PandoraPartyProject

シナリオ詳細

教会まで押すと金くれるじいさん、この線またぐとリポップすんだけど

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 アジュール・ブルーの空は澄み渡り、整備された石畳が靴の裏を押し返す。
 木々の緑を撫でる風は僅かに水分を含み、清涼とした空気が辺りを満たしていた。
 現実世界と見紛う程の高密度な情報。
 フルダイブ型の仮想環境――『Rapid Origin Online』の広大な世界は果てしなく続いている。

「おう、お前ら。よく見てろよ。このじいさん居ンだろ? こいつを教会につれてくと5Gold貰えんだよ」
 得意げな顔で『澄原 龍成のアバター』龍成(p3y000215)はイレギュラーズに口の端を上げた。
 教会へじいさんを押し込んだ龍成の周りにクエスト完了のシステム音声が流れる。
 そして、龍成は教会の直ぐ傍にある道の上で立ち止まった。
「お前ら、ここ。この辺をよく覚えとけよ。見えねぇ線がな、あんだよ。あー、まあ。説明するより実際にやってみた方が早いな。こうやって跨いでみ? ……な、音楽変わんだろ?」
 龍成の悪戯な笑みにイレギュラーズはとりあえず頷く。
「んでだ、また教会に戻る。するとどうだ。さっきのじいさんが居ねぇんだよ!」
 振り向いた龍成が割と満面の笑みだったので、絶対に笑っちゃいけない的なアレかと思って、イレギュラーズはぐっと唇を噛みしめた。
「何処に行ったかというと、ほらさっきの場所に戻ってる。リポップしてんだよ! すげぇだろ? これを続けてれば金ガッポリだぜ。クエストのフラグが甘いんだよな。俺、こういうの目敏いからさ」
 笑いを堪える為、表情を固くしているイレギュラーズの顔を見て、もう一押し必要だったかと龍成は「付いて来いよ。もっと良いの教えてやる」と手を上げる。

 龍成は民家の前に立ちおもむろにドアを開けた。
 そして遠慮無く中へ入っていく。
 他人の家に勝手に入って行く龍成に動揺するイレギュラーズ。
「何してんだよ。早く入って来いよ」
 龍成に従っておずおずと民家の中に入ると、椅子に腰掛けた老婆が居た。
「まぁ見てろよ」
 龍成が老婆の前に立ち話しかけた所で、彼女がゆっくりと立ち上がり、ミニクエスト開始のシステム音が鳴り響く。ついでに老婆には聞こえていないらしい。
「最近は足腰が悪くてね。この手紙をとど……」
 老婆の手から手紙を即座に受け取った龍成は彼女が言い終わる前に部屋から飛び出した。
 イレギュラーズが驚いて目を瞬かせた瞬間、今度は老婆が――ッヴン! という音と共に元の椅子に腰掛けている。何が起こったのかと首を傾げる間も無く、再びドアが勢い良く開け放たれ龍成が登場した。
「な? 分かっただろ?」
 いや、待って。もうちょっと詳しく説明をしてほしい。
「ンだよ。鳩が豆鉄砲喰らったような顔しやがって。今、ばぁさんが元に戻っただろ? ばあさん、部屋出るとフラグリセットされてまたクエストが受けられんだよ。つまりだ――」
 龍成は同じように老婆から手紙を奪い取り部屋を出て行く。
 そして老婆はフラグリセットされて――

 ――ッヴン!

 と椅子に戻った。
「お前らもやってみ?」

 ひったくる、ヴン。
 ひったくる、ヴン。
 ひった、ヴン。
 ヴンヴンヴン。

「……うゎあ」
「みろよこのクエストの数をよ! 画面の右端の方、ミニクエストで埋まっただろ?」
 みっちみちにクエストのウィンドウが詰め込まれていた。しかし、これは納品時に大量のGoldが手に入るチャンスでもある。MMO初期の金策としては美味しいと言えるだろう。
「けど、届け先はランダムなんだよな」
 クソ依頼じゃねーか!

 気を取り直して、一行はハーブが植わっている庭園の前まで歩いて来る。
「この草をな、刈るんだよ」
 腰に下げていたナイフでざくざくとハーブを刈り取っていく龍成。
 手際よく刈り取る姿は、随分とこのクエストをやりこんだ様に思えた。
「んで音楽が変わるここまできたら、また刈るだろ。持てるだけ刈るのよ」
 ハーブを袋にみっちみちになるまで詰め込んだ龍成は「そしたらこっちだ」と歩き出す。
「この親父に渡す。ドアから出てはいる。また渡す。取った分なくなるまで繰り返すんだ」

 無辜なる混沌への強制召喚を打ち破り、元の世界へと帰還することを目標にしている練達の科学者達によってつくりだされた仮想環境『Rapid Origin Online』――通称『R.O.O』の中に、イレギュラーズはダイブしていた。
 事の発端は予期できないエラーによるシステムの暴走。
 フルダイブ型の仮想空間に深刻なバグが発生し、練達科学者、及びR.O.Oのゲームマスター(三塔主)の権限の一部を拒絶したのだという。
 つまり、ログイン中の『プレイヤー』が閉じ込められるという深刻な状況が発生した。
 三塔主からの依頼を受けてローレットのイレギュラーズ達は早速『R.O.O』へとプレイヤー登録をする事となった。何故エラーが起きたのかを探り、閉じ込められたプレイヤーを救い出すのがイレギュラーズの目的なのだ。
 ゲームといえど仮想世界。活動をするにも冒険をするにも装備を揃える為のお金が掛かってしまうのは現実世界と変わらない。だからこそ。

「――見ろよ。75ゴールドも稼いじまった!」
 危ない冒険の前に『金策』をしてみても良いかもしれない。

GMコメント

 もみじです。MMO初期において金策は大切な要素ですね。
 それに龍成は一早く気づいたのでしょう。
 さあ、頑張って金策と行きましょう!

●目的
 金策や散策をする

●ロケーション
 中央を小川が流れるのどかな町。
 町の東には教会があり、中央広場には小さな商店が並んでいます。
 人々は皆優しく、話しかければ簡単な受け答えが返ってきます。
 町の外へ出るとクエストが消えてしまうので気を付けましょう。

●出来る事
○クエスト「教会までの案内」
 教会までおじいさんを連れて行くクエストです。
 御駄賃として5Gold貰えます。
 龍成が言うには教会の近くに見えない線があって跨ぐとリポップするのだとか。

○クエスト「お婆さんの手紙」
 足腰の悪いおばあさんの代わりに手紙を届けるクエストです。
 御駄賃として5Gold貰えます。
 龍成が言うには家のドアを潜るとフラグリセットされて何個も受けられるらしいです。
 ですが、届け先はランダムです。

○クエスト「ハーブ採取」
 道具屋の前に植わっているハーブを採取するクエストです。
 成功報酬のため、持って来た数だけその場で1Goldに変換されます。
 袋にみちみちに詰めて大量納品をした方が効率がいいでしょう。

○クエスト「迷子の子供」
 町を歩いているとランダムで現われる迷子の子供です。
 泣いて居るので慰めて家に送り届けましょう。
 歩くのが遅いのではぐれないように注意。

○散策
 町をお散歩できます。
 ゆったりと景色を眺めたり、R.O.Oの世界の食事を楽しんだり。

●NPC
『澄原 龍成のアバター』龍成(p3y000215)
 基本的に燈堂廻と一緒にR.O.Oにログインして遊んでいますが今回は金策に奔走しているようです。
 アバターはとりあえず使いやすいので現実世界の姿のまま使っている様子。
 現実世界より少しはしゃいでいるように見えます。
 話しかけても噛みついたりはしないのでご安心ください。

※重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • 教会まで押すと金くれるじいさん、この線またぐとリポップすんだけど完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年05月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゼロ(p3x001117)
よう(´・ω・`)こそ
ハウメア(p3x001981)
恋焔
陽炎(p3x007949)
影絵舞台
リラグレーテ(p3x008418)
憧憬の聲
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス
カメリア(p3x009245)
氷嵐怒濤
純恋(p3x009412)
もう一人のわたし
アッシュ(p3x009804)
モノクローム・イフリート

リプレイ


 広大な空の青さが網膜に焼き付いている。
 吸い込んだ肺を満たす空気も、皮膚を流れていく風の感触もどれも本物のようで。
『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)は白い帽子を少しだけ上げて目の前で胸を張る『澄原 龍成のアバター』龍成(p3y000215)に視線を向けた。
「いやー…何て言うか、うん」
「ん? どうした?」
 ネイコの視線に気付いた龍成が首を傾げて近づいて来る。
「龍成さんがR.O.Oを楽しんでるようで何より、なのかな? 私がリアルで初めて出会ったのがアレだったから、かなりビックリって言うか」
「あ、あー。お前あった事あんのか。まー、悪かったな。あん時は廻の事救わないとって焦ってたからな。何もかんも敵に見えてた」
 銀灰の髪を照れくさそうに掻きながら視線を逸らす龍成にネイコはにっこりと笑顔を返した。
「まっ、今はこうして一緒にR.O.Oで活動する仲間だし、皆も受け入れてるみたいだから細かい事は言いっこなしだよね! って事で、今日は龍成さんが見つけた金策を皆で頑張っていこーっ!」
「おお、それなら……」
「あ、もっと効率の良い金策があるよとかそういうのはメッ、だからね?」
「何でだよ」
「それじゃ一通りクエスト終わらせたら中央広場に集合って事で、お仕事スタートっ!」
 ネイコが勢い良く指先を空に向け、『虚花』リラグレーテ(p3x008418)がこくりと頷く。
 リラグレーテは隣に並んだ龍成を一瞥した。
 まさか、龍成を一緒にゲームをする事になるとは思ってもみなかったのだ。
 丸く収まったとは聞いているけれど、そこまで深く関わっていなかったリラグレーテは、どういう顔をして何を話せば良いのか分からない。祝勝会では団子になった所を写真に撮られてたけども。やっぱり、何だか気まずいような――なんて事をリラグレーテは思って。
 再度龍成に視線を合わせれば、ウキウキ顔でクエストの内容を喋っているではないか。しかもすごく楽しそうである。こんな顔をするのかと僅かにリラグレーテの唇が綻んだ。
「……ま、なる様になるしかないか。今日という日の花を摘め」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもないよ」
 赤き瞳を少しだけ伏せてリラグレーテは歩き出す。

 ハーブ庭園までやってきたリラグレーテと龍成。
 少女は指先を前に突き出し――武装<メイクアップ>を展開する。
 赤い花が舞い散り緩やかなリボンがリラグレーテの身体を包み込んだ。
 光と共にヒールと手袋が顕現し、射干玉の髪が結い上げられる。スカートが光に弾け、赤いルージュが彩りを添えリラグレーテの周りに赤薔薇の風が吹いた。
「すげーな! お前、魔法少女になれるんだな」
「……くっ」
 龍成の眼差しがリラグレーテに突き刺さる。

「ん、この手の金策って効率そこまで良くなかったりするものだけど……この世界の空気に慣れるには丁度良いのかもね。どんなに慣れても慣れない未知の現象に驚かされ続けると思うけどネ」
 ハーブ庭園の前で立ち止まった『ヨハン=レームのアバター』ゼロ(p3x001117)は赤や緑、紫のハーブを摘まんだ。
「ハーブをぎっしり装甲車……というかボクに詰め込んで運ぶよ」
「お前、それ装甲車になってハーブ刈れんのか?」
 草刈り鎌を持った龍成が装甲をコツコツと叩く。
「え、あー。じゃあ刈るの任せたよ! 大人一人分だから……60キロはいけるんじゃないかな!」
「私も刈るの手伝います」
 ザクザクと刈り取ってはゼロの中にハーブを詰め込んでいくリラグレーテと龍成。
「ハーブを刈り取って……詰め詰め……あれ、上手くない? 結構上手じゃない?」
「おう! その調子だぜ!」
「頑張ってくださーい! このハーブ、ちゃんと流通するのかな……。う、うーん……本当に人助けになってれば良いんだけど」
 もっちもっちと草を刈っては、ゼロに投入。刈っては投入。投入。
 刈り取る度に鳴る、さも『達成しました』的な効果音が、いなせなスクラッチを刻む。本物のヒップホップがここにある。
「――いやハーブくっさい!! おもい!!! 五感がちゃんとある!!!!!」
 ゼロの叫びがハーブ庭園に響き渡った。

「手際、良いですね」
 リラグレーテは隣で草を刈る龍成に話しかける。
 順調にハーブが刈り取れているから気分がいいのだ。
「ん? まあな」
「あ、名前リラでいいですよ。そういえば、お友達……えっと、廻くんとももう遊んでるんですよね?
 どんな事したんですか?」
 リラグレーテと廻の距離感は独特で普段の彼と遊ぶ事は少ないから。少し気になったのだ。
「廻? スライム狩ったり、お使いクエストしたり。ダンジョンはまだ危ねぇから、レベルを上げてからだってんのに、廻が行きたがるからこうして金策をしてるってわけだ」
「なるほど。廻くんの為なんですね」
 そんな世間話に花を咲かせる内にリラグレーテは自分の力を試してみたくなった。
 自分がこの世界で授かった力。
「龍成さん……“やる気の上がる”おまじないを知ってるんですけど、どうです?」
「なんだそれ? 別に構やしねーけど」
 同意を得た龍成にリラグレーテが手を添える。
「貴方の心、咲き誇れ。――『フロース』」
 フワリと二人の間に舞うは、パープルの花弁。
「おー、何かやる気が漲ってきた! 廻の為に頑張らねーとな!」
「手伝うのでいっぱい稼いで。あわよくば私の分もお願いします、はい」
 龍成は更に勢いを増し、ハーブを物凄い速さで刈り取っていく。
「このまま装甲車状態を解除したらどうなるんだろう、どばどば落ちるのかな」
 ゼロは装甲の中に詰め込まれていくハーブの重みを噛みしめ小さく呟いた。
「や、やるなら受け渡し所で……かな」

 道具屋の親父へゼロに詰め込みまくったハーブを納品した龍成達は疲れたと溜息を吐く。
「流石に装甲車一つ分のハーブ納品は骨が折れましたね。それはそうと澄原龍成!」
「な、何だよ」
 装甲車の上部をギュリと回し、ゼロは龍成へと向いた。
「なぞの情報屋Mに教えて貰わなかったらこのまま装甲車で体当たりするとこでしたよ!」
「情報屋M」
「いえ、ローレットのお仕事も多くてキミとの最後の戦いには顔を出せなかったんだけどね。ボク覚えてるかなぁ、ほら、猫耳の……」
「あー、何か居たような。まあ、あん時は悪かったな」
 龍成が首を捻り、ゼロはキャタピラを進める。
「とりあえず? 仲直り? できたみたいでめでたしめでたしって事だよね。ボクとも友達になってくれたら嬉しいな。どうです? ボクに乗ってみる? 金策も飽きてきたし、ドライブしようよ!」

 龍成を乗せたゼロはゆっくりと街を走って行く。
「ねえ、龍成さんも気が向いたら違う見た目にしてみたらどう? ボクも慣れないカラダ、というか車だったりするけど楽しいよ! 女の子の設定いじるのは恥ずかしかったですけど……!」
「そうだなぁ。まあ、考えてみるか。女にするかは分からんけど」

 R.O.Oの冒険はまだ始まったばかり。可能性は無限に広がっている。
『モノクローム・イフリート』アッシュ(p3x009804)は仮想世界というものが、どういうものなのかまだ理解していないと空を見上げた。
「まあ、金策はこの世の基本だよな。先立つものに余裕があれば心の余裕にも繋がるだろうし、ここは一つ全力で労働に勤しむとしよう」
 アッシュは龍成が嬉々として語った教会までの案内を選択する。
「この世界での俺の身体、即ちマッチョボディにモノを言わせてじいさんを案内というより担いで運ぶ!」
 陽光に照らされた筋肉を震わせながらアッシュは老人を抱え教会まで走り出した。
 揺れるじいさん。頭ガクガク。風を切る。
 教会のドアを勢い良く開け、老人を押し込み。そして、BGMが変わる境界線まで猛ダッシュだ。
「教会までの道順や、曲がり角のコーナリング、じいさんの効果的な担ぎ方などなど、突き詰めようと思えば気にする部分は結構あるはずだ!」
 目を見開いたアッシュは試行錯誤を繰り返した。


「ふっふっふ、お婆さん。持ってるお手紙をドンドン出してもらおうかっ!」
 ネイコは老婆から手紙を奪い取りドアを開け、奪い取りドアを開けを繰り返す。
 徐々に溜っていくクエストリスト。
「一度に貰える額は少額でも、数をこなせば十分な額になる。塵も積もれば山となる、とはまさにこの事ですね」
「本来は番組を盛り上げる為にプレイヤーを追い詰めるのが戦闘アンドロイドなのですが。
 実際問題資金繰りは大事でございます。故に某も金策をこの機会に覚えさせていただきましょう」
 ネイコのルーティーンにお手玉のように加わったハウメア(p3x001981)と『No.01』陽炎(p3x007949)はドアの開閉と老婆のリポップを効率よく回していく。
「人間は加齢と共に運動能力が低下するというデータがございますので、誰かへの手紙を届けるというのも一苦労なのでしょうから某で良ければ承ります。ご婦人の想いを利用している様で若干気が引けますが」

 ひった、ヴン。
 ヴンヴンヴン。

 ――三人は無心で老婆から手紙をむしり取っていた!

「それじゃあ、たのんだよ」
 ワープを繰り返した老婆は、皆へ想いを託し。
「いやー、クエストリスト埋まった埋まった! じゃあ配達開始だね!
 行ったり来たりは面倒だから配達エリアが纏まってるトコから順に向かっていくよ」
 ネイコはドアを開け放ち石畳に飛び出した。
「あっちでは何度もやって来た。それに今の私は魔法少女。――だから、飛べるっ!」
 飛び上がったネイコはカバンいっぱいの手紙を抱えアジュール・ブルーの空を駆けていく。
「周囲の安全確認、ヨシ! 魔法少女の宅配便、始まりますっ!」
 その様子を見つめたハウメアも意を決して翼を広げた。
「届け先がランダムで一見すると面倒ですが……私には翼があるので! あとは……」
 ハウメアは地図を広げ、リストに記された届け先を書き記す。
「それぞれ最短で順繰りに通る様にルートを構築してっと。最後の届け先からすぐ御婆様の家へ戻れるようにすれば、完璧です! さぁ、ルート構築も万全、行きますよ!」
 ハウメアが空高く舞い上がる傍らで陽炎は屋根の上に飛び乗った。
「機動力は人並み以上である自負がございますし適宜ショートカットをし一分、一秒でも短縮を図ります」
 屋根の上を駆けて行く音が小さく響く。
「単調作業は慣れておりますが、効率が悪くなる様であれば某のマスターの顔を思い浮かべましょう。
 マスターとのことを思えばどんな任務でもやり遂げられそうな気がして参ります」
 心の片隅に愛らしい声が聞こえる。彼女の為なら何だって出来る。
 バッテリーの容量は十分。これは人間で言うところの体力ゲージやスタミナゲージだ。
 減ってしまえば動けなくなるので、適度に休憩するのも任務の内だと陽炎は建物の影で一休みする。
「適切な休息は作業の効率を上げるというデータがございます」
「こんにちは! お手紙を届けに来ました」
 陽炎の耳にハウメアの元気な声が聞こえて来た。視線を目の前の家に向けると、礼儀正しく挨拶をするハウメアの姿が見える。
「御婆様は元気そうでしたよ」
「まあ、ありがとう。心配してたのよ。たすかったわ」
 たとえ報酬にはならなくとも、気持ちが大切だからとハウメアは笑顔を向ける。

 ――――
 ――

「何事にも下積みは大事です。たとえ小さなことだとしても、積み重ねることで後々の結果に繋がる筈です。それに、こちらでのお食事なども楽しみですし!」
 ブンブンと尻尾を振り回すのは『氷嵐怒濤』カメリア(p3x009245)だ。
「楽しんで、張り切って行きましょう!」
 てくてくと散歩をしながらカメリアは街の中を探索する。
「あのお店は雰囲気が良いですね。皆とのランチはあそこにしましょう」
 カントリー調のお店の傍で小さな子供が所在なさげに視線を漂わせていた。直感的に迷子の子供だとカメリアは理解した。尻尾を振りながら女の子へと近づいていくカメリア。
「迷子になってしまったのですか?」
「うん……」
「大丈夫です、お姉さんがしっかりお家まで送り届けてあげます! ほら、お空の散歩に行きませんか?」
 差し出されたカメリアの手に幼子はしっかりと掴まる。
 微笑んだカメリアの胸に抱かれた少女は一瞬にして空へと舞い上がった視界に目を瞠った。
「わぁ! お空を飛んでる!」
 ネクストのNPCなのだとしても、この腕の中の重さや温もりは本物に思える。だから、思い出が残るのかは分からないけれど、願わくば素敵なひとときにしてあげたいとカメリアは目を細めた。

「あ、ハウメアさん、あの子迷子みたい」
 空を飛び回っていたネイコの言葉にハウメアが視線を落とす。
 建物の傍に小さな少年が一人ポツンと佇んでいた。
「確かに。情報ありがとうございます」
 ハウメアはネイコに礼を言って、少年の前に降り立つ。
「こんにちは。どうしたの? 迷子になっちゃった?」
「う、うわーん!」
 急に鳴き出した少年を安心させるように羽根で包み込むハウメア。
 少年から家を聞き出して、地図でルートを確認する。空を飛ぶのは怖がってしまうだろうから。
「ゆっくり歩いていきましょう。手を繋ぐのもいいですが……」
 ひょいと少年を抱え上げたハウメアはそのまま肩車をしてみせる。
 ハウメアの頭の上に浮かんだ天使の輪を不思議そうに見つめる少年。徐に手を伸ばし――
「あ、ちょっと天輪を掴まないで!? 振り回しちゃダメェ!?」
 少年の子供らしい行動にハウメアの天輪が危うく消失する所だった。危ない。危ない。

『しろきはなよめ』純恋(p3x009412)は目の前で転んで泣いて居る童子を見つけしゃがみ込む。
「あらあら可哀想に、親御様たちと逸れてしまったのですね」
 プロ花嫁たる純恋にとって子守は朝飯前。目線を合わせ優しく微笑んだ。
「心細かったでしょう、ここまでひとりでよく頑張りましたね。すぐぱぱとままに会わせてあげますからね。それまでわたしが期間限定ままになってさしあげます!」
「まま……ままっ」
 自分が独りぼっちだということを思い出した様に大泣きする童子。
「そーれ、たかいたか~い! 大気圏まで吹き飛ばしあまりの世界の美しさで迷子の寂しさなんて忘れさせてあげますよ~!」
「嫌ァァァァァァ!!!!」
 流石に屋根ぐらいの高さまでにしておこうと、童子を空に投げる純恋。
 落ちてきた童子を受け止めて、恐怖の余りに固まったままの表情に微笑む。
「さて、泣き止んだことですし、お家はどこですか? 分からない?」
「あっち……、あっち」
「そうですか。ではあっちに進んでいきましょう」
 泣き疲れてへたり込んでしまった童子の頭を撫でる純恋。
「そう、泣き疲れて歩くの大変ですよね。そんなあなたに……はぁいサイバーロバさんです! ロリババアじゃないですよ! 逸れないようこれに乗っておうちへ帰りましょうね~!」
 子供をロバに乗せて純恋はゆっくりと進んで行く。
「あ、チョコクロワッサンがありますよ。食べますか?」
「うん」
「ふふ、素直で良いですね。では一緒に食べましょう」
 純恋と子供はチョコクロワッサンをぱくりと口に食む。口の中に広がる味は想像していた通りで、この世界にもきちんと味覚は再現されている事に感心した。満腹感も味わえるとはと純恋は頷く。


「クエストが終わったら皆でお食事ターイムっ! ほら、龍成さんも一緒に行こ?」
「んー。まあ腹減ったしな。良いぜ」
 ネイコの言葉に多少疲れの見える龍成が手を上げる。

「終わった後は皆様でお食事を、という話でございましたね」
 陽炎はマスターとの会話を思い出す。食事は不要と伝う陽炎に対して「みんなでお食事すると仲良くなれた気がするのだわ!」と微笑んだのだ。だから、皆が集まるテーブルに陽炎はやってきた。
「味覚自体は擬似的ですがございますので。しかし、龍成様はよくこれだけの金策を見つけてこられましたね。そして黙々と続けられる集中力、素晴らしいです」
 陽炎は前に座っている龍成に視線を上げる。
「まあ、廻がダンジョンとか戦闘とか行きたいって言ってたからな。装備揃える為に必要だったんだよ」
 皿に乗ったパスタを突きながら龍成は溜息を吐いた。
「ふふ、金策もいいけど皆とお喋りするのも楽しいでしょ?」
 その様子に隣に座ったネイコが肘で突いてくるのを指先で突き返す龍成。

「頑張った後のご飯はとてもいいものです、心が潤ってしまいます!」
 カメリアがにこにこと笑顔で頷くのにハウメアが応える。
「そうですね。私も沢山稼ぎました!」
「おおー! 凄いです! R.O.Oで成さねばならないこともあるでしょう。これから起こる困難もきっとたくさんあることでしょう。ですが、今この時は──目一杯楽しんだって良いはずです!」
 カメリアは純恋、ゼロ、アッシュに視線を合わせた。
 グラスを傾ければ、労いの音が響き渡る。
「自分ではない自分の人生、此方でもきっと楽しいことになりそうですねっ、ふふふっ」
 小さく微笑んだカメリアの黄金の瞳が細められた。

 空を見上げればアジュール・ブルー。
 風は頬を撫でて、パスタの良い匂いが鼻腔を擽る。
 テーブルの木の温もりは現実世界と遜色なくて。
 これから始まるR.O.Oの物語に誰もが瞳を煌めかせた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 冒険はこれからですね。

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