シナリオ詳細
<Genius Game Next>蹂躙の足音
オープニング
●
R.O.O内、バルツァーレク領内のとある町。
緑豊かな広大な大地に広がるブドウ畑には、今、収穫を迎えんとするブドウたちがたわわに実っていた。人々は活気付き、楽しげに、そして忙しくブドウ畑の周りを駆け回る。
ブドウを収穫したらワインやブドウジュースに加工し、バルツァーレク領領主邸まで卸す――というクエストが発生する土地である。ひとつひとつの作業にとても時間がかかり、加工に至っては現実時間で数日の時間経過が必要になるため、何度も街へと足を運ばねばならない。報酬もそれほど良いものではないのだが、一部のプレイヤーの中では人気のクエストとなっている。何でも最後の納品の時に、チラリとバルツァーレク領主の姿が見られるのだとか。噂の真偽は不明だが、時間を必要とする割にクエストが廃れない理由はそこにあった。
常ならば、そのクエストがあるくらいの、長閑な町。
その町に、警戒の鐘が鳴らされる。
――そう、襲撃イベントだ。
●
「やあ、来てくれたね。どうも、初めまして」
ローレットに集ったイレギュラーズたちへ、背景に溶け込みそうな男――『浮草』劉・雨泽 (p3n000218)はひらりと手を振り、笑った。
「時間もないし、手短に説明しよう。これは幻想貴族からの依頼だ」
しかしその内容は、練達ネットワーク上に構築された疑似世界――R.O.O(Rapid Origin Online)に関する依頼である。
「既に幾度かネクストに訪れたことがある人はいることだろうし、ネクストに囚われた人々が『トロフィー』となっていることも既に周知のことだろう」
彼等はログアウト出来なくなった救出対象だが、『バグ』はゲームのクリアの報奨として彼等を解放する場合がこれまでにも多かった。そのため、バグの根源や解決に到る為にゲーム内でクエストを進め、事件の解決を図ってきた。
――2021.06.01 Genius Game Next.
そんなタイトルで、『R.O.O』から全プレイヤーへ『イベント開催告知』が出された。どうやら、R.O.Oは大規模イベント<Genius Game Next>を実施するらしい。
「内容は君たちも知っての通りだよ。来る6/1、砂漠の悪漢『砂嵐』が伝承西部バルツァーレク領、南部フィッツバルディ領を襲撃する事が明らかになっている。君たちの成すべきことは、悪逆非道の砂嵐を迎撃し、伝承領の被害を軽減することだ」
ゲームの中だけれど、いつも君たちがこなしてきているものと何ら変わりはない。悪いやつが来るから、それを倒せばいい。
「どうにもきな臭い気配はあるものの、もしかしたら囚われている人たちを大量に救出できるかもしれないからね」
だから、頼めるだろうか。
雨泽は深く被った笠を摘み、軽く持ち上げて笑いかけた。
――このイベントはネクストの歴史を変え得る重要なイベントです。
――特別クリア報奨も用意されていますので奮ってご参加下さいませ!
R.O.Oが高らかに謳う『報奨』とは、一体何なのだろうか――。
- <Genius Game Next>蹂躙の足音完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●赤犬の足音
明るく太陽が降り注ぎ、収獲を前にしたブドウ畑の間を人々が忙しく動き回る。今日も明日も毎日――クエストがあるため季節関係なく文字通り毎日――ブドウを収穫して加工し、今日もよく働いたと満ち足りた日々を町に住まうNPCたちは過ごしていた。
そんな長閑ながらも活気のある町に、警鐘が鳴らされる。穏やか日々を蹂躙する者たちが現れたのだ。
ゲーム内で不幸(イベント)が起これば、勇者(クエスト)が立ち上がる。R.O.O初の大規模イベント<Genius Game Next>の開催を知らされていたイレギュラーズたちは、現実世界のローレットでの依頼を受けてクエストを承諾した。
(悪いやつらが来るから、それを倒せば良いか。依頼自体はシンプルで分かりやすいんだが、相手の目的はよく分からんな)
現地に赴いた『狐の尾』コーダ(p3x009240)は、ブドウ畑に樽や荷車を配置しながら思案する。R.O.Oはまだまだ不解明な点が多く――いや、不解明な点ばかりだろう。ネクストに囚われ、擬似空間から脱出できない人もいるのだ。このイベント自体、現実に及ぼす影響があるのかどうかすら解らない。だからこそ、このクエストに参加する価値がある。情報は力だ。多くのイレギュラーズたちが参加し、沢山のクエストをこなして情報を集め合えば、それはきっとこの世界を解明する手掛かりとなることだろう。
同じクエストに参加した仲間たちと話し合い、ブドウ畑に潜伏して敵を奇襲する作戦を選択した。樽や荷車に隠れるため、砂嵐方面から見ても不自然にならないように仲間たちと確認し合いながら、トリス・ラクトアイス(p3x000883)と『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)と『戦闘用汎用型アンドロイド』アンジェラ(p3x008016)はコーダ同様隠れ場所を整えていく。
一般的にブドウ棚の背丈はあまり高くはない。果実が実っていない時ですら平均身長の成人男性は少し腰を落としたくなる高さで、実っている時ならば成人女性でも真っ直ぐに立って歩いてはブドウにぶつかってしまう。そこへ荷馬車や樽を詰めば視界の悪さは更に増す。馬上の敵側からは尚更の事だが、それは勿論味方にも言えることだ。
「こんなものか?」
「ええ、良い感じだと思うわ」
「当機構も賛成致します」
「こっちから見ても大丈夫そうだよー☆」
「オイラも大丈夫だと思う……ニャ!」
砂嵐方面からチェックしていた『星の魔法少年☆ナハトスター』ナハトスター・ウィッシュ・ねこ(p3x000916)が魔法少年的オッケーポーズを決め、『ツナ缶海賊団見習い』エクシル(p3x000649)も彼の隣で大きく丸……頭上まで手が届かなかったから顔の前で丸を作って仲間たちへと知らせた。
「小夜さんは此処に隠れてね」
「ええ、ありがとう」
現実でも仮想でも盲目の『白薊 小夜のアバター』小夜(p3x006668)は、感覚のみで世界を識る。人の気配を感じ、物の気配を感じ、これが荷車ねと手を伸ばして触れた木の感触がする物体の影へと隠れた。ゲームの中なので物体(オブジェクト)の損壊は気にしなくて良い。敵の気配か仲間の気配に合わせて荷車を切り捨てれば、得意な剣術を敵へと振るいに往ける。――が、気にしてしまうのが小夜の性分だ。特にこれらは街の人たちの仕事道具。大事に扱って来られているはずのものを手に掛けるのは気が引ける。
(申し訳ないけれど……。せめて、必要最低限を心掛けるわ)
仮想現実でも半身と言っても差し支えのない刀を握りしめ、小夜はひとり小さく誓った。
「赤犬、ですか……」
クエスト画面を開いて改めてクエスト内容を確認した『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)の体がプルルと小刻みに震えた。現実ではそんなことはないのに、何故だがR.O.O内で『犬』と言う単語を見聞きすると体が勝手にプルプルと震えてしまうのだ。
「ゲームの中ですが、ディルクさんの勢力ですよね」
「つまり、『こっち』の赤犬さんが幻想もとい伝承に攻め入ってきてるって話でしょ?」
「たった五人で何をしようというのだ、彼らは? ……いや、彼らはディルクの部下。ああ。ふふふ、あはは……そういうこと。そういうことか」
何かが解った様子のニアサーは、「町に入れるわけにはいかないね」と言い置いて樽へと入り、頭に籠を被った。こうすることで体を隠しつつ、見辛くはあるが籠の隙間から外の様子が窺うことが可能だ。
「風に土埃の臭いが混ざりました。そろそろお出ましのようです」
ヒクヒクと鼻を動かして匂いを嗅ぎ分けたミセバヤは、現実と同じトレードマークの位置を整えて仲間たちに告げると、身を潜める仲間たちに続いて樽の影へとピョンっと入って身を隠す。ロップイヤーのミヤバセはこういう時に耳が飛び出る心配をしなくて良いが、高身長(目立つ)とコウモリ羽(目立つ)のコーダは上手く隠れられているか仲間たちに確認してもらっていた。
(ブドウは勿体ないけど、流石に舐めてかかれる相手じゃないからね……)
戦闘によって失われるブドウを思えば、少し心が痛む。けれどトリスの陣地構築は身を潜ませるには向いてはいないので、こうしてブドウ畑に潜むしか無い。
猫であるエクシルは身軽さを活かして棚へと上り豊かに茂る葉の中に身を隠し、近接戦の仲間が接敵する前にどかーん☆としたいナハトスターと広く視界を確保したいアンジェラは砂嵐方面のブドウ畑の始まり辺りに身を伏せた。
視界を確保したアンジェラは、砂埃を認識した。間違いない、『赤犬の群れ』だ。
ハンドサインで仲間に伝達しながらも、敵から視線を逸らさず観察する。赤犬たちは偃月陣の形で馬を駆っていた。ちょっとそこらを散歩する程度の常歩・速歩ならば別だが、赤犬たちにそんな心算はさらさらない。襲歩で駆ける馬上の人の腰紐に下げられた小さな香炉を発見することは叶わなかった。――遠くからは、まだ。
赤犬たちが牙を剥き、ブドウ畑へと迫ってくる。
●赤犬の牙
――何故、『赤犬の群れ』たちがたった五名で襲撃するのか。
その答えは簡単だ。
ディルク・レイス・エッフェンベルグの直轄の傭兵たちである彼等は、五名でも町ひとつを余裕で蹂躙できるだけの力があるからである。赤犬たちにとって、此処は通過点に過ぎ無い。ひとつでも多くのバルツァーレク領下の町を壊滅させることが、ディルクより与えられた任務であった。ディルクに厚い信を置いている彼等は、ディルクがやれと命じたのならばやるだけだ。理由なんて知る必要はない。
赤犬たちが駆けてくる。馬を巧みに操り、ブドウ畑の棚と棚の間の道へと差し掛かる。広がるブドウ棚には人影は無く、赤犬の群れたちは真っ直ぐに町へと向かう。
しかし。
「――!?」
轟音とともに地面が爆ぜた。前方の馬が嘶き後ろ足で立ち上がり、乗り手は振り落とされる前に手綱を手放し着地する。逃げていく馬へは一瞥もくれない。舞う煙の向こうに赤犬たちの敵――イレギュラーズたちがいるからだ。
「想定範囲、着弾」
「よーし、いっくよー☆ 悪いけど、君達の願いは叶えないし叶わない!」
透明化を解いたアンジェラが榴弾砲を撃ち込むのと同時に詠唱を始めたナハトスターの魔法が編み上がる。宝玉の弓をえーいっと弓引けば、可愛らしい星のエフェクトを伴った矢がぴゅーん☆と飛んでどかーん☆と炸裂した。あと、何故か猫も飛んでいた。
「絶対街を守るニャ!」
ぴょこっとブドウ棚に顔を覗かせたエクシルが、星を追いかけるように棚の上を駆ける。
「くらえ! すとーむだんす!」
「ああああ! エクシル君可愛いっ」
星の弾幕が消えたところに飛びかかった海賊姿の猫――エクシルが跳んで跳ねてくるっと回って、躍るように両手に握った剣を振るう。猫大好きなナハトスターにはもう、溜まらない。頭の三角耳もおしりの尻尾も元気にピーンっと立ってしまった。ああ、エクシル君をずっと見ていたいなぁ。
エクシルの剣舞めいた《すとーむだんす!》を赤犬たちはシミターで受ける。ブンッと大きく振るえば、空中をクルンクルンと回ってエクシルはブドウ棚の元いた場所へとシュタッと着地した。
「あ! 町に向かっているよ!」
エクシルの開けた視界に、赤犬たちが別行動をする姿が映る。
奇襲を受けた前方の三名は馬から降りてその場に残り、素早く手綱を引いて回避した後方の二名がブドウ畑を迂回する形を取る。ブドウ畑の間を突っ切る道を使って町へと向かうのは危険だろうと判断したのだろう。
「任せて」
ブドウ棚の下に居ては馬上の赤犬たちの足しか見えず、誰が香炉を所持しているかは解らない。
――《ケーリアン》! 長曽祢虎徹でブドウの木を伐ったニアサーが、天から舞い降りた天使が如く銀の髪をふわりと広げて浮かび上がる。低空を保ちながらもブドウの木より上に飛び出た彼女の視界の端では、豊かな緑の合間に刀を抜く姿勢で駆けた白が軌跡を描いていた。
「後方右手、腰に銀飾りあり」
陽光をキラリと反射する磨かれたそれは、きっと――いや、吊り香炉だろう。動く邪魔になるのを厭うてか、他の赤犬たちは腰からは武器以外を下げてはいない。
「こんにちは。申し訳ないけれど邪魔をさせて貰うわ」
ブドウ棚を迂回する通路の土を踏んだ小夜の草履がザッと音を立て、町へと向かう馬の前で急停止。ぶわりと土埃が舞い白を汚すが、気にもとめない。これはアバターだ。――現実であろうとも、斬り合いを前にした彼女は気にしないが。
駆けてきた勢いを殺さずに刀を抜き放つ。剣先鮮やか。馬の首を切り落とし、その疾風が如く素早い一撃は赤犬へと迫る。シミターで刀の一撃を受けながら赤犬が馬から飛び降りれば、刀への感触と金属音へ「あら」と小夜が思わずと言った調子で声を零した。淑やかな静かな声だと言うのに、明らかな喜色が滲んでいる。
「よろしければ私のお相手をしていただけないかしら?」
――否とは言わせないけれど。
振り抜く二撃目をシミターで受け止めた赤犬の判断は早かった。
迷う間もなく腰へと片手が下がり、布で水滴を拭うような軽さでスッ、と。僅かに表面を指がなぞった。
途端、『夜が訪れた』。
燦々と輝く太陽は突然立ち込めたる陰鬱な暗雲に覆われ、ブドウへ恵みを齎す陽光は遮られる。何処からともなく吹いた風は肌にべったりと纏わりつくような不快さを伴い、ブドウの木々が不安げにザワザワと揺れた。
(これはダメなやつです……!)
犬という単語にプルルと身を震わせながらも、町へと向かおうとしたもうひとりの赤犬の顔面へと張り付いていたミセバヤの毛がブワリと立つ。町で使われればどうなるか等、考えなくとも解る。
煮詰めた魔女の窯から出た煙めいた空気が練られるように集えば、それは姿を表わす。香炉に封じられた悪しきジンは巨体を宙に浮かばせ、イレギュラーズたちを睥睨した。
誰もが思う。これは、『よくない』存在だ、と。
「ジン、動きます! 皆さん警戒を! って、あああー、あーれー」
赤犬の顔面にくっついていた小さなミセバヤは、大きな男の手でワシっと捕まれ離される。「小さくてもミセバヤは侍なのですよ! ただのウサギでも食料でもないのですよ!」と手から逃れようとジタバタとするも、一刀の元に斬り伏せられ死亡(ログアウト)した。
ジンが動く。仲間の識別が出来るのか、赤犬たちは巻き込まれる範囲に在っても回避や防御の仕草を取らず、剣を交えている小夜の側からも動かない。
「こっちを見ろ。お前の相手は俺だ」
現れたジンの前に全身を覆うほどの巨大な盾を手にしたコーダが立ち、暗器スカーフを打ち込む。長身のコーダを持ってしても、彼が子供に見えてしまう程にジンは巨大だった。
「ここは俺に任せな。抵抗値には自信があるんでね」
禍々しい光を湛えた月を思わす金の瞳が己に向くのを片頬上げた笑みで受け、背後の仲間たちへ「死ぬ気はねぇよ」と声を掛ける。
優男風の顔立ちだが、コーダはタンクだ。仲間を護るために敵意を己に向けさせ、立ち続けることに自信がある。すぐに来る一撃目を耐えたなら、仲間たちに害が及ばないようにジンの向きを変えさせる。仲間を信じ耐え、然れどその最中にも血路を見いださんと瞳だけは逸らさずに、盾を構えた。
奇音が響いた。風が鳴いた。悪夢が舞い降りた。どの言葉でも言い表せぬ禍つ事が降り注いだ。
コーダは無事だった。彼は全てに抵抗した。しかし、近くに居た他の仲間は――。
ギュイイイイイン――。
ギターが鳴った。軽快なビートを刻む、心が軽くなるような、そんな曲。
これは、まるで。
「皆! 私たちのライヴはまだまだこれからだよ! 良いお客さんも悪いお客さんも、みぃーんなまとめて私のライヴを楽しんでいってもらうんだから!」
元気にギターを鳴らしながらトリスが大きくジャンプ!
――まるで、アイドルだ。
舞台も音響もないけれど、トリスのギターと歌声が響く。
歌って踊って、みんなに元気を。足を止めてしまわない勇気を。
音が響くように、心よ響け! ほら、皆! まだまだいけるよね!?
ジャーン! にゃーん!
ギターの音に合わせて、猫が鳴いた。
「星猫魔法その4……猫よ猫よ、皆癒してー☆」
にゃんにゃん、にゃーーん!!!
にゃんにゃん鳴いた子猫たちが、お腹を見せてコロコロ転がったり、うわぁあざといとナハトスターが両手で口を覆ってしまいたくなるようなポーズを取って仲間たちを癒やしていく。何故か傷が癒える。癒えるのだ。
「ジンを倒すには、矢張り――」
ニアサーが、小夜が対峙する赤犬へと向かう。ジンの体力を削りきっても倒すことは可能だろうが、膨大であろうジンの体力を削るよりも媒介を破壊した方が易い。
後方にいた赤犬たちふたりが小夜の元へ向かい、前方にいた三人をアンジェラとエクシルが何とか相手をしている。が、かなり押されている。――ディルク直轄である赤犬は強い。小夜で互角と言った所だろう。
ニアサーが旋風めいた動きで小夜と立ち位置を交換し、香炉へと刀を突き刺す頃には、果敢に戦い続けたエクシルが死亡していた。
「なかなか、楽しめました」
踏み込んだ小夜がトンと地を蹴り後退し、また地に着くと同時に地を蹴り相手の懐へ忍び込むように肉薄。ジンを消滅させて戻ってきた陽光の下に、刀が二度煌めけば――首を刎ねられた赤犬の体が粒子となって消えた。
赤犬は残り四名。対する味方は残り六名。一対一では味方の分が悪く、トリスとナハトスターの回復で何とか保っているものの、あと一撃でも食らえばニアサーが死亡してしまう。そうなれば、五名。アンジェラが遠距離主体のため、間に入ったコーダが一人で三人の攻撃を受け持っている。コーダが庇っているとは言え、もし回復手を潰されればかなりキツイ状況だ。香炉に気を取られ過ぎ、しっかりと赤犬たちの抑えを決めておかなかったことが苦境の原因のひとつであろう。
しかし、ジンと香炉の排除は叶っているし、赤犬も無事という訳ではない。苦しげな表情を浮かべてはいないがそれなりにダメージは累積されており、トリスとナハトスターを守りきれば何れはイレギュラーズたちが勝利する。トリスはギターを高らかにかき鳴らし、ナハトスターも猫を飛ばし、その場の最適を選んで仲間たちを鼓舞してくれているからだ。
もし、もしも。一度に赤犬を排除に出来る手があるのならば? それぞれが離れていない混戦状況のため、仲間たちは範囲攻撃を使えない。
(かくなる上は――)
「皆様、当機構から離れて下さい」
意を決したアンジェラは何かを手に腕を高く掲げながら赤犬たちへと走る。
彼女に気付いた仲間が一瞬の判断で身を引く。或いは仲間の身を抱えて、彼女とは逆へ駆ける。
そうしてアンジェラは、手にした何か――『自爆スイッチ』を押した。
ちゅどーーーーん。
パラパラとブドウの木のカケラが降る中、コーダが立ち上がる。もうもうと立ち込める煙で視界が良くない中、ひとつ、またひとつと影が立ち上がり、煙の中でゆらりと揺らめいた。
全員、なんとなくだが理解している。煙のエフェクトが解けた頃、そこにアンジェラと赤犬たちの姿がないことを。
「もう大丈夫、かな……ふぅ、皆お疲れ様ー☆」
「ま、まあ。ライヴでの爆発特殊効果の締めは王道、よね」
「終わった……か?」
コーダは、ログアウトしたら真っ先に煙草を喫おうと心に決めた。
R.O.O初のイベント――そういえばこのゲーム、ゲームバランスが『メチャクチャ』だったなと再認識させてくれるものであった。
因みに、ブドウ畑はと言うと。
「大きな道具を使うのは苦手ですが、穴掘りや土をペタペタするのは得意なので任せて下さい! ……って、あれ? ブドウが戻っています!」
ミセバヤがブドウ畑復旧の手伝いをしようと沢山の園芸用品等の道具を担いでサクラメントから戻ってくる頃には、ブドウ畑は既に元の状態に復活していた。さすが電子データ。
「急にね、ニョキッて生えてきたんだよー!」
「突然だったからオイラはポーンっと跳ね飛ばされてしまったニャ!」
ナハトスターとエクシルが身振り手振りを交えて教えてくれた。
これならばブドウの収獲クエストも、またすぐに再開されそうだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。
ROOってヤバイゲームですね……。
ゲームの世界なので壊れた諸々はニョキッと復活してくれています。やったー!すごーい!
おつかれさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
ごきげんよう、イレギュラーズの皆さん。壱花と申します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●成功条件
『赤犬の群れ』の撃退
●敵
・『赤犬の群れ』×5名
ディルク・レイス・エッフェンベルグの直轄の傭兵たち。一人一人がそれなりに強いです。砂漠の盗賊のような格好をしており、馬を駆けて町へと向かってきます。
剣を使うものが多く、鉄壁の統率とディルクへの忠誠を誇ります。そのため、捕虜になるくらいなら自決します。
・『香炉』悪しきジン
赤犬の群れの内、1名が吊り香炉を腰布に下げています。軽く擦れば悪しきジンが現れます。
ジンは凶悪な広域攻撃をします。【呪い】【狂気】【石化】【魔凶】
●ロケーション
町の前にブドウ畑、その向こうは小規模な草原、そして山。山をいくつか越えると砂嵐があります。山の方から『赤犬の群れ』たちが向かってきます。
ブドウ畑には収穫を迎えたブドウがたくさん実っていますが、気にせずブドウ畑で潜んで待ち伏せしても大丈夫です。
町にはブドウ運搬のための樽や荷車がたくさんありますので、必要であれば借りてください。壊れても町が救われるのであれば住民たちから不満の声は上がりません。
今回はブドウに関するクエストは発生しません。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
●重要な備考:デスカウント
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●重要な備考:情勢変化
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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