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シナリオ詳細

<半影食>天獄二刀と地蔵の主

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シークレットサービス(理科教師と家庭科教師)
 二つ折り携帯電話をパカッと開き、眼を細めてボタンを操作する男。
 葬儀場にでもいれば地獄の案内人に見えるのではというような不吉なツラをした彼は、あろうことか希望ヶ浜学園の校長であるという。名を、無名偲・無意式 (p3n000170)。
 彼の左右には、二人の男が黒いスーツを着て立っていた。仕立ての良さから人目でわかる高級感。内ポケットについたタグにはイタリアの一流ブランドを示すロゴが刺繍され、更には立っている男達――伏見 行人(p3p000858)と黒影 鬼灯(p3p007949)の名も刺繍されていた。要は、彼ら専用に仕立てたオーダーメイドスーツである。
「うーん……知らないメーカーだな。だが手触りはすごくいい。本当に貰っていいのか、校長殿? いくらくらいするのか知らないが……」
 端々を触ったりながめたりする鬼灯。ある日突然『スーツをやるから顔を出せ』とスマホで呼び出された彼らは、スーツを受け取ったその脚で町中のカフェ前に立っていた。
 鬼灯の言葉に、携帯電話の操作を終えた校長はパクンとそれを閉じポケットへと入れた。
「構わん。イタリアのキートン一揃えだから……まあ最低で80万円だな」
「はちじゅうまんえん!」
 腕の中で章姫が悲鳴にもにた声を上げた。
「大丈夫大丈夫、どうせ偽物だよ」
 と、行人が肩をすくめてスーツをぱしぱしとはたいた。
「イタリアっていうのは確か、地球世界にある国だったよね。ならブランド力はこの世界じゃ通用しない。というか、会社自体自体ないよね?」
「当然だ。俺がなにか一つでも『本物』を持っていると思ったのか?」
 表情をひとつも変えない無名偲校長に、行人はいっそ清々しいねと肩をすくめる。
「だが、俺がお前にスーツを譲渡したという事実は本物だ。そのスーツに刻まれたロゴも、生地や仕立ての上等さも、紛れもない事実だ。存在し得ない――いわば架空のブランドを顕現したという意味では、本物以上に本物といっていい」
「本物なのか!?」
「本物ではないが」
「やっぱり本物ではないのか!?」
 どっちだ! と叫ぶ鬼灯。だがよく考えたら、どちらでも良いような気もしてくる。
 黒い高級スーツに黒い布マスク。さらに赤い角と腕に抱えた美しい人形といういでたちの異様さからすれば、タグの真偽など些細なものかもしれない。
 まあ、行人のほうはスーツに黒縁の眼鏡という組み合わせがやけにハマっていて見事なものだが。
 ……そんなことを考えていると、無名偲校長が両手をポケットにいれたまま歩き始めた。
「アポがとれた。今から行くぞ」
「……行くって?」
 何かを察したような顔で問いかける行人に、振り返りもせずに無名偲校長は答えた。
「危険人物のものとへ」
 ああ、とつぶやきついていく行人。
 同じようにつぶやいてあとをついて歩きだす鬼灯が――。
「……護衛任務だこれ!!!!!!!!!!!!」
 そして自分が既に報酬を受け取ってしまっていることにも気づき、頭を抱えたのだった。

●『地蔵主』天獄 鎬次郎
 剣術道場、のように見える。
 板張りの床は鏡のごとくぴかぴかに磨かれ、開け放たれた窓からは夏だというのに涼しい風が入っている。
 広い部屋の奥にかけられた掛け軸には『慈』の一字が大きく描かれ、和服を纏った坊主頭の男がそのまえに正座している。
 異様さがあるとすれば、部屋四隅から中央を見つめるように置かれた石の地蔵だろうか。
 幼い子供ほどはある大きさの、とても道場に……もといあらゆる建物の屋内に似つかわしくないオブジェだ。
 地蔵はみな祈るような姿勢をとり、中央に顔を向け、動かない。
 そんな部屋のなか――男は目を開いた。
 入り口に立つ男に、視線を向ける。
「……何用か、『虚言遣い』殿」
「その呼び方はよせ」
 開いた扉の縁にてをかけ、背を丸めてたつ男。無名偲校長が顔を左右非対称に歪めた。
 空気が、僅かに淀む。
 道場へと無名偲が一歩踏み込もうとしたその瞬間に、異変は起きた。
 部屋四隅に置かれていた地蔵が一斉に『動き出した』のである。
 腕を振り、体からはやしたそれぞれ二本ずつの刀を握って道場主を守るように部屋中央へと滑り込む。
 ぴたりと足を止めた無名偲を守るように、行人は蔦草を纏ったような意匠の刀を、鬼灯はグローブから伸びた魔糸を構え無名偲の前へ出る。
「剣道教室の先生……ってわけじゃあなさそうだね」
「校長殿、彼は?」
 相手から視線を動かすことなく問いかける鬼灯に、無名偲は答えない。
 かわりに、相手が正座姿勢のまま腰にてをあててこたえた。
「我が名は天獄 鎬次郎(てんごく こうじろう)――妖怪、地蔵の主である」

 お互いの護衛を間に挟んだまま無名偲校長の話は続く。
「今、日出神社を中心にこの街のあちこちが異世界へのゲートと化している。
 他の神社、石碑、民家の神棚ですらな。要因は例によって『都市伝説の現実化』だが、そもそもが信仰対象であるうえ発生が広範囲かつランダムだ。一般人への隠蔽が困難になりつつある。既に迷い込んでしまった連中の救助はうちの特待生たちで進めているが、増え続けるゲートの、そして現在ゲート化している地点の収容は急務になる」
「勝手にやればよかろう」
 突き放すように言う鎬次郎に、無名偲は首をこきりとならして言った。
「音呂木神社の連中は既に動いてる。それにうちの掃除屋は優秀でな、ゲート神社以外のゲートに封印処理を施してる最中だ。
 だが何ぶん人手不足でな……。増え続けるゲートの数に対抗できん」
 そして、無名偲はビッと人差し指を立てて下へ向けた。
「お前の結界を貸せ、鎬次郎。身代わり善行人助けはお前の得意分野だろう?」
「断る……と言ったら?」
「無理矢理にでも奪う」
 ギザ歯を見せつけ、世にも不吉に笑う無名偲。悪魔のようなその声色に行人が眉を動かした……その次の瞬間、パッと表情をいつもの『ただ不吉なだけ』の顔に戻した。
「――というのは嘘だ。俺は『お願い』に来たんだよ鎬次郎。
 お前の要求を言え。叶えてやる」
「フン」
 顔をしかめ、しかし肩の力を抜いた鎬次郎。
 掛け軸の下にかかっていた二本の刀を手に取った。
 赤と青の鞘をした、奇妙な雰囲気の剣だ。
「もとより貸してやってもよい……が、ただ従うのではこちらも示しをつけられん。シンプルに『これ』で決めようではないか」
 刀を抜き、鎬次郎は十字に刀を交差させるかわった構えをとった。
「我を倒して見せよ、人間。それが叶えば、我が配下にある百余の地蔵が力を貸してやる」

 うんうんと頷きながら後ろ向きに歩き始める無名偲校長。
 追って集まった何人かの仲間達が展開するなか、鬼灯は最初の構えから動かぬまま……ぷるぷると震えた。
「護衛どころか、武力交渉だこれ!!!!!!!!!!!!」

GMコメント

●おさらい
 ROOによって意識を囚われた研究員達の中には希望ヶ浜市民もおり、外の事情に無頓着な希望ヶ浜市民は帰ってこない知人たちを行方不明者であるとした。そうして事件は『大量行方不明事件』と決めつけられ、その真相は闇であるとした。だが闇に納得しない彼らはありとあらゆる都市伝説をわきたたせ、そのなかで最も注目を浴びた『建国さん異世界論』がこの街で顕現したのである。
 希望ヶ浜学園特待生(ローレット)はこうして生まれた異世界への調査、および迷い込んだ一般人の救助に動き始めた。

 ――その一方で、神社や石碑、民家の神棚などあちこちに増え続けるゲートの効率的封印処理に妖怪(真性怪異)の力を借りることにした無名偲校長。
 今回はその交渉方法として、『武力を示す』ことになったようだ。

●天獄 鎬次郎との戦闘
 場所は道場とその周辺。
 天獄 鎬次郎と彼に従う『生き地蔵』たちと戦闘を行い、これに勝利してください。

・生き地蔵
 石で出来た地蔵ですが、まるで生き物のように動くことが出来ます。
 力をもった鉄が混ぜ込まれることで生成されたゴーレム的存在であり、同じく力をもった鉄で作られた『天獄刀』を自在に操ることができます。
 背丈は幼い子供ほどに小さいですが、身体能力は高く特に防御に優れます。
 必ず二刀流で戦い、『斬撃を飛ばす』といった形で遠距離攻撃も可能です。
 特殊抵抗が高めですがそこまでえぐくはないので、BSによる攻め方も有効です。

・天獄 鎬次郎
 生き地蔵を作る異能をもった妖怪(真性怪異)です。
 もとは長い年月をかけて付喪神化した地蔵でしたが、この町では剣道教室を開くなどして人間に紛れて暮らしています。
 天獄刀という『二刀一対』の刀を使った二刀流の剣術をつかい、攻守整ったアタッカーです。
 特殊抵抗の高さに加えて複数の耐性スキルがあり、多くのBSを無効化します。
 また、範囲回復スキルをもっているため彼の周りに『生き地蔵』を残しておくと不利になりがちです。

●おまけ解説:鎬次郎と地蔵について
 鎬次郎は百を超える地蔵を作り希望ヶ浜各所に配置しています。
 ファミリアーほど優秀ではありませんが、まわりで起きていることを漠然と知覚する能力があり、各地蔵を動かすことで小規模な結界を作り出すことも可能です。
 校長はこの力を利用し、希望ヶ浜各所で発生する『異世界』へのゲートに封をしていこうという考えのようです。

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●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <半影食>天獄二刀と地蔵の主完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
武器商人(p3p001107)
闇之雲
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー

リプレイ

●地蔵道場にて
「いぇいいぇい! 空中神殿経由したからここがどこなのかもよく分かって無いですが! 新緑以外の地理わかんないから問題なし! 頑張っていくぞっ!!」
 両手に土しか入っていない鉢植えを持ち、ついけひげをした『泥沼ハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)が片足を大きくあげて立っていた。
「で、いまどういう状況!?」
 その姿勢のまま振り返ったウテナに、『雨上がりの少女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が首をかしげて毛先をねじれさせた。
「異世界ゲート問題の解決のために生き地蔵の力が必要で、その力を借りるための条件として戦うことを求められたらしい」
 一息に情報をまとめて見せてから、エクスマリアは改めて周囲の様子を観察しなおした。
 ぴかぴかに磨かれた板の間。今でも現役で使われているとおぼしき剣道場だ。建物は古くエアコンすらついていないが、不思議と窓から涼しい風がはいってくる。遠くから聞こえる小鳥のこえが平和さすら感じさせる場所だ。
 目の前で道場主と地蔵が抜刀しているという風景が異様に思えるほどに。
「豊穣の妖怪とは、違うのだろう、か」
「説明が要るか?」
 地蔵主天獄 鎬次郎に対して浮かんだ疑問を口にすると、後ろで無名偲校長が呼びかけてきた。
「そもそも、真性怪異がわからん」
「定義した人間によるところが大きいが……俺からすれば、この世界の怪異全般を真性怪異と定義できる。夜妖を『悪性怪異』と呼んだための呼び分けに過ぎんな。
 妖怪でも神霊でもいいが。ナズナをペンペン草や薺菜と呼ぶようなものだ。この街は、お前が思っているほど特別ではないよ」
「…………」
 最後の『特別ではない』の部分から嘘の香りがしたが、追求するのはやめておいた。
「その真性怪異も、存外と市井に紛れてるものなんだねぇ」
 白いスーツ姿の『闇之雲』武器商人(p3p001107)。
「直接手合わせするとは面白いこともあったものだ。
 付喪神とはいえ、依代は道祖神にして子供の守護者、そしてヤマの王。
 この機会を存分に楽しむとしよう」
 そうつぶやく武器商人の横で『太陽の沈む先へ』金枝 繁茂(p3p008917)がニコニコしていた。
「お地蔵さまと戦うなんて罰が当たりそうだけど今回はしょうがないよね~。そんな事より天獄さんって和風で坊主だなんてイケメンの予感」
 話の後半を軽く聞き流して、お地蔵様の部分にだけ『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)は『そうだな』と同意するように顎をあげた。
「子供の頃に拝んでいた対象と斬り結ぶのは何か妙な気分もするが、戦えるなら全力で楽しもう。
 にしても、戦いを厭う人達が暮らす街って聞いてたんだが……何処にでも強ぇ人はいるもんだ」
 獅門は背にしていた刀を抜くと、両手でしっかりと、そして広く握って構えた。破竜刀と呼ばれる幅広の大太刀である。
 相手を探るかのように剣先でゆっくりと8の字をかいているが、対する相手……つまり天獄 鎬次郎と生地蔵たちはその動きにふらつく様子はなかった。意志が固く鍛錬を深く積んだ者の特徴だ。生地蔵はともかく、本能を意志で克服することはあまり簡単なことじゃあない。
「俺だけの技量じゃあちっと厳しそうな相手だな。そういや『倒せ』とは言われてねえんだっけか」
「校長先生がごめんね。多分、素直にお願いできない人なんだ。照れ屋さんなのかも?」
 話を区切るようにして、『魔法騎士』セララ(p3p000273)が大型バイオリン用楽器ケースにしまい込んでいた剣と盾を取り出し、それぞれの手に握り込んでベルトを締める。
 対する鎬次郎は刀を交差させた独特の構えのまま顔をしかめた。
「当然の契約を行使したまで。虚言遣い殿を相手に対価を求めず望みを叶えるのは自殺行為としか思えぬ」
「?」
 そんなことないけど? と思ったセララだが、よく考えたらローレットを仲介して依頼報酬が毎回支払われていた。そうでなくても個人的に報酬を前払いされる(今回のような)ケースもままある。確かに彼とのやりとりは、そのほとんどにおいて対価が存在していた。他のケースも、気付いていないだけで対価のやりとりは交わされているのかもしれない。
 実際前払いされちゃっていた『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)はスーツのすそをつまんでフウと息をついた。
「突然呼び出されてスーツを着せられたかと思えば……。
 全くおかしいとは思ったんだ。こんなか弱い家庭科教師に何をやらせるんだ」
 後ろの方で無名偲校長がフッと笑った。何かツボったらしい。
 まあいいとつぶやいて再び構え直す。
「報酬を受け取った以上はどんな任務でもやり遂げて見せるとも。
 さぁ、空繰舞台の幕を上げようか」
 走りだそう――とした所で、『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)がサッと手を上げて止める。
 つんのめりそうになった鬼灯の横でネクタイを締め直しフロントボタンをしめる行人。
「まあ、こういうことなら……俺に声をかけたのも納得がいく理由だよ、学園長」
 行人の言わんとしていることに鬼灯はピンときていなかったが、どうやら行人は自分と鬼灯が本質的に持っている性質をアテにしたような節があった。
 この道場にも一見普通に立ち入っているが、地蔵が結界を行使するなら地蔵に四隅を守らせたこの道場は『普通に歩いて行っただけでは』たどり着けない迷いの結界がかけられているべきと、行人は考えた。
 行人たちを同行させることで結界破りを行ったのだろう。
 最後にポケットチーフの形を整えてから、『蔦纏う刀』を再び抜いた。
 真顔のまま小首をかしげる鎬次郎。
「準備は?」
「ん、オーケーだ。それじゃあ――」
 行こうか、というより早く。行人の行動は完了していた。

●地蔵鉄
 行人の行動はすさまじく早かった。というより、既に仕込み終えていたと言った方が良いか。
 彼が(土足を許されたが故にはいていた)革靴で地面を踏んだその途端に風の精霊が爆発的空圧を起こし生き地蔵のうち数体を吹き飛ばした。
 鎬次郎はその動きを読んでいたのか刀の腹で交差斬りをかけることで空圧を分解し衝撃を回避。残る数体の地蔵も同じような動きで回避すると、行人めがけて飛びかかった。
 が、ここで相手をするのは行人ではない。
 奇妙な足運びで間に割り込んできた武器商人が地蔵たちの斬撃を全身で受け止めた。
 殆ど抵抗なく受け入れた刀身が彼の体を貫くが、表情は『ヒヒッ』と笑ったままだ。奇妙なことに血の一滴も垂れおちていない。
「確かに、不思議な鉄だねえ。これは、磁力かな?」
 刀身を握りこんで押さえると、その顔面に手を当てて電撃のごとき力を流し込んでいく。
 けいれんのような動きをして暴れ出す地蔵。
 他の地蔵たちはそんな武器商人を警戒して飛び退くが、その隙(?)をつく形で繁茂が武器商人の治療を始めた。
「保護結界張ったからバンバンやり合っても大丈夫だよ! てか張らなかったら道場ズタボロになったと思うけど天獄さん、えっ? 結界は自前で張ってあったから余計なお世話だぁ? それってつまりこれが天獄さんとハンモの初めての共同作業ってこと!? 照~れ~る~☆」
 自分の頬に手を当ててはしゃぐ繁茂。
 地蔵たちを引き受けた繁茂たちに後を任せ、セララは盾を前に突き出した姿勢がっちりとした防御姿勢で鎬次郎へと突進。
「天獄さん、よろしくね。全力で行くから!」
 対する鎬次郎は十字に交差した刀でそれを防御。受け流すようにセララの側面に回り込むと攻撃を差し込んできた。攻防一体の型ということだろうか。それにしても斬撃の振りが異様に早いようにも見える。
 盾を回り込まれた形になったセララだが、剣で攻撃を払ってから回避ロール。地面を斜めに転がって追撃を逃れると、鎬次郎をぴったりとマークした。鎬次郎の方はと言えば、今度は両腕を開いて腰を落としたような姿勢をとる。型を見切らせないためか、それともセララのほうを先に見切ったためかはわからない。
 少なくとも、相手に試されているような雰囲気を感じていた。
 その一方で、ウテナは自分の頬をぺちぺち叩いてから土の魔法を発動。
「ウチは地蔵を相手しますよ! う〜、緊張しますね!
 まぁ、仲間の皆さんが居ますからね! 最悪ウチがだめだめハーモニアでも、きっと経験豊富な先輩方が何とかしてくれるでしょう! よしリラックス!」
 床下の土に働きかけてツタ植物を伸ばすと地蔵へとまとわりつかせた。ツタを刀で切断して逃れる地蔵。
「でもウチ諦めないですよ! めげないハーモニアなので!!」
 それでも更にツタをはやすことで追撃をしかけるウテナ。
 エクスマリアは『いいぞ』と声をかけると、自分もまた頭髪を伸ばして地蔵を拘束――すると見せかけてウテナの胴体にくくりつけてヒュッと強制的に身を引かせた。側面から斬りかかる地蔵の攻撃をかわすためだ。
 それでも回避しきれなかったダメージが、頭髪越しに流れ込む魔力によって修復されていく。
(鎬次郎は校長が直に出向いて協力を要請するほどの存在。抑えに入る仲間も相応に強靭ではあるが、必ずしも抑えきれるとは限らない。広く気を配らなくては……)
 生き地蔵の戦力はそれほど高いとは言えない。
 獅門は直感で彼らを手練れと判断したが、肉体強度自体は高く見積もっていなかった。
「石の塊でもよ、龍の骨よかヤワい筈だぜ!」
 刀を握り込み、フルスイングをたたき込む獅門。
 対して刀を交差させ防御した地蔵だが、防御しきれなかった衝撃が地蔵にはしり、吹き飛んだ地蔵は道場の壁に激突した。
 それだけで終わるまいと突撃した獅門の第二の斬撃が地蔵を直撃。まるで薪割りのように頭へ打ち込まれた刀によって、石の体が粉砕される。
「っしゃあ、まずは一体!」
「ここまでは順調。ごめんなさいね、後で直してもらってね」
 片手で祈るようなポーズをとると、鬼灯は『糸切傀儡』の術を展開した。本命の糸である『暦』から分裂するように展開した魔力糸が地蔵たちを絡め取り、すぱすぱと強制的に切断していく。
「地蔵に攻撃を加えるとは……罰当たりと誹られて文句は言えないな」
 背後に回り込んでいた地蔵が逆手に持った刀を巨大なハサミのように構えて飛びかかるも、鬼灯はスウゥと顔の高さに立てた小指を中程でおる動きでそれを止めた。
 そう、文字通り空中で『停止』させたのである。
「これで、終わり」
 糸から伝わったエネルギーが地蔵へ流し込まれ、膨らませすぎた風船のように地蔵が破裂した。

●天獄 鎬次郎
 生き地蔵たちがすべて砕け散ったあとの道場は、途端にしんと静まりかえっていた。
 立ち止まりその様子を見やる鎬次郎と、それを押さえようと前後から包囲するセララ&行人の動きもまたぴたりと止まったからである。皆の視線も、鎬次郎へと集中……しかけた所で、地蔵の破片たちがカタカタと動き出す。
 破片はまるで磁石のように吸い付きあい、カチカチと音をたてて再構築。最後には継ぎ目もなくし、すっかり元通りの地蔵へと変化していた。刀を抜かず動き出しもしない時点での地蔵、という意味である。
 その様子にホッとする鬼灯たち。依頼といえど地蔵をたたき壊すのは少々良心にくるものがあったのだ。
 対して。
「ふむ、よかろう。虚言遣い殿が連れてくるだけのことは、ある」
 鎬次郎は両手に持っていた刀をくるりと逆手に握りなおし、柄頭どうしをくっつけるような姿勢をとった。
 途端に、床にちらばっていた無数の刀(さっきまで生き地蔵たちが持っていた刀)が浮きあがり、鎬次郎のまわりを周回飛行しはじめる。
「やけに抑えが効くと思ったら……」
「実力を隠してたんだね」
 行人とセララがより深く防御の姿勢をとった――その途端、セララが吹き飛んだ。
 飛んできた刀一本を盾で受け止めた筈が、与えられた物理エネルギーが強すぎるせいで踏みとどまることができなかったのである。
 ぶわりと靴から魔法の翼を広げて強制ブレーキ。
 羽ばたきをかけると、セララは反撃に出た。
「全力全壊! ギガセララブレイク!」
「団長!」
 反対側から襲いかかる行人。
 蔦纏う刀に精霊の力を纏わせると、強烈な破壊力に変えて鎬次郎へとたたき込んだ。
 二人による必殺の剣――は、しかしそれぞれ一本ずつの刀にとめられた。
 鎬次郎が柄のくっついた剣をくるくると回転させると、踊るように飛ぶ剣たちがセララと行人へ様々な方向から襲いかかる。
「みんながんばれ~応援してるよ~天獄さんカッコイー! 流し目ぷりーず!」
 繁茂が応援しながら治癒の光を発射。
 エクスマリアも自らセララたちのもとへ治癒の光を放射。
 が、そうしたエネルギーを上回るダメージをもって刀の猛攻が続く。無数の刀がセララたち、そして繁茂やエクスマリアたちまでにも刀が襲いかかっていった。
「――」
 武器商人は『ナイトメアユアセルフ』の舞う撃つを練り上げ、鎬次郎へと思い切りたたき込んでいく。
 対する鎬次郎は武器商人を完全に無視しているようで、攻撃の一切が武器商人へ入ることがない。
「性質を読まれているねェ」
 倒しづらい相手を後に回す。常識的な戦術だし、実際武器商人にとってキツい対応の仕方だ。
 が、それでも対応し戦ってきたのが百戦錬磨の武器商人であり、その仲間達である。
「そこです!」
 ウテナはカーリングのフォームで植木鉢を投げ滑らせると、その植木鉢から大量のいばらを展開して鎬次郎へと襲いかからせた。
「その調子だ、重ねていけ」
 鬼灯は糸を銃の形に変化させると、水色の微光をまとう弾を連射。
 周囲を飛び回る鎬次郎の刀がそれを弾き、いばらを切断し、そして――。
「もらったァ!」
 すべての刀が対応に追われたその僅かなスキマを突き抜けて、獅門の豪快すぎる斬撃が走った。
 ばごん、というあり得ない音をたてて鎬次郎の首が切断される。
 されてから。
「あっやべ」
 獅門が真顔になった。
 ごとりと音をたてて地面に落ちる鎬次郎の首。
「やっちまったか? 倒しちまったのか?」
 おそるおそる振り返る獅門だが、その様子を黙って眺めていた無名偲校長は首を振った。
「いや、お前達の負けだな」
 そう言われてはじめて、自分の首筋にぴたりと刀が当てられていることに気付いた。
 彼だけではない。他の仲間達も急所を狙うようにぴたりと刀が寸止めされていた。
「だが殺さなかったと言うことは、力を認めたということだ」
 土足で道場へ上がり込んだ無名偲校長はずかずかと板間を歩くと、転がった鎬次郎の首を片手で掴みあげる。
「求められた力は示したぞ。力を寄越せ」
「御主は昔から……」
 鎬次郎が首だけでぼやく。
 胴体のほうが手探りでもするように両手をふわふわさせて歩き、無名偲の手から首を奪い取ってもとある場所に据え付けた。
「人にものを頼む態度というものが欠けている」
「お前が人のつもりか?」
「御主が言うか」
 毒づいて見せたが、それだけだ。刀がスッと地蔵たちのなかへ戻っていき、鎬次郎も刀を納めた。
「契約通りに結界を貸そう。言っておくが、日出異世界ゲートに対するものだけだぞ。転用悪用拡大解釈は許さんからな」
 ビッと指をさす鎬次郎に、無名偲は両手をポケットに入れたまま猫背で顔を突き出して見せた。
「ああもちろん、約束する。本当だ。俺が嘘をついたことがあったか?」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――契約完了
 ――希望ヶ浜各地区にて、ゲートの収容処理が進んでいます。

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