シナリオ詳細
NEXT『Gabriel』
オープニング
●
――VRMMO『Rapid Origin Online』
それは練達の科学者達が作り出した仮想空間の事だ。
フルダイブ型仮想空間とも言うべきこの世界は『練達』の三塔主も関わっており、かの国の一大プロジェクトでもあった。しかし予期せぬ――いやあらゆる安全装置を突破して発生した深刻なバグによりR.O.Oの世界は既に彼らのコントロールを離れている。
内部に取り残された研究者などもいて……それらの救出や、或いはバグ発生の調査協力がローレットへと舞い込んだのが少し前の事。やがてイレギュラーズ達もこの世界で活動するアバターを作りて、徐々に活動が始まりつつあった――
そして。
「――ようこそ皆さん。我が屋敷にご足労頂き、感謝申し上げます」
眼前。ある屋敷へと招待されたイレギュラーズ達を出迎えたのは幻想三大貴族の一人、ガブリエル・ロウ・バルツァーレク――
ではない。
彼はR.O.O世界……『ネクスト』と呼ばれる世界の中にある『伝承(レジェンダリア)』の貴族NPCのガブリエルだ。伝承とはネクストが生み出された時に形成された混沌世界における幻想王国とも言うべき存在。
そして『この』ガブリエルもまた、伝承と共に誕生したNPCである。
念のため言っておくと混沌世界に存在する遊楽伯がログインしているアバターという事でもない。完全な別人だ――尤も、外見に関しては瓜二つと言っていいが。
「実は困った事が発生しておりまして、皆さんの協力を是非頂きたいのです。
地下には我が家の誇るワイン蔵があるのですが……そこに魔物が発生しまして」
「――魔物」
「ええ。これが中々強く、とても手を焼いております」
なんでもスライムが現れたらしい。どこから侵入したのか……いやそれはあまり重要な事ではないか。この世界には各地にバグが蔓延っている――突然地下に発生したと言われてもあまり不思議な事でもないからだ。
ともあれスライムはワイン蔵に陣取り、近寄ってくる者へと襲い掛かってくる。
これでは次のパーティにワインが出せぬと……
「それで、スライムを排除すれば良い訳ですね?」
「そうです。どうかお願いします――このままでは地上に登ってこないとも限りませんし」
「分かりました」
まぁそういう事なら望みを果たすとしよう。
行方不明の研究者などの救出ではないが、ゲームの『クエスト』とも言うべきこの案件……ここで伝承のNPCに顔を売っておくのも悪くない話だ。紡がれた縁がどこかで花開く事もあるかもしれない――と、その時。
「ああそれと」
ガブリエルが言葉を紡いだ。
なんだろうか、まだ何か話していないことでもあったか――?
そう思っていれば、彼は女性の姿を持つイレギュラーズへと近づいて。
「如何でしょうか。事が片付いた暁には、ワインでも一口。ああもしもアルコールがよろしくないという事であればティータイムでも。砂嵐の方から仕入れた最高級の茶葉もありますので」
「え、えっ? あの、遊楽伯?」
距離が近い。
なんだろうかこの違和感は――いや、違う。『これ』が伝承の遊楽伯だというのか。
そういえば聞いたことがある。彼は……伝承の彼は、数多の浮名を流す人物だと。
まぁ、その。簡単に言うと――
「いえこの際、魔物を討伐出来なくても構いません――
お美しい貴女と共に一時を過ごしたいのです。
それこそが、私のささやかなる願いであれば……」
めっちゃ『手が早い』人物なのだとか。
女性の手に取りその甲に――キスを――
「わ、わわわわ――!!」
それは貴族にとっては挨拶の様なものかもしれないが。
しかし現実の遊楽伯とは、やはり違う! 現実の彼は派閥間バランス故に特定の人物を意図的に持たぬ様にしている為、女性にはあまり触れないはずだ。ダンスも踊らない様にしているという噂もあって……だからこの積極性は、なんだ、その!
「おや――ふふ、すみません挨拶のつもりだったのですが……
ともあれ皆さん、よろしくお願いしますね」
だが微笑む彼の表情の色は、現実世界の彼とこれまた瓜二つ。
ああ――これがR.O.O世界における『差』なのかと、誰かが呟いた。
- NEXT『Gabriel』完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年05月24日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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地下。薄暗いその空間に――確かな敵意を感じていた。
しかし驚くものだ。『この世界』はこれほどリアルに全てを投影しているのかと。
「いや事前に説明は受けていたけどね……でもまぁそれはそれとしても。
どうしてこんな姿になってしまうのか……」
己が体を見据える『誰彼』ハイタカ(p3x000155)――いや、今は女の姿である為コノリと名乗っているのだが――は、常なる体との違いに困惑しつつもワイン蔵へと歩を進めていた。
男の姿でログインする筈が、どうして女で……
まぁ予期せぬ『バグ』もあるのだと、それも聞いていたが――このボディで一体どこまで戦闘が上手くこなせる事か。不安がありつつも、やがて後のお楽しみのワインも待っているとなれば期待する心も片隅にあるものだ、が。
しかしこの世界、やはりというかなんというか、色々と驚きが多いものである。
コノリと同様に己が姿との違いは当然として――『あの』伯爵の様子にも――
「あれがこちらの遊楽伯様なのね、雰囲気は、以前現実の方でお会いした方ととてもよく似ていたけれど――やっぱり違うんだわ。ねぇ、P.P.さん」
「…………」
「……大丈夫? 意識ははっきりしてる? これから戦闘よ? これからが本番よ?」
現実とR.O.Oの者は異なると『氷神』吹雪(p3x004727)は理解していたが――やはり『まだ何も知らない』P.P.(p3x004937)にとっては色々と衝撃が大きかったか。沈黙。の後に震える全身が指し示すのは彼女の動揺。
――も、もうっ! 何! なんなの!
あの方は本物の伯爵じゃないって、わかってるのに!
……わかってるのに……」
「凛としたお顔も、優しい声も、く、く、くち……づ、けの感触も……だ――!!!!!」
超高速で頭を振るP.P. だ、ダメよ! こんなので心を惑わされては駄目!
とにかく、は、伯爵から依頼されたスライムをなんとしても討伐せねば――!!
そうだ心ここに在らずの場合ではない。ここのスライムは……ガチ目に殺しにかかってくるらしいのだから。元々奴らの様な存在にあまりいい思い出はないのだが、それを抜きにしても明らかに危険な奴らである。
コノリの優れし聴覚が周囲の物音を捉え、同時に『ツナ缶海賊団見習い』エクシル(p3x000649)は借りたランプなどを用いて近くを照らしながら海賊猫としての目を用いて目視で索敵も行おう。
「あんまり離れすぎない方がいいニャ。
こういう時、奴らはいきなり降ってきたりするものニャ……」
「うんうん、強酸性の体なんだっけ? わーぉ、えっちなスライムかと思ったら殺意満点じゃないですかやだー! うぅ、とても放送できない身体になっちゃうよ――!」
R-18どころかR-18Gの世界が垣間見えると『新米P-Tuber』アカリ(p3x008467)はエクシルに続いて言を。とにもかくにも警戒せねばまずいと、彼女が見据えるのは上の方だ。
飛び乗れる棚があれば跳躍し、カンテラの輝きを周囲に満たす。
どこかにいるのは確実なのだ――どこだ? どこにいる?
目を凝らし耳を澄ませて。ゆっくり、ゆっくりと歩を進めていれ――ば。
「――来るぞ」
その殺気を感じ取った一人が『君の手を引いて』ディリ(p3x006761)だった。
先頭を行く彼に飛び掛かる様に至るスライム――を受け止める。
今は見える限り一体。足止めするだけでも奴らがその身を摺り寄せてくれば体力を削る様な酸性の痛みが走るものだが、しかしディリ自身の体力にもまだまだ余裕があればこの程度どうという事はなく。
「ワイン蔵も多少壊れて良い、ならばやりようもあるものだ」
「ああ――さって、初仕事だ。やれる限りやらせてもらおうかね」
そしてその動きを『職業無職住所不定』ダリウス(p3x007978)が援護するものだ。
常に勘を働かせていた彼は、自身に迫る悪意や敵意がないかを警戒しながらディリが受け止めるスライムへと撃を。余波でワインが割れる事があるかもしれない――が、そこは吹雪の力もあれば最小に抑えることが出来るものだ。
彼女の宿す、空間を凍結させる力が場の保持を務める。
あとはどれだけスライムを一刻も早く撃滅出来るか、だろう。故に。
「パーフェクトを目指していきましょう! 幸い、スライムの数は多くないですし――ね!」
『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)の一撃もスライムへと叩き込まれるものだ。
ランタンを照らして奴らの姿を捉えて。暗闇を払い、万全にて戦おう。
例え馴染み無きこの『ネクスト』の世界であろうと――やるべき事は変わらないのだから。
●
スライムが液体を飛ばせば激しく溶解する音が響き渡る――
服だけ溶かす不思議な液体とかそういう系じゃない。
肉だろうが木材だろうが全てを溶かす殺意100%の代物である。
「どんとたっちみー! イレギュラーズが骨ごと溶かされる図とか求めてる視聴者はいないんだよ! R.O.Oの世界は健全世界! 年齢制限なんてないんだから――!!」
直後。カウンター気味に動くのはアカリだ。
蕩ける音が耳へと届けば奴らの危険性をこれでもかと本能に伝えてくるが――ええい、こんなものに臆していられるか。いやむしろ臆せば動きが鈍り死が近づくのだと、彼女は往く。
奴らを吹き飛ばすように。触るな触れるなこっちに来るな!
「飛ばしてくる液体もそうだけど、体当たりにも気を付けるニャ! 一気に取り込んで来ようとしてくるニャ……!」
「全く――困ったものね。
幾ら凍結させているとはいえ、あまり派手に動けば壊れないとも限らないのだけど」
更にエクシルの猫の如き動きから繰り出される一撃がスライム達の防御を貫く――が、向こうも中々タフなのかそうそう簡単には倒れる気配が見えない。周囲のワイン蔵の状況は吹雪が引き続き空間を凍結させて守っているものの……戦闘が長引けばやはり被害は出てしまうものだ。
「まぁ。長引かせる気もないのだけれど――ね」
故に吹雪は銀なる世界を作り出す。
それは雪と氷の世界を創り出さんとするばかりの――冷気。
全てを凍らせ全てを砕く氷雪の神が使う御業の再現だ。さすれば粘液体どもは縮む様に怯えて。
「さて。奴らの頭の回り具合はどんなもんかね――と」
直後。ダリウスの一撃が奴らへと見舞われた。
それは多少距離を取っての一撃。怒りを誘わんとするような、絶妙たる撃だ。
多量の体で包んでくるよりは体を切り離して飛ばしてくる一撃の方がダメージが小さいだろうと。ならば甚大なる一撃に繋がる確率は低く故にダリウスは誘発させんとして。
「よし。情報のあったスライムは三匹とも出てきたみたいだし……このまま押し込もう。
強酸性だろうが一気に攻め立てれば何も問題あるまいよ」
「ああ――ではもう少し引き付けるとしようか。
さぁ! お前達の攻撃はそんなものか! どうした、こっちだ! 来いッ!!」
そして奴らの動きを更に制限するようにディリとコノリが引き付ける動きを。
イレギュラーズ達の方が、数の上において優勢なのだ。スライム達に攻撃は確かに強力ではあるが……多くの者に被害が行かぬ様に立ち回れば奴らの脅威を減らすことが出来るとばかりに。特にコノリは体力が削れている者を庇う様に立ち回る。
無論――それは危険でもある。粘液は依然として殺意の塊。
触れれば熔ける体全てが。激痛生じれば嫌な『リアル』もあったものだと顔を歪めて。
「だが……まだまださ!」
それでもコノリは撃を飛ばしてスライムらの力を吸収するように。
体力を温存し少しでもその場に長く留まらんとするのだ。
一分一秒でも長くこの場に残る事が皆の支援になるのであれば。
「液体の体だからって――お生憎様ね」
と、直後。行くはP.P.だ。
彼女の剣の瞬きは全てを凌駕する。切るは体ではなく、魂だ。
「スライム如きに、遅れなんて取らなくてよ!
伯爵様の膝元に現れた不遜……許しを請いながら逝きなさい!!」
――両断。狙うは皆の攻撃が集中している一体へと。
さすれば弾ける様にスライムの体が飛び散った。一個体として維持できる力すら失ったか。
残り――二体。ディリ達に迫っている個体を倒せば、終わりだ!
「さぁって! 覚悟してもらいましょうかね――!」
故にカノンも往く。自らの身体を強化し、残存のスライムに砲火を集中させるようにすれば。
「魔力にはまだまっだ余裕があるんです。たっぷりと浴びせてあげますよ!!」
――直撃させる。連射、連撃雨あられ。
事前に伯爵に地下の構造も聞いていたのだ――可能であれば後ろを取れるようにと立ち回り、彼女の撃をスムーズに奴らへと届かせよう。後は……この三体以外にもいないか警戒する事も重要か。
スライムだしもしかしたら分体がいるかもしれないと。
構造上、見えにくい死角となりうる位置にも注意を払って――彼女は奴らを追い立てる。
『――!!』
さすれば身を大きくスライム達が振るわせた。
己が危機を察知したのだろうか――? 命を奪われてなるものかと暴れる様に。
放つ液体。己が身を削ってでも、脅かしてくる者らを殺さんと抵抗しているのだ。
「ぐっ――! し、っかし、この程度で、退くとでも思うかッ――!」
それは特に近くにいたディリやコノリの身を溶かし尽くすものだ――が。
踏みとどまるディリの瞳に諦めや後退の意思はない。
これは奴らの最後の抵抗。ならば正にここが正念場であるのだから――
「ああ――ここで終わりだ。お前らの好き勝手もよぉ!!」
「番組終了のホイッスルは鳴ってるんだ! 視聴者に届ける画面は、ハッピーエンドで十分さ!」
瞬間。ダリウスとアカリが一歩前へと踏み込んだ。
スライム達は散々液体を飛ばしまくった後に、近場の者を取り込み殺そうとしてくる――だがさせぬ。その前に撃滅する。ダリウスは吹き飛ばす様に身を割り込ませ、そしてアカリは迫るスライムを弾き飛ばすように。
「いっけぇ――ッ!!」
掛け声一つ共に――スライムの体を消し飛ばした。
酸性の体がワインへと直撃する……が、それは吹雪の結界が全てを守って。
「ふふ。これで伯爵様に良い報告が出来そうね――P.P.さん?」
「え、ええそうね! きっと……ええ、そうね」
故、ならば、と。
吹雪はその手に抱いていた氷の槍を解除してP.P.へと言葉を紡ぐ。
ワインも大部分以上が無事に済んだのだと。後は伯爵に報告するために――帰還するとしよう。
●
「おお、やはり皆さんに依頼して正解でしたね――この度はありがとうございました」
地下から出でたイレギュラーズ達。遊楽伯爵は笑顔と共に彼らを歓待する――
テーブルの上に幾つかのワインと紅茶が並んでいれば、芳しい香りがするものだ。
無論、ワインは全く被害にあっていない代物をここに運んできた訳であり。
「ニャー! ああ、この温かな味わい……一息つけるというものだニャー」
「ふふ。お口に合えば幸いなのですが」
「そうニャ! ガブリエル様は普段、どんなお仕事をされてるんですかニャ? やっぱり貴族として色々しているんですかニャ?」
「ふむ――仕事ですか、そうですねぇ……」
伯爵より上質なミルクティーを頂いたエクシルは、そのまま伯爵と言葉を交わす。
現実側と何か差異が無いか知れれば良いと興味があるのだ。
そして、どうやら聞いた話の範囲内では現実とあまり異なる、特徴的な事はない……様に感じた。貴族として領地を統括し、王都に時折出向いて王とも話し……
ただ。現国王がフォルデルマン二世――だからか?
どうやら現実とは異なり職務などにそこまでのストレスは感じていない様であった。かの王の下に貴族たちも『比較的』だが纏まっているからだろうか?
「……しかし随分と多いワインを蓄えていらっしゃるようで。
全て伯爵ご自身で楽しまれる――という訳ではありませんよね?」
「ははは、流石に私一人でどうこうしうる量ではありませんよ。ただ、パーティの際などは多くの来客がありますからね……そういった際に出している次第です」
と、その時。戻ってきたディリは伯爵に声を紡ぎながら彼の様子を観察していた。
あった時から感じていたが……やはり随分と手の早い人物の様だ。
自らが『現実』で知る伯爵とは、似ていても似つかない――
「……イオニアス動揺、全く同じ別の世界だからなのか」
まぁ、少なくとも今は構わない。個人の在り方がどうだのとは。
ただミドリに手を出しさえしなければ、それで。
「わーい! なんとか無事に済んだね! じゃあ、はい!
伯爵もカメラに向かってぴーすぴーす、面白いことになるね!」
「おや。こう、ですか? ふむ、不思議なモノもあるものですね」
そこへ至るのはアカリだ。ティーセット共に楽しみながら、彼女は伯爵の下へと。
ドローンカメラと共に伯爵と映らんとせん――自然体な形でアカリの方を自らの方へと抱き寄せるのは、これがROOとの違いという事だろうか。笑顔と共に、一枚撮って……であれば、やっぱりミドリがいたら危なかったかもしれないとディリは吐息を一つ零すものだ。
「ふふ……この香り、素晴らしい。R.O.Oでもここまで再現されるとは……
遊楽伯が絶賛されるだけの事はある。
しかし、もしかしたら現実の伯爵邸の地下にも同じものがあるかな……?」
「伯爵! このような上質のワインをありがとうございます……! あとは、是非、是非伯爵ご自身のお話も伺ってみたい所なのですが……!」
「はは。私に何か面白いような話はありませんよ。ああ、ただそうですね……これはフォルデルマン二世陛下が、ご子息のカイン様と一緒にいらっしゃった時の話なのですが……」
更にコノリが遊楽伯より差し出されたグラスの中のワインを匂いから堪能し。同時にカノンは依頼を達成した満足感と共に、伯爵へと言葉を紡ぐものだ。彼の武勇伝でも聞くことが出来ればと思考しながら。
「リ……じゃない。P.Pさん? 貴女は伯爵様の所へは行かれないの? ほら。伯爵様はずいぶんと女性の扱いがお上手みたいだし――あのままじゃいつの間にか女性と一緒に姿を消してるかもしれないわよ?」
「う、ううう、ううう……!」
和気藹々と盛り上がりを見せる中で吹雪はP.P.へと言を。
成程やはり現実よりも『手が早い』ようだと確信する。
一体どれだけの女性を泣かしてきたのかと――思っていれば。
「それは心外ですね。
私は、ただありのままの言葉を美しい華の方々に投げ掛けているだけですよ」
「――あら、伯爵様」
いつの間にこちらの方へ、しかも言葉も聞いていたのかと吹雪は心の臓が高鳴って。
「何。例え会場の端にいらっしゃろうと……いえ、むしろ斯様な場所に咲く一輪の輝きがあるからこそ目も、耳も離せなくなるものです。どうですかワインの味わいは? 芳醇なりし貴方の魅力に負けていなければよいのですが」
「全く、お上手な事で」
近い。耳元で囁かれるような言と共に、伯爵がすぐそこにいる――が。
「ですが。私よりもこの子の方を。伯爵様をお慕いしている者でして……」
「え、ちょ、ほむ、吹雪ッ!?」
己の心臓の鼓動を高めている場合ではないのだと、背中を押してP.P.を差し出す。
自らの高揚感を誤魔化すように。
さすれば頭が真っ白になるのはP.P.の方だ。伯爵が、そこにいる。
「あ、えと、伯爵、様、その」
言葉はしどろもどろ。違う、ここにいる人は違うと分かっているのだけど。
どうしても口から言の葉が紡げない。
その瞬間にも伯爵は近づいてくる。そして、P.P.の手を握るようにすれば――
「――美しい」
「へ、ぁ!?」
「P.P.さん、でしたね。お初にお目にかかります……しかし私の目も曇っていたものです。このようなお方がいらっしゃっているというのに挨拶もそこそこにしていたとは……我が身の不遜をお許しください」
伯爵が紡ぐ言葉の全て。彼の視線はP.P.の美の全てに注がれて。
だがP.P.の思考はソレにどう感じる以前に既に彼方へと吹き飛んでいる。
かつてないほどに己の血が沸き立っていることを感じて――
その様子をダリウスは遠目から眺めるのみ、だ。
助け舟も何も必要あるまい? ケッケッケ!
だから。
――いかがでしょうか。後程、我々だけでお会いしたいのですが――
伯爵は言葉をP.P.の耳元へと。
その言葉を最後に。彼女の目の前はゆっくりと薄桃色に染まっていった。
ただ覚えている事は彼の言にゆっくりと頷いたこと。
覚悟を決めて。全てを受け入れようと――
●
「――あれ?」
直後。目を開いた後に広がっていた光景は朝食の場面であった。
……あれ? なんか、おかしくない? あれ? なんか時間跳んでない?
「?????」
P.P.の思考は巡りまくって。
やがて辿り着いた結論は――一つ――
「はぁ!? まさか、おい、ちょ、待ちなさいよッ!!
なによこの展開……ふざ、ふざけんなコラ!! 何を時間吹っ飛ばしてんのよ!!
今のイベントシーンだったでしょどう考えても!! 再生しろコラ――!!」
何者かの干渉か、それともそういう風に進むのか分からないが。
P.P.は万感の思いを込めて、近くにあった花瓶を適当に壁へと放るのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
wwwwwwwww
という訳でROO依頼、お疲れさまでした!!
MVPはワインへの被害を減らすことが出来た貴方に!
ありがとうございました!!
GMコメント
●依頼達成条件
なるべくワイン蔵の被害を抑えながら地下のスライムを撃破する
●フィールド
伝承の遊楽伯爵邸地下のワイン蔵。
そこそこ広い地下空間です。どこを見渡してもワインが保管されています。
明かりはありませんが、遊楽伯がランプを貸し出してくるみたいですので特別に明かりを用意する必要はありません。ただ、他にもなんらかのアイテムやスキルなどがあれば有効だったりもするでしょう。
この空間のどこかにスライムが潜んでいますので撃破してください。
なお遊楽伯からは撃破を優先してほしいとのことですので、ある程度はワインに被害があっても問題ないそうです。全損したら流石に苦い顔をされるかもしれませんが……
また、スライムを倒した後はお礼の茶会に招待されています。
ワインを飲める人にはワインが。そうでない人には紅茶が差し出される事でしょう。
この世界のガブリエルと接してみてもいいかもしれません。
なお戦闘で死亡(デスペナ)を受けたとしても、再ログインしてまた来たという扱いで茶会には参加できることとします。
●敵戦力『スライム』×3
スライム。いわゆるよくいる液体状の魔物です。
ゲームとかでもよくいますよね。そうそうあのスライムです。
……が、侮るなかれ。奴らはめっちゃ殺意が高いです。
スライムだからどうせへっちな事をしてくるんでしょう――とか思ってたら与太一切抜きで殺しに掛かってきます。へっち? なにそれ。これは殺し合いだよ? って勢いです。
凄まじい強酸性の体に捕まればHPがどんどん削られていく事でしょう。
そればかりか奴らは自分の体の一部を飛ばして遠距離攻撃も使用してきます。これは奴自身の体力も削りますが、結構な命中率と、直撃するとやたら粘ついて取れない性質を持っています。先述の通り酸性なので継続ダメージもあるとか……
●ガブリエル・ロウ・バルツァーレク(ROOのNPC)
遊楽伯爵……によく似たROOのNPCです。
つまり混沌世界に存在している本人ではありません。外見や言動はおおむねガブリエル本人と似ていますが……本物とは異なり伝承の彼は『手が早い』とされています。
女性『アバター』の方にはかなり積極的です。スノウローズちゃんも口説かれたとか。
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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