シナリオ詳細
Eclogae
オープニング
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ざ―――
リズミカルな雨音が響く。伝承の涯、鋼鉄に隣接した山岳を転々とする羊の家族、移ろう季節と共に居住地を変える集落。
その中で、少女は雨音を聞いていた。
結わえた髪は姉が「今日も元気に過ごせるように」と微笑んでくれたものだった。
曽祖母と共に過ごす時間は心地よい。それでも、彼女には鳥渡した冒険心があった。
曽祖母にも『ひみつなとっておき』――
少女は雨に身を隠して、集落の程近い洞へと訪れた。浅い息遣いが聞こえる。
洞の中で蹲り痛みに耐える包帯姿の『おおかみさん』
それが、仔羊メイメイにとっての秘密。
鋼鉄からやってきた『やさしいおおかみさん』
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R.O.Oのクエストの中で定期的にポップアップするモノがあるのはご存じだろうか。
伝承(レジェンダリア)からの定期的なクエストは『北部戦線』へと出陣することであった。
フォルデルマン二世の治政でネクスト内では強国であると知られる伝承に『北部』に位置することで経済基盤が脆弱である武の国、鋼鉄が攻め入ってくるのだ。
鋼鉄は現在、未曾有の大事件の最中に存在する。だが、だからといってその定期クエストがなくなるわけでもない。
――が、今回は訳が違ったようである。
「た、たすけて……ください」
小さな仔羊の少女は声を震わせてそう言った。訪れた冒険者達に『クエスト』を発行するのだろう。
「わたしは、メイメイです。
北(そと)から、こわいかおをしたひとたちが、せめてきていて……」
少女の姿を見て『初心者』イルー(p3x004460)は僅かに驚いたように首を傾いだ。幼い頃の自分が其処には立っている。
ネクストでのメイメイ――NPCとしてのデータのメイメイは幼い姿をして居るのか。
「え、と。何が有ったんですか?」
「北(そと)から、こわいかおをしたひとたちが、おおかみさんを、さがしてるんです」
おおかみさん?
メイメイ曰く、彼女は鋼鉄で『同僚殺し』と呼ばれ、脱走兵を洞の中で匿っているらしい。
狼の獣種。大怪我を負っていた彼にメイメイは家族には秘密にしながら甲斐甲斐しく世話をした。
何とか歩けるようになっては来たが、鋼鉄から脱走兵である狼の青年を探す兵士が派遣されてきたのだという。
「おにいさまは、そんなにわるいひとじゃないです」
メイメイは力強く言った。
アルトと名乗った青年には何らかの理由があったのだろう。
伝承で出会った仔羊の少女にも優しく接し、怪我が治ったら何処かで職を探して彼女に恩を返したいと語ったらしい。
「もし、おにいさまが『同僚殺し』をしたなら、おにいさまは、きっと罪を償うと、おもいます。
だから……だから、おそとの、怖い顔をした兵隊さんをやっつけてほしい、です。おねがい、します」
ぺこり、と頭を下げたメイメイは真剣そのものであった。
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青年は語る――
鋼鉄の『南部戦線』――伝承にとっての『北部戦線』は苛烈そのものだ。武こそ優れたモノであると認識する兵士は、女子供を痛め付けた。
手段は問わず、ただ戦線を前へ前へと拡大してゆく。
その様子に耐えられなくなったのだという。やめろ、と声を掛ければ直ぐさまに兵士は青年を殴りつけた。
反撃したわけではない。あくまで正当防衛の範囲だ。咄嗟に構えた岩が兵士の……同僚に当たったのは偶然でしか無かった。
その後、彼が死んだことを聞かされ、国を追われた。
皇帝が死去した事により、荒れに荒れた国内では事情聴取さえされず死罪だと嘲笑う私刑が横行していた。
故に、彼は逃げ出した。
足を引きずり、地を這って。
出会った羊の少女に命を救われた。
「……もしも、彼女が俺を庇ったら――」
震える声音で、青年は懇願した。
「俺は、怪我で動けない。彼女は俺を護る筈だ。
もし、そうなったら、俺は――……どうか、どうか、助けてくれないか」
兵士達を退ける事は『青年』と『少女』にとっての未来を生きる道なのだから。
マッドハッターは言っていた。
――喩え、ゲームだとしても。バグで暴走した『R.O.O』のNPC達は其れ其れに個性が存在して居る。
現実とは全く別個の生き物として、彼等は『ネクストの中で生きている』のだ、と。
- Eclogae完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年06月10日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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雨音が響く。その自然現象さえも確りと表現されているこの『世界』はゲームなんかと割り切ることが出来ないほどのリアリティを感じさせた。
ゲームの世界だと認識していたとしても『母国』の敵となる事に『魔剣遣い』アーゲンティエール(p3x007848)は少し気が引けると呟いた。北方の大地に恵みは少ない。民に潤いを齎す為の侵略、その『される側』の民に力を貸すことになるのだ。
「それが無辜の人間を切り裂く理不尽であるのなら力を貸すよ。
力こそが正義が国是ならば、味方もとい敵方の北の兵士に対して我々が見せつけるべきもまた力だ」
鋼鉄は現実と違わず『力こそが全』である。堂々とそう言い放った後、アーゲンティエールは「まあ現実では荒事は苦手なんだけどね、われ」とぽつりと呟いた。
「……ふむ、現実と比べると随分荒れているようですね。私刑の横行しているとは……現実と違うとはいえ、あまり気分の良いものではありませんね。
そのような輩は全て排除せねばなりません。きっと御主人様もそのように仰るはずです」
行動の根幹は主人の命によるもの。『黒狼の従者』リュティス(p3x007926)のプレイスタンスは現実とは変わらない。主人ならば手を貸す事だろう――故に、己も彼女たちに手を貸すのだと決めていた。
伝承の山岳地帯となるその場所は、『初心者』イルー(p3x004460)にとっては懐かしくも思えた。己の姿かたちが違えども、世界の再現度が高く『イルーの知る村』の風景を遠景で見ることも出来る。
「ふふ……こうした形で、帰れないはずの故郷に戻れるなんて。……と、あまり喜んでもいられない、状況でした、ね」
この世界での自分が依頼人であるという。メイメイ・ルーは幼い少女だ。姿は幼い頃の自分でも、少しだけ違う道を歩んでいる彼女。
現実世界のメイメイには『アルト』、いや、負傷兵と出会うことも無ければ兄姉に言えない大きな秘密を抱えたことも無かった。
メイメイに案内されて辿り着いた洞窟で、イルーは初めて彼と対面した。疵だらけの狼。手負いの獣と言った様子の青年は幾分か警戒した様子でイレギュラーズを見詰めている。
(アルト、さま……村でも見たことのない、人ですし……不思議、です)
その違和感を胸にしていたイルーの傍らで『うさぎははねる』アマト(p3x009185)は救急箱をメイメイへと手渡した。小さな羊の少女は首をこてりと傾いでアマトを見遣る。
「メイメイ様。こちらで、傷の手当てを。それから、おべんとうも、アルト様が食べられるようならどうぞ。
少しでも元気になるのに使ってもらえたらなって思うのです。おふたりが早く安心できるように、アマトは頑張るのです」
勇気づけるように優しく声を掛けるアマトにメイメイはこくりと頷く。不安げな表情は今だ硬く、笑顔を浮かべるには程遠い。
「できればゲームの中でも子供には笑顔でいてほしいものだが。難しいな、なんとも」
肩を竦める 『エーレン・キリエのアバター』霧江詠蓮(p3x009844)は頬を掻いた。この世界がゲームなのだというならば、もう少しだけでも笑顔で居て欲しい。
「召喚前はこう、亡命者とか処理させられる側だったんスけどねー……」
ぽつりと呟いた『開けてください』ミミサキ(p3x009818)ははっとしてサイバーつぼの中にその身を引っ込めた。ミミック式匍匐前進を駆使すればツボだろうが木箱だろうが彼女にとっては問題の無い『入れる場所』だ。
「ああ、いや、なんでも無いでス。自分の好きにやらせてもらうって言っただけっスよ」
「ええ。相手も好きにしてくるものね。
武こそ優れたモノである……鋼鉄は鋼鉄してるなーって思うけど、だからって女子供を痛め付けたりはダメダメでしょ?」
まったく、と唇を尖らせる 『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689) は不安げに此方を見詰めているメイメイとアルトを見遣る。
「今回は偶然が重なって悪い方に傾いたけど、そういった行いをする人達が大勢居る中で止めに入れるアルトさんは、メイメイさんの言う様に悪い人じゃないんだろうね」
それでも、彼の国からすれば大罪人であった。そんな彼を庇った心優しき子羊。彼女の選択が間違いかどうかを見極めるのは――己なのだと強く認識して。
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ざあざあと雨が降る。雨は何処で聞いてもやはり雨だった。『青の罪火』Siki(p3x000229)は洞窟の入り口で降りしきる雨を見つめていた。空も地も、この雨さえも誰かの創造物であるはずなのに。現実でもバーチャルでも雨は雨。何の変哲も無いものであるとさえ感じられた。
彼らの為に、鋼鉄の兵を待ち受ける己に「自分らしくない」と感じるのは、処刑人が国家の指名に叛く事への違和感からだ。
(……あぁ、雨音がうるさいな。自分だってらしくないと思ってるよ。
でも、彼らの『心』の力になりたいって思っちゃったんだもん)
その『心』に間違いが無いならば。己の行いが正しいと思えるのならば、武器を手に進む事ができる。
「必ず、助けてみせます、からね」
イルーは柔らかな声音でそう告げた。幼い頃に曾祖母に問うた事がある。『おおかみさん』と『こひつじ』は仲良くなれやしないのか、と。もしも曾祖母にもう一度会えるならば、伝えたい――こうして、仲良くなれるのだ、と。
(……この小さなわたしが、かなしい思いをしないで済むように)
イルーの言葉に、メイメイはちいさくこくりと頷いた。詠蓮はカタナをゆっくりと構える。洞窟の最奥で待っていて欲しいと告げれば、アルトが僅かに警戒したように身構える。
「義によって助太刀いたす、というやつだ。兵たちは近づけない、安心して待っていてくれ。
……メイメイだったか。こういう時は屈強な大人でも心細いものだ。知った顔が近くにいてくれることが、何より力になるだろう」
「はい。……あの、信じてみませんか」
助けに来てくれた、と。アルトにおずおずと告げるメイメイはアマトより受け取った救急箱とお弁当を差し出した。安心できる相手なのだと、告げる声音はどこか穏やかささえ感じさせる。
「……ああ」
その返答にほっとアマトは胸を撫で下ろした。自身の存在を隠蔽するミミサキは内容品隠蔽にて己の存在を出来る限り隠せるようにと息を潜めた。
「メイメイさん。アマトさんのことをよろしくね」
「はい……。みなさんも、どうか、ご無事で」
おずおずと、告げる彼女へとネイコは花咲くように微笑んだ。『美少女戦士』は何時だって、誰かの笑顔の為に戦うのだ。
――うん、二人の言葉は聞き届けた。だから、守るよ。二人の生きる未来を守る為に。
地を蹴った。デストロイア・チェーンソーを構え、敵影を探る。音や気配を頼りに、敵を探すリュティスは小さく頷いた。
洞窟へと近づいてくる気配がする。影だ。遁れて来たアルトを虱潰しに探しているのだろう。
(――来ます)
唇が、静かに動く。奇襲のチャンスをリュティスは逃さない。魔力を束ね――放つ。それは、奔流と化し、一陣の光となった。
「なッ――」
何処ぞより声が上がる。転がり飛び出してきた二つ分の敵影。ネイコは敢て自身へと注意を向けるように「誰!」と叫んだ。
放たれたのは災厄。派手なエフェクトは火花のように周囲に散って、星を輝かせる如く。そして、四人分、計6つの人影を確認し、アーゲンティエールは天より光芒の降る如く、陽を差す。先程まで重苦しく降り注いでいた雨はどこぞへと消え失せる。無風、そして、晴天となったならばデメリットは全て帳消しだ。
それは、どちらにとっても、だ。
ナーメルギアを手にしていたSikiは地に足をつけてから嘆息した。彼らの驚愕の声が、リアリティを感じさせる。
「はぁ、にしてもさ。NPC……ノンプレイヤーキャラクター。意志を持たないデータ。
なのに、生きているんだもんなぁ。考えて、悩んで、走って、誰かの為にと行動できる『心』があるってわかっちゃったから」
それらを只のデータだとは思いたくは無かった。少なくとも、メイメイはアルトの為に助けを呼んだ。アルトとてメイメイを守るためにこちらを疑っていた。北の兵士、と彼女が呼んだ彼らとて国と名誉の為にここまで追ってきたのだ。
誰の味方となるか選んだ。それに揺るぎは存在しない。Sikiは圧倒的な炎を放つ。
「ま、そういうわけで悪いね。ここは通さないよ――さっさとおかえり願おうか!」
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周囲の地理を知っていた事で敵兵の隠れる場所もある程度、辺りをつけることが出来た。それに安堵しながらイルーはウッドスタッフに魔力を乗せる。
アルトとメイメイの姿は彼らに見られては居ない。こちらの身を曝け出すことで意識を逸らせる事が出来たならば。あくまでも、イルーは『伝承』と呼ばれた国と『鋼鉄』の戦いで事を終わらせたかった。
(アルトさんの存在はここに居ないと、思ってくれれば、良いですが……)
僅かな不安を感じなかったわけではない。自身らという『壁』を抜けて奥へと走って行かれれば――ミミサキがいざとなればその姿を隠してくれるだろが、彼らに驚異が迫ることには違いない。
詠蓮は『彼ら』の狙いを引き付けるように叫んだ。ミミサキが設置した箱の影へと向けて『狙いが瀕死』であるかのように。
「おいアルト!! 目を閉じるな!! 帰れなくなるぞ!! 気を確かに持て!!」
「アルト」
男達がはっとしたように詠蓮を見た。其れこそが好機だ。カタナを手に、構える。
「――鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。策など弄して申し訳ないが、ここで力尽きてもらう」
速度・精妙・柔軟を重んじ、抜刀術とトリッキーな体術は敵を翻弄する――その極意は『我が身体は意の如く』
するりと滑り込み放った斬撃は北の兵士の鳩尾へと飛び込んだ。僅かに蹲った、姿勢を立て直さんとした男へ向けてミミサキが感じさせたのは『レアドロップの予感』である。ミミサキを斃せば良い。そうする事で得られるものがある。そう思わせることこそが作戦だ。サイバーつぼからぞろりと覗いた牙が兵士達へと襲い行く。
「何が目的かは敢て聞かないスけど、良いっスか?」
ここで斃せばレアなドロップが手に入るかもしれない。訴えかけるようなミミサキに心も揺れ動くか。
そちらに意識が向いているならそれはチャンスだ。宙を踊るようにSikiは強かな一撃を持って兵士達を食い止める。
NPC。ゲーム上のデータ。そうは言えども痛みを感じて、苦しむような声音を発する。彼らは、人だ。
そうとしか思えない。聞こえあくなった雨音さえも、傷の様に己の側に只、あった。
――心があるんだ。データであろうとも。R.O.Oという世界に人は生きてる。
守らなくては為らない。イルーは願うように少しずつ、少しずつ兵士を食い止める攻撃を放った。
誰かを傷つけることになれずとも、そうしなくては誰かを守れない事をイルーとアマトは痛いほどに知っていた。
イースターエッグに滾る魔力が震え始まる。今にも弾け割れそうに膨れ上がった力に「いいですよ」と囁いて。
約束したのだ。絶対に守る、と。
「ここにアルトがいるんだろ!」
叫んだ兵士にアマトは首を振った。「教えません」と。メイメイとアルトの事を守ると決めた。
マジカル★イースターエッグに口付けて、魔力が光り輝いた。二度、不意をついて兵士へと飛び込んだその光。次いで、前線で『レアドロップ』を予感させるミミサキを癒し元へと戻ってゆく。
イースターエッグはぱかりと割れて見せたがすぐに元通りとなった。ウサギの耳をぴこりと揺らすアマトの傍らで、同じく耳を揺らがせたアーゲンティエールが剣を構える。
「近づいたことを後悔させてあげましょう」
囁く声音は冷たく。リュティスは主の為に身に着けた戦闘の心得を持って敵を退ける。ふわりとスカートを揺らがせるリュティスが振り返る。詠蓮の一撃でバランスを崩した兵士の下へと叩き込んだのは鋭き拘束の術。矢を穿てば、それは易く兵士の身体を縛り付けた。
「おや、私達を無視していこうだなんてつれないさねぇ?
そんなに遊ぶのは嫌い? ま、嫌いでもなんでも、遊んでもらうけどね!」
アルトの許へは行かせやしない。Sikiはそう決めていた。己の許へと引き付ければ、仲間達が彼らを留めてくれるはずだ。
「メイメイ様たちのところまでは行かせません!」
R.O.Oでは己の身体を修復する手段も無い。それは、とても不思議な感覚なのだ。痛みが残り続ける。それでも、体を張って止められるなら――アマトは迷うことは無かった。
イースターエッグの魔力の光を真っ直ぐに見つめてからリュティスは「今です」と囁く。
チャンスが巡ってきたならば、『メインヒロイン』は何時だって必殺技を話すのだ。それが『ご安全に! プリティプリンセス』のお約束。
聖女が纏っていたという法衣をその身に纏ってからネイコは堂々とチェーンソーを音鳴らす。
周囲の状況は『ヨシ!』、指差し確認も万全に。
ならば、ヒロインが取るのは『必殺技』である。プリンセスストライクは目映くも愛らしいエフェクトを放つ。
「貴方の心に安全確認っ! アン・ゼーン、見てて! ――必殺、プリンセスストライク!」
指差し確認するように、びしりと差せば桃色のハートが炸裂してゆく。兵士が倒れたその背後から、飛び込む影。
「――我が名を冠する白銀を受けてみよ!」
魔剣を携え、魔鎧を纏う。 頑健にして精強なる白銀の騎士は 撓まず、倒れず。苛烈な戦場でこそ冴え輝いた。
一閃。それだけで、『北の兵士』は薙ぎ倒され続ける。
アーゲンティエールの声が響けば、その背後からするりと飛び出した詠蓮が「残念だったな」と静かな声音で囁いた。
「くそ」と呻く兵士達にリュティスはただ静かに囁いた。「安全確認を怠るからではありませんか」と。
その言葉に、にんまりと微笑んだのは『必殺技』を綺麗に決めたプリティプリンセスなのだった。
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「これで、諦めてくれると良いのですが。彼らの探す『アルト』は国境からは遠い場所へ、逃げてしまったのだと」
イルーは小さく呟いた。ここには居ないと追い払ってしまえば、それで全てが済むとは限らない。
幾度と無く繰り返される可能性はあるのだ。
「で、アルト氏はこの後どうするんスか?」
ミミサキの問いかけに、アルトは「どう、とは」と問いかけた。硬質なその響きには意図を問う気配が混じる。
「ああ、いや。最近は北部もきな臭い話が出てまス。
身を隠すにも傷を治すにも南下したほうが良いと思いまスね……で、ほとぼりが冷めたら戻ってくる感じでス。まあ、アルト氏の世話はイルー氏が引き継ぐでしょう」
「へ」
ぱちり、と瞬いたイルーにミミサキは「あ、はい。私もやります……」と肩を竦める。不安げなメイメイにイルーは「出来るだけ、します」と告げた後、ううんと悩んだ。
「誰か、信頼できる人を探して暫く面倒を見てもらっても良いかもしれないね」
Sikiの提案にイルーとメイメイの表情がどちらもぱあと明るくなった。『データ』に対してこうも考えるのは異質にも思えるが、それでも――彼らの『心』に応えていたい。降りしきる雨のなかでさえ、Sikiはそう感じていた。
「一先ず、移動先の検討も必要でしょう。保存の効く食料や飲み物の調達や用意を行っておきます。
怪我も、見せていただければ応急処置も出来るかと思いますが……いかがでしょう?」
早く元気になってほしいと告げるリュティスにアルトは「すまない」と呟いた。それは、彼女達を疑ってしまったという意味もあるのだろう。
「怪我、痛むなら教えてね」
ネイコの微笑みにアルトはメイメイの処置で安心できる程度には動けていると現状をおずおずと話し始める。
アーゲンティエールは自身の力で何とか楽にはできないかと提案した。その様な状況を放置するのも気分が悪い。気休め程度でも放って置くよりは幾分かマシなのだ。
「メイメイの勇気がアルトを助ける大きな力になった。大きくなってもその勇気を忘れずにな」
詠蓮の言葉にメイメイははっとしたように顔を上げてから花咲くように微笑んだ。その勇気が、誰かを救えた。其れはどれ程に幸福であっただろうか。
彼女の笑顔を見れたことにアマトは安堵した。メイメイの傍らに寄り添った。
メイメイと別れて彼がこの地を離れるようになれば、無事であろうかと少女にも不安も多くなるだろう。それでも、いつか帰ってくるという約束が出来るなら。其れも悪くは無い選択だと囁いて。
(アルト様が元気になるまで……きちんと償えるようになるまで。メイメイ様とアルト様に穏やかな日々がありますように)
彼が己の罪を償う日が来るのかは分からない。国内が落ち着かねば私刑が横行し彼の無事も保障されない。彼にとって、心の重荷が下ろせる日が来る事を願わずにはいられなかった。
――もう少しだけ。この村の景色を。
遠く離れてしまった故郷を思い、イルーはその眼に焼き付けるように見やった。美しい山並みに、冷ややかな空気の混ざった雨の気配。
「これからのアルトさまと、メイメイの未来が明るいものでありますように」
おおかみさんと、こひつじの物語が何時までも続いていく事を、願って。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
おおかみさんは、こひつじさんと幸せに暮らすために南へと旅立つのだそうです。
彼女を守れるようになるまで、少しだけのさよならをして。
GMコメント
夏です。
自分のまた別の姿、別の未来。ネクストにも存在する理不尽の話。
●成功条件
『北の兵士』の撃破
●フィールド情報
伝承と鋼鉄の境目。伝承側の山岳地帯にある洞近くです。
『北の兵士』はアルトを探してうろつき回っています。彼を見つければ直ぐさまに彼を射殺することでしょう。
周辺は木々が茂り、身を隠すのには最適です。雨が降っており、音も僅かに聞こえづらく感じます。
●北の兵士 6名
メイメイがそう呼んでいる鋼鉄の兵士です。戦闘能力は其れなりに高く、流石は武力の国、鋼鉄です。
鉄騎種で構成されており、統率がとれているようです。アルトの姿を視認すると直ぐに射殺を試みます。
●メイメイ&アルト
10にも満たぬ年齢の仔羊の少女メイメイ(メイメイ・ルー(p3p004460)さんのR.O.ONPCでの姿)と彼女が匿う鋼鉄の兵士、狼の獣種のアルトです。
アルトは洞の中で息を潜めています。大怪我をしており動き回ることは出来ません。かろうじて歩けるようになりました。
メイメイはアルトに危険が迫れば彼を庇います。自分の命を賭してでも優しいお兄さんを護るという勇気を持っています。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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