シナリオ詳細
再現性東京2010:RINFONE
オープニング
●カフェ・ローレット
――その日、音呂木ひよのから「お時間はありますか」と連絡が来たのは夕日が血の色のように真っ赤な16時の事だった。
暑苦しい夕日から逃れるようにカフェ・ローレットの扉を開く。
ちりりん、とベルが鳴り置くからアルバイト制服を身に纏ったひよのが顔を出した。
「お呼び立てしまして」
丁寧に出迎えた彼女はイレギュラーズ達に目もくれず「アイスコーヒーで良いですよね」とそそくさと準備を始め出す。
通された席に着席したひよのが『それ』から目を逸らしているのは明らかであった。
『やあ』
テーブルの上には繋ぎっぱなしになっているひよののaPhoneが置かれている。通話画面には非通知と表示されていた。
「ひよのさん、電話」
「ああ、それ。何度も何度も掛ってくるのです。非通知ですし、そもそも着信を拒否してるんですが……。
無視しても懲りもしませんし、話を聞いてみて『私じゃ手に負えないなあ』と思ったので皆さんをお呼び立てしたのです」
そう告げたひよのは通話など知らない振りをしてアイスコーヒーを人数分並べて行く。
『やあ』
再度、声が聞こえた。耳を傾けよう――余計な質問しては話が続かないことが分かるからだ。
『RINFONE(リンフォン)を知っているかい?
実はね、とあるアンティークショップで立体パズルを買ったご婦人がいるのだそうだ。
ある時に電話が掛ってきて問われたのさ。パズルを完成させたいのだけれど……と。ははあ、なるほど。
――このままだと困ったことになる。俺にとっては些細な事だがね』
電話口の相手は怪人アンサーと名乗っている。
質問への回答は絶対に嘘を交えず、真実のみを教えてくれるが聞かれた事にのみ回答する都市伝説的存在だ。
それが悪性怪異:夜妖である事は分かるが、尻尾を掴めずにいる実情だ。
「教えたんでしょう?」
『ああ、そのパズルに魅了されて、完成させる手順を知りたがったのさ。聞かれたから答えた』
――責めることは出来ない。そう言う怪異だからだ。
『この街のどこかでリンフォンを完成させようとしている奴が居る。それが極小サイズに凝縮された地獄の門ということも知らずにな。
熊と鷹は完成済みだ。魚を経て門が完成するまでに元凶を回収しなければここは地獄に飲み込まれるだろうよ!』
ひよのは頭を抱えた。
リンフォンと呼ばれるパズルは都市伝説だが有名である。故に、それが『凶悪な怪異』になりやすい。
その解き方を怪人アンサーが伝授したというならば、魚を作るのもそう遠くはない話だろう。
「……申し訳ありませんが、リンフォンを壊しに行ってくれませんか。そのパズル事態が悪性怪異です。魅入られている――と言うのも怪異の及ぼした結果でしょう。
それで、怪人。パズルは何処に?」
『希望ヶ浜にある大学のオカルト研究部にあるらしい』
「成程。所有者は友人などと行動していますか?」
『いいや。パズルに没頭するあまり最近は彼は一人きりだそうだよ』
「……一人であると言う確証は得られませんが、そう多い人数と一緒ではないでしょう。申し訳ありませんが、至急」
●RINFONE
オカルト研究部の活動のついでにアンティークショップに入った時だった。
売り物でもなさそうな、棚から転がり落ちたパズルを見つけた。店員はそんな物知らないと言い、彼女は気持ちが悪いと言っていた。
それでも、それが途轍もなく素晴らしいモノに見えたのは確かだ。
どうしてもそれを解き明かしたくて仕方が無かった。デートをキャンセルしたとき彼女は普段は渋るというのに「どうぞ」とそそくさと帰ってしまった。
どうしても熊を作る事ができなかった。
私は直ぐに電話を掛けた。怪人アンサーという都市伝説にでも頼りたい気分だったのだ。
答えは呆気なく教えられた。
熊が出来た。
鷹が出来た。
彼女は電話に出なくなった。
まあ、いい。次は魚だ。
その前に食事を取ろう。研究室に籠もりきってパズルの相手をしていたからだ。
リンフォンを放り出してから適当なカップ麺に湯を注いだ。
……先程から携帯電話が鳴っている。30秒間隔くらいで、出ても雑踏が聞こえて直ぐ切れる。
悪戯だろうか。非通知としか表示されないのが気持ち悪い。
ああ、眠たい。まだ16時か。
一眠りして魚を完成させようか。
――夢を見た。複数の男女が『此処から出して』と叫んでいる夢だ……。
- 再現性東京2010:RINFONE完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年05月31日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「いやあ」
『どんまいレガシー』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)はヘルメットのバイザー部分に楽しげな顔文字を浮かべていた。
「ひよの殿を不安がらせるとはふてぇ怪異でありますな。
こりゃ吾輩たちの手でそのリンフォンとやらを壊して皆でひよの殿に『すっごーい!』と誉めてもらいましょうぞ!」
余裕綽々、ジョーイの言葉にぱちりと瞬いた音呂木・ひよの (p3n000167)は「仕事が終わったら褒めてあげてるでしょうに」と揶揄うように小さく笑った。
だが、事態は一刻を争う。日常を謳歌するようにカフェローレットで優雅なるティータイムを楽しんでいる暇もない『No.696』暁 無黒(p3p009772)は「急ぐっすよ」とひよのと頷き合った。
「ええと、『リンフォン』――そんな危ない物、絶対に完成なんかさせないっすよ! オカルト、ホラーなんてドンと来いっす!」
「うぅ……うぅ……」
オカルトもホラーも怖い物なしだと胸を張る無黒とは対照的に身を屈めて怯えた仕草を見せたのは『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)であった。リンフォンについて詳しく確認する無黒の傍らで奈々美は「聞いたことある話だわ……」と呟く。
「オカルトでたまに話題に出るけど……何故か完成してどうなったって話は聞かないのよね……。
極小の地獄だとかなんとかっていうけど……か、完成したら地獄が溢れたりしちゃうのかしら……うぅ……な、なんとかしないとね……」
そう、極小の地獄。そうした都市伝説として語られていることは『海を越えて』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)も前知識として認識していた。
「不気味だな……なんだか誰かの悪意を感じるみたいで……。
怪人アンサーも不気味だし気になるけど、それは後回しだね、とにかくリンフォンをどうにかしないと」
「怪異とは、誰かの悪意の元に成り立っている可能性の方が高い、ですから」
肩を竦めたひよのはその悪意が大きければ大きいほどに危険性が高いのだと付け加える。ドゥーが感じた不気味さは『怪人アンサー』によるところも大きいのだろう。
「アンサーな……。奴も見つけたら殴っときてぇな。どうせ見つからねぇんだろうがよ!」
苛立ったように呟く『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は「時間がどれだけ残されてるかも分からねぇ」とぶつぶつと呟く。
「厄介なもん見つけやがってたっくよぉ。ちゃっちゃと終わらせんぞ。
に、してもだ。怪人曰くパズルを買ったのは『婦人』だ。なのに魅了されてんのは『青年』ときたもんだ。
怪人は『嘘』は言わねぇ。だが『隠し事』はする。……さぁて何を隠してやがる?
『青年』だけじゃなく『ご婦人』つまりは女性についても警戒しておくか。そいつも持ってるかもしれねぇからな」
推察するニコラスの傍らで『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は明るく声を上げた。「悪役だ!」と。
「うんうん、会長はリンフォンっていうパズルのことはよくわからないけど、完成すればピンチってことは分かるよ!
まあ、会長はパズルとかやると眠くなるから絶対無理なんだけど! それで、ご婦人って言うのも誰変わらないけど『手渡した』って事だよね!」
だから、悪役、と提案する彼女の跳ねる声音に一理あるか、と『精霊教師』ロト(p3p008480)は呟いた。
「そう。怪人アンサーは嘘は言わない。だけど真実が『2つ以上存在していた場合は混同されるように話す』事がある。
確保するべき対象は『彼』だけれど、リンフォンを買った『ご婦人』のもう一人が希望ヶ浜にいるかも知れない……もしくは、だ。彼女が『手渡した』可能性もある」
「何のために」
『激情のエラー』ボディ・ダクレ(p3p008384)の問い掛けにロトは「分からない」と首を振った。
いいや、分かる気もする。ボディはひよのの言葉を思い出す。
――『誰かの悪意の元に成り立っている可能性の方が高い』
「元よりリンフォンとは、確かネット上の創作話でしたね。誰でも見ることが出来る『何処でだって入手できる情報』だ。
そう言った物が再現されることも興味深いですが、危険ですし壊さなくてはならない。
……アンサーがどうしてこの事を私達に話したのか。彼が話すご婦人とは、と気になりました。ですが、そうか」
ボディはひよのを見た。もしかして、このリンフォンを『購入してパズルの解き方を聞いたのはご婦人』で『実際に解くのがオカルト研究部の青年』であった場合。
「人の悪意とは恐ろしい物、だとひよのさんは言ったな? ……ご婦人が危険な代物を敢て誰かに渡した可能性も捨てきれないってワケか」
ニコラスの言葉に、ひよのは「そういうこともありましょう」と肩を竦めた。怖い物見たさの青年と、婦人。実行者と所有者違う可能性だってある。
なら――そのご婦人は、どこに?
●
「中はアクションシーンもあるので数十分程入らないで下さい。
それと外の野次馬も撮影に入るんで協力してくれたら少額っすけどエキストラ料を払います。望遠で写るだけなんで顔も映らないし安心して下さい」
柔らかな口調でそう告げた無黒の演説と演技は人を惑わすが如く。多数が出入りする大学だ。多少顔を知らぬ者が居たって構わないだろう。
映像研究部なのだと言う彼の言葉に首を捻っていた外部の生徒達は「頑張れ」と茶化す様に応援を投げかける。誰も何も知らぬからこそ、そうやって笑っているのだと奈々美は感じていた。
(そう……そうよね……希望ヶ浜の平穏に、怪異も魔法少女も必要ないんだもの……。みんなには内緒、ってヤツなのね……)
魔法少女のアニメーションでよく言う『クラスの皆には内緒』を身を以て経験したのだと小さく笑みを零して。奈々美はけたたましい音を聞いていた。
急がねばならない。『青年』の元へとイレギュラーズはとある大学の『オカルト研究部』部室へと進んでいた。部室棟の人気は疎らだ。
燃えるような夕日がのっぺりと窓から差し込み濃い影を作り出す。17時を指した時計の端がリズミカルな音を立てた。
「奇妙な心地ですな」
肩が重苦しく感じるとジョーイが小さく呟く。じりじりと燃えるような音はロトが隠れて押した非常ベルによる物であった。出入り口付近にあった非常ベルは未だ鳴り止まず、何が有ったのかと棟内の人々は一階へと集まっている。――だが、『リンフォンに魅入られた青年』だけはそうはしなかっただろう。
「一般生徒はあちらに引き寄せられている人が多いけれどね。さ、件の青年はまだ部室だろうか」
「どうでしょうね。人の目が少なくなるのは喜ばしいですが――こうも『敵』が増えると避難誘導も儘ならない」
周囲の保護を促してボディは悪性怪異を視認する。モニターには苛立ったような顔文字が映し出された。応援として鼓舞する茄子子の声を聞き、ボディは屈強なその肉体を壁とする。
「うおー! 夜妖が向かってくる! 会長達もばったばったとなぎ倒しちゃうぞ!
達っていったよね? ……会長には出来ないこと!ㅤみんな、がんばってなぎ倒していってね!ㅤ応援してるよ!!」
手をぶんぶんと振ったムードメイカーの声を聞きながらニコラスは三階に往く階段の上部からてんてんと転がり落ちてくる首を確認する。
趣味が悪い、と呟いたのは彼だっただろう。けらけらと非常ベルの音よりもけたたましく笑い始めたそれに向けて放つは魔力を喰らう斬斬。
「しっかし、夜妖が行く手を遮るってんだ。地獄の門も半開きだろう」
「……ああ、かもしれないよね。音がする。ひたひた……何か上から近付いてくる――っ、!」
ドゥーが見上げれば、だらり、と垂れ下がったのは腕であった。天井を伝い歩く男。天と地を逆転させたように肉体をべたりと天へと引っ付け四肢を緩慢とさせる。異界にもと言った様子の怪異へとお誂え向きなベリアルインパクト。土葬であれども、弔いは弔いだ。死霊の声が響くように棟そのものに怪異が溢れかえってくる異常な感覚。
「……上から無数の声がする」
「声?! ええ!? オバケってこと!?」
ぎょおっとした茄子子に奈々美が「ひぃ」と肩を跳ねさせた。卓越した五感を活かして最初にその声を聞いたドゥーは胸の奥から迫り上がる何かを感じていた。
――……して。………して! ……ら、………して!!!
それは男であるか、女であるか、老人であるか、子供であるかさえ判別が付くことはない。進むボディは燃えるような夕日の作る影からぐんと伸びる腕を全て受け止めた。べたり、と腕に付着した握りしめた後。当分は消えなさそうな小さな手形は幼い子供のように。
「……幼い子供の声がします」
「ああ。そうだね。……女の声も、男の声もする」
ロトは戦略眼を用いて、この怪異を退け進むのが最短ルートで在る事を認識していた。無黒の耳には嗄れた老人の声が聞こえる。誰も彼もが、その声を聞いて、恐ろしい者に首を掴まれたような圧迫感に藻掻いている。
「……何すかね、これ……」
「お、おばけよ……。ほ、ほら、オカルトにはよくあるじゃない……? 入り込んだらお終いって……うぅ……」
膝を震わせていた奈々美はいやだと首を振り、護符に魔力を張り巡らせる。呪言に歪みの力を、空間を越えて、捻じ切れと前を塞ぐ有象無象を退ける。
無黒は小さく頷いた。怪異が広がってきているのは嫌というほどに分かる。寒気が体を覆い、足先にまで感じる重苦しい空気感。切り刻み、そして跳ね上がる。
「がんばれー!ㅤふぁいと!ㅤいけいけそこだ!ㅤごめんそこじゃなかったかも!!
うわあっ、来た! 呪われろー! ばーか!」
叫ぶ茄子子の牽制として呪いの歌が響く。迫りくる怪異を退けるべくドゥーが顔を上げ、続きジョーイが牽制を放てば、それらは道を開いた。
今だ。そう認識した無黒が突風のように走り抜ける。その目が映したのは『オカルト研究部』の看板と――その耳が、聞いたのは。
――……して! ここから、出して! 出して出して出して出して出して!!!
無数の、声。何処からともなく。棟に設置されたスピーカーがノイズを混じらせ只管に誰かの声を届けさせる。何処にも繋がっていなかったaPhoneからもその声が響く。ニコラスは「おっと」と小さく呟いて、それをポケットへと滑り込ませた。
●
扉は案外簡単に開いた。室内には転た寝をしている青年が一人きり。aPhoneからは流行ソングが流れ続け、その空間だけ何事も無かったような平穏が漂っていた。
「ひえ」
拍子抜けしたように奈々美がぱちりと大きな眸を瞬かせる。それは、此処まで戦いを続けていた誰もが同じ感想であっただろう。
ゆっくりと体を上げた青年は「ああ、……どちらさまですか」と眠たげに眼を擦っている。無黒は「映像研です」と咄嗟にその言葉を連ねた。
「こんにちは。起きたんだ? 実は、彼女さんからお願いされてさ。
君がパズルばっかりーって言うから……それって、誰かから貰ったの? 私達もそのパズル欲しかったんだよね」
にんまりと微笑みながら茄子子は首を傾ぐ。青年の掌の中にあれば、流石に壊す事はできない。タイミングを見計らう必要があるだろう。
「ああ……いや、実は色んなオカルト情報を探してて……それで、誰だったかな……誰かに、貰ったんですよ。こういうの、集めてる蒐集家、みたいな人が居るらしくって……依頼されたんだ、作ってくれって……」
訥々と言葉を溢す青年に奈々美はそれが黒幕と呼ばれる婦人かと認識した。勿論其れはニコラス達も同じだ。
「そうなんだね。それで……まあ、僕らは霊能力者なんだけれど。それは本当に危ないものだから……」
柔らかに告げたドゥーに青年は「もう少しで完成するんですよ」と首を振る。彼は、そのパズルの攻略法を『依頼人』から聞いているのだという。
熊が出来た。
鷹が出来た。
次は魚なのだ。後少しだというのに転た寝してしまった。依頼人に申し訳ないと、青年はぽつぽつと心ここに在らずと言った調子で繰り返す。
「じゃ、誰が作っても関係ないだろ?」
ニコラスの言葉に青年はぼんやりとしながら「確かに」と告げた。彼はぼんやりとパズルを見下ろしている。まだバラされている『リンフォン』
「頂きますよ」
ボディはそっと近付いて、まじまじと見遣った。
(先程までの様子は地獄の入り口が少し開いた程度だったのでしょう。開き切ってしまったら、それこそ地獄だ……)
青年とリンフォンの距離を取らすようにドゥーが少し下がっていようか、と声を掛ける。無黒はそれに近付くにつれてみょうな圧迫感を感じていた。
「こ、壊していいのかしら……ふ、ひひ……」
肩を跳ねさせる奈々美に「壊さなくちゃいけませんな」とジョーイは僅かに距離を取った。怖そうとニコラスが近付く度に、閉じたはずの扉がばんばんと誰かに殴られているのだ。各個人のaPhoneも絶えず着信を繰り返す。
ばんばんばんばん。激しい音が鳴り響くその中で、茄子子は「よーし! ひと思いに!!」と叫んだ。
ばきり、と。
音をさせて壊れていくリンフォンをニコラスは眺める。呆気もない。先程までの地獄の有様は人間の手でいとも容易く壊れるか。
「あ」
青年の声が聞こえた。
「ああああ」
何度も唇を金魚のようにはくはくと繰り返して頭をごんごんごん、と机へと打ち付ける。
「ひ、ひい……ちょ、ど、どうし……」
慌てる奈々美に頷いて無黒がその体を支える。茄子子は「混乱してるんだよ」と青年の顔を眺めて居た。
「ご執心だったもんね、リンフォン」
「……『取り憑かれてた』って表現する方がよいのでしょう。ですが、それに憑かれていても良い事は在りません」
ボディは羽交い締めにされた青年を見下ろして肩を竦めた。
「そんなものに好かれても良い気分ではありませんよ。まるで、夜妖憑きのような――……」
それ以上は言葉にせずに、息を飲んで。
●
RRRRR――――――
「もしもし」
怪人アンサーの声音は何時もと変わりない。
「リンフォンをあいつに渡した婦人って誰なんだ?」
「蒐集家(オカルトマニア)だよ。よく居るだろう?」
「……もう開かれようとしているリンフォンはないな? これで『全部』か?」
「ああ。『これで全部』さ」
怪人アンサーは嘘は吐かない。
その言葉を確認してからジョーイは「いやはや、ひよの殿の言っていたとおり!」と手を叩いた。
――『誰かの悪意の元に成り立っている可能性の方が高い』
「開いた『結果』が欲しくて、誰かの好奇心をアテにしたんでしょうな。確かに、好奇心で動く彼等は手駒にしやすい」
「そ、それって……黒幕って事でしょう……? 誰、かしら。
それにしても怪人アンサー… 聞かれたことに答えてくれる都市伝説……。
代価を払う必要があるって聞いたことあるわ……リンフォンの組み立て方の代価って何でしょうね……ふひ……今のことだって……」
奈々美は其処まで告げてから「ああ」と小さく呟いた。
無黒はうんと伸びをする。疲労感がいっきに体を包み込んだからだ。先程までの重苦しい空気はリンフォンが壊れてから漂っては居ない。
事後処理はローレットに任せればそれでいい。リンフォンだって破壊した塵全てもひよのたちに任せてしまえばそれでいい。
「そうだね。呪物を放っておくと碌な事にはならないからね。
映画で見かけるだろう? 事件解決後に続編を匂わせる様な不穏なEDをさ。それに、これを処理してしまえば黒幕なんて関係なくなるのさ」
ロトの言葉に「どういうことだい?」と茄子子は問い返す。
「……どれもコレも誰かの好奇心の上に成り立っていたのさ。怖いもの見たさ。知的な好奇心。
それでも危ない橋を渡る事を見ず知らずの他人に押しつける。そんな人間は何処にだって存在するんだろうね」
「ふうん……?」
首を捻った茄子子は「ひよの君だ。ただいまー!」とにんまりと微笑んで走り寄っていった。
ニコラスは青年のaPhoneが開きっぱなしにして居た匿名掲示板を眺めてから溜息を吐いた。『地獄パズルです』という表題は何とも言えない――だが、それがこうして『誰かを巻き込む』のだと思えば末恐ろしい。
1:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2021/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx
こんにちは。曰く付きのパズルを手に入れたのですが、誰か組み立ててはくれませんか?
攻略方法は確認して、何となくですが知っています。其れを元に組み立てるだけでOKです。
地獄の扉が開くと言われているパズルです。
偶々アンティークショップで手に入れたのですが、何方かチャレンジしてみませんか?
報酬はお渡しします。気になる方は此方までご連絡ください。
101:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2021/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx
XXX大学オカルト研究部です。良ければチャレンジさせてください!
215:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2021/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx
喜んで。
――知らない人間に地獄を開かせて、結果だけを見たかった『普通の人間』の話。
ああ、如何にも。『怪人アンサー』の好みそうな話じゃないか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
一番怖いのって………。
GMコメント
部分リク有難うございます。夏あかねです。
●成功条件
リンフォンの破壊
●リンフォン
皆さんご存じな怖い話です。其れをモチーフとしています。悪性怪異です。
完成するとどの様な効果を及ぼすか、ひよのも不安がっています。
イレギュラーズがリンフォンに近付くと奇妙な感覚を感じることとなります。
そして、近付くにつれて周囲から悪性怪異:夜妖が顔を出し、其れ等を倒さねばならないのです。
リンフォン自体には戦闘能力はありませんが、それが呼び寄せていることは確かです。
呼び寄せられる悪性怪異はどのような物が存在するかは分かりませんが、脅威となるのは確かです。
継続戦闘を意識しながら、怪異を退けリンフォンまで辿り着いて下さい。リンフォン自体は簡単に壊す事ができそうです。
●保護対象?:魅入られた青年
リンフォンに魅入られて完成させようとする青年です。悪夢に魘されています。
もうすぐ、完成するのになあ……とぶつぶつとぼやいています。
●現場情報:希望ヶ浜に存在する大学
希望ヶ浜学園ではなく外部の大学です。そのオカルト研究部の部室。
部室塔に存在し、時刻は17時。人は少ないようですが疎らに存在して居ます。神秘の露見にはご注意を。
オカルト研究部の部室は三階にあります。近付くにつれて怪異の数が増え、奇妙な倦怠感に襲われるようになります。
●怪人アンサー
ロト(p3p008480)さんの関係者。悪性怪異なのかなんなのか。
聞かれたことに素直に答えます。ただし、答えが一つでないものの場合は悪意の或る答えが返る場合があります。
さてさて、電話をすることが可能な相手ですが、あまりアテにはなりません。
●夜妖<ヨル>
都市伝説やモンスターの総称。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
関わりたくないものです。
完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に『嘘』はありませんが、不明点もあります。
それでは、いってらっしゃいませ。
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