シナリオ詳細
<濃々淡々>彩い果て
オープニング
●花
色とりどりの花が咲く。
雨の日は決まって。いつも。
あか、あお、きいろ。みどり、しろ、くろ。
むらさき、もも、だいだい、ちゃ、こん、それから。
それから。
色を理解したのはヒトの身体を得てからだけれど。ぼんやりと、覚えていた。
――おれと同じ色(くろ)は、少ない。
それは寂しくもあり。悲しくもあり。
同時に、それが理であると理解もしていた。
花は、鮮やかでなくてはならない。美しく、華やかで、鮮やかで、愛らしく。その中に黒が混じっては、いけないのだ。
●傘屋
――しとしと。
「やあ、傘屋」
「おう、飴屋じゃねえか。今年もこの時期か?」
「嗚呼、そうみたいだ。今年はこれで、頼めるかい?」
「――へえ、お前が黒を止める日が来るたぁな」
傘屋と呼ばれた男は、意地悪く笑った。飴屋――絢は、少し照れ臭そうに笑って。
「君は驚くだろうけれど、おれにも漸く、友達ができたんだ」
「ほお」
「それでね。おれがあやかしだと知っても、石も、籠も、何も投げつけないんだ」
「へえ」
「……一寸。ちゃんと聞いておくれよ」
「いやあな。だって、お前……――」
――俺達にもそんな笑顔、見せたことねえだろうがよ――
●拝啓、Neve様
「……さま……――ん、さま――――絢、さま?」
「お……っと、すまない。ぼうっとしていたよ。こんにちは、ネーヴェ」
「はい、こんにちは!」
『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は、境界案内人たる絢にはにかみ小さく礼を添え。
「おてがみ、ありがとうございました」
「ふふ、こちらこそ」
二人の約束――交わした文を、互いに取り出した。
取り留めもない話に違いない。それは、第三者から見ればのことだ。しかしながら二人にとっては――よき友人同士である二人にとっては、そんなささやかなやり取りが日常に小さく花を添えるような、そんなやりとりであった。
今日あったこと。
先日の依頼の続き。
最近のようす。
違うところにいるからこそ、目に見える景色も、感じた匂いも、触れた温度も異なる。
ちがうということは、おそれることだ――そう、思っていたけれど。絢は、新しい宝物を得た。
だから、怖くない。恐れることは、もうない。
違うことすら、いとおしいのだ。
「絢さま、今日は、」
「嗚呼、そうだね。待ちに待った傘屋の日!」
ネーヴェの白い耳が、絢の黒い耳が、ぴこぴこと揺れる。
「今日はおれたちだけだから、二人でゆっくり楽しもう」
「ええ――!」
――さあ。雨の世界を、楽しもう。
- <濃々淡々>彩い果て完了
- NM名染
- 種別リクエスト(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年07月03日 22時05分
- 参加人数1/1人
- 相談4日
- 参加費250RC
参加者 : 1 人
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参加者一覧(1人)
リプレイ
――待ってた。
●
「雨に濡れる街も、綺麗です、ね。それに、色々な傘が、たくさん」
雨はまだ降っていないけれど、占いによれば今日の天気は予定通り雨。『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は絢の横に並び立ち、歩く。街を進んでいくと、様々な人とすれ違う。混沌とは違い和傘が多いのも此の世界の特徴であるだろう。勿論、悪い気はしないし、寧ろ『らしさ』を感じて好ましいのだが。折り畳まれた其の色の華やかさと云ったら、海の中を泳ぐ魚よりも、陸に咲いた花よりも鮮やかに思えてくる。
「わたくし、家の2階から人の往来を、よく見ていたのですけれど、こうやって往来の中に居るのも、楽しいと思ったんです」
「嗚呼、そうだね。傘の花を咲かせるのは屹度、楽しいことだ」
けれど、其れは今日のお楽しみに。
二人の約束。たった二人だけの。
傘を作りに行こう、なんて少し変わっているだろうかと恐れていた絢。けれどネーヴェの様子は至って変わらず、常のまま。仲のいい友人同士、好きなことを共有できる喜びもまた、ひとしお。
金魚のような華やかなドレスを纏ったネーヴェをエスコートする絢は、所謂書生さんのような恰好。うんうん唸ったのだとは言っていたけれど、本人も満更では無いようで『似合っている』のひとことには目元を緩めた。
人々の騒めき、雨の音、濃い湿気の匂い。
梅雨だ、とわかっているけれど、肌に、瞳に映る世界が、すべてが梅雨だと告げる。ガーネットの瞳は、雫を受けて煌めいて。
「ネーヴェ。買い物とか、大丈夫かい?」
絢は徐に立ち止まり、店を指さして。以前此の世界に来たときも、店に興味津々だったのを覚えている。お花見の時も、付喪神の魅せの時だって。
「まだ、結構です。お買い物に行くのは、ふふ、傘を誂えてもらってから!」
気になるものならうんとある。夏に向けた服も、紫陽花の刺繍が入った手巾も、アクセサリーだって!
でもそれは後のお楽しみ。本日のメインディッシュを頂かぬことには、デザートもただの前菜。お腹を満たすことはできないのと同じように、今日の約束の本題である傘を手に入れないことには、そわそわとした心地になってしまうのだ。
「……まあ。あそこのお店では、夏の服を扱って、いるのですね」
「うん、そうだね」
「涼しそうな生地で……あら、あちらは、雑貨屋?
あの、紫陽花の刺繍がある……手巾。手巾自体の配置も、まるで、紫陽花みたい。かわいい、です!」
「……ふふ」
「……はっ。い、いきましょう、か!」
「いや、もう少し見て行っても構わないよ?」
「いえいえ、遅れてしまっては大変ですもの……そういえば。絢様は、気になるもの、ありましたか?」
「おれかい? うーん……新しい手拭いが欲しいかな、と思ってる。後で一緒に、見に行こうか」
「はい! そう、しましょう。あちこち、見て回るのは、傘を誂えてもらった後、です。ふふ!」
こくり、頷いて。晴れた空を背に、傘屋へと向かった。
●
道中の傘を見るのも楽しかったけれど、此処は花畑のようだ。ネーヴェは独特の店の匂いに目を輝かせて。
「さぁ、ネーヴェ。此処が傘屋なんだけど……」
「はいっ。傘屋様、絢様のお友達の、ネーヴェです。今日はよろしくお願い、します!」
「……飴屋テメェ『名持ち』だったのか」
「あはは、まぁね。おれと、ネーヴェの分。頼んでもいいかな?」
「ったくよぉ、急に押しかけやがって……ま、見つかってるもんは仕方ねえ。任せな、いい傘設えてやるから」
絢曰く、傘屋は店を見つければ『おとなしい』のだと云う。其れを笑顔で告げた後、傘屋に猛烈なパンチを食らっていたのだが。
「これだけ沢山の傘を見ると、やっぱり迷ってしまいます」
「ほぉ?」
「だって、どれも魅力的で……絢様。宜しければ、同じ柄で、色違いとかに、してみませんか?」
「うん? おれは構わないけれど……お揃いでなくてもいいのかい?」
「もちろん、お揃いでも良いのだけれど。お友達とのお出かけは、何か揃いのものを買ったりして、思い出にするのです。
絢様も、お色の好みがおありでしょう? だから柄だけ一緒、とかで」
「はは、そっか。うん、じゃあそうしよう。色はもう決まっているのかい?」
「えっと、えっと。わたくしは、お空の水色とか、紅葉の紅色とかが、特に好きです」
瞬いた絢は。己の懐から紅葉を取り出して。
「絢様は何色が、好きですか?」
「おれはね。黒が好きなんだけど……今日は、向日葵のいろかな」
「え……?」
絢は悪戯っぽくウィンクをすると、『まぁ見ててよ』、とでも言うように傘屋に紅葉と向日葵を手渡した。
「傘屋、此れで大丈夫そうかい?」
「相変わらずテメェは喧嘩でも売ってんのかってくらい……はぁぁ、まぁ待ってな。柄は?」
「嗚呼、そうだった。ネーヴェ、気になるものは?」
「でしたら……あれを」
●
「さぁネーヴェ。今から面白いものが見られるから、目を離してはいけないよ」
「絢さま……?」
絢が手招いた先。傘屋が水に紅葉と向日葵を其々浮かせ、半透明の和紙を上から被せようとしているところだった。絢曰くあれは特殊な紙のようで、雨も弾くのだが、柄をつけるのが『楽』らしい。
傘屋が何かを唱えると、向日葵が一瞬にして水に溶け、其の鮮やかな色彩を和紙に染みこませていく。
二人が揃いで決めた『空』の色は、傘屋が何かをぶつくさと唱えると、色の途中から淡く、グラデーションを生み出した。
紅葉と向日葵が溶け合い、その淡いに白が生まれる。
「――――わぁ!」
傘屋は慣れた手つきで和紙を傘の骨組みに張り付けた。
夕焼けをうつしたような傘が、生まれた。
絢が肩を叩くと、ネーヴェは見とれていたことに漸く気付く。
絢の傘は、金にも近いほど儚い色をしていた。薄ら端に夕日の色が滲む。
ネーヴェの傘は燃えるような夕日の色だった。
端に向日葵が残る。夜へと移る前の空の色だった。
「おらよ。代金は絢から貰ってっから、安心しろ」
「け、絢さま」
「はは、まぁ此れくらいはね?」
「――早速降ってきやがった。ほら、早速使ってやってくれ。其の方が、そいつらも喜ぶ」
「うん。また来るよ、傘屋」
「ケッ! ――――ま、てめぇが見つけられたらだな、絢」
「嗚呼、勿論。おれは結構『目』がいいからね」
「言ってろ言ってろ! 相変わらず食えねえ奴だ、とっとと行っちまえ!」
「あ、ありがとうございました、傘屋様」
「おう。嬢ちゃん、こんな糞猫ほっとけよな」
「汚い言葉をネーヴェの前で使わないでくれ――!」
傘屋を一歩出た後。
其の後ろを振り返ってみれば、傘屋の姿はもう無く。空き地が残っているばかりだった。
「今日は何時にも増して消えるのが早いなあ……」
「だ、大丈夫でしょうか」
「うん? 嗚呼、此れはいつものだから大丈夫だよ。其れより、傘、どう? 気に入ってくれた?」
「――はい! 雨、もっと好きになれそう、です!」
●
「さて、夏に向けた服と、手巾と、あくせさりぃだったかな」
「……覚えて、いらっしゃったのですか?」
「ふふ、まぁね。友達が気にしているものくらい、覚えているものだよ」
ざぁざぁと、雨が降る。
雨の世界に二人、消えてしまいそうなほどに。
「おれも手巾は欲しかったからね。おれの好きな店を見るのもいいけれど、今日はネーヴェの行きたい所に行ってみて……其れから、ご飯にしようか。おなか、すいていないわけではないだろう?」
「そうですね、軽食がいいかしら……」
「ふふ、悩むのは楽しいね。それじゃあ――往こうか!」
「はいっ――!」
差しのべられた手をネーヴェは恐れずにとった。
絢がふわり、微笑んで。
二人は雨の中を進んだ。揃いの傘を握って。
「絢様、絢様! あれは、あの桜色は――」
「うん。あのお花見の日の桜だと思うよ。桜の精たちも人懐っこいものだから、上手く認知度をあげているみたいだ。其れも、親しみやすいものとしてね」
「此方は、付喪神様の?」
「うん。ものづくりも好きみたいでね、色々と作っているみたいだよ」
「嗚呼、あのお洋服……!」
「ネーヴェに似合いそうだね。試着してみたら?」
きゃらきゃらと。笑う声がこだまする。
雨の中に咲いた二輪を、人と妖の二人を止めるものなど、いなかった。
――たとえ絢の耳が、尾が、ヒトと異なるものだと気付いても。誰も、止められなかったのだ。
あんなにも、幸せそうな顔をしていたら。其れこそ、野暮であると、『人間』は理解していたから。
――おれは、雨の日を恐れていたんだ。無意識に、ひとと妖を区切られてしまうような。おれだけが、のけもののような気がしていたから。
――でも、もう怖くはないんだ。
――ありがとう、ネーヴェ。
黒い傘を握ってばかりだった。
おれは此処にいると、訴えたかったから。
でも、君が、皆が気付いてくれから。
もうおれに、あの傘は必要ない。
「――――ったく。虹の次は、向日葵と来やがって」
『――おれの色を、認めてくれる友達の色なんだ』
「まぁ、悪かぁないだろうな――――ったく! 嫌味な奴だ、本当に――」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
濃々淡々へようこそ。
梅雨時は雨が滴り、美しい傘の流行があるようですよ。
染と申します。文通のからのリクエスト、ありがとうございました。
お楽しみ頂ければ幸いです。
●目的
傘を作りに行こう!
絢が傘屋までの道をエスコートしてくれます。
お散歩気分で濃々淡々の世界をのんびりしながら、ゆっくりと楽しみましょう。
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。
また、ヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神様的存在です。
(大まかには、明治時代の日本を想定した世界となっています)
●絢(けん)
華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいます。
屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。
>ネーヴェさんへ
彼は今年の傘を設えていません。というのも、彼がOPに作った傘は、観賞用に使いたいと言うのです。
ですから、望まれるようであればお揃いも作ることができますよ。
●傘屋
傘が沢山あります。
街を転々としているようで、同じところに二度あるとは限りません。
店主は30代程の男。口が悪いですが、人懐っこい性格をしています。
●道中
紫陽花畑や絢の店はもちろん、服屋、雑貨屋などがあります。近くには商店街もあるようで、色々な店がありそうです。
●相談日数等
お一人ですから、少なめに。
短かったらごめんなさい。
アドリブが沢山入りますから、やりたいことは相談でメモしておくといいかもしれませんね。
以上となります。
プレイングをお待ちしております。
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