PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Genius Game Next>踏み躙られる無垢の夢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●絶望のハーレクイン
「やめて! やめて!!!」
 ふわふわした柔らかな髪が熱風に巻き上げられて、真っ青な顔が露になる。
 ──目の前には夢の遊園地。
 ──リアルとは違う、無垢な理想で作った場所。
 絵本のような楽しく美しい情景。
 そのはずだった。

 今、シーナの目の前で、彼女の作った遊園地は赤黒い炎を上げていた。
 花の香を乗せていた柔らかな微風が運ぶのは息苦しいばかりの焦げた黒煙で、楽しげな笑い声は悲鳴に変わった。
 獰猛なワイバーンの咆哮、下卑た男の粗野な声。
「こんなの……酷いよ……」


●荒らされた遊園地
「気の抜けた施設だな! 宝石かと思えばガラス玉ばかり。見た目は派手なくせにろくな金目のもんもねえし」
「とりあえず、むっちゃくちゃにぶっ壊して行こうぜ」
 一人が話しながら倒れた人影から血に濡れた剣を抜くと、もう一人はワゴンを蹴倒した。
 すると小さなランプが割れて床に流れた油を伝って炎の帯が広がる。
「あー?」
 それに気付いた男の一人がニヤニヤ笑いながら折れた椅子の足に布を絡ませ突っ込んだ。少し時間を置いてぶすぶすと黒煙が上がり炎が上がる。
「そおれ!」
 即席の松明は男の間抜けな声と共に放り出された。
「森ごと焼けたら楽しいなあ!」
 それを見ていたもう一人もそれを真似しあちこちに火種を蒔く。
「一人ひとり探して始末するより楽か!」
 そのひとつが飾りの付いた街路樹の根元に落ちた瞬間、頭上から少女のけたたましい悲鳴が上がった。
「見ろよ、あれ」
「あーあ」
 投げた炎は生木には燃え移らなかったが、それは樹の上で壊れたロープにしがみついていた少女の姿を悪漢どもの前に炙り出した。
 すらりと得物を抜いた二人は壊れたフードコーナーから抜け出して、


 ワイバーンを連れた盗賊たちが進撃の途中で偶然この遊園地を見つけた──というR.O.Oのイベントなのだろうか。
 夢いっぱいの遊園地は悪夢のように酷い有様だった。
 盗賊二人はワイバーンから降りて食べ物やら金目のものを集めようとしたが、ろくな者が無かったのだろう。すぐにワイバーンたちを自由にさせて園内を荒し始めた。
「誰か助けてええ!」
 コーヒーカップが滑っていたケーキの山は汚れて沼のようになっていて、その中心に取り残された少年たちが悲鳴を上げる。
 空飛ぶ観覧車の飛び立つ前のゴンドラを支えていた軸は炎を上げている。
 赤黒の縞柄のワイバーンどもが上げるやかましい鳴き声は、邪悪な悪魔のせせら笑いのようだ。
「こっちに!」
 少女たちが手に手を取って空飛ぶ観覧車のゴンドラに転がり込む。
 続けて女性二人を乗せたゴンドラがドアを閉めた。
「お願い! 出発して!!」
 女性の一人が叫ぶと、ゴンドラを留めた輪は回転しながら空へと昇って行った。
「待って! 私たちも乗せて」
 メリーゴーランドの乗り物のひとつであるペガサスに跨った女性とそれにしがみつく青年が空のゴンドラの扉に手を伸ばす。
 ぎりぎりで届いた取っ手を掴むと、ふたりは中へ飛び込んで力強くドアを閉めた。
 乗り手を失ったペガサスがゆっくりとメリーゴーランドへ戻ってゆく。
 その周囲にチカチカの小さな炎の影が見えた。
 しかし──。
「嘘! なんでだよおっ!」
「ねえ、もっと上に行ってよ!」
 ある一定の高さに浮かんだゴンドラはそれ以上は上がれず、また、森の外へ飛び去ることもできずにぐるぐると園内の上空を動いている。

 ゴゥン!

 すべてのゴンドラが激しく揺れた。
 ワイバーンの一体が体当たりをしてきたのだ。
 今更着地もできず、ただ園内をゆっくりとワイバーンから逃げるように動く輪に繋がったゴンドラ。
 それを珍しい玩具のように喜んで体当たりを繰り返すワイバーンたち。
 ギシギシと悲鳴を上げ始めたのはゴンドラか、輪なのか──どちらにせよ、このままでは砕けて、皆外に放り出されるだろう。

 綺麗に並べた石畳が弾け飛ぶ。
 一体のワイバーンがテントを破ってフードコーナーだった一角に降り立ったのだ。
 破れて風に煽られるテントの影でごそごそと何かを漁っていたそれは、口の周りを真っ赤に染めた顔を上げた。
 ごりごりと厭な音がして、赤黒い液体が滴り落ちる。
 それらすべてをまざまざと見せつけられたゴンドラの中の人々は我慢できずに一斉に悲鳴を上げた。


●Genius Game Next
 練達が混沌法則打破に向けた実験を実施する為にオンライン上に作り出したもう一つの混沌『R.O.O』が暴走した。
 制御を外れデータを増殖し始めたそれは『ネクスト』という世界と、収集したデータから混沌に実在した人物を元に大量のNPCを作る。そして、当時実験のためにR.O.Oへログインしていた研究者や希望ケ浜学園生徒たちもログアウトできない状態でその世界へと囚われた。囚われた人々は、ネクスト内でバグによって『トロフィー』となっており、ゲームクリアの報奨として解放されることが多かった。
 ローレットのイレギュラーズたちには狂ったネクストの調査、そして囚われた人々の救援が求められ、彼らは仮想世界へとログインした。

 R.O.Oでの冒険はあくまでゲーム内のものだ。そこで生じる出来事は、R.O.Oの暴走に関わる事件には関係ないと判断されていた。けれども、『トロフィー』をはじめとする、一連の出来事への筋道がネクストに用意されているために、バグの根源や解決に到る為にはゲーム内の出来事に乗る必要がある──練達の首脳陣をはじめ、そのように考えていた。
 そして、その考えを後押しするかのように、『R.O.O』から全プレイヤーに宛てて『イベント開催告知』が行われた。
 来たる六月二日、大規模イベント『Genius Game Next』の実施。
 砂漠の悪漢『砂嵐』による、伝承西部バルツァーレク領、南部フィッツバルディ領の襲撃。

 プレイヤーたちは「悪逆非道の砂嵐を迎撃し、伝承領の被害を軽減すること」を求められたのだ。

 R.O.Oは告げる。
『このイベントはネクストの歴史を変え得る重要なイベントです。特別クリア報奨も用意されていますので奮ってご参加下さいませ!』
 報奨は提示されてはいないが、これまでの経緯から、『トロフィー』の大量獲得や情報取得、何らかのアップデートが見込まれている。
 そして、このイベントの存在自体が、もっと重要な意味でこの事件を知る手掛かりになるとローレットのオーナー、レオンは考えているのだ。

GMコメント

●目的
遊園地の人々を助けて森から逃げる


●ステージ:森の中の遊園地
森に囲まれた開けた花畑にあるファンタジックな遊園地。
小山と滝と小さな湖があり、アトラクションのトロッコの線路がひかれている。
──そんな平和な遊園地だったが、今はめちゃくちゃく壊されてあちこちに火を放たれている。
人々を救出してトロッコに乗せて森から出れば、クエストクリアだ。


●敵
・縞柄のワイバーン×4
赤黒の縞柄のワイバーン。恐竜に似ている
体長3m+尻尾1m、肉食、炎に怯えない
飛行、鋭い牙で噛みつき・噛み砕き、剣のような爪での攻撃、鞭のような尻尾での攻撃
若干の魔法耐性、スピードは遅いようだ

・悪漢×2
バスターソード(痺れ薬を塗ってある)
逞しい体躯の盗賊たち
痺れ薬は確率で相手の動きを止める
会話による意思疎通は不可


●救出対象
遊園地で遊んでいた客たち。
NPCなのかアバターなのか不明だが、彼らにとっても死はデスカウントで済むのだろうか?
ワイバーンに食われることを恐れてパニックになっている。

〇ゴンドラの客×6名 ワイバーン×3
空飛ぶ観覧車のゴンドラに乗って逃げようとしている客。
しかし、ゴンドラは決まった範囲しか動かないので、逆に進退窮まってしまいワイバーンに撃墜されるのを待つばかりの状態になっている。
周囲を旋回するワイバーンたちは今にもゴンドラに突っ込んでいきそうだ。
女性と子供が多い。
屈強な青年もいるが、どうやら性格は幼いらしく取り乱していて戦闘等の役には立たない。
女性と子供は青年よりは落ち着いていてPCの指示を理解できる。

・ゴンドラA……子供2人組
・ゴンドラB……青年と女性
・ゴンドラC……女性2人組

〇ティーカップの客×2名 ワイバーン×1
沼地のようなケーキの上、壊れたティーカップの破片に舟のように乗って蹲って怯えている少年たち。
見た目通りの年齢らしく、恐怖で泣いている。
一頭のワイバーンが上空を旋回しており、時折爪を伸ばして少年たちを捕らえようと下降してくる。

〇バルーンブランコの客×1名 悪漢×2
風船を割られ、高い木の枝に引っかかったロープを必死に掴んで悲鳴を上げる少女。
樹の幹を二人の男たちが蹴りつけて笑っている。


●園内施設一覧
あちこちで小さな火が上がっているが森が燃えるほどではなく、いずれ鎮火するだろう。

・メリーゴーランド
ペガサス、馬、りす、うさぎ、馬車等のファンシーな乗り物が揃っているメリーゴーランド(同じ形は複数ある)。
見えないスタッフに依頼すると園内に限り自由に空を飛べる。
ワイバーンには及ばないが通常よりスピードを出して小回りの利く運転ができる。

・トロッコ
所々線路が壊れているが、普通のトロッコとして動かせる。
作業時間が少しかかるが現実とは違って極めて短時間で何台も連結可能。
滝を落ち、そのまま遊園地の外れまで伸びているので森から抜けられる。
徐々にスピードが出るタイプだが、スピードさえ出ればワイバーンには追いつけない。
しかし、最低一人のPCが運転手として乗り込まなければ危険。

・バルーンブランコ
風船は割られ紐は引きちぎられて、園内のあちこちに転がっている。
一台だけ木に引っかかっているが……。

・ティーカップ
巨大ケーキの中に沈んだり、無残に叩き割られたりしてる。
巨大ケーキは汚れて底なし沼のようになっている。
もう食べられない。

・ゴーカート
小さな荷馬車を小型の大人しいグリフォンにひかせるものだったが、黒煙を上げて転がっている。
空も地面も走り回れるのだがグリフォンたちは皆逃げてしまい、動かすことはできない。

・空飛ぶ大観覧車
観覧車の輪ごと軸を抜け出て空を飛ぶ仕様。
ゴンドラはソファー以外はすべてスケルトン仕様で中の人間は丸見えです。
遊園地と森の上しか飛べないため、ワイバーンたちの的にしかならない。

・フードコーナー
大きなタープテントの下に充分な数の椅子とテーブルが並んでいたが、めちゃくちゃだ。
食事も散乱してもう食べれそうにない……。

●NPC
・シーナ(リーナ・シーナ(p3n000029)):救出対象?
この遊園地のオーナーのような存在の、かわいい小柄な商人の女の子
リアルのことは言及禁止で、このような場面でも話さない。
園内のどこかに居て惨状を呆然と見ている。
救出対象を全員保護した場合PCの前に現れるが、脱出に泣きながら抵抗する。
「ここは──ボクの夢の場所なのに、何で逃げなきゃいけないの!」
※(PL情報)シーナは盗賊側の人間ではありません。

・ゴロリン(p3n000031)
現実と同じゴブリンそっくりの外見をしたウォーカー。ローレットの新米冒険者。
外見こそゴブリンに似ているが、性格は心優しい先輩方に憧れる普通の少年。
(シナリオ『ゴブリンごろごろごんゴロリン』※読む必要はありません)

・見えない従業員
遊具を動かすことしかできない。
ロボットのようなものだろうか……。
救出対象ではない。


●ふわトラ・ソサエティーの掟
1☆ROO外(リアル)の関係は持ち出し禁止!
2☆ROO外(リアル)の話題はしちゃダメ!
3☆ROO外(リアル)の正体を探っちゃダメ!
4☆ふわトラではROO外(リアル)をわすれる!
5☆ふわトラでは皆で仲良くしあわせになる♪

この遊園地で施行されているシーナオリジナルのルール。
1~3のROO外の関係への言及禁止だが、シーナの前や表立ってせずにこっそりとする分にはOKです。
4もポロっと口に出すと注意を受けるくらいです。
5に関してはネットマナー的なものだと思って下さい。
もちろん、外の世界と同じ見た目・性格のキャラクターも大丈夫です。
このような場面でもシーナだけはこのルールを守っています。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
今回のミッションとは関係無いところで不正確な情報があるかもしれませんが、当依頼をこなす面では些細な事です。
これによって今回の依頼で戦ったPCが不利益を被ることはありません。

────
●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
────

  • <Genius Game Next>踏み躙られる無垢の夢完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月20日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

壱轟(p3x000188)
サイバーウィザード
ムー(p3x000209)
ねこ
ホワイトローズ(p3x000921)
白薔薇
Ignat(p3x002377)
アンジャネーヤ
じょーじ(p3x005181)
めっちゃだんでぃ
アンジェラ(p3x008016)
当機、出撃す
サロ(p3x008903)
旅するサロ
アマト(p3x009185)
うさぎははねる

リプレイ

●壊れた夢
 八人が傾いだゲートを潜れば、そこは蹂躙された悪夢の地だった。
「さて、今回のクエストは……遊園地からの救護ね」
 『白薔薇』ホワイトローズ(p3x000921)が呟くと、『戦闘用汎用型アンドロイド』アンジェラ(p3x008016)がゲート近くの園内地図を描いた看板を指す。
「状況を確認します──空にワイバーン、園内には救出すべき一般客がいるようです」
 『カニ』Ignat(p3x002377)と『サイバーウィザード』壱轟(p3x000188)が複雑な表情を浮かべる。
「イベントって言ってもこうまで無惨な光景を見ると心が痛むね」
「遊園地をあんなにめちゃめちゃにしてしまうなど……ほんとに酷いな。来客たちをこの忌々しい状況から救ってやらねば」
「まぁ、盗賊がいっぱい集まってるよりはいいですけど」
 『ねこ』ムー(p3x000209)が園内を見回し、言葉を続けた。
「強い奴も多そうなので何とか頑張らないといけませんね。データといえど人は人ですし、頑張って助けましょう」
「ええ、さっさと空飛ぶトカゲを射ち落してまた遊べるようにしようか!」
 勢い込むIgnatへホワイトローズが警告する。
「でも、ワイバーンというと一応は結構強いエネミーになるとは思うから、気を付けて当たりましょう。簡潔に終わらせられるといいのだけれど……」
 『めっちゃだんでぃ』じょーじ(p3x005181)が眉を顰めカマーバンドを撫でた。
「ああ。その方がいいようだな。助けを呼ぶ声が聞こえる」
 仲間たちの後ろで『うさぎははねる』アマト(p3x009185)は呆然としていた。
 たくさんの笑顔に満ちていた。アマトはそこで『家族』と楽しい思い出のひとときを過ごしたばかりなのに、そこはあまりにも変わり果てていて。
「楽しかった遊園地が、どうしてこんなことに……?」

「クエスト開始だね」
 『旅するサロ』サロ(p3x008903)が一足先に園内を歩き出した。


●救出
「こちらを使えば少しでも早く動けるかもしれません!」
 アマトの説明を受けながら、アンジェラ、壱轟、じょーじはゲート前のメリーゴーランドを訪れた。
「……二人乗りはできないか?」
「コイツは無理だな」
 壱轟の言葉に兎に跨ったじょーじが神妙な顔をする。
「あの浮いているゴンドラに三匹ものワイバーンが群がっている。嫌な予感がするな。急がないと──ん!?」
 すると、じょーじがムーが向かったバルーンブランコの方を見て眉を顰めた。
「向こうからも助けを呼ぶ声が聞こえるぞ!」
 迷うじょーじへ動き出した馬車の中からアマトが叫ぶ。
「アマトが行きます! じょーじ様はゴンドラを!」
「……ああ、頼もう!」
「では、当機構はワイバーンの対策に当たりつつ、ゴンドラへ向かいます」
「そうだな。……ではアンジェラ頼む」
 浮き上がり始めたアンジェラの馬車へ壱轟が飛び乗った。

 まっすぐバルーンブランコ方面へと走っていたムーが目にしたのは、剣を抜いたふたりの盗賊たちが街路樹を揺すっているところだった。同時に響くけたたましい叫び声のお陰で、ムーは枝に絡みついたロープにしがみ付く少女にすぐに気付いた。
「なんで悪漢二人がわざわざ女の子を狙っているのかわかりませんが、さっさと熨してしまいましょう」
 下卑た笑い声を上げていた一人が近づくムーに気付いたが、ムーの豊満な身体をみてすぐに嫌らしい表情を浮かべた。
「逃げ遅れたお嬢さんか? へへ、ガキより楽しそうだ」
「あー、手加減とかいらないですね」
 男たちが動く前に大地を蹴って距離を詰めたムーの宝剣が男の一人を攻撃する。
「てめえよくも!」
「嬲り殺してやる!」
 斬りつけらえて怯んだものの、すぐに体勢を立て直した二人から連続した剣がムーを襲う。樹の上の少女がまた違う悲鳴を上げた。負けじと次の攻撃に移るムー。しかし、完全に頭に血がのぼった状態の盗賊どもも負けてはいない。
「ムー様!」
 頭上から声がしたかと思うと、空飛ぶ馬車から身を乗り出したアマトが足止めを兼ねたスキルを仕掛ける。
「仲間か!」
 数に優位を感じていた彼らが動揺したようだった。
 状況を把握したアマトはまず、ロープにしがみ付く少女へと馬車を近づけた。
「この手、掴めますか?」
 ふるふると首を振る少女。アマトは馬車を着地させると扉を開くと同時に跳躍した。
「うさぎはぴょんぴょん跳ねるもの────なのです!」
「行かせるか!」
 盗賊たちがアマトへと走る。
「こっちの台詞です、にゃーっ」
 意識を反らした盗賊へムーの剣が斬り込み、そのまま一気に斬り払う。
 絶叫を上げる盗賊A。残されたもう一人は舌打ちした。
「くそ、なんだこの兎と猫!」
 アマトが飛びつき揺れた樹に再び悲鳴を上げる少女。震えるその身体を、もう一度幹を蹴って跳んだアマトが攫う。
 少女を抱えて無防備に着地したアマトへ、残った盗賊が目を向けた。
「お相手はこちらです!」
「!!」
 食い込むムーの一撃に返すように突き出された賊の刃が色白の肌に食い込み、彼女の身体に痺れが広がる。
「は、猫から絞めてやる!」
 だが、馬車に少女を押し込んだアマトが放った二度目の攻撃に敵は悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
「さっさと片付けるつもりだったんですけどね……」
「お待たせしてごめんなさいです」
 苦笑したムーの身体をアマトが癒した。


●ティーカップ
 ぬかるんだケーキステージ前に立ったサロの放った攻撃がワイバーンを撃つ。少年達を狙って降下したワイバーンは軌道を反らされて怒り、獅子のように吼えた。
「空飛ぶトカゲの機動力を削いでやるよ!」
 Ignatの主砲が蟹光箭を放つ。
 直撃したワイバーンが軌道を誤って翼が大きくケーキを抉る。
 汚れた生クリームの海が大きく波立って少年たちが叫ぶ。
「ケーキの沼が無ければ早く逃げてって言いたいところだけれどね。ちょっと難しそうだからオレたちの後ろに隠れてるんだよ!」
「あ、ありがとう」
 動き出したティーカップを足掛かりに少年たちの元へ取りついたIgnatがわざと明るい声で告げる。すると、少年たちはガクガク震えながらも泣くのをやめてIgnatの後ろで身を寄せ合って縮こまった。
 サロがティーカップを足掛かりにひょいと飛びながらIgnatたちとワイバーンとの戦いを繰り広げる。
「ボクがアレを抑えるけど、逃げられそうかい?」
「残念だけど、……オレひとりでこの沼から二人連れて行くのはちょっと厳しいね」
 Ignatが言うや否やワイバーンの太い尻尾がティーカップを粉砕しながら向かってくる。
「ぐっ、守っ……た!」
「いいね。今度はボクの番」
 咄嗟に子供たちを庇うIgnat。跳びあがり、カップの残骸の上で構えたサロがぬかるみの中のワイバーンへ狙いをつけた。


●ゴンドラ
「戦場への投入完了。──救出を実行します」
 ゴンドラへ体当たりをかけるワイバーンへ、馬車を足場にしたアンジェラがストレンジバグを放つ。頭部、眼球──生物の弱点を狙いながら放った攻撃に、ワイバーンは怒りの咆哮を上げた。
 残り二体も新たな敵の存在に気付き、翼をはためかせゴンドラからしばし離れる。
「この中にいちゃ遊園地の外には逃げられないぞ! 俺たちが助けるからちゃんと話を聞くんだ!」
 その隙にゴンドラへ近づき身を乗り出した壱轟がドアに掛けられた鍵を外さんとヒートロッドを伸ばす。そして、パニックを起こしている乗客たちへ訴えた。
 無事着地した兎から降りたじょーじは、地上からワイバーンたちへスナイパーライフルを向けた。彼から放たれた一撃は狙い過たずゴンドラにより近いワイバーンを射貫く。大きく翼をはためかせたそれはじょーじに向かって威嚇の声を上げた。
 ふと、ゴンドラの中の人々からの視線を感じたじょーじは声高らかに宣言した。
「安心してくれ、キミたちを助けに来た。訪れる者の幸せを願った場所で涙が流れているのなら、私はそれを止めねばならない。何故なら私は──ダンディだからだッ!」
 涙まみれの顔で見下ろす人々が感動し、目を丸くしているのをじょーじは感じた。
 その隙に壱轟の努力が実って、一台のゴンドラの鍵がガチャリと外れた。
「こっちへ!」
 すると、ごうと音を鳴らして一匹のワイバーンが餌を攫おうと首を突き出して来た。
 揺れたゴンドラから投げ出される二人の子供たち。
 壱轟の手が一人の腕を掴み、けれども、もう一人は彼の腕の間からするりと落ちた。
「──駄目だ……っ」
 けれども、放り出されたその身体をさっと受け止めたのはワイバーンの顎ではなく、ホワイトローズだった。
 空を飛んで現れた彼女はそのまま子供を抱えたまま、スピードを殺して落下するように着地した。
「さ、助けに来たわ……少しは安心なさい」
 真っ青になって震えている少年をできるだけ静かに地面へ下ろす。
「あまり誰かを連れて飛ぶ、というのは慣れていないのよね」
 ワイバーンたちから隠すように子供を物影へと逃がしながら、彼女は空を睨んだ。
「全く、空を飛べるからって調子に乗らないでちょうだい、蜥蜴」
 言葉がわかったはずはないのだが、ワイバーンはギロリと彼女を睨んだ。

 アマトが動かす馬車がトロッコへ着くと、トロッコで戦っていたらしいゴロリンが飛び出して来た。
 ゴロリンを知っているアマトは安堵して少女を彼へと渡す。
「トロッコの準備とこの子をお願いします!」
 一瞬戸惑ったムーも状況を理解したのか、目の前のゴブリンに戸惑う少女の背中を優しく押した。
「ええと、僕たちは他の救援に行くから頼めますか?」
 少女へトロッコを差し示しながらゴロリンが力強く頷く。
「わかった、すぐに出発できるようにしておくよ!」
 再び馬車に乗り、飛び出すムーとアマト。

「トカゲには、子供を喰らわなきゃいけない機能でもついているのかい?」
 皮肉気な笑顔を浮かべながらも、サロは自分達が追い詰められていることを感じていた。
「逃がしてあげたいんだけどね……」
 もちろん、自分も倒れるつもりはないのだが──泥沼のようなステージで少年二人を庇うIgnatは自由に動けない。
 サロ一人ではワイバーンを抑えきれない。
 少年二人を助けるのならば、撤退するしかないのだろう。
 ちらりと、サロはIgnatを見た。
「こういうのはちっとも楽しくないよ。でも、仕方ないね」
 察したIgnatが顔を歪めて、それから子供たちを両脇に抱えた。
 玩具、もしくは餌が逃げ出すのを察知したワイバーンが牙を剥きだしにしてIgnatへ襲い掛かった。
 襲い掛かる怪物と仲間、その合間にサロは身体を滑らせた。
 抱えられた少年たちが大きく目を見開く。
 ──ゲームの世界なのに、こういうのはよく出来ていると思う。
「大丈夫、心配しないで。君たちはボクの仲間が必ず助けるから──」
 少年ふたりを抱えて泥沼を駆けるIgnatの後ろで、ワイバーンがばくりと口を閉じた。
 ……同時に、彼らを庇ったサロの姿はこの公園から消え去った。
 逃げるIgnatが何度目かの跳躍をすると、背後で荒い獣の息遣いが聞こえた。
「オレは約束を守る男だからな──!」
 少年たちを放し、鋭い爪を甘んじて受けた。
 視界の端で少年たちがケーキの沼でどろどろになりながら、必死に足掻いているのが見える。
 せめて一撃、食らわせる。
 倒さなくてもいい、撤退さえできれば──。
 思ったより近くに、その声は響いた。
「こっちは任せてください」
「一緒にこちらへ!」
 戦闘の音を聞きつけて駆け付けた、兎耳をぴこぴこ揺らしたアマトとムーだ。
「頼んだ!」
 Ignatは叫び、ムーとアマトは少年たちを抱えて空飛ぶ馬車へ押し込んだ。
「……好き勝手やってくれたよね」
 Ignatが強い眼差しをワイバーンへと向ける。
「主砲構え! 我が物顔で飛び回るトカゲ野郎を地面とキスさせてやろうぜ! FIRE IN THE HOLE!」
 蟹光箭がワイバーンを撃ち抜いた。

「そっちだ、ホワイトローズ君!」
 声と共にじょーじが指を弾くと、ワイバーンと戦っていたアンジェラの傷が癒えた。
 ゴンドラへ向かおうとするワイバーンを狙って壱轟が地上から放った一撃。それに痺れた一匹がよろよろと地上に堕ちる。
 その隙に空を飛ぶホワイトローズがまた、一台のゴンドラから客を助け出した。
「これで──全員ね」
 気付いたじょーじがアンジェラへと合図を送る。
「撤退だ!」
 壱轟の掛声と共に彼らは助けた民間人を守りながらトロッコへと走った。


●脱出
 ゴンドラ班がトロッコへ着くと、ティーカップに向かった三人が待っていた。
「……」
 サロの不在に気付いたが、何か言葉を交わす前にゴロリンと言い争う声が聞こえて来た。
「逃げましょう、リーナさん!」
 見ればトロッコの前で泣きじゃくるシーナがゴロリンともみ合っている。
「ここは──ボクの夢の場所なのに、何で逃げなきゃいけないの!」
 アーリーチェンジをしたIgnatが表情を硬くしてシーナの肩を強く掴んだ。
「逃げるんじゃなくて転身だよ転身。戦力を整えてまた帰って来る方向で考えよう!
 ……このままだと夢の国を楽しむお客さんが死んじゃうよ」
「そんなの、は──!」
 何かを叫ぼうとするシーナを壱轟が遮った。
「夢の場所を無残に壊されて、さぞ辛いことだろう……だがこの場所と最期をともにするようなことはとても悲しくて『しあわせ』とは程遠いと思うぞ」
 彼の目がトロッコ乗り場にも張ってあるふわトラの掟に向けられたことに気付いて、シーナの顔が強張る。
「だが、おまえさえ生きていれば、諦めなければ、またここを楽しい遊園地に蘇らせることだってできるだろ?」
「……」
 アンジェラが前に進み出て、口を開いた。
「当機構に貴女の悲願や夢については推し量る事は出来かねます。しかして今回このような事が起きた以上、次もあり得ます」
「次?」
「はい。そうなった時、誰が悲しみますか? お客様は当然、夢を作り上げた貴女だけでなくその協力者も。そしてこの遊園地も、悲嘆に暮れる事かと思います。
 どうか、今回は御自愛ください。次に対しての対策を。今度は誰も傷つかず優しく素敵な、新しき夢を」
 そうです、とムーが語気を強める。
「よりすごいものを作るんです。生きてないとそういうことはできませんよ?」
「……」
 風に乗って咆哮が聞こえた気がした。
「あまり時間があるわけじゃないのよ。悪いけど」
 黙り込むシーナの後ろに回ったホワイトローズが動き、即座に気絶させた。

 トロッコは徐々にスピードを上げて行った。
「この速さならワイバーンも追いつけないです」
 ムーの一言で、離れてゆく遊園地をじっと見ていた人々が、小さく息を吐いた。
 小さく呻いて、シーナがふわふわの髪の毛を揺らした。
「目が覚めた?」
 ホワイトローズが声をかけると、シーナの肩がびくりとはねた。
「シーナ様」
 未だ虚ろなシーナの手をアマトがそっと握って語り掛けた。
「ここが楽しい場所なの、アマトは知ってます。だからこれ以上悲しい場所になってほしくないのです。ここに残ったシーナ様にもし何かあったらって思うと、アマトは悲しいです」
 スピードを出すトロッコからはもう廃墟となった遊園地は見えなかった。
「シーナ様ならきっときっとまた楽しい場所を作れるはず。アマトもお手伝いします。だからシーナ様、今は、アマトたちと一緒に逃げましょう?」
「また作るだって!? そんなの」
 顔を歪めたシーナの背中を、ぽんとじょーじが叩いた。
「ところでな? このダンディ、現在ふわトラで乗れた遊具がうさぎさん一羽だ。ダンディだってゴーカートとか乗りたい。超乗りたい。ふわトラ掟その5に現在進行形で違反ダンディだ! 分かるかね、私が掟破りの似非ダンディにならない為には君の助けが必要なのだよ」
 明るいじょーじの声に、乗っていた少年たちが思わず笑い声を漏らした。
 ぱちぱちと目を瞬かせるシーナに彼はにっと笑って園内に掲げられた言葉をなぞった。
「どうかまた、『ようこそ、ふわトラ・ソサエティーへ』と私たちに言ってくれまいか」
「……っ」
 唇を噛んだシーナはたっぷり戸惑ってから頷いた。




成否

成功

MVP

アマト(p3x009185)
うさぎははねる

状態異常

サロ(p3x008903)[死亡]
旅するサロ

あとがき

ご参加ありがとうございます。
遊園地の夢は潰えましたが、人々は全員助けることができました。
お疲れさまでした。

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