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シナリオ詳細

<ナグルファルの兆し>追うもの、追われるもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●逃走劇
 走る、走る、走る。
 森の中を、一人の少年と、一人の男が、息を切らして走っている。ずん、ずん、と、その後を追うように、巨大な足音が響いて、彼らが巨大な何かに追われているのを確認できた。
「森に逃げ込んだと思ったけれど――」
 少年――ウィルフレッド・フォン・ジーグが声をあげた。ウィルフレッド。ミーミルンド派閥に属する貴族である彼は、派閥からの離脱を目論んでいた。怪し気な動きを見せるミーミルンドの内情を探るため、内部の調査を始めたところであったはずだが……。
「逆だ! 追い込まれたんだ……!」
「ウィルフレッド様! 此方です!」
 男が声をあげ、「失礼します!」と謝ると、ウィルフレッドの手を引いて、鬱蒼とお繁木々の中へと突入した。身体を叩く、枝と草。顔をしかめながら、ウィルフレッドは言う。
「すまないニコライ、あなたを巻き込んでしまった……」
「何をおっしゃいます! 久方ぶりに騎士としての役割が果たせると言うものです! 冥利に尽きるとはまさにこのこと!」
 久方ぶりに握った剣を振るい、ニコライは木々を切り分け、藪を突破する。彼らのはるか後方で、木々に迫らんばかりの、巨大な無数の巨人たちが、あてどもなく走り回っている。ウィルフレッド達を探しているのだろうことは、明白だ。
「あの女……ベルナール・ミーミルンドと共にいたあの女! 巨人を操るなんて、まるで伝説の……」
 ずん、と大地が揺れた、巨人が此方に虚ろな目を向ける。見つかったか? いや、藪の中に居れば、すぐには見つからないはずだ。ウィルフレッドは、意を決したように頷いた。
「ニコライ、あなたは僕を置いて先に逃げろ」
「ですが……!」
「奴らの狙いは、ぼくだ。あなたなら、見逃される可能性が高い……そんな顔をしないでくれ、もしかしたら、ぼくはあなたを囮にしようとしているのかもしれないんだよ?」
「分かりやすい嘘です。ウィルフレッド様がそのような事をなさるお人であれば、とっくの昔に自分などは死に絶えております!」
「なら、言う事を聞いてほしい。此処に、ぼくが知りえる情報をメモしたノートがある。これを……」
 そう言うウィルフレッドの脳裏に浮かんだのは、ローレットのイレギュラーズ、志屍 瑠璃(p3p000416)の姿であった。
「志屍さん。彼女なら、伝わるはずだ。これを渡すんだ」
「ウィルフレッド様は――」
「もちろん、死ぬ気はない。しばらく隠れるよ。幸い、この森は広いし、この時期なら果実があるから飢え死ぬことはないからね……いいかい、重要なのは、もうぼくの命なんかじゃない。ミーミルンドのやることに、対抗できる人たち……ローレットに対応を任せることだ。さぁ、行くんだ、ニコライ。ぼくの騎士、あなたの無事を祈っているよ……」
 ウィルフレッドは、ニコライの背を押した。ニコライにとっては弱かったが、ウィルフレッドにとっては精いっぱいの後押しだった。
「いくんだ! たのんだよ、ニコライ!」
 ウィルフレッドの声を聴いて、ニコライは駆けだした。藪を切り裂き、走り抜ける――すぐに巨人が、音に気付いて走り出した。
「今は逃げよう……だが、我が使命、命に代えても……!」

●救助へ
「あなた……たしかカールさん?」
 ローレットの出張所である酒場に飛び込んできたニコライ。その姿を見つけたのは、たまたまそこで食事をとっていた瑠璃だった。
 カール、と瑠璃は言った。そう、たしか彼は、カール・ラメンターと名乗る商人だったはずだ。各地の珍味を良く仕入れてくれていて、なんどか取引をした顔なじみだったはずだが……。
「志屍殿か……!」
 カール、いや、ニコライは、あちこちに傷を負い、今にも倒れそうな様子であった。その様子に驚愕し、手を貸した瑠璃の手を握り、ニコライは言葉をつづけた。
「自分は、本当はカールではありません。ウィルフレッド様に仕える騎士、ニコライと申します……意味はお分かりですね?」
 その言葉の真意を、瑠璃は即座に理解した。
「そう言う事……でも、一体何があったのですか? この傷、ただ事では……」
「ウィルフレッド様は、今、ミーミルンド配下である巨人たちに追われ、ここより北方の森に隠れています……ウィルフレッド様は、自分にミーミルンド領内で調査した事の資料を託し……」
 そう言って、一冊のノートを瑠璃へと手渡す。瑠璃は受け取って、頷いた。
「ウィルフレッドさん……彼はまだ、生きているんですね?」
「間違いありません……ですが、このままでは……」
 ごふ、とニコライはせき込む。わずかに血が漏れ出た。酷く傷を負っているらしく、このまま放置していては危険だ。
「すみません! 誰か医者を! お願いします!」
 瑠璃の言葉に、店員たちが慌てて外へと飛び出していく。瑠璃はニコライをゆっくりと横たえらせる。ニコライがせき込みながら、言葉をつづけた。
「お、お願いします……ウィルフレッド様を……一刻も、速く……」
「しゃべらないで。医者を呼んでもらいますから、あなたは療養に専念してください。……ウィルフレッドさんの事は任せてください。今動けるメンバーを探して、救助に向かわせますから」
 瑠璃の言葉に、ニコライは微笑むと、意識を失った。
 周囲では、何事かと慌てる店員や、ローレット所属のイレギュラーズ達があれこれと声をあげている。
「聞いた通りです。これから要救助者の救出に向かいます! すぐに動ける人は、お手伝いをお願いします!」
 瑠璃のあげた声に、イレギュラーズ達は手をあげ、参加を宣言した――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 巨人の森に取り残された、ウィルフレッド。
 彼の救助に向かってください。

●成功条件
 ウィルフレッドを救出し、森から脱出する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 ミーミルンド派閥の内部事情を探っていた、志屍 瑠璃(p3p000416)さんの関係者であるウィルフレッド・フォン・ジーグ。その動きがバレたのか、彼は巨人をけしかけられます。
 お供のニコライ・シエルトとともに逃走した彼らは森へと追い込まれてしまいました。主人を助けるため、別行動をとったニコライは、ローレットにたどり着き、イレギュラーズに、ウィルフレッドの救出を依頼します。
 皆さんは、すぐにこの森へと赴き、巨人の徘徊する森でウィルフレッドを救出、脱出してください。
 作戦開始時刻は夕刻。太陽は出ており、明かりは必要ではありませんが、森である故に少々足元があれている可能性はあります。

●エネミーデータ
 追手の巨人 ×???
 ウィルフレッドを追って森を徘徊する巨人です。総数は不明。全滅させている余裕はないと思われます。
 至近距離~中距離レンジの物理攻撃を得意としており、近距離レンジでは、巨体を生かして複数人を巻き込む攻撃なども行ってくるでしょう。
 HP自体はさほど高くはありませんが、総数は多いようです。連戦を挑むと、こちらが疲弊する可能性が高いです。

●味方NPC
 ウィルフレッド・フォン・ジーグ
 瑠璃さんの関係者で、現在は広大な森の中に潜伏しています。疲弊しており、このままでは行き倒れになる可能性もあります。
 戦闘能力はありません。対人剣法くらいなら習っていますが、巨人にはとてもではないですが通じないでしょう。
 そのため、素早く発見し、守ってあげる必要があります。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <ナグルファルの兆し>追うもの、追われるもの完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
『―――』(p3p009789)
―――
トゥーラ(p3p009827)

リプレイ

●脱出不可能の檻
 はぁ、はぁ、と荒い息が、夕闇の森に響いた。
 だらりと垂れ下がる右腕を左手で抑え、よろめきながらも森を歩く少年の名を、ウィルフレッド・フォン・ジーグと言った。
「ぐっ……」
 右腕に走る激痛に、うめき声をあげる。先ほど、己のミスで巨人に発見されてしまい、手傷を負った。かろうじて逃げ出したが、右腕は折れているかもしれず、不意に襲い来る激痛が、ウィルフレッドの額に脂汗を、目じりに涙をにじませている。
「くそっ……」
 悪態をつきながら、たまらず木の影に座り込んだ。派手な出血こそはしてないが、身体にダメージを負っているだろう。このまま座り込んで、座して死を待つことすら、誘惑に感じるほどの苦境。
「……ニコライは、ローレットにたどり着いたいかな……」
 ウィルフレッドは呟く。自身の調査した情報を託し、ここから脱出させた己の従者。信頼できると報告のあったイレギュラーズ、『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)へと、渡すべきものは渡されたはずだ。
「……なら、僕の役目もここまでなのかもしれない……潔く敵に立ち向かって討ち死にするか……」
 ふ、とウィルフレッドは笑った。勇敢な貴族としてなら、そうするべきなのかもしれない。
 ……でも。幼き少年貴族には、まだまだやりたいことと、やるべきことが有った。
「嫌だな……まだ、死にたくはないなぁ……」
 現況に立ち向かうための希望を抱きながら。ウィルフレッドはしばし体を休めている。

 ――そんな巨人の狩場と化した森の入り口に、瑠璃をはじめとするローレット・イレギュラーズたちは集結していた。
「急な仕事に集まってくれてありがとうございます。目的はもちろん、ウィルフレッド少年の救出です」
 瑠璃の言葉に、頷いたのは『子供達のお姉ちゃん』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)だ。
「状況が状況だからね。必ず助けるよ」
 ただの貴族同士の潰しあいなら放っておくつもりではあったが、どうやらそう言う状況ではない。命がけで、昨今の巨人騒動に関する何らかの情報を持ってきてくれた功労者だ。助けてやりたいのは事実だ。
 ふとそんな中、森より咆哮が響いた。おおお、と吠えるそれは、巨大な人の声に聞こえる。森の中、生い茂る木々の合間から身の丈数メートルと言う巨人の頭が見える。それらは複数、この森の中を徘徊しているに違いなかった。
「一体何だってのよ! あの巨人は……! あんなのを操って好き放題やってる奴がいるって……!」
「フン……戦い甲斐のある相手だろうが、今回は奴らのせん滅が目的ではないか」
 ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)が、鋭利な瞳を巨人へと向けながら、言った。
「此度は『ヤツ』の情報を得られるような仕事ではないが……しかし、良いだろう。巨人の相手なら任せろ」
「つまり、陽動を買ってくれるってわけだね、狼の旦那」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)が言った。
「ここに来るまでの移動中にも話していたけれど、巨人を釣りだす陽動班と、救出に専念する班に分かれるとしよう。カーソンの方、使い魔を借りられるかい?」
「任せて。アタシは救出の方に回るから、見つかったらファミリアーで合図を送るよ」
「助かるよ。さて、陽動にあと一人欲しい所だねぇ。プリマ、キミなんか適任じゃないかな?」
 武器商人がそう言うのへ、プリマ、と呼ばれた『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)はくすりと笑って頷いた。
「ええ、ええ、構わないわ。目立つのは得意よ? だってプリマだもの。今宵の舞台は少しばかり歪な足場だけれど、それでこそ私の実力を披露できると思わない?」
「ヒヒヒ、頼りにしているよ。さて、こう言う事さ。救出班の方は、志屍の方が指揮をとると良い。我(アタシ)たちが先に行こう、巨人の動きが見えたら出発しておくれ」
「分かりました。……お気をつけて」
 瑠璃が言うのへ、武器商人が頷いた。かくして、武器商人、ロック、ヴィリスの三人が、一足先の森の奥へとはいっていく。
『――――』
 『―――』『―――』(p3p009789)が声をあげた。伝わるのは、必ずウィルフレッドを助け出すという決意の意思だ。
「そうだな。危険を顧みず貴重な情報をもたらそうとしてくれた人だ。ここで命を散らしてしまうのはしのびない」
 トゥーラ(p3p009827)が言う。
「敵は狩りに関しては素人だ。付け入る隙は必ずある……陽動が成功したら、動こう。時間との勝負だ。長引けば、陽動班にも、ウィルフレッドにも、負担がかかる」
「武器商人さんはもちろん、皆そう簡単に倒れるような人じゃないけど、それはそれとして負担はかかるからな」
 『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が言う――同時に、激しい攻撃の応酬の音色が響き、戦闘が始まったのをすぐに理解させた。
「ミルヴィさん!?」
「うん、戦闘に入った!」
 世界の言葉に、使いまで陽動班の動きを知る事の出来るミルヴィが頷く。
『――――』
 はじめよう、と『―――』は伝えた。仲間達は頷く。
「お願いします、皆さんの力を貸してください……行きましょう!」
 瑠璃が声をあげる。それを合図に、残る仲間達も、森の中へと突入した。

●追うもの、追われるもの、救うもの
「さぁて、狼の旦那、プリマ。派手に踊っておくれ。我(アタシ)が盾になろうじゃないか」
 森のただなかで、武器商人はいつもの調子を崩さず、巨人の前へと立ちはだかる。巨人はさほどの知能を持ち合わせていないのか、或いは目の前の者を殺せとだけ命じられているのか。いずれにせよ探すべきウィルフレッドよりも、目の前の武器商人たちを優先し、その腕を振り上げた。
 ぶん、と風切り音が響いて、武器商人の頭上から、その拳が降り下ろされる。どん、と言う音共に、周囲に衝撃走った。抉れる大地。しかしてその中心に、武器商人は平然と立っていた。何か奇妙な力が、その物理的な衝撃を完全に殺していた。
「ヒヒヒ、大した威力だねぇ。当たれば恐ろしい……当たればね」
 武器商人が口元を三日月のごとく釣り上げた。その得体のしれない迫力に、巨人が思わずたじろぐ。その隙を縫ってロックが飛び掛かる。
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!」
 低く、鋭い唸り声! 膨れ上がるかのように躍動する筋肉によって跳躍したロックは巨人の顔面へ。振るわれる狂骨の槍が、巨人の片目を突き刺し、潰した!
 巨人が激痛に吠える。両手が目を押さえて隙を晒したそれをついて、ヴィリスが跳躍、巨人の首元へと接近し、
「それじゃあ、第一幕から始めましょう?」
 その足を鋭く振るった。刃が煌く。刹那、ヴィリスは巨人の腕を蹴って跳躍。間髪入れず、先ほどまでヴィリスがいた空間を、巨人の首から迸る鮮血が走った。巨人が絶命し、血に倒れ伏す。死体はすぐにずぶずぶと腐って、溶けて消えていった。
「他愛なし」
「でも、これで終わりじゃないのよね」
 ロックの言葉に、ヴィリスが言った。
「ああ、そうさ。まだまだこれからだねぇ」
 武器商人が言う――同時に、仲間が潰されたことに気づいた巨人たちが、続々とこちらへとやってくるのが、武器商人の俯瞰的な視線から確認できた。
「随分と華麗に踊ったようだねぇ、二人とも。観客が皆喜んで駆け寄って来るよ」
「ふん。くだらん比喩だ」
「あら、うるおいは大切よ? 会話にも、戦いにもね」
 ヴィリスの言葉に、ロックが鼻を鳴らす。
「さておき、しっかりとひきつけてあげないとね? せっかくの舞台ですもの、お客さんを喜ばせてあげないと」
「いい意気だ。狼の旦那も動けるかい?」
「誰に言っている?」
「ヒヒヒ、違いないねぇ。じゃあ、行こうかねぇ、二人とも」
 三人はゆっくりと、再び構える。三人を追って、無数の巨人たちが森を揺らしてかけていった。

「……足跡だ。この先にむかっている」
 響く戦闘音。巨人たたちの咆哮。それを避けながら、救出班は慎重に、しかし急いで森の中を移動している。
 トゥーラは足元の土を確認しながら、言った。よく見なければ見落としてしまうだろうそれは、子供の靴の足跡である。
「歩幅が安定しないな……傷を負っているかもしれない」
『――――』
 『―――』が声をあげる。トゥーラは頷いた。
「ああ、少々心配だ……なるべく早く見つけた方がいいだろう」
 その言葉に、瑠璃が頷いて、声をあげた。
「世界さん。精霊たちに何か反応はありましたか?」
「いや……今のところは。下級の精霊となると気まぐれだからな……生き物か? 違う、それはタヌキだ、人間じゃない……」
 精霊からもたらされてくる情報を取捨選択しながら、世界は周囲を探索する。
「早く見つけないとだね」
 ミルヴィが言うのへ、瑠璃は頷いた。
「ええ……そうですね」
 空を仰ぐ。太陽は沈みかけ、やがて夜となるだろう。そうなれば、捜索は困難になる。トゥーラの見立てが確かならば、ウィルフレッドは傷を負って移動している。体力、気力の問題から、時間をかければかけるほど、危険な状態になりかねない。
(ウィルフレッドさん……たしか、ジーグ家の現当主でしたね。部下はカールさん……いいえ、本名はニコライさん、でしたか。彼の正体に気づけなかったとは、我ながら不覚といった所ですが……)
 どうやら、ウィルフレッドとニコライは、ある程度前から、瑠璃の事を知っていたようである。正体を隠し観察されていたとなると良い気分はしないし、元の世界ではいわゆる特殊工作員であった身としては、その正体に気づけなかったことはまさに油断していたという気持ちはある。
 しかし、今回の状況は、それとこれとは話が別である。いわばこれは、瑠璃を名指しての仕事に近い。となれば、その判断が間違いではなかったと応えてやるのが、瑠璃のなすべきことだろう。
「瑠璃、この倒木は不自然だ」
 トゥーラが言う。
「おそらく、ここを何か巨大なものが通った……わき目もふらず、何かを追って」
「巨人が、ウィルフレッドさんを探して、と言う事ですね?」
 瑠璃の言葉に、トゥーラが頷く。瑠璃はゆっくりと瞳を閉じた。感情を探知する。探す……では、何の感情を探せばいいのか?
 こんな状況に追い込んだ、元凶への怒りか? それとも、追われる絶望と哀しみか?
 どれもしっくりこない気がした。あの少年、確かバランツの屋敷でもであった彼は、そうそう現実を逃避して絶望するような人間ではないように思えた。
 で、あるならば。
 このような状況に置いて、探すべき彼の感情とは、おそらく現状においてもなお諦めず前に進もうという意思。
 果敢なる勇気である。
「……見つけました!」
 瑠璃が声をあげた。一行は、すぐに駆けだした。

 がさり、と草をかき分ける音がする。ウィルフレッドは痛む身体に顔をしかめながら、ゆっくりと、杖代わりにしていた剣を、左手で持った。
 敵か、と思った。或いは、野生の獣かもしれない……。
「勇敢に戦って散れって? 冗談じゃない。最後まで足掻いて見せようじゃないか。じゃなきゃ、ぼくの騎士たちに申し訳が立たない」
 が、次の瞬間、彼は思わず悲鳴を上げそうになった。と言うのも、目の前にあった大きな木、それを『貫通』して、人間が顔を出したからである。
「~~~~っ!?」
 思わず口元をふさぐウィルフレッドに、大木から顔を出した人影、『―――』は、
『――――』
 声をあげた。途端、ウィルフレッドはその声の意を理解する。
「助けに来た……? では、あなたがたは……?」
 そう声をあげた刹那、イレギュラーズ達がウィルフレッドの前に姿を現した。瑠璃が一歩、前へ踏み出す。交差する、視線。即座に、ウィルフレッドは、何故イレギュラーズ達が自分を助けに来たのかと言う事を、察した。
「そうか……ニコライは、無事に……」
 安堵から、ウィルフレッドの力が抜けた。思わず倒れ込みそうになるのを、瑠璃が支える。
「世界さん、治療を!」
「分かってる……けど、傷が深いな。応急治療くらいにしかならないぞ」
 世界が言いながら、回復の術式を編み上げる。ウィルフレッドの額から汗が引いていく。
「このままじゃ危険ってのは変わりない。すぐに離脱して、医者に見せた方がいい」
「ウィルフレッドさん、失礼します」
 瑠璃はそう言うと、仲間の助けを借りて、ウィルフレッドをおんぶした。脱力するウィルフレッドの体重をその背に感じながら、瑠璃は言う。
「世界さん、引き続き斥候を……トゥーラさん、この子と一緒に、脱出ルートを探してください」
『――――』
「了解だ。お前は木々を透過して先行してくれ」
 『―――』へと、トゥーラが告げる。
「陽動チームに状況は伝えた! 多分、ある程度戦った後に離脱するはずだよ!」
 ミルヴィが言うのへ、瑠璃は頷いた。
「では、脱出しましょう、急いで……!?」
 そう言った瞬間、大地がずん、と揺れた。陽動チームから外れたはぐれ巨人が、近くを徘徊している様だ。
「くっ、ここまできて……」
『――――』
 『―――』が声をあげた。
「先に行け、だと?」
 トゥーラが言った。
「そうだね。ごめんね、みんな。
 ちょっと心配だから付き合ってもらえないかな?」
 ミルヴィが言うのへ、『―――』が声をあげる。ミルヴィは笑った。
「覚悟完了だって? それ、使い方間違ってるよ、きっと」
「二人じゃ危険だ。俺も残るよ」
 世界が声をあげた。
「皆さん……」
 瑠璃が言うのへ、三人はゆっくりと頷いた。
「大丈夫、引き付けて、誘導班に合流するだけだからね。ウィルフレッドさん、貴方は必ず無事に逃がすから、慌てずに自分の安全を最優先してね。アタシ達が守るからサ!」」
 ミルヴィの言葉に、ウィルフレッドはゆっくりと頷いた。流石に緊張も体力も限界だったのだろうか、すぅ、と意識を失い、脱力した。
『――――』
「この子の言う通り、そっちも気を付けるんだよ。せっかく助けたんだから!」
 ミルヴィの言葉を合図に、三人は駆けだした。放たれた攻撃が、巨人の意識を引き付けて、三人へ向けて巨人が走っていく。
「行こう、志屍。ここにきてすべてを台無しにするわけにはいくまい」
 トゥーラの言葉に、瑠璃は頷いた。

●檻の外へ
「おや、カーソンの方。此方に来たのかい?」
 武器商人が言うのへ、ミルヴィが頷いた。
「ごめん、手伝って!」
「あら、新しいお客様ね。少し骨が折れる所だけれど」
「かまわん! 残らず喰らいつくす!」
 ヴィリス、そしてロックが声をあげた。三人も相応に消耗している。三人とも、身体のあちこちに傷を負っていた。
『――――』
「ああ、分かっているよ、白磁の娘。最後の仕上げと行こうじゃないか」
 武器商人が、駆けよる巨人たちを引き寄せた。殴り掛かる巨人たち。武器商人は、それをまとめて無効化してみせると、
「哀れな子らだねぇ、我(アタシ)の命にまでは、キミたちの手は届かないさね」
「ふふふ、巨人さんこっちよ? 捕まえてごらんなさい」
 ヴィリスが力を振り絞って、軽やかに跳躍した。振るわれる刃が巨人たちの身体を切り裂いて、数撃を加える。巨人がたじろぐのへ、ミルヴィの茜色の剣が翻った。
「でかい図体してたら嫌でも当たっちゃうよ!」
 巨人の反撃をかわしながら、斬撃を加える。
「耐え所だぞ、皆!」
 世界の回復術式が躍る。仲間達の背を押し、最後の力を奮起させる。
『――――』
 『―――』の音速の殺術が、巨人の胸を貫いた。ばしゅ、と穢れた血液を噴出して、倒れた巨人が腐って消える。最後の力を振り絞って戦うイレギュラーズ達だが、皆相応に疲弊している。これ以上の戦闘はきついか――そう思った瞬間に、森の外から巨大な音と光が響いた。それは、救出班のトゥーラの持っていたクラッカーの音だ。恐らくこれは合図。森から離脱したに違いなかった。
「よし、今日の上演はここまでね?」
 ヴィリスが言うのへ、武器商人は頷いた。
「ああ、残念だね。もう少しプリマのバレエを見てみたかったものだけれど」
「ふん……だが残念と言うのなら我も同じだ。巨人どもよ、次はもっともっと、愉しく殺り合おうじゃないか、ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛!」
 ロックの叫びに、巨人たちが怯んだ。刹那、一同は一気に踵を返し、撤退を開始する。
「白磁の娘、先行を頼んだよ。カーソンの方、我(アタシ)と一緒にしんがりだ」
「任せて!」
 『―――』を先頭に、一同は走り出した。後方から迫る巨人たちにけん制の一撃を加えながら、全速力で戦場から離脱を試みる。
 巨人たちの足音が遠くになっていく。足場の悪さにもつれそうになる足に耐えながら、陽動班たちは走った!
 やがて視界が開けて、森の終わりが見えてくる。侵入地点付近に到着した陽動班たちは、周囲を警戒しながら、救出班の姿を探した。
「皆さん、こちらです!」
 瑠璃の声が響いた。隣にはトゥーラがおり、瑠璃の背には、気絶したウィルフレッドの姿がある。
「あら、その様子じゃ、今日はとっておきの情報も聞けないのかしら?」
 ヴィリスの言葉に、瑠璃は頷いた。
「ですが、分かった事が有ります。バランツ、ミーミルンド、フレイス・ネフィラ……幻想を騒がせた一連の事件は、全て繋がっていたという事です」
 瑠璃の言葉に、仲間達は頷く。
 幻想を覆う巨大な闇。その一端は、ここにようやく、その尻尾を掴ませようとしていた。

成否

成功

MVP

トゥーラ(p3p009827)

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、ウィルフレッドは救出されました。
 彼が回復し次第、何らかの情報がもたらされることになるでしょう。

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