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シナリオ詳細

夏のゴブリン・シーズン2

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎奴は帰って来た

「ゴブリンだぁーーー!!」

 晴れ渡る空。青い海。轟く悲鳴。
 海洋王国へと向かい渡航していた貿易船、『エセポワール』は突如現れたゴブリン達に囲まれていた。
 その姿は異様や異様。いずれのゴブリンもサーフボードに乗り波を掻き分け駆け行くサーファー海賊なのだ。
 噂には聞いていた海賊版ゴブリン。ノーモア貿易船泥棒。
「ゴブリンです。やっちゃって下さい先生!!」
「あぁ、任せておけ」
 しかしこの日、この船は偶然にも傭兵を雇っていたのだ。
 船長に言われて姿を見せるガタイの良い男は長髪を後ろに束ねた美丈夫。その名も海洋の港ではちょっとした有名人である『ステルベン・セグァール』という男。
 船の甲板に出た彼は背丈ほどもある銛を構える。
「はァッ!」
 丸太のような腕から繰り出されるスクリューショット。バリスタもさながらの投擲は見事海上を縦横無尽に駆けるサーファーゴブリンを二体貫いた。
 だが、しかし。
 次の瞬間に大海原の向こうからやって来たサーファーの姿に、用心棒ステルベンは驚愕に目を見開いた。
「そんな馬鹿な……! 貴様は海洋の研究所に送られた筈、何故ここに!?」
 慌てて銛を投擲するステルベン。
 しかし、次の瞬間には投擲した銛がまるで反射する様に投げ返され、貿易船の船底を貫通したのだった。
「わぁぁあ!! 沈没するぞ! 脱出ボートにみんな乗れ、急げー!!」
 みるみるうちに船が傾いて行く中、船員達は積荷を諦めてボートへ駆け込んで行く。
 用心棒ステルベンもまたそれに続きながら、彼は沈んで行く船の積荷を物色するゴブリンと『ヤツ』の姿を睨みつけていた。
 必ずこの落とし前はつけて貰う、と。

⚫︎奴が帰って来た
「作戦概要を説明します。依頼主は海洋のソルベさん……と言いたいのですが、知ってる方は知ってるかもしれませんが別の方なのです。
 依頼主は海洋首都の港で貿易船支援団体を営んでいるステルベン・セグァールさん。以前にもローレットを利用されてる方なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が言うには、どうやら再び小規模のサーフボードに乗った海賊ゴブリンが発生しているという事。
 海洋の警備隊による調査によれば、どうやら幻想のバルツァーレク領よりにある小さな無人島からサーファーゴブリンは出て来ているらしい。
 そこで今回は貿易船を装って前回同様に襲撃ルートへ赴き、件の無人島近海で小鬼の略奪者を討伐して欲しいのである。
「規模は前回より少ない十体前後の、曲刀を二本持ったサーファーゴブリンなのです。斬り付けに注意して下さいね?
 それで……実は今回、彼等ゴブリン以外にも討伐対象がいるのです」
 ユリーカは一枚の写真をテーブルに置いた。
「……海洋のある研究所は仮名として『ディープブルー』と名付けた、現在謎に包まれた謎の怪魚。
 これが、この怪魚が、今回なぜかゴブリン達の用心棒的存在として居るのです」
 イレギュラーズは写真を覗き込んだ。
 マグロに似た頭部、黒くぬめってそうだけど筋骨隆々の手足、何故かサメの背ビレの様な不自然に生えた尻尾。
 なんか正気度が削れそうな怪魚というか怪人を前にした一同はユリーカを見上げ、もう一度写真を見た。
(怪魚……が、サーフィンするのか……?)

●遡る事、数日前

「GOBGOUBB(ここに魚が運ばれてるのを見たんだって!)」
「GOBB? BOUBB(本当か? なんか白い巣だなあここ)」
「GOB! GUUUBBBB!!(おい! あれ見ろよ、でっけえ魚が硝子の箱に閉じ込められてるぜ!)」
「GBB……(マジかよ……)」
「……じょー……(誰だ)」
「GOA!?(しゃべった!?)」
「じょう、じょうず……しゃあく……(ここは狭い。出して)」
「GOBGOBB(お前、ニンゲンに捕まったのか?)」
「しゃあ……く、じょうじょうず(捕まった。貝を食べていただけなのに)」
「GOBB! GAAOGOBN!(なんて奴らだ! よしここから出してやる!)」
「GOBRINN!!(遊ぼうぜ!!)」

 二匹の若いゴブリンはお腹を空かせて海洋首都の沿岸部にある、とある研究施設に迷い込んだ。
 そこで彼等は出会ったのである。
 両親を亡くしてから仲間とサーフィンに明け暮れていた青年ゴブリンと、孤高の怪魚の心温まるハートフルシナリオが今……始まる。

GMコメント

 奴等が帰って来た。
 イレギュラーズの皆様よろしくお願いします。

 以下情報

⚫︎依頼成功条件
 サーファーゴブリンと怪魚を討伐する
 ※怪魚に関しては生死を問わないが必ず肉体を回収する事

⚫︎情報精度B
 怪魚が謎過ぎるので一部不明とします。

⚫︎ロケーション
 今回は海洋首都近海とは違い、少しだけ波が大きく荒れていたりします。
 リプレイ開始時はゴブリンと怪魚を発見する直前から。
 海賊達を無人島から引っ張り出す為、今回は貿易船を装った小型船で向かいます。
 その為、操舵手がNPCか皆様の内の一人かによって接敵時の状況が変わります。
 
 【各種補正】
 飛行、水泳または水中行動といった海上海中に有利なスキルがある場合、戦闘での判定マイナス補正を相殺。またはプラスします。

⚫︎敵エネミー
 いずれも特殊なサーフボードに乗っている為、通常よりも高回避・高機動となっているので注意が必要です。
 『ゴブリン』×12体
 何故かこのサーフィン上級者ゴブリン達はバリバリの波乗りサーファー。
 二刀の曲刀で物至単攻撃に加え、今回は波が荒い海域の為か波乗りジャンプによる物中単クラスの斬り付けが飛んで来る可能性があります。

 『ディープブルー』謎の怪魚(001)
 色々と謎の生態と進化を経た怪魚。
 水中では恐ろしく反応高く、機動力と逃走する特性があったが研究所を脱走してから更なる戦闘技術の向上と共に、逃げなくなった。
 主に格闘戦が主体であるが、例外がある。
 【射撃や投擲といった物理的飛び道具で攻撃した場合、シナリオ中特異運命座標1名につき一度だけ威力と命中をそのまま乗せて投げ返してくる】
 ちなみに貝類を目の前に出すとそちらに飛びつく。チョロイ。

●各ガジェット
 『偽装船』:貿易船に似せた小型貨物船、速度はそれほど出ません。空のコンテナを全て捨てた後なら小型船らしい速度になります。

 『サーフボード』
 以前にゴブリン達から回収した八基のボード。後部に取り付けられた魔石がブースターの如く水圧を放出してジェットスキーさながらの解放感を味わえる。
 イレギュラーズが希望するならば貸し出すが扱いはそれなりに難しいので気を付けた方がいいかもしれない。
 (【超反射神経】または【反応が15以上】がある場合、海上における各補正が上昇します。具体的には命中、回避、反応、機動力の四点。
 今回ボードに乗る場合、上記スキルステータスが無くても、プレイングで他スキルやギフトを交えたりして乗りこなそうとする記述があれば乗れます)
 
 以上です。
 真夏のちょい荒れな波に乗るのもまた爽快に違いありません。
 是非ご参加くださいませ。

  • 夏のゴブリン・シーズン2完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月07日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)
夢は現に
エマ(p3p000257)
こそどろ
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
マリナ(p3p003552)
マリンエクスプローラー

リプレイ

●蒸し暑い波に
 雨期が過ぎようとする頃、波もまた数多の『乗り手』を迎える準備に入るという。
「いい波が出てるな。風も涼しいし、こいつは絶好の波乗り日和だぜ。……ま、おっさんは歳だから遠慮しておくがね」
 晴れ渡る空の下。舵を操る『本心は水の底』十夜 縁(p3p000099)が気怠げに目を向ける。
 舷側を並走、それも海上を駆け抜け、飛び跳ねる姿の仲間達が在った。
「おー、こいつはご機嫌な乗り物でごぜーますね。私は船に乗るほうが好きですが」
「うぅーん……。海上での戦い、不安が募ります。隠れるところもないし、足場もないし……やや、やるだけやらねば!」
 船によって掻き分けられた波に煽られ、ザボッ! と勢い良く跳ぶ『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)。
 彼女の斜め後方では少し不安そうにボードを駆る『こそどろ』エマ(p3p000257)が海面を見下ろしては顔を引き攣らせつつも上手く滑り、時折かかる水飛沫に顔を振りながら脚を沈ませる。
 水上を駆け抜けて波を滑る。または波に乗る異世界でも知られるスポーツ、サーフィン。
 とても海上での機動戦闘は難しく思えるチョイスだが、信じ難い事にそれをイレギュラーズにも可能としたのがサーファーゴブリン達の自作したボードだった。
「して、これが件のサーフボードであるな。……うむ、乗れなくはないであるな」
 しかしそれでも慣れぬ内は転落の懸念があるか。そう考えた『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)は彼の最大の特徴でもある三面六臂を活かして、ボードを上手く固定。操作する事で仲間との連携を可能にしていた。
 我那覇のように体感以外で乗りこなす者もいれば、別の視点から波を物にしようとする者もいる。
「切り返しの派手さはいらん、儂が欲しいのは洋上での安定性じゃ」
 『鋼鉄の谷の』ゲンリー(p3p001310)。正しく技術面での改良と性能の操作で彼はボードを己に合ったバランスを追求し、波を強かに掻き分けて滑っていた。
 さしずめメカニック・サーファー。強い。
「ゲンリーさんのボード、マイボードって感じがしてかっこいいですね!」
「そうね、っと!」
 ゲンリーの隣を駆ける『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の頭上を影が通り。水飛沫が散る中から出て来たのは。
 空と海に等しき、竜胆の花を連想させる装いと軽快なボード捌きで加速する『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)の姿だった。
「もうすぐ接敵すると思うわ。十夜が引き付ける直前に一気に出るわよ」
「了解です!」
「例の、怪魚は見えたんですかね……?」
 それぞれ十夜が操縦する小型貿易船……に見せかけた偽装船の舷側の陰で、今回の討伐対象である敵に悟られないようにボードの速度を調整する。
 エマの問いに竜胆は首を振る。
「どうやらまだ出て来ないみたい」
「えひひ……見えない方が怖い物ってありますよねぇ」
「油断は禁物じゃな」
 未だ姿を現さない敵の存在に微かな緊張が生まれるが、元々人間を襲う者との戦いなら自然である。この場にいる者達は落ち着いて頷き合った。
 と、その時だった。
「おいでなすった! 頼むぜお前さん方、この積荷を取られたら、代わりにおっさんが切り身にされちまう!」
 十夜の声を合図に彼等は船の陰から一気に加速、少し荒れ気味な波の上を駆け抜け出て行った。

●サーフデスマッチ!
 下卑た笑い声に似た鳴き声を上げて、間抜けな人間の乗る船目指し海上を疾走する子鬼達。
 その名はゴブリン。だがここにいる彼等は穴倉や森、街道で旅人を襲う者達とは違う。見ての通りご覧の通り。
 海と日差しの中で駆ける事を知り、潮風と海原の波を切り裂く事を体で覚えたアグレッシブな個体なのである。
「GORRRB!」
 グラサンにハイカラな、所謂アロハなシャツを着たゴブリンがコンテナを積み込んでるらしき船に近付くと、その船の操舵手の男に恫喝する。
 手元の曲刀を振って「大人しくしやがれ」といった意味が伝わっただろう。
 そうしていて、慌てふためく男がコンテナの傍へ来たのを見ると「ほほう、殊勝な奴だな」と勘違いした様子で観察し始める。
「なぁ、見逃しちゃくれねぇか。この積荷は大事なモンでね、中は――空なのさ、残念ながら」
「~~~ッッ!!!??」
 まさかそれまで如何にもやる気の無さそうな顔で無力な一般人にしか見えなかった男が。突然グラサンゴブリンの前でコンテナを蹴落として来るとは、予想だにもしていなかったのである。
 かくや油断しきっていたグラサンゴブリンと手下のゴブリンの二体がコンテナによってボードから転落……沈められたのだった。
 刹那に聴こえた短い悲鳴に、コンテナを蹴落とした十夜が舵へと戻りながら船頭に置かれたケージを見ながら呟く。
「何で焦ってたかって? そりゃぁお前さん……海に物を捨てちゃいけねぇって、習わなかったかい?」
 言いながら手を伸ばして舵を一杯に回す。
 喚き散らし始めたゴブリン達の姿を横目に、船体を一気にカーブさせてコンテナを落としてゴブリン達に浴びせたのだった。
 牽制は上々。
 ゴブリン達の増援に囲まれるより先に十夜は船を戦域から離脱させた。
 そして船と交差する形で通り抜けて行くサーファーが一人、二人。
「ククク、ボクの前に立ちふさがるとは愚かなゴブリンどもめ。海の藻屑と成り果てろ……!」
 予め船体を死角とする位置を意識して距離を空け、頃合いを見て突撃して来た『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)が両手斧を横殴りに振り抜いた。
「GURRR!?」
「GOLLLL!!」
「グギャア! ギャア!」
 咄嗟に突き出した曲刀が防ぐも、逆に刀身に鼻面を打たれて血飛沫と共に体勢が崩れた。
 鼻血を流す仲間に近付きながらディエを追いかけようとするゴブリン達。
 彼等はリーダー格だったゴブリンが水中から上がって来るのを待っている様だったが、その忠誠心が裏目に出た。
(こんな限られた足場の上で上手く剣を振れるかしら? ──何て、これまでの私の研鑽を信じるだけよね)
 その場に固まっていたのは四体。
 塊とはいえ凡そ3m間隔で水上を回っていた、その中央へ魔石の出力最大で海上を突き進む竜胆が突進した。
 一閃。この言葉が陳腐に思える様な紫電が稲妻の如く海面を駆け巡る。十全な回避体制だったならばそうはならなかったものの、竜胆の一刀による居合はゴブリン達を致命的な一撃の下に沈めたのだ。
 研ぎ澄まされ、研鑽された一閃は三体のゴブリンを見事屠り、続く先制をイレギュラーズが奪い取る。
「ふっふぅー、何事も最初のノリが肝心でごぜーます」
「GRRRR!?」
 紫電が散る中を追走するマリナがマジックガンを横撃ちに構えたのを視界に収め、ゴブリンが言葉にならぬ声を喚いた所に弾幕が張られる。
 よろめきながらもその場から逃走すべく急発進、直撃こそ避けたがゴブリンは無視出来ないダメージを負う。
 それを軽快なカットとターンを駆使しながら追跡するマリナ。果たして狙われたゴブリンはどれほど生きられたか。
「ふふ、サーフボードの乗り方、練習してきましたよ! 負けないから!」
「GGYAA?」
 直ぐに、そのゴブリンは命運が尽きる。
 横から波を駆けて来たココロによって擦れ違い様、衝術によって吹き飛ばされ落水。海面に上がった所をトドメとなった。

────ザバァァア……ッ!!

 僅か数秒でサーファーゴブリン達が散り散りになる最中、辺りに大きな波が揺らいだ。
 遠くに見える無人島の周辺は海流が不安定という事もあり、波も同じく安定しない。だがそんな環境だったからこそゴブリン達は機動力を手に出来たのだろう。
「ぶア!! ゲ、GERRGOBBB!!」
 波が揺らいだ直後に顔を出すグラサンを掛けたゴブリン。致命傷でも無く、運良くコンテナから抜け出した彼は近くに放り出されていたボードにすぐさま乗って叫んだ。
 その声は遥か彼方の無人島にまで木霊する。恐らくは何らかの能力か、習性か。
「海にはあまり馴染みが無いが……海に馴染んでおるゴブリンがおるとはのう」
「!!」
 横切った影に、ゴブリンが振り返る。だがもう遅い。
 ゲンリーが戦斧を振り被る瞬間までは捉えても、その先は痛みすら感じる前に視界が暗転した。砲弾のように飛んで行ったのはゴブリンの残骸か。
 安定した様子でゲンリーはターンを切ると喚き散らしながら逃げ回っているゴブリン達の様子を見た。
「まったく、知己にゴブリンがいるおかげで、この手のゴブリン退治は微妙な気持ちになるんじゃが……む?」
 様子がおかしい。
 話に聞けば好戦的なゴブリン達だというが、自分達の数が減って来たと思いきや全力で逃走しているではないか。マリナやエマが竜胆と連携して追いかけ回している様だが撃破には至っていない。
「!! 皆さん、無人島から敵影。怪魚です!」
「ククク、やっと来たか」
「ていうかもしかしてゴブリン達ってあれを待ってたり?」
 十夜の操る船を追走しながら周囲のゴブリンに切り掛かるも逃げられていたエマが首を傾げた。
 荒れる波に乗ってエアトリックを決めるディエが着水と同時に両手斧を振り下ろし、飛翔する水刃が遠距離を駆けていたゴブリンに直撃する。
 一同の視線が遠方の海原に向き、その姿を目の当たりにする。

●友情ストラトス
 竜胆が貝殻を明後日の方向へ撒いた瞬間、その恐るべき反応に戦慄する。
「いや、ボード使わないの!!?」
「一瞬海の上を走ってましたよね、えひひひ……」
 中身が無い貝殻を適当に撒いただけにも関わらず、ボードに乗ってまさに救世主の様に勇ましい姿で登場したマグロ頭のマッチョ……謎の怪魚がボードを捨てて海に飛び込んだのである。
 バタフライ泳法で高速移動する姿にイレギュラーズが呆気に取られるが、最初に抗議の声を訴えたのは逃げ回っていたゴブリン達であった。
「GEBAAA!!(何してるんだよリーダーが、兄貴がやられてんだぞ!!)」
「じょうッ!(なんですと)」
「GOBBB!!(奴等は卑怯だ! ボードを使えるなんてずるい!)」
「GAAA!!(助けてー!)」
「しゃあく!(今行くぞトモダチ)」
 貝殻をバリバリ食べながら飛び上がった怪魚が、ボードに再び乗って加速する。
 ぶっちゃけ水中の方が早いのだが、ゴブリン達との生活が彼をロマンスに走らせる要因となったのかもしれない。
「GERRR!!」
「ヌゥッ!」
 一転。攻勢に出始めたゴブリンの刃がゲンリーの頬を掠める。
 頼もしい味方がいる事で一時的な士気の向上を促したのだろう、波を見極めて跳ね飛び襲いかかって来たゴブリンが二体。十夜の船を追いかけつつそれを守るゲンリーに手を出し始めたのだ。
 だが。
「喝ッッッ───!!」
「ピギャア!?」
 擦れ違い様にターンを決めてエア直後のゴブリンの耳をゲンリーの轟気が貫いた。衝撃波に近い喝は水飛沫を上げ、動きを止めた。
 好機。後方から急加速したエマが波の呼吸に合わせてボードに浸透勁の如く足を通して海面を打ち、勢いそのままに跳躍する。
「その首貰ったッ!」
 ボードごと宙を舞うエマの刃が一閃。その場にいる全員が通り抜けた数瞬後、一体のゴブリンが墜ちる。
「お見事じゃな」
「えひひ、ありがとうございます!」
 痺れが残っている様子のゴブリンが船から離れて行くのを見送りながら体勢を整える二人。
 彼等を抜け、ココロがエアトリック気味に船上へ滑り上がった。
 上手くゴブリン達に捕まらないように運転している十夜の船から見た戦況は想定通り、誰も重傷に届くような傷も無く。残りの敵戦力は駆け付けて来た怪魚含めて『6』。

(後は……わたしが!)
 意を決してココロは船上を駆けて、船頭にディエが用意した捕獲用のケージの上に飛び乗る。
 遠くで竜胆とディエが貝殻を投げまくる度、怪魚が仲間のピンチそっちのけで飛び込むのを彼女は見ていた。情報通り、怪魚は貝に目が無い。友情より貝を取る程に。
 不安はあるが、直ぐに食べられてしまう貝殻よりも効果はあるだろうと信じ──ココロは禁断の変化を行った。

 眩い光が船上で迸った(怪魚にはそう見えた)直後、そちらへ振り向いた一同は目を見開いた。
 ケージの上に人間大の巨大帆立貝が現れ……
「「ジョーーーーーズッ!!!!」」
「うっわ早!?」
「流石に速いであるな……この中腰の体勢では追い付けぬである」
 ぬめった筋肉を隆起させてボードから降り……たと見せかけてそのまま海上を走り始めた怪魚を、追いかけようとする。しかしいずれも回避され、間もなく船に接近を許してしまう。
 作戦通りの筈なのに、妙に不安になるのはココロが完全に帆立貝なのでパクッと行かれそうな勢いである事か。
「GORRRBB!!」
「GOB! シャーッ!」
 イレギュラーズが怪魚に気を取られている。そう考えたゴブリン達が遂に一斉に飛び掛かって来た。
「仕方ないであるな。そろそろ慣れてきたであるし、虎児を得るためには全開でいかねばなるまい」
 我那覇の体勢が変わる。
 飛び込んで来た刃を六臂による短杖が打ち返す。同時にボードを鋭いターンを切りながら、暴風の如き猛連打がゴブリンを叩き飛ばして落水させた。
 さながら阿修羅の如く。我那覇の死角無き戦闘スタイルに周囲のゴブリンのボードのカットが甘くなる。
「我が刃、その身に受けよ」
 紅い飛沫を切り裂き。ディエの破壊の一撃がエアトリック後のゴブリンをボードごと叩き折る。
 そこへ割り込む様に、滑り込んで来たマリナが我那覇の背後から来る手負いのゴブリンに二度続けて魔力を放出し吹き飛ばした。
「ココロさん、囮お疲れ様でごぜーます……マジで」
 潮風が吹く中、遠くから聴こえた悲鳴にマリナが小さく胸の内で合掌。残りのゴブリンを相手取りながら船の方を見るのだった。

 ゲンリーの方が速かった。
 ココロの魅惑の帆立貝姿に文字通り飛んできた怪魚の前に、彼はボードと共に入り込む。
「お主の相手は儂じゃ」
「ジョオオオズ!!」
 側面からの一撃。怪魚の生臭い手はココロの殻の表面を滑るのみに留まり、狭い船上を転がった。
「おいおい、おっさんが安全運転してる時にはしゃぎすぎだぜ。活きが良いのは宜しいけど、な────」
「!」
 十夜が舵を急に切った事で船体が大きく傾き、再び怪魚が甲板を滑り転がった。その隙は僅か十秒も無いだろうが、仲間がそれぞれ行動(アクション)するには充分だろう。
 ココロの姿が再び可憐な少女へと変わり、船上へ仲間が降り立った。
「無事? ココロ!」
「ごつ渋いゲンリーさんのおかげです!」
「ゴブリンの方は大方片付いたかの。なら彼奴をどうにかするだけじゃな」
 ステップする様に距離を取るココロと、その前に来る竜胆達。
 怪魚が濁った魚の目でココロを凝視する。
「…………じゅるり」
「じゅるりとか言ったぞ、本当に魚か奴は」
 人型の姿でも構わないというのか、足元に法螺貝が転がっていても最早眼中に無い様子だった。怪魚の腕が、脚が、筋肉が膨れ上がる。
「隙ありィッ!!」
 瞬間、舷側から飛び込んで来たエマがボードを一回転させて横殴りに蹴り飛ばした。
 反応は、回避は、水中や水上に比べれば格段に『低い』。船上でイレギュラーズの舞台に迷い込んだ怪魚に先制が取れる筈が無かった。
 竜胆が二刀鞘に納め地を這う様に駆ける!
「シャアアアッ!!」
「間に合ったぁ! 怪魚だけに貝がお好きなんですね。なんちゃって、私のお友達を食べられちゃ困りますのでまるっとボコりますよ!!」
 サメ肌の尾が振り払われ、それをエマが船外から飛び降りて躱し。剛腕による正拳突きをゲンリーが受け、拳を打つ。
 ココロから飛ばされた魔力の糸が絡み付くも、全身のヌメリがそこから脱する手助けをしてしまう。だが、そこへマリナから放たれた衝撃波が襲って片膝を着かせた。
 怪魚の拳がゲンリーを殴り飛ばす。
「覇ぁっ……!!」
「じょっ、しゃあああ!?」
 一対の居合がすり抜けた、直後。怪魚の尾が両断され千切れ飛んだ。
 一瞬の空白と共に青い血が散らされ、怪魚が力無く竜胆を殴ろうとしてエマとマリナにケージへ叩き込まれるのだった。
「捕獲、完了ですねぇ……!」

●夕焼け空に泳げ
 ゴブリン十二体。怪魚一体。
 確実に依頼の対象を撃破した彼等イレギュラーズは船に戻って帰路に着いていた。
「いや、なかなかにサーフボードとは面白かったである。お礼にもらっていきたいであるな!」
 船内に収納したボードやゲンリーの改造ボードを前にして密かに目を輝かせる我那覇。
 一方で、イレギュラーズの何人かは捕獲用ケージの前に集まっていた。
「生け捕りに成功したし研究所に送り戻さねばな。ククッ、交渉なら任せろ。報酬は弾んでもらう」
「丘に戻ったら海の幸で一杯じゃ」
 報酬の交渉にウキウキする一同。
 ケージの中では瀕死の怪魚が縛られているが、大人しい物である。
(これでお金貰ってるから逃がせられないけど、彼を海に戻せないかな)
 この怪魚は何者で、何を思いゴブリン達と行動を共にしていたのか。ココロは怪魚を見つめながら想い耽る。

「変な実験も程々にしてほしいですが……」
 そんな最中、マリナの呟いた言葉は誰にも知られず潮風に掻き消されるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 まさか好物の貝になるなんて……
 お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。見事な作戦でした。
 怪魚が捕獲され、また研究所へ……いつか違うシナリオを見るかもしれませんね。

 またの機会をお待ちしております。

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