PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>apple get

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼らの行く末
 ノーブル・レバレッジの成功は誰の耳にも新しい。
 事実上サーカスへの反撃である。国王の庇護下にあった彼らは今や追われる立場となり、民衆はおろか貴族も――幻想にしては珍しく、一致団結の構えにて彼らを追い詰めんとしていて。
「――めんどくさかのぉ」
 が、そんな状況にも関わらず一人の男が呑気な口調で呟きを。
「なーんごてこんな事しとっちゃろか。鼠か俺らは。情けなかのぉ」
 そんな事を言いながらも、軽く笑っている様な口調であった。彼の名はコースタス。
 いるのは街の中だ。特に変哲の無い、幻想のただの街である。強いて特徴を挙げるならば――

 街のあちこちに、火の手が上がっている事だろう。

 声がする。泣き声が、叫び声が。怒号が。笑い声が。あちらから・こちらから・そこからここから。
「いたぞ! この騒動、貴様の仕業だな! 奴を捕らえろ! 抵抗するなら殺しても構わん!」
 そんな声を切り裂いて。幻想の兵がコースタスを取り囲む。遊楽伯爵の手か。あるいは黄金双竜の手か? まぁどちらでも同じ事だ。上に手柄を献上せんとする彼らの目的はサーカス団員の捕縛あるいは討伐。故に隊長格の言葉と共に突撃する――のだが。
「阿呆が」
 コースタスの声が響いたと同時。正に今、捕まえようと手を伸ばしていた兵は、己が目を疑った。
「あっ? なんだ、なんで奴があんな遠くに……ぐぇ!?」
 先程まで目の前に見えていたコースタスが――遠い。遠すぎる。数歩程度の距離だった筈なのに今はもう、ゆうに50mは離れている。あまりに一瞬の出来事。彼の理解が及ばなければ。
 困惑は隙。次の瞬間には、自らの首元にナイフが一つ、突き刺さっていた。
「どーじゃ? ま、いわゆる所の投擲芸。俺の喰うネタ、っちゅー所でな――楽しめや」
「投げナイフだ! 距離を開けるな! 接近しろ、再接近だッ!!」
 兵達の対応は迅速。全員が総掛かりで再突入を行えば、当然再び距離も詰まる。
 されどそこまでだった。次の瞬間には再び同じ様な地点まで『転移』させられる。機動力に優れる者はコースタスに肉薄し攻撃こそ出来たが、その後は同様。50m地点にまで離される。そして離された所に――ナイフが飛んでくる。
 首に。額に。心臓に。近接以上の距離攻撃を持たぬ者は何も出来ずに地に沈む。
 何度試しても。何度試しても結果は同じ。芸の最中に壇上に上がるな、とばかりに突き放されて。
「だ、駄目です隊長! 弓か最低でも槍でも持ってこなければ! たいちょ――」
 一人の兵の目に映ったのは指揮官の胸元に深々と刺さる一つのナイフ。絶命している。駄目だ勝てない。装備の相性が悪すぎる、と理解してしまった者達は威勢などどこへやら。四散する。恐怖に感情を支配されて。
「おぉ? どしたんかお前らどこ行くんじゃ! まっこち気概を見せんかいボケ共がぁ!」
 されどただ黙って見逃してやる道理はない。得意の投擲術にてその背を穿つ。
 広がる悲鳴はどこまでも。見かけた一般人も関係ない。ナイフを投げる。投げて殺す。さすれば更に広がる恐怖と狂気が。
 あぁ高揚する。気分が、脳髄が。何もかもここで『もたらせ』ば良いのだと思考して。
「ヘ、ハッハ! クラリーチェん言う事は尤もじゃきのぉ! 団長の気持ちも分からんではないが、俺らぁサーカスじゃけぇの!! 笑えや幻想! 俺らもおまーらも笑わせんと帰れんのじゃ!」
 そうだそうそう。やはり包囲がなされた時点で『こう』するしかなかったのだ。
 乾坤一擲。各地にて騒いで騒いで――穴を作る。腹を括る。そうして勝つ。
「俺好みの、ケツん穴小さい団長の為じゃ。ちと頑張ってみようかの! ヘ、ハハハハハ!」
 それが『そのままの意味』とは誰が思ったろうか。理解しなくていい。ともあれ彼は天を仰げば。
「さぁ見せちゃるぞ幻想――てぇげてげなヤツじゃなき、本気の呼び声ってヤツをなぁ!!」

●ローレット
「ノーブル・レバレッジの成功、おめでとう。そしてついに来たよ。サーカスだ」
 ギルオス・ホリス(p3n000016)は言葉を紡ぐ。幻想蜂起より端を発した一連の流れノーブル・レバレッジは成功し、貴族や国民はローレットの味方側についたと言って過言無い。無論、大規模な取り組みであったが故にサーカスが気付くのは当然。
 身の危険を感じた彼らは逃亡した――が。
「はいそうですかと、幻想から出す事までは許さなかった。こういう時は幻想の対応は早いね。各地で封鎖・検問が行われているんだ。包囲網は段々と狭まっている」
「で、サーカスの方も『はいそうですか』とは終わらないんだろ?」
「……察しが良いね、その通りだ。脱出困難と見た彼らは幻想各地で暴れ出したんだ……!」
 その内の一つを担当してもらいたい、と示す先はとある街。
 サーカスの者が街に火を放ち、ナイフによる無差別殺人を行っているらしい。更に狂気を振り撒かれているからかサーカスとは無関係の一般人による暴力行為もいくつか出ているのだとか。
「どうやらこいつは特殊な能力を持っているみたいでね……現地の兵では装備の相性が悪くて苦戦しているらしい。皆は、この団員を撃破してほしい……なるべく早くにね」
「狂気もあるから、か」
「あぁ。先の活躍と『絆の手紙作戦』は想像以上に効果があったみたいでね。狂気にある程度耐性をもった住民も多いから、まだまだ正気な人は多いけれど……時間が経ち過ぎればやはり危険は増す」
 原罪の呼び声。魔種特有のその能力は決して見過ごす事の出来ないモノだ。誰も彼をも狂わせる。先日の蜂起すらその影響で。彼らの狙いとしてはこの混乱を大きくし、逃亡の穴を作る事なのだろう。好きにさせる訳にはいかない。
「それに……対象のまき散らしている狂気は、少し、他よりも強いみたいなんだ」
「強い?」
「魔種にもそれぞれ力の大きさと言うのはある。そして力が大きい程『呼び声』の効力や範囲もまた大きくなるんだ。つまり……」
 この一人は――厄介な『魔種』という事か。
 しかしサーカスへの反撃。捕捉し追い立てる優位な機会が訪れた『ついに』の時なのだ。
「強いという程度で、臆するわけにはいかないな」
 逃す訳にはいかない。
 さぁ――決着といこう。

●狂乱
「――てぇなクソボケェ!!」
 頭蓋を潰した。物陰に潜んでいた暗殺者に気付かず、距離を詰められたのだ。しかしその腕力たるやもはや人の範疇ではない。そう、コースタス・イグリッドは人ではないのだ。
 魔種だ。『滅びのアーク』に可能性を蓄積する、怨敵。
 酔えよ酔えよ。踊れや踊れ。原罪に呼ばれろ。原罪に応えろ。
「笑えや!」
 コースタスの凶行に混乱が広がっていく。
「唄えや!」
 逃げる民衆が染まっていく。逃亡の邪魔になる隣人を殴る者が。邪魔だどけと簡単な口論が殴り合い、殺し合いへと発展する者が。我が子を火の中に投げ込む狂乱者も出て。制止しようとする者らの声も少しずつ届かなく。
「叫べや泣けや!」
 嘆きは今ぞ、振り切れる。
「今宵も今宵も皆さまどうぞご覧あれ――ってな! ヘハハハハハッ!!」
 原罪の呼び声が――笑っている。

GMコメント

 茶零四です。サーカス決着なるかーー以下詳細です。

■依頼達成条件
『apple get』コースタスの撃破。

■戦場
 街中。時刻は夜、ですが街灯が各地にありますので通常、視界には問題ない事とします。
 街は逃げ惑う、あるいは狂気に染まった人々が多くいます。
 狂気に染まった人物は敵対的行動を取る可能性があります。

 街の中ですので障害物が多くあったり、あるいは少ない地点もあると思われます。
 どのような場所で戦うかは重要です。が、コースタスの目的は『混乱』です。
 狙った場所があるのならそこで戦えるか、誘えるかは工夫が必要でしょう。

■『apple get』コースタス
 サーカスに属する『ナイフ使い』の一人。カオスシードの魔種で、言葉にどこぞの方言が混じる。
 主武装はナイフだが投擲による遠距離戦が得意。
 なお、彼の所持するナイフは彼自身の魔力から作られており尽きるまで製造が可能。

・通常刃(A):物超遠単 高命中・命中減衰無し
・侵食刃(A):物遠単 【不吉】・【怒り】・Mアタック40
・連投擲(A):物遠単 【連】・高CT
・apple get(A)物中単 【出血】・【流血】超威力。必ず心臓を狙う。

・投擲術(P):自身から見て20~50mの範囲内にいる敵に攻撃する際命中・CT上昇
・集中力(P):最大HPが20%以下になった時、回避+6、反応+6

・EX:keep out(壇上へ上るのはお控えください)
 毎ターンBS効果判定前、自身から半径50m内に存在する『自身が認識している敵対者』を半径『50m地点』に強制転移させる。50m地点が障害物の場合は、最も近い何もない空間に転移される。『地点』が重要であり、地点までのルートに障害物があるかは関係ない。

■現地兵
 サーカスを追っていた現地兵。捕捉し、チャンスと思ったが剣など至近攻撃者ばかりであった為、相性の悪さにより半分程度壊滅させられた。現在は狂気による騒動を抑える事にも手を割いており、コースタスへの余裕がなくなりつつある。

■他
 コースタスを捕捉する前に街中に仕込みを行う、付与行動を行うなどなんらかの行動をとっても『構いません』(推奨という訳でも非推奨という訳でもありません)
 ただしこの行動を選択した場合でも、その最中に時間は経過します。コースタスは好きに街中を動きますし狂気の伝染は通常通りに進行していきます。お気を付けください。

 上記に限りませんがどんな動作でも時間が経過します。
 HARD以上ですと一手一手が重要となってきます。
 有効な手でも1ターン進みますし無為でも1ターン進みます。

 同じ1ターンですがどれだけ無為が少なく有効が多いか、というのは重要です。

 それでは、よろしくお願いします。

  • <Liar Break>apple get完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ノイン ウォーカー(p3p000011)
時計塔の住人
ノア・マクレシア(p3p000713)
墓場の黒兎
グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼
新納 竜也(p3p000903)
ユニバース皇子
パティ・クロムウェル(p3p001340)
斬首機構
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
タルト・ティラミー(p3p002298)
あま~いおもてなし
マテリア・ライク・クリスタル(p3p002592)
水晶の様な物体
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール

リプレイ

●開戦
 モーター駆動。電子音。狙い定める視線の先には『敵』がいて。
 射出する。『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)の放つ狙撃たる一撃。
 青白い閃光が一直線。コースタスの肩を穿てば。
「ぉぉ!? なんしょるとかこんガキはァ!!」
「語るに能わず。沈黙しなさい」
 返しのナイフが飛んでくる。それは高速。命を抉らんとする刃――今宵の演目。
 さぁさどうぞご覧あれ。ただし壇上に上がるのは良しとしませんが。

 Keep Out!

「あれが……成程。不可思議な力で弾かれるのは確かなようだ」
 言うは『水晶のような物体』マテリア・ライク・クリスタル(p3p002592)である。マテリアは飛行たる能力を用いつつ空から眺めていた。奴と相対していた鶫がそのまま後方へと直線状に転移させられる様を。
 しかし眺めたのも一瞬。飛行している最大の目的は戦場の決定である為に、飛行進路を変更。街を巡る。商店街、あるいは住宅街など障害物が多い地点を早急に決定し、待ち伏せなければならないから。そしてそれは。
「あったぞ――この先に都合の良さそうな住宅街がある。そこへ誘導しよう」
 もう一人。『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)と同時に行っていた。
 グレイの方は飛行している訳ではない。彼の場合はファミリアーだ。小鳥を創り出し、空より行う偵察。共有する五感により得た情報を仲間達へと伝えれば。
「皆は先に到達地点へ。私は誘導側の援護に回る。傷を癒さねばな……」
「ふむ。では、そのように。あちらで互いに合流しよう」
 言うは『特異運命座標』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)と『特異運命座標』新納 竜也(p3p000903)である。ゲオルグは自らの癒しの力をもって誘導側の援護へと。一方で竜也は常日頃溢れんばかりの黄金色の王気を隠して街を駆ける。
 コースタスに認識される前に。戦闘目標地点として定めた場所へ。
「邪魔にゃ! どいておかないと怪我するんだにゃ!」
「正気を保っている者は少しでも外へ。戦闘になりますよ! 急いで!」
 狂気に侵された一般人達を対処している『リグレットドール』シュリエ(p3p004298)
と『斬首機構』パティ・クロムウェル(p3p001340)も同様であった。彼女らも戦闘地点へと。狂った者らを説得の暇は無しと張り倒す。
 組み伏せ、無力化を狙い。とにもかくにも時間がないのだ。
「後は、どれぐらい……身を隠せるような場所を作れるか……かな」
 そう『墓場の黒兎』ノア・マクレシア(p3p000713)の言う通り。Keep Outの効果対象は認識。その認識がどれぐらいの意味かはともかくとしても。初撃を制する意味でも隠れる事が出来る場所があるかは重要だ。荷をどけ、崩し。邪魔を作っていれば。
「貴様ら、ローレットか!? よもやサーカスの対処に……」
「その通りよ♪ そっちはもう半壊しているんでしょ、市民の対処の方に回ってくれる?」
 適材適所。あれはこちらが相手取るからと『あま〜いお菓子をプレゼント♡』タルト・ティラミー(p3p002298)はコースタスを相手取っていた現地兵へ言葉を告げる。これよりは激戦。もし戦場に半端に残った者がいたとしても。
「アイツ以外を気にかけている余裕なんて――きっと無いから」
 邪魔になればどうするか分からないと釘を刺して。されば。
「来ましたね」
 見た。『時計塔の住人』ノイン ウォーカー(p3p000011)は、奴を見た。
 己が顔の横を回転するナイフが過ぎ去りる。壁に深々。それはただの流れ弾なるモノなれど。
 殺意に濁り、一片無し。
「さて――久々に楽しい戦場となれば良いのですが」
 されどそんな殺意などただの些事であったかの様に、気にする事もなくノインはただ只管に――奴を見据える。狂気に満ちた芸人の振るうナイフなど。
 ただのそよ風。

●到着
「ぉぉなんじゃい! 鬼ごっこは終わりなんかいのぉ!」
 到着するコースタス。誘導班が逃走を止め戦闘態勢を取れば、自然と察するものだ。
「おまぁらやっぱローレットの連中か。ハッさんざようウチらをやってくれたもんじゃ」
「まぁね悪いけれど、サーカスの旬は過ぎたのさ。皆もう悪意の芸には飽き飽きでね」
 グレイが言う。一歩前に、天へ人差し指を軽く示し。
「そのつまらない一芸を持って先に逝きなよ。後から団長くんも合流するってさ」
 あの世でね。
 コースタスが視線を上げた先、そこには魔法陣が展開されていた。頭上に輝くそれから放たれるは――半透明状の杭。射出される、その長射程は距離があろうと奴に高速で届き、その肩を穿つ。
「やれやれ。普段出しているユニバース的オーラを隠していると些か、調子が狂いそうだ」
「骨の折れそうな依頼だけれども、いっちょ頑張るわよ☆ あ、そぉ――れ!」
 続いて竜也が射程距離まで前進し射撃を。そしてタルトは風を操りて刃となす。気付けば手先が切れている様な現象――かまいたち、否。妖精の如く。知らぬ間の傷を相手に与えて。
「ぉおっと! チキン能力な団員さんのご登場にゃ――!」
 と、その時コースタスの背後より潜んでいたシュリエが飛び出す。地を踏み砕かん如く勢いを付けて。不意打ち狙いの一撃は背に衝撃を与える。右腕に刻まれた簡易術式、その光を輝かせて。
「悲劇にも狂劇にも何のメッセージ性も感じられねーにゃ! それで本当にエンターテイナー気取ってんのかにゃ!」
 ご同輩、と言葉を続ける。当然というか、やはり潜んでいたシュリエにKeep Outは及んでいない。だからこそ。
「貴方の芸は、面白くない……うん、倒すよ」
 絶対に、と同じく潜んでいたノアも飛び出して。殺意の霧がコースタスを襲う。
 範囲なる技であるが、今回は味方への被害をあまり気にしなくてもよかった。なぜならばKeep Outは近付けない技であるが故にこそ至近を保ち続ける味方がいない。かつ、相手は一人。乱戦でもなければ味方を巻き込まない様にするは容易く。
「――天義から参りました、時計塔の9番手、アイオンの瞳が9席、ノインウォーカー」
 そして。本日のオーダーは貴方の処理だそうです、と。彼は言葉を告げて。
「絢爛豪華な戦にしましょうね、どっちが先に潰れるか勝負です」
「あぁ勝負じゃあ? 俺ァおまぁらと遊んでやるつもりしかなかぞ!」
「ほう自信がなければ構わんぞ。所詮あの肥え太った団長の率いるサーカスの芸人だからな……整えられた状況。アドリブの効かない場でしか芸が出来ないのだろう」
 ノインの言葉に続けてゲオルグが紡ぐは、挑発の類だ。ノインはコースタスに銃弾を。ゲオルグは蒼白い輝きを伴った花弁を纏って。コースタスの眉が歪んだのを見逃さず。
「所詮、三流か」
 化けの皮が剥がれたな、と。花弁の奔流を奴へと放つ。渦を描くが如く。それはコースタスへ激流となって襲い掛かり――勢いがなくなればゲオルグの周囲へと一つ、また一つと戻り、消えていく。
 砂の如く。夢の如く。泡沫の果てに。
「貴方の行い。それはサーカスの本懐と違うのではないでしょうか?」
 続くはパティだ。奴の視界に入らない内に、自由なる攻勢の高まりを強めておけば。
「サーカスは騒がしい物ですが、それは人々を楽しませるために行うモノ。されど今ぞ行っているのは、サーカスという範疇に無くただただ騒乱。芸も何もあったものではありません」
「んならどうすってぇ!?」
「知れた事――適用されるは騒乱罪。されど魔種となるならば」
 背後より跳躍。奴が振り向くよりも早く。そっ首落とさんが如く。判例断罪。それが唯一!
 両手斧を握りしめ、己が体重を全て乗せて――振り下ろした。

「せからしいんじゃ、まっこちほんによォ――ッ!!」

 と、次の瞬間。範囲内にいた全員が転移させられた。
 そこへ来る。パティの左肩に鋭い痛みが走ったと思えば、ナイフだ。コースタスが即座に投げて来たのか。しかし動じない。こうなる想定もしていたのだ、相手の視界から外れるように全力で駆け抜ければ、更なる追撃はなくそこまでで。
 障害物の多い住宅街を選択した事により……コースタスとの間に障害物が挟まれ、攻撃が届かない状況が出来ているのだ。無論、迂回してまた戦場へ戻る必要はあるものの位置によっては即時の追撃がされない可能性が確かにそこにある。
 そして見えなくなり、気配も一時的にコースタスが知覚しうる範囲から逃れる事ができれば完全に『認識外』へと移動できる。再び不意を打つ事も出来るようになるだろう。ただし。
「逃がしてはならない。常に、注意を引き続けなければ……」
 マテリアは低空飛行をしながら注意を引く為、同時に発光による自身の存在のアピールを試みる。ただ戦場的に元々灯に問題がない場所であったため、夜の室内で問題ない程度の光量の発光では些か効果が薄かった。周りと同程度の光があるからである。
 さりとて。障害物があればコースタスの追撃は無い。それは確かだが逆に言うとコースタスに即時接近可能な人物が少なくなる、という事でもある。
 その場合もしコースタスが騒乱に満足し、あるいは飽きて逃亡に徹された場合、阻止は困難と言えるだろう。迂回している間に相手は最短ルートを突き進めるのだから。
「ただ。今の所そんな気配は一切ありませんね」
 鶫は言う。そう、そうだ。コースタスに逃げる気配はない。今の時点でも混乱は十分な筈なのに。より深く。大きい騒動を求めて留まっている。我々に討伐される可能性も残っている筈なのに――
「それが魔種という者達の……特性、傾向ですか」
 明日より今日を。今この瞬間の快楽を。
 刹那の破滅に全てを求める。己の喉を喰らおうと。そうあれと呼ばれたのだから。

●勝利は
 鶫は駆けた。奴がこちらを見失った一瞬を決して見逃さず。
 忍び足。極力に気配を。足音を殺しながら移動すれば――至近位置。
「よく吠える犬は――去勢、しましょうか」
 爆ぜなさい、と薄い笑み。笑わぬ目。去勢……その言葉の意味する所狙うは一点。
 睾丸である。機械弓が作動すれば、奇襲なる一撃が振舞われ。
「ぉぉおお!?」
 直撃。しかし腹へと。思わず回避しようとして広い方に当たったか。まぁ結果オーライと鶫は即座に次なる行動へ。止まっている暇はない。事実、直後にコースタスはナイフを振るっているのだから。
 視界に入るイレギュラーズへと片っ端に。身体を蝕む浸食の力に、二つを同時に同対象へと投げる連投擲。いずれもが強力な一撃を秘めている。特に、浸食の力の方は厄介で、怒りに囚われればコースタスの方へと無謀に突撃しかねない。
「まぁそうは私がさせないが、ね」
 されどその点はゲオルグがカバーする。柔らかな癒やしの光、シェルピア。
 範囲をもって味方を複数人同時に治癒せんとする。Keep Outの効果により纏まっては中々戦えない為、十全には振るえていないが、それでも回復の手段があるかないかは雲泥の差である。必要がなければ癒しに特化した力と、彼はそれぞれ使い分けて。
「……無暗矢鱈にオトモダチを増やすのは……好きじゃない……」
 それが例え間接的であったとしても。オトモダチ――彼女にとってはいわゆる死体やアンデッドに属する者の事だが。それを無暗に増やそうとは彼女は思わない。ここまでの凶行。コースタスは原罪の呼び声の被害者なのかもしれない、とノアは思うが。
「それでも、今やってるのは……自分の意思だろうから……」
 自らの行動には、自らで責を負わねばならない。
 己も純種。呼び声に飲まれぬ様に警戒しながら、魔弾を紡いで。
「ん――ボクも援護に回るね! 皆だんだんと気力の消耗も激しいだろうし……!」
 と、タルトが振るうのは、柔らかな緑の光である。それは体力と共に気力をも癒し、継戦の為の要素となる。特に消耗が激しいと思われるゲオルグやグレイを中心にその力の対象と――すれば。
 コースタスの視線がタルトへと。跳躍し、ある程度の距離を詰めて。
 振るうナイフは、この戦いにおいて最もその膂力が込められた一撃。

 Apple get――林檎を寄こせ。真っ赤な林檎を。大事な林檎を。
 胸の内にある真っ赤な林檎を!

 舞うは鮮血。放たれる刃。されど命は、パンドラの欠片により奪われず。
「おっ――とぉ! タルト君! 大丈夫かい!?」
「次はそっちや。きさんもメンドくさか」
 声はグレイ。発動し続けるKeep Outで彼方へと転移するが。障害物があろうと『この先』にいるのだとコースタスが分かっていれば対応も出来る。姿が見えた瞬間にナイフを――
 瞬間。右腕に何かが張り付いた。見ればそれは呪符か何かで。
「んーにゃふふふ。ほらほら、ご自慢のナイフ芸を封じるありがたーいお札にゃ。もしマトモに食らったら大変だにゃ? それしか芸がないもんにゃ――?」
 シュリエだ。それは封の力を伴った特殊な呪符。封印式『静風』である。
 穏やかな風が舞えば能力の阻害の証。薄汚い野良猫がッと次なる対象がシュリエになれば。
「にゃはは――! お前のナイフ芸ってそんなもんかゃ? ぜんっぜん大した事ねーにゃ?」
 嘲笑。煽り。ギフトの人形たる身をであることを活かし、出血していない様をまるでダメージが効いていないかの如く振る舞い、それすら罵りに。演技も用いて、次いでパフォーマンス技術をも取り組み万全とすれば。
「うにゃ――!? ちょっと本気出しすぎだにゃ!?」
 真に追い詰められかの様な演技も入れる。集中的に狙われれば流石に回避しきれない傷も増えるが――承知の上。体力が危険域となれば回復役との合流も狙って。
「ひとつの腐ったリンゴが樽全体をダメにすると言う。成程……apple get、よく言ったものだ」
 さればその攻撃の隙をマテリアは見逃さなかった。
「確かに腐ったリンゴは摘出すべきだ。無論これは比喩ではなく」
 キミの事だが、とマテリアは長射程の遠距離術式を開く。
 斉射。腹部を穿って。返しに放たれたナイフは、防御による集中で効果を軽減せんとし。
 少しずつ、少しずつだが確実にコースタスの体力の方が削れていた。
「ハ、ハッハッ! よかのぉ! 死ぬ……ヒヒハ! 死んでしまうどぉ! ハハハ!」
 だというのに彼は嗤っている。より深く原罪の呼び声を鳴らしている。
 破滅だ。破滅がそこにあると唄いながら、動きはより繊細に集中力をもって。
「全く。狂気一色なんてつまらないものを……
 人の旅路はもっと色鮮やかでなければいけないのに」
 全ては灰に。残滓の集合たるからこそ、グレイは言う。
 溢れんばかりの色が人にはあるのだと。そうであったのだと。故なる、灰塵
 振るう。魔術書に魅入られて呼ばれる魔素の嵐がコースタスへと。嵐の一角を突き破ってナイフがグレイの腹部へと刺さり込むが――頓着しない。そのまま飲まれろ破壊の渦へ。
「魔種の貴方に何があったかは知りませんけどね。随分、他人を的にするのがお好きなようで」
 いやはやなんとも奇遇な事、とノインは言う。人体的当てゲームは己も大好きな部類で。
「とはいえ、なんでも殺せばよいのだとそう言うのはいけませんね。明日の飯に困る動物と一緒だ」
「あぁ!?」
「美学が無いって言ってんですよ」
 舞うナイフを鋼線で弾いて、二つ目をライフルで撃ち落として――往く。殺すのも丁寧に。それが自らの美学なれば。集中する、攻撃の意図に。銀の弾丸たる才知が輝き。
 振るった拳が奴に届いた。
 加速する。そのまま間を作らずに連打する。ビートを刻むように、止まらない。血反吐を撒き散らさせて、なお容赦はしない。なぜならば――そう。無様を晒す訳にはいきませんから。
「宇宙皇帝の手前、ね」
「そう称えるな。流石に照れる」
 コースタスは気配を背後に感じた。もはやよし、とばかりに黄金色の風と共に。
 竜也はそこにいた。携える大宇宙の剣は、天体を覆う宇宙の暗黒色に染まっていて。
 一閃。無明の内に閉じ込めんとせん力を奴に振るえば。
「では君の『認識力』を試させてもらおう。さあ俺を認識したまえ」
「こぉがッ! んのボケカスがぁッ!」
 自信満々の顔で言う竜也だが――飛ばされる。それこそが竜也の狙いだった。Apple getなど直撃すればどうなるか分からない。しかし飛ばされれば即時の危険はなくなる。だから飛ばせ。怒りに任せて!
「イヒ、は、ヒハ――お、お客人……壇上に登るはぁ……ご遠慮いただきましょうかァ……!」
「――醜悪だな。もはやこちらを認識しているか、怪しいぞ」
 出血多量のコースタスの奇妙な様子にゲオルグは顔を顰める。
 握るナイフに力が入っていない。こちらを見ているかすら微妙だ。死が近く、故に。
「下手な苦しみは、いかなる罪人であろうとも無用なものです」
 処刑者たるパティは踏み出していた。
 生命力を犠牲に、気力を満たしていた彼女はコースタスへと瞬時に近寄る。Keep Outにより排除――されない。それはやはり、もうこちらを認識できないのか。
 いずれにせよ超重量たる斧は人の首など容易く切り裂き。
「……罪は彼岸にて、向き合いますように」
 処刑人は、罪を許す立場でも裁く立場でもない故に。そう言葉を告げ両断した。

 ――かくて騒乱、収まりけり。
 望まれぬ芸は今ぞここに終わりを告げたのだ――

成否

成功

MVP

シュリエ(p3p004298)
リグレットドール

状態異常

パティ・クロムウェル(p3p001340)[重傷]
斬首機構
タルト・ティラミー(p3p002298)[重傷]
あま~いおもてなし

あとがき

成功です。おめでとうございます!

素晴らしいプレイングだったと思われます。
皆様600字近く埋めていらっしゃって熱意も感じました。

破滅主義者の魔種ですが逃亡の可能性は0ではありません。
例えば団長が「ここで死ぬは本意ではない」と言うように。
Keep Out全力活用で逃げられた場合止めるのは難しかったでしょう。

よって「戦闘中」の挑発が素晴らしかった貴女に。MVPです。おめでとうございます。
それでは、ご参加どうもありがとうございました!

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