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シナリオ詳細

監獄クライシス。或いは、極寒閉塞極限ライフ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●極寒の地の監獄塔
 鉄帝。
 氷に閉ざされたある山岳の中腹に、ひっそりとそれは存在していた。
 地上5階、地下2階の石造りの塔だ。
 分厚い石の壁面に窓らしきものは見当たらない。
 なぜならそこは監獄塔。
 罪人を閉じ込めておくための施設だからだ。
 しかし、どういうわけか塔の1階、出入口の門は固く閉ざされており看守の姿も、門番の姿も無かった。
 代わりに木や石を積み重ね、厳重に封鎖されている。

 きっかけはある囚人の収監だった。
 自分の名も忘れ、正常な判断能力さえも失っていたその者が、どこから来たのか知る者はいない。
 監獄塔の職員たちにも、それは知らされていなかった。
 彼らに下された命は1つだけ。。
 地下2階の独居房に閉じ込めたまま、決して外に出してはならない、とただそれだけのものだった。
 男は日がな1日を、ただ黙って過ごしていた。
 看守たちが何を聞いても、応えを返すことはない。
 時折、発作か何かのようにひどく苦し気に呻く以外、その男が声を発することはなかった。
 長い時間をかけて苦しみ、そしていずれ死んでいく。
 しかし、そんな彼の境遇を見かね、ある看守が彼を塔の屋上へと連れ出した。
 正気を失した男であれど、時々ぐらいは外の空気を吸わせてやりたい。
 そんな看守の善性が、大惨事を巻き起こす。

 晴れた日に限りではあるが、囚人たちには外の空気を吸う権利が与えられていた。
 塔の屋上にある運動場は、半径およそ30メートルと狭いものだ。
 周囲は高い壁に囲われ、さらには有刺鉄線が張り巡らされている。
 よしんばそれを乗り越えたとしても、その先にあるのは空ばかり。塔の屋上から地上に落ちれば、まず助かることはない。
 そんな場所に連れて来られたその男は、しかし突然苦しみ始めた。
 呻き、嘔吐し、吐血し、喚き、痙攣を始めたその男は看守の手首に喰らい付く。
 それが悲劇の始まりだった。

 そして現在、塔はアンデッドの群れに占拠された状態にある。

●監獄塔の調査
「監獄塔を運用していたのはノーザン・キングスの連中だな。戦力として再利用できる可能性のある罪人を拘束しておくための施設だったらしい」
 “だった”と『黒猫の』ショウ(p3n000005)が過去形として語るように、既に監獄塔はその機能を失っている。
 現在そこは、アンデッドたちの巣窟と化しているのだから。
「アンデッドに噛まれた者は【呪い】【魅了】【致死毒】といった状態異常をその身に受ける。そして、死した者の一部がアンデッドとなって蘇る……と、いうことらしい。数は30に届かない程度か」
 塔の内部を徘徊しているアンデッドの多くは元・看守たちだ。
 皮肉なことに、檻の中にいた囚人たちの何割かは未だに生を繋いでいるそうだ。
 寒さと飢えに息絶えた者もいるし、混乱に乗じて脱走を図りアンデッドに襲われた者もいる。
 中には看守に見咎められて、処分された者もいるだろう。
「依頼人は監獄塔の看守だ。ノーザン・キングスは塔を封鎖し、廃棄することに決めた。幾らかの生き残りを見捨ててな」
 それはきっと、賢い選択なのだろう。
 事の発端は1人の看守が胸に抱いた善性によるものなのだ。
 罪人たちを救助するため、多くの命が失われては本末転倒ともいえる。
「それでも、生きている者を見捨てられなかった奴がいるのさ」
 しかし、1人だけでそれを成すことは出来ない。
 看守とはいえ、依頼人は戦闘を得手としていなかった。
「その者の見立てでは、生き残っている罪人はおよそ20名ほど。残りはアンデッドに食われたか、他の事情で命を失っているとのことだ」
 20名の罪人は逃がしてしまって構わない。
 既に彼らは見捨てられた存在なのだから。
 更生し、ひっそりと余生を過ごすのも良し。
 どこかで再び、罪を犯して追われる身となるのも良し。
「救える命を見捨てたくないということなのだろうな」
 甘いといえばそうなのだろう。
 名も伏せたまま、自身は安全な場所にいる辺り、口先だけの臆病者ともいえる。
 けれど、いかにも人間らしい在り方だ。
「罪人たちが収監されているのは地下2階と、3、4、5階。地下1階と1階は看守たちの控室や事務室、2階は食堂と作業場、シャワールームだな」
 囚人たちの自由を阻害するためか、塔内部の通路は狭い。
 例外は、人の行き来が多くなる1階と2階部分だ。
 とはいえ、横に3人も並べば狭く感じる程度の広さではあるが……。
「アンデッドの種類は人型と獣型の2種類だ。人型は比較的知能が高く【神秘】攻撃に対して幾らかの抵抗を持つ。一方、獣型は運動能力に優れているそうだ」
 それから、とショウは難しい顔をして塔の見取り図に視線を落とした。
「地下2階には特に凶悪な囚人が収監されている。今回の救助対象が、悪党であることを忘れないでいてくれよ」
 決して油断をしないこと。
 イレギュラーズへ塔の見取り図を渡しつつ、ショウはそう告げるのだった。

GMコメント

●ミッション
監獄塔内に残る生き残り、半数以上の救助
※最大20名

●ターゲット
・アンデッド(人型)×??
塔の内部を彷徨う人型アンデッド。
【神秘】攻撃に対し抵抗を持ち、獣型に比べると幾らか知能も高いようだ。

・アンデッド(獣型)×??
塔の内部を彷徨う獣型アンデッド。
アンデッド化した際、獣のように変異したらしい。
運動能力に長ける。

※アンデッドたちの攻撃には【呪い】【魅了】【致死毒】が付与される。
※アンデッドの総数は30ほど。


・罪人たち×20
監獄塔に取り残されている罪人たち。
数日間、檻の中に放置されていたため疲弊している。
地下2階に収監されている罪人は、特に凶悪な者たちだ。


●フィールド
地下2階、地上5階建ての監獄塔。
屋上には運動場が設置されている。
牢があるのは地下2階と、3、4、5階。
地下1階と1階は看守たちの控室や事務室。
2階は食堂と作業場、シャワールーム。
囚人たちの自由を阻害するためか、塔内部の通路は狭い。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 監獄クライシス。或いは、極寒閉塞極限ライフ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
緋翠 アルク(p3p009647)
知識が使えない元錬金術師
フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

リプレイ

●暗くて冷たい監獄塔
 冷えた空気が、骨の髄まで凍らせる。
「罪を犯した囚人なら放置しておけと……思わないでもないですが」
 吐く息は白い。
『守る者』ラクリマ・イース(p3p004247)が背後へ跳んだその直後、テーブルの影に身を隠していたアンデッドが、呻き声をあげ飛び出して来た。
 血の気の失せた腕を伸ばして、生者の肉を食わんと口を広げて走るその胸部に、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)の前蹴りが突き刺さる。
「ノーザン・キングスのならず者を助ける? 気乗りがしませんね」
 床に倒れたアンデッドが、身に纏っているのは粗末な囚人服だ。その胸部に剣を突き刺して、オリーブは重たい吐息を零した。
「そうかな? 凶悪犯と言えど、法で定められた罰を受けている最中である以上守るべき対象だ」
「ま、囚人に対する扱いとしては甘いといえば甘いのだとは思いますけど……」
 活動を止めたアンデッド。それはつまり、息絶えた囚人である。
 その遺体を部屋の隅へと移動させた『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)と『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は、再び部屋の捜索へ戻る。
 
 ここは鉄帝。
 雪深き山中にある監獄塔だ。
 偶発的に発生したアンデッドにより、現在はその機能を停止してしまっている。破棄された施設ではあるが、未だ幾らかの囚人はそこに囚われているらしい。
 監獄塔の職員……否、元・職員の依頼により、イレギュラーズは閉じ込められた囚人たちの救助へ訪れたのだ。
「こんなことになったら後始末なんてしたくないよな……でもだからと言って放っておくこともできない」
「まぁ、よくあるやつだね。後に依頼人は、何故依頼を出してしまったのかと、後悔することに……」
「……不吉なことを言わないでくれよ」
 壁に固定された棚を漁りながら『スズランの誓い』白夜 希(p3p009099)と『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は言葉を交わす。
 2人が探しているのは、牢の鍵だ。
 囚われている囚人の数は20名ほど。牢を1つひとつ壊していては、時間がかかり過ぎるため、まずは鍵を回収する方針である。

 しゃら、と微かな音が鳴る。
『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)が、腰に下げたレイピアを抜いた。
 瞬間、展開される光の結界が迫るアンデッドの動きを止めた。
「アンデットとなり監獄で延々と彷徨う前にわたくしが安らぎを与えてあげますわ」
 呻き声をあげ、どうにか前へと進もうとするアンデッド。その目の前に『知識が使えない元錬金術師』緋翠 アルク(p3p009647)が迫る。
「一応、調査しておこう。もしサンプルが得られるのなら……」
 手にしたメスを、アンデッドの顔へ近づける。
 その手首を、フィリーネが掴んで制止した。
「アンデッドとはいえ、無体な真似はするものではありませんよ」
「…………」
 沈黙は一瞬。
「……ベテランの貴女がそう言うのなら、そうなのだろうな」
 さくり、と。
 アンデッドの首に手を突き刺して、その頸椎をへし折った。

 1階に潜伏していたアンデッドは、全て片付け終わっただろう。
 時を同じくし、元・看守らしきアンデッドから牢の鍵束を回収している。階層と牢番が降られた鍵を数名で分けた後、一行は事前に決められていたフロアへと移動を開始した。
「目標は! 全員生還!」
「そして、1人でも多くを救う!」
 ナイフを肩に担いだウィズィ、そして放電しているマリアの2人は特に士気が高かった。

●囚人解放戦線
 銀のナイフが硬く分厚い壁を叩いた。
 カァン、と音が鳴り響く。
 閉じていた目を見開いて、ウィズィは通路の先を指し示す。
「そこ、来ますよ。いきなり出てくるのはホラーの定番っすからね!」
「数はいかほどで?」
「結構多いですよ! ざっと15ほど……いや、もしかしたら囚人も混ざってますかね、これ?」
「牢の中にも何人かいるみたいですし、どう避難させるのが最善か」
 ナイフを構えたウィズィは、姿勢を低くしナイフを大きく背後へ振った。
 直後、飛び出して来たアンデッドの足首へそれを一閃。
 肉も骨も、一撃のもとに断ち斬った。
 転倒したアンデッドの頭部を、ラクリマの放つ魔弾が穿った。ぱきゃ、と頭蓋が砕け散り、血と脳症を飛び散らす。
「っし、まず1体!」
「この調子で片付けて、囚人たちを解放しましょう」
 手に魔導所を携えて、ラクリマは油断なく周囲へ視線を走らせた。
 助けを求める誰かの声が、ラクリマの耳にずっと響き続けているのだ。弱々しく、今にも息絶えそうな薄弱とした意思である。
 けれど、まだ生きている。
 生きているなら、助けられる。
「集まってきましたね」
「上等です。さぁ、Step on it!! 怪物退治を始めましょう!」
 銀のナイフを眼前へ。
 押し合い圧し合いしながら迫るアンデッドの群れへ、ウィズィは駆けこんでいく。
 
 暗い通路の真ん中を、白い女が悠々と行く。
『あーあー。こちらはローレットのイレギュラーズ。依頼により救助に来ました』
 彼女の声はよく響く。
 尋常でないほどに拡大されたその声を聞き、ざわりと囚人たちが騒いだ。
『再逮捕じゃないので大人しく安全な場所で待ってて。危険な状態なら声かけてね』
 希の声に反応し、牢の1つが扉を開く。
 牢の中から出て来たのは、囚人服を着たアンデッドだ。その口元は、誰かの血で赤く濡れている。
「そう言えば亡くなった人をどうするかは決めていなかったな。埋葬するか?」
 一閃。
 イズマの細剣が閃いた。
 ゆらり、とアンデッドが立ち上がったその瞬間、飛ぶ斬撃がその首を抉る。
 ゴトン、と重たい音と共に頭部が落ちた。
 その状態で、アンデッドは数歩前へと進むが、すぐに力を失い倒れる。
「おう、すげぇな兄ちゃん。看守どもでも太刀打ちできなかったのによ」
 その様子を見ていたのだろう。
 囚人の1人が、イズマへと声をかけた。
「まぁ、それなりに鍛えているんでな。あぁ、もう外に出ても大丈夫だ」
 コツン、と細剣の先で牢の扉を軽く突けば、軋んだ音を鳴らして扉が内へと開く。
 元々、その牢に鍵は掛かっていなかったのだろう。
 その囚人は、安全が確保されるまで、自らの意思で牢に籠っていたようだ。
「へへ、バレてたのか」
 バツの悪そうな笑みを浮かべて、囚人は牢から外に出る。
『あと逃げる人は追わないから、私達にもう一働きさせないように』
 牢から出て来た囚人へ、希が鍵を投げ渡す。
 このフロアにいる囚人を、助けて回れということだ。
 手にした鍵と、1階へと続く階段とを囚人は交互に見やる。
 その喉元へ、オリーブは音も無く剣を突き付けた。
「指示には従ってもらいますよ。多少の負傷は不問かつ何人かなら減っても良いとされています」
「あ、あぁ、はは。なんだ、お前らも結局、看守どもと同じかよ。暴力で俺らを屈服させようって腹か?」
「……なに?」
 オリーブが剣に力を込める。
 囚人の喉へ切っ先が刺さり、一滴の血を流させた。
「俺ぁ確かに罪人だ。人を数人、殺っちまった。でもな、一緒に捕まった俺のダチは、ちっぽけな詐欺師でしかなかったんだぜ?」
 アンデッドが迫る中、どこか嘲るような口調で囚人は言った。
 希の放つ閃光が、アンデッドたちの体を焼いた。怯んだ隙に駆け寄るイズマが、剣の一振りで数体を纏めて斬り捨てる。
 一瞬、囚人はそちらへと視線を向けて、小さな舌打ちを零した。
「今、アイツが斬ったのが俺のダチだ。看守どもは、自分たちが逃げるために、ダチを囮に使いやがった」
「…………」
「なぁ、俺はともかくよ、ダチはそんな目に逢うような悪さをしたかよ?」

 地下2階。
 暗い通路を一条の赤雷が駆け抜ける。
 姿勢を低くし、疾駆するマリア。迎え撃つは、まるで狼のような姿に変じた数体のアンデッドたちだ。
 鋭い爪がマリアの肩を深く斬り裂く。
 跳ねるように、振り上げられた蹴撃がアンデッドの顎を撃ち砕く。
「悪いが私に毒や魅了の類は効かない!」
 素早く、そして正確に。
 蹴り抜かれたアンデッドは、しかしすぐに起き上がり再びマリアへ襲い掛かる。
「前は私が相手をするよ。フィリーネ君は後方の警戒! アルク君は囚人の解放と治療を頼んだよ!」
 マリアの指示に従って、フィリーネは背後へ視線を向けた。
「なるほど……囚人とはいえアンデット化はいただけませんわね」
 物陰に潜んでいたのだろう。
 飛び出して来たアンデッドが、フィリーネの肩を殴打した。その腹部にはレイピアが突き立っているが、それだけの傷でアンデッドの動きを止めることは出来ない。
 舌打ちを零し、フィリーネは数歩後ろへ下がる。
 支えを失い、前のめりに姿勢を崩したアンデッドの首へ、素早く刺突を繰り出した。
 大口を開け、アンデッドが1歩前へと踏み込んで、瞬間、その口腔へレイピアが深く突き刺さる。
 ぐり、と手首を僅かに返せば、レイピアの切っ先はアンデッドの脳幹を破壊した。
「このまま逃走経路を切り開きますわ」
 アンデッドを通路の端へと押しやって、フィリーネは数歩、前へ出た。

 マリアの脇を駆け抜けて、1匹のアンデッドがアルクの背後へと迫る。
 牙を剥き出しにした獣型のアンデッドだ。狙いはアルクの首だろう。
「ひとつ問いたいことがある……錬金術師が戦えないとでも思ったか?」
 背後をちらと一瞥し、アルクは獣の口腔へ小瓶を一つ放り込んだ。
 牙に辺り、小瓶が砕ける。撒き散らされる紫色の薬液は、アルクの調合した猛毒だ。
 煙を吐き、もがく獣型アンデッド。溶けた肉が床に零れ、赤く濡れた顎骨が露出する。
 放っておけば、やがて活動を止めるだろうか。
「もちろん治療もこなせるがな。そこの囚人、回復は必要か?」
 牢の鍵を開けながらアルクは問うた。
 中にいたのは、傷だらけの大男だ。見るからに凶悪そうな面をしているが、長く閉じ込められていたせいか、衰弱していることは一目瞭然だ。
「はっ……舐めんな。まだ元気一杯ヨ、おれぁ」
 明らかに強がりだが、地下に囚われているのは凶悪犯ばかりという話だ。
 弱ったままでいてくれるのなら御しやすい。
「ならいい。大人しく付いてきてくれ」
 そう判断したアルクは、大男を放置して次の牢屋へと進む。
「って、何だそりゃ?」
 そんなアルクのすぐ後ろを、2足歩行の虎……らしきものが付いて行く。鋼の身体に円らな瞳。時折「トラァ」と声をあげるそれの名は“メカとらぁ君”。
 マリアの操る虎(?)型ロボットであった。

●デッドマンズ・パレード
 死体の群れを引き連れて、ウィズィは階段を転がるように駆け下りる。
 アンデッドを倒しながら、屋上へと至ったウィズィとラクリマは、しかし即座に囚人を連れて撤退することに決めたのだ。
 屋上を埋め尽くすアンデッドの群れを、2人で相手取るのは些か不利に過ぎる。ましてや解放した囚人を守りながらともなれば、その難易度は桁違いに跳ね上がる。
「ウィズィさんはピンチになってくる方がテンション上がってくるタイプでしたっけ?」
「流石に数が多いんで、少し回復もらっていいですか!?」
 ラクリマの問いに、ウィズィは悲鳴のような答えを返す。
 露出の多い上半身は汗と返り血に濡れていた。アンデッドに捕まれたのか、痣も幾らか浮いているし、脇腹などは皮膚が千切り取られていた。
 魔導書を開いたラクリマは、口の中で呪文を転がす。りぃん、と鈴の鳴るような音が辺りに響き、淡い燐光が降り注いだ。
「えー、囚人の皆さん! ぶっちゃけ、もう看守いませんから! 逃げたいなら後でゆっくり逃しますので、今は安全な場所に隠れてた方がいいですよ?」
 牢屋はすべて開けている。
 何人かの囚人は、既に逃亡した後だが、大部分はウィズィとラクリマの指示に従い、未だ牢内で待機していた。
 けれど、それもここまでだ。
「馬鹿野郎! アンタらが死んじまったら、俺ら逃げらんねぇじゃねぇかよ!」
 牢の扉を蹴り開けて、何人かの囚人たちが廊下へ跳び出して来た。
 ウィズィとラクリマを先導するような形で、囚人たちは階下へと駆けていくのであった。

 狭い通路をひしめき合ってアンデッドの群れが行進している。
 呻き声と死臭に満ちた寒い廊下を、我先にと囚人たちが駆けていく。とはいえしかし、長く捕らわれていたためか、囚人たちの走る速度は遅かった。
「どうする? アンデッドが外に出てきたら、被害がさらに広がることも予想されるが?」
「もしヴィーザル地方に住まう方々を傷付けるなら、その時は改めて始末するだけです。アンデッドも、ならず者どもも」
 追いすがって来るアンデッドを斬りながら、イズマとオリーブが言葉を交わす。
 その間も、アンデッドの数はどんどん増しているようだ。
 体勢を整えたウィズィとラクリマも戦線へと加わるが、雪崩のように押し寄せてくるアンデッドを、いつまでも抑えられる気はしない。
 全速力で逃げるだけなら容易だろうが、そのためには先行している囚人たちが邪魔だった。希が必死に声を張り上げ、囚人たちを誘導しているのだが、避難完了にはもうしばらく時間がかかりそうだった。

『はい、そこの囚人―、右側からアンデッドが来るから迎撃してねー』
 希の指示に従って、パンダの獣種が床を蹴って疾駆する。
 獣型の腰を掴むと、バックドロップの要領でその頭部を壁に叩きつけた。
 さらに別の獣型には、鳥脚の少女が跳びかかる。猛禽の爪が生えた足先で、抉るような連続蹴りを叩き込んで、アンデッドを始末する。
 そうして切り開かれた進路へ、希と囚人たちが駆けこむ。
 向かう先は2階の作業場。
 戦場を広く使えるのなら、アンデッドの群れを悉く殲滅することさえも可能だろう。

 ところは1階。
 外へと続く通路の前に、マリア、アルク、フィリーネの3人は立っていた。
 マリアとフィリーネへ回復薬を手渡しながら、アルクは視線を上層階へ繋がる階段へと向けた。
 上階から、無数の怒号と足音が響いているのだ。
 援護に向かうべきか、それともここで待機すべきか、アルクは視線でマリアとフィリーネへと問うた。
「予定では、上層の補助に回るはずだったが?」
「うぅん。保護を求める囚人を2階に避難させるつもりだったけど……」
「動ける者は先に外に出した方がよさそうですわね。逃げる者は特に追う予定もありませんので、どうぞ行ってくださいませ」
 地下へと続く階段へと視線を投げて、フィリーネは言う。
 数秒後、のそりと地下から出て来たのは数名の囚人たちだった。先頭に立つ傷だらけの男が、訝し気な顔でフィリーネに問う。
「いいのか? 言っちゃなんだが、俺らは極悪人だぜ?」
 地下に収監されていた囚人は5名。
 弱っている今ならともかく、体力が万全であればフィリーネやマリアともいい勝負が出来そうな者ばかりだ。
「……依頼に含まれていませんので」
「はっ、そーかい。ま、助けてもらった礼ぐらいは言っとくか」
 短く礼の言葉を述べて、5人は外へと出て行った。
 その背へとマリアは声をかけた。
「君たちはこれからどうするんだい?」
「さぁなぁ? とりあえず、俺らをとっ捕まえやがった看守でも探すかね。野郎、化け物の群れん中に、俺らを置いて逃げやがった。一発ぶん殴ってやらなきゃ気がすまねぇ」
 
 囚人たちが外へと逃げる。
 それを先導しているのは希であった。
 逃げた囚人は都合19人にも及ぶ。
 数名、道中で命を落としたが、多少の犠牲は仕方があるまい。元より、飢えと寒さによって弱りきっていた囚人たちだ。
 囚人たちが逃げ出したなら、これで任務は完了だ。あとは塔に蔓延るアンデッドたちを、一掃すれば後顧に憂いを残すこともない。
『おぉっ、りゃぁ!!』
 響く怒声はウィズィのものか。
 次いで、何かが壊れる音が鳴り響く。

 援護に向かったマリアとフィリーネ、アルクを含めた8人はアンデッドの群れを相手に暴れ回った。
 斬って、蹴って、殴って、撃って。
 抉られ、殴られ、噛まれて、裂かれた。
 血で血を洗うような激しい戦いだ。個の戦力で勝るイレギュラーズを相手に、アンデッドたちは数と蛮勇を持って抗った。
 けれど、持久戦となれば回復手段を持つイレギュラーズが有利であった。ラクリマとアルクの2人による篤い回復支援があればこそ、長い時間を戦い続けることが出来たと言っても過言ではないだろう。
 そうして、あらかたのアンデッドを倒した一行は監獄塔を脱出し、正面扉を封鎖する。
「なぁ、あんたら」
 外へ出た一行に、1人の男が声をかけた。
 それは、3階でオリーブと揉めた男だ。
 思わず、オリーブは腰の剣へと手をかける。
 警戒を顕わにするオリーブへ、男は1歩近づいた。
 そして、告げる。
「あぁ、っと、あれだ。その、助かったよ」
 それだけだ。
 そう言い残し、男は踵を返して去った。
 暗い雪原をとぼとぼと歩き去っていくその男の背中を、オリーブはただ黙って見送るのであった。

成否

成功

MVP

白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

状態異常

マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)[重傷]
私の航海誌

あとがき

お疲れ様です。
アンデッドの群れはそのほとんどが倒されました。
監獄塔に取り残されていた囚人たちの解放も完了です。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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