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シナリオ詳細

<Liar Break>救われた者達は盾を掲げて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「全隊、村人を守れェー!」
 隊長格の兵士が、声を張り上げる。
 守るのはかつて幻想蜂起に加わった村、その生き残り。
 戦える健康な腕っ節の良い男衆は既にいない。
 敵はふざけたように何本ものナイフをジャグリングするピエロと、熊ほど大きな狼が数匹。
 一匹に対して数人掛かりで連携を取って対処するも、のらりくらりと躱される。
 隙あらば村人へと飛ぶナイフを防いでる内に、逆にこちらの手傷は増えていく一方だ。
 ピエロ達は過度に攻めず、攻めさせず。いたぶる様にケタケタと笑う。
「隊長、このまま防戦一方ではジリ貧です! こちらから打って出て……!」
「ダメだッ!」
 攻めあぐね消耗するばかりの状況に、焦れたように進言する副官を隊長は一喝する。
「今守っているのは、本来『我々が討たねばならなかった』はずの命だ。
 彼らを守るため、代わりにその手を汚したのは誰だ?」
 その手を汚すことを、悪名を背負うことを厭わず。少数を斬り捨ててでも多数を救った『特異運命座標』達。
 彼らに最も救われたのは、この村に家族や縁者を持ち、命令されれば村人を討つか見殺しにねばならない自分達だった。
「我々は一兵卒だ。彼らのような英雄ではない」
 更には、仕える領主、永劫変わらないだろうと思えた貴族達、かの三大貴族、あの国王ですら説得してみせた。
 そして国の基盤たる民衆達をも。すなわち、国を丸ごと動かして見せたのだ。
 彼らのお陰で自分達は、守るべき者へ圧政の剣を振るうのではなく、今こうして守護の盾を掲げられるのだ。
「故にこそッ、英雄の行いには身命を賭して報いよッ! これ以上の犠牲は、決して払わせるなッッ!」
「……了解しました!」
 副官に、否、兵達全てに覚悟の火が灯る。彼らもまた、この村に愛すべき家族を、友を持つのだ。
 戦うのは何のためか。最初から決まっていた。
 しかし、先程から何処か遥か遠くから――あるいは吐息を感じる程近くから――聞こえる甘い誘惑の如き声。


――横に立つ者の首を刎ねてしまえ。
――――背を向けている者を殺してしまえ。
――――――いっそ振り返って無防備な者を斬り捨ててしまえ。


 これがサーカスの影響とやらか。この声は恐らく全ての者にも聞こえているのだろう。もしや村の者もだろうか?
 皆必死に耐えているが、負った手傷以上に精神的な疲労が深刻だ。
 誰か一人、心でも体でも技でも。一つでも屈してしまえばこの拮抗『させてもらっている』状況も崩れる。
 如何に精神論を説き鼓舞しようと、長くは持つまい。
 領主の兵士の多くは街道を封鎖している。援軍も望めまい。
 いや、この生殺しの戦況。援軍を『呼ばせる』ことこそが目的なのだ。
 しかしこのピエロ達はまだわかっていない。
「誇りを持って盾を掲げよ! 時間を稼ぐのはピエロ共ではない、我らだ! 『彼ら』が来るまで、誰一人死なせるなッ!」
『オオオーッ!!』
 声なき声に応える英雄達の存在があるということを。
 彼らを信じる者達がいるということを。


「君達も随分と待ちわびたことだろうね。そう、ようやく『サーカス』の幕引きだ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が、集まった特異運命座標の前に告げる。
 先の幻想蜂起を契機とした大規模な貴族の説得、『ノーブル・レバレッジ』はイレギュラーズの手によって見事大成功を収めた。
 逃げ出したサーカスを追い、ローレットの求めに応えた貴族達や民衆達は各地で検問を張り、封鎖を行っている。
 我こそが手柄を立てん。
 我こそが主に手柄を献上せんと。
 貴族達はそれぞれが手前勝手なスタンドプレーの元、しかし同じ思惑の故に『一致団結(チームワーク)』を為している。
 『幻想』という檻に釘付けにされ、狭まる包囲網は今正にサーカスを捕えんとしている。
「とはいえ向こうも黙ってはいない。サーカスは国という檻から抜け出すべく、『陽動』を仕掛けている」
 散発的に各地の村で事件を起こしているという。
 しかし包囲網を作っている兵士達は動くことができない。
 網の目を緩めれば、その分多くのサーカス団員が国外へと逃げ出してしまうのだ。
 この領地を治める貴族は、決して包囲を緩める事はない。確実に『国外に逃がすな』というオーダーをこなすことだろう。
 例えこのまま放っておいても、サーカスの陽動は失敗に終わる。
「幻想貴族の『有能』さは、正しい方向へ発揮されている。だが……」
 それは、村一つ全滅という代償を払ってのことである。
「そこで、君達にしてもらうのは、その対処だ。直接危機に陥っている村と、限り少ない余力で挑まねばならない兵達の救援だ」
 サーカスのピエロが現れたという村へ、僅か十数人の兵士が救援に向かったという。
 しかし多少の時間稼ぎになっても、彼らでは撃退は不可能だ。
 ……包囲を作る網から抜けても問題ない程度の戦力でしかないのだから。
 加えて、サーカスの――魔種の持つ力、『原罪の呼び声』。
 それの影響は、この世界の純種ならば受けるもの。直接対峙する兵士達とて例外ではない。
「しかし兵士はその声に屈しないだろう。偏にローレットを信頼しているからだ。窮地に陥ろうと、必ず助けに来てくれるとね」
 救ってくれる誰かを待ち、座して祈るだけでは足りないと、立ち向かう勇気ある者達だ。
「だけど村人達は恐らくそうもいかない。何人かは狂気に囚われてしまう者がいても不思議ではない」
 度重なる不幸と差し迫った危機に、心が負けてしまうかもしれない。
「それでも村人は、決して殺さないようにしてほしい。もう彼らは既に必要以上の犠牲を払ったのだから」
 まだ罪も犯しておらず、呼び声の影響も深刻ではない。
 無力化すれば、まだ戻れる段階だ。襲い来るピエロさえ退ければ。
「同時に、呼び声に囚われた村人はサーカスの団員にも狙われるだろう。場合によっては、敵として向かってくる彼らをかばいながら戦わなくてはいけないかもしれない」
 襲い掛かってくる相手を守りながら戦うというのは、口で語る以上に難しい。
 ましてや自分達が殺さぬよう気を付けても、ピエロにとっては関係のない話なのだから。
「だが君達特異運命座標は、正しく幻想という国の運命を変えた。
 今度滅びの運命を変えるのは村一つと兵隊が一つだ。君達なら、簡単だろう?」
 今回は目に見えない権謀術数相手ではない、目的も手段も、敵の姿まで明確だ。
 口元を緩めて微笑むショウは決して無茶振りではない、確かな信頼を込めて送り出した。

GMコメント

 誰かの為にした行動は、必ず誰か理解してくれるものです。
 救われた者であれば、なおさら。
 白黒茶猫です。

 <幻想蜂起>反乱の熱狂と必要悪(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/409)
 上記シナリオに登場した村での出来事ですが、参照の必要はありません。

●成功条件
・集会所の村人の無事
・村を襲うピエロ&狼の殲滅
・呼び声に囚われた村人の2人以上の生存
 全て達成で『成功』。

●失敗条件
・集会所に押し入られる
・呼び声に囚われた村人の2人以上の死亡。
・兵士の半数以上の死亡。
 何れか1つ満たすと『失敗』。

●戦闘
 到着時点で、村の中へ侵入されて襲われています。

・兵士達×12人
 重傷ではないものの多かれ少なかれ全員傷を負い、原罪の呼び声に耐えていた為、精神的にも疲弊しています。
 戦力としてはあまり多く期待しない方が良いでしょう。
 基本的にイレギュラーズの指示には従いますが、全ての村人を殺させない事を最優先に動きます。敵対はしません。

・村人
 呼び声に囚われた村人を除き、全員集会所に避難しています。
 建物自体を焼き討ちされたりする心配はありません。
 イレギュラーズのことは消極的ながら受け入れており、逆らいません。

●敵
 イレギュラーズが現れれば残っている敵は以下の全員が出てきます。
 個々の強さは平均的なイレギュラーズよりも若干弱い程度。
 また、自身の命を顧みる事はなく、最後の一人になっても逃亡することはありません。

・ナイフ使いのピエロ×2
 R2の投擲、R0の切り裂きを持つ。
 隙あらば、兵士や村人を『殺す』ことを優先する。
 呼び声に囚われた村人も攻撃対象に含め、自身の残りHPが低いほど道連れにする優先確率が高まる。

・獣使いのピエロ×1
 R1の鞭、可聴域外の音で狼を統率する能力を持つ。
 指示を与える限り、狼はマークやターゲット優先等、戦術的行動を取る。
 狼からR4以内の距離の屋外に潜んでいる。
 村人と呼び声に囚われた村人は狙わない。

・狼×5
 R0の噛み付き、R1の引き裂きを持つ。
 指示を受けている間、イレギュラーズを優先する。
 指示がなくなると弱い者から手当たり次第に襲う。

・呼び声に囚われた村人×3
 R0の武器攻撃を持つ。
 一撃で倒れる程度。回避や防御などの技能は一切ない。
 【不殺】スキルを用いず倒した場合、迅速な手当が必須(HP回復スキルや、戦闘終了後医療技術等)。
 倒れた場合、その場で気絶します。放っておくと止めを刺されるかもしれません。

※このシナリオでは魔種は登場しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 倒す敵の優先順位と、敵が狙う目標と状況による変化には注意してください。
 兵士や村人は、あっさり死にます。
 補足として、敵状態でもかばう対象には選べます。
 また、このシナリオでは対象が倒れた後もかばう対象に選べます。

  • <Liar Break>救われた者達は盾を掲げて完了
  • GM名白黒茶猫
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月27日 22時00分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
黒翼の裁定者
エンアート・データ(p3p000771)
終ワリノ刻ヲ看取ル現象
芦原 薫子(p3p002731)
雷迅之巫女
セレスタイト・シェリルクーン(p3p003642)
万物読みし繙く英知
アーサー・G・オーウェン(p3p004213)
暁の鎧
アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)
シティー・メイド
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
アンシア・パンテーラ(p3p004928)
静かなる牙

リプレイ


 甲高い金属音が鳴り、狼が吼える。兵士達が声を荒げて戦闘音が響く。
 ピエロが放ったナイフが、兵士の兜の隙間、眼へと吸い込まれるかのように飛んでいく。
 兵士が激痛と死を覚悟し引き延ばされたその一瞬――見えたのは、ナイフを弾き飛ばす小さな『槍』。
 否、それは『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)が放った『矢』だ。
 本来固定して使う攻城兵器、巨大弩バリスタを、持ち前のメイド力で少しばかり大きいだけのクロスボウのように軽々扱う。
「まさか……!」
 そんな常識外れの『イレギュラー』は、一つしか思い当たらない。
 続けざまに、魔力で編まれた縄がピエロを捕えようと伸びていき、ナイフ使いは慌てて後ろへと下がって回避した――
 ――その先目掛けて叩き込まれる、アンシア・パンテーラ(p3p004928)の奇襲。
 完全に不意を打ったそれは、ナイフ使いが咄嗟に構えたナイフを弾き飛ばしながらその身を削り取る。
「……我らを呼ぶ声が聞こえる。汝らの声は聞き届けられた」
 長い黒髪を風にたなびかせながら『放浪カラス』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は厳かに告げる。
 レイヴンは少しカッコつけすぎたか、などと思いながらも、兵士達の間に歓喜の声が一斉に上がる。
「特異運命座標……ッ!」
 待ち望んでいた希望(えいゆう)の登場に、兵士達の疲れた顔から一気に活力へと満ちていく。
 しかし同時に、待機していたもう一人のナイフ使いと狼が戦列を組み直すべく援護しながら姿を現す。
 イレギュラーズ相手では下手な小細工こそ下策という判断か。
 狼達を前衛に立て、狂気に囚われた村人を盾にするように、ナイフ使い二人がそのすぐ後ろへと下がる。
「よお、ピエロども。散々好き勝手やってくれたな? これ以上の狼藉はさせねえぞ」
 兵士達を庇うように前に躍り出るのは、赤と白の派手な装甲で身を包んだ『烈鋼』アーサー・G・オーウェン(p3p004213)。
 その背中に感じるのは、信頼。自分達を信じて戦った守るべきものの存在。
「アーサー・G・オーウェン、此処に参上!」
 彼らの英雄で足らんと、高らかに叫ぶ。
 その声を聞き咎めた狼は唸り声を上げ、ピエロは不気味に嗤う。
「はわわわわ、何やら大変な事になっていますねぇ」
 『万物読みし繙く英知』セレスタイト・シェリルクーン(p3p003642)は、のんびりとした声を出す。
 兵士達が自分達を手放しで歓迎する様子を見て、アンシアは複雑な表情を浮かべる。
「仕事として無碍にその評価は崩せんか……結局、私の組織人気質は変わらんのだな……豹でも狗、か」
 彼らに思う所はあれど口を噤む姿に、アンシアは自嘲気味に呟く。
「はてさて、死と決していてなおの覚悟とは……ふふ。全くヒトとは面白い」
 『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)は死すら覚悟して臨んでいた兵士を楽しげに笑う。
 自分達が現れた今、その決まった死の運命は揺らいだ。
「道化と鬼の戦い……物語としてはあまり面白いものでもありませんが、始めましょうか」
 薫子がすらりと灰桜の鞘から、鞘以上に美しい名刀『姫切』を抜き放ち、その身に紅の雷を纏う。
「街ではなく村ではございますが、ゴミはゴミ。メイドとしてお掃除と参りましょう」
 アーデルトラウトが番え直した矢を放つ。
「じゃあワタシは右側のナイフ使いに当たる。左側はお願い」
 レイヴンはアンシアが手傷を負わせたピエロへ狙いを定める。
 頷いて目深に被ったフードを揺らしながら『終ワリノ刻ヲ看取ル現象』エンアート・データ(p3p000771)がこの世界の神秘の行使を模倣する。
 神秘の力を高め自らへと付与すると同時に、レイヴンと同様の魔法、魔力で編まれた縄でナイフ使いを縛り上げる。
「ああ、お前……ッ! お前が、お前達が私の夫を殺したッ!」
 『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)の全身鎧姿を見咎めた村人が、血走った眼で襲い掛かってくる。
 左の手甲で凌ぎながら手甲の一撃を村人の腹へと叩き込めば、あまりにも容易く気絶する。
「この者を集会所まで運んで下さい」
 オリーブは気絶した村人を支えて、兵士へと頼む。
「ああ……わかった。だが、彼女の言った事は……」
「いいえ、元より何の感慨もありません。姿を見られていたのか、とは思いましたが」
 気に掛ける兵士へ、オリーブは兜越しのくぐもった声でドライに対応する。
 オリーブが手を下した前回は、ただ求められる仕事をしただけ。そして、それは今回も同様だ。
「……強いな」
 それを察したのか、少しばかり良く捉えたのか、兵士は深く頷く。
「残りの村人もすぐに気絶させます。その後は集会所の守りを固めて下さい」
「感謝する、特異運命座標。ああ、無論だとも。この命に代えても村人たちを守ろう。貴方達と共に戦えること、光栄に思う」
 隊長は指示をくれたオリーブへ戦闘中ながらも最大限礼を尽くした敬礼を返して集会所の入り口を固めに向かった。


「――紅華美。そして……ただ斬るのみ」
 紅の雷光をたなびかせた薫子は狼をすり抜けて駆けると共に、渾身の一刀を放つ。
「ちゃあんと縛ってみせますよぉ、えいえい!」
 オリーブが村人を綺麗に無力化していくため、村人の治癒は不要と判断したセレスタイトは、ナイフ使いを捕えるべく薫子に合わせて魔縄を重ねる。
 手傷を負ったナイフ使いが、薫子のマークから逃れて大きく後ろへと距離を取る。
 代わりに薫子の前に現れたのは狼。
「あらあら……獣に任せて逃げの一手とは、本当に面白くありませんね」
 眉を顰める薫子の雷の如き速さを警戒してか、攻撃を捨てて薫子の行く手を阻む。
「畜生……私は暗殺用怪人なんだぞ……なんだこの特攻戦は……」
 奇襲を受けイレギュラーズの存在を認めたピエロ達は戦列を立て直した。
 本来正面切ってやり合うのは向かないアンシアは愚痴りながらも、ナイフ使いの代わりに目の前に立ち塞がって来た狼へ拳を叩き込む。
「くそっ、邪魔だ!」
 アーサーもまた狼に阻まれている。
 ナイフ使いへ名乗り口上の範囲に巻き込まれた2匹の狼は怒りに囚われ牙を剥きつつも、獣使いの命に従ってアーサーをマークする。
 壁となる『前衛』の存在は非常に大きい。
 イレギュラーズが最も警戒していたのは、要救助者の命を積極的に狙うナイフ使いだ。
 だが中衛を位置取ろうとするナイフ使いを先に狙うには、獣使いによって戦術的指示を受けた狼は非常に厄介だった。
 それぞれが自分達の前に立ち塞がった狼を相手していては、時間が掛かってしまう。
 中遠距離手段を持つ者は狼越しでも狙える。
 だが遠距離から攻撃しても移動を封じる事はできず、近接組の手数を取られてしまっては、速攻は望めない。
「これで、ラストです」
 オリーブが自ら前へやってきた狂気と囚われた村人を打ち据え、兵士の元へ連れていく。
 しかし、薫子が押さえて後退させたナイフ使いの他に『もう一人』。
「……! ナイフ使いが、村人を狙っています」
 アーデルトラウトが村人へと迫るナイフ使いへとバリスタを射ち込む。
 深手を負いながらも構わず投擲されたナイフが村人へ牙を剥く。
「……ッ! 悪あがきするスキなど、あげないに決まっているだろう」
 気絶した村人と、それを庇おうとした兵士にも代わってナイフを受けたのはレイヴン。
 もう一つの『眼』、ファミリアーでその動きを捉えていた彼は、倒し切るのは難しいと判断して庇いに行った。
 だが防御が特別優れてるわけでもなく、イレギュラーズの中でタフというわけでもない。
 回避せず自ら当たりに行った一撃はその身を深く苛み、天使の如き衣を血に濡らす。
 更に庇う姿を好機とばかりに、もう一本のナイフがその身に深く突き刺さる。
「……安いね。ワタシを競り落とすには、安い」
 それでもレイヴンは不敵に笑い、指差した先へと水で編まれた鷹が翔け抜け、ピエロを貫く。
 村人を殺す『チャンス』はもう与えない。
 これで最後の村人は、兵士が集会所へ退避させた。
「まずは狼の数を減らしましょう。全てではなくとも、前衛が突破できる隙間を作らなくては」
「応ッ!」
 レイヴンもエンアートも、セレスタイトが重ねた分もあってナイフ使い両方とも麻痺させた手応えはあった。
 アーサーが狼を2体引き受け、オリーブが対狼に加わった分、1体でも倒せばナイフ使いの元へ突破できる。
(……此方の前衛を抑えてる狼は、一見ばらけている様に見える、が……全ての狼を統率できる位置取り……)
 エンアートが未だ姿を見せない獣使いへ、思考を走らせる。
 攻撃に集中していない分、攻撃の片手間でも優れた捜索力を発揮することはできた。
 隠れられそうな遮蔽を含めて、正面にはいない。
 横も隠れられる場所からでは、端の狼まで指示が届かない。そしてレイヴンの鳥もまだ発見していない。
 情報通りならば、敵は逃げることはない。恐らく参戦するタイミングを伺っている。
 ならば、エンアートが導き出した推測は――
(……っ、裏をかいて、自分達の後ろ)
 振り向き、集会所のほうへ目を走らせる。
 獣使いは村人を襲わないはずだが、同時に聞こえてきたのは、悲鳴の如き叫び声。
「ぐぁッ!?」
「クソッ! 何としても中の村人を守れぇ!」
 返り血に塗れた獣使いが、姿を現した。
 標的は自分達であると知らず、傷を負ったままの身体を押して村人を守らんとする兵士達の前へと。
 強かな一撃を受けた兵士が倒れ伏し、他の兵士は倒れた兵士と集会所の入り口を守ろうとピエロの前に立ち塞がる。
「ちっ……今助けにっ!」
 アーサーが狼から強引に突破しようと試みる。
 弱き者を救いたい想い、英雄願望を力に変え――
「此方に構うなッ!」
 しかしそれは助けに行こうとした兵士によって遮られる。
 アーサーを押さえていた狼がフリーになれば、また前線が崩れるだろう。
 ピエロの狙いは変わらず、彼らに助けを求めさせる事なのだ。
「大丈夫だ、村人は我々の命に代えても守り切って見せるッ! 特異運命座標……頼むッ!」
 何かを守るというのは、難しい。レイヴンがそうして深手を負ったように。
 英雄ではないただの兵士達が同じ事をすれば――
 彼らは言葉通り、『命に代えて』村人を守るだろう。
「ちっ、くしょぉがぁ!」
 信じてくれた兵士達の想いに応えたい。
 しかし彼らを守ることでは、応えられないのだと彼ら自身が言ったのだ。
「大丈夫、私が治療しますよぉ~。で、でも、できるだけ早くしてくださいねぇ~」
 セレスタイトのライトヒールが、鞭で締め上げられ深手を負った兵士を癒す。
 しかし一撃で致命傷までいかずとも、傷を負うペースのほうが早い。
「ピエロ共がッ! お前の相手はこの俺だッ!」
 自分を狙う狼を振り払いながら、アーサーは名乗り上げる。
 獣使いには届かない。だが兵士達を追撃しにいこうとしたナイフ使いが足を止め、代わりにアーサーへと斬りかかる。
 狼と合わせて3体。アーサーの巨躯に纏う赤と白の装甲に負った傷は、深い。
 本来であればその身に余る敵を相手にしても、まだ踏みとどまる。
「まずは狼1匹、お掃除完了です」
「……奇襲が通じないなら、正面からだ」
 アーデルトラウトの矢が狼を仕留め、マークが外れた隙にアンシアが突破する。
 弱ったナイフ使いへ、今度は防御の意味を元よりなさない『爆弾』を炸裂させる。
「2匹目。ようやっとお相手してもらえますね?」
 続いて薫子が狼を叩き斬り、また逃げられぬ内に近づき笑みを深める。
 道化の身を竦ませたのは、セレスタイトが縛り上げた魔縄か、あるいは細められる鬼の眼光か。
「数の利が生まれました。あとは……」
 エンアートは攻撃へ集中し、ダメ押しとばかりに更にマジックロープで縛り上げる。
 元より、集ったのは平均以上の実力を有すイレギュラーズ達。
 狼の動きに多少手間取ったとはいえ、一度傾けば刈り取るのは時間の問題だ。
「……ありがとう。よく耐えてくれた」
「残るは獣使い一人。一気に『片付け』てしまいましょう」
 レイヴンとアーデルトラウトが、兵士達の援護に入る。
 1分程度だが、疲弊し切った兵士達は、獣使いから間近で受ける狂気の影響に耐えながらもよく稼いだ。
「つまらない――所詮は道化、でしたか」
 従える狼を失った獣使いを両断した薫子は残心の後、血振りする。
 イレギュラーズが正面から相手してしまえば、あまりにあっけない。
 こうして、村を襲っていたサーカス団員は殲滅された。


「バリケードの撤去ですか。お任せください、お掃除お片付けはメイドの本分です」
 アーデルトラウトが、集会所の窓や入り口に置かれた半ば壊れたタンスなどの家具を軽々持ち上げる。
 彼女のバリスタに比べれば軽いほうだった。
 ここにいないオリーブは、念には念を入れてサーカスの残党や村人を探していた。
 しかし情報通り、他の敵の姿は見えない。
 村人は狂気に囚われた者も含めて、これで全員だ。
 物理的な距離がどう働くかわからないが、獣使いが持つ原罪の呼び声の影響を近くで受けながらも、新たに狂った者はいない。
 村人を無力化していくオリーブの手際の良さ、そしてレイヴンが身を挺して庇ったお陰で殆ど無傷だ。
「戦いは苦手ですけどぉ~、こういう事なら得意ですよぉ、えへへ」
 セレスタイトといえば戦闘中も今も回復に追われて引っ張りだこの大忙しだったが、戦線に加わるのよりはマシだと内心ガッツポーズを決める。
「……次は誰だ、傷を見せろ。物資も寄越せ」
 自身の手当を済ませたアンシアは持ち前の医療技術を用い、セレスタイトの医療知識も借りて治療を施す。
 特に大きな傷を負ったレイヴンとアーサーも、後には残らないだろう。
 『効率良く殺すためだ』などと言うその技のお陰で、深手を負った兵士も何とか命を取り留めた。
 しかし、全員とはいかなかった。
 どこか安らかな表情の3人の兵士が顔へと、布が被せられる。
「悪ぃ……アンタ達を守り切れなかった」
「いや、どうか気に病まないで欲しい。貴方達のお陰で、村人達は皆無事だ。
 我々は元より全滅覚悟だった。彼らは守るべき者を守る為に戦い、誇りを持って死ねたのだ。本望だろう」
 自らも重傷を負った隊長の言葉に、アーサーは悔しげに鋼の拳を握りしめる。
 本心だろうか。本心なのだろう。
 そんな彼らだからこそ守りたかった。誰一人死なせたくなかったというのに。
「アフターケアでも必要でしょうか? 話を聞くぐらいはしましょう」
「ああ、それには及ばない……いや、話なら一つ聞いてほしい」
 薫子の申し出を遠慮しようとしたが、隊長は改めて一つ。
「貴方達は間違いなく、幻想の……いや、この世界の英雄(きぼう)だ。だからこそどうか、零した命を数えないで欲しい。
 これから幾度もこのような場面に出会うだろう。だが忘れないでくれ。我々は確かに、貴方達に救われた者なのだから」
 隊長、そして兵士達は深々と礼をする。集会所に集った村人も同様に。
 その言葉を聞きながら、エンアートは深く被ったフードを更に深く被る。
 狼達の怯え、恐怖。ピエロ達の、自身の滅びへの狂喜。
 兵士達の諦めと、安堵にも似た喜び。そこに恐怖はなかった。
 エンアートがフードに隠す表情と胸の内は、伺い知れない。
 しかし<Liar Break>はこれで終わりではない。
 その後に続く決戦までの僅かな時間、その身を休ませるのだった。

成否

成功

MVP

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
黒翼の裁定者

状態異常

なし

あとがき

 皆様の活躍のお陰で、村一つと9人の兵士達を救うことができました。
 幻想蜂起に続いて危険にさらされたこの村にも、徐々に平穏が戻っていくことでしょう。
 <Liar Break>、お疲れ様でした。

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