シナリオ詳細
<半影食>夏休み終わらない教
オープニング
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希望ヶ浜の夏。
燦々と降り注ぐ太陽に、気候さえも『東京』そのものの夏休み。
希望ヶ浜中央市街ではサマーバーゲンも終了し、秋服のレイアウトが連なり始める、そんな8月後半。
しにゃこ(p3p008456)は叫んだ――「夏休み永遠に終わるなー!」
学生達の間では夏休みを終わらせたくないならば『流行り』の『異世界の神様』にでも頼めば良いなどと言う噂が出回っている。
音呂木ひよのや澄原晴陽が『一時凌ぎ』だと鈴を奉納した事で動きを少しは停滞させられた――筈だが、どうにもならないことはあった。
そう、SNS等で発信され続ける噂だ。
しにゃこが目にした噂は豊小路周辺で起こっている神隠しをポジティブに捉えた者だった。
異界には神様が住んでいて、攫った人の願いを叶えてやっている、と。
「普通、そう言う話にはオチが必要なんだよ。神様だって慈善事業じゃない。何か代償を求めるはずなんだから」
「羽衣教会を信じないから怖い神様に引っかかるんだよ!」
インターネット上の情報を隈無くチェックしていた天雷 紅璃(p3p008467)の呟きに、楊枝 茄子子(p3p008356)が唇を尖らせた。
茄子子曰く変な神様を噂するくらいなら羽衣教会に入信した方がいい、というのだ。夏休みも長続きするし、宿題の心配だってない。
力説する茄子子は兎も角として、しにゃこは「どうしてそんな噂が出たんですかねぇ」と首を捻った。
「迷い込んだ人たちをイレギュラーズが助けて、その体験談をSNSで書いてる人が居たりするんだけど」
例えば、と紅璃が示したのは誰ぞのSNSアカウントの発信だ。とてつもない数の返信が付いていることが傍目から見ても分かる。
異世界迷子ちゃん @?????
建国さんの近く歩いてたら変な世界に飛ばされたんだけど、知らない人たちが助けに来てくれた! - 10:24 2021/08/20
そうした話に尾ひれがついた。それも、子供たちの間で流行しやすいような都合の良さそうな怪談にして、だ。
「……まあ、そう言う事で。その噂が流行して若年層の中では『素晴らしい神様』としての地位を確立させそうである、と。
建国さん――日出建子命の異世界は『対処療法』を重ねていくしかないという訳です」
「只の噂としては割り切れないんだね? これ、全て羽衣教会のおかげでしたに書き換えられないかな?」
「書き換えられるならそうしたい位ですよ。あ、私が信者かどうかは別ですよ。
例えば、この噂は『侵食』と同義です。これが滲みでる事によって異世界から漏れた怪異の気配が現実に影響を及ぼしている。
どうやら『R.O.O側』の情報を見るに、強制的に信者にされてしまいそうです」
「許せないじゃん!」
茄子子は叫んだ。信者候補が別の神様を信じてしまう事をどうして許せようか。
「この『いい神様だ!』っていうムーブそのものが侵食って事?」
「はい。恐怖心なんてそこには存在しないかのようにその存在を肯定している。それが真性怪異の影響でしょう」
紅璃は成程、と頷いた。しにゃこは三人の話を椅子に腰かけて聞いていた。先ほど購入したレモネードは気づけば空だ。
「よし! ならばですね、しにゃ達で異世界へと飛び込み侵食を抑えようじゃないですか!
どうやら怪異を倒せばその侵食を抑え……いえ、遅らせることが出来る様子! 任せてくださいよ!」
――ついでに、夏休み終わるなってお願いしてきますから。
そんなしにゃこの本音はまるっと呑み込んでおいたのだった。
●
異世界に踏み入れることが出来るのは『建国さん』の近くからだった。
住宅の中にぽつねんと存在する小さな神社。生活している中でもよく見かける町の『何の神様か知らないけど楽しみにしてる夏奉りのある神社』
それが建国さんだった。その周辺には子供たちがうろうろとしており、蝉取りでもするかの様子である。
イレギュラーズである以上、異世界には居るのは簡単だがその現場を見られない方がいいだろうか。
――と、一人の少年が泣き始める。aPhoneを弄っているのは彼の姉だろうか。
「どうかしたの?」
紅璃は不思議そうな顔をして一先ず声を掛けた。通りかかったかの様子で「何か落とした?」と問いかける。
「希望ヶ浜学園の子じゃん。
……ううん、その……コータ、あ、こいつね。コータとその友達連れて異世界のおまじないをしに来たんだけどさ」
「消えちゃった。りーくん、消えちゃった」
涙をぼろぼろとこぼす少年の背をさする姉は「かくれんぼしてるのかもよ」と声を掛けた。
……どうやら『りーくん』という少年が異世界に迷い込んだらしい。探しに行こうと立ち去る二人を見送ってから、一行は異世界へ入る事にした。
目的は『りーくん』の保護と――夏休み終わるな、というおまじないが本当に効くか、である。(尚、茄子子は「効かないよ!」と叫んだのだった)
- <半影食>夏休み終わらない教完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年09月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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じいわ、じいわ、と。夏の気配が隣に居る。汗ばむ肌を差す太陽は鋭く熱く、咲き誇った向日葵がその位置を教えてくれる。
ふうと溜息を吐いてから『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は木の洞に張り付いている蝉を一瞥する。
「異世界騒動で建国様の信仰と異世界の噂の信憑性が増しているって……救出する事が悪手に感じるような嫌な悪循環だね。
精神汚染までするんだ、真っ当な存在とは思えないけれどね。そもそも良い神様だなんて商売敵も甚だしいよね」
そう『神様』トークを交えたバスティスに「あっっつーーーい!」と叫んだのは『異界の神様』なんて信じてやいない『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)。
「会長夏嫌いなんだよね!ㅤあっついし! 夏休みは好きだけどね!ㅤ会長夏休みないけど!!ㅤ年中無休でお仕事だよちくしょう!!」
地団駄を踏んだ茄子子は現在『夏休み』の異空間の中に居る。暑いよりも『熱』い。そう感じてしまう程の太陽まで再現してくるとは異世界の作り込みに余念はない。
「まぁいいや!ㅤ――異界にGO! 羽衣教会に入信すれば一生夏休みも夢じゃないからね!ㅤ入信しようね!!ㅤね!!
夏が凄い!ㅤ蝉とひまわりの圧が凄い!! 笑い声はスルーで!ㅤ聞かぬが花つってね!」
じいわ、じいわ、と。蝉の声に混ざり込んだ楽しげな笑い声。夏の幻想。そんな物に耳を貸している暇はないと茄子子は早速一歩踏み出した。
「永遠の夏休みだー! ……って思うじゃん? 翌日隣人の顔がおかしく……ROOかな?」
電脳世界ならばそうした事も有り得るはずだと『無限陣』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はそう嘯いて。現実世界でこうも『愉快なバグ』に見舞われると溜息も吐きたくなる。
「うっひー、やっぱあちぃですねこの異世界。ほんと夏はこれが嫌ですねー日に焼けるし、汗はかくし。
でもこれだから夜に花火はできるし、プールは気持ちいい……悩ましい! あ、そこに悩んでる場合じゃないですね! 早く助けに行きましょう!」
夏休みに魅入られかけている『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)の頬をぷにんと突いたバスティスは「日焼け止めは塗った?」とフランクに問い掛ける。何処か脱力してしまうような異世界がこの場所には広がっているのである。
「練達ならまだしも日本を模した希望ヶ浜で神の信仰の強制とかねー、よろしくないよ!」
「えっ!?」
『新米P-Tuber』天雷 紅璃(p3p008467)の一言に茄子子がぎょっと目を見開いた。羽衣協会は強制してないから大丈夫だと思い直して安堵の表情を浮かべる彼女をちらと伺い見てから紅璃は首を振って。
「ROOから混沌への侵食はなんとか止めなきゃね、aPhoneの情報拡散速度もこの騒動に一役買ってると思うとやるせないね。
私? 私夏休みの宿題は前半で終わらせて後半遊ぶタイプだったからね、未練はないよ!」
「ハハッ、このジメッとした暑い季節は苦手だがよ。バケーションは長ければ長い程良い! そうだろ!?
後半に遊ぶと言えども、だ。バケーションが長ければホットな夏を味わえるんだぜ?
休みが続きますようにだなんて、全人類の夢と言っても過言じゃねえ……ちょっと俺もカミサマとやらに祈ってみても良い?」
『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)が揶揄うようにそう口を開けば不思議そうな顔をした『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)が首を傾げて伺っている。
「……あ? やっぱりダメ?」
「いえ、ニルははじめての夏休みなのです。これが、夏休みの世界……。
知らない世界に迷い込むなんて、きっと心細いと思います。ニルも異世界に行くの初めてですが、りーくんを助けるの、がんばりますね!」
純粋なその人見に見詰められてブライアンは「ちゃんと助けるぜ」とニルの頭をわしわしと撫でてやった。擽ったそうに目を細めた小さな秘宝種は『りーくん』についての情報を行幸(みゆき)ちゃんからチェックしておいたのだという。
「うん。えーと、嶌田 理太くんか。探しに行こうぜ。
……まあ、夏休みが終わらないで欲しい訳じゃあないんだよね。学校が始まって欲しくないんだ。
分かるよ、僕だってそうだった。気の合う友達とだけ遊んで、気分転換に宿題なんてしてさ。
なじみさんと行った水族館に永遠に居れればどれだけ幸せかとか思うじゃん?」
前を走って手を引いて、こっちだよと笑うなじみのことを想像してから『凡人』越智内 定(p3p009033)の口元は僅かに緩んだ。
でも、そうじゃないのだと首を振る。そうじゃないけど――そういえば、この世界に永遠に居てもなじみさんは居ないんだった。
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「夏休みが終わらなければいいのに……か。暑く楽しい夏の日、プールやお祭りがあるイベントだらけの特別な日々。
延長を願ってしまうのは仕方ないのかもしれないけれど、その願いを永遠と捉えるのは成程、怪異らしいね」
それがバスティスが此度の『依頼』で感じた感想だった。夏休みが終わらない事を夢見る少年に永遠を与えようとするのが怪異らしい。
故に、夏を模倣した。夏らしき世界を作り上げて、その場所で永遠を与えようとしているのだ。
蝉の鳴き声が響き渡る。終わらない夏休み。永遠にも思えるような穏やかな時間の側で、ニルは首を傾げる。
「終わらない夏? あの黒いのが怪異? 怪異はりーくんとおともだちになりたいのでしょうか?
もし助けられなかったら、りーくんもこの怪異の一部になってしまったりするのでしょうか?」
そんな恐ろしい想像をしたニルにバスティスは「ああ、かもしれないね」と何気なく同意する。定の表情が恐ろしく歪んだ気がするが――怖いなんてことは無いのだ。屹度、多分。
「かごめかごめ? ……なんだかよくわからないが、とりあえず蹴飛ばせば良いんだろう?」
底に恐怖も何もなく。一切情報も無い相手である以上、名称不明ならば『籠目』とでも銘打ってさっさと倒してしまえば良い。
そんなマニエラは異常な光景を目の当たりにしてから頬を掻いた。ぐずぐずと泣き続けている『りーくん』の周りをぐるぐると回っている夜妖。子供じみた遊びを繰り返してかごめかごめを続けて居るだけだ。
「……このりーくんって大丈夫なやつ? 正気度判定は直行してない? まだセーフ? ……ひとまず道を開けるか。
こんなのに囲まれてたら精神おかしくなる自信ある、無事でいてけれよ、精神」
さて、行こうかと。護戦扇を構えるマニエラに茄子子は「気持ち悪いね! あれ! あんまり近寄りたくないね!」と叫んだ。
クレヨンで顔が塗りつぶされているのはどうしてだろうか。人間が上手く描けなかったイラストのようにも思えて仕方が無い。
「うーん、子供らしいイラストってかんじではありますけど! りーくんが可哀想ですね!」
ねえ、と振り返ったしにゃこに号令を告げる紅璃はユピテル・プログラムをaPhoneより顕現させる。簡易術式はいとも容易くソースコードを読み込んだ。
「さぁ、最終日まで宿題が終わらない子を連れ戻しに行こうね! やることは単純明快!
異世界に入り込んで悪性怪異からりーくんを救出しよう! かごめかごめしてるだけ? 知らないね、誘拐した時点でギルティだから遠慮なく行くよ!」
頷けば、バスティスがふうと息を吐く。生命の躍進は仲間達が先行くための力となって。その支援を纏って定は『ビギナーズラック:』を狙って防御技術を攻勢へと転じさせる。
「あ、理太くんのことは任せるからね。理太くんだって男より女の子に助けられた方がいいだろう。
僕だって小学生の頃に高校生の男に近寄られたらビビって助けを求める所じゃあないもんね」
そんな『自分だったら』の気遣いにブライアンは「確かにな」とからからと笑った。つまらない日常の中、刻一刻と迫りくる『おわり』があるから事楽しいのだと。それが分かるのも高校生男子になってから――幼い彼にはまだまだ難しいだろうと理解を示した定が『落書き』のような子供をぶん殴る。
「夏休み続いて欲しいにゃあ同意はするが、ま、仕方ねえ。惜しむらくは今回、ここにはオフじゃなくてビズで来てるってコト。
神頼みだなんて有り得ない。商売仇に媚を売るほど切羽詰まっちゃいない。ヒトの問題はヒトが解く。受けた仕事はキッチリこなしますよっと」
ロビンソン・ウーの残した殺人拳はやる気を乗せたか乗せていないか、テンションはハイにギアを回して、ナンセンスを楽しむように鋼鉄の雨を降らせて。
「ハッハー! にしても、周囲が休みなのにテメーらはお仕事なんてな! 勤労青年なんて今日日流行らねーぜ!」
めそめそと泣いている理太がこんな場所に迷い込んでいるならば、敢て楽しげに風を吹かせるのが冒険心というものだ。少年だって大人になれば夢から醒める。一夏の冒険が、イレギュラーズによって摩訶不思議に彩られるのだって悪くはない。
「りーくん、助けにいくから動かないようにね」
取り囲む夜妖の間を抜けるように、マニエラは可能性をその身に宿す。スリットが多めの衣服は機能性を重視し、動きやすく。
夜妖の歌声がとまる。理太が顔を上げ、涙ぐみながらイレギュラーズの姿を眺めれば、「遊びたいんでしょう!? 後ろの正面しにゃだー!」と勢いよくしにゃこが鉄の雨を降らした。
「追いかけっこでも100人組手でもバッチコイです! あとは隙を見て脱出です! あ、置いてかないでくださいね!?」
置いていきそうなバスティスは「いかないよ」と首を振る。レーダーで探知しながらも、紅璃はすっと手を伸ばす。
「助けに来たよ!!」
そんな風に叫んだのは茄子子であったが、紅璃は大きく頷いた。茄子子のお陰もあって攻撃は大盤振る舞いだ。思考を置き換え計算式を展開し、神聖なる光を放つ。
「さぁ、コータ君が心配していたよ? 私たちも宿題手伝ってあげるから一緒に帰ろうね?
SNSの噂話を余り真に受けちゃダメだよ? この希望ヶ浜では何が真実で何が偽りかよーく考えなきゃ、ね?」
ぎゅ、と紅璃の手を握ったことを確認する。ならば後は離脱するのみか――だが、夜妖も諦めることをしない。
「流石に自分より小さい子が襲われている時にビビっては居られないじゃんね!」
定は格好付けた。理太が見て居なくとも。勿論恐ろしさは感じている。クレヨンでぐりぐりと塗り潰したような夜妖は一般人が相手にする相手ではない。チンピラよりも尚更に凶悪だ。
「りーくんはこっちの人です。りーくんが怖くない世界に帰るのです! コータくんたちだって待っているのです!」
憤慨するニルは目映い光を放った。怪異を怯ませる。紅璃さえも飲み込んでしまいそうな夜妖を退ける様に。ニルは手を伸ばした。
「おっと、気をつけろよ? 危うく転んでお陀仏だぜ?」
唇を吊り上げて笑ったブライアンがニルの体を支えた。ニルの右手が紅璃の手をぎゅうと掴む。其の儘、引き摺るように飛び出せば、理太を『かごめかごめ』から連れ出せる。後ろを宣言したしにゃこが突如として標的になったのは『そういう夜妖』だったのだろう。遊び相手を探すようにしにゃこへと手を伸ばす。その動きを遮るようにブライアンは鋭き雨を降らせ続けた。
「ハッハー! 暇してんのかい? 夏にゃ、急な夕立はお決まりだぜ?」
挙動不審とまでは行かずとも酔っ払いのようにゲラゲラと笑い、不審者を装えば『トラブルシューター』の奇怪な動きも受入れられるか。
定は「怖くない!」と宣言した。しにゃこを狙った夜妖を退ける。
「それでも、誰にも見られていなくてもやらなきゃいけない時ってのはあるもんだ。それが夏休みの自由研究なら余計そうさ」
茄子子が定の手にじとりと滲んだ手痕を消し去るように声を張り上げる。
「いたいのいたいのとんでけー!ㅤ出来れば敵の方に!! 大丈夫、もう怖くも痛くもないよ!ㅤ早くお家に帰ろうね!!」
勢い任せ。だが、それでも隙は突けた。理太の手を引いて走り出す紅璃を戦闘にバスティスと茄子子が援護する。
「っと、遊びたがりも困ったものだな……」
マニエラはそう呟いた。夏休みを謳歌する夜妖をこの場で斃しきることは出来ないだろうが、不意を突いて『鬼ごっこ』に持ち込むことは出来よう。
「いけるか?」
「勿論」
マニエラに頷いたのはブライアン。いち、に、と勢いを付けたニルが一気に走り出す。
ブライアンとニル、定がしにゃこに呼び掛ければ「置いていかないで下さいってェ!」と彼女は叫んだ。
逃げ果せるように辿り着いたのは――その場所を目指したわけではない。だが、自然と辿り着いていたのだ――建国さんの社であった。
「気を付けてね、祈るという事は神様に知らせるという事。目を付けられるかもしれないよ」
バスティスは囁いた。現実の建国さまから引き込まれたこの世界には『神様との結びつき』があるかもしれない。
誰かに見られているような、そんな気配がする。異世界から逃げ果せる前に、バスティスはちらりと後方を見遣った。社ではない、視線の気配は『豊小路』か。
(……あっちを進めば、かな?)
その『自由研究』の結果は今ではないのだろうけれど――
●
「夏休みは終わらない方がうれしいのですか?
ニルはあんまり学校行ったことないですけど、知らないことたくさん知って、とってもたのしいところでした」
きょとんとしたニルに理太は面食らったように瞬いた。「学校、行ったことないの」と問うた彼にニルはこくりと頷いて。
「それに海で遊ぶのも楽しいですけど、ニルはハロウィンとかシャイネンナハトとか楽しいの知ったので、ずっと夏のままだと困ってしまいます。
楽しいことがたくさんあるのは、夏休みだけじゃないですよね?」
「う……」
まあ、とぼやいた小さな少年の手を引いて、定は「怖くない?」と問い掛ける。高校生のお兄さんに手を引かれる初めての経験をして居る理太はこくりと頷く。
「おにいちゃんは、夏休み、終わって欲しいの?」
「いや、そうとも言い切れ……あ、言い切れるな。よく考えたらこの空間で夏休みが続いたとしてもなじみさんとは遊べないじゃん! ダメ!」
友達と遊べないならノーサンキューですと声高に叫んだ定にくすりと笑ったバスティスは「準備は整ったよ」と振り返った。
即席で作った自身の祠。『かみさま』である以上、祈られることには慣れている。夏休みが終わるその瞬間を受入れる理太は何処かつまらなさそうで。
「おねえちゃんたちは、二学期は楽しみ?」
「勿論。終わらない夏休みなんか飽きちゃうでしょ」
ね、と微笑んだ紅璃はコッチへおいでと手招いた。理太は何処か受入れがたいとでも言うように唇を尖らせて拗ねている。
折角逃れた『夜妖』の追っ手が付いてしまいそうな程に後ろ髪を引かれる理太の前でしにゃこが目線を合わせてしゃがむ。
「夏休み終わるなー! っていうのは、本当に終わらないで欲しい訳ではなく、早く起きて学校行くのだるいとか、終わってない宿題しんどいとか夏の楽しいイベントをもっと楽しみたいとか……そういうの諸々ひっくるめて雑に説明すると夏休み終わるなー! なんですよ! 解ります?」
「分かる……」
「でもだらだら休み続けても意外と楽しい事って無くて飽きちゃうんですよ……不思議ですよね!」
理太はこくんと頷いた。どうやらしにゃこのその言葉はすんなりと受入れられたのだろう。
ぎゅうと定の手を握った理太は「おねえちゃん、何をお祈りする?」と問い掛けた。
「だからお願いするのは……これからもたくさん楽しい事がありますように!!
……いやでもまだ宿題終わってないんですよね、やっぱ一週間ぐらい伸ばして貰えませんかね?
あーバスティスさんはいいですよね! なんか常に自由っぽくて! バスティスさんも神様なんでしょ! 伸ばさなくてもいいから宿題手伝ってください!」
「自由であることは大切な事だよ、しにゃちゃん。猫にも神にとってもね。宿題の手伝いは……うーん、少しだけだぞ?」
気儘な猫のように小さく笑ったバスティスは目映い光をその双眸に映す。帰り道を示すような鈴の音。何処からか聞こえたそれを辿るように尾を揺らして。
「少しだけですか?」
「勿論」
急ぎ足で歩いて行く二人を追いかけて、理太は走り出した。蝉の鳴き声が、遠ざかる。夏の気配が色褪せる。季節が巡るように、向日葵は朽ちて行く。
それが夏の終わりであれども――もう『神様に夏休み終わるな』とお祈りする『ガセネタ』なんか信じない。
「永遠の夏休み、制約の中に生きるからこそ自由を求める……ってやつなのかね?」
ぽつりと呟いたマニエラに紅璃は「ん?」と首を捻った。ブライアンは「まあ、少年らしい感性ってやつだろうなあ」と揶揄うように告げる。
「いや、ほら、私は学校に行ったことがない……あぁ再現性の教員はやってるけど……ま、そう言う青春はしてないのでね」
青春時代が過ぎ去れば、イレギュラーズに待ち受けるのは多忙な日々だ。取り留めなく、日常に浸っていたいと思えるような『夏』が訪れたのかは分からない。
――それでも遠く、変わることのない夏の残響だけが聞こえていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
私は夏休みはわりと虚無っていた記憶があります。予定があるお休みっていいよね。
GMコメント
夏あかねです。なつやすみ……
●成功条件
・『りーくん』の保護
・悪性怪異:夜妖<ヨル>の撃破または撃退
●異世界
日出建子命が作り出した異世界。天には光を僅かに輪郭に取り戻した月が昇っているようです。
月は『侵食の月』と呼ばれており、真性怪異の侵食度を顕わしているようです。それが眩くなるほど怪異が強くなります。
皆さんが怪異を倒すこと(現実側。ROOではクエストクリア)で侵食を僅かに遅らせることが出来ます。
どうやら、入り込んだ異世界は永遠の夏休みをイメージしているようです。
じわじわと暑く、蝉の鳴き声が響き、向日葵が咲いている。夏です。どこからか誰かの笑い声が聞こえます。
●『りーくん』
嶌田 理太(しまだ りいた)君。小学校六年生。
友達のコータ(幸多)君とそのお姉ちゃんの行幸ちゃんと一緒に噂話を確かめに来ました。夏の自由研究のつもりです。
ぐずぐずと泣き続けています。怖くて、話す事は出来ません。
彼の周辺には『悪性怪異』が居るようです。それがかごめかごめをしてぐるぐるとずっと周りをまわっているようです。
●悪性怪異:夜妖<ヨル> 名称不明
りーくんの周りをかごめかごめをして手を取り合ってぐるぐると回っている夜妖です。
正式名称や名称は不明です。幼い子供たちのようですが、その外見は小さな子供の描いた落書きを思わせます。
クレヨンで塗りつぶされたような生物がかごめかごめをしており、りーくんを譲らないという意志を見せて来るようです。
●Danger!(狂気)
当シナリオには『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●侵食度
当シナリオは成功することで希望ヶ浜及び神光の共通パラメーターである『侵食度』の進行を遅らせることが出来ます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、いってらっしゃいませ。
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