PandoraPartyProject

シナリオ詳細

つきのないよる

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●殺人鬼
 その夜は、雲一つ無い夜だった。
 月の出ない、静かな夜だった。
 空は黒く塗りつぶされ、地を照らすものは閉じられた窓からの漏れ日だけだった。
 そんな闇を歩けば自然と、不意に、不安が襲ってくる。
 自分はまっすぐ歩けているのか。
 いやもしかして、落ちているのではないか。
 踏みしめているのは、本当に地面なのか……。
 明かりがない。それは、それだけで人を不安にさせる。
 ここは闇、化生の世界。
 後ろに誰かいる気がする。あの建物の角に潜んでいる気がする。上からなにか、気配がする。
「そんなわけない」
 ははは。
 笑う。誤魔化したいから、笑う。
 妄想も大概にしろ。
 そんなこと、あるわけがない。
 大丈夫、大丈夫。進めば、大通りに出る。街灯に照らされた、人が生きる世界に出る。
 そこならこの不安とは、さよなら出来るはずだ。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
 早く出なければ。足を早め、不整に脈打つ鼓動を静めなければ。
 背後に物音がする。進む角に人が見える。上空から影が射す。
「ーー誰か、誰かいるのか!」
 耐えきれない精神は、安定を求めて声を出させた。
 何があるにしろ、無いにしろ。事実を求めて叫んだ。
 あると分かれば対策出来る。無いと分かれば、安心出来る。
「は、いるわけ、ないよな」
 反応はない。当然だ。ただの不安から来る疑心暗鬼、妄想、幻覚だ。
 膝から抜け落ちそうな活力を留まらせ、はやくここからーー
「いい夜だね」
「あ、ぇ?」
 ずるり。
 なにか、滑り落ちる。
「死には闇が似合う。きっと君を、すぐに冥府へ連れていってくれるから」
 それは、体の中から出ていくものだ。
 裂け目が出来た腹から、溢れていくものだ。
「さよなら、名も知らないあなた。そしてこんにちは、死体となったあなた」
 ドシャリと落ちる、温かい血溜まりの上で、冷えていく体の熱を感じながら。
「閻魔なんてものがいるのなら、よろしく言っておいてくれ。また会おう」
 その言葉を聞きながら、ソレは闇に飲まれた。

●事件発生です
 ここ最近、幻想内で事件が起こっていた。
 月が欠けていく夜、新月の前後に必ず人が殺されるという事件だ。
 手口は毎回異なる方法を使われ、単独犯とは思えない。が、皆人気のない闇のような暗さの場所で襲われるという共通点から、何らかのグループが関わっていると推測される。
 そして今回、その犯人に繋がるタレコミがあった。
 次に襲う相手と場所を知っている、と。
「君たちはその現場に向かい、犯行を阻止し、犯人を倒してくれ」
 倒す、というのはつまり、
「あぁ、そう。殺してくれ、と言うことだ」
 過程や手段は問わない。ただ、相手は間違いなく始末する。そういうオーダーだ。
 そこまでの説明を済ませた『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、パタンと開けていた資料ファイルを閉じてイレギュラーズを見る。
 いいか。
 そう前置きした上で彼は言う。
「今回は情報元、依頼人ともに不明だ。報酬も先払いで送られてきている。……怪しすぎて笑えるくらいに、罠の可能性も十分に考えられる」
 良くも悪くも、混沌内でイレギュラーズへの関心は高まってきている。どういう意図があっての依頼でもおかしくはないだろう。
「かといって被害者が出ている以上、ギルドとしても放置するわけにはいかない。現場の君たちの判断でどう動くか決めてほしい」
 臨機応変に……というより、行き当たりばったりだな。
「予測される現場の状況を説明しよう。
 まず前提として、現場に明かりは無いと思ってほしい。かといって、戦闘前に明るくしてしまうと敵は来ない可能性がある。
 それから敵の数は4人、情報は不明だが、生き物を殺すと言う点に関してはプロフェッショナルだ。油断すると、一撃とは言わないが二撃必殺なんて事もあり得るかもしれない。
 そしてこれが重要だが、現場には敵が殺そうとしている一般人が一人いるだろう。これは保護し、逃がしてあげてくれ」
 つまる所要点としては、一般人を襲おうとしているところに乱入し、明るさを確保した上で、一般人を逃がして4人の敵を殺す、と言うことだ。
「現場は狭い路地だ。多くは無いが横道もある。メリットもデメリットも、それなりにあるだろうから、よく考えて動いてくれ」

GMコメント

 と言う感じでユズキです。
 暗殺者って感じもするしただの殺人鬼かも知れないしもしかしたら組織化してるかもしれません。
 真相を知ることはまあ、あまり重要ではないと思われます。

●情報精度
 私にしては珍しく今回はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点はあります。

●依頼達成条件
 一般人を守り、4人の敵を確実に屠る。

●敵・ポイント
 闇に紛れて人を襲うグループ。
 目的等は不明。
 攻撃方法等詳しいのは不明ですが、全員近単・至単のレンジでしか戦いません。
 その分機動力が高い、クリティカル率が高い、と言う強みがあります。現場も彼らの得意なフィールドと言えるでしょう。
 単純な数の有利に傲らず、最善を尽くして戦ってください。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしてます。
 

  • つきのないよるLv:2以上完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月30日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)
幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
七鳥・天十里(p3p001668)
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
一条院・綺亜羅(p3p004797)
皇帝のバンギャ

リプレイ


 月の無い夜を疾走する。
 依頼を受け、事件が起こる前に現場へと急ぐのは、イレギュラーズの八人だ。
 予定された通り魔殺人。
 矛盾しかない言葉だが、実際そうなのだからどうしようもない。
「罠の匂いがぷんぷんするぜ……」
 向かう先、濃くなる暗闇の密度に、『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)は予想を口にする。
 その声に、並走していた『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジキタリス・アストランティア(p3p000892)もそうですね、と言葉を作り、しかし、と続けて、
「如何な思惑や心算があれど、依頼であればそれを全うするのみです」
 それが受けた側の責務だと、彼女は言う。
 少なくても、依頼する位には「ギルド・ローレットを買っている」という事に間違いはない。
「これが罠だったら……」
 アイリスの考えに、『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)は少しだけ目を伏せる。
 考えるのは、これから待ち受ける戦いの事だ。罠にかかり、自分や仲間が傷つくかもしれない事もそうだが、敵である相手を攻撃し、命を奪おうという事への考え。
 ……怖い。
 恐れはある。痛いのは嫌だし、人を傷つけるのも。だけど、
「なんの罪もない、無辜の人達の命はもう、奪わせちゃいけない……!」
 それ以上に、殺人鬼への怒りがある。
「ま、罠だったとしてもかかった上でさ、踏み壊してやろうぜ!」
「はい! 物を壊すのはいけないと思いますけど、今回は大丈夫ですね!」
 変なところで真面目な人だ。
 ルウの豪気さに触れる蛍を見て、そう思うのは後ろを行くリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984) だった。
 風に浮く帽子を手で押さえながら、彼女は思考する。
 ……不可解です。
 伝えられた情報と予測される現場、しかし狙われた筈の一般人がもしかしたら……。
「護衛対象も実はグル……って、まさかですよね」
 リースリットの思考を読んだわけではないだろうが、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)も不意にそう呟いた。
 考えていたらキリが無いです。と、想像の域をでない推測が幾つもあり得る位に怪しい依頼なのだ。
「何もかもが解らなさすぎるです……!」
「とはいえ」
 とはいえ、だ。前の仲間が言うのと、結論はあまり変わらない。
「私達がどうするのか。わからないなりに、それ自体は何も変わりませんね」
「やるべきことをやる、ですね」
「ええ」
 なにかが解るとするならそれはきっと、戦いの中か、もしくは、全て終わったその時だ。


 彼の夜は静かなものだった。
 月の浮かばない夜、いつもは降る月明かりの光条を望めない夜。
 不気味とも、静謐とも言えるその時間に、彼は道を行く。
 待ち受ける災いなど、まだ知らないままに。


 光りが無いとは、しかし、イコール何も見えないとはならない。
 暗順応という、暗闇に目が慣れると言われる機能が、動物には備わっているからだ。
 だから、イレギュラーズの見る暗闇には、標的にされる一般人の男がはっきり見える。
 さらにはその奥、一般人を追う様な影も。
 闇にあってもなお影と評せる漆黒が、一般人に迫っていくのが、イレギュラーズには見えていた。
「通り魔は既に来ているようようですね」
 くふっ。
 そう笑うトリッパー』美音部 絵里(p3p004291)は、他の皆よりも少し、胸を踊らせて足を早める。
 怪しい所は多々散見されるが、それよりも何よりも、彼女にとっては【お友達】を増やせる機会なのだ。
 だから、色々考えるより先に、その楽しみを思って笑う。
「ーー庇うよっ」
 とにもかくにも、敵から被害者を守らないといけない。
 真っ先に行く七鳥・天十里(p3p001668)は、影が見える方向をカバーするように一般人の前に立つ。
「四人いるはず……!」
 蛍が警戒を促しつつ、一般人を守る為にイレギュラーズは配置へと急ぐ。
 行く正面を立ちはだかるようにして塞ぎ、来た道を迎えるように反転して襲撃に備えた。
「え、え……え?」
「まだ死にたくないじゃろ? 少しばかりじっとしとれよ」
 いきなり出てきた変な集団に囲まれる。それをされれば、一般人である男性が動揺するのは当然だ。
 だからと言って一から十まで説明もしていられない。
 ……というかわらわ達もよくわかってないしの。
 致し方ない。と、『鉄乙女』一条院・綺亜羅(p3p004797)はそう思い、息を吸って声を作る。
「御用じゃ御用じゃ!」
 張り上げる音と同時に、イレギュラーズ達は向かってくる影へと隠していた灯りを掲げた。


 暗順応とは逆の意味を持つ言葉で、明順応というものがある。
 それは、暗いところへいきなり明るい光を受けた時に起こるものだ。するとどうなるのかと言えば、つまり、
「ーー!?」
 とても目が眩む。


 細めた目を開け、まず確認するのは一般人の安否だ。
 イレギュラーズと同じように、突然の光に目を奪われた彼は踞って顔を覆っていた。
 ……無事だ。
 ホッと息を吐く、などという間はない。襲撃者である敵からの攻撃が、何時来てもおかしくないからだ。
 だから、チカチカと視界の揺らぎが収まり切らない内から、イレギュラーズは辺りを見回した。
「……ぁ」
「ーーぉ」
 そして見つけたのは、同じように目が眩んでいたであろう殺人鬼の姿だ。フードの影から見つめる目と交錯する。
「!」
 そうして動いたのは、同時だった。
 正面から行く敵の数は二人。それを迎えるのは、ルウだ。
 明かりに照らされて尚、漆黒の大槌を握り、敵の前へその身をさらけ出す。
「はん! 暗がり好きのクソ野郎共め! 来るなら来やがれ!」
 安い挑発だ。
 しかし、敵はそれに乗った。
 腰に下げた長めのナイフを抜き、駆ける動きでルウへと迫る。
 前のめりに突っ込み、頑強さを誇る彼女の体に刃を突き立て、そして、
「この程度ならっ」
「ーーいや、まだじゃ!」
 何かに気づいた綺亜羅の声に引かれ、ルウは見る。
 自分に刃物を突き立てる男の後ろ、黒衣の衣装を着たもう一人の敵が、その身に加速を追加して駆けるのを、だ。
 その狙いとは。
「踏み台にして跳び越える気か!」
 言葉通りの動きが起きた。
 ルウの頑強さを利用して身体を固定させた男の背中に足を掛けて登り、肩を踏み締めて空へ跳ぶ。
 一般人を守る様に居たイレギュラーズさえ越え、殺人を為そうとするその飛距離に待ったをかけるのは、比較的に一般人に近かった利香だ。
「色々思うところはありますがっ」
 守れなければ意味がない。
 だから、彼女は敵の凶刃の前へと飛び出した。
「目障りだな。先に消してやる」
 それを見た男は、忌々しげに言葉を吐き捨てて迫る。
 そもそも空中から更に方向を変える事も出来ないのだから、目の前の利香を倒して行くしか、彼にも道はないのだ。
 だから、迫る。
 落ちる慣性に任せ、黒衣の袖から取り出す己の武器を振り上げた。
「獣種、ですか」
 それは、鋭く伸びた爪だった。
 腕は濃い体毛に覆われ、しかし発達した筋肉を思わせる。
「……!」
 それが、利香の肌を切り裂いた。
 五指から伸びる爪が、柔らかい肉に線を残し、そして。
「なに……?」
 その傷が、跳ね返る様な軌跡で獣種の男の腕を裂いた。
 更に言えば、血を吹き出した利香の傷は、少しずつだが塞がり出している。
「4、5回も耐えられれば十分です……!」
「は、よく言うぜ」
 思う以上の耐久力と能力だ。と、評価を改めた男は着地から、再度の突撃をしていった。

 正面での突撃からほんの少し遅れて、後方でも襲撃が実行されていた。
「すみません、少し任せます」
 そう言葉を作るアイリスは、背を向ける。呼び出したアンデットを背中に張り付けさせて万が一に備えた彼女は、手にしたポーションの薬瓶をルウへと投げる。
「無茶がすぎませんか……」
 攻撃に偏らせたスタイルのルウは、他の面子に比べると防御という面である意味脆い。
 必殺の一撃がありえる相手には、できるだけ十分の状態を保つべきだ。
 だから、癒す。
「戦闘不能にはまだ早すぎますからね」
 そう、まだ戦いは始まったばかりだ。
 初動を誤れば、窮地に陥る可能性もある。
 そう思うから、蛍は最初の一手を少し悩んでいた。
 一般人を中心にする位置は、横道がある場所からは少しそれた真っ直ぐな道だ。狭い幅員ではあるが、脇を抜けてきたり、上からの奇襲もありえる。
「抑えに行きます」
 カンテラに照らされる襲撃者の残り二人とは、まだ距離があった。単位にしておよそ3mほどだろう。
 ならばと、先手を取って動きを制限させにリースリットが行く。
「わたしも」
 その背を、絵里が追った。
「生物を殺すプロ……急所狙いが上手い、とかですかね?」
「警戒して行きましょう」
 ちらりと振り返るリースリットの目が絵里を捉え、そして蛍を見る。
「……うん」
 その姿を見て頷いた蛍は、右の手甲を敵に向けて開き、そして術式を展開させる。
「前の二人を抑えて四人……一般人さんには逃げてもらおう」
「全員抑えられれば、奇襲の心配も無いねっ」
 発動する毒霧が敵を包み込むのを確認すると、天十里が先導するように横道へと一般人を歩かせる。挟むようにして綺亜羅も付き、有事の備えとすれば、逃げるのに障害は無いだろう。
「あ、ありがとうございます……!」
 状況もよくわかっていないだろうが、それでも頭を下げる一般人に綺亜羅はひらひらと手を振って送り出す。
 そして、一息を吐いて、
「さあ、こっからは遠慮なくやらせてもらうとするかの!」
 勇ましく駆け出した。


 守らなければならない対象がいなくなった事で一転、攻勢に出る。
 抑えはそのままに、しかし目的を撃破に切り替え、前へ前へと攻めていく。
 が、それは敵からしても同じだ。
 最優先すべき相手を失う事で、目の前の邪魔物を全力で仕留めにかかる。
「アイリスさん」
 戦場の中心。今回で言えば後衛の位置となるそこで、蛍は状況をみていた。
 目まぐるしく変わっていくのは、仲間の体に増えていく浅くない傷の量だ。
 ……これじゃ追い付かない。
 アイリスと二人で回復を受け持つ蛍だが、その作業は余り上手くいっているとは言えない。
 それは、アイリスもわかっている事だ。
「……回復が追い付かない人は、後回しにしましょう」
 だから、彼女達は優先する相手をそう選択した。
「っおらぁ!」
 もっとも傷が深いのは、やはりルウだ。
 やられる前にやる。
 その考えで、彼女は大槌を振り下ろす。
「真っ向から喧嘩も出来ねえ野郎が、コソコソ人殺しなんかしてんじゃねぇぞ!」
 空間ごと押し潰す様な重圧を、爆裂する魔力を纏わせて叩きつけに行く。
「なにそれ」
 だがそれを、目の前の男は前へ行くことで回避した。
 槌の柄の間合い、至近よりも更に至近へと入り込み、ルウの鳩尾へナイフを突き立てる。
「正面から殺す。隠れて殺す。どっちも等しく命を奪う悪だろ」
 がふっ。と、口から血を吐くルウへ男は言う。
「そっちが俺達を殺すのは仕事。俺達が人を殺すのも仕事。……それだけだ」
 引き抜かれ、空いた穴から鮮血が噴き出す。
「殺すしか能がないわけではないんじゃが!」
 その横合いから、綺亜羅は盾を前にして突撃する。
 叩きつける様に男の体にぶち当てる盾には突き刺さるような突起があり、刺と打の一撃に加えて更に、
「脳筋奥義……!」
 咲く様な魔力の放出を持ち、男の半身を弾き飛ばした。
「……言いたい事は終わったかよ」
 ゆらり。
 意識が一度飛び、それでも闘志を燃やしたルウは、もう一度大槌を振り上げる。
 陽炎の様に揺らめく真っ赤なオーラを昇らせ、綺亜羅の一撃で体勢を崩した敵の頭上から、
「墓場の下まで、叩き落としてやるぜ……!」
 潰した。

 利香と獣種の相対は、激しい動きの割りには地道な消耗戦になっていた。
 お互いにダメージは多いが、利香の傷は自己再生の能力で少しずつ癒え、また獣種の傷は反射されて付いた微量なものだ。
「4、5回とかサバ読み過ぎだろ……!」
「そんなこともあります!」
 そもそも利香の狙いは、現段階での撃破では無い。
 悪ければ相討ちというだけで、持久戦を選んだ本当の訳は、
「僕も援護するよ!」
「待ってましたっ」
 一般人を逃がし、敵の数を減らす為攻勢に出た天十里の助勢を待っていたのだ。
 近くでは更に、ルウと綺亜羅も戦闘を終わらせようとしている。
「悪者相手に容赦はしないよー!」
「上等……!」
 銃を両手にする天十里の間合いは、しかし、ここに来ては近距離だった。
 狭いフィールドでは長いレンジは活かしにくい。そう判断した上での選択だ。
 獣の爪に肉を裂かれながらも銃口を突きつけ、天十里は接射する。
「ぐぉ……!」
 文字通り火を噴いた一撃は、獣種の体表を一気に燃やし黒煙をあげさせた。
「そろそろ終わりにしましょう?」
 そこへ、利香が行く。
 手に装着された鉤爪をダラリと下げ、引っ張る様にして接近する。
「テメーー」
 迎撃を。そう思う獣種が見たのは、先程まで対面していた利香ではない。人外の姿を晒した、夢魔としての利香だ。
「ふふ」
 下から上へ。爪の線を獣種の体に刻み込んで笑う。
「さようなら、よ」
 そうして、青い肌に真っ赤な鮮血を飾り付けた。


「ここから先には進ませないのですよ」
 二人の敵を撃破する最中を、絵里とリースリットが支えていた。
 数を減らす目的なら、彼女らもそちらに加わるべきだったのだろうが。
「……逃がした一般人を追われても困りますしね」
 逃げた横道は彼女らの後ろだ。ここでマークを外すのは得策ではないだろう。それに、蛍とアイリスの癒しも十分届く。
 だから、
「行きます!」
 絵里は接近を選ぶ。
 二本のレイピアを持って、正面からの攻撃を試みる。
 行く。
 刺突を主な狙いとして、水平に構えるそれを突き出しながら迫った。
 それを、敵は体を横へ動かして回避とする。ただ横へ行くのではなく、前へ出るようにして、だ。
 そうして絵里の横に位置した敵は、両手に握る両刃剣を横に薙ぐ。
「ッ!」
 間一髪。逆のレイピアで凶刃を防ぐ。
 剣身で両刃剣を滑らせ、刃元の鍔で刃を受け止めた彼女は、そのまま敵の武器を振り払う。
「甘いな」
「ぐぅ……!」
 だが敵は止まらない。距離を開けず、真っ直ぐ打ち込む様にして絵里の鳩尾へと、足の爪先をぶちこんだ。
「気を付けて、まだ来るよ!」
 膝を折りかける絵里の耳に蛍の警告が響いた。
 振り上げられる一撃の回避は難しい。だから、
「間に合って……!」
 蛍は青の衝撃を以て、男の体を打ち出した。勢いに吹き飛ぶ男を、気力で追いかけた絵里は再度肉薄する。
 レイピアを一本体に突き立て、壁に縫い付け固定すると、もう一本を喉元に突き刺した。
「……これで、お友達だね」

「イレギュラーズ、ギルドの人達だね」
 リースリットを前にする男は、どこか弾む様な声でそう言った。
「どうしてーー!」
 知っているのか。そう問う声はしかし、最後まで紡がれることはない。
 男の急接近から、遠慮の一切無いぶん殴りが襲ってきたからだ。咄嗟に盾で受け止め、リースリットは手にした柄に魔力を流して刀身を実体化。
 打ち付ける様にしてそれを男へ振り下ろす。
「僕が呼んだんだ」
 その一撃を避けた男は、事も無げに答えを言う。
「……不可解が過ぎます」
 様々な憶測は飛び交ったが、まさか討伐対象がギルド員を呼び寄せるなんて誰も思いもしない。金を払ってまで自分達を殺させるなんて、思いもしなかった。
「理由は聞かないでよ? 必要も無いでしょ」
 やることをやるだけだ、こちらも、そちらも。
 そう解るから、リースリットも質問は増やさない。ただラッシュをかけてくる拳を、その盾で受けるだけだ。
「じり貧、ですね」
 迂闊に攻めに回って一撃をもらうのは避けたいと、彼女は思う。
 だが切り替えるには、敵の手が止まらない。
 だから、
「お願いします」
 と、後ろへ跳ぶ。
 そうして距離を開けるリースリットと、入れ替わるようにして行く影がある。
「なっ」
 それは丸い瓶だ。
 毒々しい色のそれが、追走しようとした男の体にぶつかって割れる。
「今ですね」
 アイリスが放った毒瓶が男の体を焼き、その痛みに止まった一瞬をリースリットは詰めた。
 まず入れるのは、盾での一撃。魔力で強化したそれを胴体に打ち込み、くの字に曲がった体へ二撃目を狙う。
 実体化させた剣での止めだ。
 それを、思いきり踏み込んでから袈裟にぶちこんだ。
「は、流石……」
 笑った様な言葉と共に、男は地面に横たわった。


 全ての敵を排除し、路地裏は悲惨な現場となっていた。自分達を呼んだ謎の依頼人は死亡し、事件は結局、よくわからないまま幕を閉じた。
 ただ一人、絵里だけはギフトの力で得た四つの思念を喜んでいるが。
「これで少しは、闇が晴れたのかな……」
 達成感よりも罪悪感が勝つ蛍の呟きは弱く、その表情は暗い。
 そして、それに答えられる者は、この場にはいない。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
明るいところから暗がり、暗がりから明るいところに行くと、まあ人間って不便なので「目がぁ~」ってなりますよね。
ね!

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