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シナリオ詳細

鯉幟は天然鯛焼きの夢を見るか

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎誇りだけは屋根より高く

 桜は散り、青々とした葉に陽光きらめく春の川辺に人々が集う。子供の成長を願う端午の節句を5日後に控えた今日この日に行なわれるのは、由緒正しき伝統行事・鯉幟釣りである。
 今年も多くの鯉幟達の遡上が観測されており、雲ひとつない晴れ空に風は穏やかと絶好の釣り日和だ。より大きな鯉幟を釣り上げた者に授与される鯉幟像もキラキラと金色に輝いている。開始の合図である午前9時の鐘を前に、釣竿を手に参加者達は大人も子供も皆一様に真剣な目をしていた。
「俺も負けてられんな」
 黒い作務衣にねじり鉢巻き。熱気の向こうに釣り人達を見遣り、男は長年使い込んで手に馴染んだ得物を取った。
 河原には、年に一度の晴れ舞台はなにも彼らだけのものではないと主張するように立ち並ぶ屋台の群れ。色形は違えど看板に躍る揃いの3文字、それは——『鯛焼き』。鯉幟達の好物であることからこの行事には欠かせない和菓子だ。
 定番の餡子も粒餡に漉餡、小豆の産地にこだわったものなど各店舗ごとの特色がある。春らしい苺餡、初夏を先取りした抹茶餡、鮮やかな色が目を引く変わり種のラムネ餡に加え、チョコレートやカスタードクリームも最近では珍しくない。中身だけではなく、表面にかけたカラメルのカリカリ食感を売りにしたものまである。
 次々に際限なく生まれる新しいものや流行のなか、男には譲れないものがあった。
「そうさ、負けられんとも……軟弱な養殖鯛焼きどもにはな!」
 鋳物の焼き型を重さも感じさせない手捌きで操る彼こそ、今や途絶寸前となった天然鯛焼きの継承者であった。



⚫︎ 天然か、養殖か

「という訳で、みんなには天然鯛焼きがたっくさん売れるようにお手伝いをしてもらいます!」
 パンパンと手を叩き、小さな新人案内人・Lächeln(レッヘン)は経緯の説明は終わりだとばかりに話を進めようとする。しかし全容を理解できた者は半数もいないに違いない。
 鮭のように川を上ってくる『鯉幟』を釣り上げる行事なんてものは、恐らく混沌世界にも、旅人達のいた世界にもそうそうあるものではないだろう。しかも釣竿に括る餌は『鯛焼き』だ。
 集まった面々でどうにか初めからひとつずつ確認していった話をまとめるとこうだ。

 その世界において、鯉幟とは海に住む生物である。
 毎年春になると生まれた川へ帰ってくるそれを釣り上げ、乾かしたものを庭や軒先に飾って主に男児の成長、ついでに父親の出世を願う風習があるのだそうだ。
 そのために各々で準備していたものが、いつしか最も大きい鯉幟を釣った家が栄えると言われるようになり、今では大会まで開かれる前日祭のような行事となったのだという。
 ちなみに鯉幟の干物はほとんど食べるところが無く、ぱりぱりの皮を炙ると酒のつまみには良いらしい。
 そんな鯉幟の好物が鯛焼きなのである。
 鯉幟釣り大会の日の河原には、餌にも軽食おやつにもなる鯛焼きの屋台が何店舗も立つのだが——

「焼くための型が重いし、数も作れないし、手間に見合わないからって天然鯛焼きは絶滅危惧種でレアなんだけど、作り手さんの頭が硬くてメニューは国産小豆の粒餡だけだし、あと顔が怖いからあんまりお客さんが寄り付かないっぽい!」

 ——ということなのだった。
 なお、天然鯛焼きとは柄の付いた金属の型で1匹ずつ焼く鯛焼きを指す。
 対して、鉄板で一度に複数焼き上げるのは養殖と呼ばれる。
 あくまで分類の喩えであり、鯉幟のように活き活きと泳いでいる訳ではない。悪しからず。

「はい、それじゃあ話を戻して! 鯛焼き屋さんのためになることならなんでもいいよ?」
 作り手を説得して工夫するのはそれなりに難易度が高いが、地道に宣伝したり、釣り大会で優勝を狙ってアピールしてみたり、活気あふれる行事に触れながらだってやれることはきっと沢山ある。
「そうそう! 小さくて飾り物にはならない鯉幟の干物を売ってる屋台もあるんだって! 『オマケ』として紙コップ一杯程度のお酒ならもらえるみたいだから、そっちを楽しみたい人は探してみるとイイかも?」

NMコメント

鯛焼きが食べたかった氷雀です。
子供の日と言えば鯉幟。都会の空にはあまり見かけないので、いっそ元気に泳いでもらいました。

◆世界観
ややファンタジーが混じった現代という認識で大丈夫です。
川釣りの大会ができるくらいには自然が豊富です。

◆目標
天然鯛焼き屋さんを繁盛させること。
PCの皆さんは前日入りして仕込みから手伝ったり、必要な材料などを買い出したり、焼き方を教わったりすることも可能です。
竿などの釣り道具は大会で貸し出しています。ご自由にお使いください。
以下のスケジュールを見ながら、前日+当日を半々か、当日に全力投球するかは各自にお任せします。

◆当日スケジュール
8:00 屋台の営業開始
9:00 鯉幟釣りの開始
12:00-13:00 昼食休憩
16:30 鯉幟釣りの終了
17:00 大会の結果発表
20:00 屋台の営業終了

  • 鯉幟は天然鯛焼きの夢を見るか完了
  • NM名氷雀
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月14日 22時02分
  • 参加人数4/4人
  • 相談3日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて

リプレイ

⚫︎のぼる鯉と鯛の旗印

「さすがの海洋でも、鯛焼きを餌に釣りをするのは、見たことがない」
「まさか鯉幟が釣れるなんてねぇ」
 前日入りで件の鯛焼き屋を訪れた『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)と『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)に当初、店主の男は渋い顔をした。
「美味いものを作る職人に、埋もれてほしくない。それだけだ」
 飾り気のないジョージの物言いが刺さった様子の彼はトストの提案に目を丸くすることになる。
「お店ののぼりとか、法被があれば借りれないかな? 天然鯛焼きを餌に大物を釣ってアピールしたいんだ」
「丁度いい。私はのぼり旗を作るつもりだった。美味いものに出会う第一歩は、宣伝と口コミだ」
 愚直に焼くこと以外を考えてこなかった店主には目から鱗だったのだ。
「どんなに美味いものも、食べてみなければ、分からない。旗にはなにか、視覚に訴えかける情報が欲しいな」
「それなら本物の鯛焼きってものを見せてやらあ」
 顎で示された奥の調理場にて、晒した腕の筋肉は握った長柄の金型と同様、使い込まれた彼の武器だ。そこから生まれる香ばしい色の鯛焼きには尻尾の先まで餡子と想いがぎっしりと詰まっている。
「養殖は、やはり掛けられる手間も分散してしまう。ひとつずつ拘れるのは、天然ならではだろうな」
 まさに職人業。体が温まったおかげで幾分饒舌になった店主と、その熱意を汲み上げたいジョージの質疑応答タイムが始まった。
 その間に情報収集すべくトストは大会会場へと向かう。
「……うん! こんなに美味しいなら、鯉幟もきっとよく食いつくよね」
 焼きたてを味わいつつ河原を見渡せば、同じく下見に来た参加者や準備に走る運営スタッフがちらほら。
「ここらじゃ見ない顔じゃな。初めてかの?」
 親切な老人は素直に頷いたトストが訊ねる内容から釣り好きと見抜き、これもご縁だと一から極意を伝授してくれることになった。なお、最後まで名乗らなかったが彼こそは引退した鯉幟釣りチャンピオンその人だった。



⚫︎響くこえは高らかに

 大口を開けて跳ねる鯉幟。追うのは金色の鯛焼き。竿を握ってそれを操る釣り人。墨と筆の無骨で躍動感のある絵で一本釣りという一対一の戦いが強調され、天然鯛焼きとそれに直向きな店主を表す旗が快晴の下にはためいた。

 午前8時、鐘が鳴る。屋台営業開始の合図だ。
「拘りの焼き加減、手ずから練った丁寧な粒餡。どちらも一級品だ!」
 『天然』と力強く謳う法被を羽織った成人男性大のコウテイペンギンに集まる視線。
「無論、他の鯛焼きも美味い。だが、一匹ずつ焼くからこその、この絶妙な火加減が生み出す甘みとパリッとした食感。これを食べずに終えるのは、勿体ないと思わないか?」
 黒い瞳を光らせ、ギフトで変化したジョージが掲げた鯛焼きに齧り付けば、ひとつくださいと声を上げる白無垢の女性。
「黄金色を纏ったあつあつの生地に国産小豆を使用した粒餡の優しい甘さ……沢山食べられる鯉幟様たちが羨ましいです」
 ジョージに続いて食レポする『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)だが、足を止める者は屋台付近のみ。
「どれだけ良いものでもお客様が来ないのでは商売として成り立ちませんね……しかし! ならば呼び込めば良いだけ! 今日に限ってはこの才色兼備のプロ花嫁が控えております!」
 カリッとした鯛焼きの尻尾と溜め息を一緒くたに飲み込んだ澄恋は揃いの法被に袖を通し、すぅっと深く静かに息を吸い込んで——放った。

 珍しい天然鯛焼きいかがですかぁああ! 世界最高級の品質ですよぉおお!
 そこの男子ィ! デケぇ鯉幟釣ってカノジョに良いとこ見せてやりてェんだろ!
 ウチの鯛焼きで鯉も恋も絶好調になってみませんかぁああ!!

 うら若き乙女の全力口上が半径20mの空気と地面と人心を揺らした。他の屋台の店員達は後に語る。あれぞ魂の叫びだった、と。ちょっと怖かったのはオフレコだ。
「……ふぅ。これで周りのお客様はみ〜んなウチのものです!」
 思わず動きを止めていたジョージも含めて純粋に大声で驚いた者の方が多いが、心当たりのある男性陣はいそいそと列を作り、珍しさに敏感な女性達も謳い文句に食いつき出した。そして、その味に目を輝かせて口にした感想が緩やかに波紋を広げていく。


 さて、川沿いでは9時の大会開始の鐘と共に大勢の参加者が釣竿を投げ始めていた。法被の帯に差した豪快な鯉幟釣りの旗はその中でも独特の存在感がある。
「これを背負って下手な成果は出せないぞ」
 餌の付け方に始まり、鯉幟の習性から会場内の穴場に至るまで、老人に叩き込まれたものに加え、自身が培ってきた技を駆使するトスト。早めの会場入りで絶好の位置を獲得した彼の側、物干し竿に似た品評台には既に数匹の獲物が吊り下げられていた。
 まだだ、優勝を狙うならば——鯛焼きを詰めた白い発泡スチロールの箱に手を添える。
「この美味しい餌を、食いつきたくなるように魅せるのが腕の見せ所だ」
 僅かな兆しも見極めんと川面を観察する集中力が運を引き寄せた。垂らした太い糸の先、ドブンッと大きな音を立てて浮きが水中へと引き摺り込まれたのだ。


 わーわーと上がる罵声やら声援やらをBGMに『ヒーロー志望』山本 雄斗(p3p009723)はパトロールに勤しんでいた。
「すっごく楽しそうだけど、僕はこっちに集中集中。おじさんからもらった鯛焼き、美味しそうに食べれば宣伝にもなるかな?」
 観光を兼ねていても、正義の味方はいつでも平和を守るのが最優先。澄恋さんみたいな美人さんに比べたら、と思いつつも今日の追加任務だって忘れない。
「はむっ、う~ん美味しい、鋳物で焼いたのは初めてだけど凄~く美味しいや。一個づつ作ってるからか皮の具合が最高、中の粒あんも程よく甘くていい感じ」
「おい、坊主。それ分けてくんねえか? 餌切らしちまった」
 時刻は11時を回り、大会参加者は早めの昼休憩か粘るかの分岐点。彼はどうやら後者らしい。困っている釣り人に数匹の鯛焼きを差し伸べたヒーローは、ひとまず腰を下ろして自分の分を食べ進めることにした。
「鯉幟さん達は甘党なのかな? というかどうして鯛焼きで釣ろうと思ったのかな? うっかりな誰かが誤っておとしたのかな?」
 なんだ、知らねえのか。外の人間からすれば当然の疑問に驚いて聞かせてくれたのは昔々のお伽話。
 幼い息子が床に臥し、川で泣いていた父親に「塩辛いのはもう沢山。落とすならどうぞ甘露を」と声を掛けた特別大きな鯉幟が、差し出された鯛焼きのお礼にその身を捧げて病魔を祓った物語だ。
 そっから鯉幟は鯛焼きが好物になったんだと、と釣り人は笑った。



⚫︎つれれば即ち大漁旗

 空に突き出た棹に鯉幟が揺れる。釣り上げたばかりのそれは風には乗らず、尻尾が地面を擦らんばかり。誰が見ても一目瞭然、現在の優勝候補だ。釣った当人の想定よりもだいぶ大きい、ぬしと呼んで差し支えないレベルの獲物がもたらす宣伝効果は凄まじかった。
 釣り上げられる瞬間を見届けた参加者達はトストの後をついて我先にと屋台へ並び、大人数人がかりで吊り下げた鯉幟を一目見ようと野次馬も増える。午前中の客寄せの甲斐もあって噂は噂を呼び、お昼休憩と重なって長蛇の列となった。とても店主ひとりでは捌けない程に。
 そこで着物に襷掛けした乙女が立ち上がる。
「安心なさい、花嫁修業でコンロ捌きはお手の物です。養殖の野朗共よりも素早く的確に大量の天然鯛焼きを生産してみせます!」
 家事ならぬ鍛治スキルによる金型の複製と焼き方の師事は前日にきっちり済ませていた澄恋である。出来る花嫁はスマートなのだ。
 気難しい店主も彼女の意気込みには折れ、マンツーマンでみっちり仕込まれたその腕は重い金型の二刀流もなんのその。フィジカル値45のか弱さは伊達じゃない。店主も負けちゃいられんと熟練の手捌きで追い上げれば商品提供の問題は解決できそうだ。
 次なる問題は集まれば集まるほど無秩序になっていく待機列の整理だ。ジョージはそのペンギンの体躯に見合わぬ身のこなしで列形成を補助し、値段や提供までの予想時間を伝えるアシストも抜かりない。
 それでもトラブルというものは生まれるものだ。長い列の途中で喧嘩に発展しそうな雰囲気に、それをぶち壊す「変身」の掛け声が響き、弾ける光を引き連れて着地したのは——『鯛焼キング』だ。
「小さい子でもお行儀よく待ってるよ!」
 鯛焼き飾りを頭に煌めかせた雄斗扮する鯛焼キングの登場で押した押さないの小競り合いは衆人環視の的となり、無実を主張する男の態度は一変して挙動不審に。その裾から何かが滑り落ちれば「私の財布!」と叫んだのは押されたとキレていた女の方だ。これには慌てて逃げようとした男も鯛焼キングの正義の拳の前にあっさり沈み、スリの現行犯として大会本部まで連行されていくのだった。
 この騒動は子供達への宣伝になったらしくおやつ時も相まって親子連れの客が一気に増え、それから人の流れが途切れることなかった。

 17時の結果発表になっても天然鯛焼きの屋台は賑わい、表彰台から鯉幟トロフィーを手に凱旋したトストには河原から溢れそうなほど盛大な拍手が贈られる。
 次第に近づく営業開始の終了の時間。既にへとへとなトストが「鯉幟の干物で一杯やりたい!」と最後の力を振り絞って立ち上がれば、店頭に飾られた金杯を見遣った店主は奢ってやろうと上機嫌だ。
「鯉幟の干物って何さ!? これを食べるの!?」
 吊られたままの主級鯉幟を見上げて驚く雄斗の元へは、スリ逮捕のお礼にと他店から自慢の鯛焼きが持ち寄られた。折角だからみんなで食べようと澄恋やジョージも一緒に山を囲んで頬張れば、労働の後の甘味は鯉幟でなくとも格別の美味だった。

成否

成功

状態異常

なし

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