シナリオ詳細
<Genius Game Next>Dragonic Rhapsody-next
オープニング
●逃げるという選択肢はないんだよ
弓に矢をつがえ、引き絞り、狙い、そして撃つ。
風をきって鳥よりも早く突き進むそれは敵兵の一人へ突き刺さり、相手はもんどりうって倒れた。
「ヒット」
隣で観測員がつぶやく。無言で次の矢を取り、つがえる。
観測員がぼやくように言った。
「この領地に衛兵はいないんですか」
「いたらこんなことはしていない」
彼女の名はマニエラ・マギサ・メーヴィン。
伝承貴族に名を連ねるメーヴィン領の領主であり、『兵を持たない領主』であった。
ある春過ぎの日のこと、伝承各地は砂嵐盗賊団の大規模襲撃をうけた。
その多くはヴァルツァーレク派、ないしはフィッツバルディ派の貴族領が占めていたが、僅かにアーベントロート派の領地も襲撃対象となっていた。
世情に詳しい読者諸兄はこの理由にお察し頂けよう。
ROO内にてバグによって生成された仮想世界ネクストでのこと。
砂嵐(混沌におけるラサに相当する土地と民族)は国とは呼べぬ巨大な盗賊団であった。
この砂嵐が突如伝承(幻想相当)への大規模な襲撃を仕掛けたのである。赤犬、凶、レナヴィスカ、砂蠍、大鴉といった中核組織が勢揃いで、である。
この国潰しとすら思えるほどの大襲撃は、裏からアーベントロート派の暗躍があり画策されたものであった。無論、それらの証拠を残さぬままに。
それゆえアーベントロート派貴族の領地はその大半が未だ襲撃を受けていないのだ。
多の領地への支援を表明しているにもかかわらず異様なほどに動きが遅く、立場上形だけの支援表明だと、さとい者たちは理解した。
そして念の入ったことに、一部のアーベントロート派領地にもアリバイ程度の襲撃が行われていた。追求された際『自分たちも被害を受けたのだ』と主張するための傷作りである。
そしてその傷は。
メーヴィン領に付けられることとなった。
メーヴェイン家は準男爵家の貴族である。古くはアーベントロート一族に信頼をうけ衣服の仕立てや鞄製造を領内で手がけたことで知られたが、時が経ちリーゼロッテ統治下に収まってからはその交流が断絶。更には優秀な政治家であった姉たちが相継いで病や事故、または魔女裁判並の一方的な罪科によって死罪をうけた。
結果として末女であるマニエラが家督を継いだが、死罪判決の折に領土の多くとかなりの私財、そして優秀な人材たちが奪われいまは痩せた牧場の面倒を見て暮らすようになった。
衛兵もなく執事ももたず、まるで一般家庭の女のように働く日々。
だがこうして生きていればいつか名誉の復活もありえよう……と耐え抜いてきたある日の、襲撃であった。
「ここはひとつ、諦めて野党にでもなっては? 大して守るものもないんです。逃げても怒られやしませんよ」
たまたま巻き込まれたにすぎない郵便配達員が、双眼鏡片手に振り返る。
更に後ろを見てみれば、がらんとした農場の風景だけがあった。雇っていた僅かな農夫達たちは避難のために去り、いまこの広い農場にいるのはこの不幸な配達員兼観測員と、領主であるマニエラの二人だけだ。
領地の守りとして、なんとも頼りない話である。
だが。
「逃げないさ。たとえ小さく痩せたとて、ここは私の生まれ故郷だ。父と母から受け継いだ、私の一部なんだよ」
●走狗、肉を喰らわば
練達の国家をあげた大計画『ProjectIDEA』はもうひとつの混沌を仮想世界ROOに作り出し世界法則を解明しようというものであったが、不明かつ巨大なバグによって変質。ゆがんだ仮想世界『ネクスト』が生まれてしまった。
バグ発生時にログイン中だった研究員たちが意識ごと閉じ込められてしまったために、彼らの救出と原因究明のためローレット・イレギュラーズが大規模な依頼を受けることとなったのだった。
彼らは順調に研究員達を救出していったが、そんな折、ROO内にて『イベント』が発生した。それは砂嵐の伝承襲撃という大事件を解決せよというものである。
これをうけ大量のアバター(イレギュラーズ)がログイン。イベント攻略に乗り出したのだ。
「で、よりによって私が割り振られたのがここ……というわけか」
草原に伸びる土道をバイクで走る。ノーヘルの頭を風がぬけ、長い髪をなびかせた。
行き先はサクラメント(ROO内で使えるワープポイント)から遠く離れた伝承メーヴィン領。この土地を襲撃する大鴉盗賊団の一派を撃退すること。それが『マニエラ・マギサ・メーヴィンのアバター』リアナル(p3x002906)たちに課せられたクエストだった。
予め渡された情報を参照し直してみる。
領土は広大な牧場のみ。
兵はなく、領主マニエラとたまたま巻き込まれた郵便配達員しかいない。雇っていた農夫はみな避難済みであるという。
「クエストの成功条件は『領主マニエラの生存』と『大鴉盗賊団の撃退』……か、仕方ない。まあ盗賊程度、揃えた装備があれば一人がかりでも余裕で……」
バイクがやがてメーヴィン領の牧場地帯へとさしかかる。
そして。
それは見えた。
水晶偽竜ライノファイザEXが、そこにはいた。
「うそだろ?」
- <Genius Game Next>Dragonic Rhapsody-next完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年06月21日 23時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「ライノファイザEXって……いくらなんでもそれはないだろう。そもそもどうして私だ?」
運命の巡り合わせにしても随分と鋭角からの変化球である。『調査の一歩』リアナル(p3x002906)は頭をがしがしとやってから、しかし回れ右ができる状況でもないという顔をしてバイクのアクセルをひねった。
たどり着いたのはお屋敷……とよぶには随分簡素な農場の家だった。
「盗賊退治ごときで呼び出されたのかと思ったが、なんじゃ楽しそうじゃのう?」
別の馬車がとまり、『緋衝の幻影』玲(p3x006862)と『R.O.Oの』神様(p3x000808)がおりてくる。
神様は手を合わせて目を閉じた。
「自らの一部と言う程の
土地を 故郷を 領土を
両親から受け継いだ農地を
己が一部と言って憚らぬ決意
察するに余りある矜持
心意気足るや立派な事だ
しかして であればこそ
命を懸け果たしては成らぬ
無碍に散る事は自己満足に過ぎない
我々は事態改善に尽力させて貰う」
まるで歌うように美しい声で述べた言葉を、玲は『お、おう!』といって応じていたが半分も飲み込めていないように見えた。そういう顔をしていた。
同じく別働隊の馬車が屋敷へ到着。
ひつじさんのドーナツテイオーに跨がった『妖精勇者』セララ(p3x000273)が『ドラゴン再び!』と言いながら剣を抜いている。
「じゃ、ボクらはあのドラゴンの足止めをするね」
「あのどらごん、とは……」
翼を羽ばたかせ、その頭上へとホバリングでおりてくる『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)。
「どちらのドラゴンだ?」
「らいのふぁいざ」
「ふむ、まあそうなるな」
ヴァリフィルドはホバリングをかけながら玲たちへと振り返る。
「マニエラのことはよくわからぬ故、説得などは任せるぞ。
そもドラゴンを目の前にして別のドラゴンが寄ったところで、誤解を招きかねんだけであろうしな。
まぁ、農場に大きな被害を出さぬよう最前は尽くそう」
そういって飛んでいくヴァリフィルドと、ドーナツテイオーを走らせるセララ。
『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)もその考えは同じだったようで、ライノファイザにできるだけ近づかないようなルートを策定していた。
「ゲーム内の人とは言え、家族から受け継いだ物を守りたい、という気持ちはとても共感できます。クリア条件ではありませんが……領地も守れるよう、手は尽くしましょう」
そこへ、馬車からおりたった『クルルのアバター』アルヴェール(p3x009235)が刀を抜く。
一陣の風がふき、桜の花びらがまう。近くに木もないのに。
「よくある盗賊退治と思えば、まさかのドラゴンとはね!
とは言え会ってしまったからには仕方ない、クエスト達成目指して頑張ろう……うん、死ぬ気で!」
キリッとした顔でいうが、内心では『死んでも大丈夫な世界で良かった~!』と大声をだしていた。
つい最近の戦いで、50人規模が一斉に殴りかかってやっと倒せたドラゴンである。まあ厳密にはドラゴンの死骸を改造した錬金生物だが……それにしたって強さが冗談のように高い相手である。リアルにこういう状況で挑んだら死にかねない。
『ウルリカのアバター』ウルリカ(p3x007777)も馬車からおり、羽織っていたコートを馬車へポンと投げる。
開いた手を握って、また開いて。パワーが充分に高まっていることを確認した。
「気まぐれドラゴン、ですか……」
「これ、死んだら戻ってこれるのかな?」
「無理……そうですね」
振り返るとながいながい平野。馬をとばしたとて、サクラメントからここまで到達することには戦闘は終わっているだろう。
「一発勝負か……」
死んだら終わり。できることはない。仮想世界のなかとはいえ、やり直しがきかないのであればそれはリアルとかわらないのかもしれない。
「さ、行きましょう」
クマさんを立ち上がらせたハルツフィーネが、屋敷を迂回する形で走り出す。
●
屋敷の二階。テーブルを壁代わりにしたベランダで、領主マニエラは弓に矢をつがえ、しかし放つことなく様子をうかがっていた。
大鴉盗賊団の(意図せず)召喚した『水晶偽竜ライノファイザEX』が制御できないと知るやいなや、数人ほど塵にされながらもバラバラに距離をとり、いまその一部が追いつかれている最中だった。頭から囓られ、放り上げられ、開いた口の中へと転落していくさまが見える。流石にああはなりたくないものだ。
隣の観測員が呼びかけてきた。
「この期に及んでも逃げないんです?」
「領地を奪うのが盗賊か竜かの違いだ。領地を捨てて逃げれば、周囲はこれ幸いと私を吊し上げて領地や爵位を奪いにかかるだろう。
金も名誉も失ったとて、血と骨までは捨てられん。そういう罪がついて回る人生はごめんだ」
「関係ないけどなんでおぬしピンクなんじゃ?」
「なんでって遺伝で――」
と、振り返ると玲がいた。
『よ、やってる?』みたいなポーズで立っていた。
「援軍……ですか? それにしては数が少ないような……」
観測員(もとい郵便配達員)が双眼鏡を覗き直すと、戦場にセララやアルヴェールたちが繰り出していくのが見える。
「あれは神の仲間達だ」
両手を合わせたまま、ゆっくり浮遊しながら現れる神様。
「一時撤退を勧める 竜は暫くすれば去る 急に雨が降れば雨宿りする 天候と同じ事 逃げる訳じゃない 好機を伺う」
「なんて?」
「ここは任せて逃げろってことさ。あのドラゴンはヤったことがあるんでね」
片手にヘルメットをさげたリアナルが壁代わりのテーブルによりかかり、マニエラの顔を覗き込む。
同じ目をして顔をみかえすマニエラ。
「どうやら、私よりものを知っていそうだが?」
「こことは違う世界でチョットな。結論から言えば、私――いや、マニエラじゃあ勝てないよ。数十人がかりで突っ込んで戦車どかどか撃ちまくってやっと倒した相手だし」
そんなのあるか? と冗談めかした動きで周囲をくるりと指さすジェスチャーをする。
「だから土地も立場も諦めて野に下るべきと?」
「二人も庇って戦えるほどラクな相手じゃあない。安心しろ、盗賊どもはドラゴンが勝手に挽きつぶすし、残っていても仲間がちゃんと殺すから」
玲が腕組みをし、そろそろ決めないとマズいぞと目でうったえた。
頷き、向き直るリアナル。
「そろそろ退路がなくなる。さぁ選べ、生か死か。その血を絶やし無念を世に産むか、希望の為に一時の屈辱を受け入れるか」
「もっともな意見だ。だが……大事な前提が欠けちゃあいないか」
マニエラはすっくと立ち上がり、そして腰に手を伸ばした。
次におこる動きを先読みして腕を掴むリアナル。
マニエラが素早く抜いたナイフが、リアナルの胸へほんの僅かに刺さった。
「あんたが敵だった場合、私たちはどうなる。あんたは私の味方だと証明してないぞ。
通りすがりの他人に家を空けわたす領主がどこにいる!?」
「そう興奮するな。私は希望と未来を届けに来たんだ」
「その証明がないって言ってるんだよ!」
すわ荒事かと玲が腕まくりを始めた、その瞬間。
視界のすぐ脇が暗くなった。
否。大きく口を開いたライノファイザの頭が、すぐそばにあったのだ。
「――ッ!!」
経緯を語るべく、時間をすこしばかり巻き戻そう。
「いっくよー! 究極! ――スーパーセララキック!」
突撃するドーナツテイオーからジャンプし、妖精の翼をするどく羽ばたかせたセララは一筋の流星となって盗賊の一人へと突撃した。
長さ30センチほどのフェアリーといえどもその衝撃はすさまじい。頬に喰らった盗賊はきりもみ回転して吹き飛び、バウンドしながら転がっていく。
そのたった一撃で意識事刈り取られたようで、白目を剥いて動かなくなった。
「なんだこいつ、またおかしなモンを召喚したのか!?」
「預けられた召喚宝石は一個だけだ。知らねえよこんなやつ!」
一緒にライノファイザから距離をとっていたらしい二人の盗賊がそれぞれ剣を抜き、セララへと斬りかかる。
「そんな攻撃、当たらないよ!」
ヒュンとカーブをかけたセララは相手の攻撃を軽々と回避し、そしてぐるぐると腕のまわりを螺旋軌道で飛んでいくと顔面にチョコレートの剣を繰り出した。
「ギガセララブレイク!」
あまりの衝撃に飛び上がり、そして背から落ちる盗賊。
「このくらい派手にばちばちすれば……」
ちらりとライノファイザの方を見る。
が、こちらに興味を示している様子はなかった。いましがた挑みかかっている仲間を倒すのに夢中になっているようだ。
「まだかー、もうちょいねばるよ! 付き合ってね、スーパーセララキック!」
そしてセララは再びのスーパーセララキックをぶちかました。
激しいスパークがほとばしる。
「さて、我の仕事は盗賊の相手であるな」
一方、ヴァリフィルドは激しい咆哮をあげながら盗賊を追いかけ回していた。
「おいおいドラゴンまた出たぞ!」
ヴァリフィルドはさらなる咆哮をあびせ、魂にまで響く声に盗賊は思わず転倒。たまたま落ちていた農具に頭をぶつけ転げ回っていた。
「まずはこの集団を集合させることにしよう」
無慈悲な竜のように盗賊達を見下ろし、さあついてくるがいいと言って飛び上がりライノファイザの方向へと進む
一方のウルリカはといえば、盗賊を喰らったばかりのライノファイザへと挑みかかり、周囲の盗賊もろとも吹き飛ばす勢いで殴りかかった。
「戦闘モード、起動」
ライノファイザ側面。脇腹の鱗に拳がたたき込まれ、はしった衝撃が周囲の草をむしり取り嵐にかえて吹き上げていく。盗賊達とて無事ですむ衝撃ではない。
「盗賊は打ち破る、領主は守る、ドラゴンには帰ってもらう……イレギュラーズとしてもやること多すぎでは?」
直接殴りかかってきたウルリカへ振り返り、ぎろりとにらみつけるライノファイザ。
翼を広げ浮きあがり、激しいブレスによって黄金の光が周囲をなぎ払った。
「ッ!」
両腕をクロスし、頑丈な身体を更にかたくするウルリカ。
巻き込まれた盗賊はもはやもとが人間であったことすらわからないくらいに損壊し、ウルリカもまた半身を吹き飛ばされる勢いで転がった。
「一撃でこれとは……」
と、そんなウルリカを救う形で側面から突進をしかけたヴァリフィルド。
あと一秒遅ければウルリカが喰われ飲み込まれていたというタイミングで現れ、ライノファイザの巨体を大きくゆらした。
今度は貴様かとばかりに振り返ったライノファイザはヴァリフィルドの首へと食らいつき、大きく振り回す。かなり抵抗したが、その力はすさまじく幾度となく地面に叩きつけられた。
ウルリカ同様非常に頑丈な肉体を持つヴァリフィルド。しかしそんなヴァリフィルドをもってしても耐えきれないほどライノファイザの力は強大であった。
「離せ!」
至近距離からドラゴンブレスを放射。データ侵食をおこしたライノファイザはヴァリフィルドを手離すが、同じようにブレスを叩きつけてきた。
真正面から力と力がぶつかり合う。
「竜は兎も角、盗賊如きに負けるつもりは……無いよ!」
ライノファイザと味方が戦っているその一方で、アルヴェールは盗賊達を翻弄していた。
なんとかライノファイザから離れ、安全圏まで逃れようとしていた盗賊達。そこへアルヴェールは襲いかかり、桜吹雪のエフェクトを背負いながら刀でもって斬りかかる。
よもやここで乱入されると思っていなかった盗賊もグルカナイフを抜いて応戦。アルヴェールの刀を至近距離で受ける――も、連続で繰り出される斬撃とそれに伴う桜吹雪が盗賊を圧倒した。
「ちいっ、誰なんだあんた! この領地の衛兵かなんかか!」
「そういうんじゃないけど……今は似たようなものかな!」
一瞬の隙を突いて繰り出された横一文字斬りが盗賊の胴体を上下に分割。
回転しながら上半身が転落するさまをよそに、距離を取って射撃にきりかえようとしていた盗賊へ向き直った。
ちらりとライノファイザを見やる。いまから相手が全力でこっちへ走ってきたとしても届かない程度の距離だ。盗賊もわざわざ近づきたくないようで、アルヴェールもそれに合わせるかたちで更に距離をあけながら――しかし盗賊は逃がさない姿勢で、銃撃をしかけた盗賊の手首をすぱんと切り落とした。
慌てて落ちた手首ごと拾おうとするが、さらなる斬撃によって崩れ落ちる。
「こっちはなんとか片付いたかな。じゃああとは……」
「自分達が召喚したものにボコボコ……さすが三下ですね」
てくてくと歩くハルツフィーネ。彼女の意志に応えるかのように飛びかかったクマさんによる暴虐なるクマさんクロー。
コマのように回転するクマさんと魔法の爪があわさり盗賊を八つ裂きにしていった。
「抵抗力の強そうなのはこいつだけ、ですね。では――『クマさんロアー』ですっ」
ビッと指さすハルツフィーネにこたえ、クマさんは両手をあげた威嚇のポーズ。がおーと吼えたその声に盗賊達の意識が吹き飛ばされる。もとい、引きつけられた。
一斉に武器を取り突進してくる盗賊達。
「このまま引きつけますよ、クマさん」
ハルツフィーネは走り出し、クマさんも『かもん!』とばかりに両手で挑発してから走り出した。
ライノファイザのほうへ突っ込んでいく……のではなく、大きく迂回しながら屋敷とライノファイザの間に盗賊達がはさまるように移動するのが目的だ。
途中で目を付けられて横っ面を殴られてはたまらないので、全力で移動されてもとどかないくらいのあたりを大体の目測で走って行く。
そして、気付いた。
「これは……まずいですね」
ヴァリフィルドたちを倒したライノファイザは、一直線にマニエラの屋敷へ突っ込んでいったのである。
●
マニエラたちを守る。それが神様の役目であった。
「急場にて無作法で失礼」
マニエラを突き飛ばした神様。がぶりと閉じたライノファイザに身体の半分を奪われつつも、まるで痛みを感じていないかのように振り返り手をかざす。
試してみたい奇策はいくつかあったが、失敗リスクも大きい。今試すと命取りだ。
ならば――。
「話しの最中に割って入るモノでは無い」
神威を連続発動。神の奇跡『炎』および『雷』があわさり巨大な光の竜をかたどった。
光の竜はライノファイザへ食らいつき、そして鱗の一部を食いちぎる。
「妾も参戦させてもらうのじゃあ!」
至近距離へ飛びかかり、ライノファイザの顔面をぶん殴る玲。
ふと見れば、ライノファイザが突っ込んできたことですぐにでもフォローにまわろうとセララやハルツフィーネ、アルヴェールたちが猛ダッシュで屋敷へ向かっているのがわかるが、安全圏まで離れていただけあってすぐには駆けつけられそうにない。
「にゃーっはっはっは! ここはわらわにかかっているということじゃな!」
猛烈な勢いでパンチを連発。ライノファイザはドラゴンブレスを放射するが、真正面から突っ切って顎を殴りつけた。
その衝撃が屋敷を半壊させ、マニエラを転落させる。
が……。
「例え嘘だとしても、死んでもらっては困るのは本当だからな」
落ちる彼女を抱え、リアナルは頭から落ちていた。
血を流す彼女の頬に手を当てるマニエラ。
「すまない。疑って……」
「ま、誰にでもホイホイついていく私(リアナル)だったら私もイヤだけどな」
苦笑するリアナル。髪のほとんどがピンク色に染まったが、だがまだ立てる。
「走れ、まだ間に合――」
途端、周囲が光に飲み込まれた。
●
「……うぬ?」
ぱちりと目を開ける玲。
綺麗な石畳のうえに、彼女は寝転がっていた。
「そんなところに寝ていたら、風邪を引きますよ」
ピンク髪の女が声をかけてくる。
その顔はまぎれもなく……。
「おおピンクマニエラ! ピンクマニエラじゃな!? 無事だったのか」
「……ええと、なんのことでしょう?」
マニエラは頬に手を当て、困ったように首をかしげていた。
「いやほれ、さっきまでライノファイザに領地ごと襲われてあの屋敷なんか木っ端みじんに……」
振り返ると、屋敷はそこにあった。
綺麗な、どこも壊れてなどいない屋敷だ。
まわりを今一度見回すと、こぶりな建物が列をつくってたち、領民らしき人々があるいている。
「あ、ああ……」
そこで、ふしぎと、腑に落ちた。
「わらわたちは、失敗したんじゃな……」
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
――クエストに失敗しました。
――クエスト失敗をうけ、いくつかのデータに深刻なバグがおきました。
――メーヴィン領および領主マニエラは一度消滅しました。
『再読み込み』がおこり、別の可能性のメーヴィン領が再構築されたようです。
関連人物も再構築されていますが、その不自然さについては無自覚であり、旧メーヴィン領についても知らないようです。
――生き残ったイレギュラーズたちは、領主マニエラの側近のひとりである『顔がピクセルモザイクで埋まった騎士』によってサクラメントまで護送されました。
縺薙%縺ッ蜊ア髯コ繧
GMコメント
●クエスト
・成功条件A:領主マニエラの生存
・成功条件B:大鴉盗賊団の撃退
※緊急クエスト発動!
大鴉盗賊団がモンスターを召喚した際、不明なバグによって『水晶偽竜ライノファイザEX』が出現しました。
混沌に出現した個体と比べ戦闘能力は劣り、どうやら出現時間にも限りがあるようですが、とにかくえげつないほど強いので『生き残る』ことを優先したほうがよさそうです。
●水晶偽竜ライノファイザEX(エクス)とは
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5154
かつてラサのファルベライズ遺跡から出現した強大な錬金モンスターです。
ただでさえ強すぎる亜竜種の死体を錬金モンスターと融合させて生み出した怪物であり、数十人でよってたかって殴りかかることでなんとか倒すことができました。
マニエラもその攻撃部隊に加わっており、超燃費アタッカーの球数を増幅しまくるというちょっとチートみたいな大活躍をしたのは記憶に新しいところであります。
『ブロックを受け付けない』『回避はしないが回避減衰を受けない』『極めて高いEXA』『毎ターン全BSを75%確率で除去』『高い自己再生能力』というだいぶヤバい能力を持っております。
攻撃手段は多様ですが、即死急の攻撃まではしてこない模様。
出現時間にはどうやら限りがあるようで、一定ターン数が経過すれば自動的に消滅します。(どのくらいで消滅するかは測定不能です。まったくわかりません)
また、本来この土地を襲撃するはずだった『大鴉盗賊団の分隊』もライノファイザEXを制御できてはいないようで、それはもう酷い目にあっています。
●どう立ち回る?
構図的には、『盗賊団VSマニエラ&ローレットVSライノファイザEX』という具合ですが、立ち回りかたによって成功難易度やその手段が変化します。
マニエラを生き残らせるためにどう立ち回るべきか。説得かいっそ殴り倒して持ち運んでしまうか。
ライノファイザEXは倒すのは無理でも注意を引くことは不可能じゃないので死を覚悟して時間を稼ぐか、なんとかして盗賊団になすりつけてしまうか。
これらの選択によってシナリオのルートは大きく変わり、そして要求される能力も変わります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
Tweet