PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ファーストステップ・フォウ・イレギュラーズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幼い兄弟の至った窮地

「はっ……! はぁっ……! はっ……!」

 枯れ木ばかりの森の中を、両手の指の数にも満たぬような年嵩の少年が駆けていく。背には泣きべそをかく彼の弟を負い、脇目も振らずに真っ直ぐに。そして、彼の周囲には複数の呼吸音と、荒々しく大地を踏み鳴らす音。二人は、魔獣に追い掛けられていた。
 こうなったのには理由がある。ひとつは冬の間、薪に使う枯れ枝が足りず、幼い二人だけで取りに行こうとしてしまった事。ひとつは枝拾いに夢中になっている間に、弟がはぐれてしまったこと。そして、はぐれた弟がうっかり魔獣の巣穴を踏み荒らしてしまったこと、だ。慌てて連れ戻した時にはもう遅い。眠りを妨げられた魔獣が巣穴から這い出し、二人の姿を認めると、天に向かって高々と吠えたけた。次々と巣穴から姿を現す魔獣たちに背を向け、兄は弟を背負い一目散に逃げ出した。
 駆け足には村一番の自負が有った。大人たちでさえ、置いてけぼりにする自信も。けれど、幾ら早かろうと、人の足では魔獣たちから逃げきれない。それが、森を走るに十分な鍛錬を積んだ人物でない限り、だ。
 時刻は昼に差し掛かかろうとしている言うのに、森の中は薄暗い。木々は既に葉を落としきってしまっていたが、不作法に伸びた枝が絡まり合い、太陽の降らす光を阻害していた。日が暮れてしまえば、ますます暗くなるだろう。森の動物たちも、ますます活動的になる。そうなれば、幼い兄弟に助かる術は無いだろう。
 何故こうなってしまったのか、と兄は考える。母の言いつけを守らず、森に踏み入ってしまったのが良くなかったのか。はたまた、嫌がる弟を無理に連れ出してしまったのが悪かったのか。心中に積み重なる問いに、口からも思わず声が零す。何故、何故、と。しかし答える声は何処にもない。背負った弟はぐすぐすと嗚咽を漏らすばかりだ。頼りにならない――おれがしっかりしなくては。
 次の瞬間、木の根に足を取られ、兄の体が宙を舞う。不味い、と感じるや否や転倒し、地面に顔を叩きつけた。鉄錆の臭いと共に、どろりとした物が鼻から流れ出す。しかし、手は離さなかった。兄も、弟も。偉いぞ、と兄は弟を褒める。まだ弟は信じているのだ。兄を、こんな目に合わせてしまったにも関わらず。目頭に滲む熱いものを、枯れ葉ごと地面に擦り付けて拭い去った。そのまま力を籠め、首から上体を起こし、足を地につけて立ち上がる。
 魔獣たちは様子を見ているのか、甚振っているのか、すぐに襲い掛かる様子は無い。ならばまだ、走れるはずだ。ふらつきそうになる体を叱咤し、兄はしっかりと顔を上げて前を見た。離した片手で鼻血を拭い、ずり落ちそうになる弟を背負い直す。がむしゃらに走り回ったせいで喉が傷付いたのか、喘鳴が酷く、もう来た道さえも分からない。けれど。

「大丈夫、大丈夫だ。おまえだけは、おれが逃がしてやるからな……!!」


●ローレット・エントランス

「緊急の案件! なのです!! どなたかお手隙の人たちはいませんかー!」

 多種多様な人間でごった返すローレットのエントランスにて、喧騒に負けじと大きな声が張り上げられる。声の主はユリーカ・ユリカだ。彼女はぱたぱたと手近なテーブルに近寄ると、ばん! と音を立てて抱えていた書類をぶちまけた。並べると言うには乱雑に散らかされた書類を、テーブルに寄った幾人かのイレギュラーズ達が覗き込む。ユリーカも殊更にそれを並べ直す事もせず、そのまま(無い)胸を張って依頼について話し始めた。

「今回の依頼についてお話するのです。場所はここ、王都メフ・メフィートから南、丁度バルツァーレク領の南端とフィッツバルディ領の間の森林付近の村に住む女性からの依頼なのです。
 朝から子供たちの姿が見えず探して居たところ、森へと続く小さな足跡を見つけたと言う事で、慌てて依頼を出したそうなのです」

 そこまで一息に言い切ってから、ユリーカはテーブルに手を突き、真剣な面持ちで、

「森で迷うだけならまだしも、獣の巣にでも踏み入ってしまえば命に関わるのです。森には魔獣の巣も有るとのことでしたし、それでなくてもこの時期に狩りを行う獣も居るのです。そのため、事は緊急を要する……と……思うのです!」

 言葉尻が濁ったのは今一つ確証が無いからなのだろうか。しかし、緊急性は無い、と言い切れないのも事実である。それを理解しているのか、周囲から否定の声は上がらなかった。

「今すぐ出発すれば昼過ぎには現地に着けるハズなのです! 詳細は馬車の中で書類をご確認下さい! 我こそは! と言う方は是非、宜しくお願いします!!」

GMコメント

 皆様初めまして。へびいちご、と申します。最近は分布も少なくなりました。
 今回のシナリオは単純明快な救出シナリオとなります。兎に角急いで駆け付けて対象を救出、危険な生物を殺害すれば良い訳です。ワーオ、シンプル。
 とは言え内容は窮地に陥った一般人を救出する、と言う非常にヒロイックな内容になりますので、格好よく登場してズバッとキメてやるぜ!! と言った方にお勧めです。

 今回のエネミーですが、鋭い牙と爪を備えた、狼のような外見の四足型の魔獣が十匹ばかり。連携して狩りを行う程度の知性は有り、更に眠りを妨げられたせいで凶暴性が増しています。一匹一匹は苦戦を強いられるほどの強敵では無いですが、油断したまま勝てるような相手では有りません。
 注意すべき点といたしましては、対象を捜索しなければならない事、対象を護衛しつつ障害を排除しなければならない事、が挙げられます。その辺りを把握したうえで、プレイングをお書きになってください。
 等と言いましたが、然程戦闘難易度は高くないので、腕試しや、プレイングの試し書きみたいなノリで挑んでくださって結構です。イレギュラーズとしてのファーストステップとしてご活用下さい。
 では。長々と文章を書き連ねましたが、このシナリオが皆様の長い混沌生活において、僅かでも楽しい時間になりますよう。ご参加、お待ちしております。

  • ファーストステップ・フォウ・イレギュラーズ完了
  • GM名へびいちご(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月18日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

アムネカ(p3p000078)
神様の狗
ガルズ(p3p000218)
ベイグラント
テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)
樹妖精の錬金術士
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
雲隠 ノ 霙(p3p002158)
第八護神機

リプレイ

●冷気肌刺す、玄冬の森にて

 葉の枯れ落ちた森に、生命の営みを感じる事は難しい。大概の動物は自らの巣穴へと引き籠り、地上を歩くのは眠りそびれた獣か、冬の間も活動を続ける僅かな動物のみ。そう、本来であれば、静寂で満ちている筈の森だ。しかし今は、人の声と落ち葉を踏み鳴らす音で騒々しい。行方知れずとなった兄弟を探す為、森へと踏み込んだイレギュラーズの立てる音だ。大きければ大きい程良い、と彼らで有れば言うだろう。
 ラデリ・マグノリア(p3p001706)植物との意思疎通を図り、受け取った漠然としたイメージからある程度は道を定められているが、しかし肝心の所は目で見つける他なく、イレギュラーズは各々地面を見つめ、周囲を警戒し、声を張り上げて呼びかけを続けている。

「危険な森に子供二人で入るなんて、もう仕方ないんだから」

 そうぼやくように言ったのは『第八護神機』雲隠 ノ 霙(p3p002158)だった。口ぶりこそ不満げでは有るものの、しかし内心、欠片も『仕方ない』などとは考えていない。周囲を警戒し、未だ姿の見えぬ兄弟へと呼びかける姿は真剣そのもので、どうあろうと依頼は達成する、という決意が透けて見える。

「ガキ共ー! どこだーっ! 迎えに来てやったぞーッ!」

 『ベイグラント』ガルズ(p3p000218)が割れんばかりに声を張り上げ響かせるが、声は虚しく木々の間に吸い込まれるばかりで、返答は無い。依頼の対象となる兄弟の助けを呼ぶ声も、イレギュラーズに敵意を向ける獣の唸り声も、だ。聞こえるのは踏まれた枯れ葉の乾いた音ばかりで、彼らの助けになるような音は無い。

「この森もまた……中々に興味深い。だが、こう騒がしくてはな……探索はまた後回しとしよう」

 そう独り言ちたのは『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)だ。元より倫理観の薄い彼だったが、この依頼を受けたのも兄弟の救助の為では無く、大手を振って調査に赴ける為、だったのかもしれない。本人にしか与り知らぬ事では有るが、しかし周囲に目を走らせる様子からは、手抜かりは感じさせない――少なくとも、依頼に対して否定的でない事だけは確かである。
 倫理観が薄い、と言えば車椅子を体から生えた蔦で器用に操作する『樹妖精の錬金術士』テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)も同じなのだが、彼女の手にはお手製のクッキーの袋が握られていた。……尤も、それも錬金術で作られたものであり、味は兎も角として原材料に保証はないのだが。

「あんまり荒事は得意じゃないんだけど……」
「お、アムネカもそうなのか」

 『神様の狗』アムネカ(p3p000078)が呟いた言葉に、『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)が追随する。大規模召喚から今日に至るまで、本格的な戦闘を行う機会の無かったイレギュラーズにとって、今回頒布された依頼が初めての戦闘、という者も多い。戦いに不慣れな人間は、そう少ないものでは無いのだ。宗高も多分に漏れず、そういった者の中の一人であり、この依頼を受けたメンバーの中で、年齢が不詳の人間を除けば歳も近いアムネカがそういった旨の言葉を吐いた事で、共感じみた感情を抱く事もおかしくは無かった……のだが。

「うん。まあ、仕事始めには丁度良いかな」
「……そうか……」

 告げられた二の句に、両の肩が僅かに下がる。が、すぐさま頭を振って気を取り直す。幼い兄弟は確かに心配だ。自身が環境に不慣れな事も有り、その気持ちは強い。しかし、心配ばかりではない。自分が不慣れなのは確かだが、しかし荒事や探索に向く仲間もいる。過度の心配は無用だ。で、あれば。

――俺は俺に出来る事をするとしよう。

 或いはこうして切り替えられるポジティブさが彼の強みで有ったか。こうなれば緊張感は寧ろ気を引き締める一因にしかならず、周囲を警戒する目に一層鋭さが増した。そうしてしばらく、それぞれの方法で探索を続けるうち、集団の一角から声が上がる。

「足跡発見! なのじゃ」
「こっちも見つけた。枝が折られてる。多分、探せば足跡も見つかる筈」

 『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)が小さな足跡を発見し、タイミングを同じくしてアムネカも、自身の膝の高さで不自然に折れ曲がった小枝を発見した。「行こう」と声を上げてラデリがアムネカの傍、小枝を折られた樹の幹に近付き、手を当てた。微弱なイメージしか伝わらない植物疎通であるが、枝を折ったのは誰か、程度は精査出来るだろう。子供と獣の外見の差は大きい。
 デイジーの元へはガルズが向かっていた。見れば、靴の半分程度でしかないが、確かに子供の物と思しき小さな足跡が有る。手掛かりの発見にガルズが僅かに頬を緩ませたのも束の間、黒ずんだ足跡の正体に気が付いた瞬間、表情が一変する。周囲には枯れ葉が積もり、靴に泥が付くような事はない。ならばこれは、血液か。

「……不味いな」
「ああ、不味い」

 ガルズとラデリの二人が、短く目線と言葉を交わし合う。互いの表情には、抑えきれない緊迫感が滲み出ていた。不穏な様子を感じ取ったデイジーが、詳しい調査に入った二人の表情を見比べ、先程自分が発見した足跡に視線を落とし、腕を組んでしばし考えるそぶりを見せ、

「ふむ? 何がまずいのじゃ?」

 しかしそれだけでは分からぬ、と先を促す。調べられる限りを調べ終わったのであろう、木々を調べていたラデリが振り返り、地面を調べていたガルズが立ち上がる。今説明する、と前置いた上で、それぞれ探索を行っていたイレギュラーズを集合させた。

「良い情報だ! 子供の足跡を見つけた。これを辿れば、子供たちも見つかるハズだぜ」

 ただし、

「悪い情報も有る。周囲に獣の足跡も見つけた。覚えの無い形の物だ、恐らくこの森に住むって魔獣の物だろう」
「加えて子供達と魔獣がこの辺りを通ってから、かなりの時間が経っているようだ。少なくとも半刻、いや、恐らくもっとか」

 ガルズの説明を、ラデリが引き継ぐ。どうやら状況は、イレギュラーズが思っていたよりも数段深刻らしい。ラデリは深々と息を吐くと、有無を言わさぬ、と言った風な顔で、残る全員にこう告げた。

「先導は俺がする。皆は後ろから着いてきてくれ――走るぞ」


●窮地に一声


 長らく走り続けたせいで、ついに限界が来たのか。幼い兄は足をもつれさせ、地面にどっと倒れ込む。背負っていた弟は放り出され、しばらく転がってから背中を強かに樹の幹に打ち付けた。小さく呻き声を上げる弟に、兄は地を這って近づき、しかし近付く荒い吐息に身を反転させ、後ろを見る。
 狼型の魔獣が、ふたりを取り囲むように弧を描きながら、じりじりと距離を詰めていた。そろそろこの追走劇にも飽きた、と言わんばかりに唸りを上げ、今まさに飛びかからんとしているようだ。兄は尻を着いたまま魔獣たちと距離を開け、背中に弟の体を庇う。足は既に棒のようで言う事を聞かず、切れた喉は噎せ返る度に激しく痛む。震える腕には最早弟の体を抱え上げる力も残っていないだろう。しかし、弟は別だ。ここに至るまで兄が懸命に背負い、逃げて来た為、体力にはまだ余裕が有る……筈だ。弟だけでも逃がさねば。魔獣たちを睨め付けたその瞳で、魔獣の前肢の筋肉が隆起するのを視認して――兄は、思わず涙を零す。死を覚悟したその瞬間、

「おおおおおおおおおおおおお――ッ!!!!」

 怒声。魔獣たちの背後から、盾を構えた大男が落ち葉を散らし、大地を踏み抉りながら突進する。魔獣たちは一度体を震わせると、道を開けるように飛び退いた。突然の襲撃者に慄いた――訳では無い。大男に追随するように飛来する剣を、そしてそれらの後方に位置する複数の人影を認めたのだ。獣としての本能が、無理に大男を止めるべきではないと判断を下し、回避を選択した。命拾いをしたのがどちらかは定かではないが、しかし結果として、大男――ガルズは守るべき二人の兄弟の下へと辿り着いた。先程の兄と同じように、しかしそれよりも逞しく二人を背に庇い、振り返ってニヤリと笑う。

「おし、生きてるな! ガキ共!」

 助けが来た、と理解した兄の目から大粒の涙が零れ、しかし視線を切ったその隙に、と言わんばかりに魔獣がガルズへと飛びかかり――破裂音と共に勢いよく後方に弾き飛ばされた。衝術。自らを本来の姿である剣へと変え、ガルズと共に兄弟の下へ駆け寄ったシグの用いたものである。彼は未だ纏わりつく燐光を振り払うように手を振ると、短く礼を言うガルズの横に並び立った。二人の視線の先では弾き飛ばされた魔獣が起き上がり、牙を剥いて怒りを露わにする。残る魔獣もじりじりと距離を測るように移動を始め、辺りは、一触即発の空気に包まれる。

 イレギュラーズとしての最初の戦いが、始まろうとしていた。


●ファーストステップ・フォウ・イレギュラーズ


 まず始めに動いたのはアムネカだ。ナイフを構えながらステップを踏み、魔獣の一体へと肉薄する。呼応するように振りかざされた爪をナイフでいなし、魔獣の集団、その陣形の中核へと潜り込む。前提として、イレギュラーズは兄弟の傍に位置し、二人を庇うよう動こうとしていたが、状況が状況だけに挟撃――否、パーティの分断を余儀なくされた。前提が崩された以上、誰かが無理を通さねばならない。その役目を、元よりもう一人のタンカーとして機能することとなっていたアムネカが担ったのだ。
 落ち葉で身を滑らせるアムネカに、三方から魔獣が襲い掛かる。ひとつは躱す。ひとつは防ぐ。残るひとつは――即座に思考を切り捨て、身を捩った。果たして魔獣の爪はアムネカの眼前を掠め、ナイフと噛み合って火花を散らし、背中から脇腹にかけて断裂を作る。が、致命傷では無い。踏み留まり、残る魔獣の追撃に備える。ここぞとばかりに追撃を加えようとする魔獣の姿が、既にアムネカの目には映っていた。

「――させるかよッ!」

 弾けるような声と共に、みつきの放ったマギシュートが魔獣へと直撃する。ミスティックロアによって威力を高められた魔力の弾丸に強かに体を揺らされ、呻く魔獣は追撃を断念する。後に続こうとしていた残りの魔獣も目の前の光景に二の足を踏み、低く唸り声を上げ威嚇するに留まった。

「チャンスね!」

 それを好機と捉えた霙が両の手の引き金を引き絞る。放たれた弾丸はマギシュートのダメージで未だふらつく魔獣の肉体を捉え、絶命させた。仲間の倒れる姿を見て狼狽しただろうか。やや腰の引けたような魔獣に、ラデリは突撃を敢行した。飛び退いて距離を取る魔獣たちに構わず、ガルズとシグ、子供たちの下へと駆け寄る。ガルズへと攻撃を加えていた魔獣の一体がそれを察知しラデリに向き直ろうとするが、その瞬間にシグのマジックフラワーによって視界ごと顔面を焼かれ、悶絶した。

「……無事か」
「こっちは何とか。ガキ共も、怪我の程度はそう酷くはねえ」

 その言葉に、ラデリは視線を兄弟へと向ける。顔面は泥だらけで体のあちこちは擦り切れ、服も最早襤褸切れと言っても過言では無い程度に綻んでいるが、怪我らしい怪我は太腿の切り傷のみで……それも恐らく突き出た木の枝で裂いたであろう、切り口の鈍いものだった。弟に至っては怪我の一つもない。ならば治療は後回しだ。ラデリは体を反転させると、傷を負ったアムネカに対し、緑の抱擁による治癒を行う。アムネカは数体の魔獣越しにちらりと視線を寄こし、ラデリはそれに応えるように小さく頷く。
 顔面を燃やされ怒りに震える魔獣が忌々しげに起き上がり、しかし突然身悶えを始め昏倒する。デイジーの呪術によるものだ。呪殺された魔獣から視線を切ると、デイジーは高らかに宣言する。

「このような獣風情、大した相手ではない! 皆の者、押し通るぞ!」

 それは慢心から来る発言ではない。決して油断出来ない、と言う事は承知の上で鼓舞を行ったのだ。それは主として味方の為でもあるが、未だ怯えを見せる兄弟の為でもあった。事実、声に励まされた兄弟は少し落ち着きを取り戻したようにも見える。十分な成果だ。

「ふむ。怪我人は居ないな。では、これを食らうと良い」

 負傷者が居ない事を確認し、テテスがポーションを投げつける。弧を描く瓶は魔獣に直撃する程の速度では無いが、撒き散らされた液体が魔獣の毛皮に沁み込み、皮膚を焼く。猛毒を浴びた魔獣はしばらく地面をのたうち回っていたが、やがて力なく痙攣するのみとなった。未だ息は有るようだが、最早戦う力は無いだろう。油断なく視線を走らせていたアムネカもそう判断し、次の相手を見定める。全体的に腰が引けているようだが、しかし戦意に衰えはない。ぎらぎらと輝く目がその証拠だ。
 アムネカは一つ溜息を吐き、何もない空を蹴り上げた。積もった落ち葉が盛大に宙を舞い、視界を埋める。怯んだ魔獣を掬い上げるように蹴り飛ばし、宙に浮いた無防備な体にナイフを突き立てた。絶命した体が自重でナイフの刃から滑り落ち、地面へと落ちる前にはもう、アムネカは次の魔獣へと躍りかかっていた。全体重を乗せて頭蓋へとナイフを捻じ込み、地面へと縫い付ける。ここまでだ。それ以上の行動を諦め地面を蹴って後ろに飛んだ瞬間、別の魔獣の爪が一瞬前まで彼の居た位置を通り過ぎ、更に一瞬後にはみつきの放ったマギシュートが死体諸共その魔獣を吹き飛ばす。

「ガルズ! 盾!」
「言われずとも!」

 言い放った霙が、ガルズに向けて突撃する。通じてないわねコレ、と内心で独り言ちながら全力で魔獣を蹴りつけ、そのまま衝術で諸共にブッ飛んだ。森の中に凄まじい音が鳴り響き、丁度ガルズの防いだ魔獣と盾とで二体を挟み込むような形となり――

「どっせい!!」

 そのまま挟み込んだ二体に対し、ありったけの魔弾をブチ込んだ。断続する金属音にガルズ共々庇われている兄弟も目を丸くするが、盾の向こうでミンチと化していく魔獣の死体など目に入らないだけ幸運だっただろう。山盛りのミンチを製造した霙は満足気に嘆息した後、

「乙女の! 腰と! 股関節!」

 全力で地面をのたうち回った。胡乱な経歴を持つ(尤も胡乱でない経歴を持つ方が珍しいのだが)旅人の彼女が乙女かどうかはさておくにしても、極めて深刻な部分にダメージが入ったのは事実であるようだった。治癒するラデリも渋い顔である。
 未だ地面を転げまわる霙に代わり、シグが滑らかな所作で前に出る。それに反応した魔獣が彼に襲い掛かるがシグの体がするりと消えた。結果として魔獣は樹の幹に牙を突き立てる事となり、四肢をばたつかせて深く食い込んだ牙を抜こうとする。が、樹の幹から生えた腕が魔獣の頭を鷲掴みにすると、そのまま魔術の炎で焼き尽くした。

「地の利はそちらにある……とでも思ったかね?」

 数を減らされた魔獣が、焦ったようにシグに飛びかかる。が、シグは再度物質透過で樹をすり抜けこれを回避。魔獣は樹の幹に爪を立てる事となった。即座に爪を引き抜こうとする魔獣だが、

「好機! じゃな!」
「毒のおかわりだ。たっぷり味わうと良い」

 叩き込まれたデイジーの魔術弾に駄目押しのテテスの毒を貰い、あえなく命を落とす事となった。



●エンド・イズノット・スターティング


「よく耐えた! 偉い!」
「お兄ちゃんも弟くんも、よく頑張ったな! 偉いぞ!」

 戦闘も終わり静けさを取り戻した森の中で、イレギュラーズは改めて兄弟と向き合った。泥だらけでボロボロなのは変わらずだが、怪我の方は既にラデリが治療を終えている。みつきに抱きしめられ、霙に頭を撫でられ照れくさそうに頬を染めていた。子供たちの為に、と用意された携行食やラデリの林檎、テテスのクッキーなども有ったが、冬の日は短い、と言う事でこの場で喫食する事は躊躇われる。よってひとまずは霙の用意した冷水のみを口にさせ、兄弟を先に家まで送り届ける事となった。デイジーがちらちらと視線を向けて居た為、クッキーだけは兄弟と共に三人に与えられたのだが。尚、クッキーが口に入る段になっても、その原材料に関してテテスが口を割ることは無かった。「本当に食べてしまったのか?」と冗談交じりに呟いたとか呟かなかったとか。……無害な事を祈るばかりである。

「……とりあえず、これに懲りたらあんまり無茶はしないようにね」

 最後にぽん、とアムネカに頭を撫でられ、兄弟は一行と森近くの村へと向かう。道すがらガルズが木の幹に印をつけて来た為、迷う事は無いだろう。今夜は焼き肉だぞ、とのガルズの笑い声を見送ると、アムネカは振り返り、木の根元にしゃがみ込むラデリの隣に立った。静かに、胸の前で十字を切る。

「……感謝する」
「別に。たまたまだよ」

 変化を解き、いつもの獣面に戻ったラデリの呟きに対し、なんてことはない、と答えるアムネカ。表情はいつもの茫洋としたもので、感情を読み取る事は中々に難しい。

「ほら、帰るよ。そこの研究馬鹿も。置いてかれても俺は知らないから」
「むう、しかし……漸く研究できると思ったのだが……」

 渋々、と言った風にアムネカの後を追うシグ。足を速める二人に追い付く為に、ラデリはスコップを背負い直し、歩き始めた。スコップに付いた僅かな土が、振動でぽろりと零れ落ちる。先行する集団に追い付く為、少しだけ駆け足になる。そう言えばこの顔を兄弟に見せていなかった。驚かせなければ良いが、とラデリは思う。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

始めまして。へびいちごと申します。皆様ご参加有難う御座いました。
途中若干遊んだ要素も入れましたが、ヒロイックです。ヒロイックとは一体。
プレイングの書き方は自由です。自由なので楽しいのです。
へびいちごはデータも見ますが、ノリと勢いとフィーリングも大事にします。

今回の称号は、折角の記念ですので全員に。特別です!

このリプレイで以て、参加者様達の冒険はスタートする(或いはもうスタートを切っていらっしゃる方も)訳ですが、その冒険が末永く楽しい物でありますよう、お祈り申しております。
出来れば私もその冒険の片隅にちまっと居候させて頂ければ、尚の事幸いです。

では。皆様、また会う日まで。

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