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シナリオ詳細

旅人は砂塵に消えて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大鴉の襲撃
 R.O.O内世界『ネクスト』に存在する砂漠の大国『砂嵐(サンドストーム)』。
 勇猛果敢な傭兵団として知られる彼らであるが、実態は大規模な盗賊集団だと言っても過言ではない。
 およそあらゆる悪徳の許される街、『ネフェルスト』を拠点として活動する彼らは、傭兵団としての収入のみならず、自らに『金を払わぬ』者達からの収奪で潤っている。
 金を払わぬ、とは『敵対する者』という意味ではない。例えば、己の縄張りを歩く間抜けからとる通行料。目についた村落から『村を守ってやる』という名目て奪うみかじめ料。支払うものは金でなくてもよい。物資。土地。美男美女。およそ己の欲を満たすものなら何でも収奪するのが、彼らのやり口でもあった。
 故に――ネフェルストは『悪の都』とも呼ばれ、サンドストームの地は恐れられているのである。
 今日も『間抜けな商隊』が、彼ら――傭兵団『大鴉』の縄張りへと入り込んでいた。間抜け共は通行料を支払う事を拒否。『平和的なお話』の末、大鴉の傭兵たちは、彼らの運んでいた荷物と、生き残った人員たち、その全てを収奪し、拠点の一つである砂漠遺跡へと運び込んだのである。
 その牢屋の中、冒険者風の男女が、不安げな表情を見せている。彼らは商隊の護衛を任された冒険者であり、メタ的な事を言ってしまえば、このR.O.Oにログインしていたプレイヤー……希望ヶ浜の佐伯研究室に協力する学生たちであった。
「……ただの護衛クエストじゃないの?」
 半泣きで魔法使いの少女が言う。目の端に浮かぶ、デジタルなユーザーインターフェース。その項目にあるはずのログアウトボタンは、今はグレーアウト(つかえない)となっていた。
「ログアウトできない……たしか、クエスト中はログアウトできないから、まだクエストは進行中って事?」
「そんな! どう見ても失敗だろ! まだ続くってのか!?」
 戦士風の男が言った。クエストに失敗すれば、ログアウトが可能になるはずだ。だが、もう体感で何日も、ここに閉じ込められている……。
「まって……クエスト内容が変わってる……」
 小柄なシーフ風の少年が、声をあげた。
「『他のプレイヤーに救出される』? なんだこれ、どうなってんだよ!」
「うるせーぞ、クソども!」
 がん、と、見張りの男が牢屋を蹴っ飛ばした。冒険者たちは身をすくませる。
「命をとらなかったからって勘違いしてるんじゃねぇぞ。今は売る先を考えてるんだ! お前等みたいなのでも奴隷としての価値はあるからな……」
 その言葉に、冒険者たちの顔が青ざめた。
「奴隷って……このまま奴隷として売られるの……? ゲームだよね、これ……?」
 少女が涙を流しながら訴える。だが、リアルさがウリであるこのゲームが、どこまで作り込まれているのかは不明だ……もし、その悍ましい点までもしっかり作り込まれていたら、という不安が、彼らの間によぎる。
 だが……今となっては、彼らには何もできないのだ。
 このまま、売られるか……或いは救出されるか。それを待つことしかできないのである……。

●学生救出作戦
「なるほど。この暑さ、砂の乾いた空気……ワタシはラサには行ったことはないが、キミ達ならどれだけリアルに再現されているのか、分かるのだろうな」
 と、 『理想の』クロエ(p3y000162)は、砂漠の小さな町に設置された『サクラメント(ログイン・ポイント)』の前に立って、特異運命座標(きみたち)にそう言った。
「できれば、もう少し中を調べたい所だが……今はそうは言ってはいられない。簡潔に説明すると、先ほど『捕らわれた冒険者の救出』というクエストが出現した。内容を調べてみれば、サンドストームの傭兵、『大鴉』の一部隊に囚われた冒険者たちを救ってほしい、と言うものなのだが――」
 クロエはふむん、と頷いて、続ける。
「この冒険者というのが、希望ヶ浜から参加しているプレイヤーであることが判明した。つまり、ワタシたちが救出すべき、ゲームに囚われたプレイヤー、ということなんだ。現実では、彼らはもう何日も目を覚ましておらず、原因不明の病気にかかっている、という事に、希望ヶ浜ではなっている」
 希望ヶ浜は、自分たちの都市以外の情報は、極力遮断する傾向にある。自分たちに通じる常識でのみ現状を騙る必要になった結果、生まれたのが『原因不明の奇病での意識不明』なのだろう。
「もちろん、家族はひどく心配している……彼らを安心させるためにも、冒険者たちを救ってやってほしい」
 クロエはインターフェースを操作すると、イレギュラーズ達にクエストを配布する。
「詳しくは其方のデータを確認してくれ……と言っても、これは生徒に確認した事だが、R.O.Oは『クソゲー』という奴だそうだ。バランスが取れていない? らしい。だから、何が起こるか、とか、キミたちなら大丈夫だ、みたいなことは、ワタシにも確約できない」
 それでも、とクロエは言うと、
「キミ達はこれまで、様々な困難に立ち向かってきたはずだ。ならば、きっと、この難局も踏破できると信じている……気を付けて、言ってきてくれ」
 君たちに全幅の信頼を寄せる視線を向けながら、クロエは特異運命座標たちを送り出した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 『ネクスト』へようこそ。此方は『R.O.O』シナリオとなっています。
 皆さんは、囚われた冒険者たちを救い出さんければなりません。

●成功条件
 冒険者たちの救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 希望ヶ浜、佐伯研究室に協力し、R.O.Oで遊んでいた生徒たち。
 『砂嵐』を通過する商隊を護衛するクエストを受けた彼らは、しかしクエストに失敗。そのまま誘拐されてしまいます。
 クエストに失敗したハズなのに、クエストは解除されず、彼らはログアウトができぬまま何日も閉じ込められてしまっています。
 同時に、彼らを救出するためのクエストも発生しました。皆さんは、このクエストを受注し、生徒たちを救出しなければなりません。
 作戦開始時刻は『昼』。天候は『晴天』。
 作戦フィールドは、『砂嵐』の傭兵団『大鴉』の一部隊が拠点として使っている砂漠遺跡です。
 建物の大半は砂に埋もれていますが、多くはそのまま利用できるようで、生活拠点のようになっています。
 敵の数は『不明』。冒険者が、この遺跡のどこにいるのかも『不明』。
 酷いゲームバランスですが、R.O.Oはこんなもののようです。慣れましょう。

●エネミーデータ
 『大鴉』の構成員たち ×不明
 大鴉傭兵団に所属する一般兵たちです。主に剣や弓で武装しています。
 回復タイプや術士タイプはおらず、物理攻撃偏重の構成です。
 数は多いですが、よほどのことがない限り、一度に全員と……とはならないようです。
 が、総数は多いです。作戦成功条件は敵の全滅ではないので、囮を使うなどして、上手いこと全滅を避けて、対象を救出しましょう。

●重要な備考
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 旅人は砂塵に消えて完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ニアサー(p3x000323)
Dirty Angel
神谷マリア(p3x001254)
夢見リカ家
天魔殿ノロウ(p3x002087)
無法
レインリリィ(p3x002101)
朝霧に舞う花
ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ
夢見・マリ家(p3x006685)
虎帝
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
アカネ(p3x007217)
エンバーミング・ドール

リプレイ

●砂の遺跡へ
 カラカラと乾いた風。『砂嵐』の大地は、今日も熱い。
「なるほど……この熱気。確かにラサと同じと言えるね」
 『朝霧に舞う花』レインリリィ(p3x002101)は、無意識に自らを手で仰ぎ、風を送りながら、言った。仰いだ手から流れくてる風もまた熱く、逃げ場のない暑さが、なるほど、現実の、ラサの砂漠を思い起こさせる。
「ふむ、これがアバターでの初依頼ですか。どうにも勝手が違いますね」
『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)が、眼鏡を直しながらそう言う。現実と、ほぼ寸分たがわぬ感覚を持ちながら、しかし現実とは一致しない違和感を覚えるように、ファン・ドルドには思えた。まぁ、これはおそらく、そのうち慣れるものだろう。例えば、視界の端にうつるHUDのような表示とか。
「今のうちに、アバターの扱いに慣れておきましょう。と言っても、そう時間はかからなさそうですが」
「たしか、今回のクエストは……クエストが変異して、クエストで救出対象になったやつにゃ? なーんか馬鹿にされてるって言うか、二度手間をかけられてるような感じにゃ」
 『怪盗見習い』神谷マリア(p3x001254)が言う。
「それに、ログアウトできない、と言うのが気になりますね! 練達のお三方ですら制御できない不具合となると。気味が悪いですが……」
 『航空海賊虎』夢見・マリ家(p3x006685)の言葉に、マリアが言う。
「おいおいそこら辺の調査もやらされるかもだけど、ひとまずは人質の救出に全力を注いだほうがよさそうだにゃ」
「そうですね……そうとなれば拙者の出番! 迅速に人質を救出するとしましょう!」
 夢見・マリ家が元気よく手をあげた。さて、一行は砂漠を進む。サクラメントのある街から離れ、しばらくフィールドをすすみ、やがて朽ちた遺跡のある地点へと到達した。
「作戦を確認しましょう」
 と、『傘の天使』アカネ(p3x007217)が、傘をくるり、と回転させながら、言った。
「私たちが持っている情報は、一つだけ。此処に人質が囚われている、のみです」
「敵の規模は不明。人質がどこに囚われているかも不明。なんの役にも立たない情報だね」
 『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)が肩をすくめるのへ、アカネは「ええ」と、微笑んだ。
「ですので、多少は場当たり的に対処する必要はあります。けれど、事前準備ができないわけではありません」
「だから、二手に分かれんだろ? 陽動するのと、救出するの。オレは陽動側だぜ? とにかくキル数稼いでスコア上げてーからな! いや、スコアがあるのかどうかは知らねーけど」
 『無法』天魔殿ノロウ(p3x002087)は笑いつつ、言った。
「ログアウトがどうのこうのってのはオレはしらねー。その辺は、後でやる気のある奴が探ってくれ。とにかく、こっちは初仕事って事でけっこーワクワクしてんだぜ? 速く動きてー!」
 天魔殿ノロウが、ぐっ、と両手を握るのを、『宣告の翼』九重ツルギ(p3x007105)が見やりつつ、続ける。
「速く、と言う点には同意します。人質の彼らは学生たち。しかも、R.O.Oはただのネットゲームである……との状況しか解ってない以上、不安は募っている所でしょう」
 九重ツルギの言う通り。今回の救出対象である希望ヶ浜の学生たちは、これはただのゲームであると信じ込んでプレイしている……。
「不安を拭って差し上げて、無事に救い出そうではありませんか。学生の本分は勉学だ。檻の中で震える事ではないのですから」
 九重ツルギの言葉に、同意する仲間達も居ただろう。レインリリィなどは、
(この世界では普段と違うことをやるつもりではあるけれど、今回囚われているのは希望ヶ浜学園の生徒のようだね。教師として放っては置けない……)
 と、内心今回の作戦の重さをかみしめている。
「……ま、ボクはボクに出来ることを全力でやるだけさ」
「そうですね。自分自身に行えることを全力で行い、必ずやクエストの達成を勝ち取りましょう。
 ……それでは、ここからは別々に行動を行うとしましょうか」
 ファン・ドルドが言う。
「作戦通りに二手に分かれます。私は、ある程度内部の情報も調べられますので」
「救出部隊をお願いしたいですね! 拙者は陽動に回りましょう!」
 と、夢見・マリ家。
「にゃーも陽動に回るにゃ。盗……品物の仕入れは得意でも、人探しは苦手にゃ」
 神谷マリアが言う。
「ニアサーも陽動かな。大鴉がどんな連中かは、ある程度は知っているつもりだけど。大丈夫、あんな相手に、ニアサーは、止められないよ」
 ニアサーの言葉に、アカネが頷いた。
「となると、陽動に向かうのは、
 夢見・マリ家さん。
 神谷マリアさん。
 ニアサーさん。
 天魔殿ノロウさん。
 そして私、アカネ。
 ……この5名になりますね?
 よろしくお願いしますね、皆さん。頼りにしていますよ」
 にこり、と笑うアカネに、4人は頷く。
「では、残りの3名で救出に向かうとしましょう」
 九重ツルギがそう言って、虚空から椅子を召喚した。スキルである。それに優雅に腰掛け、手にR.O.Oの攻略本なる怪しげな本を広げる。
「陽動班の皆様が敵と接触次第、こちらも動きます……それはまでは情報整理のフェーズですね。仮にも攻略本と名の付くもの、少しでも記述があれば儲けものと言う事で」
「通信用の『aPhoneーalter』は私が所持します。其方では、ニアサーさんがお持ちでしたね?」
 ファン・ドルドの言葉に、ニアサーが頷く。
「連絡待ってるよ。それまで、派手に暴れておくから」
「結構。では、作戦を始めましょう」
 その言葉に、仲間達は頷いた。かくして砂漠の遺跡を舞台に、特異運命座標たちの救出劇が始まる。

●陽動・救出
 さて、陽動班の仲間達は、一足先に遺跡内へと足を踏み入れる。遺跡内、と言っても、建物のほとんどは砂に埋没していて、今はいくつかの建物の痕跡が、砂の中か姿を見せているような状態だ。屋内戦と言うよりは、屋外での戦いに近い。
「で、どうするよ? 陽動だ、派手にやるか?」
 天魔殿ノロウが、『ゴミ』を手にしながら、そう言った。遺跡エリアの外縁などに、無造作に捨てられていた『生活ごみ』である。つまりこれの意味することは、この中には相当の人数が居て、生活を行っているという事だ。
「あのゴミの量から見たら、まぁそれなりにいるぜ。オレは無鉄砲と呼ばれることはあるが、愚鈍な間抜けじゃあねぇ。このまま真っすぐつっこんで暴れりゃあ、敵は思いっきり釣れるだろうが、オレ達にも相応に被害が出る。それは解る」
 そのうえで聞くが、と天魔殿ノロウが続けて、
「どうするよ? 派手にやるか?」
「そうだね」
 ニアサーが答えた。
「まずはこうしよう。皆でこの先、広場の真ん中まで歩く。戦いやすいからね。そして、目についた敵に向って、こう言ってやるの。
 『私はニアサー。あなた達にゲームオーバーをもたらす天使のお出ましよ。早く出迎えて?』。
 そうして出てきた敵を、皆で叩く」
「へぇ、それ本気で言ってるの?」
 天魔殿ノロウが尋ねるのへ、
「ええ、もちろん」
 ニアサーは笑って答えたので、天魔殿ノロウも笑った。
「よし、気に入った! 異存はあるか? オレにはねぇ!」
「もとからにゃーも暴れてやるつもりだったにゃ」
「目立つことが必須ですからね! 拙者も乗りましょう!」
「その前に、ニアサーさん。こっちが得た情報を連絡しておいてくださいね」
 アカネが言った。
「エリアに入って分かりました。危機を感じている方の、大雑把な位置……これだけ伝えておけば、ひとまずこちらが全滅しても大丈夫でしょう」
「わかったよ、少し待ってね」
 ニアサーが簡単に連絡を済ませる。それから通信端末をしまうと、
「準備完了だ。始めよう」
 そう言って、背中に装備した天使の翼と、ファー付きのマントをばさりと翻したニアサー。ニアサーはゆっくりとした足取りで、広場の真中へと歩いていく。
 その様子に、最初に気づいたのは見張りの男だった。男は流石に、あっけにとられていた。名高き大鴉傭兵団、その拠点の一つに、優雅にマントと翼を翻して歩いてくる人間がいるのか? いるのだ。目の前に。
「イカれてるのか」
 見張りの男が呟いた。その声を聞き取ったのか、ニアサーは彼を見て、にっこり。
「私はニアサー。あなた達にゲームオーバーをもたらす天使のお出ましよ。早く出迎えて?」
 ちり、と、太陽の光を受けて何かが輝いた、それが刀であることに見張りが気づいた時には、ゆっくりとニアサーは、男へ向かって歩き出している所だった。
「とまれ」
 男が言った。
「それ以上近づいたら殺すぞ!」
 ニアサーは止まらなかった。男も手練れの傭兵であったが、その常識にとらわれ過ぎていた。敵襲をかける人間が、こうも堂々とやって来るとは、理解しがたいものであった。
 故に、反応は著しく遅れた。
 ざっ、と刃が振るわれた。オストヴィントの剣風。振るわれた刃が、心地よくも、見張りの男を斬り捨てた。
「出迎えて、と言ったのに。さぁみんな、光の海へ還ろう。送ってあげるから、さ」
 ニアサーは笑った。
「敵襲――」
 男は血を吐きながら叫んだ。そのまま倒れ伏した。途端、その死体より光の十字架が立ち上った。それに気づいて、あちこちから傭兵たちが飛び出してくる。その数、まずは10。
「でてきたにゃー」
 マリアが薄く笑った。
「なんだ! 誰だ、テメェら!」
 傭兵たちの怒号が飛び交う中に、マリアは飛び出した。
「にゃーが誰かなんてどうでもいいにゃ。何だか飢えて飢えてしょうがないのにゃあ、にゃああ♪」
 紅潮するマリアの頬と、とろりとした瞳、そして撫でるような鳴き声が、傭兵たちの脳髄を揺さぶった。くらくらとした感覚が、傭兵たちの身体をかけめぐる。
「くそ、何だこいつ等……!?」
「では、私は名乗らせていただきますね?」
 アカネは傘をくるり、と回して言う。
「私はアカネ! 邪悪を払う傘なり! 貴方に罪あり!」
 その声に、傭兵たちの注意が一斉に向く!
「ふざけやがって! 殺せ! 生かして帰すな!」
 傭兵が叫び、武器を抜き放つ。煌く曲刀。或いは弓矢の類。
「おっと、そいつはこっちのセリフだぜ!」
 そんな中、飛び出したのは天魔殿ノロウだ。手にした暗器を解き放つ。鋭いナイフのようなそれが、眼前に居た傭兵の喉に突き刺さった。が、と悲鳴を上げ、傭兵の喉元から血が噴き出す。
「へぇ、リアルじゃん!」
 天魔殿ノロウは絶命したそいつを蹴飛ばして跳躍。距離を詰めて二人目の獲物を狙う。ナイフの刃が煌いて、命を奪い取る一撃が、敵の動脈を切り裂いた。0と1で構成された生暖かい赤を吐き出しながら、傭兵が倒れ伏す。
「ホラホラどんどん来いよ雑魚ども! 結構前衛ってのも楽しいもんだな!」
「ちっ、舐めるんじゃねぇぞガキが!」
 傭兵が怒声をあげながら、剣で天魔殿ノロウへと斬りかかる。斬撃はが、体力(HP)を削ったことを、視界のはずれのステータスが告げる。
「へぇ、便利! 現実じゃぁどのタイミングで自分が死ぬかなんざわかんねぇしな! じゃ、HPがなくなるまで暴れてやるか!」
 大規模な戦闘が始まる。振るわれる刃と、降り注ぐ矢。特異運命座標たちは派手に立ち回りながら、それらを受け、あるいはいなし、敵の傭兵たちを削っていく。とはいえ、増援はすぐに尽きることはない、倒した先から次々とやってくる増援達。
「てやぁーっ!」
 夢見・マリ家の投げつけた串。電磁加速によって雷のごとく速度で放たれるそれが、傭兵たちの腕に突き刺さる。衝撃。激痛。
「ぐうっ……なんだ、力が抜ける……!?」
「ふふっ、電磁串からは逃れられませんよ!」
 続いて二射目。放たれた串がズドン、と雷のような音を立てて傭兵の腕に着弾し、力(AP)を奪う。果たして刃をとり落とした傭兵に、続けざまに放たれた串が大きなダメージを与えて、その勢いのままフッ飛ばした。
「拙者の串は最強でありますので! ……しかし、大丈夫でありますか、アカネ殿!」
「ええ、ええ。まだまだ」
 近づいてきた傭兵を傘で殴り飛ばしたアカネが笑う。攻撃を一手に引き受けているアカネだが、如何に体力(HP)があるとはいえ、限界はいずれ訪れる。
「仲間を信じて耐えましょう。それに、それより先に、この人達を全滅させてしまってもいいんですから。楽な戦いですよ」
 アカネの言葉に、夢見・マリ家が頷いた。
「そうですね! 拙者もまだまだやりますよ!」
 陽動チームの戦いは激化していく。一方、救出チームは、陽動チームの助けを借りて、拠点内部へと侵攻していた。
 石造りの、旧遺跡をそのまま再利用した拠点。内部にはたいまつの明かりが煌々と灯っている。
「敵は少ないようだ」
 レインリリィが言った。
「外のメンバーは頑張ってくれているね……」
 足元に、歩いたルートを現す目印を落としながら、慎重に歩いていく。幸いにして、内部の敵はほとんど外に出払っている様だ。あれだけ派手に暴れているのだ、それも当然だろう。
「皆の働きに報いるためにも、私達がしくじるわけにはまいりませんね」
 ファン・ドルドが言う。敵の姿は見受けられないが、それでも油断はできない。実際、数度、敵と遭遇したが、相手は一人でおり、あっさりと制圧することができた。
 一歩一歩、慎重に、しかし急いで進んでいく。大まかな救出者の位置は、割り出せている。陽動班からの情報と、九重ツルギによる情報収集――物体に触れれば、簡単に残留思念を読めるらしい――によって、大まかに割り出す事は出来た。後は迷わずそこまでたどり着けるかがだ、生活拠点にもなっている遺跡と言う事で、極端に迷いやすくなっているわけではないのが吉と出た。一行は、素早く牢屋へと到達することができたのである。
「ここですね。やれやれ、汚らしい賊の持ち物に触れた甲斐もありました」
 九重ツルギが嘆息する。一方、レインリリィは檻越しに、生徒たちに声をかける。
「キミ達、大丈夫かい?」
「ひっ」
 その声に、怯えた声をあげる生徒たち。レインリリィは咳ばらいを一つ。ゆっくりと笑みを浮かべると、
「落ち着いて、私は希望ヶ浜学園の教師だ」
「先生……?」
 見知った単語に、生徒たちが落ち着きを取り戻すのが分かる。レインリリィは頷くと、
「大丈夫だ、今助ける。気づかれたくは無いので、あまり声を出さないように」
「鍵はこちらですね。不用心にも、壁にかけてありました」
 九重ツルギが鍵を見つけて、牢屋の錠前へと差し込む。がちゃん、と音を立てて、それが外れた。
「大丈夫ですか? 立てますね? ……よろしい。では、すぐに――」
「何してる!?」
 途端、声が響き渡った。どうやら見張りが戻ってきたらしい。レインリリィは生徒たちを促すと、牢屋の外へと出す。
「ここは私に任せてください」
 ファン・ドルドが、通信端末をレインリリィへ投げてよこす。
「連絡をお願いします」
 有無を言わさぬその語気に、レインリリィと九重ツルギはゆっくりと頷いた。
「申し訳ありませんが……後を、お願いします」
「ええ」
 生徒たちを伴って二人が駆けていくのを、ファン・ドルドは背中に感じていた。それからゆっくりと懐から手持ち式の、スイッチのようなものを取り出した。
「使ってみたかったんですよ、自爆スイッチ。道連れになっていただけますか?」

●脱出
「連絡が来た! 救出班は脱出!」
 ニアサーが叫びつつ、その刃を翻し、傭兵の剣を弾き飛ばす――が、飛来する矢が、ニアサーの胸へと突き刺さった。
「ごめんなさい、先に――」
「任せるにゃ!」
 倒れ伏すニアサーの身体が、デジタルデータに溶けて消えていく、死亡による強制ログアウト。
「おらあっ!」
 天魔殿ノロウが、傭兵を殴り倒した。
「マリア、こっちだ! 包囲の薄い所を突破する!」
「では、私がしんがりを」
 アカネが傘をかざした。だだだん、と降り注ぐ矢を、傘で受け止める。だが、波状攻撃がその力場発生装置を破壊し、アカネの腕を矢が貫く。傘をとり落としたアカネに、傭兵の刃が迫る。体に食い込む、刃。痛み。
「ああ、これが、死ぬって……?」
 アカネはごふ、と血を吐いて、と倒れた。
「ふふ。自分の死体が見えないのが、残念……」
 アカネの身体が、死亡ログアウトによって消えていく。
「アカネ殿……!」
「後を追いたくなかったら走るにゃ!」
 マリアが叫んだ。夢見・マリ家がぎり、と歯をかみしめる。
「わかってる……仮想だってわかってるけれど、こんなの……っ!」
 夢見・マリ家が串を放った。目の前にいた傭兵の額に突き刺さり、傭兵の意識を奪う。ぶっ倒れた傭兵、それ故に空いた包囲網を突破して、一同は遺跡から離脱した。
 街に向けて、ひた走る。救出班も近くにいるようだった。ほどなく合流できるだろう……その時、視界のインターフェースに、ある文字が躍った。
『クエストクリア』
 派手な演出付きで現れたその文字に、特異運命座標たちは、今回のクエストが成功したのだと、理解した。
 安堵に、力が抜ける。一同は思わず、砂漠に座り込んだ。
 砂漠の熱も、今は心地よいと思うほどだった。仮想とは言え、無事に生還した喜びに、一同はしばし浸るのであった。 

成否

成功

MVP

アカネ(p3x007217)
エンバーミング・ドール

状態異常

ニアサー(p3x000323)[死亡]
Dirty Angel
ファン・ドルド(p3x005073)[死亡]
仮想ファンドマネージャ
アカネ(p3x007217)[死亡]
エンバーミング・ドール

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、生徒たちは無事に救出。クエストクリアとなりました。
 今は無事に、現実世界に復帰しております。

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