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シナリオ詳細

緊急クエスト:乙姫襲撃 in メフ・メフィート

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●緊急アナウンス
 現実の『無辜なる混沌』における幻想(レガド・イルシオン)と同様に、伝承(レジェンダリア)の王都メフ・メフィートは、ネクスト中部の内陸部にてその繁栄を謳歌していた。
 無論、内陸とはいえ多数の人々が暮らすからには、水回りの利便と切り離されることはない。井戸。水路。運河。誰もが無条件(タダ)で使えるかは兎も角として、それなりには豊富な水に恵まれてはいるのだ――水棲種族から見れば窮屈な辺境ではあるかもしれないが。

 そう。窮屈な辺境だったはずなのだ。
 少なくとも、水棲種族が大挙して押し寄せることなど起こり得ぬ程度には。

 ――そんな中、そのシステムメッセージは発せられた。

『緊急クエストが発令されました。メフ・メフィート中心部付近の広場に、乙姫率いる大軍の襲撃を察知!』

 乙姫。すなわち、海洋種族を率いる女王の君主号。
 それが……え?? 広場??? 確かあの辺って井戸とか噴水くらいはあったけど、海から大軍がやって来れるような水路あったっけ?????

●噴水端の男
 その男はメフ・メフィートの住人らにとって、いつしか日常のひとコマになっていた。
 いや、正確には男ではなく男性型の秘宝種――『無辜なる混沌』における『ホストクラブ・シャーマナイト店長』鵜来巣 冥夜(p3p008218)の姿をしていたが、その行動は極めて奇妙、しかしルーチンワークである。

 毎朝、「ポイ」を手に噴水端までやってくる。それが破れるまで何かを掬う。普通はキンギョ、時たまコイン――だが稀に、どうやってポイなんかで掬ったのか定かでないがニシキゴイを掬い上げたり、一度は何が起こったのか丸々と肥え太った戻りガツオを掬い、意気揚々と帰っていったりもした。

 ……そんな男が今日、眼光鋭くポイを一閃したならば。水面に、カツオの時よりもさらに大きな波が立つ。
 普段より遥かに強く輝く眼鏡。轟くような効果音。近くの露店の主人らが降りかかる波飛沫から慌てて逃げ出す中で……現れたのは不気味なずぶ濡れの縦瞳孔の女!

「貴様だな? 陸棲種の分際でありながら、この私を掬い上げたのは」
 女は高鳴る闘争心を抑えきれぬという風に、たおやかに冥夜へと片手を差し出してみせた。
 そして……ふと、笑みを口許へと浮かべ。囁いたのはこんな言葉。
「ほう……よく見れば貴様、随分と好い男ではないか。さぞかし多くのおなごを泣かせてきたのだろうな。
 だが、構わんぞ。何処でどれだけおなごを作ろうと、私の産んだ卵に精を与えてくれるなら良い。
 ――ふむ? しかし、どうやら貴様……海は水に濡れるから好かんという顔をしているではないか。まさか、この私を見事に掬う腕前を見せておきながら、逃れられるとは思っておるまいな。
 出でよ、我が眷属ら。乙姫、汐犀・空酔の名を以って貴様らに命ずる……この私の求婚のため、何としてもこの男を持ち帰るのだ!
 とはいえ無論、手荒すぎる真似をするではないぞ? 夫君を満足させられぬなど、美少女の名折れ。必ずや、帰す時には至上の喜びで満たすのだ……土産物の準備も忘れる勿れ」

GMコメント

 かくして、特異運命座標のネクスト版クローンVS特異運命座標の関係者のネクスト版クローンという、激しい戦いが始まるのでした。
 緊急クエストの成功条件は、ネクストの鵜来巣 冥夜を汐犀・空酔の略奪婚から守りきること。襲撃を一定時間耐え続けて空酔の陸上活動時間切れを待つのが本来の成功条件ですが、もちろん、その前に空酔を撃破してしまっても問題はありません。

●『水棲美少女』汐犀・空酔
 異世界の戦闘種族『美少女』が、水中環境に適応して進化した種族です。美少女ほどの個人戦闘力は持たないとはいえ決して肉弾戦が弱いわけではなく、その上で自陣営全体へのサポート能力も持つため侮ることはできません。
 今回はサポート能力を、3回の眷属召喚と眷属らへの『陸上行動』等の常時付与に割いています。そして自身は、長い昆布を鞭のように扱って戦います。

●眷属たち(乙姫軍)
 3回のウェーブに分かれて押し寄せる、忠実なる空酔の配下です。
 様々な種族による混成軍ですが、主要なところは以下のような者たちです。主にどの敵に対応するかを決めておくと戦いやすいかもしれません(空酔を相手するのも忘れずにね)。

・空酔の支援術により人間大に巨大化し、素早く動けるようになったウニ(多め)
 普通に痛い攻撃をしてくるほか、常時【棘】の効果を纏っています。もっとも巨大化してもHPは元のままらしく、大抵は最初の【棘】発動が最期の【棘】発動になるようですが……。おいしい。

・空酔の支援術により手足の生えたマグロ(普通)
 高い反応と機動力を持ち、反応依存の【移】物理攻撃を繰り出します。何らかの理由で移動速度が落ちた場合は窒息し、遅くなればなるほどAPを失ってゆきます。おいしい。

・空酔の支援術により擬態能力が向上した大ダコ(少なめ)
 体表の模様を変化させ、完全に姿が消えています。そして音を立てることもありません。視覚的にも聴覚的にも発見は困難ですが……少なくとも奇襲された直後はそこにいるって判るよね。おいしい。

●味方
・鵜来巣 冥夜(ネクスト)
 どうせ逃げても逃げきれないから無駄だな、と悟って、皆様と共に迎撃します。基本的に勝手に戦っていますが、必要であれば『正義の社長』崎守ナイト(p3x008218)様が彼の分のプレイングを書いてあげてください。

・そのへんの建物
 10m程度の高さがあり、広場の周囲を囲っています。何かの役に立つかもしれません……。

  • 緊急クエスト:乙姫襲撃 in メフ・メフィート完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ユリコ(p3x001385)
電子美少女
グレイガーデン(p3x005196)
灰色模様
ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)
逧 蛻コ蟷サのアバター
崎守ナイト(p3x008218)
(二代目)正義の社長
きうりん(p3x008356)
雑草魂
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録
天狐(p3x009798)
うどんの神

リプレイ

●Wave 1/3
「……って、ソシャゲの周回じゃないんだからさ……!」
 どこからともなく現れたウェーブ開始のアナウンスに対し、『灰色模様』グレイガーデン(p3x005196)のツッコミが虚しく響く。カツオを抱えて昆布をぶん回す女。吠え、迫る魚介類。この頭を抱えるしかない光景に叫び、ちらと横へと視線を遣れば……そこには肩に漁業用の網を担いだままじっと昆布女を睨めつける、『正義の社長』崎守ナイト(p3x008218)の姿。
「さすがは社長、どうにかしてくれ……」
「現実の俺にゃ浮いた話がねーってのによう!」
 ……縋るようなグレイガーデンの期待は、それとは全然違う意味で睨んでいたらしいナイトの不満げな声により霧散させられた。
 そこに水があれば掬うのがギョスラーであり、決して不純な動機などありはしないのだと憤慨しながらも、なぜだから恥ずかしそうに頬を赤らめるR.O.O鵜来巣 冥夜。満更でもねー癖に硬派ぶりやがって。ナイトの瞳は、見合いくらいしてやれよむしろ本物の俺と代わってください、そんな遣る瀬ない怒りを湛え。
 右手を、胸の前で強く握る。悲しみは、使命に没頭することで忘れるに限る。
「俺(ORE)の名は崎守ナイト。悪をぶっ飛ばす正義の社長(President)! 街をすくってやろうじゃねーの。原因が金魚掬いなDAKENI!」
 するとナイトがバッと拳を天へと突き上げたのと同時、一斉にマグロたちが突進を企てた!
「活け造りの時間だ!」
 誰かの声がする。――が、声の方向に人はなく、代わりに瑞々しく茂ったつる性植物が体を震わせていた横をマグロたちは駆け抜ける!
「くっ、アピールが足りないか! おおーい、みんなー! ここにキャベツがあるよー!!」
 大嘘を吐いたきゅうりもとい『雑草魂』きうりん(p3x008356)の根元へと、にじり寄ってゆくのは巨大ウニ。塩揉みならぬ塩串刺しが、彼女の体を貫いて――そして、次々に爆ぜる。
「犬も食わねー痴話喧嘩のくせに、海産物は美味そうじゃねーか」
 冷ややかな口ぶりで割れるウニたち――不意に辺りに満ちた強烈な妹力を受け止めきれず、傷付けられたわけでもないのに自滅した――を一瞥した後に、『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)の視線は海産物らの主、汐犀・空酔へと向いた。
「なぁ、ねーちゃん。まずは普通に正面から口説けば良かったんじゃねえか?」
 なのに、いきなり略奪婚から始める奴がいるか。
 そのツッコミは決して彼女のみならず、この場にいる大半が同じことを思っていたことだろう……しかし、そんなルージュへと昆布の鞭は飛ぶ。
「愚か者め! 相手が力ずくで私を掬い上げたというのに、私がそんな気弱では期待に沿えぬやも知れんではないか!」
「それこそ笑止! 拳以外に頼る道が気弱だと? まずは外堀を埋めることから始めよと、美少女兵法にも書いてあるだろうが!!」
 『電子美少女』ユリコ(p3x001385)の掌底が、鞭の軌道を逸らして空酔を打った。陸を捨て、胎生であることすら捨てるに至った美少女鍛錬とは想像を絶する他はなし。だとしも、忘れてはならぬ兵法があるのではないか、と。
 だが空酔は、鮫のごとき笑みをユリコに返してみせた。弾いたはずの昆布が彼女の頬に切り傷を作る。
(まさか――!?)
 ユリコは驚愕とともに距離を取る。
「全てが食べたら美味しい眷属とは……もしや戦いながらプレゼントを贈るという恐るべき女子力!」

 ……なんていう面々の遣り取りに最早ツッコミも追いつかず、『きつねうどん』天狐(p3x009798)がブチ切れた。
「同胞の命を贈るなど、昼ドラでもここまで重い話はないわ!! アレか!? おぬしは全ての段階を愛の重さだけですっ飛ばす恋愛RTAでもやっとるんけ強引すぎてガバるわそんなチャート!」
 しかも言うに事欠いて、彼女が公衆の面前で破廉恥な言葉を放っていたことを天狐はしっかりと聞き届けている……その胆力は呆れを通り越して尊敬にすら達するが、兎に角、いい加減大人しくしろ!
 全てをうどんと化すはずの一撃は――しかし割り込んだ暴走マグロにより阻まれた。弾かれて宙を舞った天狐へと、『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)が小瓶を投げる。ポーションが標的の傷を癒やしたがために、暴走マグロは矛先を変え、今度はイズルへと突進を企てる。随分と元気だ。地域によっては水が高価な財産にもなる中、この街は水を噴水という形で惜しげもなく使えるほど恵まれている。マグロらも、さぞかし豊富な水に喜んでいるのであろう――ネタまで豊富たれとはイズルは言ってはないが!
 そんなマグロの歓喜を幽かな微笑みにて誘導してやれば、彼は今度はイズルを弾き飛ばすと勢いのまま後方へと駆け抜けていった。激しい破壊音の後、かつて窓だった残骸に嵌ってばたつくマグロ。勢いと体の大きさは、イズルの見立て通りに脱出に災いしたのであろう。そこへと――。
「――舞い喰らえ」
 猛禽のように鋭く飛来した緋結晶。飛跡上に位置する海産物全てを巻き込んで、『逧 蛻コ蟷サのアバター』ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)の血華はマグロを切り身へと変え――最近は幾分“狩り”の機会に恵まれなかったが、久々の獲物は格別ではないか!
「次に海鮮バーベキューになりたい奴はどれだ」
 腕に新たな血華を生やして問うヴラノスを警戒するように窺いながら……空酔は静かに、しかし隙なく片手を挙げる。
「悲しいかな、この世は常々弱肉強食よ。好きな者から食らわば食らえ――尤も、貴様ら自身が魚の餌にならずに居られれば、だがな!」

●Wave 2/3
 勢いよく手を前へと振り下ろす空酔に応じ、噴水の水面が輝いた。
 飛び出してくる魚介類。彼らが水面から出た瞬間は本来の海棲生物の姿をしていたが、すぐに光の膜を通るかのように巨大化したり手足が生えたりする様子がグレイガーデンに怪訝な顔をさせる。
「出てきた瞬間に……変化している?」
 元からそうであったわけでなく、水面から離れて変化する。試しに……気合を込めて棍棒で薙ぎ払ってみる。彼らに掛かった魔法が消えて、暴走マグロは普通のマグロに変わり横たわる。
 まさにマグロだな。そんな当たり前のことをナイトが呟く様子を、グレイガーデンは想像してしまった。
 でも社長が言うと何故かアダルティな響き。そんな風に思ってしまう時点で自分は相当ナイトに毒されてしまったらしいと気付いて凹み……って、そうじゃなくて。
「やっぱりそうだ……僕らが水中で戦う時に水中行動を付与するみたいに、魚介類は陸上行動を付与されている!」
 重要なのは付与を消せたということ。グレイガーデンの射程から漏れた敵へと、今度はルージュの愛のビームが迫る。
「すぐに再付与されるにしても、それまでは動けなくなるんじゃねーか?」
 妹による惜しげもない愛が、彼らから陸上呼吸能力を奪った。それは……本当に愛なのか?
 その通り。それは空酔の力により存在を歪められた者らへの、あるがままの姿でいてほしいという願い。生死さえをも越えた愛!! ……多分。
 対する水棲美少女は妹愛よりも、自らの冥夜への愛のほうがより重いのだと豪語した。
「立て我が友ら」
 その一言は彼女にとって、昆布を振り回す手を止めるまでもないほど容易い話。
 だが……それは彼女にとってはそうであっても、当の魚介類にとってもそうとは限らない。唐突に機動力を奪われ転倒し、再び立ち上がって駆け出すまで呼吸の術を失ったマグロ。それから密かに忍び寄り、たった今主君に仇なす者を絞め殺さんと欲していたタコも!
「残念じゃったな!」
 自身の首へとかかる直前で完全迷彩能力を失った大ダコの足の一本を、天狐はイカそうめんならぬタコうどんへと変化させていた。すぐに迷彩能力を取り戻し、再び自身の存在を消失させるタコ。彼は今度こそ見つからぬように位置取りを変え、再び天狐に別の足を伸ばし――そして再び足がタコうどんに変わる。
「痴れ者め」
 タコが驚愕している間にも、足は次々にタコうどんへと変わっていった。そして最後には胴体も同じ目に遭って、天狐は満足げにどんぶりを拾い上げる。
「確かに見えぬ。音もせぬ。――が、おぬしは音がしなさすぎる。音が返らぬ空洞さえ追えば……おぬしがどこにいるかなど手に取るようじゃ」
 別の場所では何もないはずの空間が、タコ型に楽しげな虹光を放って見えていた。一瞬だけ姿を表したタコへとイズルが生成した薬品をふりかけて、彼の食欲を増進させた際の副作用だ。
 もちろん……その食欲の対象はきうりんである。
「そうそう、こっちに美味しいラッキョウがあるよー!(大嘘その2)」
 大量のウニに齧られて穴だらけになったはずの身も、いつしか見た目ばかりは完全に再生しており食欲をそそるキュウリになっていた。傷があったら訳アリ品として処分特価になっちゃうからね! まあ実際はウニらに食べられすぎて結構削られてるんだけど、どうせ8分も経てば全快するから詐欺じゃない。そして……。
「さあ、私は逃げも隠れもしないぞー!」
 正確には逃げも隠れもできないきうりんの治癒能力を相手に、大ダコは延々と終わらぬ格闘を繰り広げることになる。

「まさか私の眷属が、こうも翻弄されるとはな」
「惚れた腫れたの話を他人様の迷惑になる場所でやるからこうなるんだぜ?」
 片や昆布をナイトの腕に巻きつけて、そのままもぎ取らんとばかりに力を込める空酔。片やその力を逆に利用して、激しく情熱的なダンスに変えてゆくナイト。今、ナイトの頭上には燦然とミラーボールが輝いており、彼の踊りを強烈なディスコの熱狂へと変える。
「吹き荒れろ情熱(Passion)の嵐! 社長舞踏戦術 on the Sea!」
 しかも、その衝撃を受け流すはずの空酔のステップは……しかし、ユリコの拳により縛りつけられている!
「どうされた! 貴殿の求愛への情熱は、この程度で終わる程度のものであったか!」
 昆布を解かざるを得ずに弾き飛ばされた空酔を、ユリコは哀れみとともに見下ろした。
「ただ水中環境に適応するばかりか卵生と化すほど連綿と続いた鍛錬は、敬意を超えて生命の神秘とすら言えような」
 ところがその神秘は手順を踏むことを怠った空酔の勇み足により、今まさに無に帰そうとしているではないか。
 これからだ、と空酔は今も嘯いている。確かに彼女に付き従う者らは多く、命さえ厭うことなく戦っている。
 が……どさりという雑音とともに、また新たな魚介の命が奪われた。
「さて、誰が魚の餌になるのだったかな」
 ただでさえ無数の血華を生み出し続けたヴラノスの肉体は、マグロたちの突進も、ウニたちの棘も厭わず戦ったことにより、随分と蝕まれていたはずである。
 にもかかわらず彼の生命は、ほとんど損なわれてはおらぬように見える。
 確かに彼の肉体は煌めいており、イズルの薬液により治癒されていたことを物語っていた。しかし、それだけでは彼の生命力に説明はつかぬ。
 ああ、美味なる血であった――ヴラノスは舌なめずりしてみせた。彼は魚介どもの血潮を“吸った”。あとは、元凶たる美少女流乙姫なる頭の痛くなりそうな輩の美少女力も、喰らい尽くしてみせればいいだけだ!
「……させるものかよ!」

●Wave 3/3
 水棲美少女の雄叫びが響いて、彼女は三たび同胞たちを召喚してみせた。
 最初より、その次よりも、遥かに多い眷属の数! ――が。
「『段階を踏む』と『戦力の逐次投入』は似て非なる概念よ!」
 迫り来るウニの棘を丁寧に素手で抜き、殻をこじ開けたユリコが中身を啜る。
「醤油を持てーい! 海水の塩味でいただくのも乙なものではあるが、我を一つの食べ方で満足する程度のウニ好きと思うなよ」
 そんな挑発めいた余裕さえ見せつけて。
「それに、こっちの準備も済んだしな。……『シャンパンコール』!」
「シャンパン戴きましたー!」
 さらにナイトがパチリと指を鳴らすと冥夜がシャンパン片手にウィンクしてみせて、雌だったらしきマグロたちがこぞって殺到しはじめた。何そのフェロモン能力俺も欲しい。仮想と現実の格差に打ちひしがれるそうになった心はしかし、頭上から接近してくるドップラー効果により中断させられる!
「ぃゃぁぁぁあああああ!?!?」
 いつの間にか冥夜の式神とともに建物の上に陣取っていたグレイガーデンが、何やら悲鳴を上げながら落ちてきていた。そして入れ替わりに持ち上がってゆく、最初にナイトが担いでいた巨大網。
 グレイガーデン、辛うじて無事着地。そして落下の勢いを水平方向に変え、次々に刺さっては動きを止めていったマグロたちをまとめて感電させる……海じゃないからビリ漁オッケーのはず!
 だが直後……。
「グレイガーデン殿、タコじゃ!」
 天狐が告げる危機の到来。HOKUSAI的触手事象――はしかし、起こらない。
「そのつもりで匂いを嗅いでれば、磯臭さは隠しきれないよ」
 グレイガーデンはステップを決めて、空を切った足がタコうどんに変わった。
「邪魔は入ったが次はおぬしじゃ」
 天狐は一歩踏み出して、昆布の鞭がそれを弾いて……凄みある笑みを浮かべた空酔の頬は、血華を纏ったヴラノスの拳により殴り飛ばされる!

「随分と体力には余裕を持て余していそうだが」
 ヴラノスは空酔の戦闘データを直接解析して曰く。
「そろそろHPよりもAPのほうが、限界を迎えつつあるんじゃないか?」
 どれほど多くの眷属を召喚できようと、陸上行動の付与が切れれば意味はない。そして、天狐のせつなさみだれうちも、ヴラノスの双華散天も実の処、その威力以上にその制限時間を削るほうに意味がある。
「成る程。“命を余らせすぎる”のは勿体ないな」
 空酔はその指摘を否定せず、ならば、と眷属たちに命じた。
「では、“その前に命を使い果たす”勢いで攻めれば良かろう」
 退けば空酔の愛を受け、進めばルージュの愛に砕かれる。それを、ウニたちは厭いはしない。次々に決死の一撃を加えては、あるいはその一撃すら届かずに、次々にその身を解体されてゆくさまは、哀れで、そして。
「……ま、食えるならいーや! 食欲は全ての理屈を超えるって、どっかのグルメ漫画で言っていた気がするからな!」
 本気で海鮮料理を食べることしか考えてなさそうなルージュを前に、さしもの空酔も悲鳴を上げた。
「い、いい加減食うことから離れよ! 私とその眷属を食うていいのは、そ、そこの男だけだ!」
 体をくねらせ始めた彼女はきっと、自分で言って恥じらいか何かに襲われていたのであろう。AP切れとも相まって、途端に精彩を欠きはじめた攻撃。それを迎えるイズルのポーションは、どれほど使っても途切れることのない医神の加護の品……いやアバターのモデルとなった人物がそれを聞いたなら、「末裔なだけだがね」とか「そもそも勝手にモデルにしないで欲しい」とか抗議したかもしれないが。
 ともあれ、こちらに惜しむ必要は何もない。相手は、時間とともにジリ貧になる。きうりんに至っては相手するウニの数も減ってきて、変化して新たな相手を探してうろつき回っている。あと暇になったからってヒーリングパワー付親指(きゅうりの先端型)を他人に投げつけて食わすの怖いからやめろ。

「水着にされるまで続けると言うのであれば止めはせぬが」
 ユリコのそれは、最後通牒と呼ぶべきものだった。
「しかしこの期に及んで勝負が判らぬと、腑抜けた話は貴殿も言うまい……乙姫の皮が良い素材になるのも確かではあるが、吾としても水着は事足りておるのでな」
 その時最後のウニが身を割られ、空酔は寂しげに噴水の縁へと足をかけた。二度と、この地には戻るまい。覚悟を決めて噴水に飛び込もうとした、その時――。

「――待ちなよ!」

●Wave EX
 ルージュの潤んだ妹眼差しが、驚いて振り返った空酔に注がれていた。
「どうした」
 意図を掴めず狼狽する彼女へと、ルージュの顔がずいと寄る。
「なあ……ねーちゃんの『好き』は、その程度で諦めるもんだったのか? おれには種族のしきたりとかはわからねーけどさ……好きなんだったら告白を続ければ良いんじゃねえか? 無理矢理持ち帰るのと違って、告白だけなら罪じゃねーしな」
「まったくじゃのう。とりあえずお友達から始め、その先は後々考えれば良いではないか」
 腕を組んで頷く天狐。安堵と不安の綯い交ぜになった表情で自身を見る空酔に、冥夜もお手並み拝見と言いたげに頷いてみせる。畜生め、リアルの俺を差し置いてbyナイト。

 そんなわけでWave EX、海鮮パーティーが始まった。
「これだけの命を奪うことになったんだ、余すところなくいただくのが筋ってものだろ?」
 とはバーベキュー準備万端のヴラノス。頼んだぜ狐様とか言って天狐に海鮮うどんの準備を任せている辺り、単に食いたかっただけなのは秘密だ。
「無論じゃ! そうじゃな、後は……」
 はいはーい、ときうりんが挙手をする。
「ウニ軍艦といったらきゅうりだね! タコといったらタコキューだよね! マグロはきゅうりと混ぜてユッケでもいいし、ツナときゅうりのサラダでもいいよ!」
 全部きゅうり料理になるの知ってた。もちろんきゅうりは、たった今もいだばかりの新鮮な品だ。
 刺身や寿司は当然のこと、空酔の提供する昆布とカツオだしによって、味噌汁や鍋さえも提供された。ドロップ品になる時に自動で乾燥するのかとはグレイガーデンの言。
「……って、本当に敵を食べるの?」
 しばらく頭を抱えていたイズルだったが諦めて、取り敢えず材料を全部ポーションで洗うことにした。
 これなら食中毒菌が混ざっていても、プラシーボ効果くらいはあるだろう……どうか、何事もありませんように。

成否

成功

MVP

ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

状態異常

なし

あとがき

 どうして普通に愛が芽生えてるんですか???

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