PandoraPartyProject

シナリオ詳細

絵筆スケッチパパラッチ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●止めて止して描かないで
 ここは『伝承』、R.O.O内の世界『ネクスト』にあるエリアのひとつで、混沌世界で言うところの『幻想』だ。
 伝統国で、貴族がいて……と、雰囲気は確かに幻想だが……。
 現実の混沌でこんな事があるだろうか――絵筆を持った何人もの小僧がそこここで人を追いかけ回しているなど。
 逃げ回っているのは老若男女様々な容貌の一般人だが、その中にはアバターのままネクストに閉じ込められた練達の技術者たちも含まれている。
 小僧は街角で見かけた人の似顔絵をスケッチブックに描き、それを豪快且つ華麗に破った。直後、似顔絵のモデルであったであろう人が
「いやあああっ!」
 と悲鳴を上げながら突如その場で姿を消す。
 破られたスケッチブックのページはひらりひらりと風に乗り、煉瓦造りの建物や街路樹の幹にペタッと貼り付いた。
 一枚の張り紙と化したスケッチブックのページには、似顔絵のモデルとなり突如姿を消したその人が閉じ込められている。しかも……見事なまでのロリータ姿で。
 大人も子供もおじいちゃんもおばあちゃんも、ぽっちゃりおじさんも痩せ細ったマダムもガングロマッチョも、皆お人形さんのようにそれはまあ何ともフリッフリに着飾られてしまっていた。

 フリッフリにされてしまった人々の張り紙を一瞥し、練達の技術者のひとりが路地裏に身を隠した。
 彼はネクストでは『ピエトロ』という名のアバターで活動している。
 ピエトロはふと思いついた……
(張り紙、剥がしちゃえばいいじゃん?)
 と。
 絵筆を持った小僧に目を付けられないよう、ピエトロはそっと路地裏から出て一枚の張り紙に手を掛けた。
 張り紙の中には立派な三段腹の壮年紳士。オッサンのロリータコスプレにどんな需要があるのか知ったこっちゃないが、哀れに思いピエトロは張り紙を剥がそうとする。
 しかし、何故か剥がれやしない。紙の角を爪でカリカリカリカリしてみるが、少しも角が持ち上がらない。
 そうこうしているうちに、紙の中のロリータ紳士がピエトロにワーワーと何か警告を始めた。
 ピエトロが振り向くと、背後にグリグリ眼鏡の絵筆小僧が立っているではないか!
「ひええええっ!」
 ピエトロは無我夢中で絵筆小僧に悪質タックルをかまして逃げ出す。
 すると……。
「おお、戻った! 戻ったぞ!」
 気絶して反っくり返っている絵筆小僧と、倒れた拍子に折れたらしい絵筆が転がる傍に、あの三段腹ロリータ紳士が立っているではないか。
 しかも、ロリータファッションからも解放されて元の紳士服姿、ああ、ちなみに三段腹はデフォルトだったご様子。
 それはさておき、ピエトロは気付いた。
(絵筆小僧倒せば張り紙にされた人が解放されるって事じゃん?)
 そして、三段腹紳士が解放された途端、クエスト開始を知らせるお決まりなサウンドが辺りに流れる。
『絵筆小僧を一掃し、張り紙になった人を解放せよ!』

●お絵かき小僧を捕まえて、ていうか張っ倒して
 R.O.Oにログインしてこのエリアを訪れ、偶然一部始終を見ていたあなたとピエトロの目が合った。
 互いに互いを絵筆小僧でないと認識するまで暫し沈黙が流れたものの、あなたが絵筆を所持していないと見るやピエトロは駆け寄る。
「ねぇ、見てた? 見てたよね? それから聞いたよね? クエスト始まった音。とりあえず、手当たり次第に絵筆小僧倒してよ。あ、念のため絵筆も破壊してね。小僧倒すだけでいいのか、それとも絵筆がカギを握ってるのか、まだ分からないじゃん?」
 確かに張り紙に囚われた人を解放する手段はまだピエトロの推測の域を出ていない……小僧を倒すか絵筆を折るか、またはその両方かのどれかである事は間違いないのだろうが。
「とにかくさ、俺の仲間も何人か張り紙にされちゃってるんだよね。だから俺としても何とかしないといけないじゃん?」
 口調はどこかアンニュイで軽薄にも思えるが、ピエトロの双眸は真剣味を帯びた光を宿していた。
 それでも、あちこちの建物に手配書の如く貼り付いた張り紙を見ると……笑いを堪えるのが辛い。

 煉瓦造りの建物、石畳の道、時折通り過ぎる馬車……視界に広がる風景は現実混沌の幻想と瓜二つ。
 そんな『伝承』の一角で、これから壮絶な笑いの狭間に絵筆小僧との壮絶なバトルが壮絶に繰り広げられる――に違いない。

GMコメント

マスターの北織です。
この度はオープニングをご覧になって頂き、ありがとうございます。
以下、シナリオの補足情報ですので、プレイング作成の参考になさって下さい。

●成功条件
 戦闘クエストのクリア(絵筆小僧を一掃する)
 ※張り紙に囚われた人は絵筆小僧の一掃と同時に自動的に解放されるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 現時点で判明している情報に嘘はありませんが、不確実な要素や不明点が幾つか存在します。

●周辺環境
 現実混沌の『幻想』の街並みと酷似したロケーションです。
 絵筆小僧がうろついているのは市街地となります。
 石畳の大通り沿いに煉瓦造りの建物が並び、建物と建物の間に狭い路地があったり、馬車が駆けていたりします。

●敵について
 今回のクエストの敵は「絵筆小僧」と呼ばれる存在です。
 十数人程度いるようですが、もしかしたらもっといるかもしれません。
 単独または少数で街の中を陽気に走り回っています。
 「絵筆小僧」と呼んではいますが、グラマラスなお姉さんだったり杖を突いたご老人だったりはたまた幼い子供だったり、容姿はさまざまです。
 そのため、一般人に紛れ込んで分からない場合があります。
 しかし、彼らは必ず絵筆とスケッチブックを持っており、決して隠匿出来ない仕様となっているようですので、絵筆とスケッチブックを持っている奴は絵筆小僧と見做して問答無用にシバいて大丈夫です。
 ただし、絵筆小僧の戦闘力は全くの不明です。
 ピエトロの悪質タックルは運良く不意を突いてクリティカルとなったようですが、どの絵筆小僧もそう上手くいくとは限りませんし、何らかの反撃手段を持っていると考えた方がいいでしょう。
 会話は出来るのかな……どうでしょうね?
 全員倒す、つまり一掃するとクエストのクリアフラグが立ち、音声案内が入ります。

●張り紙について
 絵筆小僧にスケッチされて似顔絵を描かれてしまった人は、スケッチブックから破り取られた瞬間にそのページに囚われ、ロリータ姿でその辺に貼り付けられます。
 絵筆小僧を倒すか、絵筆を折るか、もしくはその両方が必要かは正確には判明していませんが、そういった感じの事をすると囚われた人は解放されるようです。
 張り紙は一度スケッチブックから離れるともの凄いパワーで必ずどこかにくっつきます。
 人力(物理的な力・魔法的な力両方含む)で剥がす事は出来ません。

●NPC
 『ピエトロ』というアバターで練達の技術者が偶然皆様と合流しています。
 一応救出対象のひとりではあるのですが、特段絡む必要はございません。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

それでは、皆様のご参加心よりお待ち申し上げております。

  • 絵筆スケッチパパラッチ完了
  • GM名北織 翼
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月20日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Siki(p3x000229)
また、いつか
ルチアナ(p3x000291)
聖女
ニアサー(p3x000323)
Dirty Angel
じぇい君(p3x001103)
オオカミ少年
アンドレイ(p3x001619)
わーるどいずまいん♂
タント(p3x006204)
きらめくおねえさん
にゃこらす(p3x007576)
怪異狩り
キサラギ(p3x009715)
呉越同舟

リプレイ


「じぇい君、頼りにしてるよぉ」
 『青の罪火』Siki(p3x000229)が『オオカミ少年』じぇい君(p3x001103)に微笑んだ。
「うんっ、悪い事する絵筆小僧は、僕たちでやっけちゃおう!」
 石畳の道を一塊になって歩く8名のイレギュラーズ……Sikiとじぇい君はその中にいる。
(絵筆小僧に「絵を描いて勝負しろ」なーてん言われたらどうしようかと思ってたが、シバいて回りゃいいってのは分かりやすくていい。気合いも入るってもんだぜ)
 『狐月三刀流』キサラギ(p3x009715)はじぇい君の「やっつけちゃおう」にひとり頷いた。
 じぇい君は周囲に目を凝らし絵筆小僧の居所を探りながら進み、キサラギは不穏な音がしないか耳を欹てる。
 ふと、じぇい君とキサラギの間を一匹の猫が走り抜け、小路に消えた。
「物陰に隠れてねぇかじっくり隈無く探し回ろう。あの猫で」
 小路に向かった猫は、『バケネコ』にゃこらす(p3x007576)が召喚し使役する猫だ。
(そうよねぇ、物陰からこっそり観察されて描かれるのが一番怖いわねぇ……)
 『きらめくお姉さん』タント(p3x006204)は建物や停車中の馬車の陰などに目を光らせつつ、
「ねぇ、絵筆とスケッチブックを持った人たちの事、何か知らないかしら?」
 と、すれ違ったマダムに声を掛ける。
 絵筆とスケッチブックなどというかさばる物を持ち歩いていたら嫌でも目立つ。
 誰かしら絵筆小僧を目撃していてもおかしくないとタントは考えたのだ。
 案の定、マダムには見覚えがあるようで、
「向こうの酒場でよく見かけるらしいから、そっちの方に行けば鉢合わせるかもしれないわ」
 と答え、タントに手を振り去っていった。

 酒場の方角に進む途中、『聖女』ルチアナ(p3x000291)の目がある一枚の張り紙に釘付けになった。
 ロマンスグレーの紳士が、ピンクと白を基調としたロリータファッションに身を包んでいる。
 良く知る人物に似ていて一瞬ぎょっとしたが、ちゃんと見れば別人だ。
(……そうよね、こんな所にいるわけがないわ。でも……このクエストにあの男がいれば、もしかしたらロリータ姿が拝めたのかしらね? ふふ)
 内心ほくそ笑んでいると、ロマンスグレーロリータが彼女に笑顔でウインクしてきた。
 何を勘違いしている? それとも自棄になったか? もしくは目覚めちゃった!?
 ……いや、そんな事は今はどうでもいい。
 ルチアナはコホンと軽く咳払いをして、
「こういうのって『肖像権の侵害』とかそういう類のものなのかしら? 知らないけど」
 とロマンスグレーロリータから目を逸らす。
(ともかく、アレでずっと貼り付けられっぱなしとか羞恥プレイも甚だしいし……元凶の「絵筆小僧」とやらをさっさと片付けるに限るわね。まぁ、苦虫を噛み潰したような顔しかしない「彼」もあの紳士みたいに少しは羽目を外せばいいと思うけれど……)
 一方、『剛力豪腕』アンドレイ(p3x001619)は、好みの年頃の男性を探り当てる独自能力を全開で進む。
 そんな彼のセンサーに一枚の張り紙が引っ掛かった。
「オッサンのロリータ姿じゃねえか!」
 張り紙には耳まで赤く染めている堅物そうな中年男性……アンドレイはそのフリフリぶりに大興奮だ。
「そういうのを着せられて恥ずかしがってる姿はグッとくるモンがあるな! いやあ滾るぜ! これが無害な絵ならもっと広まってほしいモンだが……」
 アンドレイは足元に落ちている炭屑を拾うと、それをペン代わりにして中年男性が囚われている張り紙に落書きを始めた。
「……害があるんじゃそうも言ってらんねえからな! オラよっ、俺様のサインも追加だ!」


 アンドレイが落書きを始めてから程なくして、スケッチブックが風に吹かれてバサバサ捲られるような音がキサラギの耳に入った。
「何か来るぜ!」
「うん! 敵――絵筆小僧で間違いないよ!」
 キサラギの警戒を裏付けるようにじぇい君が声を上げ、ルチアナとタントも裏道に目を光らせる。
 現れたのは瓶底眼鏡の少年たち。
「絵筆小僧は、見た目はバラバラでもみんな絵筆とスケッチブック持っているんだったね?」
 Sikiの指摘に漏れず、少年は全員絵筆にスケッチブックを所持……間違いない、絵筆小僧だ。
(ご丁寧な事で何よりさ。さあ、ぶちのめしていこう)
 Sikiは瓶底少年との距離を詰めると問答無用に一撃を入れた。
 ふぎゃっと呻いた小僧が白目を剥いて石畳に転がると、付近の張り紙が一枚剥がれて市民が一人ロリータから解放される。
 その間に、別の瓶底少年は素早く絵筆を動かしSikiを描いた。
 勝ち誇って口元を歪めた少年はスケッチブックを破るが……張り紙の中は無人だ。
 おっかしいなーとばかりにSikiを見た少年はあまりにも想定外の事態に二度見した。
 人間姿のSikiを描いていた筈なのに、眼前にいるのは龍ではないか。
 取り乱す少年にSikiは容赦なく鉄槌を下し、絵筆を取り上げ真っ二つに折る。
 また一枚ひらりと壁から剥がれ落ち、中の人が元の姿に戻った。

 更に別の瓶底小僧には、
「俺様の前には出るなよ!」
 と仲間たちに警告したアンドレイが拳を打ち込む。
 瓶底小僧は咄嗟にスケッチブックを盾にするが、スケッチブックはアンドレイの拳に吹き飛ばされ、彼が背後に作り出した「もう一人のアンドレイ」が追撃を入れた。
 拳打を頬に食らった小僧の瓶底眼鏡が清々しい程に粉砕し、小僧は目を白黒させながら蹌踉めいた後、ばたりと倒れた。


 瓶底絵筆小僧らを倒した直後、安堵する暇もなく今度は一本先の通りから悲鳴が上がる。
「皆様、向こうから悲鳴よぉ!」
 タントが仲間を先導するようにして駆けた。
 到着した先には、大御所風を吹かせている老人と可愛らしい少女に背の高い青年といった出で立ちの絵筆小僧たちがおり、スケッチブックのページは既に破られた後だった。

 少女絵筆小僧は、駆けつけたイレギュラーズたちの方を向くなりスケッチブックに絵筆を走らせる。
「ごめんなさいねぇ? ちょっと……いいえだいぶ眩しいわよぉ!」
 タントの体が放つ最大光量が少女絵筆小僧に向けられた。
「ふふっ、良い子は真似しちゃダメよ?」
 良い子じゃない少女は目を眩ませ、そこに
「……ったく、『小僧』って言うならちゃんとそれっぽい姿形をしてほしいわ」
 と、ルチアナの一手。
 少女はやや離れた位置からのそれをひょいっと躱すと、絵筆の穂先をルチアナに振った。
 色とりどりの絵の具が飛沫となってルチアナを襲い、自慢の尻尾に付着した途端彼女は思わず鼻を摘まむ。
 スカンクも真っ青な刺激臭がルチアナの尻尾から漂い、鼻が、目が、何だかおかしくなりそう。
 少女は悶絶するルチアナを見て恍惚に入りながらスケッチブックに絵筆を走らせるが、描き終える前にルチアナはしつこく反撃を繰り返した。
 やがて業を煮やした少女はルチアナとの距離を詰め、絵筆でめった打ちにしようと振りかぶったが、
「近寄って殴る、よし、分かりやすくていいじゃない?」
 とルチアナの渾身のボディブローが炸裂、少女は倒れる。
「あ、せっかくだから張り紙解除フラグが何なのかを確認しておきましょう?」
 タントが気絶した少女とその手から転がり落ちた絵筆を凝視していると、彼女の目の前で突如絵筆がひとりでに折れた。
「絵筆小僧を倒すと、絵筆も折れる仕組みのようね?」
 そういえばピエトロが悪質タックルをかました時も直後に絵筆が折れている。
 てっきりタックルで小僧が倒れた拍子に折れたものと思われたが、小僧が戦闘不能になる事で絵筆が折れる仕組みならば、ピエトロがそう勘違いしてもおかしくはない。
「要するに……絵筆云々より、ぶん殴って沈めちゃえばいいって事ね」
「簡潔明瞭だわぁ」
 ルチアナとタントが交わす笑みは、優雅なのに何となく怖い。

 一方、青年絵筆小僧はアンドレイの横に回り込み素早く彼を描く。
 振り向いたアンドレイは青年絵筆小僧に拳とともに電撃を送り込むが、青年絵筆小僧は咄嗟にスケッチブックを老人絵筆小僧に投げ、命からがら逃げ出した。
 スケッチブックを受け取った老人絵筆小僧の視線が『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)と交錯する。
(あ、ニアサーの顔覚えられちゃった。記憶を頼りに描かれたら打つ手無いよね)
 ニアサーが腰の刀に手を掛けるのを見た老人絵筆小僧は真っ青な顔をしながら全速力で逃げ出した。
 敵の逃亡だけでも腹立たしいというのに、この状況で突然発生した『内部エラー:00600』が更にニアサーを苛立たせる。
「なんだろうなんかムカついてきた!」
 ……かと思いきや、今度は物悲しくなり、そこから急に泣きたくなる。
 老人絵筆小僧、なぜあなたはニアサーを置いていったの?
 ニアサー、フリフリなドレスは大好きだよ。
 ロリータな感じに可愛く描いてくれるといいな……いや、それはまずいのかな、うん、まずい!
 目まぐるしく変わる感情をそのままに、ニアサーは老人絵筆小僧を追いかけた。


 大通りに出たニアサーは老人絵筆小僧を捜すが、その間に同じ通りでグラマラスなお姉さんが絵筆を走らせる。
 悲鳴が上がり、露店の若い看板娘が張り紙になると、ニアサーはグラマラス絵筆小僧を相手取った。

 若い看板娘のロリータ姿は……超絶可愛らしい。
 にゃこらすはひとまず猫に老人絵筆小僧を追跡させるが、視線はついつい娘に向く。
 「ちょっとこのプリティな猫の目には映らないですね」とばかりにロマンスグレーや中年男性に見向きもしなかったにゃこらすだが……女の子の本格正統派ロリータにすこーしばかり興味があって何がいけない?
(分かるわ……んん、私には似合わないけれどロリータ服自体はかわいいわよね。素敵なお嬢さんたちがひらひらさせてるのは私も嫌いじゃないわよ?)
 ルチアナが内心にゃこらすに賛同している間に、猫と五感を共有するにゃこらすの眼光が鋭くなった。
 ここから離れた場所で、老人絵筆小僧が先程青年絵筆小僧から受け取ったスケッチブックを破ったのだ。
 にゃこらすはすぐに視線をロリータ娘から外し、老人絵筆小僧のいる方に駆け出す。

 グラマラスお姉さんは絵筆を持っているが、豊満なバストの陰に隠れてスケッチブックの存在が確認出来ない。
 絵筆とスケッチブックの両方を持っていて初めて「絵筆小僧」なのだが、ニアサーに迷いはない。
 クエスト窓を開いてルールを再確認、
「ヨシ! 誤殺するなとはどこにも書いてないね!」
 と小さくガッツポーズをするとともに斬り掛かる。
 流麗な二連撃は、緩やかで心地よい死を運ぶ風。
 グラマラス絵筆小僧は風に乗って飛んでいき、折れた絵筆が空から降ってきた。


 しかし、ほっとするも束の間、いつの間にかアンドレイがいない。
 全員嫌な予感を覚え辺りを見回すと、酒場の看板に鮮やかなピンクのドレスを纏ったアンドレイが貼り付いていた。
(やっぱり、さっき老人が破いたページにはアンドレイが描かれていたか……)
 眉間に皺を寄せるにゃこらすと言葉が出ないイレギュラーズたちに、アンドレイは懸命に何かを訴えている。
 彼の身振り手振りからどうやら酒場の裏通りで絵筆小僧が数多走り回っている模様だが、そこに至るまでに別の絵筆小僧が待ち伏せをしている事にじぇい君が気付いた。
「タントお姉さん、あの小屋の陰に隠れてるよ!」
 イレギュラーズたちは警戒しながら距離を詰め、手始めにタントがじぇい君の指示を元に小屋に近付き、目眩ましの光をガツンと浴びせる。
 タントの行動はこれに止まらない。
「そんな所に隠れていないで……さぁ。楽園へご招待、よぉ」
 親指の節を甘く噛むのは誘いの合図。
「皆様には聞こえるかしら? 甘く蕩けるような林檎の嬌声が。恍惚の世界へようこそぉ……うふふっ」
 うっとりした目で天を仰ぎ、心ここにあらずな潜伏絵筆小僧たちに、
「遠慮はいらんと聞いてるんでな、容赦なく行かせてもらうぜ!」
「私も早く帰って尻尾を洗いたいのよね」
 と、キサラギとルチアナが出た。
 ルチアナの一撃が絵筆小僧のひとりを石畳に叩き付け、キサラギの稲妻の如き太刀筋が別の小僧に一閃走る。
「こう見えて、抜きの速さにゃ自信あるんだぜ?」
 電撃迸る一閃は更に流麗の氷刃を呼び、凍てついた小僧を打ち砕いた。
「よしっ、ここにはもう絵筆小僧はいないみたいだね!」
 じぇい君が残党がいない事を確認すると、イレギュラーズたちは一気に裏通りに駆け込む。


 酒場の裏通りにいる絵筆小僧は鳥の姿に日焼けマッチョに仮面マダムに……ええい、数もバリエーションも無駄に豊富だな!
 もちろん、あの青年と老人の絵筆小僧ペアもいた。
 にゃこらすは老人絵筆小僧を今度こそ逃がすまいと背後に回り込み、炎を焚き付ける。
 スケッチブックの裏表紙が焦げ、老人絵筆小僧は怒りに任せてにゃこらすに殴りかかった。
 想像以上の威力で絵筆が振り下ろされ、にゃこらすは激痛に頭を抱え、その間に老人絵筆小僧はにゃこらすを描く。
 しかし、にゃこらすは
「俺の変化は千変万化、写し撮れるというのならやってみるがいいさ」
 と虎や豹などにコロコロと姿を変え始め、老人絵筆小僧はキーキーと白髪を掻きむしった。

(この数じゃしょうがねぇ、「奥の手」出すか)
 キサラギは周囲を一瞥する。
 裏通りと言う割には意外と広く、絵筆小僧が何人もいるせいか市民も見当たらない。
 仲間たちに少し退くよう声を掛けた後、キサラギは絵筆小僧たちの前に飛び込み強烈な炎を発した。
 炎は絵筆小僧たちを呑み込まんと燃え広がり、マッチョや仮面マダムらは倒れ、絵筆も灰になる。

 しかし、キサラギの炎を辛くも逃れた鳥姿の絵筆小僧はじぇい君を描き始めた。
 じぇい君は鳥小僧をポカスカと二発殴るが、鳥小僧は威嚇するような鳴き声を上げ凄まじい勢いで続きを描く。
 じぇい君の脳裏に、フリフリ衣装で見世物にされている自身の姿が浮かんだ。
「僕は……僕は男の子なんだぞ! 一度そんな目に遭わされたら、恥ずかしくて外を歩けなくなるじゃないかっ!!」
 じぇい君が大声を上げると、
「大丈夫よ!」
 とタントが入り、眩い光で鳥小僧の目を眩ませる。
「わたくしに続いて! きらめけ、わたくしの――」
 タントは流星の如き二本の光を鳥小僧にぶつけ、じぇい君に反撃を促す。
 至近距離から繰り出されたじぇい君の渾身の一撃は、鳥小僧を鮮やかに吹っ飛ばした。
 既に戦闘不能状態で絵筆も折れた鳥小僧に、じぇい君は
「ねえ、何で街の人たちをフリフリで閉じ込めたの?」
 と尋ねてみるが、鳥小僧は小首を傾げるばかりだ。
 恐らく、バグで発生したクエストの中で「敵」として存在している以上の事を認識してはいないのだろう。
 今の鳥小僧から敵意を感じられないじぇい君は、
「もう二度と、こんな事しちゃ駄目だよ」
 と太陽のように明るい笑顔で諭す。
「コケ!」
 鳥小僧は「分かった」とでも言いたげに返事をし、そのまま気を失った。
 
 一方、ロリータ化前のアンドレイに殴られ既に満身創痍の青年絵筆小僧は、最後の気力でスケッチブックに絵筆を走らせようとするが、そこに
「にゃはは! これで絵を描くのを防いでやる!」
 とにゃこらすが飛び出す。
 青年絵筆小僧はにゃこらすの突撃を運良く躱し描画を続けようとした……が。
「探しているのは『コレ』か?」
 青年小僧が今の今まで持っていた筈の絵筆をにゃこらすが咥えているではないか。
(アンドレイを張り紙にした絵筆小僧かぁ……最優先だね)
「ねぇね、描くのやめてほしいなぁ、なんてさ?」
 絵筆を取られて唖然とする青年小僧を、口調に似合わぬSikiの苛烈な一撃が叩きのめした。

 味方を失い追い込まれた老人絵筆小僧は、やけっぱちになり描きかけのニアサーの絵を仕上げに掛かるが、次々と表情を変える彼女を結局上手く描けずいよいよ慌て出し、横道に逃げ込もうとする。
 しかし、にゃこらすがそれを阻み、何発も殴りつけた。
 にゃこらすの攻撃を避けられず食らってばかりの老人絵筆小僧の斜め後方に、ニアサーが回り込む。
(ニアサーの表情がコロコロ変わって描くのが難しかったから未完成なのかな? でも、けっこう可愛く描けてる)
 スケッチブックにある描きかけの己の姿を見たニアサーは、刀の柄から手を離すと、がっちり固めたグーを老人絵筆小僧の後頭部に叩き込んだ。
「斬り捨てないのはせめてもの慈悲だよ、うん。クエストこなさないわけにはいかないからね」
 老人絵筆小僧は視界に満点の星をちらつかせながらうつ伏せに倒れた。


 老人絵筆小僧を倒した直後、軽快な音楽とともにクエストビューに「CLEAR!」の表示が出る。
 強固に貼り付いていたロリータ張り紙は、今はもう一枚も見当たらない。
「さてさて、みんな元に戻ったかな……」
 Sikiが周囲を見回すと、張り紙は全て消えていた。
(ふふ、まぁふりふりのロリータを着たみんなを見るのも、ちょっと面白そうだったけれど、ね)
 そんな願望も秘かに込めながら、Sikiはクエストクリアという結果に微笑む。
 この後無事にアンドレイも合流、絵筆小僧を一掃したイレギュラーズたちはピエトロや救出した技術者たちを連れてこの街から『ログアウト』した。

成否

成功

MVP

タント(p3x006204)
きらめくおねえさん

状態異常

なし

あとがき

マスターの北織です。
この度はシナリオ「絵筆スケッチパパラッチ」にご参加頂き、ありがとうございました。
少しでもお楽しみ頂けていれば幸いです。
今回は、要所要所できらめいたあなたをMVPに選ばせて頂きました。そして、斬っては捨て斬っては捨てと奮闘したあなたに称号をプレゼントさせて頂きます。
改めまして皆様に感謝しますとともに、皆様とまたのご縁に恵まれますこと、心よりお祈りしております。

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