PandoraPartyProject

シナリオ詳細

白狼少女と黒衣の男

完了

参加者 : 1 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「朧さん、一緒に遊びに行こう」
「ん? 俺とかい?」
 境界図書館にてぱらぱらと書物を捲っていた朧にフラーゴラ・トラモント(p3p008825)は声を掛けた。彼女と二人で出かけたことはこれまでにも何度かあるが、いずれも依頼の過程の中である。栞を挟み、表紙を閉じた朧は興味深そうにフラーゴラに向き合った。
 一緒に出掛けようと誘われること自体が朧にとっては僥倖であり、増してや好ましく思っているフラーゴラからの申し出を朧はさらさら断る気が無かった。

「そいつは構わないが……行きたいところでもあるのかい?」
「んー……」
 ふわふわとした白いウェーブのかかった髪を風に揺らし、フラーゴラは考える。
「……不思議な世界?」
「はは、疑問形で返ってきちまった」
 きょとんと小首を傾げた少女の仕草を微笑ましく思いつつ。
 そうさね、と朧は椅子から立ち上がり本棚に目を向ける。
 綺麗に並べられた背表紙を骨ばった長い人差し指でなぞり、とある本の上で留めた。
「そういや、お前さんはまだ此処には行ったことが無かったよな」
 ぱらり頁を開き、朧はフラーゴラをおいでと手招く。
 ぽてぽてと近寄ったフラーゴラが覗き込んだ其処には鮮やかな鉱石の写真がずらりとならんでいた。
「わぁ……綺麗……!」
「以前に依頼で出してたキセキ屋って石屋だ。皇石って決意によって色や形を変える不思議な鉱石を置いてある。主人のスメラギって男もいるが……ま、悪いお人じゃないさね」
 どうだい? と朧がフラーゴラに伺えばこくこくと何度も首を縦に振り尻尾を揺らしていた。喉の奥で朧は笑い二人は早速キセキ屋へ向かった。

 ――というのが少し前。
「……朧さん、あれ」
「ん?」
 江戸時代と平安時代を混ぜたような。
 混沌でいうところの豊穣にも似た世界観に感心していたフラーゴラが何かに気づいた。
 朧の袖を引き、少し先を指さす。
 見ると猫背のいかにもゴロツキといった着物の男達が何かを取り囲み唾を飛ばしている。
「だぁかぁらぁ、ここに皇石ってのがあんだろォ?」
「とっとと出してくれりゃあ痛い思いはさせないってェ」
「まぁ、俺達としては金でもいいんだがなぁ!」
「いややわぁ、こないな石屋に他所様に出すお金なんてあらへんわぁ」 
 ああ、困った困ったという言葉とは裏腹に、囲まれている顔を隠した男は唯一露出した口元に笑みを載せて涼やかな態度を崩さない。ぱっと何かに気づいた男はふりふりと此方に手を振った。
「あんれまぁ、いつぞやの黒衣のお兄さんやないの。ちょっと助けてくれまへんえ?」
「あぁ?」
 一斉に振り返るゴロツキ共に朧は内心あの札野郎と毒づいた。
 絶対に面白がってやがる。

「……はぁ、やっぱ悪いお人かもしれねぇ」
「もしかしてあの人が?」
「ああ、さっき話してた主人だよ。スメラギっていうな」
 なんだってこんな日に限って……。
 朧はフラーゴラには聴かれぬ様に小さく舌打ちをした。
 自分一人であればゴロツキ三人程度なんてことは無いが、今日はフラーゴラがいる。
 彼女に怪我をさせる事だけは境界案内人として、大人として絶対にあってはならない。
 背中に彼女を隠そうとした朧の腕をフラーゴラは掴んだ。

「朧さん、やろう」
 迷いのない青い眼が朧に向けられる。面布の下で朧は目を見開き、すぐに口角を吊り上げた。そうだ、この子はもう水族館で友達がいないからと不安げに自分を見上げてきた少女ではないのだ。
 恋をし、幾度もの冒険を乗り越えた気高く美しく成長した女性である。
「……んじゃ、白狼のおひいさんと一緒に踊るとしますかね」
 表型に出るのはあんまり得意じゃないがね、と。
 朧は隣に立つフラーゴラを一瞥した後、三人を見据えた。


NMコメント

 リクエストありがとうございます。白です。
 今回は朧と交流を思う存分していただこうと思います。
 前半はさっくり戦闘、後半は不思議な石屋でのお買い物におしゃべりを楽しんでいただけます。
 どうぞよろしくお願いします。

●舞台
 とある異世界にある江戸時代や平安時代を混ぜたような和の世界。
 そこにある不思議な石屋『キセキ屋』が舞台です。
 店主が集めた不思議な鉱石がたくさん売られておりますが、店主曰く金に興味はないとのことです。
 なお、奥の方に座敷がありお望みであれば貸してくれます。

●目標
 前半:ゴロツキ共を吹き飛ばす。
 後半:キセキ屋にて買い物・朧とのお喋りを楽しむ。

●敵
 ゴロツキ×3
「お、おぼえてろよ~~!」な典型的雑魚です。
 刀とか使ってきますが雑魚ですのでさっくり成敗しちゃいましょう。
 逃げ足の速さだけは一級品。

●NPC
 朧
 黒衣衣装に身を包んだ境界案内人です。
 戦闘能力としては足蹴を主体とした格闘術に書物から浄瑠璃の人形を召喚術などに長けています。またご指示があれば従います。
 以前にこの場所を訪れたことがありスメラギとは顔見知りです。

 スメラギ
 OPで登場した口元のみ露出した衣装を身に纏うどこか気怠げかつ妖艶な男性です。
 自らを唯の石商人と名乗ります。皇石が形を変える様が何よりも好きで石を通してその人の決意を知ることもまた同等に尊く愛おしいと語ります。
 ゴロツキに囲まれてますがなんかこの状況楽しんでいます。
 助けたらお礼に店内で自由に買い物をしたり奥座敷でお話をしていてもいいとのこと。
 指定が無ければそんなに出ません。
以下のシナリオで登場しましたが呼んでいただかずとも結構です。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4558



●サンプルプレイング

 前半
 はぁ……なんだって今日に限って。もうちっと空気ってもんをだなあ。
 ま、いいか。黒衣ってのは俊敏でなきゃ務まらねぇんだ。
 さっさと舞台袖に捌けてもらうとするかね。

 後半
 しかし、本当によく集めたもんだな。感心しちまうぜ。
 石を見繕いながらおひいさんに話しかけてみるかね。
 な、向こうでのお前さんの話もっと聞かせてくれねぇか。

 こんな感じです。それではいってらっしゃい。

  • 白狼少女と黒衣の男完了
  • NM名
  • 種別リクエスト(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年06月08日 22時10分
  • 参加人数1/1人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 1 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(1人)

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
※参加確定済み※

リプレイ

●白と黒の共闘
「そこの人ちょっと邪魔」
「ああ?」
 可愛らしい声と裏腹に言葉の裏に滲んだ怒り。折角朧さんとお出かけなのに。
 ゴロツキ共が振り返るとそこには小柄な白い狼の少女と背の高い黒衣の男が立っていた。
 『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)と境界案内人の朧である。
「スメラギさんに用があるの……どいてくれる?」
「はんっ、俺達もこいつに用があるんだよぉ」
「可愛い顔してるけど邪魔するなら容赦しないぜェ」
 スメラギから一旦手を離し。ゴロツキ共がフラーゴラと朧に向き合う。
「……キミに可愛いなんていわれても全然嬉しくない」
「言ってくれるじゃねぇか!」
 フラーゴラに向けて振り下ろされた刀、それを神楽を舞う巫女の様にいなし流れる様に足蹴りにて弾き飛ばす。
「……え」
「遅い」
 弾き飛ばされた刃をぽけっと見つめていた男の顔面に強烈なカウンターが入った。一発KOである。
「野郎!!」
「させるかよ」
 フラーゴラの背後から逆上した別の男が斬りかかるが、朧の脚に止められる。
「――金崎心中」
 朧の指先が見えぬ糸を繰る、書物から現れた二対の男女の人形が男の足に刃を突き立てた。
「ぎゃあ!?」
「人様に刃物向けたんだ、刺される覚悟ぐらいしてんだろ」
 痛みのあまり足を抑えて蹲った男の無防備な頭に朧の無慈悲な膝蹴りがめり込んだ。
「……後一人だね」
「そうだな」
「ひっ」
 残された最後の一人に朧とフラーゴラは向き合った。
 いっちょ前に刀を構えてはいるが、情けないくらいに膝はがくがくと震え、鼻水を垂らしている。
「朧さん」
「応」
 それは宛ら生命を燃やし煌めく彗星の如く。
 それは宛ら延々と語り継がれた物語の如く。
 軌跡を描いた蒼炎と、文字を書いた薄墨。
 前頭部と後頭部に同時に強烈な蹴りを叩き込まれた男はその場に倒れこんだ。

●黒から白へ
「朧さんって強いんだね……!」
「お前さんの足元にも及ばないがね」
 気絶した三人を駆け付けた同心に引き渡し、フラーゴラは初めてみた朧の戦闘姿に目を輝かせていた。ふわふわ揺れる尻尾とぴょこぴょこ動く耳につい手を伸ばし掛けるが、フラーゴラには片想いをしている人が居た事を思い出しそっと右手を降ろす。

「いやあ、助かりましたわぁ。おおきに」
「お前さん楽しんでなかったかい」
「いややわぁ、恐怖で脚も竦んでたいうんに」
 ほほほと袖を口元に遣り笑いながらスメラギはフラーゴラを見遣る。
「それで、こないにかいらしお嬢さんがウチに何の御用どす? デートのお誘いやったら喜んでお受けしますけど」
「んなわけねぇだろ」
「いたっ、冗談やないの……どうぞお入りやす」
 べしっと朧に頭を叩かれたスメラギは叩かれた箇所を擦りながら二人を店内へと誘導した。

「わ、わ、鉱石いっぱいある……!」
「あら、お嬢さんも石好きなん?」
「うん……! 収集癖? があって……」
「わかるわぁ……ゆっくり見たってなぁ」
 丁寧に陳列された様々な鉱石たち。フラーゴラが知らないものもたくさんあり好奇心旺盛なフラーゴラは店内を歩き回っては感動している様であった。
(そういや、この子は買い物が好きなんだったか?)
 いつぞやの水族館でもいろいろ悩んで……最終的に俺が選んだんだったか、と朧は昨夏の事を思い出していた。そういえば後数か月で一年になるだろうか。
「んー……全部欲しくなる……一個だけ買おう」
「あら、別にいくらでも買うてええのに」
「その方が大切にできる気がする……でもどれにしよう……」
「それやったら、皇石はどないやろか」
「皇石?」
「ほら、此処に来る前に話しただろ」
 そういえばその人の決意によって色や形が変わる石があると朧は言っていた。
 うん、と頷いてフラーゴラは店の奥へと向かう。
 スメラギが沢山の引き出しの中から一つを開け、小箱を取り出しフラーゴラに差し出す。
 小箱にはまだ無機質な黒い鉱石がちょこんと収まっていた。
「さ、どうぞ」
「う、うん……!」
 そわそわとしだしたフラーゴラを微笑ましく思いつつ、朧も興味深さそうに背後から覗き込んでいる。
「えっと、決意は生き残ること……死んだらワタシの好きな人が悲しむから」
 脳裏に浮かぶのは薄茶のショートレイヤーの髪に白銀の瞳のあの人。
 ちょっとニヒルな笑みを口元に載せて、冷たくあしらわれるように見えてその実決して自分を見捨てたりしない優しい人。
「それで……、えっとその……結婚も出来たらいいなあって……えへへ」
「可愛いお人だねぇ、そんなに好きなのかい」
「えへへ、そうかな……うん、大好き」
 気恥しそうに指先を摺り合わせはにかむフラーゴラは恋に生きる乙女そのもので朧には眩しく思えた。好きなものを好きと言える事の誇らしさを忘れないでいてほしいとも思う。
「どんな色と形になるかな?」
 フラーゴラの決意を知った皇石がその小さな手の中で眩い光を放ち始める。
 やがて光が収束し、フラーゴラの手の中に残ったのは水晶を思わせる透き通った白銀のナイフを模した物であった。
「まぁ、綺麗な色やねぇ」
「……ナイフ?」
「せやねぇ、透き通ったその綺麗な恋心。刃物いうんは様々な役に立ってくれるけど、扱いを間違えれば人を傷つける道具になる。そんなとこちゃいますえ?」
「人を傷つける道具……」
「お前さんなら心配ないさね。俺が保証すらぁな」
 若干陰りが射したアクアマリンと琥珀の瞳に即座に朧が答える。
 彼女と度々同じ時間を過ごしてきたからこそ決して口先ではなく本心からそう言えるのだ。
「えへへ、ありがとう……ワタシの好きな人と同じ瞳の色だ」
 再度、明るさを取り戻したフラーゴラは大事そうに皇石を抱きかかえ、暫くしてはっと顔を上げる。その顔色は若干悪い。
「あの、お金……いくらかな、高いよねこれ……た、足りるかな……」
「いややわぁ、助けてくれた恩人にお金なんてせがめる訳ありまへんやないの」
「え、でも」
「それにウチは皇石を通してお嬢さんの決意知れただけで十分なんや。お気になさらず」
「……ありがとう」
「ほなうちは店番戻りますんで。暇やろけどなあ……ま、奥の座敷でゆっくりしていきや」
 店番にやる気なさそうに戻ったスメラギの背中を見送り、フラーゴラと朧は奥の座敷へと腰を下ろした。畳の藺草の香りが漂っている。
 フラーゴラはせっせと鞄に詰め込んできた保存缶を取り出した。
「朧さん、これお師匠先生の紅茶だよ。よかったら飲んでみない?」
 そういや、師匠と姉弟子が二人出来たのだと図書館で嬉しそうに話していたのを朧は思い出した。随分鞄が膨れていると思ったら、わざわざ持ってきていたらしい。
 ティーカップじゃなくてごめんねと前置きしながら、取り出した耐熱性の紙コップにとぷりと紅茶を注いでいく。
 ふわりと上品な薔薇の香りが仄かに広がり鼻腔を擽った。
「ローズティーか?」
「そうかも、綺麗な赤色だよね」
 頂きます、と小さく呟き僅かに面布を捲りあげ朧は紅茶を味わう。
 形の良い薄い唇が一瞬見えたような気がした。
「ああ、これは美味いな。俺が混沌に行けたら常飲してぇくらいだ」
 何度も紙コップを手に取る朧にフラーゴラは目を細めた。
 紹介した物が気に入ってもらえると嬉しい物だ。それが、自分の師匠のギルドで作っている者なら尚更。
「今度また持ってくるね。そしてこれはハンマーマンさんを支援した証。フリーパスなんだ」
「ハンマーマンさん?」
「朧さんが混沌に来れたら一緒に誘えたんだけど……ハンマーランド」
「なんだいその圧倒的ハンマー推し」
 突然登場した謎の単語に混乱する朧を置いておいてフラーゴラは次の品物を出す。
「こっちはお友達の花嫁さんから」
「粘土?」
「この中にお気に入りの石を入れてね、魔力を込めるとね」
「うん」
「簡易的だけどゴーレムが錬成できるんだって」
「なんて?」
「そのゴーレムと結婚したら実質旦那様を錬成したことになるんだって言ってた」
「旦那様は錬成するもんじゃねぇと思うんだけどなーー」
 彼女の交友関係は大丈夫なんだろうか、お兄さんすごい心配になる。朧は思った。
 そんな朧の心配には全く気付かずフラーゴラは続いて鮮やかな薔薇の花束を取り出す。
 手品師の様に次々取り出される品々は一重にフラーゴラの縁が紡いだものだろう。
「こっちがグラオ・クローネに貰ったお花」
「例のお人からかい?」
「ううん、違う人……もう何処にもいない人から」
「……そっか、大事にしなきゃな」
「信じてくれるの?」
「お前さんが俺に嘘なんてつかねぇだろ」
「……ありがとう、そしてこれがシャイネンナハトにその人から貰った髪飾り……これを見るとどんな絶望的な状況でも頑張れるんだ。地獄まで付いて行くって決めたから」
「俺としては極楽に行ってほしいもんだがね……琥珀か、上等な代物だな」
 透き通った琥珀が光を反射して艶やかに煌めいている。その色はまるで。
「えへへ……きっとワタシの右目と似たのを選んでる」
 フラーゴラの手が自身の右目に添えられる。
 その人と出会ったきっかけも瞳の色とよく似たアクアマリンだった。
「ワタシの左目みたいで、お似合いって言ってくれた」
 紅茶に口づけ、そっと机の上に置く。少しだけ嵩の減った深紅の水面が揺らいで黒衣が映り込む。

「ワタシ今毎日が楽しいんだ……」
 嬉しそうにはにかみ、頬を薔薇色に染めるフラーゴラの尻尾は二人で乗った観覧車の時と変わらず嬉しそうに揺れていて。
 沢山の良縁に恵まれている彼女の日々は屹度カラフルで、驚きと楽しさに満ちていて。
 勿論、辛くなる日もあるだろう。そんな日も良かったといえるような人生を送ってほしいと思う。

「俺もお前さんのおかげで楽しいさね」
 そしていつか、彼女の人生の幕が下りる時が来たならば。
 顔も知らない黒衣の男など、忘れてしまっているくらい。
 沢山の人に愛され、愛した人生であってほしいと境界案内人は願うのだ。
 

成否

成功

状態異常

なし

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