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シナリオ詳細

<Genius Game Next>ペトリコールと踊って

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●R.O.Oイベント

 いつも「Rapid Origin Online」をお楽しみ頂きありがとうございます。
 2021年6月1日より新規イベントGenius Game Nextが開催されます!

 その文字列を確認してから『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)は「イベントが開催されるそうなの」と神妙な表情で言った。
 内容はその文字列から知る者もいるだろう。
 砂漠の悪漢『砂嵐』が伝承西部バルツァーレク領、南部フィッツバルディ領を襲撃する事が明らかになっている。
 それはリアル世界でも存在した『砂蠍』を彷彿とさせるが……要するに君達の成すべきは、悪逆非道の砂嵐を迎撃し、伝承領の被害を軽減することだ。
「うんうん、遣る事は解りやすいと言えば分かりやすいのよね。それでね、イベントの概要を読んでたんだけどー」
 指先を宙に動かして理解したとでも言うように大きく頷くスノウローズはわざとらしいモーションでイレギュラーズへ向き直る。
「R.O.O曰く『このイベントはネクストの歴史を変え得る重要なイベントです。特別クリア報奨も用意されていますので奮ってご参加下さいませ!』……と言う事なの。
 影響力が大きいイベントで在る事は確かだわ。報奨の正体はわからないけれど。
 これまでの件から考えても『トロフィー』の大量獲得や、情報取得、何らかのアップデートとか……それに、このイベント自体がもっと重要な意味があるんじゃないかってローレットと三塔主は考えてるみたいなの」
 其処まで告げてから、スノウローズは「早速イベントをクリアしましょう!」と微笑んだ。
 向かうのはフィッツバルディ公爵派に属する『サヴァラン家』の領地だ。騎士を輩出するその領地に砂嵐の襲撃クエストが出ているのだという。
「事前にクエスト内容を説明しておくのだけれど――……あれ?」
 スノウローズはぴたりと止って首を傾ぐ。

 コゼット・サヴァラン。

 その名は、確か――……

●小兎令嬢は、悪役ではございません
「君との婚約を破棄したい」
 開口一番。金の髪を結わせた少年は白百合の如き長髪を持った令嬢へとそう言い放った。
 刻は平穏なる昼下がり。サヴァラン家の庭園でサヴァラン令嬢コゼットに対して婚約者のギルメット男爵家三男、エヴァリスト・ギルメットはやけに自慢げであった。
「……と、言いますと?」
 ティーカップを見下ろしていたコゼットは首を傾げる。胡桃色の眸は不思議そうにエヴァリストを眺めて居る。
「実は恋をしたのだ! 君も知っているだろう? ソフィアーヌだ。ソフィアーヌ・ギョール。
 あの美しい銀髪は女神のようだ。冴えた海色の瞳だって美しい。平民ながら学園生である彼女は社交界でも有名であろう?」
(――ええ、色んな令嬢の婚約者におイタをなさるとして……)
 コゼットはそうとは言わずにこやかに彼を見守っていた。
 サヴァラン家は代々、騎士を輩出する家門である。だが、今代は男児に恵まれず令嬢であるコゼットが婿を取って家門を継ぐ事になっていた。おしどり夫婦である現サヴァラン夫妻はコゼットに幼い頃から婚約者を宛がい、教育を施してきたのだ。
「僕は、ソフィアーヌと結婚する! つまり、コゼット、君とは婚約破棄をしたい」
「……そうですか」
 分かっただろうと胸を張った婚約者を見詰めているコゼットの眸から熱が冷めてゆく。
 そもそも、幼い頃に勝手に宛がわれた婚約者だ。そこに愛など在るわけもなく――

「では――」

 口を開きかけた少女の元に「お嬢様!」と鋭い声が響いた。
「賊が領内に侵入致しました! 学園生たちが避難誘導をしているようですが……」

 婚約破棄をされたばかりの令嬢。
 恋人であるソフィアーヌを護る為に此処で成果を上げて男爵家に認められ、婚約破棄を認めさせようとする少年。
 そして、その現場に居合わせた『イレギュラーズ』

「……き、気まずい……」
 ぽつりと呟いたスノウローズの姿に気付いて、コゼットは穏やかな笑顔を向け淑女の礼を一つ。
「わたくし、サヴァラン家令嬢、コゼット・サヴァランと申します。
 皆様は件の賊より我が領を護る為に馳せ参じてくださった騎士であるとお見受け致します。
 ……先程、わたくしに婚約破棄を言い渡した莫迦――失礼、ギルメット男爵家のエヴァリスト様が戦果欲しさに戦場へと飛び込んでゆきました」
「え、そんなの死んじゃうのでは……?」
 スノウローズの素直な問い掛けにコゼットはこくりと頷いた。困り顔である。
「婚約は親同士の決めたことですが、此処で死なれては目覚めが悪いのです。
 平民と結婚なさるなら、『そのように』させてあげたく思います。申し訳ありませんが……彼を救っては下さいませんか。
 勿論、我が領地を救って頂くのが優先ではございますが」
 クエストリストをちら、と見遣ったスノウローズは『婚約者』の保護という項目が増えていることに気付く。
「うーん、取り敢えず助けたらコゼットちゃんはその後、あのおばかさんと婚約破棄をして幸せな道を進むんだね?
 何だか良く在る悪役令嬢モノの小説っぽくて、スノウローズちゃんは好きよ! あんな人とは幸せになれないモノ!」
 ねえ、と勢いよく彼女は振り返る。
 平民の美しい女性に心奪われて、婚約を蔑ろにする男なんて、と力強くそう言ったスノウローズにコゼットは何も言わずに「お願い致します」と美しく礼をして見せた。

 ――クエスト内容が更新されました。

●『ペトリコール』
 その男は雨の匂いをさせていた。彼の傍らでは楽しげに撓垂れ掛かる女が一人。
 赤いルージュに恋心を踊らせる。この女は人をコケにする狐に似ていると男は思うが、彼女の仕草を借りて大仰に肩を竦めてくすくすと笑った。
「弱者が淘汰される前に強者と仲良くしてろって言うだろ。雨降って辺りが見えません~って子猫みたいにニャンニャン泣いてみろ。『とても敵わない大悪党』サマから見りゃ哺乳類にも思われないね、羽虫だ」
「プチンだわね」
 歯を見せ笑った男は「だから、協力的な姿勢を見せるのさ」とジョークでも言う様に大仰な仕草の儘そう言った。
「そっちの方が得をするだろ? 特にこの国なんか喰っちまえば良い。丁度腹が空いてたんだ。行くだろ? アリソン」
「ええ。ええ。見て、『雨豹』――可愛い坊ちゃんだわ。お姫様も連れてるみたい! 私、食べちゃおうかしらねえ」
 雨豹と呼ばれた男。
 アリソンと呼ばれた女。

 ――そして、その前に飛び出したのは剣を握りしめた少年と少女であった。

GMコメント

 日下部あやめと申します。宜しくお願いします。

●目標
 ・『砂蠍』所属の盗賊の撃退
 ・『婚約者&友人?』の保護

●シチュエーション
 サヴァラン領。その入り口付近で雨豹やアリソンが姿を現し、市内を蹂躙しようとしています。
 周囲の人々はある程度、サヴァラン騎士団が避難誘導を行っていますが、
 『友人?』ソフィアーヌは自身の実力を過信し避難せず前線に立っています。また、エヴァリストも合流し前線はてんやわんやな状況のようです。

●エネミー
(雨豹とアリソンは拙作『<蠢く蠍>棘とペトリコール』やぬめGM執筆の『<刻印のシャウラ>シュプレヒコールの棘乙女』、夏SD執筆の『<ジーニアス・ゲイム>Prison=Hugin』にも登場しています)

 ・『雨豹』
 砂蠍に所属している雨豹と呼ばれる男です。躰の大部分に入れ墨を。右半身には傷を負っている単眼の傭兵です。
 近接距離での攻撃を得意としたアサシンタイプ。その呼び名の通り豹の獣種です。
 雨の香りを纏い、彼が現れる日は何時も雨が降るようです。そういえば、今日も天気が悪く感じられる日です。

 ・アリソン
 人をコケにし騙す女狐の印象を与える赤いルージュの美女。楽しげに笑う女怪盗です。
 R.O.Oでは魔種ではなく雨豹とタッグを組む怪盗のようです。後方支援係。

 ・盗賊団*6
 雨豹の部下です。何でも楽しげに行動を行います。

●保護対象
 ・エヴァリスト・ギルメット
 現在はコゼット・サヴァランの婚約者である戯ルメット男爵家の三男坊。世間知らずです。
 剣を手にして突撃していきました。理由は、彼が片思いするソフィアーヌが戦闘に巻き込まれたから&助けて愛を育みたいからだそうです。

 ・ソフィアーヌ・ギョール
 平民の娘。サヴァラン領や周辺領が運営する貴族学院の特待生。優れた魔剣士の卵です。
 ですがまだ実戦レベルには至っていません。エヴァリストを庇う様に立っています。

●味方NPC
 ・スノウローズ
 ヒーラータイプの魔術士。皆さんのために頑張ります。

●補足
 ・コゼット・サヴァラン
 コゼット(p3p002755)さんのR.O.Oの姿。エヴァリストに婚約破棄を言い渡されましたがそもそも、コッチから願い下げだそうです。
 彼を保護した後は婚約を破棄し、婚約破棄されて破滅されるルートから抜け出そうと努力しています。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

  • <Genius Game Next>ペトリコールと踊って完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月18日 23時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロード(p3x000788)
ホシガリ
レインリリィ(p3x002101)
朝霧に舞う花
ポシェット(p3x002755)
このゆびとまれ
ロロン・ホウエン(p3x007992)
カラミティ・クリエイター
カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用
アマト(p3x009185)
うさぎははねる
霧江詠蓮(p3x009844)
エーレン・キリエのアバター

リプレイ


「ほう、これが最近はやりの悪役令嬢物とやらで、現実にいるイレギュラーズのNPCの姿というものなのか。
 悪役令嬢は令嬢ではなく周りが最悪な場合があると書物でも見た事がある。……NPC化は本人ではないと言えども、姿が似ていると色々混ざってしまうな。俺がどう考えるかはまた後にしてクエスト達成のために頑張るか」
 クエスト内容を案内したサヴァラン令嬢コゼットに『ホシガリ』ロード(p3x000788)は違和感を隠せずに居た。
 静謐溢るるマンダリンガーネットの眸には僅かに白けた色が乗っていたのは気のせいではないだろう。だが、そんな感情の揺れ動きが気になったわけではない。彼女のそのかんばせは、ローレットで活動しているコゼットそのものだったからだ。
「……そっか、こっちでは上手くやれてるんだね、よかった」
 ぽつりと呟いた『このゆびとまれ』ポシェット(p3x002755)は『本当のコゼット』の辿った道をよくよく知っていた。貴族令嬢として幸福な道を歩んでいることは安堵できる、出来るが――「でも、婚約者はダメダメだったみたいだねー」と呟けばコゼットはぐっと堪えたような顔をした。
「ええ……本当に。まさか、あれ程とは思っておりませんでした」
「ふふ。ぶじに婚約破棄して、コゼットさんがしあわせになれるように、がんばるよ! せめてこの世界では家族でしあわせにね……」
 少しばかり含みのある言葉に僅かに首を傾いだコゼット。
「婚約……恋愛……婚約破棄……好きな人のために、っていうのは素敵なことなんだと思うのです。
 なのに、なんだかこれはそういうのではないみたい。エヴァリスト様はコゼット様を置いて言ってしまったのですか?」
 まだまだ勉強急である『うさぎははねる』アマト(p3x009185)は首をこてりと傾いだ。イースター・バニーの耳がふわふわと揺らいだ。
「ええ」
 白けた眸から更に感情の色が抜け落ちる。その様子を見れば、色恋に心躍らす淑女とは遠く隔たれた存在であるようで、アマトはまんまるの桜色の眸をぱちりと瞬かせた。
「コゼット様は『婚約破棄』をする方がしあわせ? なのですね? ……なんだかとっても、難しいのです」
「ああ、悪役令嬢というのはそういうものだと勉強したことがあるよ。
 ……まあ、私が言うことでもないけれど、随分とドライな修羅場ねぇ。貴族の坊やが独り相撲を取ってるだけってことかしら」
 小さく笑った『カラミティ・クリエイター』ロロン・ホウエン(p3x007992)は結った紫苑の髪をふわりと揺らす。クルーエルエコロジストの探究心は恋愛ごとには繁栄されない。しかし、人間の心とは愉快な者であるとは思わせる。『ホウエン』――最後の人類であったその人はラプスとは違うことを考え、判断し表現するのだ。
「まあ、どうでもいいわね。坊ちゃんはこの際置いておいてもクエスト目的は盗賊退治、オーケーオーケー、シンプルな仕事は嫌いじゃないわ」
 ひらひらと手を振ったロロンにコゼットは改めて「宜しくお願い致します」と淑女の礼をとった。
 これだけ出来た令嬢であるのだから、次は『素敵な婚約者』に恵まれますように、とロードはこっそりとお祈りをして。

「いいところを見せたがるあまりに周りが見えなくなる。そういう手合いがいるのは世代も世界も問わないものだな」
 肩を竦めた『エーレン・キリエのアバター』霧江詠蓮(p3x009844)は古今東西、そうした存在は『勢い良くピンチに飛び込む』ものであると知っている。
「只の恋路ならどんな形であろうと応援できます……それが誰かの著しい迷惑にならないなら、ですけど。
 実力さえあれば戦場で愛を説くのもロマンチックだなって思いますが……説得に応じてくれれば良いのですがっ」
 むうと唇を尖らせる『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)はそうした行動こそ誰かの迷惑になっていることをしっかりと説いて起きたいと考えた。腐っても婚約者、腐っても学友――なんて言葉を付けたくもなる程に実力を過信した乙女と彼女を救うために何もかもを顧みない現・婚約者。
「さて、令嬢も『婚約は親同士の決めたことですが、此処で死なれては目覚めが悪い』と言っていましたし、救出しなくてはなりませんね」
 出来るならば怪我なきように。そう心がける『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)は『友軍』との連携を念頭に置きながら戦場へ向かうことを決めていた。


「ふふっ、ご自分にこういう情熱的な青年は嫌いじゃないよ。
 後はお目当ての女性以外にも気を遣ってフォロー出来るだけの器量があれば言うことはないんだけどね」
 其れが出来ていたら『こう』は鳴っていないかと『朝霧に舞う花』レインリリィ(p3x002101)は小さく笑みを零した。高貴のメダル(偽)を指先で遊ばせて、辿り着くのはサヴァラン領の入り口だ。
「――ま、今回は依頼人も特に言うことはないみたいだし、2人を助けるために力を尽くすとしようかな」
 目覚めが悪いだけで、穏やかすぎる修羅場に対して令嬢はアクションをとる気は無いのだろう。その地に辿り着いてから、ロードは剣を構えて続を睨め付けるソフィアーヌ・ギョールの姿を見つけて「お」と溢した。
 皓々と輝く月のような銀髪はウェーブし、ふんわりと揺らいでいる。意志の強そうな海色の瞳には闘志が宿されていることが見るだけでも窺えた。
「あれが、ソフィアーヌ嬢と――それから、その後ろに居るのがエヴァリスト・ギルメットくんか」
「……どうして座っているんだろうね」
 さあ、とロードは肩を竦める。大凡、賊に対して怖れて腰を抜かしたと言う所だろう。聖女とも謳われし美しい見てくれに強き魔力を有した優れた魔剣師の卵であるソフィアーヌの方は肝が据わっているのだろう。其れだけを見れば『お荷物』レベルが下がる故に好感度は高い。
「さ、彼女達を説得するのは任せようかな。ボクはあちらの情熱的な女性と『ボス』格のような男性の相手をしようか」
 ソフィアーヌとエヴァリストの避難が完了するまで賊を惹きつけようとレインリリィはセイクリッドスフィアを構える。
「――ですって、どうする? 雨豹。アンタが大見得切って歩いてたら遊び相手が増えたようだけど」
 ルージュが印象的な女がくすりと小さく笑う。その眸が真っ直ぐにイレギュラーズとソフィアーヌを見て居た。
「一緒に戦いましょうって言う方がソフィアーヌ様にはいいのかもしれないですけど、ソフィアーヌ様がそこにいる限り、エヴァリスト様はきっと下がってくれないでしょうし……ううん」
 頭を悩ましているアマトの傍らで黒子は対応が漏れぬようにと雨豹へ向けて飛び込むレインリリィ、そして賊を相手にするロロンを確認していた。口が回るわけではないと戦闘に加わるロードは「何とか言うことを聞いてくれるといいな」とアマトの肩を叩いた。
「はい。その、ソフィアーヌ様、それに、エヴァリスト様も。おふたりとも、好きな人を守りたいのでしょう?
 なら、騎士団と合流して体制を立て直したほうがいいのではないでしょうか?
 どんな強い人だって、一人でできることは限られています。それまでの時間なら、アマトたちがきっと稼ぎますから」
 真っ直ぐに告げた言葉へとエヴァリストは「ソフィアーヌを護らなくては!」と声を大にしソフィアーヌは「ここをわたしが護らなくてはならないの」の一点張りである。
 冒険のスペシャリストであるカノンはむうと唇を尖らせた。冒険者としての広い範囲の技術や能力、知識に専門性は低くとも習熟している彼女は黒き星々の囁きを聞きながら、ソフィアーヌの名を呼んだ。
「今の貴方達では力不足です、下がってくださいっ。自分の実力と状況も見極められないんですかっ」
「なッ――」
 かあ、とソフィアーヌの頬が赤くなる。詠蓮は賊達の中にするりと入り込み『鳴神抜刀』を駆使してトリッキーに戦いながら「エヴァリスト殿」とその名を呼んだ。
「武勲でもって想い人の注目を一気に集めたい気持ちは分からんでもないがな。それで余分な手間をかけさせられて、実際に想い人や領民の好感度がどうなるか、考えたことはあるか。そういうのは普段からの努力あってのものだ。突出は馬鹿のすることだぞ」
「ぶ、無礼――!」
 口を開き、取り敢えず詠蓮を糾弾しようとしたエヴァリストにポシェットは幼児のようにぱちりと瞬き首を傾ぐ。
「コゼットさんと婚約破棄するって事は、サヴァラン家への婿入りの話も無くなって、ただの男爵家の三男になるって事だけど、だいじょうぶなの?
 そもそも……家同士の契約である婚約を勝手に破棄していいとでもおもってるの? 家の人にしかられない?」
 幼い少女に『窘められる』事となったエヴァリストは雷に打たれたように硬直した。「まずお父さんに確認してみた方がいいとおもうよ」と付け加えられては詠蓮に対して無礼者となど怒り狂っている場合ではない。
「……というか……そもそもソフィアーヌさんは、この人と結婚する気あるの?」
「え? ……え? あ、いえ……え?」
 困惑するソフィアーヌ。ロードは「まあそうだろうな」と感じていた。ヒロイン枠であろう彼女は彼女で勇猛果敢である。勝手に婚約破棄を言い渡した青年に恋するわけでもなく、結果的には彼が『ざまぁ』される立場になるだけなのだろう。
「――だ、そうだが」
 詠蓮の言葉にぐう、と息を飲んだエヴァリストは「ソフィアーヌ! お前を護ってやろうとしたのに!」と叫ぶ。
 アマトはソフィアーヌのことは実力行使しかないだろうと困ったような顔をして黒子に指示を仰いだ。戦況把握の為に考え抜いた彼はソフィアーヌに向き直る。
 だが――その眼前にひゅ、と飛び込んだのはロードの一撃だった。ソフィアーヌは「ひ」と肩を竦める。
「死なないから安心してほしいが、こんなものを避けることができないのに参加しようとしてたのか?」
 そもそも、必中攻撃なのだ。避けられるわけがないのだが、敢て『意地悪』で放った攻撃で有る以上、説明は無用だろう。
「自身の不足を自覚し、なにが不足かを把握し、それを元にした最善を採ることが強さである。
 その結果、『今は』加勢を求めることも、庇護も求めることも弱さではない。過信、油断、怠慢こそが弱さである。分かるでしょう」
「……ええ」
 何とか納得したのだろうソフィアーヌは「気をつけて」とエヴァリストを引き摺るように後方へと駆けてゆく。その背を賊が追い、女だけでも置いて行けと掴み掛るその手を黒子の鋭き一撃が阻んだ。


「――で? 甘ちゃんの坊ちゃんと嬢ちゃんを逃してお前等が相手してくれるってんのか?」
 雨豹と呼ばれたその男からは独特の雨の匂いがして居た。天もぐずついて黒々とした雲が流れてくる。その様子を眺めてからレインリリィは肩を竦めた。
「おっと、悪いけどここから先は通さないよ。悪いけれど、仕事でね。
 ま、彼も随分と無謀ではあるけど……バカにしたものでもないさ。――それに、依頼人の彼女にとっても、彼らがここで死ぬのは望ましくないだろうしね」
 誰かの為に動けるというならば褒められる事だろうと揶揄うように笑ったレインリリィが地を蹴った。雨豹が踏み込んだその一歩にばち、と音を立てたのは力場発生装置。攻撃を塞ぐその領域の中で、レインリリィは儀式剣を振り上げる。
 宙で剣を振り上げれば周囲の視線全てを奪う様に軽やかにレインリリィの元へと賊達の視線が集まってゆく。「たーっち!」とポシェットはレインリリィにDORO-DANGOを手渡した。
 いたずらっ子は舞踊った旅人に鬼の力を付与し、より力づける。続いて少女が投げたぴかぴかの度々蘭語は『だるまさんがころんだ』の容量で賊の脚を縫止めた。
「こっちに来ちゃダメなんだからね!」
 身体が動かない、と賊が身体を揺れ動かす。「何よ」と唇を尖らせたアリソンが拗ねたように賊の足下を蹴り飛ばす、刹那――「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。悪いがお前たちの活動もこれで終わりだ」
 詠蓮が至近距離へと飛び込んだ。 上身二尺六寸四分、先反り九分六厘。雄渾にして身幅厚く、反り深い、それこそが詠蓮の愛刀。
 刀を鞘に納めた儘、重心を鎮め、撓めた脚力を解放した爆発的な踏み込みを。速度を乗せた抜刀術に女が一度交代する。
「アリソン様。その、余所見をしないでください」
 マジカル★イースターエッグに口づけたアマトは彼女から自由を奪う。接近戦は得意では無い。前線を受け止めるレインリリィを補佐しながらも、後方で自由に動き回る彼女を絡めておかねばならない。
「あら、情熱的ね。Lala――♪ なんだか、歌いたくなってしまうわ。さあ、もっと傷付け合いましょう?」
 アリソンのその様子を眺めながら、黒子はフォース・オブ・ウィルを構えた。『役所仕事の缶詰用』に登録したアバターは現実世界と同じように自由に動くものだと感心する。
「右です」
 静かにそう言った黒子にカノンは頷いた。黒子は自身の能力を念頭に置いておく。『自分を使い切れる』ペース配分で有象無象を倒し続ける。
 雨豹と距離をとっていたカノンは闇の力を秘めた杖に魔力を乗せる。相手の攻撃を阻害する妨害魔術が雨豹達が市民を狙うことなきようにと放たれる。
 雨豹が「くそ」と小さく呻いた。その横面へと向けてロードの収束槍バル・ベラスが飛び込んだ。
「――舐めるよ」
 ぱん、と。破裂する音と共に魔力がロードの眼前で割れる。だが、其れだけではない。彼はそのまま、雨豹を抜けてアリソンの下へと飛び込んでいく。
 それこそ、捨て身のように。穿つ一撃がアリソンの腕へと突き刺さった。
「手酷いわね!」
「さて、さっさと撤退した方がいいのでは?」
 雨豹を受け止め続けるレインリリィが悔しげに眉を寄せる。無数の攻撃にひとつひとつ対処する黒子とポシェット、カノンの支援をうけようとも此処までか。
「キリンは置いてきたわ。どこかでスタンバイしてるかもしれないけど喚ぶ気はないからステイ」
 手をひらりと振ったロロンは紅玉の瞳を細めてから激烈な踏み込みで血を揺るがせた。その一撃の儘に突進すれば『エレメンタルエフェクト』それは地を割る巨牛の如くと言葉を連ねて。
「ッ、街の皆さんのことを考えると……中々どうして!」
 戦うのも一苦労だと呻いたカノンに黒子は小さく頷いた。「支援します」と静かな声音でカノンとレインリリィを支援し続ける黒子は戦線の瓦解を怖れるように賊の数を減らすことに気をつけた。
 ぴょんと飛んだアマトは口づけたイースターエッグから魔力が踊る様子を眺め続ける。もう少し、後少しだからと祈るように指を組み合わせて。
「――これで終いにしようか」
「終いになるかよ!」
「……命を賭けてでも、だ」
 鋭く飛び込めば、放たれるのは必殺の一撃。詠蓮と交錯し合う、雨豹の視線が僅かに苦しげに歪んだ。
 喧噪の中で、有象無象など知らぬと女が男を引き摺って逃げてゆく。あれだけ痛め付ければ暫くは行動も不能だろう。


「二人や周囲の関係に何か言うつもりはないですが、戦闘に参加するなら自分の実力と状況はよく理解してから参加する様にしてください。
 実力が足りなくても戦わねばならない時は来るかもしれませんが、それはあの時ではなかったでしょう。
 ……それに、コゼットさんも自領でお二人に死なれては目覚めが悪いでしょうし」
 大いに反省した様子のソフィアーヌは「申し訳ないことをしたわ」と肩を竦める。拗ねたエヴァリストはソフィアーヌの煮え切らぬ返事に少なからず衝撃を覚えたのだろう。
「いや、そうなるだろう。無鉄砲に飛び込むの方が悪い」と『意地悪』を秘密にしたままのロードにエヴァリストはがくりと肩を落して俯いた。
「皆さん……!」
 馬車から降りて駆け寄ってくるコゼットは民達の様子を確認してからほっと胸を撫で下ろす。
「よくぞご無事で……」
 安心した様子の彼女に戦況報告を落ち着き払って行う黒子。その一つ一つを聞けば大きな被害が出なかったことに彼女は安堵したのだろう。
「さて……街に被害は?」
「私が見て回った限りにはありませんでした」
 詠蓮は大きく頷く。コゼットもできるだけ騎士と連携して領内の確認をしてきてくれた。
 有能な令嬢だと感心する傍ら、気になるのは婚約破棄のことだ。
「あんな人でも、いきなり婚約破棄されたら悲しいよね……
 なにあったら、ぜったいに助けに行くから、自分の幸せを大事にしてね! だいじょうぶ、ぜったい幸せになれるよ!」
 力強く、そう告げたポシェットにコゼットは不思議そうに彼女を見遣ってから「貴女がそう言うと、絶対大丈夫な気がするわ」と微笑んだ。
 雨の匂いが遠ざかる――戦の気配は彼等の撤退で薄れただろう。
 サヴァランの令嬢として、コゼットは「此度は助力有難う御座いました」とドレスをそっと持ち上げた。聡明なる令嬢は「二度がなきように願っております」と微笑み、『サヴァランの後ろ盾』を無くすことを怖れて己の元へと寄ってくるエヴァリストから逃れる様に屋敷へと帰っていった。

成否

成功

MVP

カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者

状態異常

レインリリィ(p3x002101)[死亡]
朝霧に舞う花
霧江詠蓮(p3x009844)[死亡]
エーレン・キリエのアバター

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 お嬢様には幸せになっていただけると嬉しいですね……!
 MVPは説得と足止めと、細かに周辺へと気を配って下さった貴女へ差し上げます。

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