シナリオ詳細
<Liar Break>ひと刺しの執念
オープニング
●蠍の針は毒を湛えて
幻想蜂起の鎮圧からの『ノーブル・レバレッジ』作戦はイレギュラーズの機転が奏功し、大成功といえる成果を収めた。
結果として国王はサーカスへの公演許可を取り消し、彼らは王都からの脱走を図る。裏を返せば、彼らが疑いようもなく『魔種』やそれに連なる者であることを証明するきっかけとなったのだが……この一大作戦の裏で、音もなく動く者達が存在することを、しかしローレットは見逃さなかった。
「まあ、『蠍』の残党が幻想蜂起のときに騒ぎを起こしたのは周知の事実だし、こうもなるだろうさ。タイミングが良かったかどうか、は大いに疑問だけどね。ま、やるってんなら放置は出来ない。彼らの暗躍も、出来れば押さえておきたい」
『博愛声義』垂水 公直(p3n000021)は慌ただしく駆け回る傍らでまとめた情報をイレギュラーズに渡し、手短に情報を伝える姿勢に入る。ただでさえサーカス団員達の動向を追う必要がある状況で、横槍を入れられる……となれば流石に心中穏やかでないのは明らかだろう。
「『蠍』の残党がある程度固まって、警戒網を敷いていた市民達に襲撃をかけている。ゲリラ的に混乱を広げて、検問のために集めた物資を掠め取ってなんとか息を吹き返そうってハラなんだろうね。意地汚いにも程がある。黒光りする虫どもよりお行儀が悪いね」
余程癪に障るのだろう、彼の言葉に混じった棘はそこはかとなく多く、鋭い。状況的には単なる火事場泥棒なのだが、サーカスの包囲網を緩める行為となれば話は格段に厄介さを増す。彼らの行動は、大いに邪魔なのだ。
「さいわい、現状で襲撃が起きた地点にサーカス団員の出没情報はない。けど、蠍の連中はかなり活発に動き回っている。数は揃えてるし役割分担もしっかりしてる。指揮統制が上手く出来る仮の頭でも用意してきた……のかもしれないな。そういう意味でも、油断はあまりしないでほしい。個々の実力はともかく、森の中で戦うとなれば狩り出すだけで一苦労。不意打ちで群がられたら洒落にならないからね」
そう言うと、公直は残党達の資料を手渡す。実力的にそう強力とはいい難いが、推定での頭数はバカにならない。十分な対策が、必要な局面でもあった。
- <Liar Break>ひと刺しの執念完了
- GM名三白累
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
貴族の心を動かし、王の心を動かし、もって大衆の心に働きかけたイレギュラーズの活躍は、今彼らが身を置いている『検問』の前に顕著な形で実を結んでいた。
サーカスを追い詰める為に足止めに回り、我こそはと防衛を請け負った人々の士気は高く。それに見合う物資が十分に積み上げられた状況は、『砂蠍』の残党達からすればこれ以上無いほどの好機でもあった。
「『幻想』サマサマ、『サーカス』サマサマってトコだぜ。黙っててもあちらさんから貢物をかき集めてくれるんだから世話はねえ」
検問設備を遠巻きに眺めた『砂蠍』残党の1人は、いかにも素人レベルの警戒を敷いた人々を見てほくそ笑む。まるで盗んでくれと言わんばかり。懸念点があるとすれば、素人考えに作ったにしては堅牢な守りが備えられている……ように見える、という程度。
少なくとも、ローレットが手出ししてきたことは承知の上。それでも、敵の動向を悠長に見守るのは性に合わない。残党達の一部は、今ここを機と見て一斉に動き出した。
「やあ、判りやすい襲撃お疲れ様だね?」
『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)の挑発するような声音は、弓をつがえ、ナイフを構えて駆け出した残党達の耳にするりと忍び込む。
あからさまな挑発に表情を固くする者もいれば、聞こえぬとばかりに突っ込んでくる者もいる。怒りを顕にした一部の連中は、真っ先に鼎を地に叩き伏せるべく動き出す。だが、得物を持ち上げて踏み込んだ残党の1人は、遠間から放たれた術式に頭部を撃ち抜かれ、蛙のような苦鳴を漏らす。もっとも、それで倒れるほど殊勝な相手ではないらしいが。
「意外に頑丈なのね。数といい、害虫みたいだわ」
『超病弱少女』キュウビ・M・トモエ(p3p001434)は術式を撃ち込んだ相手を見て、それから周囲に視線を向ける。
事前に検問設備の守りを固め、そのうえで臨んだ迎撃戦。先んじて仲間達の索敵で近付いている戦力は把握しているが、それが全てというわけでもない。『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)のクロスボウから放たれた一射はトモエの狙った相手をさらに貫き、今度こそ動きを止めたようだった。
「やはり、集まってきてるのはこれで全員じゃないな。用心深いことだ」
手早く1人を仕留められたのは僥倖であった。遠間からの撃ち合いを想定してか、残党の接近が思いの外鈍かったのだ。加えて言えば、挑発目的でわずかに前進した鼎は、直後に残党連中の射撃による集中砲火で浅くない傷を負い、後退を余儀なくされている。
地力で言えば明らかにイレギュラーズに分がある。だが、如何に能力が優れていようと、狙いを集中されれれば回避にも限界は来ようというもの。迎撃にあたった3人で倍以上の相手を制圧するのは、簡単ではないのだ。
「襲撃が来るのが早すぎますわね……すぐに突破されるとは思えませんけれど、迷惑なのは変わらないですわ」
「物資を運ぶのも簡単じゃないんだ、もうちょっと攻めてくるまで時間が欲しかったんだけどな」
残党の襲撃を受けた直後の地下では、今まさに 『トラップ令嬢』ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)と『小さい体に大きな勇気を』ホリ・マッセ(p3p005174)が資材と検問要員を地下へと隠すべく奮闘しているところだった。
両者の持つギフトは、検問用の資材を相手に奪わせまいとするイレギュラーズ側にとってはこの上なく有利に働くものだった。地下に資材を隠し、地上に囮を用意。掘り進めた排土はそのまま土嚢として陣地防御に活用する。『時間が許すならば』、多大な成果を挙げていたことは想像に難くない。否、現在進行系で十分な成果を挙げている。
問題があるとすれば、接敵が想定より早かったために、彼らが検問要員の助けを借りて資材を完全に運び終えるまでわずかに合流が遅れることぐらい。
その『わずか』をカバーするのに、ケイティが構築した防衛陣地が多大な貢献をしていた事実も、痛し痒しの話ではあるのだが。
「ひひひ……この大変な時にこそこそ隠れてお盛んなことです。どれだけ罠が好きなんですかね」
『こそどろ』エマ(p3p000257)は迎撃戦が始まるより早くに仲間と罠の解除に動いたことで、撹乱に回った『砂蠍』残党とそのまま交戦に入ることを余儀なくされていた。
盗賊としての手練手管があればこそ、罠を解除しつつ追うことも苦ではないが……それにしても罠が多い。火事場泥棒を挑む厄介さに罠をくまなく仕掛ける勤勉さを併せ持つとは、冗談がすぎる。
「罠に気を取られていたら、一方的に距離を取られて見えない場所から狙い撃ちもあり得たのです。お2人が罠に対処して頂けるだけで、非常に助かってますよ」
『蒼壁』ロズウェル・ストライド(p3p004564)はエマと『凛花』アクア・サンシャイン(p3p000041)と並走しつつ、聴力を頼りに残党を追い立てる。接近戦しか出来ない彼が聴力だけで森の中を探索していれば、真っ先に狙われたであろうことは自明の理である。
足を止めずに追撃に向かえるというだけで、どれだけ有利に立てていることか。
「深追いすると却って危ないけど、陣地側の人数を考えればそうも言ってられないわよね……頭数が少ない分、慎重に行きましょう」
アクアは周囲の植物の状態や、それらとの意思疎通を頼りに罠を探り、解除にあたっていた。純粋に罠のみに対処するエマとはアプローチが異なるが、それでもかなりの精度で解除を進められている。
ロズウェルの素直な賞賛に、エマはわずかにたじろいだが……ややあって、照れくさそうに頬を掻きながら、それでも油断なく周囲に視線を走らせた。
襲撃に回った残党連中よりは少ないが、それでも頭数では追撃組を上回る。逃げに徹しているのを見るに、彼ら3名を検問所から引き剥がすつもりなのだろう。……罠による機動力の遅れを取り戻すまでの時間が、この追走劇の制限時間。
合流するまでの時間が遅いか、早いか。翻って、それは検問所での攻防がどこまで激化するか、も絡んでくる。
兎にも角にも、イレギュラーズを縛るのは罠と時間だ。
彼らは火事場泥棒に躓いている暇はない。躓くような者達ではない。この戦いは、確実性と速度を問う争いなのだ。
●
エイヴァンは次々と突き立てられる矢と術式を躱しつつ、戦況を冷静に観察する。襲撃に来た残党達の数は、ざっと見た限りで8人ほど。ホリとケイティが合流すればそこまで苦戦せずに追い返せそうではある。
問題があるとすれば、近接戦を得意とするメンバーが少なくないこちらに対し、消耗狙いで射撃戦を仕掛けてくる残党が多いことか。
「ちょっと面食らったけど、そこまで強い連中でもない……かな。本当に厄介なら、さっきので倒されてた」
鼎は治療を終えた体に触れ、痺れや出血がないことを検める。本当の手練なら、麻痺毒や出血毒を仕込んでいても可笑しくはなかった。実際のところ少し焦りはしたものの、数の差に頼った連中でしかないことは救いだ。……尤も、彼女は追撃に回ろうとした鼻先を狙い撃たれ、守勢に加わらざるを得なかったことが口惜しい話なのだが。
「罠を好き放題仕掛けられてるのは癪だけど、近付いてこないってことは……流石にこの辺まで罠だらけにできなかった、ってことよね?」
トモエは相手の攻勢に術式で応射しながら、確認するように問う。彼らにとって、イレギュラーズが想定外だったなんてことはあるまい。
一撃離脱の要領で奪い取りたいなら、戦力をまとめて投入した方が早いはずだ。
防衛に回ったイレギュラーズを少数ずつ釣り出して、撹乱させた上で手薄になった検問所を、という狙いなら理解できなくはないが……。
「……そうか、あちらも手を打っていたということか」
エイヴァンは唐突に、察したように空を見上げた。一拍遅れて響いた羽音を聞けば、疑いようもない。……全てではないにせよ、こちらの策を使い魔や式神の類で覗き見られていたのだ。
「なるほどなあ、気付かなかったらアホ面かいてたのはお客さんじゃなくて自分達になってたってことか」
穴の中から顔を出したホリは、愛らしい顔を不快げに歪めて木々の向こうを睨み見た。偽物とのすり替えも、地下の仕掛けも見抜かれている可能性がある、というのは良い気分ではない。
「問題ありませんわ! 仕掛けが分かっていてかわせる罠は二流三流の仕事ですもの! 『分かっていても避けられない』くらいで丁度いいのですわ!」
高笑いを伴って地中から現れたケイティには妙案あり、というか……恐らく罠を仕掛けたのだろうが、穴を掘り続けた副作用か、先程よりテンションが高いように思われた。
「多分、あっちも私との撃ち合いで何人か落ちてると思うの。穴熊決め込んでもジリ貧なことは気付いてるんじゃないかしら?」
トモエの言葉には確信の響きがあった。体力を犠牲に練り上げた魔力の弾丸は、道半ばながらローレットの手練に劣らぬ威力を持っている。
『砂蠍』残党との撃ち合いで、威力だけなら自分が優位であることに、彼女は気付いていたのだ。
「そういうことなら、少しくらい痛い思いは我慢しなくちゃ、かな? 罠、期待してるよ」
鼎はケイティに笑みを向け、手の中のナイフを握り直す。引きこもっていても始まらないのはこちらも同じ。ひとつ大きく息を吐くと、迎撃組は一斉に検問用陣地から飛び出した。
逃げ続ける残党の足首を、アクアの放った術式が迷いなく撃ち抜き、その動きを鈍らせる。
長々と繰り広げた追走劇は、罠の減少に伴って次第に追撃者側に有利に傾きつつあった。ブービートラップ一つとってもかなりの数を用意してきた残党達の忍耐力も大したものだが、相手を陥れることにかけては、どうやらエマに一日の長があったらしい。
「どこに引っかかっても邪魔になるのは面倒ですけど、見えてしまえば簡単に外せますからねえ。警戒しすぎて、やりすぎちゃった感じですかね?」
エマは鶚脚による加速で残党との距離を詰めると、つまらなそうな声でその背に、敗因を投げかける。
足を痛めた男は、その時初めて追撃者達に向き直る。覚悟を決めた表情と、思わぬ形で自分達の策の欠点を指摘されたことへの苛立ちが透けて見える。……ああ、この人は盗賊向きではないなとエマは思った。
口づけせんばかりに近付き、放たれた影穿はいとも容易く男を貫いた。先んじて振り下ろされたナイフが己の肩を少し抉るが、知ったことではない。
「その覚悟は、別の機会に取っておくべきでしたね。盗賊である必要もなかったでしょうに」
ロズウェルも同意見だったらしく、鉄槌を振り下ろす時に見せた目には、僅かな哀れみすら透けて見えた。
「……そろそろ、追いかけっこも終わりかしら」
アクアはわずかに追跡の速度を緩め、眼前の拓けた空間に向けて術式を放った。
ほぼ、同時に。
自分へ向けて放たれた術式と、真っ直ぐむかってくる相手とを視界に収めて、無意識に振り上げた足を起点にして発した火花が、両者の表情を照らし出した。
●
残党達は、イレギュラーズが面倒な仕掛けを目論んでいることを察していた。正面からの攻勢では、やや不利であることも、薄々感じ取っていた。
だからこそ、色々と策を練った……はず、であった。
鼎の放った式符が鴉へと変じ、相手の術式をかいくぐってその鼻先に命中する。戸惑い気味に蹈鞴を踏んだ相手を逃すまいと、エイヴァンのクロスボウが次々とその腹部に突き刺さる。いまだ息はあるが、まともな反撃はかなうまい。ふらついた足は何かに絡め取られ、その場から動くことを許さない。
仲間の醜態に顔をしかめ、前進した長剣使いは、その点で少しだけ賢かった。相手の仕掛けた落とし穴を見切って、跳躍とともに小柄なホリに斬りかかったのだから。
だが、それも悪手だ。
「そこ、通行止めだぜ」
落下地点に突き出されたホリの一撃を咄嗟に見をひねってかわした長剣使いは、落とし穴の一歩先に、踝程度の深さの穴があることに気付けなかった。そして、その穴は始末の悪いことに、トリモチ仕掛けである。
「おーっほっほっほ、穴の先に穴がないなどと誰が申し上げたのです? 注意力が足りなくてよ!」
ケイティの高笑いとともに、不可視の糸が長剣使いを絡め取る。彼とて『砂蠍』残党では多少鳴らしたはずの男だが、罠の上に束縛術式を重ねられ、罠の仕掛け人に……よもや円匙で滅多打ちにされたとなれば立つ瀬もない。
「成果に逸って失敗してるってのは、自分でもわかるぜ」
「本人達は上手くやってたつもりなのよ、言わないであげましょう」
ホリの呆れたような言葉に、トモエは憐れむように止めに入った。
そんな彼女も、全く手を止めずに次々と残党を撃ち抜いているのだから世話はない。
残党達のリーダーは、どうやらエマ達追跡者の側に紛れていたようだが……本気で追撃者達を迎え撃ち、多少なりとも奮戦した彼がこの惨状をみてどんな顔をするのやら。
「ひひひっ、何事もままならないものですねえ?」
森の奥で、倒れた残党達を見下ろしてエマが嘯く。
想定外はどこにでも潜んでいる、とは言うけれど。
よもや、こんな意味での想定外だったとは、イレギュラーズも思ってはいなかったことだろう。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
残党相手なので、残念でもなく当然の結果……でひないですよ?!
実は色々想定とは違う流れに走り始めて、割と皆さんの意を汲み切れなかった点があったのは否定しませんけど、いざ殴り合ったらこんなあっさり、とかすごく驚いてますからね?
ともあれなんというか、持ってけ大成功!
MVPは罠に全振りしたあなたしかいないよな!
GMコメント
一大決戦に横槍を突っ込んでくる節操がない蠍は潰してポイしましょう。以下詳細です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●達成条件
・『蠍残党』の制圧
・検問設備、物資の被害を3割以下に抑える
●『砂蠍』残党×10~
幻想蜂起でも登場した『砂蠍』の残党(拙作での既出集団とは別物)。
総じて隠密戦やゲリラ戦術に長け、森の中に罠を仕込んでいる可能性が大。半数が撹乱戦闘、半数が検問への襲撃をもくろんでいると想定される。
数は『最低限予測される人数』。倍まではいかずとも、相当数の誤差はあるだろう。
罠は足止めや行動遅延目的であり、引っかかっても追跡成功率とか残党との遭遇率を下げるだけで致命的なダメージを生むものではない。
●検問設備
義勇市民による護衛つきの、対『サーカス』検問設備。補給無しで稼働できるように物資はそこそこあったりする。残党の狙いはそれである。
設備自体は脆いため、『物資の消耗』を可能な限り抑えることが重要となるだろう。襲撃してくる方向等は不明だが、探知系能力で容易に割り出せるものと見て問題ない。
●戦場
幻想国境にほど近い森林地帯。
検問設備周辺は道がある程度整っていますが、戦闘の多くは森の中での追跡・遭遇・迎撃戦となります。
Tweet