シナリオ詳細
廃
オープニング
●最期の時
ああ、そうだ。もうすぐだ。
身体がほろほろと崩れる。それがこの世界に蔓延する奇病の正体。
骨も、肉も、何も残らずに、ただ身体が崩れていく。そうやって朽ちていく。死んでいく。
降り注ぐ死の雨。身体を侵していく疫病。人類の最後の咎。
命は頽れ、廃れ、尽きていく。
抗うすべなどない。緩やかに滅びの時を待つだけだ。
嗚呼、そうしなければ、そうでなければ。
救いの時を待ってしまうから。
●降り注ぐ死
「もう僕達が入ったとて、一日生きられるかもわからない。そんな世界なんだって」
その世界の民はいつからか傘をさすことも、合羽を羽織ることも、ガスマスクをつけることも忘れてしまった。
足掻き、歯向かい、反抗することすらも忘れてしまったのだ。
刻々と照る太陽の罰。最期の審判を始めよう。
「その世界で、美しいなと思ったものを探してほしいんだ。空とか、猫とか、車とか。なんだってかまわない。その写真を撮ってきて欲しいんだ」
さんさんと輝く太陽を疎ましく思ったならば、終わりだ。
その身ははらはら崩れ、軈てあとかたすらも残らずに風の前に散ってしまうのだ。
このままでは、いつか世界自体も滅び、崩れ、なかったことになってしまう。
だから。
「その世界があった証拠を残しておくんだ。ほんとうならそういう仕事の人が居た物語なんだけど……」
ね、と。
恐らくは何らかの異変により、それを果たす前に死んでしまったのだろう。だから、代わりにイレギュラーズがいくのだ。
「なんだっていいんだ。だから、行って来てくれる?」
どうかその目でみて、感じて。
その世界が、終わってしまう前に。
●いのちのおと
その世界は何が命を奪っているのかすらもわからないくらいに、至って平凡にみえた。
真っ青なそらのいろ、じんわりと熱を発するアスファルト。蝉の声は未だ鳴り止まず、夏を迎えたのだろう、半そでの人が多く行き交う。
日差しが命を奪ってしまうなら、と思って傘を用意して見たりなんかもしたのだけれど、どうやら混沌のものと大差はないらしい。嗚呼、それならば、いいのだろうか?
カストルから持たされた小さなインスタントカメラ。好きなものを好きなだけ。良いと思ったものもあるといいな、なんてさらりと告げられる。
ぎゅっと握ったインスタントカメラの重さは、きっと、その夏だけのものだ。
さあ、シャッターを切ってみよう。世界の時間を止めて、永遠にするために。
- 廃完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年08月16日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
はい、チーズ。
イケてるかな。次は俺にも撮らせてよ。
終わる世界で最後の出会いに祝福を。
燦燦と照り付ける日射し。レンズ越しに見た世界。
また後で、なんてひらり手を振って。
再会することなど、有りはしないのに。
●『雨上がりの少女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の写真
(滅びを受け入れた世界の、最後の記録、か。
仮初とは言え、マリアもまた、最後を共にすることになる。それも悪くない)
だって、ほら。
さっき撮ったばかりの仲間の写真は、きらきらと輝いて、色褪せない色彩を放っているから。
油性ペンで書いた『エクスマリア、ネーヴェ、眞田、グリム』の文字。指で滲んでも消えない。確かに此処にあるのだと告げてくれているようで、愛おしい。
さ、て。
靴を慣/鳴らす。靴擦れをしてはいけない。足音だけは元気よく。たとえそれが終わる世界であったとしても。
まずは高い所から撮ってみようか。家。綺麗に並んだ電柱の列。それなりに凹凸のある建物。カラフルな屋根。
熱でちょっぴり熱くなった階段を弾むように下りてからは、日常をうつす。
様々な展示を、写すことにした。ひとが生みだした『モノ』。人工物と、いのちの保管庫。
(人が滅んだら、此処の生き物も、展示物も、朽ちていくのだろうから)
口には出さずとも。心が痛むようで、金糸は萎れて。それと同時に腹の音もなる。ああ、お昼にしよう。
とてとて、博物館を出た先にあった赤い暖簾をくぐる。大盛りのラーメンと、デザートにアイスクリーム。瓶入りの炭酸飲料。それらも勿論写真に残す。
(……おいしい)
揺れる毛先。しゅわしゅわと、口の中で弾ける冷感。ちょっぴり刺激的な夏の温度。
空が、藍で滲む。
提灯の灯りに誘われるように祭の渦中へ。
掬ったばかりの赤い金魚。大きめにしてくれと頼んでみたわたあめは、ピンクとブルーのとびきりかわいい二色。
日差しを忘れた夜だけが救いなのだと、祭囃子に合わせて踊る人々。
(儚い、な。……刹那的ではない、筈、なのに)
きゃあ、と人込みの中で叫喚が生まれ。どよめきの中に駆けつければ、そっと消えてしまう少女の影に手を伸ばす少年。咄嗟に写真を取れば。
「ああ、今ので最後の写真だった、か?」
ほろほろ、崩れるその身体。
さらに叫喚があがる。祭りの赤に、マリアの身体がとける。きえる。
(マリアの体も、もう……だが、悪くない、ひと時、だった)
●『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)の写真
(何を撮りましょうか)
たくさんではなくて、良い1枚を撮りたい。
なるべく日陰を歩いて、きょろきょろと辺りを見渡して。日射しから身を護るように、ネーヴェは進む。満足いくものを撮る前に、体が崩れてしまったら、元も子もないのだから、少しでも長くここに居られるように。
それに、空気は茹ってしまうほどに熱い。少しでも、涼しい場所を探して歩き続けた。
そういえば、とネーヴェは瞬いた。
(人の集まる場所。えきや、しょっぴんぐもーる?という場所は、多くの人が集まると聞きます。
特に駅は、人が移動するための場所。仕事や、勉強に、行く人も見られるかも。
逆にすべき事を終わらせて、帰路につく人も、いるかもしれません)
二つの耳がピンと立つ。目的地は、そこにしよう。
歩を進める。進んでいく内に、人の流れが、ネーヴェを包んでいた。
(わたくしは、いつもお屋敷から道ゆく人を、見下ろすばかりで……同じ視点に立ち始めたのは、そう遠くない過去)
カメラを構えた。
(だからわたくしは、人を撮りたい)
此処は暗い。
(この場所で、この地を踏みしめて、人が生きているのだと)
日向へいかなくては。
(人々が道ゆく中を撮るには、日陰は暗すぎて)
だから、一歩。
(日の下に出て、その雑踏を、生活を、生きる様を、写真におさめるのです)
シャッターの音が鳴るのと、ネーヴェが倒れるのは同時だった。
手元からカメラが零れ落ちて。人々のどよめきが、混乱した表情が、ネーヴェの赤い瞳に映る。
「あれ、わたくし、どうして倒れているのかしら」
理解が、できない。揺れる瞳孔が、嗚呼、まだ生きていたいと、訴える。
(被写体を探して、カメラを構えて……ああ、そうか。体が崩れてしまった、のですね)
これではもう動けやしない。
ジジ、ジ、と写真が現像される。その間にも、ネーヴェのからだはほろほろと崩れ、足が、膝が、腹が空気に飽和してとけていく。
(あつい、熱い、太陽の光。燃えるような、刺すようなそれを浴びてでも、この1枚を撮れたこと、後悔は致しません)
現像された写真に、触れようとした指が崩れて。ああ、と。笑うしか、なくて。
薄ら、遠のく意識の中で見えたのは。
(ああ、すてき)
なら、きっと。この世界のすてきなもの、残せたかしら。
お休みなさい。どうか、どうか。この写真が、
●『Re'drum'er』眞田(p3p008414)の写真
もう何をやっても死が決まってるならいっそ全力で生きてやる! なんて思ったはいいけれど、何を撮るかは決めていない。
撮りたいと思ったら撮る、気に入らなかったら何枚でも撮る。それで命のカウントダウンが早まるとしても。
(今日見た事、心に残った事、誰かの生きた証、俺の生きた証。全部忘れ去られることのないように)
空は雲ひとつない快晴で、太陽は憎らしいほど眩しい。
(いつも見てる物と何ら変わりないのになー)
と思いつつ一枚ぱしゃり。現像された一枚は、真っ青な空の青が一面に見えるだけ。
「ねえ、キミ。傘はささなくて大丈夫かい?」
心配した街の人が声をかける。が、ひらひらと手を振って笑う。
「傘……はささなくていいや! その方がロックじゃん?」
どうせ今日限りの世界なのだ。両手は自由に楽しみたい。片手は傘で片手はカメラなんて不自由この上ない。
自由に行こう。
進み続けた先。モールで見かけた珍しいグッズ、珍妙な骨董店。
ほんの少し会話した人達、笑って、ほら。はいちーず。
涼を求めて買ったストロベリージェラート、撮り終えた頃には先が少しとけていたり。
たまたま通った電車、小さくなった街並、緑、海。
(リミットがあるってのは分かってるけど、一生ビビってたら何も出来ないし…)
撮った写真をいち、にぃ、さん。どれもこれもお気に入り。
「あー、もう時間ないかも。分からないけど、なんかそんな感じする。やだな、あとなんかあったっけな…」
そうだ。公園!
なんて駆け出した。近くにあった小さな公園。
(どの世界でもやっぱり行き着いてしまうな。でもよかった、こんな日でも人がいて!)
青い花が咲いたその公園。小さな子供たちがきゃあきゃあと叫んでいる。つんざく高温は、今日は嫌じゃない。
「俺、写真が趣味で。よかったら写真を撮らせてくれないかな?」
「うん、いいよ!」
遊んでる所とか、話してる所とか。見せてなんて言われたものだから、はい、と手渡して。きらきらと輝いたその瞳も、ぱしゃり。
(いつ死ぬか分からないのにこんなにも平和なのを見ると励まされた気分になる。もう終わりが来ても、不思議と爽やかに最後を迎えれそうな、そんな感じ)
「俺、他の公園も行ってみるよ。じゃあね!」
「またねー!」
手を振った子供達。公園を出て道の角を曲がる。崩れる視界。
「……はは、此処で終るのか」
まだ行きたいところ、あったんだけどな。
ぼやくように空に溶けた、青い青い夏のゆめ。
●『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)の写真
(……もうすぐ終わる死にかけの世界)
周りを見渡す。
蝉の鳴き声。しなびた向日葵。打ち水の跡。蒸発する汗。
(遺体も全て日射しと共に崩れ落ちる、何も残らない世界。
何も残らないなら、この写真が墓になるのか。なら、たくさん撮らないとだな)
夏の暑さは苦手だけど、たくさんの墓を作って、みんながちゃんと眠れるようにしないと。
シャッターを試しに切ってみる。なるほど、こうなのか、なんて呟いて。
足を進めれば、カンカンカンカンと踏切が降り、電車が駆けていくのが見える。
「運ぶ、運ぶ、日射しに負けずに何かを運ぶ。これも矜持の一つだな」
進み続ける。踏切の先には、小さな街があった。商店街を潜り、まだ残っている人の営みを出来るだけ撮る。
「精肉店、八百屋、鮮魚店。あれは駄菓子屋? いつも通り、普段通りの日常を、終わる世界でそれはひどく綺麗に見える」
鮮明に。ただ、鮮明に。残しておこう。生きていた証を。
残り枚数が少なくなった、気がした。夕が滲む。街を走って出来るだけ高い場所へ進んだ。
そこから下を見下ろせば、鮮やかな橙が街を包む。最後の街と空を撮る。単純なシャッター音。同時、解けるその身体。
(こんなに日射しは強いのに、怖くは思えないのは太陽の偉大さだろうか、それとも人の意地だろうか。
……? ああ……もう帰る時間なのか。身体が崩れる音が聞こえる)
崩れると分かっているなら、こうした終わりも怖くないんだ。微笑んで、崩れていく身体を見る。
時間だ、最後に祈りを捧げよう。
「沈む世界に救いあれ、朽ちる人々に救いあれ。赤き陽と終わる世界にどうか安らかな眠りあれ」
グリムが祈りをささげ。夕が、藍へ、藍へと近づいていく。
夜が訪れた。優しい眠りが、世界を包んだ。
●
ひとびとがすうすうと眠る頃。
ようやく、世界は滅びを迎え、跡形もなくなった。
その世界があったと証明するのは、四人が撮った夏の写真だけ。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
写真の好きなところは、その時間が永遠になるところです。
染です。あの世界を永遠のものにしてしまいましょう。
●目的
写真を撮る
どんなものでも構いません。これあるんじゃね? ってものはあります。
のんびり散策して、食べ歩いても大丈夫です。近くではお祭りもやっているみたいですよ。
●世界観
現代日本、都会より少し外れた近郊くらい。
駅だったりショッピングモールだったりもあるのだけれど、山も海も川も、田んぼもある。そんな心地よいところ。
人はいますが、今の日本ほど多いわけではなく、人口の大半が滅んでしまったものだと考えてください。
それでも人々の営みが変わっていないところには、人々の努力が隠れているのでしょう。
ただいまの季節は夏。くそあついです。ファッキンホット。
●奇病
日射しが原因です。
一定時間日光に当たり続けると、身体がぼろぼろ崩れてしまいます。
また、一定時間当たらずとも、突如崩れてしまう場合があります。
つまりいつ死ぬかわかりません。皆さんもまた、その病気に侵されてしまいました。
●インスタントカメラ
インスタントカメラの最後の一枚が、皆さんのタイムリミット、つまり寿命です。
たくさん撮ってもいいですが、その分早く死にます。
●プレイング
奇病で崩れて死ぬか、カメラの最後が来てタイムリミットのように死ぬか、選んでくださいね。
以下サンプルプレイング。
・奇病で死ぬ
えーっと、俺はあの向日葵を撮ろうかな。よし、上手くとれた。
って、ええ?! なんか身体が崩れて……う、嘘だろ。
でも、ああ、痛くない……。
・時間切れ
あ、インスタントカメラ、もう写真が出てこなくなっちゃった。
……あれ? 身体が……そっか、もう帰る時間なんだ。
楽しかったなあ。
以上となります。皆様のお越しをお待ちしております。
Tweet