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シナリオ詳細

<現想ノ夜妖>島騨原遊郭怪異憚

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 がらり、と扉をひらいた先は広い広い遊廓通り。木の格子のむこうには、美しく和服で着飾った女達がキセルをふかしながらくつろいでいる。
 通りがかる男に魅惑的な視線を送り、『遊んでいきな』と声をかける。
 天井からぶらさがったオレンジ色の電球が照らすその首筋が、さがった赤提灯の照らす頬が、男を奥へと誘い込む。
 それから先――この男を見た者はいない。

 カラカラカタン、とフィルムロールの止まる音。
 おちた照明がもどり、映写室が白く照らされる。
 イレギュラーズに混じって座席に腰掛け瓶から直接ビールを飲んでいた『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式(p3n000170)が足を組んで手すりに顎肘を突いた。
「ヒイズルの歓楽街にあるという、島騨原遊郭(シダハラユウカク)――まあ、風俗店というやつだ。幻想国にある高級娼館と仕組みは同じだ。ドレスで着飾った美しい女性が一晩の宿を提供する。その先は自己責任、とな。ただ連中は芸事に長け、知識が豊富で機転も利く。女に一切困らない金持ちがわざわざ自分から通うほど、その女には深い魅力があるということだ」
 追加で流した映像がスクリーンへと映し出される。それは遊郭の内部を撮影したものだ。
 十字路の角に玄関口を構えるその店は、二階の屋根からさげならべた赤い提灯に淡く照らされている。
 中に入れば小さく赤い絨毯をしいた一人用の橋がかかり、橋の下には人工の池が流れる屋内庭園が広がった。
 一歩ずつ目を奪われるような美しい風景、そして美術品。天井には格子状の板がはられ、区切られた無数の天井画が見える。
 更に進めば広間があり、二階までの吹き抜けになったその天井はガラス張り。二階通路は大きな八角形を描き、提灯のさがったどこか中華風の欄間と手すりで仕切られていた。
「だがこの遊郭が、あるときから異常性を発揮するようになった。ある曜日、ある時間。遊郭の顔ぶれが通常のものと大きく変わり、立ち入った客は二度と戻らない」
 映像が進み、それは本来撮影されるはずのない場所と時間のものになった。
 つまりは、異常性をもった遊郭に立ち入った男性を追った映像である。
 広間へ連れてこられた男性は、着物の女性に頭を下げられ、『さあお好みの娘をお選びくださいな』と案内される……が、そこへ現れたのは恐ろしい怪物たちだった。
 首から上がハサミムシになった女や腕が異常に伸びた女。首が十メートル以上伸びてぐねぐねとおどる女。みな遊女の格好をしているが、ひとりたりとも常人などいなかった。
 恐怖に声をあげ逃げ出そうとする男の脚に、手がつかまる。伸びた手の女がウフフと笑い、男を引きずりこんでいった。
 間違いない。平和な世の闇が生み出した悪性怪異――夜妖である。
「この映像は『よしよみキネマ』……陰陽術によって未来をうつした映像だ。
 お前達にはこの異常な遊郭へ潜入し、異常な遊女たちを倒し、状態を解いてもらう。
 おっと、性別も年齢も気にするな。ここは混沌を写したネクストだ。たとえ相手が犬猫だろうが粘土質の球体だろうが、構わず接待するだろうさ」

GMコメント

 遊郭へ客を装って潜入し、戦闘によって夜妖遊女たちを倒しましょう。

●潜入パート
 客を装って店に入ります。
 このとき8人組の団体客だと露骨に怪しいので、一人ずつ別々に入っていくことになります。
 未成年女性も(異常性を帯びたがゆえ本来の用途を成していないので)普通に案内されるでしょう。シレって入っちゃってください。むしろこのレアな機会をお楽しみください。

 一旦個室に通されてから、広間へ出て遊女を見せられますが、戦闘の物音を聞きつけるなり(校長が貸してくれる)赤い笛を吹き鳴らすなりしてPCたちを集合させ、戦闘に突入しましょう。

●エネミーデータ
・夜妖遊女
 異常な外見をした遊女たちです。
 映像にでたような、見るからに怪異らしい外見をしており、その特徴を利用してこちらを抹殺しようと試みます。
 中には怪しい妖術を使うものもいるので、攻撃のバリエーションが読めません。
 自分の特技を押しつけてガンガン戦うスタイルでいきましょう。

●サクラメント
 このシナリオでは死亡からの戦闘復帰はできません。一度死亡したら以降の戦闘には参加できないものと考えてください。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

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●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <現想ノ夜妖>島騨原遊郭怪異憚完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
ユキノ(p3x002312)
桜(p3x005004)
華義の刀
フー・タオ(p3x008299)
秘すれば花なり
きうりん(p3x008356)
雑草魂
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
ハンモちゃん(p3x008917)
金枝 繁茂のアバター
指差・ヨシカ(p3x009033)
プリンセスセレナーデ

リプレイ

●華やかなりし格子の夢
 夜深く、赤い提灯に照らされた島騨原遊郭は赤い大門のずっと先に存在する一見さんお断りの高級な店だ。
 子供が立ち入ることはもちろん、『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)の目からしても縁遠い世界である。
 だがある日あるときあるタイミングである店舗に入場することで、本来営業している店とは異なる空間に入場してしまうことになる。
「売る側、商品、買い手。そのいずれもがヒトである為、紡がれた糸同士が縺れて怪異を織り成すのは、ままある事。
 ネクストの怪異は現実とは異なり、結果を見ても因果関係がはっきりしない──原因があって怪異が生じ、事件が起こるのではなく、事件の為に怪異を配置しているように見える──事もあるけれど……」
 ネクストを歪めた『意図』のようなものを垣間見ることはままあるが、今回はその中でも自然発生的な歪みに見えた。
「…………」
 建物を前にして腕組みをする『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)。
 元いた世界では廃れた、ないしは押しやられた文化だったのだろうか。中には煌びやかな内装をそのまま活かした飲食店などもあると聞くが、そのありようには疑問があるらしかった。
「この建物だってとても綺麗。この雰囲気は人を酔わせて夢を見せるには十分よ……」
 どこの世界のどんな文化にも『欲望に格式を持つ』という現象は起こるのだろうか。しかし多くの場合、前提条件が広く緩いまま取り扱われるのもまた然り。
「ハンモは花魁みたいにお行儀がいいわけじゃないからね~、自分から食べに行っちゃうタイプだし場所は気にしないからこんな所は新鮮だね~。
 まっ、それはそれとしてハンモの得物を盗み食いする夜妖は滅ッするし、ついでに男性諸氏の夜の遊び場を守っちゃいますか☆」
 一方『疑似人格』ハンモちゃん(p3x008917)はそういった側面にはあまり興味がないようで、腕まくりをして遊郭へと歩いて行く。
 先頭をきるのは『開墾魂!』きうりん(p3x008356)である。
(遊郭……行ったことないね! 当たり前だけど!
 なんだかちょっと楽しみだね! 美しい風景見る余裕あるかな!
 ってことでバンカラきうり、参るよ!)
 この街での活動にピッタリなバンカラスタイルに身を包んだ彼女は、角にある建物の玄関へと入り、座布団に正座していた女性に声をかける。
「遊びに来ちゃった! よろしくよろしく!」

 ある程度間を置く形で数人ずつ店へと入っていく。結局は個別の部屋に通されるのでここからの順序にあまり意味はなさそうだが、少なくとも入場のタイミングを逃すのは避けたいものだ。
 『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)は通された部屋の座布団に座りテーブルへ運ばれた料理をぼうっと見つめている。
 窓から見える景色は日本庭園のそれで、他の部屋が見えないよう巧みに配置された中庭の風情と技巧にほうっと息をつく。
「妖怪の巣窟とわかっていても、ちょっとドキドキしますね
 いかがわしい所だったら、目を塞がないといけないところでしたけど……」
 今のところ、ただただ綺麗な建物と風景と、そこそこ良い料理が出てくるお店である。案内人を指定するタイミングが、なんだか順序的におかしい気もしたが。その程度だ。
「遊郭……名前と概要は、聞きますが……。立ち入るのはこれが初めてですね」
 隣にしいた座布団で、ユキノ(p3x002312)が美しい天井画に目を細めていた。
 一人ずつ入る予定であったが、割と最後の方で二人組が出来たらしい。別に詳しくないが、自然にそのまま通されたのでそういうこともあるのだろうと、ユキノたちは今に至っている。
「装も凝っていますね。まさしく、贅沢に時間を使う場所、でしょうか」
 ユキノが見た限り、いかがわしい雰囲気は……どうもしない。飾られた美術品や部屋の清掃具合や、建物自体に懲らされた技巧からはむしろ格式の高さを感じてちょっと背筋が伸びてしまうほどだ。雰囲気は高級料亭のそれ、なのだろうか。これまた詳しくないが。

「もし女の子でこういう店に入ろうとしてると思われたらちょっと…いや、かなり恥ずかしかったかも!」
 夜妖退治でもなければ絶対入らない場所に、『サクラのアバター』桜(p3x005004)はいた。座布団の上で正座をし、腰にさした刀をそのままにして壁にかかった掛け軸を眺めている。
「遊女っていうのは芸能に通じて、礼儀作法も完璧、話をすれば当意即妙。
 そういう人と遊ぶのはお金持ちの趣味人には需要ありそうだよね。
 普通の………大人のお店だとちょっと近づくのも気まずいしある意味助かったかも!」
 なんていいながら、混沌世界の幻想王国にもそういうサロンや高級娼館があったのを思い出した。食べ物ひとつにも値段や格式があるように、きっとそういう世界があるのだろう。
 ふと、庭に小さな桜の枝が刺さっていることに気付く。庭師が季節ごとによい景色が窓から見えるようにと、工夫をこらしたのだろう。
「ある意味、これも勉強になるのかも……」

 また別の部屋で、『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)は出された料理に箸を付けていた。
 毒や呪術のたぐいはない……ように見える。実際ほしよみキネマで流れた映像でも、食事に手を付けるシーンがあって、それが悪い影響をもたらしたという様子はない。
 ここまで案内してくれた女性も、非常に物腰の丁寧な人間だった。
「それこそ国家の重鎮まで相手にする格の遊女となれば、生半な貴族の夫人よりも見識に優れ聡明な女性でもなければやっていられないとも聞くがの……」
 まあ、よい。と首を振る。
 深く考える場面は、もうすぐ終わる。笛の音が聞こえれば……。
「特定条件でのみ出現する怪異であろうと、未来が見られるのならばどうにでもなろうというものか。えてしてそのような手合いは性質(たち)が悪いものであるがの……」
 目を閉じ、意識を集中させる。
 高く強く笛の音が――
「『倒せる』のなら、それほど心配することもなかろう」
 聞こえた。

●怪異遭遇
 時間は若干巻き戻り、広間へと案内されたきうりん。
 彼女は唇をつきだし、むーんといいながら腕組みをしていた。
 さもあらん――と言えるのかはさておき、眼前には奇怪な造形をした遊女たちがずらりと並びきうりんを注目している。対してきうりんはビッとその中央を指さした。
「……じゃあそこのハサミムシの人! キミが一番野菜好きそう!」
 若干の困惑や動揺を見せる遊女達……だが、そこははやり怪異。プログラムされた異常。人間的反応をそこでやめ、一斉にきうりんめがけて襲いかかった。
 口に笛をくわえ、吹き鳴らす。
 ――とほぼ同時にふすまのひとつが個室側から破壊され、翼をはやした大型クマさんが出現。神々しい光を放つクリッド・クマさん・フォームに既にチェンジしていたクマさんは威嚇の咆哮を浴びせた。
 たかが咆哮と侮るなかれ。衝撃をもって放たれた波が周囲の遊女たちを錯乱させ、ものによっては自ら耳を押さえ引きちぎる者まで現れた。
「選り取りみどり、妖怪見本市ですね。クマさんは……指名したい方はいますか?」
 クマさんの後ろから現れそう語るハルツフィーネに……クマさんはあえての無反応であった。
 同じ部屋から登場したであろうユキノ。
 クマさんロアーを掻い潜った遊女たちへと符を構える。
 過剰な牙とクマのごとき爪を露出し飛びかかろうとした数人組の遊女に対して、符術による結界を多重展開。
「符陣展開・狂弦廻し。正体を見失うまで、踊り狂いなさい」
 クマさんロアーに対する追い打ちとして、彼女の結界は非常に有効に働いた。
 見えざる弦に操られるかのように自らの肉体に爪を突き立ててしまう遊女たち。
 そうして動きを鈍らせたところで、別の通路から桜が飛び込んできた。吹き抜け二階建てとなった広間に、二階部分の手すりを飛び越える形で現れた桜は腰に差していた刀を抜刀。
「桜、推して参る!」
 着地と同時に先ほどの錯乱した遊女の一人を斬り殺すと、側面から迫るワニ顎の遊女に向けてもう一本の刀を抜いて放った。
 桜花のエフェクトと共に放たれた衝撃が彼女を中心に渦巻き、昇竜のごとく太い螺旋を天井まで吹き上げる。
 それによって弾き飛ばされた遊女に追撃――の構えをとった所で、フーが二階通路に立ちスッと二本指を宙空にスライドさせた。文字のようなものを描いたようにも見えたが、それを正しく認識するより早く高速発生したマルチクラウドから遊女たちへ散発的な雷撃が連続し、更に宙空に描いた文字によって蒼い火の玉が指の上に現れた。
「相手が怪異でなければ、もう少しみていたかったものだが……」
 残念だ、とつぶやいて指を振り下ろし、炎を放つ。砲弾の如きスピードで飛んだ炎が遊女を包み。見た目からは想像のできない熱と痛みによってもがき暴れる遊女の姿をフーはつめたい目で見下ろしていた。

 設定された怪異である遊女たちに臨機応変な対応というものがあったのかどうか、今となっては定かでないが。
「案外早く到着できたね。きうりんが集中攻撃に晒されていなくてよかったよ」
 遊女たちを牡丹の花めいたビットナイフによって複数箇所から同時に突き刺したイズルは、再展開したビットを群がる遊女たちめがけて拡散させて放った。一部は脚を切断することで転倒させ、残る個体も的確な狙いによって攻撃部位の切断や感覚器官の破壊といった方法で無力化。戻ってきたビットを花模様の和服の内側へするりと収納させた。
「ただ、手応えが弱すぎる。強い個体を隠してるんじゃないかな」
「あああーー男がいないから病んじゃう病んじゃう~漢男漢男~」
 そんなイズルの横を飛び越える形で現れたハンモがキラキラしたエフェクトを伴って攻撃スキルを発動。無力化した遊女たちへと襲いかかる。
「なるべく纏まってろうがなかろうがぶちかます、やけくそじゃい! オラッ!! ご臨終遊ばせ!!!!」
 言わずとも狙った通りの動きをしてくれたハンモに頷き、イズルが後ろのヨシカへと呼びかける。
「強力な個体が出てくる前に、今いる個体を倒しきりたい。戦闘力が弱くても、足止め目的で群がられるとまずいからね」
「沢山しがみつくと回避がしづらくなるっていうこの世界のアレ? 分かったわ、じゃあ……」
 誘導ブレイカーを高く掲げ、親指でスライドを操作。細かい点滅発光状態にすると、頭上に小さな木製杭を無数に出現させた。
「建物自体は余り壊さないように……今日の工事は些か難しいわね!」
 杭が遊女達へ殺到していく。
 そんな風景のなかで、ヨシカは小さく息をついた。
 魔法少女のアバターをしているが中身は年頃の男子。赤い大門を潜る段階から既にドキドキしていたのを、キリッとした表情で隠していたのだった。
「それにしても……」
 おそらくは江戸時代からずうっとある建物なのだろう。改築や改装を重ねたその様子は重厚かつ華やかで、昔から多くの人を精一杯迎え入れようとしていた雰囲気が伝わった。
(こんな形でなければもっと楽しめたのかな。いや……普通だったら近づきさえしなかったか。数奇なもんだな)

 イズルの予想通りと言うべきか。遊女達をすべて倒しきったと思った矢先、広間の壁面を突き破る形で全長3mほどの巨大な怪物が現れた。遊女と呼ぶにはあまりにおぞましい、芋虫を膨らませたような巨体に手足をはやし、申し訳程度にぼろけた着物をひっかけた怪物である。
「いかにもこの子は指名をとれなさそうですね」
 ハルツフィーネはぴょんとその場から飛び退くと、突進を仕掛けてきた巨大遊女めがけてクマさんをぶつからせた。光の塊となってタックルを仕掛けるクマさん。両手で相手の巨体を突っ張るようにして耐えるが、床をごりごりと削るようにしてクマさんは少しずつ押されていた。掴み、ついにクマさんを掴み振り上げる巨大遊女。そうはさせまいと桜とフーが攻撃をしかけよう――とするも翼を生やした鴉めいた遊女が飛びかかる桜を掴んでかっ攫い、二階吹き抜け通路から攻撃していたフーをも掴んで別の個室へと攫っていった。

 テーブルを破壊し、畳部屋へと転がる桜。危険を予期し防御の構えをとるも、鴉遊女は自らの羽根を取り外して桜とフーへと殺到させた。あまりの量に回避しきれず、次々と突き刺さる羽根。無論、ただ刺さっただけではないらしく……。
「毒、か……」
 刺さった羽根を抜いてすてるフー。
 かなり高度な毒らしく、二段階にも渡って超高度な解毒術式を仕込まれたフーの身体をじわじわとだが蝕んでいく。
 こうした防御のない桜のダメージは察するに余りある。
 が、絶望するには早い。
「おかしな術を使う遊女もいるかもしれない……とは思っていたけど」
 鴉遊女の後ろからゆらりと現れるイズル。
 イズルの放った牡丹のビットが桜とフーへと突き刺さり、追加のパッチ術式を注入。彼らの毒を完全に無力化した。
「魅了や混乱ではなく直接的な毒とはね」
 ちょっと無粋じゃあないかな。そう言って肩をすくめるイズル。
 フーはとっておきの技が崩された鴉遊女の動揺を見逃すことなく『DarkGarment』を発動。浮かび上がった複数の炎が無数の影を作り、同時発動した『ShadowEater』によって鴉遊女を複数の影で捕らえ、その翼を根元から引きちぎる。
 飛んで逃げようと考えていたのだろうか。翼をもがれた鴉遊女が宙に投げ出されたところで、桜が自らを急加速。
 モノクロかつスローになった世界のなかでただひとりがゆっくりと、水飴のなかを泳ぐかのように一歩二歩と確実に脚を進め、跳躍。
 気付いた頃にはきりもみ回転した桜が鴉遊女を切り裂き、吹き抜けを飛び越えて反対側の壁へと着地していた。
「この居合に耐えられるかな――って、もう遅いみたいだね」

 一方でこちらは窮地のクマさん。
「私を客に取りたいなら、テディベアに生まれ変わってから出直して来ると良いですっ」
 振り上げられたクマさんが口からクマさんビームを発射し巨大遊女の顔面へ浴びせるなか、ユキノが新たな結界術を起動。
「符陣展開・土蜘蛛。今しばらく、大人しくしていただきましょう。
 ……遊女というには、あまりにお粗末ですね。怪異なら、もう少し化ける努力が必要でしょう」
 展開した結界が巨大遊女の頭上へ現れ、幾重にもなった結界がその動きを強制的に拘束していく。
「おっ、出番かな!」
 親指をかじって最初の集中攻撃を耐えていたきうりんはぺろりとつけねを舐めると、再生した拳をかためた。はえたグリーンの翼ではばたき、一発の銃弾の如く殴りかかる。
「ざっそうパンチ!」
 集約した雑草ムシャムシャくんパワーが巨大遊女へと炸裂。
 と同時に、ハンモがさらなるキラキラエフェクトを浴びせかけた。
「これ勝てる空気? 勝てる空気だよね! ラスト一発いける!?」
 誰かやって誰か、とジェスチャーするハンモにこたえたのはヨシカだった。
「アンカーシュート!」
 巨大遊女の胸にアンカーを発射。腰に装着したマジカル安全ベルトのリールをオンにして急速に自らをアンカーへと引っ張らせると、魔力をこめた拳でその顔面を殴りつけた。
「からの――プリンセスパンチよ」
「えっ、それ技名?」
「……しらない」
 二度見してくるきうりんから、ヨシカは目をそらした。


 後日談、ではない。
 その後遊郭は崩壊しはじめ、合流したイレギュラーズはなんとか脱出をはかった。
 全員が崩壊に巻き込まれることなく脱出に成功した……と思い振り返った矢先、そこには元通りの遊郭が建っていた。
 入り口に座っていた妙齢の女性が、こちらを見て首をかしげる。
「こういう所に来るのは、まだ早いですよ」
 上品な笑みで。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――クエスト完了

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