PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>人形遣いの家

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●人形『遣い』の家
 木製のテーブルに直接腰掛けたヒューマンシルエット。
 両目を星形のペイントで覆い、愉快な三角帽子と丸くて赤い鼻頭をつけたそれは、奇妙な糸が伸びていた。
 糸の先にはなにもない。どころか、糸に見えているそれは魔力のライン。ありもしない巨大な手に操られるそれは――人形のふりをした人間だった。
 テーブルから飛び上がり、まるで糸につられたかのような不自然な挙動で立ち上がる。くるくると首を回し、肘と手首をかたかたと踊るように上げて身体を振った。
「僕らの隠れ家を見つけたのは、褒めてあげるよ」
 手に掴んでいるのは髪の毛だ。女性の生首がぶら下がっている。切断面からは今も尚おびただしい血がこぼれ落ち、絨毯を浸している。
「けれど、手を出したのは間違いだったわね」
 テーブルの下から、まるで糸にひかれたかのような奇妙な動きで滑り出た髪の長い女性が這い出てくる。
「幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』が」
「簡単に」
「つかまると」
「思わないことだ」
 家のあちこちから現われた人形もどきが、一斉に同じ方向を見た。
 壁に釘で打ち付けられた、殺し屋の男である。
 切り取られた舌がうごいて、つたない顎が『ころさないで』と唱えようとした。
 だがそこまでだ。
 ピエロ風の人形もどきが、ボーリングのピンを掲げてみせた。
「君には、手紙になってもらうよ」

●生首レター
 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演以来混乱の続いた幻想(レガド・イルシオン)。
 しかし度重なる狂気事件や一斉蜂起事件を経て功労者でもあるローレットはフォンデルマンはじめ幻想貴族や民衆へ広くアプローチをとり、王はサーカスの保護を取り下げ、貴族たちは逆賊サーカスを狩り、民衆は石を投げ……狂気のサーカス団は一転して追われる身となった。
「狐狩りは貴族のゲーム。特に北側に逃げてきた連中は酷い地獄を見てるだろうね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は透明な液体の入ったグラスの縁を掴んで、どこかおかしそうに言った。
 ここは幻想北側の裏酒場。盗みに殺しに拐かし、様々な汚い仕事の裏斡旋所で知られていた。
「とはいえ、サーカスも黙って死を待つわけじゃない。幻想各地に散らばったサーカスのメンバーが事件を起こしているみたいだ」
 貴族たちが内輪もめをする間に逃げだそうという魂胆だろうが、その手はもはや通じない。
 ローレットは大貴族のコネクションを通じて『サーカスを逃がすな』と言い含めている。彼らが利己的に動く人間たちであろうとも……いや、そうであるほど、サーカスは追い詰められることになるだろう。
「彼らはおしまいさ。現に今、『匿名希望の貴族様』からラブレターを貰った所だよ」
 ショウは懐から出した手紙を、テーブルの中央へと置いた。

 『レイノルズの人形遣い』
 シルクド・マントゥールに所属するショーマンのチームだ。
「人形『遣い』って知ってるかい?
 まるで糸で吊られた操り人形のように踊るっていう古典舞踊のひとつさ。実際に見るとびっくりするよ。生きてる人が急に脱力して、おかしな体勢で地面に寝そべったり急に吊られたように立ち上がったりするんだ。
 彼らはそんな常識外れの動きを、殺人に昇華させた連中さ。
 幻想北部の村で次々に人を殺しては糸で吊って野外に吊るす……そんなことを幾度も繰り返して人々をおびえさせている。
 『匿名希望の貴族様』もそれを邪魔に思って刺客を放ったけど、次の日には自宅にリボンをかけて送り返されたそうだよ。片手で持てるサイズに切り分けてね」
 しかもこれ以上の深入りは『原罪の呼び声』にやられかねない。
 彼らは『レイノルズの人形遣い』を追うことを諦めた……かに見せかけた。
「彼らはまんまと逃げおおせたと考えて、封鎖を諦めた道を通ろうとするだろう。
 フフ……幻想貴族の、それもかの令嬢に傅く連中がそんなお優しいわけがないのにさ」
 ぺらり、と手紙を裏返す。
 赤い文字でこう書かれていた。

 『彼らを抹殺せよ。今までの礼だ。手柄は譲る』

「汚い仕事を引き受けてきて、正解だったね。持つべきものはコネクション、ってね」

GMコメント

 ごきげんよう、皆様。狂気の幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』をめぐる戦いもついに決着。
 各地に散らばったサーカス団を追い詰め、そしてあらゆる狂気と蛮行にケリをつけさせるのです。
 奴らは柱に吊るされるが相応しい!

【オーダー】
 成功条件:『レイノルズの人形遣い』を全員抹殺すること

 『匿名希望の貴族様』のはからいで彼らは幻想から逃げ出せるつもりでいます。
 ですが封鎖が解かれたはずの検問で待っているのは、ローレットのイレギュラーズたち。
 ここから先は通行止め? 否、行き先は地獄。返しも逃がしもしてやることはありません。
 全員残らずぶっ殺しましょう!

【レイノルズの人形遣い】
 関節を自在に着脱したり異常な柔軟性をもっていたり、そのうえ魔術やその他色々を組み合わせて非常識な踊りをするショーチームです。
 彼らはナイフやピン、火の付いた棍棒、スローイングナイフや銃といった武器を用いて戦います。
 情報によると数は8名。
 『誰一人として逃がさないこと』が条件であるため、全員に1人以上のマークをつけるくらいが丁度いいかもしれません。
 スペックはバラバラで詳細不明ですが、回避・命中が高くEXFが高めだそうです。
 【呪縛】や【出血】に関わるバッドステータスにも注意したい、とのこと。

 まとめ:8名。命中回避EXFが高い。全員マーク推奨。

【フィールド情報】
 解いたと見せかけた検問。
 道のど真ん中です。臨時で設置された小屋に控えてもらって、敵が到着しだい出て行って戦う流れになるでしょう。

【おまけ】
 依頼の経緯にもある『匿名希望の貴族様』はローレットに幾度か盗みや暗殺といった汚い仕事を依頼してきました。
 それらをキッチリこなし(その上あんまり詮索しなかった)ローレットを高く買っており、ボーナス代わりに今回の手柄を譲ってくれるようです。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • <Liar Break>人形遣いの家完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月27日 22時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
はぐるま姫(p3p000123)
儚き花の
リア・ライム(p3p000289)
トワイライト・ウォーカー
祈祷 琴音(p3p001363)
特異運命座標
七鳥・天十里(p3p001668)
美面・水城(p3p002313)
イージス
雪原 香奈美(p3p004231)
あかいきつね
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
蓮乃 蛍(p3p005430)
鬼を宿す巫女

リプレイ

●人形たちの列
 幻想北部の寒村を、人形たちがゆく。
 否、操り人形のようにきわめて不自然な足取りで、異形の人々がゆく。
 彼らの名はレイノルズの人形遣い。
 村々に人を吊るして飾り、恐怖におびえた人々を遠ざけ、その隙をついて幻想国家包囲網からの脱出を謀るのだ。
 それが罠だとは、エンジン音が聞こえるまでは気づかなかった。
「――!?」
 ねじれるように振り返る道化師姿の人形遣い。
 それを、強引なバイク突撃で撥ね飛ばす『バイク便』アルプス・ローダー(p3p000034)。
 飛び上がり高速回転し、頭から地に落ちるも……なぜだか人形遣いに傷一つなかった。気づき、避け、その上で直撃したかのように振る舞ったのだ。
 ブレーキをかけ、轍を刻んで反転するアルプスローダー。跨がっていたホロフラフアバターのアルプスはヘルメットを外し、道を阻むように立ち塞がった。
 幻想国家の検問が敷かれていたラインである。空っぽに思われていた小屋からは、何人かの男女が姿を見せた。その異様さ、渾然一体となった個性から、道化の人形遣いは『ローレット』と呟いた。
「簡単に、逃げられると、思わないことだ!」
 七鳥・天十里(p3p001668)が銃を向け、いつでも射撃できる姿勢で道を塞ぐ。
 同じく『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)と『あかいきつね』雪原 香奈美(p3p004231)が左右へ展開していく。
 香奈美は左右の足でステップを踏み、格闘の構えを取り始める。
「ここで確実に仕留めるっす! これ以上変な事件が起こるのは嫌っすからね……!」
「荒事は『あいつ』ほど得意では無いが……この馬鹿げたサーカスをこれ以上続けさせるわけにはいかない」
「そういうわけや」
 『海洋の魔道騎士』美面・水城(p3p002313)が盾を翳し、自らを壁そのものとした。
「ようやっと、皆の力でここまで追い詰めたんや。きっちり、決めるで!」
 ここは引くべきか。人形遣いたちが引き下がろうと振り返るも、退路には既に別のイレギュラーズたちが回り込んでいた。
「色々やばいこともあったけれど、サーカスの演目には結構楽しませてもらったわぁ。でもまだ少し物足りないのよねぇ」
 酒瓶とテーブルを担いで現われる異様なシスター服の美女、『とにかく酒が飲みたい』祈祷 琴音(p3p001363)。
「さあ、楽しく踊りましょう。どちらかが死ぬまで……ね」
 酒場のダンサーかと思うような大胆な服装で、それこそ踊るように現われる『トワイライト・ウォーカー』リア・ライム(p3p000289)。
「お掃除もメイドの大切なお仕事ですので、今回も茶葉代金を稼ぐためにがんばらせていただきますね」
 『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)は相手の都合も情も関係ないといった風情で、目に力をたたえている。
 『鬼を宿す巫女』蓮乃 蛍(p3p005430)ま魔術道具を手に、もはや逃がすまいと退路を断った。
「これも凶行の報い。もしここで逃せば、また人を殺めるのは明白。ならばそれを止める為にも、此度も蛍は鬼になります。どうかお覚悟を……」
 蛍の腕に抱えられていた人形――『軋むいのちと虚ろなこころ』はぐるま姫(p3p000123)が目を開ける。
「軋むわ。胸のうちの、歯車が」
 取り囲まれた人形遣いたちは、一度身を寄せて陣形を固めた。
 道化の人形遣いが首をかたかたと揺らす。
「僕らを罠に嵌めたわけだ。ここの貴族も馬鹿じゃない……褒めてあげなくちゃあ、ね。けど」
 周囲の人形遣いたちが、戦いとはほど遠い構えをとりはじめる。
 踊りに誘う淑女。偉ぶる警官。飴をもらってはしゃぐ少年。花を愛でる少女。どれもどれもが人形劇の一幕のようで、しかしその目には確かに生きた殺意の光があった。
「レイノルズの」
「人形遣いを」
「簡単に」
「とめられると」
「「おもわないことだ!!」」
 人形遣いたちが。
 一斉に。
 ばらばらに。
 別々に。
 走り出した!

●増悪人形劇
 別々の方向へと走り出したレイノルズの人形遣い。
 彼らの目的は最初から逃走だった。偽の封鎖解除に応じるのがその証だ。ただ襲いかかる程度では、ただ広がって陣を組む程度では抜かれてしまう。よしんば補足できても大きく味方を分断されてしまっただろう。
 しかし、イレギュラーはその行動を読んでいた。
 香奈美は20メートルの距離を五秒足らずで一気に詰めると、相手の鼻先めがけて飛び回し蹴りを繰り出した。
 すんでのところで回避する人形遣いに第二の回し蹴り。側頭部を香奈美の踵が鋭くとらえた。
 人形遣いたちの中でももっとも機敏に動くことができた道化の人形遣いは数十メートルを走りきり戦闘圏外へいちはやく逃れた――かに見えたが、真後ろを豪速で追走してきたアルプスローダーが強引に追突。少年の人形遣いはきりもみ回転しながら近くの馬小屋へと、壁を破壊して突っ込んだ。
 彼女たちほどの反応速度は出せないにしても、Suviaや琴音たちは包囲を突破しようとする人形遣いたちをワッと動いて次々に補足していった。
 先手をとれればマークして相手を足止めし、とれなくとも追走して張り付く。先手をとれる頻度が多ければ多いほど味方と離れずに済むという具合だ。
「逃がしませんよ」
 Suviaは香りのよい紅茶を指にひたし、払うように滴を飛ばす。するとバラの茎が連鎖するように拘束で伸び育ち、淑女の人形遣いの足へと絡みついた。
 逃げることに集中したからだろうか、かわせるか、ないしは直撃をさけられたはずの攻撃に人形遣いは派手に転倒。顔で地面を削ることになった。
 この状況において【足止】と【流血】は非常に痛い筈だ。
 一方で、酔った暴漢のような顔姿をした人形遣いは赤鼻をスンと鳴らして立ち止まる。回り込んだ琴音がカクテルシェイカーを手に構えたからだ。
 腰から粗末な銃を取り出し、乱射する人形遣い。対して琴音は蹴り上げて立てたテーブルボードの影に潜み、カクテルシェイカーを片手で素早く振った。
 よく見る両手で挟んでひねるような振り方とは異なる片手水平振りだが、これも列記としたシェイキングのひとつである。何かと何かを混ぜ合わせるとき、その混ぜ方、空気の含ませ方、温度の変え方で劇的な変化が起きる。それがバーテンダーの持つ魔法であり、琴音の習得した魔法であった。
 親指で弾くようにシェイカーを開放すると、はじけるように魔術が膨らみ人形遣いへと放出されていく。
 互いの銃弾魔術弾がかわされる中を、二人同時に駆け抜ける祈祷師の人形遣いと蛍。
 祈祷師の人形遣いは祭事に使われる木の枝葉を振り、偽りの呪術を行使する。
 一方で蛍は印をきって人外の陰陽術を行使した。真正面から互いの術がぶつかり合い、見えない波紋と衝撃を生んで互いの髪を広く靡かせる。
 家畜を囲う木柵を同時に飛び越え、二本指を突きつけ合う二人。今度はぶつかることなく至近距離で術が交差し、たがいに直撃。
 枯れ草の上をはねるように転がった。
 その先では、居丈高な学者と傲慢な騎士を模した人形遣いたちが二人並んで包囲を突破すべく走る。
 それをそしすべく回り込んだのはアクセルと水城だ。
 彼らよりも早く動けない可能性を考慮して、しっかりとしたブロックの姿勢をとっていた。
 勢いよく槍の突撃をしかける騎士の人形遣い。
 それを盾でほとんど強引に受け流す水城。
 一方でアクセルは殴りかかってくる学者の人形遣いを、腕を掴み取る形で受けていった。
 取っ組み合いにもつれ込み、腕力での勝負となる。
 水城は相手の槍突撃を流した末に背後へ回り込み、自らも槍を構えた。
 背面を攻められれば弱いのは相手も同じ。騎士の人形遣いは咄嗟に反転し、槍を交差させて跳ね上げる。間抜けな馬飾りが、うつろな目で揺れた。
 そこから離れた小屋の屋根を、ジプシーダンサーを模した人形遣いが駆け上っていく。
 リアの追走から逃れられぬと察したからか、屋根へと至るその前に壁を蹴って跳躍。踊るようにリアへと襲いかかる。
 対するリアは手足を剣のように振り回すと、相手の攻撃を舞うように打ち払った。
 袖より伸びた互いの透け布が、激しく靡いて軌跡を描く。
 リアの反撃。踊るような打撃のラッシュが、互いの間でいくつもぶつかり合っていく。
 そんな中、天十里とはぐるま姫は馬小屋へと走っていた。
「人形遣い……」
「間抜けな悪者どもめ、僕の銃弾で始末してやろう!」
 馬小屋の簡素な扉から内部へ突入しようとした、その寸前。
 小屋内へと突入したアルプスローダーが扉を破壊して飛び出してきた。
 車体が派手に横滑りし、ホログラフアバターが砕けたガラスのように散って消える。
「甘く見るな、みくびるな!」
 遅れて小屋から姿を現わす道化の人形遣い。腕や首を異常な角度でくるくる回すと、血走った目を見開いた。
「僕らのパフォーマンスを待っている人々がいる。皆に届けるんだ。幸せと、笑顔と、狂気と死を!」
「……」
 はぐるま姫が手を翳す。腕に装着された指輪がきらめき、激しい衝撃が走った。
「確かによくできた芸だわ。綺麗で精巧。けれど、『それだけ』よ」
 歯車が軋む感覚。
 それは、かつて見た人形師の狂気と悲しみと、そして非業の死が小石のように挟まったがゆえの軋みであった。
「あなたには、人形への愛情が、ない」
 だからこそに、許せない。
 人形そのものであるはぐるま姫はありったけの呪いを込めて道化の人形遣いへと力を放出した。
「ギッ――!?」
 人形遣いの腕が吹き飛び、熱い血が吹き上がる。
 が、身体のバランスをやや崩しただけで、痛がるそぶりすら見せなかった。
「ギギギ、ギ!」
 コマのように回転し、迫る人形遣い。
 天十里はリボルバー拳銃を両手で握り、水平に構えて目を見開いた。
「逃げ切った気になっても、尻尾には鈴が付きっぱなしだったんだ。世の中キミたちよりよっぽどこわーい人はいっぱいいるもんだ」
 歯を見せて笑う。迫る道化師姿の人形遣いが笑う。
 発砲。人形遣いの身体に着弾し、弾かれる。
 対して軌道のズレた人形遣いは転がるように天十里の脇を抜けていき、跳ねて回っておどけるように着地した。
 その顔面に、ピボットターンをかけた天十里はありったけの銃弾を連続で打ち込んでいった。
 爆発するように吹き飛ぶ首。
 道化師姿の人形遣いは『頭がとれて困った』というようなおどけたパフォーマンスをしたあと、糸がきれた人形のように崩れて死んだ。

●糸
 両手に包丁をもちコマのように高速回転する淑女の人形遣い。
 演技も趣ももはや関係ないとばかりに、殺人機械と化して襲いかかる。
 対するSuviaは茶葉を放ち、拡散魔術を行使した。
 ある世界では乾燥させて香りを強くした葉は呪術や祭事に用いられたという。Suviaはそれにどこか近く、そして愛情をもって行使していた。
「メイドのお仕事は手抜き無しなのです」
 人形遣いの全身あちこちに魔術弾跡が穿たれ、一方のSuviaにも無数の切り傷が走る。
 勝負は互角にか。否、相手を阻もうとマークに意識をやるSuviaのほうがいくらか不利。このままでは押し切られ、逃げ切られてしまう。
 勿論それは、一対一ならばの話である。
 背後から組み付き、腕に関節技を仕掛けるアクセル。
 人形遣いの腕を逆向きにへし折るが、知ったことでは無いとばかりにアクセルを振り払った。
 ぶらんとした腕。地面を転がり受け身をとるアクセル――の上をエンジン音を唸らせて飛ぶアルプスローダー。バイク単体で突撃を仕掛けると、人形遣いに自らの質量とスピードをもろとも叩き込んだ。
 とてつもない時速で走れるアルプスローダーの直撃を受けて無事でいられる人間などいない。元が人間であることを疑うような形状に変形することもあるほどである。
 が、人形遣いは異常にねじれた身体のまま、アルプスローダーのボディを蹴りつけた。
 はねのけられる車体。その影から、天十里の姿が見えた。
 片膝立ちの射撃姿勢でしっかりと狙いを定め、パチンとウィンクするように片目を瞑る。
 放った弾丸が相手の心臓部に吸い込まれ、臓器をえぐった状態で弾頭を潰した。
 そうして生まれた衝撃で、人形遣いは派手に吹き飛び、跳ね、転がり、以上に拉げた身体のまま、淑女のようにお辞儀をして、息絶えた。

 頭数で勝るイレギュラーは、マーク・ブロックに手を取られる不利を覆し人形遣いたちに対抗していた。
 人形遣いもまた逃げられぬことを悟り、呪縛や出血といった異常状態を駆使した殲滅へとシフトし始めていた。
 こうして彼らは互いの頭数をごりごりと減らしあう。
 リア。そしてジプシーダンサーの人形遣いとの間で激しいダンスのごとき乱打が交わされる。
 手刀が、足刀が、額が激突し、互いの頬に血が伝った。
 が、そこへ飛び込む香奈美。
 スライディングキックが人形遣いのつま先を払い、転倒を免れるべくついた手にウィンドミルキックを打ち込んでいく。
 派手に蹴り上げられた人形遣いの鼻先に、リアが人差し指を上向きに突きつけた。
 音楽の終わりのように、パチンと慣らした指。
 はじけた魔術が炎となって、人形遣いを包み込む。
「……! ……!」
 熱気を吸って声にならぬ声をあげ、人形遣い使いは踊りながら焼け死んでいった。

 残る一人は騎士の人形遣いだった。
 水城とぶつかり合い、水城の体力を削っていく。一方的にならないのは水城のカウンターがたびたび打ち込まれているからだ。
「まだ勝負は終わっとらんで! 通るならうちを倒してからにしてもらおうか!」
 盾を相手に打ち付ける。
 が、人形遣いは信じられないようなパワーで水城の身体を撥ね飛ばした。
 自らの身体をバネにして、水城を『発射』したのだ。
 宙を舞い、民家の木柵を粉砕しながら転がる水城。
「流石に体力が――」
 と呟く琴音に、150mlの小瓶が回転しながら飛んできた。反射的にキャッチし、飛んできた方を見ると。
 琴音が自らを指さして『こちらのお客様からです』とウィンクした。
 コルクを歯で抜き、一気に飲み干す。胸を抜ける熱いものが、身体から痛みや歪みを吹き飛ばした。
「……っしゃ! かかってきいや!」
 ならばと突撃してくる騎士の人形遣い。
 全身全霊。否、いびつなまでの肉体運動によって螺旋状に回転する槍の突撃。
 しかしそれを、水城はあろうことか自らの肉体で受け止めた。
 槍が抜ける。が、水城の両手と肉体そのものが、人形遣いの異常な動作をがっちりとホールドした。
 罠だ。そう考えた時にはもう遅い。左右から、蛍とはぐるま姫が同時に砲撃の姿勢に入っていた。
 目を細め、人外の術式を放射する蛍。
「ギャッ――!?」
 騎士の人形遣いがはじめて人間くさい悲鳴をあげた。
 そうして吹き飛んでいく腕。回転しながら飛ぶ腕に目もくれることもなく、はぐるま姫は突きだした腕を大砲のように手で押さえ、美しく整形された球体関節の五指をいっぱいに開いた。
 人間の指ほどしかない細い腕で、かすれた指輪が光をもつ。
「ええ、そう。きっとこれが『怒り』の音――わたしは、このひと達を、許せない」
 目に、不思議な文様が光として浮かび上がった。
「人形の国の姫君を、名乗る者として告げる――あなたの芸は、『つまらない』」
 砲撃。否、迫撃。
 弧を描いて飛んだ魔術の弾が、着弾と同時に光の爆発を起こした。
 原形が分からぬほどばらばらに吹き飛んだ人形遣いを前に、水城はがくりと膝を突いた。

 かくして、幻想脱出をもくろんだ『レイノルズの人形遣い』は全滅した。
 この手際を褒め、『匿名希望の貴族様』は責任をもって被害者及び遺族のケアと弔いにあたった。一方で人形遣いたちはその記録すら残されぬまま、草花や風へと散らされたという。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――excellent!

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