PandoraPartyProject

シナリオ詳細

〈絆橋〉天雫が全てを絶つならば

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●絲を繋いで
「約束だよ。私たち、ずっと一緒だって」
「もちろんだよ。僕たちは、ずっと一緒だ」

 いつか迎えに行くからと1組の恋人たちは手を固く握りあう。ヒトの手から降り注いだ火の雨から守るために。足手まといにならないように。この戦争が、この襲撃はいつ終わるのか誰にもわからなかったが、それでも、この町ならばきっと結んでくれるだろう。
 かつて『此方』と『彼方』だった――いまから100年前に2つの村だった音楽の都『コンツェルト』ならば、かつて奇跡の出会いを『ティタニア橋』によって迎えたこの場所ならば。

「絶対に迎えに行く。……この橋に誓って」

 愛し合っていた兵士と町娘は小指を絡め――その日、手を離した。


●絲を辿って

 あれから、5か月。戦争は終息した。音楽の都『コンツェルト』は北南に分かれ、南区に多くの人が避難していたものの、北区への戻るタイミングを失っていたが、平和条約を締結し、隣国との関係は少しずつではあったが回復し始め、荒れた道が徐々に舗装修繕され始め、困窮していた物資が届き始めた。

「リーアベータ、ごめん。この後って何か予定ある? もしないなら、これをうちの弟に持っていってくれる? あの馬鹿、昼食を持って生き忘れたのよ」
「ええ、かまわないわ」

 町娘――リーアベータはバスケットを受け取った。中からはとても良い匂いがする。記憶に間違いがなければ、これはたしか、彼女の弟の好物ではなかっただろうか。思い当たる献立に小さくクスリと笑えば、察しがついたらしいその様子に彼女は少し照れながら、誰も問いかけてなどいないのに弁明を始めた。

「な、べつに。これは……違うわよ! あの子の為に仕込んだわけじゃなくて、ただのついでなんだからね!」
「はいはい。素直じゃないんだから……」
「ちーがーうー!」

 顔を真っ赤にし始めた彼女から逃げるように身を翻し、リーアベータは歩み始めた。からかうのはほどほどにしないと、彼女のお小言はとても長いのだ。なにより、このバスケットの中の昼食を、できることなら温かいうちに届けてあげたかった。

「そういえば、あのひとも『子ウサギのミートパイ』好きだったな……」

 ふと、そんなつぶやきが漏れた。彼は戻ってこない。つまり『そういうこと』なのだろう。彼女は4日間、避難先である親戚の家の一室で泣き続けていたおかげか、今はすこし鼻の奥がツンとなるだけで、立ち直り始めていた。

「……っと、ここだったかな」
「リーアベータさん! どうしてここに?」

 彼女の弟は見張り番だ。とはいえ、今はもう戦争も終わっているため見張るのは魔物が来ないようにという1点なのだが、けれども仕事は仕事である。バスケットを見やってようやく思い出したように口角を上げた。

「ああ! そうだ! 昼飯! 家に忘れてきたんだよな……これ姉ちゃんから?」
「そうよ。まったくおっちょこちょいなんだから……しゃんとしないと、お姉さんが心配するわよ?」
「あー、小言は家に帰ってから姉ちゃんにたんまりともらうからリーアベータさんまでお説教はよしてくれよ……」
「もう、仕方ないわね。……あら、雨?ずいぶん分厚い雲ね。すぐに晴れるといいけど……」

 ふと。雲が流れてくる北区の方角に目をやり――震えた。

「あれ……なに?」
「え?」

 それは、亡者の群れだった。火矢によって亡くなったものや、首を切り落とされたもの、さまざまだったが、そのすべてが躯であることは土気色をした肌ですぐに分かった。慌てたように、警報の鐘が鳴る。北区への門を閉めるべく、見張り番がバタバタと走りまわる。時間は稼げるだろう。けれど、このままだと突破されるのは自明の理だった。

「……迎えに、来た」
「え?」

 その亡者の群れは300人を超えていた。にもかかわらず、かつて約束をした恋人がいたのを見つけたのは彼女の強い思いがなした業なのだろうか。けれど、今は、それがかえって彼女の正気を曇らせた。

「待って、閉じないで!」
「リーアベータさん!?」
「彼が! 彼がいるの! 帰ってきたの! お願い、閉めたりしないで!」

 
●絡まる絲

「覚えているだろうか。ティタニア橋……一昨年の秋に君たちイレギュラーズが手伝って作ったその橋を。かの世界『ブルケンスターズ』ではずいぶん時がたったみたいだけれど、それでも、これまで1度も壊れた形跡のないあたり、あの時つくった『奇跡の橋』は素晴らしい出来だったみたいだね」

 でも、とポルックスは眉を下げる。

「奇跡は――たしかに起こった。『迎えに行く』『会いたい』というのはとりわけ、君たちが作ったティタニア橋の元となる感情だから強く作用したのだろう。それがこの奇妙な出来事を呼び起こした。逃げられなかった、あるいは立ち向かうこととなった300人以上の北区の住民が魔物である生きる屍《リビング・デッド》として蘇り、こうして町を襲っている。彼らには1つの目的がある。それ以外に知恵も知識も感情もない。
 ――『愛する人を迎えに行く。そのためにあらゆる障害と立ち向かう』。もっとも、彼らにはもう、愛する人を判別するだけの知識はない。この南区に来たのだって、最後に記憶したのが『北区の住民は南区に避難した』というものによって起きたことだから、それ以上のものはない。だから、仮に出会ったとしても、殺されるだけだ。
 魔物でもいい、帰ってきたのなら会いたいと願うその気持ちはわかるけれど、生き続ける事こそ、彼らの最後の願いだったんじゃないかと思うから……頼んだよ。」

NMコメント

『此方と彼方を繋ぐ橋』https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2140
……の続編です。よろしくお願いします。

●状況
・狂気状態に陥った住民が門番の妨害行為をしている為、防衛門を閉じる事に失敗しています
・生きる屍《リビング・デッド》は北区→ティタニア橋→南区というルートで来ています
・300人ほどいる生きる屍《リビング・デッド》をすべて倒す場合はかなりの時間と無理をする必要があります
・ティタニア橋はたいへん丈夫にできていますが、300人の生きる屍《リビング・デッド》を相手するよりかは破壊が容易です

●データ
天気:大雨
・きわめて大粒で多量の雨。10分もあれば川は増水しますが、1km上流の方向へ行った先に、かつて橋づくりのために整備したダムが先行き届いているため、ティタニア橋はこれまで強い水圧を何度も受けるようなことはありませんでした
・ダムは精巧につくられていますが、作りは簡単な設計なのでわかる人には簡単に水量を操作することができます

ティタニア橋
・かつてイレギュラーズが手伝って作った石橋。これまで1度も壊れたことがない
・けれど、制作者であるイレギュラーズが壊すならそれほど破壊は難しくない

生きる屍《リビング・デッド》
・近距離攻撃しか行えませんが『ティタニア橋』の奇跡を受けた彼らの攻撃は物理と神秘の両属性を得ています
・彼らはその執念でもって、何度か蘇ります。

  • 〈絆橋〉天雫が全てを絶つならば完了
  • NM名蛇穴 典雅
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年08月04日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)
翼より殺意を込めて
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
ウルファ=ハウラ(p3p009914)
砂礫の風狼

リプレイ

 ……その日のことを、私はきっと忘れないでしょう。

 愛するあの人が約束を守って、私に会いに来てくれた日。
 愛するあの人が命をかけて、私を殺しに来た日。
 愛するあの人が水底へ沈み、私はそれを見捨てた日。

 ――愛するあの人との約束を、私が破った日。



「待って、閉じないで!」
「リーアベータさん!?」
「彼が! 彼がいるの! 帰ってきたの! お願い、閉めたりしないで!」
「何を言っているんだリーアベータさん!」
「お願い……門を閉めないで! あの人が居るの! 帰ってきたの! ……私に会いに!」

 あんなに大きな声をあげたことが、いまだかつてあっただろうか。私の喉から飛び出したその言葉に、街の人たちが何事かといぶかしんだ。見張り台に吊り下げられた古い大きな鐘が、ぐわんぐわんと大きな音を鳴らして、街の人々に向けて危険を知らせる。警鐘は本来、避難を促すためのものだけれど、その日は――かえって逆効果だった。
 原因は全て、私にある。私の言葉に、外へ目を向けた避難民たちが大きく目を見開いた後、同じようなことを言い出した。『私の息子が帰ってきた! 私のかわいい子が!』『お父さん、お父さん! 嗚呼、置いて行ったりしてごめんね』『嗚呼、かあちゃん。ごめん、俺があの日ちゃんと家に帰っていたら!』――あの日、あの町に後悔を残した人たちが、私のほかにもたくさんいた。そして、皆口をそろえて兵士に言った。

「門を閉めないで!」

 今にして思えば、正気ではなかったとわかる。だって、私たちはみんな、愛する人が亡くなったことを受け入れていたはずだった。墓はまだ作れていなかったけれど、追悼の鐘を鳴らして、皆で広場に集まり、その魂が安らかに還ることをお祈りしたはずだった。もちろん、まだ受け入れられていない人もいたけれど、涙をこぼしていても、それでも『愛する人が死んだ』という事実だけは理解していたはずなのに。――愛する人が動くその姿を見た瞬間に、自分に都合の良い夢を見てしまっていた。『嗚呼、死んでいなかったんだ』『私たちの祈りが届いて、命を返してくれたに違いない』……私たちの頭の中にはそんな都合のいい言葉が浮かんでいた。

「よく見ろ! あれは怪物だ! アンタら殺されるぞ!?」
「うるせえ! 俺の女房を怪物だと!? いい度胸じゃねえかそこになおれ!」

 兵士を襲う人もいた。門を閉じさせるなんてとんでもないと、破壊を試みる人もいた。兵士たちは町民を傷つけるわけにも、かといって門を閉じないわけにもいかず、その腰に下げた剣を抜くことなく、慌てていた。

 暴動が致命的となりかねない、決定的な瞬間が訪れるほんの少し前。まさに、砂時計が最後の一粒を落とす前に、町中に怒鳴るような声が聞こえてきた。それは男だった。のちに『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)と名乗ったその人の一喝に、あたりはしんと静まった。まるで、音が自分自身を忘れてしまったかのように。

「待ち人を迎え入れてやりてー気持ちはよぉーくわかった! だが! だがな!? アイツらは皆死人だ! オタクらを守るために死んだ連中だ!」
「そのとおり」

 彼の隣にしゃなりしゃなりと歩みながら、女――のちに『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)と名乗ったその人は、憂いを帯びたその瞳を私たちに向けた。同情するような、けれど――強い意志を持ったその瞳に射抜かれた人たちは、急になんだか、いたたまれなくなったかのように目をそらし、兵士の胸ぐらを掴んでいたその手をそっとおろしていた。中には、愛する人に殺されるなら本望だといい寄る女性もいたけれど、少女――のちにロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)と名乗った少女がその人の頬を思い切り平手打ちを1度放ちました。

「奇跡を願うのは、残酷なこと。もはや死んでしまった者は見送るしかありません。それが世の理」

 女性は一瞬、怒りの色を瞳に宿したものの、打った側なのに女性よりも痛々しそうに顔を歪ませている姿を見て唇を引き結びました。

「アイツらが守ったオタクらが! 自分から死人の仲間入りをしようとするんじゃあねーよ! 生きるために歯を食いしばって我慢しやがれ!」

 ぼたり、と大粒の雨が手の甲に落ちていくのが自分でもわかりました。確かにそのとおりです。彼らの命を、骸を乗り越えて、私たちは生きている。音が、世界に戻ってきたかのように、周囲からはすすり泣く声が聞こえ始めます。……嗚呼、それはあまりにも残酷な夢でした。見ていられないと寝床へ走り出す人もいました。けれど多くの人が、彼らに懇願しました。私も、その一人でした。

「……あの人を今度こそ、眠らせてほしい。もう二度と、私たちの身勝手な願いの為に起きないように」
「その手助けくらいなら───通りすがりの、この俺がしてやらァ!分かったら門を閉めな!」
「うむ。 ……委細承知した」

……ふわりと風が舞い上がり、いつの間にかいたらしい少女が私のうつむく頭をなでてくれます。のちに『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)と名乗ったその娘の声に頷くと、彼らは動き出します。彼らだけが外に出て、私たちは大きな門を閉めました。あの世とこの世を分かつかのようなそれは、どうしてなのか、いつもよりやけに大きく響いたように感じられました。

「果たして死人どものしぶとさは如何なるものか……推奨は橋落としだがまずは一撃、叩き込むとしようかの?」

 橋を歩んだ、ウルファが隣に漂うように降り立って、その片手に握った銃を彼らに向けます。引き金を引くと同時に、とてつもない魔力が光を伴って発射されます。たくさんの愛する人たちが後方へと吹き飛ばされていきました。…けれど、すぐに彼らは起き上がって橋の方へと這い寄ってきます。あの攻撃はどうやら何度も繰り返しは打てないようで、ウルファの隣で構えていたロウランの刀が、青白い輝きを纏ったその後に、振り放ったその衝撃で、ふたたび愛する人たちが吹き飛ばされていきました。
 喉の奥で悲鳴を押し殺します。目の前で愛する人たちが殺されるのを見ていられず、途中で吐瀉する方もいましたが、誰も責めたりはしませんでした。同時に先ほどまでに自分たちを酷く、愚かだと思い返しました。彼らの犠牲の上に私たちは生きている。それを忘れて、その罪悪感から逃げて、ひと時の夢にうつつを抜かしたそのことに、酷く腹が立ちました。

 メルランヌが使役する鳥たちが、時折彼らの視界を奪うようにまとわりついて、彼らを川へと落とします。川に落ちた者たちは、けれど、生前と違って及べるはずもなく、静かに水底へと沈んでいきます。
 圧倒的な力を前に、愛する人たちが無力ながらも歩を進めます。少しずつ、少しずつ、橋は彼らに埋め尽くされて、門まであと数メートルといったところで――遠くから銃声が聞こえました。ロウランのものとはまた異なるものです。

「ブライアン様がダムの方での仕事を終えたようですね」
「うむ、ならばそろそろ来るだろうよ」
「ええ、そうですね。……未練を洗い流す、清涼なる流れが」

 彼らの言葉と同時に、とてつもない勢いで上流から川の水がぶわりと愛する人たちをさらっていきます。同時に、何かが光った気もしました。はじめこそ、川の方で何か声が聞こえていたような気がしましたが、次第に声をは静かになっていきました。橋の上に数人、残っていたものもいましたが、水圧で橋に体をぶつけた際に足が折れたのか、うまく立てないものがたくさんいました。ほどなくしてダムからやってきたらしいブライアンはやれやれといった様子でやさしく、けれど厳しく川へと突き落とされていきます。

「オイオイ、橋、壊そうって話じゃなかったか? 」
「壊れたら新しく作るのも、とは言いましたが壊したいわけではないですし……」
「思ったよりも丈夫じゃった。それでよいではないか~」
「そのとおりです。仕事は終わったのですから、良いではありませんか」

 数人、まるで橋の方にかかる水圧だけは分散させたかのような口ぶりにブライアンがあきれたように、けれど面白いと言わんばかりに口角を上げて『しゃーねぇなぁ』と肩をすくめました。


 ……その後、誰ともなく、ささやくような、けれど悲しみに震える指先で、バイオリンを奏で始め、ある者は歌い、ある者は別の弦楽器で水底へ沈む愛する人たちへ音楽を捧げました。のちに『愛する者への子守歌』あるいは『魂の揺り籠たるレクイエム』とも呼ばれるその曲は、ティタニア橋はへと新たに歌詞が刻まれました。

 気が付くと、あの4人は消えていて……もしかしたら、絆を結ぶティタニア橋が、本来は結んではならぬ縁を絶つために神の使いを呼んだのではないかと町の人たちは噂していました。私もそう思います。

 ……翌年から、ティタニア橋の下に流れる川に、スズナリソウを流す風習が生まれました。スズナリソウはその名の通り、振るときれいな音が聞こえる植物で、水底へ沈んだ愛する人たちが安らかに眠れるようにと祈りをささげられるのです。


 ――拝啓、愛する人たちへ。
 私たちはこれからも今を生きていきます。
 貴方達によって守られたこの身体が、魂が、いつか果てるその日まで。
……どうか、そこで安らかに眠れますように。

成否

成功

状態異常

なし

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