PandoraPartyProject

シナリオ詳細

茨の海で眠る異形。或いは、曰く付きの絵画…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある画家との再会
 海洋王国近海。
 “トロピカル”という名の諸島に1人の画家が降り立った。
 絵の具に汚れた衣服を纏った中性的な人物だ。
 名を“ゲルニカ”というその画家は、どこか遠くを見るような目で青い空と太陽を見上げる。
「あぁ……眩しい。こういう風な空模様を絵に描きたい、が……」
 それどころではないからな。
 なんて、言葉を零したゲルニカは大きな鞄を背負い直すと、ふらふらとした足取りでどこかへ向けて歩き始めた。

 ゲルニカが港に降り立ったのと同時刻。
 ドゥー・ウーヤー(p3p007913)は夏の暑さに辟易しながら、街の外れへと向け歩を進めていた。
 むろん、散歩などではなく職務の一環。
 “トロピカル”の管理者を手伝う者として、つい最近、港に市を開いているという古物商へ視察に向かっている途中であった。
「さて、何でも曰く付きの美術品を取り扱っているとかって話だけど」
 瞳を覆うほどに伸びた前髪を弄り、ドゥーは小さな溜め息を零した。
 世の中に出回る“曰く付き”の品のほとんどは、実際のところ贋作か、或いはデタラメな出自を後になって付加されただけの偽物だ。
 けれど、そういった偽物の中に、ごく稀にだが“本物”が紛れていることもある。
 そして、時折それらの“本物”は筆舌に尽くしがたいほどの災禍を呼び寄せ、悲劇を起こすものなのだ。
「まぁ、今のところ何の報告もあがってないんだから、大丈夫でしょう」
 いつも通り、少し店主と言葉を交わし、品物を見て帰るだけ。
 簡単な仕事だと、ドゥーはそう考えていた。
「……あぁ、君。君、どこかで逢った気がする、な」
 古物商の店先で、ゲルニカに再開するまでは。

 先にも述べた災禍を呼び寄せ悲劇を起こす“本物”の品物が、絵画の形をしていることも多くある。
 例えば、持ち主に不老不死を約束する悪魔付きの絵画。
 例えば、異界へと通じるという名状しがたき宗教画。
 例えば、夜毎に動くと噂される有名作曲家の肖像。
 ゲルニカの絵もそれだった。
 ゲルニカの絵を手にした者は、不吉に晒され、もがき苦しみ、不幸を振りまき死に至る。
 そのような噂を聞いたゲルニカは、自身の絵を回収するため旅に出た。
 その旅の中で、ゲルニカとドゥーは邂逅し、絵を取り戻せと依頼を受けた。
 かつての依頼主と雇われ冒険者。
 それが2人の関係だ。
 そんなゲルニカが“トロピカル”を訪れ、古物商の前にいる。
 偶然で済ませるには出来すぎた話だ。
「つまり……あるってわけだね。曰く付きの“本物”が」

●古物商の見る夢
 グレゴリー古物店。
 “トロピカル”の港に建てられたその店舗の主、グレゴリーはひどく顔色の悪い男であった。
 灰色の髪に、こけた頬。
 日焼け防止のためか、灰のケープとフードを被り、どこかどんよりとした顔で力のない笑みを浮かべている。
 目の下には濃い隈が浮いているが、寝不足だろうか。
 それとも、胃の腑でも病んでいるのだろうか。
「あぁ、曰く付きの絵画ですかい? こちらの“阿近の木像”なんか、結構な血を吸ってるって話ですよ? 何でも持ち主を妖だかって化け物に
変えちまうって話でさ」
 そう言ってグレゴリーは、店の奥に展示された禍々しい鬼の木像を指し示す。
「それか、そっちの不気味な色の絵はどうです? ベクシーって名の昔馴染みが描いた絵なんですがね、部屋に飾ってると夢見が悪くなるって評判ですぜ」
 次にグレゴリーが指差したのは、壁に飾られた1枚の絵。
 両手を広げなければ持てないほどの大きなキャンバス一杯に、極彩色の絵具が塗りたくられている。
 生憎とドゥーには、その芸術性が理解できなかったが、夢見が悪くなるというのは直観的に分かった。
 木像も絵画も、見るからに“曰く”が付いていそうな品である。
 だが、ドゥーとゲルニカが求めているのはそれではない。
「はぁ? 違う? ゲルニカの絵画ですかい? あったかな、そんな絵……あ、いや」
 暫し首を傾げたグレゴリーは、ふと思い出したように、にたりとした笑みを浮かべた。
 僅かに充血した瞳を細め、彼は言う。
「もしかしてアレですかねぇ。この島に着いて早々無くなっちまった絵がありまさぁ。盗まれたのか、それとも船の中に置き忘れたかと思ってやしたがね、お客さんらの話を聞くに、ともするとそいつは絵自身の意思で姿を晦ましたのかもしれやせんね」
 なんて言って。
 グレゴリーは【茨の海で眠る異形】と呼ばれる1枚の絵の話をはじめた。

 目が覚めるような青い海。
 紙面一杯を埋め尽くす膨大な量の茨。
 茨の中心には、人か獣か爬虫類かもわからぬ異形が描かれている。
 茨はどれも、その異形に繋がっていた。
 茨が異形を捕えているのか、それとも異形より茨が生じているのだろうか。
 とにもかくにも、それはひどく美しく、そして不気味な絵であると、グレゴリーはそう言った。

「いい値段で売れたと思うんですがね、無くなっちまったもんは仕方ねぇ。こっちとしても、それっきり忘れちまおうと思ってたんだが、悔しかったのか何なのか、依頼毎日夢に見るんでさぁ」
 夢の中で、グレゴリーは茨に囚われ【懊悩】しているのだと言った。
「体は【痺れ】て動かねぇし【紅焔】に焼かれるみてぇに熱くて熱くて仕方ねぇ。終いにゃ【滂沱】と血が流れるしだんだん視界が【暗闇】に染まって、何も見えなくなっちまう」
 と、そこまで語ったところでグレゴリーは声を潜めて、ドゥーに耳を貸せという。
 指示の通り、顔を寄せたドゥーへ、グレゴリーは囁くようにこう言った。
「ここだけの話なんですがね、その夢ぇ、俺だけじゃなくてこの付近に住んでる奴らも見るって話だ」
 内緒だぜ?
 なんて、不気味に笑うグレゴリーの瞳からは、正気が失われかけている。
 それに気づいたドゥーは、思わず背筋を震わせた。
「ねぇ、その夢は俺たちも見られると思うかい?」
「さぁねぇ? 近くの宿や路上で寝こけてりゃ、見えるんじゃないですかい? え、お客さん、もしかしてみたいんですか?」
 物好きだねぇ。
 肩を揺らして、グレゴリーはそう言った。
「止めときなよ。何もない青い世界、上も下も右も左も茨だらけ。そんな場所で異形の怪物を起こさないよう、苦しみながら耐え続ける。そんな風な不気味な夢だぜ?」

 店を出たところで、ぼそりとゲルニカは告げた。
「夢の世界で、異形を倒せば……絵はこの世界に戻って来る、んじゃ、ないか?」
 それを聞いたドゥーの行動は速かった。
 一刻も早く事態を収束させるべく、仲間たちへ招集をかけたのである。 

GMコメント

※こちらのシナリオは「さよならを告げる女。或いは、絵画争奪戦…。」のアフター・アクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5215

●ミッション
絵画【茨の海で眠る異形】の回収

●ターゲット
【茨の海で眠る異形】×1
人の形をした、獣とも爬虫類とも判然とせぬ異形の怪物。
茨の海で静かに眠るそれは、攻撃や接近により目を覚ますだろうことが予想されている。
その背や腕、脚、全身の至る箇所からは無数の茨が伸びている。

茨の海:神遠範に中ダメージ、懊悩、紅焔、痺れ
 音も無く身に巻き付く茨。

茨の楔:神中範に滂沱、暗闇
 茨はその者の身を穿つ。


・ゲルニカ
旅の画家。
長い髪を後ろでひとつに括っている。中性的な見た目をしており、性別不詳。
死と破滅、廃退、廃墟、終焉などをモチーフとした絵を得意とする。
つい昨今、各地でゲルニカの絵が“不幸を呼ぶ絵”として噂されはじめたことをきっかけに、回収の旅に出ることにした。
自身の絵によって不幸な目に遭う者がいるのなら看過できないというのがその理由である。
実際、持ち主の多くは行方不明になっていたり、既に死去していたりするらしい。
ともすると、ゲルニカの絵はある種の魔道具や呪いのアイテムになりかけているのかもしれない。

●フィールド
夢の世界。
トロピカルの港付近で眠ることでその世界へ行けるらしい。
上下左右も判別できぬ茨の海を潜り抜け、何処かに潜む【茨の海で眠る異形】を討伐することでミッションは達成される。
茨は時折胎動するため、マッピングなどは意味を成さない。
また、その世界は“青く”どういうわけか、視界は良好であるらしい。


●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 茨の海で眠る異形。或いは、曰く付きの絵画…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
秋宮・史之(p3p002233)
若木
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ

●夢の世界
茨の海で眠る異形。
 画家、ゲルニカの描いたその絵には不思議な、そして不気味な力が宿るのだという。
 
「茨、か。関係ねぇとわかってはいても……どうにも思い出しちまうな、こればっかりは」
 深く青いその世界には、無数の茨が蔓延っていた。
 海の底のように青いその世界で、暗さを感じることはない。けれど、決して明るいわけでもない。そんな不可思議な色合いに包まれ、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は思わずといった様子で言葉を零す。
 上下の感覚もない世界だが、脚を前に踏み出せば縁の体は移動する。
 クッションでも踏んだみたいな不確かな感触だ。地面を踏んだわけでもないのに、身体が前に進むのは一体どういうわけだろうか。
「とにかく元凶を探さないとだね。放っておくと被害が拡大しそうだし」
「おう。お前さんも無事に来られたようだな」
 縁の背後に、足音もなく現れたのは『若木』秋宮・史之(p3p002233)だ。脚に巻き付く茨を刀で斬り捨てて、視線を周囲に巡らせた。
「痛みはあるね。五感も正常みたいだし」
「つまり、こっちで死んだら、現実でも目が覚めない可能性があるっつーこった」
 2人がいるのは絵の見せる夢の世界だ。
 この場にいるのは2人の精神だけなのか。
 それとも、肉体ごと夢の中に引きずり込まれているのか。
「まぁ、進むしかねぇか」
「だね。とにかく元凶を探さないと」
 眼前を塞ぐ茨を押しのけ、2人は夢の世界を進む。

「強く心を動かされるような……感情の篭った絵、ですね。熱くて、それでいて……悲しい……」
 夢の世界で揺蕩いながら『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は青い世界を俯瞰する。
「えぇ、とっても面白いわね! どんなことが起こるのか楽しみだわ! 私ゲルニカの絵はとっても好きだし」
 ウィズィの言葉に応じたのは『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)であった。
上下の区別もない世界をヴィリスは自由自在に泳ぐ。
 不思議と足音はひとつもならない。声以外の物音が響かぬ、静かな世界だ。
 剣の義足を持つヴィリスが駆ければ、当然ながら硬質な足音が響く。しかし、この世界でそれは無いのだ。
 踊るように、跳ねるように、茨の世界を行くヴィリスをウィズィはただぼんやりと眺め……。
『鬼が出るか蛇が出るか! まぁ、何でもいいやな。出たとこ勝負も嫌いじゃねーワケだしィ!!』
『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)の怒声を聞いて、眉間に皺を寄せるのだった。

 刀を振るって、迫る茨を断ち切った。
 そうする度にブライアンは大声を張り上げる。
 どこか別の場所にいる仲間たちへ、自分たちの居場所を伝えているのだろう。
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた、細剣に手を添えブライアンの後に続く。
「待て、そうがむしゃらに斬っても体力を消耗するだけだ。探すのは茨の根元。茨はどの向きに伸びてる? どこから生えてる?」
「できることなら目的地まで一直線に行きたいしね」
 視線を左右へ泳がせながら『死生の魔女』白夜 希(p3p009099)がそう言った。
 彼女の体は、眩しいほどに発光している。その存在を、どこかにいる仲間たちへと知らせるためだ。
 
 青い世界のあちこちで、茨に巻かれたどこかの誰かが苦鳴を零す。
 おそらく、夢に取り込まれた一般人だ。
 その中には【青い海で眠る異形】をトロピカルに持ち込んだ旅商人や、ゲルニカも含まれているのだろう。
 茨に囚われた彼らは、ただ痛みに耐えながら夢から覚めるのを待っているのだ。
「無関係の人達にも被害は沢山出ているし、早く解決しないと」
 迫る茨へ魔力をぶつけ威嚇しながら、『海を越えて』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)は前へと進む。
 そんなドゥーを追うように、茨が蠢き、空間を掻いた。
 ドゥーはそこに、身体を丸めた異形を見た。
 直後、ざくり、と。
 鋭い棘がドゥーの皮膚に突き刺さり、指先へと血が伝って落ちた。
 零れた血は、一瞬、青い世界に赤い波紋を立てた後、吸い込まれるようにして消える。
 
●茨の海で眠る異形
 胎児のように体を丸め、静かに眠る異形の存在。
 姿かたちとしては、人のそれに似ているだろうか。だが、その顔や体に見受けられる特徴は獣とも爬虫類とも判然としない。
 未だ眠ったままのそれは、無意識のうちに外敵を襲う。
 それにとって、人々の悲鳴や苦悶の呻き声は子守歌のように心地の良いものなのだろうか。

 音もなく、けれど槍のように速く。
 無数の茨がドゥーを襲う。
 腕が裂け、脇を抉られ、膝を打たれて、血を流す。
 きつく歯を噛み締めたドゥーは、血塗れの腕を高く掲げた。
「あなたに悪意があるのかは分からないけど……」
 魔力の波動が青い世界を震わせた。
 喚起せよ、喚起せよ、世界の理を超え喚起せよ。
 呼び出されるは土の壁。
「悪夢がもっと広がる前に、終わらせよう」
 四方より出でた土壁が、茨を潰し、異形の体を飲み込んだ。
 土塊同士がぶつかる轟音。
 けれどそれは、あっという間に青い世界に飲まれて消えた。
 静かな世界だ。
 これだけ静かな世界なら、さぞやよく眠れることだろう。
「……駄目か」
 土壁が砕け、茨が伸びた。
 それは、身体を丸めた異形の背から生えている。伸びた茨は途中で幾つにも枝分かれし、青い世界を埋め尽くすのだ。
 そのうち幾本かがドゥーを襲う。
 異形の眠りを妨げる者を排除するために。
「くっ……皆が来るまで、耐えきれば……」
 視界が黒に塗りつぶされた。
 身体を棘に抉られながら、ドゥーは腕を眼前へ伸ばす。
 放たれるは、怨嗟の呻きを零す死霊の矢であった。
 青い世界を震わせながら、疾駆したそれが異形の背中へ突き刺さる。

『絵に描いた異形の正体? さぁ……あれは、自分の脳のうちより着想を得て描いたものだからね。モデルなんて無いし、何かと言われても困る』
 もしかすると、世界のどこかにああいう生物がいるのかもしれない。
 夢の世界へ入る前に、ゲルニカはそんなことを言っていた。

「って、こんな生き物がいてたまるかっつーんだよ!!」
 
 業火を纏った刀を一閃。
 茨を斬り捨て、ブライアンが吠え猛る。
 切断された茨は、青い世界に溶けて消えた。
 だが、幾ら斬っても茨は次々と伸びてくる。ブライアンを外敵だと判断したのか、その手足を狙い、貫くように。
「攻撃の頻度が増して来たな! つまり、ざっくりとこの方向に異形が居るのは間違いないっつーこった!」
 踏み込みと同時に、数本の茨を焼き切った。
 豪快かつ大雑把に過ぎる斬撃だが、目の前を埋め尽くすほどに茨の数は膨大なのだ。振れば当たるといった場面で、狙いを澄ます必要はない。
 血を流しながら、ブライアンが切り開いた空間へ、イズマと希が跳び込んだ。
「見つけた」
 そう呟いたのは希であった。
 視線の先には、血を流して倒れたドゥーと眠る異形の姿がある。
「まだ、眠ってるのなら、起こしてあげないとね……眠っていたいのなら、夢に呼んだりはしないよ、多分」
 希は杖を掲げると、瞳を閉じて魔力を注ぐ。
 十字を模した長杖が、眩しいほどに強く輝く。
 その輝きは1点へ収束し、そして遂には水滴のようにパチンと弾けた。
 青い世界を揺らしながら、飛び散ったのは淡い燐光。
 希を中心として撒き散らされたその輝きが、ドゥーやブライアンの傷を癒し……。
 その輝きを避けるように、異形は腕で顔を覆った。
 一瞬、茨の動きが止まる。
 強い光に怯んだのか、それとも異形の眠りが途切れたせいか。
 その隙を突いて、駆け抜けるは青い影。
 細剣を腰に構えたイズマは、一足飛びに異形へ迫る。
 夜闇にも似た黒き刃が、青い世界を斬り裂いて、異形の胸部を貫いた。
「おはよう、茨の異形。よく眠れたか?」
 ゆっくりと黒い瞳を開き、異形は僅かに口を開いた。
 掠れた声で、零されたのはまるで獣の唸り声。
 直後、背より生えた茨の数本が、イズマの体を刺し貫いた。

 黒き顎のごとき波動が、青い世界を斬り裂いた。
 幾本もの茨を食いちぎり、それは青い世界の中にほんの僅かな空間を空ける。
 切り開かれたその空間を通り抜け、現れたのはウィズィ&ヴィリスの2人だ。
「やぁ、近くに誰かが来ているような気はしてたんだ」
 額から零れる血で顔を真っ赤に染めたイズマがそう言った。
 ヴィリスとウィズィの接近を阻むべく、茨が2人の脚へ巻き付く。
 しかし、2人は止まらない。
 否、茨の根元を掴んだブライアンが、力任せに2人の体を引き寄せたのだ。
「よぉし、行ってきな!!」
 棘に手を裂かれながらも、ブライアンは茨に巻かれたヴィリスとウィズィを異形へ向けて叩きつける。
「さあ、Step on it!! 行きますよ!」
 大上段にナイフを構えたウィズィが、身体ごと異形にぶつかっていく。

「お前は‪──‬何が寂しいんだい、何が苦しいんだい?」‬
 茨をナイフで薙ぎ払いながら、ウィズィはそう問いかけた。
 異形は自分を守るみたいに、頭を両の腕で抱えて目を閉じる。
 しかし、目を閉じても、耳を塞いでも、ウィズィの声はかき消せない。
 胸のうちより沸き立つ怒りの感情が、否が応でもウィズィへ意識を向けさせるのだ。
 迫るナイフを振り払うべく、異形は鱗に塗れた長い腕を掲げる。
 それを横から蹴飛ばしたのは、剣の備わるヴィリスの義足だ。
 一撃。
 二撃。
 三、四、五と蹴撃の数は増していく。
 例え一撃が軽くとも、ならば数を重ねるまでと言わんばかりの猛攻だ。
 当然、異形とてやられっぱなしでは終わらない。
 茨を鞭のように振るって、四方よりヴィリスを打ち据える。
 希が回復へ回るが、幾らか負うダメージの方が大きいようだ。額から血を流し、鋼の義足を朱に濡らして、しかしヴィリスは駆け続けた。
 今、この瞬間、青い世界を舞台とすれば、プリマはまさに彼女であった。
「アンコールはいかがかしら? まだまだ舞えるわよ」
 焼けるような体の痛みに脂汗を流しながら、しかしヴィリスは笑ってみせた。
 舞台の上で、演者が苦しむ様なんて、オーディエンスに見せるわけにはいかないからだ。

 渦巻く茨の中心で、頭を抱えて異形が吠えた。
 苦しむような、或いは苦悩するような、そんな異形にドゥーは思わず手を差し伸べる。
 しかし直後、伸びた茨に打ち据えられてドゥーの右腕は血に染まる。

 まっすぐ下へ向かって駆ける。
 ウィズィの位置から、2人はそんな動きをしているようにも見えた。
 青い世界に閃く銀色。
 それは縁と史之の振るう刀の軌跡だ。
 迎撃のために伸びた茨が、ウィズィの顔面を引き裂いた。
「っ……お前は、何がしたいんだい、何を求めてるんだい。私の問いに、答えておくれよ」
 顔面を赤く濡らしたまま、ウィズィはナイフを薙ぎ払う。
 異形の注意を自身に向かせ、迫る2人の援護に回った。

 暴れるように、四方へ向けて茨が踊る。
 そこにあるのは単なる暴力。
 癇癪を起す子供みたいに、近づく者を害する暴力。
「海の中、茨、異形……やれやれ、偶然ってやつは恐ろしいねぇ」
 かつて見た光景が縁の脳裏に、泡沫の夢の如く浮かんだ。
 昔の話だ。
 既に終わった過去の出来事とわかっていても、その記憶は縁の胸の奥深くに未だ深く根を張っている。
「……いや」
 構えた刀で茨を受け止め、受け流す。
 捌き切れなかった茨が縁の腕や肩、脇腹を抉り血を散らしたが問題はない。
 静かな世界で、意識を尖らせ、致命傷になりそうな分だけを防ぎきる。
 落下するように、前へと進む。
 あと何秒で、異形の元へ至るだろうか。
 茨を弾き、縁は刀を大上段に構えなおした。
「疾!」
 吐息と共に放たれるは起死回生の一撃だ。
 無数の茨を根元から斬り捨て、縁は遂に異形の元へと至る道を開いた。
「行け!」
「あぁ、ありがとう」
 縁の開いた道を駆け抜け、史之が異形の元へと迫る。
「ごめんね。あなたはただ眠っているだけなんだろうけれど」
 異形の黒い瞳に史之の姿が映った。
 姿勢を低くし、腰に構えた刀を振り抜く剣士の姿だ。
 目にも止まらぬ、けれど常識外れの威力を誇る一撃を放つ。
 竜の咆哮は、きっとそんな風なのだろう。暴風を巻き起こす斬撃が、異形の体を包む茨を薙ぎ払う。
 引き裂かれたのは茨だけではなかった。
 斬撃を浴びた異形の胸部に、深い裂傷が刻まれた。
 異形は眼を見開いた。
 頭を抱えていた両腕を静かに解くと、史之へ向けて振り下ろす。
「周りの人々のためにも容赦するわけにはいかないんだ」
 腕の付け根を史之の剣が貫いた。
 さらに腹部、膝、顔面と急所を狙って続けざまに斬撃を放つ。
「真ん中の辺り、叩いちゃだめそうなの、ありませんか?」
 戦況を観察していた希がそんなことを言う。
 なるほど、確かによく見れば、異形の首の付け根辺りに黒い眼が存在している。
 それが弱点とは限らない。
 けれど、狙ってみるのも悪くはないだろう。
 史之の刀が、最後の茨を斬り捨てたのを確認し、イズマは異形の背後へ接近。背中から胸を貫くように鋭い刺突を突き出すと、黒い眼を抉り出す。
「何故眠ってたのかは知らないが、そろそろ戻ってきてもらおうか……!」
 細剣の先に刺さった眼が、ぎょろりと周囲を睨めつけた。
 心の内まで覗き込まれるかのような、得体の知れぬ不快感をその場にいた全員が感じていた。
 見られている。
 見られている。
 胸の内を、脳の奥底を、魂に刻まれたすべてを、それは見ている。
 背筋に走る怖気に耐えかね、希は思わず口を覆った。
「そこを……避けて叩いたほうが……」
 こみ上げる吐き気を堪えた刹那、ぐちゃり、と黒い眼は潰れた。
「これ以上、悪夢は見させない」
 ドゥーの放った死霊の矢が、黒い眼を射ち抜いたのだ。

●深夜2時
 急な覚醒に頭が少しぼーっとしていた。
 目を覚ましたドゥーの視界は暗かった。
 窓から差し込む白い光と、波のさざめきが耳朶を擽る。
 つい一瞬前まで、青い世界にいたはずだ。
 けれど、気づけば起きていた。
「あぁ、目が覚めたか」
 部屋の隅で誰かが言った。
 それは、同じ部屋に宿泊していたゲルニカだ。
 ゲルニカに次いで、縁やブライアン、イズマ、史之たちも次々と目を覚ます。
 ウィズィや希、ヴィリスは別の部屋を借りて寝ているはずだが、そちらもきっとそろそろ起きた頃だろう。
「絵は?」
「……戻って来た」
 脇に置いた絵画を指してゲルニカは言う。
 布に包まれた絵画だ。紙面は窺えないが、それが【茨の海で眠る異形】で間違いないのだろう。
「もう大丈夫、かな」
「おそらくは、な」
 ゲルニカの答えはひどく端的かつ曖昧なものだった。
 若干の不安はあるが、依頼人がそう言うのならそうなのだろう。
 持ち主に災難を与えるその絵画から、布を外す気はないらしい。
「ねぇ、絵が戻って来たなら見せてくれない?  不思議な魅力があるのよね。ゲルニカの絵って」
 扉の向こうでヴィリスが言った。
 なるほど、きっと、彼女のように絵画に魅入られた者が、ゲルニカの絵を買い、災禍に苛まれるのだろう。
 それだけの怪しい魅力が、ゲルニカの絵にはあるのだ。
 なんとなく、じっくりとその絵を見てみたい衝動にかられ……首を振って、その思考を追い払う。
「茨は消えた。これでゆっくり眠れるだろう」
 最後にそう言い残し、ゲルニカは絵画を鞄の中へ仕舞うのだった。

成否

成功

MVP

ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて

状態異常

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)[重傷]
私の航海誌
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)[重傷]
海を越えて

あとがき

お疲れ様です。
夢の世界での騒動を終え、絵は無事に回収されました。
【茨の海で眠る異形】を回収したゲルニカは、次の絵を探し旅立っていきました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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