PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<半影食>逆さ雨と逆立ちの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●R.O.O.Ver.2『帝都星読キネマ譚』(裏)
 『ネクスト』の世界を、今2つの事件が賑わせている。そのひとつが、神咒曙光(ヒイズル)における『諦星』の到来だった。
 現実世界とは異なり、安定し素晴らしい統治を実現したかの国は、『絶望の海』を自力で踏破した『航海』(セイラー)との交流によって大いに栄えることとなり、慮外の発展を遂げたのである。
 ……が、そこには『現想怪異:夜妖(ヨル)』が姿を表し、天香遮那が行方を眩ませていたのだ。
 そして、その混乱の影響は現実の希望ヶ浜にも波及していた。
 当たり前だろう。
 そも、R.O.Oにおけるイレギュラーズの介入のきっかけは、「希望ヶ浜住民の未帰還」をどうにか引っ張り戻すためのものだったのだ。
 それが散発的、輻輳的に続けばどうなるか……メディアの介入だ。

 ――依然として、佐伯製作所にて発生していると思われる大量行方不明事件では被害者の行方の大多数が分かっておりません。佐伯製作所広報本部によりますと……。
 ――ネット上ではオンラインゲームに閉じ込められただなんてアニメのような話や人体実験など荒唐無稽な話も出ておりますが……。
「行方不明だって、怖いよねぇ」
「ホントにね。ゲームとか、私達はキョーミないけど」
「いえてる」
 街角で流れる報道に、傍らを行き過ぎた女子高生3人組――希望ヶ浜の生徒たちははそれを一笑に付した。
 彼女らの手には、流行の最先端……とも言えぬか。台湾果茶(タイワンカチャ)が握られている。スイカとか、オレンジとか、マンゴーをジャスミンティーに合わせたフルーツティーと呼ばれるものだ。
 爽やかな味わいが口の中に広がる。広口のストローの端に引っかかった果物の切れ端を、少女の1人は口惜しげに舐め取った。
 空は高く夏は盛り。こういうときは、きまって酸味の強い果物が好まれる。まるで●●●のようではないか、なんて別の女子高生がふと、思った。

 ――おぎゃあ。
「え、何か言った?」
「なにも」
「なあに幻聴? まだそんなトシじゃないでしょー」
 あらぬ連想をした女子高生の耳元に、声が聞こえたような気がした。それは×××のようでもあり、酷く引き歪んだなにかのようでもあり。
 ――おぎゃあ。
「……聞こえた?」
 3人が一斉に聞き返し、「やっぱり」と言い合った。驚きの余りか、手元から果茶が取り落とされ、そしてパッションフルーツ味とオレンジ味が、一瞬にして地面に吸い込まれて消えていった。
 よく見れば、足元はすっかり黒く、否、鉛のような灰色が広がっていた。まるで、足元にあるのが雨雲のようではないか。
 ぴちゃん、ぴちゃんぴちゃんぴちゃん――と、女子高生の足元から水滴が弾ける。あたかも頭上めがけて地面から飛んできたようなそれらは、またたく間に勢いを増し(しかし彼女たちの下半身は避けて)空へと。
「まって」
 女子高生が悲鳴にも似た声をあげた。
「この水、なんか赤いし、ぬめってるし、その――アタシ、保健体育で見た気がすんだけど」
「そ、そんなワケないじゃん。足元から雨はふんないじゃん? それが人の……なんて、ねえ?」
 ――おぎゃあ。
 いよいよもって、彼女たちは自分を誤魔化しきれなくなった。
 おぎゃあ、おぎゃあおぎゃあおぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあああああああああああああああああああああ。
 空に、否。『地上』には沢山の赤子が待っていて。
 彼女たちは地面に向かって逆しまに降り注ぐ雨のなか、それが自分達の足元から満ちていくような錯覚を覚えていた。
 宛ら――それは、羊水のように居心地が。
 そして赤子が、降ってくる。


「悪性怪異の正体については今ひとつ私も分かっていません。ただ、音呂木さんの言葉を借りるなら『真性怪異』、つまるところが『神様』が一枚噛んでいるそうです」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)も又聞きの聞きかじりでしか知らない情報を、ページを捲りながら読み上げる。どうやら、専門外ということらしい……だが、『日出建子命』(ひいずるたけこのみこと)と呼ばれる真性怪異が活性化していること、希望ヶ浜各所にある「日出神社」を入り口にして『異世界』へ向かい、事件を解決するのが現状打破の一助になるだろう……そういうことらしかった。
「既に女子高生3名の行方不明の報が届いています。これが発生から……18時間ほどですね、経過しています。私の見立てでは、夜妖だけなら兎も角『真性』絡みとなると早急に救出しないと危険ではあろうと思っています。音呂木さんからは、これを預かりました」
 そう言って、三弦はちりん、と鈴の音を響かせる。音呂木ひよのから預かった鈴らしく、これがあることで異世界からの帰還の可能性を大幅にあげられるのだとか。
「推定される夜妖は、赤子の姿をした何某かです。まずは女子高生3名に張り付いているそれらを蹴散らし、……それから一目散ににげてください」
 全滅ではないのか? とその場にいた1人が問う。が、三弦は「今の話を聞いていましたか」と、やや棘の感じる言葉で返した。そこまでいうことはなかろうと、あなたは思うだろうか?
「私達の側に『降りてきた』なら、それはただの怪異として処理できます。ですが、逆さまの空を踏んで立つ世界で、地面から、空に、向かってくるような赤子の集団――こんなものが『悪性』如きの名を背負うでしょうか?」
 もしかしなくてもこれは『神異』で、人のもとに降りてきたから倒す目があるだけで、神の威とはいつまでもどこまでも――。

GMコメント

●Danger!(狂気)
 当シナリオでは『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●成功条件
・女子高生3名の救出
・「すがりついた赤子」の全滅
・「降りてきた赤子」をその時点で8割以上討伐した上での撤退完了

●戦場(『異界』)
 足元が曇り空、頭上が地上。『決して頭上を見上げないで下さい』。『決して上の泣き声に反応しないで下さい』。
 赤子達は地面(空)に落着して皆さんに襲いかかってくることで『夜妖』として認識されます。
 女子高生たちのもとへはターン消費なしで接近できます(副行動も使用しません)。
 脱出位置は鈴が教えてくれるでしょう。振り返らずに走って。

●女子高生+すがりついた赤子
 異世界に巻き込まれた女子高生達。理由等は不明。多分ないのかもしれない。
 彼女たちの手足、もしくは顔や体には嬰児よりもさらに小さい赤子がすがりついています。リプレイ開始後アクションを起こさず10ターン以上放置した場合、救出は絶望的となります。
 なんらかのアクション、攻撃や呼びかけなどをすれば一先ず即失敗フラグを踏むことはないでしょう。
 赤子達は地面に落ちたら女子高生をまっさきに狙います。すがりついた後の耐久力はないに等しいですが、張り付いている間(イレギュラーズに対して)は、強力なHP/AP減少BSが抵抗の余地なく発生します。
 識別つきスキルなどで一掃すべきでしょう、もしくは『スピーカーボム』を始めとした相手に訴えかけるスキル系統の仕様で遅延させられます。

●おちてくる赤子(毎ターン。落下位置ランダム、10体/ターン~)
 空に向かって落ちてくる赤子達。何を意味しているのでしょうか……。
 神秘系の攻撃に優れ、Mアタックが強烈。混乱系列のBSも使用したりします。

●地面(頭上のこと)
 改めて申し上げますが、『見上げてはなりません』。

●音呂木の鈴
 所持することで真性怪異のフィールドから戻ることが出来る確率があがるアイテム。ひよの→三弦→皆さんの経路で託されました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <半影食>逆さ雨と逆立ちの完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
古木・文(p3p001262)
文具屋
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形

リプレイ

●+00:00:10
 少女達には「そう」される謂れはなかった。
 少なくとも、彼女達は希望ヶ浜にいがちな清廉潔白な面々であり、何らかの『穢れ』を背負っていたわけではない。
 だが、単純に――赤子とか、胎児とか、妊婦とか。そういったものを連想するものに触れ、それを認識したことで、そして『建国さん』に近づいたことで、そのイメージが顕在化したに過ぎず。
「なに……これ、なんなの?!」
「分からないわよぉ!」
 少女達が混乱の中叫ぶけれど、背中をちくちくと刺すような、上から降り注ぐ視線のようなものは痛いほど感じている。だからだろうか。見上げたいけど、見上げてはならないと、本能が警鐘を鳴らし続けているのは。

「もう大丈夫! 助けに来ましたよ!」
 だからだろうか。
 『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)の発した、殊更に大きな、張りのある声が泥濘から引っ張り出すような力強さを伴っていたように感じたのは。

●-00:05:00
「女子高生3名を救出して、『異世界』から連れ戻してくるのが今回のオーダーね。ただし元凶は神様で、敵は赤ちゃんの姿をしためちゃくちゃヤバい奴ら、と」
「最終的に相対せねばならないとき、どうするべきなのでしょう」
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が与えられた情報を整理し、その脅威に改めて顔をしかめる。『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)はそんな蛍を気遣わしげに見つつ、何れ訪れる何某かとの対峙に思いを馳せる。相手の脅威性は考えるまでもないが、出現する相手、それを認識することそのものにリスクを有するということは、真性怪異と呼ばれる所謂『神』とどう向き合うか、を一考する機会でもある。
「逆さ。降る。堕ちる。あァ、『特段』狙われた理由は無いかもしれんが傾向はあるかもしれんね」
「赤子か……正直、赤ん坊が落下してくるという光景がすでに精神的にキツイね」
 与えられた情報、状況を思えば、『闇之雲』武器商人(p3p001107)にとってこれほど簡単な謎掛けもないものだ。そういう相手なのだと分かれば、対策も……それが確実であろうとなかろうと、思いつきはする。
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)にとっては其れ以上に、己の過去を揺さぶる感情が芽生え、泡のように消えていく錯覚こそが気持ち悪く煩わしかった。あたかも自分を見透かすような相手の存在、能力。気持ち悪いことこの上ない。或いは彼女も、これから相対する赤子達からすれば狙い目なのかもしれず。
「『かみさま』、いや真性怪異という呼ばれ方をしていたか……妙な縁が出来たものだな」
「神域ってのはどうしてこーも常識が通じねぇのかね。足元は空か、これじゃ落ちていっても……」
 『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)と『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は(というか2人に限らずとも)真性怪異に深く関わってしまっていた。それ故に被った出来事は数しれぬが、今まさに希望ヶ浜の人々が同じかそれ以上の悪意に晒されているとなれば、両者が動く理由は十分だ。
「逆さまの世界、今回は空を見あげない方が良いという話だったね」
「余計なことは考えちゃいけねぇ、連想もしちゃいけねえ、こういう奴等は隙を見せたらどこまでも引きずり込んでくるはずだ」
 『踏み出す勇気』古木・文(p3p001262)は正面より上に視線をあげず、そして遠くの地面(そら)も見上げぬように警戒しながら進む。見てはならぬものを見ぬように。目に入った情報を選択的に『捨てる』という行為は簡単ではなく、だからこそ、この異界は脅威に満ちている。
 ニコラスも文に助言を与えつつ、殊更慎重な態度を取っている。過去の苦い経験が、彼の異界に対する警戒心を最大限まで上げていた。
「華のJKを脅かすとは……! 不届き者め……!」
「……そっちは問題なさそうだけどな」
 とはいえ。
 脅威や警戒を忘れず、しかし義憤が上回れば話は別だ。こと、ウィズィのような手合いはその精神性を損なわぬ方が有効に働くことすらある。
「……ヒヒ、話を聞いて分かっちゃいたけど、無垢な姿というのはそれだけでタチが悪いね。吟遊詩人の旦那、そっちは任せたよ」
「赤子の叫び声はセッション相手に宜しくない。相手が去らぬなら俺達がこの場から立ち去るしかないだろう」
 武器商人とマッダラーは短いやり取りを交わすと、ウィズィの大声に合わせるように動き出す。女子高生達に群がる赤子をウィズィが蹴散らし、ついで蛍の護衛をうけた珠緒と武器商人の2人が神気閃光で漏れをカバーすれば、地面から誰かに縋ろうとする個体をマッダラーが刈り払う。
「落ち着けとは言わない、ただ上を見るな、見上げるな。それだけを徹底すれば家まで帰すと約束しよう」
「旦那の話はきちんと守ったほうがいいさね。我(アタシ)達はキミ達を無事に帰すのが仕事だからね」
 マッダラーはその大柄な体で少女の視界を隠し、武器商人は後ろから目隠しをする格好でいらぬものを見る前に視界を塞いだ。怯える声に寄り添い、少女の手に握らされたのは鬼灯だ。
「ま、本当に気休め程度の意味付けのお守りだがね。無いよりはましであろ」
「三人ともよく頑張ったね。家に帰るまで、もう少しの辛抱だよ」
「え、この声……」
「古典の……?」
 文の優しげな声に混じって流れ出す呪歌は、彼女達を無為に怯えさせることなく、周囲の赤子達を消し去っていく。グロテスクな死に様ではなく、幻のように消えるのが唯一の救いだろうか?
 非日常の中に差し込んだ『教師』という日常の一片は、彼女らに僅かなれども落ち着きを与えた……ようでもあった。

●→+00:01:00→
「貴女達! すぐに助け出して元の世界に連れ帰ってあげるから、気を確かにもってね!」
「珠緒達が護るといったら絶対に守ります。勿論、珠緒を守ってくれる蛍さんも」
 蛍は少女達に力強く言葉を投げかけながら、珠緒に近づく赤子達を受け止める。彼女に触れた赤子達はその反動で己に降りかかる痛みに耐えきれず泣き声をあげるが、程なくしてその泣き声も沈静化する。珠緒が長く蛍に縋り付く相手を許さず、蛍が痛みを返してくる脅威から、である。
「こんなキモいのは私達が追っ払うからね、任せて! 皆はこの猫についていけば大丈夫!」
「は、はい……あ、ちょっと可愛い……」
「可愛い猫ちゃんでしょ!そちらの商人さんに貰ったんですよぉ」
 巨大なナイフを振るって赤子達を打ち払うウィズィを離れ、ねこのダンシェットが少女達へと歩いていく。その目を引く存在感とねこの可愛さは、半信半疑の状況にあって少女達に『信じてもいい』という確信を齎す。……無論、縋り付いてくる赤子を打ち払いながらの撤退行だ。決して楽なものではない。
「上を見るな、か。たっく。上から敵は降ってくるってのにその大元が見れねえってのは難儀なもんじゃねぇか」
「皆さん、今回の夜妖は小型ですので、撃ち漏らし防止に視認補助いたします」
「皆を治療する意味でも位置情報は有り難い! 傾向を割り出せるかもしれん……!」
 敵を蹴散らしつつ、上を見るな。その冗談めいた状況に舌打ちするニコラスに応じるように、珠緒は己のギフトと技能を総動員して仲間達に敵の位置を知らせていく。全員が一丸となって赤子達を蹴散らしている現状、行く手を阻まれることはないが、どこから少女達に縋り付くかもわからない。神経が張り詰める状況と、精神に揺さぶりをかけてくる赤子の組み合わせというのは極めて厄介な組み合わせだ。
「鈴の音が確かなら、此方へ向かったほうが安全だと思います」
「後ろからゾロゾロ追われるワケだね。本当にこれは」
「黄泉比良坂を走っている気分になるね!」
 珠緒の指示を視界に収め、マッダラーと共に少女を庇いつつ走る武器商人。笑い話ついでに思考を横切った伝承を引き継ぐように蛍が口にすれば、口元を僅かに歪めてみせた。……笑み、と呼ぶにはややいびつだったが、理解したことは伝わろうものだ。
「ぐ、う……怪異とは言え赤ん坊を攻撃するのはキツイね、まったく」
「だが情をうつしゃ直ぐに『連れて行かれる』ぜ。帰るって意思を強く持って、鈴の音を聞き逃さねぇように。泣き声に惑わされねぇように、だ」
 ゼフィラは治療、逃走、視界の制限に加えて赤子を相手にしていることによる精神の負担が一際濃い状態にあった。あからさまな疲弊は、翻って彼女自身の思考が赤子の夜妖に乱される自体を招く。それは、状況の瓦解へと突き進む最悪の想定ですらあった。
「ねんねーんころりーよー……」
「シャボン玉飛んだ……屋根まで飛んだ……」
 が、その混乱のさなかにあって響いたのは、ウィズィの子守唄とマッダラーの童歌。それぞれの歌はもとより声量も違う出鱈目にすら思えるセッションはしかし、降り注ぐ赤子達の意識を覿面に惹きつけたようだった。少女を護るという意味ではマッダラーの身に殺到するのは危険を伴うが狙いを絞る意味では的確で、眠りを誘ったウィズィのそれは――冗談のような話ではあるが――耳にした赤子の何割かに眠りを与え、いっときその動きを奪い去る。
 いっとき。つまりは、消え去るまでの暇である。

●→+00:02:40
 ダンシェットが少女達を先導する形で駆けていき、彼女等を守る形でマッダラーと武器商人がそれに続く。赤子達は降り注ぐや否や少女達に群がるが、2人が割って入る形で受け止めているため、到底役割を果たせていない。それになにより、両者ともに埒外の死ににくさを誇っている。少なくとも、手数で圧倒的に勝る、或いは確率を超えるナニカが無ければ彼等の脇を抜けるのは不可能といっていい。
(考えたかなかったが……こいつら、まるで水子みてぇじゃねぇか)
 ニコラスは思考の裏にこびり付いたイメージを何度も何度も振り払おうとし、しかしこびり付いた小片ひとつの、宛ら蟲の死骸をつまみとってしまったかのような不快感を脳裏に感じた。
 仲間が既に何度も示唆していた。口に出さずとも思考として漏れ出ていた。だけど、それを『そう』だと認めることはどうしてもしたくなかった。生き汚さの顕れだと、それらを笑うことはできないのだから。
「博徒の旦那」
「分かってるって。……面倒臭ぇけどな。悪りぃが俺はお前たちを助けない。お前らが望む何かは渡さねえ」
 武器商人が何かを察したように声をかけるが、ニコラスの表情はすでにいつもどおりの、無頼漢じみたニヒリズムを湛えている。雑に振り払った大剣から溢れ出た魔弾の群れは一条の光に撚り合わさり、視界の隅で狙いを定めた赤子達を塵へと変えた。
「皆さんの体力は……大丈夫、とは言いたくありませんが逃げ切るのに支障はなさそうですね。君達も、あと少しの辛抱だよ。死ぬほど辛いだろうけど、死なせはしないから安心して」
 文は仲間の状態を見て、『芳しくはない』と判断した。精神の堅牢さ、リカバリーの速さでだいぶカバーしているが、それでも治療しきれないレベルの被害は生まれている。倒れないのは、各々の義務感と文のカバーリングが確かであること、そして運命の加護があっての結果といえた。
「絶対に皆さんのようなうら若きJKは傷一つつけませんからね! こんな赤子達に渡していい命じゃないんですよ!」
「あと少しだから、気を確かに持ってね……きっとここから連れ出せる!」
 ウィズィと蛍は少女達に声をかけ、問題ないと言い聞かせた。赤子達が何を求めて寄り付くのかは知らないし知りたくもないが、それらを蹴散らしてでも自分達が少女を助ける、というエゴありきで行動している。理解の及ばぬ者に寄り添えるほど、彼女等は優しくもなければ、それらを拾い上げる程優しくもない。理解しては、いけないのだ。
「俺達から離れるなよ。俺達は離れない。誰かが逸れれば、助かるとは言ってやれねぇ」
 ニコラスのいっそ冷徹ですらある一言を肩に受けつつ、少女達は走った。背後はきっと得体のしれない状況で、足を止めれば、破滅は免れない。喉が狂い、肺が口から出そうなほどに血液が跳ね回る。耳に響く鈴の音は、全く聞こえなかった状態から、今や耳の奥を支配する程に大きく感じつつある。赤子の声を振り払うように。
 おぎゃあ。
 その声は心底悲しげに聞こえた。最後までその顔はみなかったけれど……きっと、泣いているのだから悲しい顔をしていたのだろう。
 希望ヶ浜の教師や、よく知らない誰かの後ろを必死に走り、背中を守られながら、ただ前だけを見ていた。
 異様な雰囲気と、抜け落ちそうな足元の空がアスファルトの黒に変わるまで、そこからさらに十数秒を数える必要があった。

●Over
「命というのは何処から来るものなのだろうな」
「あの世界が異常なだけ……とは、言い切れないんですよねえ」
 少女達が去っていく後ろ姿を眺めながら、マッダラーはぽつりと零す。
 『豊小路』が異常であることは疑いようがないが、それだけがあの夜妖を生んだわけではないことはウィズィも理解している。彼女達に非がなくとも、何某かの引き付ける要素があったことは疑いようもない。
「敵が赤ちゃんみたいだったし、あの脱出もなんだか誕生の瞬間みたいかも――」
「忘れましょう、蛍さん。それ以上考えるのは危険かもしれません」
 赤ん坊が空へと堕ちる途上で人にすがり、それを見捨てながらの逃避行。それが示すものに思いを馳せようとした蛍の思考が一瞬白化する。即座に珠緒が止めなければ、或いは至ってはいけない想いに辿り着いていたかもしれぬ。
「ひとまず、皆戻ってこれてよかったよ。ちょっと、体が痛いけど……」
 肩を回してひと仕事終えたとばかりに息を吐く文を見て、一同はまったくだと同意を示す。
 ひとまずは、あの悪夢の光景からは免れたとみていいのだろう。次がどうかは、別として。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)[重傷]
夜明け前の風

あとがき

 気付こうとするのもあぶないかもしれません。

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