シナリオ詳細
あの日見た額縁のソレイユを君に
オープニング
●芸術通り
人の足音の代わりに、さらさらとデッサンの鉛筆が走る。
絵筆で色が乗る。
一枚の額縁の中に、世界の全てが詰まっている。
幻想のとある通りのことを『デタラメ芸術市場』と人は呼ぶ。
『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは芸術を愛するよき領主である。彼のおひざ元では多くの芸術家が生まれている。
それを見た『放蕩王』フォルデルマンはたまに思いつく。「よし! たまには芸術!」と。
それでもってフォルデマンの思いつきなものだから、「絵? とりあえず一週間くらいあればいいかな?」だとか、ものすごく適当なわけであるが、それなりに、バルツァーレクとは趣を別にしながらデタラメ芸術市場はにぎわっている。
「安いよ! 勇者総選挙ブロマイド! 5個で1セット、どう?」
「本物と限りなく同じ複製画だよ! お値段わずか本物のわずか10分の1!」
「投機って興味あります?」
日陰となる天幕の下に、人々がわいわいと集まっている。
複製画売り。パフォーマー。画家を志す美大生やら、引退してから趣味で絵を描いている者たちやら、出自は様々。
「あら、勇者さんの絵画もありますわ」
『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)の指す中には『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)の絵が飾られていた。
「陛下も困ったものですね」
勇者総選挙の絵なのだろう。……リースリットがとっさに考えたのはファーレル伯爵家のことだ。
芸術とは時勢とは切って切り離せないもので、力だ。――良くも悪くも。
「探せばきっと、貴方の絵や、知った皆さんの絵がありそうですね」
「わたくし、肖像画に描いていただくならこんなのがいいですわ。勇ましく描いていただくのです。あら? これはなにかしら」
フィリーネが目を止めたのは、真っ白な絵画だ。
「……未完成、の絵画ですね」
一枚の絵画が、デッサンの途中で終わっていた。下書きと思しき木炭と、下塗りの油絵具のままだ。
「完成予定:未定」という札が書かれている。
「もしも完成していたら、見事だったでしょうね」
「どうも中途半端ですっきりしませんわね」
ああ、そいつはね、と商人が二人に話しかけた。同時に「百合花様!」と黄色い声が上がった。
●花は良いもの、愛でるもの
ちょうど居合わせた友人たちを、どうして無下に返したりするだろう?
ベルフラウ邸では、ささやかなお茶会が開かれていた。主人たる『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は少女たちを見回した。
花は愛でるものである。
「それで、相談とはなんだろうか?」
「はい。ソレイユ山の向こうに、見事なヒマワリ畑があるそうです」
リースリットの言葉を、フィリーネが補足する。
「なんでも、そのヒマワリを絵に描きたいという画家がいらっしゃるのですが、画家の方は足を悪くして、実物を見られないそうなのですわ。それで絵が完成しなくて、困っているようでしたの。
散策にぴったりだと思いますの。いかがでしょう?」
「つまりウィズィおねえちゃんとお花を見に行くってことですね!」
「あらあら、歓迎ですよ」
元気よく言う『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)に『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が微笑みかける。
「きっと良い鍛錬になりますわ!」
「歓迎いたします」
フィリーネとウィズィは頷きあった。ステラですら「武器を持ってきてよかったです!」と笑顔で─連結式バスター砲を持ち上げる。
「分かりました。つまりウェディングブーケを作るのですね?」
『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)はとりすました顔で言った。
「ブーケか。ヒマワリだと聞くが」
「誓いの口づけはいつですか? 私はすぐ準備できています」
シャドーボクシングをする澄恋。
「えっと、わかった。頑張ろうね」
「桜ちゃんだよ」さくら(p3p009754)の隣を『桜ちゃん』がぽてぽてと歩いて行った。
「おやつとか、持って行ってもいいかい?」
「使用人にいくつか包んでもらおうか」
まったく、彼女たちといたら花には困らない。
よき花々が見られるだろう。いろんな意味で。
「それではお嬢さんがた。準備をしたら、出かけるとしよう」
満場一致で、ヒマワリを見に行くことになったのだった。
- あの日見た額縁のソレイユを君に完了
- GM名布川
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年08月27日 22時06分
- 参加人数7/7人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 7 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(7人)
リプレイ
●お出かけの準備はよろしいでしょうか?
暖かい日差しはぽかぽかと柔らかく地面を照らしている。
澄んだ空気を吸い込んで、お弁当には、たっぷりと愛情を込めて。
「ソレイユの向日葵か……向日葵だけでは無くて、山頂の向日葵、という事が大事なのでしょうね」
『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は慎重に依頼人から託されたカメラを確かめる。平和そうな依頼とはいえ、手抜かりはしない。
けれども仲間たちを見るとわずかに表情を和らげる。
「リースリットさん! こんにちは」
『花盾』橋場・ステラ(p3p008617)は元気よく小道に分け入っていく。
「何だか遠足みたいで、楽しいですね! ……っと」
「油断大敵だね」
「! ウィズィお姉ちゃん!」
ステラの邪魔をする枝を『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は優しくどかした。
「ステラちゃん大丈夫? 手繋いでいこっか!」
「はいっ。ありがとうございます」
ウィズィに差し出される手を、ステラはぎゅっと握った。
「私は鍛えてますからね、山道脇道なんのその」
「夏の向日葵畑、きっととても素敵なのでしょうね! 見るのが今から楽しみですっ。では、よろしくお願いします」
(ふふふ)
ステラが疲れ知らずのタフな子だということを、ウィズィだって知っている。けれども、せっかくのピクニックだ。手をつなぐ口実をふいにすることはない。
「うふふ、向日葵畑にぴくにっく!」
『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)はくるくると回る。
「っと、お弁当の中身が寄ってしまうよ、澄恋」
『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は愛おしく澄恋を眺める。
「大丈夫ですわ。たくさん詰めてきましたもの! 花嫁修業は怠れません。旦那様がお腹を空かせてしまったら、もとい、みなさんがお腹を空かせてしまうなんて、あってはなりませんわよね!」
「それは楽しみだね。こういった行楽気分の依頼も良いものだな。
戦いは我が身の置き場ではあるが、それはさておき……息抜きもまた必要となるものだ」
「ええ。いつもは血を流しながら強敵を倒したり、殺伐とした内容の依頼が多いですから! 貴重な機会です」
「そんなお仕事もあるんだね?」
さくら(p3p009754)は大きな目をしばたかせる。
怖がらせてしまっただろうか?
「でも、そういうときは、頼もしい仲間がいますからね! ……あら、むしろ、楽しみという顔ですか?」
「戦うのは好きじゃないけど、ちょっと楽しみはあるよ。いろいろなものがあるんだよね、世界には」
「将来が楽しみだな」
世間をまだ知らず、さくらの瞳は好奇心に満ちていて……。
これから、いくつもの未知なる出会いが待っているのだろう。
「澄恋は山登りは大丈夫か? 辛ければ私が抱いて登っても良い」
「ふふ。大丈夫ですよ! 張り切って楽しんでいきましょう!」
「なんだ、逆に抱かれてしまいそうな威勢のよさだな、ははは」
ベルフラウはさくらに、手を差し伸べ、ひょいとバスケットを持ち上げた。
「さくらは初めての依頼だろう? バスケットは私が持つから皆と交流を深めて来ると良い」
「あれ、いいの?」
「無論、上についたら私とも頼むよ」
「あ、待ってください。
道中は山道ですし、皆さんの荷物は拙がお預かりします!」
ステラの妖精の木馬がかしげ、挨拶をする。『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)が微笑んで花を飾ると、かがんで荷物を持ってくれた。
「おや、手が空いてしまったな。繋ごうか?」
「ん、ありがとう。ひまわり畑、とっても楽しみだよ」
エスコートの姿勢のベルフラウに、わからないながら手を添えて。
さくらはきょろきょろとあたりを見て、看板と地図を重ねていく。
「迷って変なところに出てしまったら大変だし。ふもと近くなら良いんだけど」
まだまだ先の山道を見上げる。
「上の方……しかも秘境と言われるような場所で迷ったら最悪遭難かな」
「ふふ、怖がらせたかな。少しくらい危機感を持ってたほうが良いかなって」
「心配ですわ……」
フィリーネがおろおろとしている中、さくらはこともなげに立ち上がる。
「それにわたしって結構迷いやすいと思うからね。よくぼーっとしてるし」
「あらあら、悪い子ですね」
「ふふ、それじゃあ楽しもう」
「こちらの道のようですね、ありがとうございます」
フィリーネの呼びかけに答えて、肩に小さな小鳥が止まる。指先をさし伸ばして、フィリーネは微笑んだ。
「彼女が案内してくれるそうです」
しかし、翼をもつ鳥の道は、いくつものショートカットをさしはさむことになる。リースリットは先行し、なるべく歩きやすい道を選んでくれるが、道が途切れる。
「ははーん」
ピンときたステラは立ち止まった。手をつないでいたウィズィが立ち止まる。
「ん? どうしたの? 疲れちゃった?」
「もう、違いますよ!」
(ふふん、……全部お見通しですとも!
名探偵の広域俯瞰に掛かれば、どんなルートもまるっとお見通しなのです)
目を閉じるステラを、微笑み、ウィズィは鳥にそーっと答えを聞いた。
「すみません、山の頂上にはどの道を行けば良いでしょう?」
動物に敬語なのも何か変かもしれない。けれど、先住民に払うウィズィなりの敬意だった。
「……あ、この先は多分コッチですね
大丈夫です、幸運の持ち主ですから!」
(よしよし、正解だ)
●つかの間の休息
おいしそうな食べ物のにおいに惹かれてやってきたキツネにリースリットの剣が振るわれた。
すれすれを狙った一撃は威嚇には十分で、一目散に去っていく。
(すなおに退散してくれてよかったです)
風を受け、ふわりと飛翔したリースリットはぽちゃん、と水の音――精霊の声を聴いた。
「開けた場所があるみたいです」
中腹にはきれいな風景が広がっていた。
「いったん休憩としよう」
ベルフラウは倒れた大木に腰かけ、仲間のためにハンカチを敷いた。
「紫外線はお肌の大敵、ですものね」
「山は森に隠れる部分なら良いが、直射日光が当たる処は普段より標高が高い分紫外線も強い。
こまめな水分補給と日焼け止めの塗布が重要だ」
「少々早くはありますが、プロ花嫁たるものお料理もばっちりこなすべき……ということで、お昼ご飯にお弁当を持ってきましたよ〜!」
「あ、先にあけちゃう?」
さくらもまた、荷物を下ろす。
「んー、冷たい! おいしいです! お姉ちゃんもどうぞ」
「ありがと」
「花より団子……ではないですが、やはり腹ごしらえは大事ですからね
中身は真心込めて握った''おに''ぎりです、''鬼''人種だけに! どやぁ! えへん!」
「これは澄恋が握ったのか? 塩加減が絶妙だな……よい嫁になる」
と、ベルフラウが大切に手料理をたいらげると。
「そうですわよね。そうですわよね! おかか、たらこ、しゃけ、高菜……色々ありますがとにかく美味しいものが詰まってます。沢山あるので好きなだけ食べてくださいねー!」
「わたしも、おにぎりあるよ」
つつみをほどくさくら。
「おかか、梅干し、昆布」
「おかか!」
ぐ、っとお互いのチョイスに信頼を寄せる二人。
澄恋は角の丸い三角のおにぎり、さくらのおにぎりは小さな丸。
「なんて素敵なめぐりあわせでしょう。交換して下さいます?」
「うん。美味しいね」
さくらはちょっと言葉を止めた。
「わたしのおにぎりも多分美味しいよ。美味しいかな?」
「ええ、とっても美味しいですわ」
フィリーネが微笑み、さくらはほっとした表情になる。
「ありがと。これで美味しいってことでよかったんだね。みんなのも美味しそうだね」
故郷の話に花を咲かせて――。
ひとときの休憩。
(山頂でも、お弁当が食べられるんだよね)
色とりどりのお弁当が並べられて、みんなで食事をする風景を想像するだけでも楽しいものだ。
焼きたてのなんとも鼻腔を擽るバケットの薫りにひかれてか、ふわふわとただよってきたワタボッコリ。敵対する意思はないようだが……。
「倒した方がよいのだろうか?」
ベルフラウは立ち止まった。
リースリットは警戒を解かない。
澄恋は懐刀を片手に、ワタボッコリにじわじわと近づいて行った。
(害はないといえ油断禁物、無事に山へ着くためにもお命頂戴……)
「いざ尋常に─って、わー! ぶわわーって広がりますよこの子! 楽しい!!」
「まあ!」
澄恋が武器を振り回すたびにわたが吹き荒れる。
目を丸くするフィリーネ。純潔のドレスに、ふわふわが陣取った。
「? あれ、さくらさん?」
ステラが振り返ると、いたはずのばしょにさくらはいなかった。
「な、なんてこと! 誘拐ですか? 天誅ーー!」
「私ちょっと空から見てみますね!」
「お願いします、お姉ちゃん」
ウィズィは巨大なテーブルナイフの柄に飛び乗り、空を見上げる。ステラの指す方向を見れば、ワタボッコリを追いかけて迷子になっていたさくらがみえた。
(みーつけましたよ)
ウィズィのファミリア―がさくらの裾をつついた。
「あ、こんなところまできちゃったね」
「心配しておりましたわ! なんだ、この不埒ものがさくらさんをかどわかしたわけではなかったのですね」
ほっと胸をなでおろす澄恋。
「遠くに行っていなくてよかったよ、さくら。良ければまた手を取ってくれるかな?」
「うん」
ベルフラウが差し出す手を握るさくら。
ふわふわ揺れるワタボッコリに、澄恋は警戒を解いた。
「気が変わりました、一緒に連れてってこの子たちにも向日葵を見せてあげましょう」
「そうだ、感動の再開を祝して、だ。収まってくれるかい?」
額縁に一枚を添えるように、一枚の写真を。
(登頂した時も良いが、みなで苦労しながらも笑っている場面が私は愛おしい)
ベルフラウが微笑み、カメラを構えようとすると、リースリットが「ああ、いえ、私が」とカメラを手にする。
「あら?」
小さなリスがウィズィのもとへやってきた。
「親切にしておくものですね」
「よし、行こうか」
ベルフラウは日差しに備え、アームカバーをはめる。
……もうすぐ山頂だ。
●ゴール地点
「つい、たー!」
「気が早いですよ、ステラちゃん」
「あっ、そうですね。油断大敵ですね。でも、見えますよ」
雲を追い越した。
ふわふわ揺れるわたぼっこりは歌うように揺れ、空気は透明で透き通っている。
ヒマワリ畑が見えてきた。
風に導かれ、浮かび上がったリースリットは景色につられてシャッターを切る。
「わぁ、ひまわりがいっぱい。やっぱり桜と違って花が大きいね」
さくらが立ち止まる。
「お花はとても癒されますわ」
フィリーネはほうとため息をついた。
(人の手の入っていない野生の向日葵畑……絶景とはいえそれはそれとして楽しみ方も考えないとです)
リースリットは慎重に、歩みを進めながら良いポイントを探す。
手入れのされていない花はまちまちに、好き放題に背を伸ばしている。日の光を浴びて黄金色に輝いていた。
(ここからの景色は)
リースリットはゆっくりと空を飛んだ。山頂を見下ろす、美しい景色。
普通の翼を持たぬ人間では想像もしえないだろう景色。
ステラにも同じように見えているのだろうか。
「風景の表情を探る、というのもなかなか面白いかもしれませんね」
「何よりもまずエネルギーだ、登山は自分が思ったよりも体力を使う」
ベルフラウはぐるりと辺りを見回す。
「はい、こちらをお持ちくださいませ」
フィリーネが微笑み、冷たい紅茶を配った。
全員に飲み物が行き渡ったら、ヒマワリを背に乾杯である。
「まずはお弁当ですね!
お姉ちゃんにお肉いっぱいでお願いしたので、楽しみです」
「とみせかけてー、その通り」
一点の曇りもない期待の目を向けるステラ。期待に応えて、ぱかりとふたが開いた。
「……やっぱりウィズィお姉ちゃんのお弁当はどれも美味しいのです……やはり天才では?」
待ちきれないように次々とほおばっていくステラ。
(うーん、喜んでくれるのはとっても嬉しいんだけど)
ミートボール、生姜焼き、唐揚げ、ステーキ……。
一応はアスパラベーコンや肉巻きトマトで彩りをキープしているのだが……。
(うう、茶色い……!)
「いや、ありがとう。どれも、私たちを思って作ってくれたことがよくわかるよ」
ベルフラウが唐揚げを一つ口にした。
(まぁでも食べてる皆さんの姿が微笑ましいのでヨシ!)
ウィズィはこっそりとカメラに手を伸ばし、写真に一枚激写する。好き勝手に飲み、話し、ヒマワリを背景に肉をかっ喰らっている、ちょっと優雅とは遠い、日常のシーンを。
「! お姉ちゃん、拙、変な顔じゃありませんでした?」
「どうかなー」
「お弁当もいっぱい。色鮮やかだね」
「ふふ、サンドウィッチはいかがですか? 腕によりをかけて作りましたわ」
フィリーネが開けたバスケットは、レタスとトマトたっぷりの健康的な野菜のサンドウィッチだ。
ピックの刺さったからあげが、行儀よく並んでいる。
「ん、おいしいね」
ウィズィがからあげをパクリと口にした。工夫を推しはかりつつ食べ比べる。
「うーん、どっちも美味しいです!」
「冷たい紅茶もありますのよ。おかわりはいかがかしら」
フィリーネが微笑み、空になったバスケットを嬉しそうに眺める。
「さて、これで終わりではないのだな?」
ベルフラウが面白そうに、リースリットに向かって微笑む。リースリットは頷いて立ち上がり、ステラの木馬から不思議な容器を取り出した。
「お弁当はお弁当として、おやつとしてお菓子を用意してみました」
きらきらとしたジャムたっぷりの、マフィンとタルト。
「そんな贅沢許されるのですか!?」
「お、おいしい!」
「よし、いまですね!」
AIM PRIMALにカメラを預けて、全員が揃った、空からの一枚。
「今日という日に感謝を込めて、はい ちーず!」
澄恋に合わせて、リースリットはほんのわずか、良いのだろうかという顔をした後に柔らかな表情を見せる。フィリーネは優雅に微笑み。さくらはドローンを不思議そうに見あげて、なるほど、と納得する。ウィズィとステラはせーのっと同じポーズになって、向き直って微笑み。
ベルフラウは愛おしそうに仲間たちを眺めている。
宝物のひと時だった。
(お花を見ながらのお昼はとても良いですわね)
「リースリットさん、お隣よろしくて?」
「もちろんです」
フィリーネに、リースリットは頷き横を開ける。
「あのタルト、とてもおいしかったのですわ。どうやっておつくりになりましたの? ずいぶん歩きましたのに、冷えているのが不思議ですの」
「あれは……」
天地統帥。リースリットの求めに応えて清水が揺れる。精霊たちのおかげ、ということだ。
「ヒマワリの精霊もいるかな」
さくらは背の高いヒマワリにうずもれながら、意外にも酒を飲んでいた。
お弁当箱を片付けて、一息ついたステラ。
「ふぅ、ごちそうさまでした。お姉ちゃん、ちょっとお散歩しませんか?」
「うん、いいよ」
もう手を繋ぐのに理由はいらない。差し出された手を自然に握る。ステラはふわりと空を見上げる。ウィズィのファミリア―が枝にとまっていた。澄んだ空が見える。鳥の視点だ。
「そうだ。ステラちゃん……」
「なんですか、ウィズィお姉ちゃん」
「ちょっとおいで」
「!」
そっとステラを手招きするウィズィ。
スマホを構えると、ステラも意図を察したらしい。
(ツーショット写真……勿論ですともっ)
ウィズィに向かって、ぎゅっと柔らかい頬を寄せてくる。良いにおいがした。
「ふふふ、夏の思い出……だね!」
「思い出がまた一つ増えましたね!」
「ふふ。向日葵の花言葉は「あなただけを見つめる」ですからね」
澄恋はほほえましく仲間たちを見守った。
1つの大きなヒマワリの前で、くるりと立つ。
「ウエディングブーケにもぴったりかもしれません」
「ブーケにするの?」
さくらは不思議そうにじっとヒマワリを見つめている。
「面白いですわよね。こんなに背の高いヒマワリなんて」
「えっと、実はね、わたし目覚めてからそんなに時間が経ってないから、ひまわりを見るのは初めてなんだ。しばらく現代のことを本とかで勉強してたからね」
「そうでしたの」
さくらはふうっと息をついた。
「ひまわりもお話してくれたら良いのに。もう植物の声はわたしには聞こえないんだねぇ」
それでも、楽しそうにヒマワリは揺れる。
「おにぎりもとっても美味しかったですし、わたしたち、とても気が合うと思いますのよね」
「そう?」
「さくらちゃんは、どのようなお花が好きですの? ……気になりますわ!」
と、そんな話をしていると、……。
「ああっ、ドローンが!」
「っと、大丈夫か?」
「ああっ手が滑りましたわ!」
フィリーネがシャッターを切った。うっかり。
デジタルカメラのように消すことはできないので、仕方がない。
(手が滑ったら仕方ありませんわね!)
しっかりとバスケットを片付けて、軽くなった荷物を木馬に乗せて。帰るまでが依頼だ。
「名残惜しいが、暗くなる前には下山しなくてはな。ほら、見送ってくれるようだ」
ベルフラウにつられてすそ野を見ると、雲がふわふわふわふわと揺れる。ワタボッコリたちが歌うように揺れる。
またおいで、と言っているかのようだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
リクエストを拝見したときに、「花束~~~」と思ったりなどしていました。
お疲れ様でした!
GMコメント
布川です。お待たせしました!
●目標
ソレイユ山、山頂のヒマワリ畑を楽しむ
オプション:よかったら写真を撮ってあげてください。
楽しんでいる様子が入っているとなお嬉しいようです。
●ロケーション
ソレイユ山
幻想のバルツァーレク領のとある場所にある山。
時期になると、山頂には一面のヒマワリ畑が広がっているそうです。
天候は晴れ。気象はおだやか。
日焼けに注意しましょう。
秘境であるらしく、古い看板や中途半端な道があり、多少迷いやすいので注意しましょう。
自然豊かな山で、動物も多いです。
泉なども見つけることができるでしょう。
●登場(ほんわかした障害物)
ワタボッコリ
ふわふわ綿の形状をした魔物です。
害はありませんが、追いかけていくと道を見失ってしまうかもしれません。
倒すとぶわーっと広がります。雰囲気モンスターです。
●持ち物(推奨)
お弁当、水筒、おやつ、その他
依頼人から手渡されたフィルムカメラ(全員でフィルム10枚程度+予備)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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