問題だろ!」と舌を打つルージュにキールが呵々大笑する。
「よーし、よく言った、ガキンチョ。じゃあ俺様が後でオマエをアイツに『会わせて』やる!」
本来のルージュが『ガキンチョ』であるかどうかはさて置いて、彼女と同じくキールの方にもおかしな対抗心はなさそうだった。
彼の描く『勝負』なる青写真はこんな現場でも実に気楽に愉悦と娯楽に満ちているように思われる。
異様な事態に異様な存在感、明らかに危険な男なのに人好きのする性格が隠せていない――
「何だか、ちょっとアニキに似てて――やり難いぜ」
リュカの記憶の中の『尊敬する人』が「ああん?」と不満そうな声を上げている。
しかし、その評価は実際の所概ね正しいだろう。彼も危険で――同時に妙に気さくである。
「……だが、じゃあ。ますます負ける訳にはいかねーよな。ぶっ殺されちまう」
頭を掻いたリュカが気を取り直して敵に真向かう。
「キールの旦那よ、負けねぇよ、この勝負」
『竜の睥睨』で上空から敵味方の位置を確認、『竜の念話』でその情報を共有――
連携を意識しながらもリュカはあくまで獰猛にその力を解き放つ。
「――吠えろ『赤龍』!」
リュカの暴威が荒れ狂い、
「この機会は逃せません。今が反撃の時、です!」
気を吐いたカノンが小回りの利く小型の機兵、地上の歩兵戦力を薙ぎ払う。
「事情はそれこそ分かりませんが――勝負と言われて発奮しない訳には行きませんからね!」
「言っとくけど、僕のグレイウルフは、キールさんにだって負けないよ」
カノンの言葉にじぇい君も薄い笑みを見せていた。
グレイウルフの備えた巨大なライフルの銃口が鈍色に輝く。
混沌での彼もかくやという精密な射撃は、流石に『慣れた』ものだ。
彼に言わせればその精度は余りに甘くて――『本来』ならもっと完全に射抜いてやろうというものだが、それはともかくである。
パーティの連携は鋭く、混沌での経験も併せて多対少なる戦いにも十分な経験を持っていた。
「それじゃあ、いくよー!」
スティアの行雲流水――誘い水のその動きが敵の攻撃を自身に集中させる。
強烈な装甲を誇る彼女のセラフィムが悉くその攻撃を軽微に押し止め、
「――赤き業火と紫の激毒よ、私の敵を殺せ!」
余りに猛々しきスキャットの言葉と力――麗しき『アイビー』がスティアに群がる敵影だけを炎獄と魔毒に焼き尽くす。
「ありがと!」
「どういたしまして――って、もう次が来てるね!」
スキャットの言葉に「びっくりした!」とスティアが声を上げた。
それでもスティアの戦いには何処とない余裕があり――
緒戦は戦い慣れたイレギュラーズの、そして圧倒的と称する他はないキールの個の力が敵軍を圧倒したかのように見えた。
しかしこの戦いはそれで終わる程簡単なものでない事はこの場の誰もが知っている単なる事実に他ならない。
●激戦
「……っ……!」
まさに要塞の如く堅牢な『壁』。
守るだけではなく攻めるにも優秀なスティアのセラフィム――その片翼がもぎ取られた。
数を頼みにした戦いがどれだけ愚かなものかを知らない者は居ない。
同時に数を頼みにした戦いというものがどれ程恐ろしいものなのかを知らない愚者も居ない――
イレギュラーズがR.O.Oという環境において『サクラメント』を持つ意味は正の効果を持っている。
この世界の彼等は死を死をして受け止めず、次に挑む事が出来るからだ。
しかしながら同時に。
「……まだ、まだっ……!」
傷付き気を吐くスティアを襲う『死をも恐れぬ敵兵』というものは負に働くものだった。
サクラメントがゲームの産物であるのと同様に、『イベント』の敵兵――即ちグランドウォークライの敵も『そのように作られている』という事なのだろう。
辛うじてセラフィムの切っ先が親友に似た技――桜花乱舞にて敵兵を穿つも、セラフィムのダメージもまた甚大だった。
「まぁ……そう楽はさせて貰えませんね」
「そしたら逆に拍子抜けってモンだろ」
気付けば上がった息を整えるツルギも、嘯くリュカも似たようなものだ。
「出来れば『死に』たくはありませんけど……そう甘くも無いかも知れないです」
「キールさんだけはともかく」とコルも漏らした。
成る程、緒戦の優位とはうって変わって進行した戦いはイレギュラーズ側の強烈な劣勢のままに推移している。
パーティはその作戦目的に従って敵軍に相応の打撃を与えていたが、それで怯まぬ敵の圧力が凄まじい。
「僕達が敵を倒していけば、向こうも負けじと動くかも……って思ったけど」
じぇい君の考えは正しく、同時に必要のない心配だったかも知れない。
彼やコルが時折意識を向けるキールだけは鼻歌交じりの上機嫌。
何をサボる心配も要らず、破壊に破壊を積み重ねるこの状況さえ『楽しんでいる』ように見えたが、敵兵の撃破が増える程にイレギュラーズ側のダメージや疲労も募るばかりだ。そしてやがて撃破に到れば大きな隙も生じよう。
(……そう遠くない内に一時の後退を余儀なくされるかも知れません。
しかし、重要なのは全滅を避け、『復帰』を十分に念頭に置く事です……!)
ドウは考えた。
サクラメントがある以上それで終わりにはなるまいが、サクラメントを利用する事もタイムラグと制圧のリスクは背負っている。
キールもイレギュラーズらしいが、ローレット所属ではない。深緑出身でもない。
『言ってしまえばイレギュラーズが敗退した場合、彼が一人では何が起きるかも分からない』。
「……きりがない、という訳ですね」
敵を何とか振りほどく――ダメージに臍をかんだカノンが後方の巨影に目をやった。
巨大なる機竜が四体。そしてそれを統べる『レッド・セイタン』は無傷に近い状態である。
末端の兵隊に幾ばくか打撃を与えたとしてもこれでは『クリア』判定が取れるかは読めない状況に違いない。
(ならば、どうするか――)
スキャットは考えた。
そして、考えるまでも無く効果的打撃を与える必要があるのは間違いない。
彼女が――否、彼が直面する『運命』と同じく。打ち破るには力が要る、火力が要る。
「やるしかない……って感じかな」
そしてハンモちゃんの言う「やるしかない」の対象は間違いなくその辺りとの決戦が避けられない所だろう。
迎撃が謂わば『防戦』である。明らかな多数に少数で『攻勢』を取るのは大変な危険と困難が伴うが、『やるしかない』のだけは確実だった。
戦いは続く。
戦いは激戦に、激戦は死闘に形を変え長く長く続いてゆく。
破滅的要素をはらむ刹那を幾度と無く繰り返せば、やがて確率は収束するものだろう。
非常な集中をもって『それ』を回避し続けたとて、やがて必ず限界は訪れるものなのだろう――
「すぐに、戻ります――!」
言葉を最後に残し、ツルギのハウントが爆散した。
彼だけではない。猛烈なる戦いを見せたリュカの赤龍が竜虎相打ち。
最も多くの被弾を受け、強烈に敵軍に立ちはだかったセラフィムも限界を迎える事になる。
「このままでは……」
ドウの表情が僅かに曇った。
彼等はサクラメントからの高速の帰還を果たさんとするも、『Very Hard』と銘打たれた『イベント』はパーティに強烈な試練を課している。
このままでは失敗する――言葉にしなかった言葉の続きはイレギュラーズにとって幸福な未来ではない。
だが、故に。彼等は『このまま』でいようとは思わない。
「なー、キールのにーちゃんさ」
「あん?」
「さっきの『約束』、叶えて貰ってもいっかな?」
――ルージュの言葉に眼下のキールが破顔した。
●黄金の衝撃
ルージュはキールの名前を知っていた。存在を知っていた。
詳しい訳ではなかったが、かの竜域踏破にて彼は確かな存在感を刻んでいたからだ。
スキャットはキールの名前を知っていた。存在を知っていた。
詳しい訳ではなかったが、鉄帝国近辺には彼を謳ったと思われる寓話が存在してたからだ。
ドウも彼を知っていた。叡智の捕食者は物語を愛するから。
リュカも彼が余り他人には思えなかった。良く知る誰かに少し似ていたから。
この競争は競争とは言いながら、余りそんな風情にはならなかった。
まるで友人同士の『共闘』に違いなかった――
綻ぶ戦場にそう好機は多くない。
『ロスト』した仲間の復帰を待ち、幾度と無く乗り越え、細い好機の到来を待ち。
パーティが押し込まれながらも何とか『揃え』態勢を整える事に成功したのはそれから随分経っての事だった。
「そうチャンスはなさそうだがな。雑魚ばっか蹴散らすのも飽きるだろ」
幾度目か戦況が捩じれて『拗れた』頃にリュカは嘆息した。
「口直しにアイツを先に倒した方に100ポイントってのはどうだ?」
「何だかどっかのクイズ番組みてぇな話だな?」
リュカはキールの口にした『クイズ番組』が良く分からなかったが、ニュアンスは伝わっている。
「俺も鉄帝は嫌いじゃねえんだ。なんせわかりやすいからな」
言葉の裏には強烈な「負けたくない」の意志がある。
要するに『それしか勝ち筋がない』のと『競争に決着をつける』のは並び立つ事が出来るという事だ。
数と戦力に押し込まれたジリ貧を文字通りに『引っ繰り返そうとするなら』レッド・セイタンを叩く以外の方法は無いだろう。
「アンタがどんな思惑だろうと勝負は勝負だ。負ける気はさらさらねえぜ!
アンタは嬢ちゃん(ルージュ)に協力してやる心算かも知れねぇが、手伝ってやるのはこっちだって同じだからな――」
天を貫くリュカの目が今一度竜の睥睨で戦場の隙を射抜いていた。
狙うのは最短距離でのレッド・セイタン。圧力をかけ、縦に伸びた敵陣は最早数程の防衛力(あつみ)を持ち合わせていない。
故にこの瞬間なのだ。故にこれだけ負けたのだ。細い、細い勝ち筋の先を掴み取るその為に!
これを最後と力を束ねたたった十人と一人の軍勢が猛烈に目的に向かって動き出していた。
「――舐めるんじゃねえぞブリキ野郎ォ!!」
先陣を切った赤龍の爪が敵影を激しく切り裂いた。
竜呪圧潰――リュカの圧力が複数の敵を封じ込め、
「今一度、告げましょう――」
ロボットホースに跨ったツルギ――ハウントが閃光乙女を煌めかせ、立ち塞がる者を斬り捨てる。
「――R.O.Oにおけども我々は変わらず我々(きせき)なのだと!」
俄かに生み出された『突貫力』はまさにパーティの勝負所である。
「『共闘相手』との勝負もそうですが――それ以前に『敵』に負けるのは業腹ですしね」
「同感だな」と頷いたキールに先んじて踏み込んだコルの拳が敵機の顔面を撃ち抜いた。
「弱った敵をやっつけるってのは『弱者の戦術』かも知れませんけど――」
「――それがこっちの強みにもなる。
彼にはなくて僕達にあるもの。それは、信頼出来る仲間だよ。例えチートのような強さでも彼は一人。
だからその強さに憧れたとしても――僕達も負けないよ」
敵陣を食い破らんと前に出たルージュとキールに意識を向けた機竜の首をじぇい君が強烈に引き付けた。
猛撃に噛まれた彼の機体は木っ端みじんにされたが、仕事としては十分過ぎた。
「――今度は私が相手をするね!」
残る機竜も動きを変えたパーティの迎撃に出るが、これを今一度スティアが阻む。
敵側の切り札、大物を前にしても『まとめて』相手にせんとする彼女は揺るがず。
「まさに勝ち負け、ですね。正念場という訳ですね――」
カノンから放たれた無数の魔弾が弾幕を成して敵陣を強か叩いた。
「言ったでしょ、『ちょっと』頑張ってみようかなって――」
「キール氏の力は見るまでも無く強大ですが――
こちらだって冠位大罪を、リヴァイアサンを! 皆の力を結集して退けて来たのです!
『ローレットは、負けてはいられません』!」
ハンモちゃんも、ドウもここが最後の勝負と命賭け、いや命を捨てる心算で吶喊する。
手を尽くし、力を尽くし、分厚い敵陣を切り開く。
ハンモちゃんは持てる手管を尽くして『勝負』を仕掛け、ドウは蒼迅全てのスラスターを噴かして限界まで己の性能を引き絞る。
「……はあ、はあ、はあっ――!」
前に出た。前には出たが、依然遠い。
それをそう呼ぶ事が正解かどうかは知れないが、指揮官らしく『小賢しい』。
指揮官(レッド・セイタン)は一早く狙いと危険を察知して、パーティの勢いを抑え込みに動いている。
それは正しい判断であり、澱みない事が強さだ。
パーティの動きは明らかな『無理』の産物であり、長い時間『もたない』事が分かり切っているからだった。
「『Noh-kin』好きなんだ。これが終わったら――キールさんをモデルに絵を描く機会を貰えないだろうか」
「はん!」
「これだけ場が温まったら――そろそろ聞けるだろ? あの台詞!」
「そりゃあ、これだけ期待されたらな?」
スキャットの言葉にキールが口元を大きく歪めた。
これまでになく高まった魔力と圧力は一瞬彼に収束し、それから広域に拡散する――!
――頼むぜ『公爵』! さあ、俺様の好きにしな!
空間が歪み『ルージュ』を包む。
「――――」
彼女が何かを言うよりも先に彼女を包む空間が圧搾し、黒く抉り取られた。
黒く蝕みに飲み込まれた彼女は次の瞬間には跡形もなく消えていた――
●一太刀
一瞬だけ意識が遠のいたルージュが『覚醒』したのは一秒にも満たない時間の後だった。
黒い蝕みに飲み込まれた彼女が『現れた』のはレッド・セイタンの目の前だった。
自身の周りの防衛を『前』に出したそれは殆ど単騎である。
空間、距離を『消し飛ばした』――ルビードラゴンを転移させたキールの『権能』は予期不能の『一撃』だった。
「――――!?」
『有り得ざる事』に驚愕に染まったそれから明らかな動揺が見て取れた。
「アシストの礼には随分だが、貰ったもんは貰っとくぜ!」
口元をにっと歪めたルージュに応え、ルビードラゴンが咆哮した。
赤い二機が交錯する。この瞬間を願っていたルージュとこの瞬間を想定していなかったレッド・セイタンなら、明らかに前者が『強い』。
苦し紛れのように放たれた斬撃を素晴らしい動きを見せたルビードラゴンが軽くかわす。
かわしていなし、バランスを崩したそれ目掛けて渾身の一撃を繰り出した。
「どっちが本当の赤に相応しいか勝負だ――ッ!」
硬質の音が響き、一撃がその装甲を深く穿つ。
よろめいたそれは尚も攻め掛かるルビードラゴンを憎々しげに眺め、咆哮を上げた。
敵陣がそれで再び威圧を増す。力を振り絞って無理矢理に道を開いて攻め立てたパーティが徐々に瓦解を始める。
強か見事な先制攻撃を加えたルージュもやがては自力の差でレッド・セイタンに敗退する――
パーティの戦いがここまでなのは明白で、最早敵の進軍は止まるようなものでない事は明白だった。
しかし、しかしそれでも。
――こりゃ、予想以上かな?
勝敗としては鋼鉄軍が食い止められるだけの打撃を与えたかは知れなかったが、イレギュラーズが与えた打撃は小さくない。
圧倒的な軍勢を擁しながら手痛い一撃を被ったレッド・セイタン――敵軍の動きは鋭さを失っていた。
「……いや、しかし見事な連中だ。気に入ったぜ」
戦いを終えて、士気を些かに挫かれた軍勢を遠目に眺めながらキール・エイラットは実に上機嫌だった。
「ゲームの結果は知らねぇが、これなら『鉄帝らしい連中』もまさか咎めねえだろうよ」
撃破され、敗退するイレギュラーズを眺めながらキールは一人この結果に満足を浮かべていた。
――あいつ等、やっぱり最高じゃねえか!
凶相を浮かべるその目は赤い――血のような赤に染まっている。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
結果は失敗ですが、Very Hardなのでそういうものです。
それなりの戦果で戦いとしては相応に効果を上げています。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
後ろの方で失礼します><。
以下、シナリオ詳細。
●依頼達成条件
・シャドーレギオンの大部隊を出来るだけ多く損傷し、鋼鉄側の部隊が街道筋を奪還する
※但しプレイヤーがしなければならないのは前半だけです。
シャドーレギオンの主力部隊を素晴らしくボコボコに出来れば鋼鉄側の部隊がその後に重要ポイントを奪回します。
●街道筋・会戦地
広々としており遮蔽が少ない荒野です。
スチールグラードから数キロのポイントになり、野戦地としては最大級の激戦地になっていました。
数回のぶつかり合いで鋼鉄側が後退を余儀なくされ、敵軍が前進しようとしている所です。
そこに皆さんが(元々は)時間を稼いで欲しいというニュアンスのミッションで急行しています。
●キール・エイラット(アバター)
金色の野獣という異名も。謎の魔術師です。
アバターのままであり、エクスギアを駆っていません。
但し彼は文字通り『チートのような恐ろしい強さである』と推測されます。
あくまで推測ですが皆さんのような強者は相手の実力をある程度理解する事が出来るのです。
戦闘方法等は分かりませんが、『共闘相手』であり『競争相手』です。
勝ったらどうなるか、負けたらどうなるかは不明です。
彼と共に敵の野戦主力部隊を出来るだけ激しく『ボコボコ』にして下さい。
●敵軍
恐らく指揮官は対の角の生えた重量級のシャドーレギオンです。
赤く塗装されており、巨大剣を備えるその威容はさながら巨大な騎士のようです。
機体名は『レッドセイタン』。相当な手練れ、即ちエースが駆る専用機です。
更に巨大な機竜を四体従えており、中小級の個体は文字通り『大量』に存在します。
主力のシャドーレギオンに加え、多数の歩兵の姿もあり、彼等も重火器で武装している為、耐久力はともかく小回りと火力は侮れません。
彼等の多くは激戦の影響で小破、中破、疲弊をしている為、数よりは『マシ』でしょう。
但し彼我の戦力比は数倍等という生易しい領域ではありません。
●超強襲用高機動ロボット『エクスギア・EX(エクス)』
エクスギアEXとは大型の人型ロボットです。
『黒鉄十字柩(エクスギア)』に附随した大型オプションパーツを超複雑変形させそれぞれの戦闘ロボットへと変形します。
搭乗者の身体特徴や能力をそのまま反映した形状や武装をもち、搭乗者にあわせた操作性を選択し誰しもが意のままに操れる専用機となります。
能力はキャラクターステータスに依存し、スペックが向上した状態になります。
武装等はスキル、装備、アクセスファンタズムに依存しています。
搭乗者のHPがゼロになると破壊され、多くの場合爆発四散します。
搭乗者が装備する剣と同様の剣で斬りかかったり魔術砲撃をしたりと、搭乗するキャラクターによってその戦闘方法は変わるでしょう。
もしお望みであれば、普段と違うデザインをオーダーしてみるのもいいでしょう。
※すべてが専用にカスタムされているため、別の人物が乗り込んだり敵のエクスギアを鹵獲し即座に使用することはできません。逆もまた然りです。
●ワンポイント
PCはエクスギアに搭乗して戦闘します。
このシナリオは所謂『無双系』のシナリオです。
しかしながら余りにも絶望的な戦力差は否めません。
個の勇は勝れども、容易な状況にはならないでしょう。
幸いにも――というかミッション的には付近にサクラメントが存在するのは重要です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
以上、宜しくお願いいたします。
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