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シナリオ詳細

愛しき人は幽霊船と共に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幽霊船の舳先にありしは
 絶望の青――先へ進もうとする海洋の船団を幾度となく遮ってきたその海域は、ローレットの協力によってついに踏破された。だが、今は静寂の青となお変えたその海には、未だ危険が漂い続けている。
 過去の『大号令』で沈んだ船が亡霊の船となって出現する幽霊船も、その一つであった。

 その日、海洋軍人である老騎士アモンは乗艦『シーガイア』で静寂の青の哨戒を行っていた。空は晴れ晴れとしており、狂王種などの魔物が出なければ平穏そのものと言った雰囲気である。
 だが、その雰囲気は長くは続かなかった。突如空は黒雲に包まれ、稲光が迸る。何かが起こる、と周囲を警戒した『シーガイア』乗員達の前に、一隻の幽霊船が姿を現した。
「……会いたかった、アモン……さぁ、私達の所に来て……? これからは、ずっと一緒よ……」
「その船は、まさか……シレーナ? シレーナなのか……?」
 アモンはまず幽霊船の船体に驚愕し、そしてその舳先に立つ美しい飛行種の女性の姿に驚愕する。幽霊船はかつて失敗に終わった『大号令』で沈んだ海洋軍艦『エターナル』であり、飛行種の女性は『エターナル』の艦長で当時のアモンの恋人シレーナであったからだ。
 僚艦と恋人を失った時の記憶がまざまざと甦り、アモンの心を悔恨と悲痛で満たす。シレーナと呼ばれた女性の声は、その悔恨と悲痛に紛れてアモンの心に忍び込み、精神を蝕んだ。
「わかった……今行くぞ、シレーナ……」
 夢遊病者の如く、ふらふらとアモンは幽霊船の方へと歩いて行く。だが、アモンの様子が尋常ではないと気付いた副官が、アモンを羽交い締めにして止めた。
「何馬鹿なことを言ってるんですか、艦長! 面舵一杯! 全力で離脱せよ!」
 副官の指示に従って『シーガイア』は幽霊船の前から離脱したが、その際に幽霊船からの砲撃を受け、大きく損傷してしまった――。

●老騎士の依頼
 正気に戻ったアモンは、副官に何があったか聞かされると、驚くと共にがっくりと肩を落とした。まさか、いくらかつての僚艦と恋人が姿を現したとは言え、軍人にして騎士である自分が我を見失うことになろうとは。
「本当に、不覚じゃったわい……」
 ローレットを訪れたアモンは、『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)やイレギュラーズ達を前に、情けなさそうな表情を見せた。皆、何も言えないでいる。
「じゃが、あれが絶望の青――いや、静寂の青を彷徨っているとなれば、そのままにはせずに天国へ送ってやりたい。
 この依頼、どうか受けてもらえぬだろうか?」
 深々と頭を下げながら懇願するアモンの姿に、勘蔵は同情するような視線を向けてから、イレギュラーズ達の方を見た。
「依頼を受けるかどうかは皆さん次第ですが――私も、受けて頂けたらと思います。
 どうか、よろしくお願いします」
 アモンに合わせるようにして、勘蔵はイレギュラーズ達に向けて頭を下げた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は過去の『大号令』で沈み、静寂の青に出現した幽霊船『エターナル』を消滅させて下さいますよう、お願い致します。

●成功条件
 幽霊船『エターナル』の消滅(HPを0にする)

●失敗条件
 以下の、何れかの事態の発生
・アモンの死亡
・シーガイアの撃沈

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 静寂の青。天候は元々晴天ですが、『エターナル』出現時に暗雲に包まれます。
 『シーガイア』と、『エターナル』との距離は、イレギュラーズ達の戦術次第となります。

●幽霊船『エターナル』 ✕1
 かつての『大号令』で沈んだ、海洋軍艦です。大型の『シーガイア』よりさらに大型の艦です。
 元の船体自体は朽ち果てていますが、シレーネや乗員達の無念や怨念で元の姿となっています。かなり巨大であるため、回避はマイナスの領域に入っており、防御技術もほぼ皆無なのですが、生命力が極端に高い上に全てのBSが付与されません。
 また、HPが残っている限り破損部位は修復してきますので、重要部位を破損させるのは今回はあまり有効とは言えません。
 イレギュラーズ達への攻撃は後述する船員達に任せ、基本的に『シーガイア』を狙ってきます。
 なお、神気閃光や聖剣等、フレーバー含めて神聖なる属性を持つと判断される攻撃は、『エターナル』には【防無】扱いとなった上で、追加ダメージを与えます。加えて、大天使の祝福のような神聖なる属性を持つと判断される回復スキルは、『エターナル』には攻撃として作用し、やはり【防無】扱いとなった上で、追加ダメージを与えます。

・攻撃手段など
 怨霊砲(対艦) 【防無】【溜】
  この攻撃からシーガイアを「かばう」ことは出来ますが、対艦攻撃であるため威力は非常に甚大なものとなっています。
 体当たり(対艦) 【移】【弱点】
  この攻撃からシーガイアを「かばう」ことは出来ません。
 BS付与不可
 マーク・ブロック不可
 弱点(聖属性)

・亡霊の船員達 ✕約20
 『エターナル』に搭乗していたシレーネ含む元海洋軍人達です。イレギュラーズ達を遠くからはクロスボウなど、近くからはシミターなどで攻撃してきます。『エターナル』とHPを共有しており、『エターナル』のHPが尽きない限り、いくら破壊しても修復されます。
 軍人ベースだけあって、実力はそれなりにあります。一撃の威力は決して大きくはないのですが、『エターナル』のHPが尽きない限り攻撃されることになるのが厄介でしょう。
 BSを付与出来ないことと、神聖なる属性を持つと判断される攻撃に対して弱いのは、『エターナル』と同様です。

・攻撃手段など
 白兵武器(シミターなど)
 射撃武器(クロスボウなど)
 BS付与不可
 弱点(聖属性)

●アモン&シーガイア
 依頼人である海洋軍人とその乗艦です。かつての『大号令』で、アモンは僚艦『エターナル』と恋人のシレーネを失っており、今回の『エターナル』出現に際しては精神を蝕まれ『エターナル』へと向かおうとしてしまい、『シーガイア』に損害を受けてしまいました。なお、損害に関しては応急ですが修復を終えています。
 そしてOPのとおり、今回、シレーネや乗員達、『エターナル』を昇天させようと依頼を出してきました。
 アモンとシーガイアの戦い方については、イレギュラーズ達が決められます。『エターナル』出現時点で砲撃が届かないようにとにかく遠くへと離脱させてもいいですし、『エターナル』のHPを早期に削るべく砲戦させる、イレギュラーズ達が『エターナル』に乗り込むために接舷させるなども考えられます。
 既にシレーネや『エターナル』と遭遇しているため、アモンは今度は、OPの時のように精神を蝕まれることはありません。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 愛しき人は幽霊船と共に完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月08日 22時04分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●老騎士の依頼を受けて
 蒼い空の下、イレギュラーズ達を乗せた海洋の軍艦『シーガイア』が進む。幽霊船となって『静寂の青』に現れた二十数年前の『大号令』で沈んだ海洋軍艦『エターナル』、及びその際に死亡した『エターナル』艦長シレーナや乗員達を、解放して天に昇らせるためだ。シレーナは、『シーガイア』艦長アモンの恋人でもあった
(アモンの旦那にも忘れられねぇ思い出ってのがあるんだねぇ……って、俺も人のことは言えねぇか)
 忙しなく乗員達に指示を出す艦長アモンの姿を離れた所から眺めながら、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は物思いに耽っていた。形や経緯は全く異なれども、『大号令』の最中に『絶望の青』で大切な者を喪ったのは、縁も同じだった。
 縁にとってその女性は、恋人などと言える相手ではなく、恋と呼べるほど綺麗な感情でもなかった。
(――それでも、愛した女をこの手で殺すことが叶った俺は、きっと幸運で――最低な男なんだろう)
 自らを嘲るように、縁は薄く笑う。別離の日からその女性の声は消えることはなく、また消えない棘が縁を苛んでいた。
(後悔はしてねぇ、が――同じ痛みを、アモンの旦那にまで味わって欲しいとは思わねぇな)
 アモンの忙しない姿は、シレーナの事を考えまいとしているかのように、縁には見えた。そのアモンが縁と同じ痛みを味わうかどうかは――縁達次第と言えるだろう。
(恋人と愛着があったに違いない僚艦を、天国へ送ってあげる決断ができるなんて、アモンさんは立派で愛情深くて……とても優しい人なのね)
 アモンを見やりながらそう考えるのは、『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)だ。ならばと蛍は、是が非でも二人の最後の別れの手伝いをしっかりと務めるつもりでいた。その側には、恋人の『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)がいる。
(心や想いはひとの原動力たり得るものですが、それは掛け替えないだけに、重く。逆に動きを縛ってしまうこともあるのでしょう)
 なればこそ、アモンを、シレーナを、そして『エターナル』の乗員達を過去から解放せねばならない。そう心に言い聞かせながら、珠緒は蛍の横で、何も言わずにアモンの姿を見つめ続けていた。
「……シレーナさんと心中するつもりなら、我々に依頼を出したりはしませんよね?」
 そのアモンに、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が問いかけた。ウィズィの本音を言えば、アモンには同行して、シレーナの近くで共に戦ってもらいたい。だが、数に勝る二十体もの亡霊が動き回る戦場は、いくら海洋軍人とは言え依頼人を連れてくるには危険だった。
「最愛の人の分まで生きるつもりがあるならば。死ぬ覚悟ではなく、生きる覚悟があるならば……。
 どうか、我々を送り届けたら、シーガイアと共に直ぐに離脱して下さい……我々に、任せて下さい」
「わかった……貴殿らに、全て任せる。どうか、よろしく頼む」
 アモンの方も、これまでに『大号令』での様々な危機から救ってもらったりその後もいろいろな事件を解決してもらったりと言う経緯があるので、イレギュラーズ達に全幅の信頼を置いている。諭すかのようなウィズィの言葉に、アモンは深々と頭を下げた。

「この辺りの海域には、あちこちに幽霊船がいるんだな」
 見張りがてら、甲板の縁から船外の海を見ていた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がそう独り言ちる。それだけ、海洋にとってこの海を越えることは悲願であり、この海の方も何度もその願いを数多の死によって断ち切っている。成功した最後の『大号令』においてさえ、海洋軍人の死傷者は多数だった。
 だが、そのために『絶望の青』と呼ばれた海も、今では『静寂の青』と名を変えて穏やかな海となっている。
(エターナルには、この穏やかな海で、今度こそ永遠に眠ってもらおう)
 そのためにも、イズマは力を尽くすつもりでいた。
(シレーナもまた一緒になりたかったんじゃろうが……悲しい事じゃが、それは叶わん事なんじゃよ)
 イズマの横に並んで船外の海を眺める『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)は、ふぅ、と深く溜息をつく。アモンは生者であり、死者であるシレーナと一緒にいさせることは出来ない。それは、依頼人でもあるアモンが死者となることを意味しているからだ。
(――あるべき者は、あるべき所に)
 死者たるシレーナや乗員達、そして幽霊船『エターナル』にはこの世を彷徨わせるのではなく、天国に往かせる。そう、潮は意を決していた。
(亡霊からの呼び声か――今になって蘇るとはな。おそらく、殺したいわけでも、憎いわけでもないのだろう)
 『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は、そう考えた。もっとも、考えたかった、と言った方が正しいのかも知れない。
(――ただ、会いたかった)
 『エターナル』艦長だったシレーナの、最期の未練。それが、絶望の青の呪いによって歪められた結果だろうとジョージは捉えていた。

●幽霊船との遭遇
 晴れ渡っていた蒼い空が、瞬く間に暗雲に包まれる。来るか、とイレギュラーズやアモン達の間に、緊張が走った。その予想どおり、『エターナル』が遠くからでもそれとわかる巨体を現した。
「――これはこれは、ひときわ気合いの入った幽霊船だね。こもっている怨念も、さぞかし重いだろうな」
 大型の海洋軍艦である『シーガイア』よりもさらに大きな船体を目の当たりにした『若木』秋宮・史之(p3p002233)が、つぶやいた。永遠を願って名付けられた船が沈んだ無念は、如何ばかりであったろうか。史之としては、察するに余りある。
(あの大号令を乗り越えた者として、力を貸そう――もう二度と、迷わないように)
 決意を瞳に宿し、史之は『エターナル』の巨体を鋭い視線で見据えた。

 『エターナル』が『シーガイア』に迫ろうとする一方、『シーガイア』も『エターナル』に舵を向けていた。接舷し、イレギュラーズ達を乗り移らせるためだ。だが、『シーガイア』が『エターナル』の大砲の射程内に入ると、『エターナル』は怨念を凝縮して創り出した砲弾で、砲撃を行ってきた。
(『シーガイア』をやらせるわけには、いかねぇんでね)
 すかさず、縁がダッと走り出すとシーガイアの甲板から飛び降り、怨念の砲弾の前に身を投げ出して、『シーガイア』の盾となって砲弾を受け止めた。
「ぐっ……やっぱ、キツいねえ……だが、今のうちだぜ……!」
 いくら堅牢な守りを誇る縁とて、まがりなりにも軍艦を沈めるための『エターナル』の砲撃を受けては、大ダメージを受けるのは避けられなかった。むしろ、縁でなければ力尽き海に沈んでいたと言える。しかし縁はその砲撃に耐えると、『エターナル』が次弾を装填している今のうちに進めと、『シーガイア』に向けて身振りで示した。
 縁の指示に従った『シーガイア』は、次の砲撃を受けること無く『エターナル』に接舷する。そしてイレギュラーズ達が速やかに乗り移ると、『エターナル』とすれ違うようにして離脱していった。イレギュラーズ達は『エターナル』の甲板で潮、珠緒ら後衛を中心とする円陣を組み、亡霊と化した船員達を迎え撃つ。

「珠緒さんは、絶対にボクが守るよ。だから、ボクの分まで存分に力を振るってね」
 共に『エターナル』に乗り込む際に、周囲を明るく照らすべく光を放つ恋人から告げられた声援が、戦闘の最中でありながらも珠緒の心を安らがせていた。
 その言葉どおり、蛍が側で守ってくれていると言う安心感に包まれながら、珠緒は亡霊達が多い場所を選び邪悪を灼く聖光を放つ。光に包まれた亡霊達はボロボロと砕けて甲板の上に崩れ落ちたが、その残骸に甲板から黒い靄が纏わり付くと、瞬く間に元の姿へと戻っていった。
「さあ、Step on it!! 悲願を託されているんだ……絶対負けませんよ!」
 ウィズィは自らを不可侵の聖域へと変じると、手にした片手剣『ハーロヴィット・トゥユー』で迫り来る亡霊の一体を斬りつけた。亡霊は肩から胸へと深く斬り裂かれたが、やはり甲板から黒い靄が亡霊へと流れていき、その傷をなかったかのように塞いでしまう。
(立派な戦艦だし、これを沈めるって結構大変じゃないかと思っていたが……もしや、亡霊とこの戦艦は力を共有しているのか?
 ならば、とにかくこいつらに火力を叩き込んでいこうか!)
 珠緒とウィズィの攻撃を受けた亡霊達が元どおりになる際に、甲板から黒い靄が流れているのを見たイズマは、そう推察した。そうであれば亡霊達を攻撃していけば『エターナル』の力を奪うことが出来るはずだと、イズマは周囲にいる亡霊達に向けて無数の刺突を繰り出した。イズマの刺突を受けた亡霊達は力尽きかけ、膝を折りかけるが、やはりすぐさま甲板から流れ込む黒い靄によって亡霊達は立ち直る。
「この靄が亡霊達を元どおりにするのなら、これで払ってあげるよ!」
 史之は亡霊達を無視して甲板を狙い、戦乙女による戦士への聖なる福音を響かせた。本来は聴く者を癒やすその福音は、破邪の力を有するが故に『エターナル』にとっては害として働き、黒い靄をぶわっと払い飛ばして本来のものであろうボロボロに朽ちた甲板を露出させる。だが、その部分に水が低きに流れるかのように黒い靄が流れ込んでいき、朽ちた甲板を覆い隠して元どおりの姿とさせた。
「生者が憎いか! ならば俺が相手になろう!」
 目の前に迫ってきた亡霊達に向けて、ジョージが咆えた。その大喝の圧は凄まじく、亡霊の数体を破壊しながら甲板の縁へと押し飛ばし、海へと叩き落とした。この亡霊達はすぐには復活してくることはなかったが、海面下で『エターナル』の船体にしがみつくとそのまま同化し、時を置いて甲板に現れることになる。
(まとめて焼きてぇが、そうもいかねぇからな)
 数を頼りに押し寄せる相手なら、一族に伝わる炎の秘術で焼き払えば話は早い。だが、味方と円陣を組んでいる状態でその秘術を用いれば、味方も巻き込んでしまうだろう。しかたなく縁は、青刀『ワダツミ』で甲板を斬りつけた。甲板には深く斬撃の跡が刻まれたが、周囲から黒い靄が流れ込み、元どおりに復元していく。
 亡霊達はイレギュラーズ達の円陣を数で押し包んで崩そうと、曲刀を手に斬りかかってきた。亡霊達は元は海洋の軍人であり、しかも超大型艦である『エターナル』の乗員にも選ばれるほどであるから戦いの技量は高かったのだが、さらに戦いの――特に、守りの技量の高いイレギュラーズ達をまともに傷つけることは出来なかった。
「もう、休みなさい。お前さんたちも含む皆の努力で、絶望の青は無くなったのだから」
 亡霊達がイレギュラーズ達につけたわずかな傷も、そう語りかける潮によってもたらされた天使の救いの如き音色によって、すぐに癒やされていった。その音色はイレギュラーズ達を癒やしただけではなく、亡霊達の身体を灼き、甲板を包む黒い靄を消滅させる。やはり周囲の甲板から黒い靄が流れこみ、甲板と亡霊達を元どおりにはしたのだが。

●遺されしもの
 戦闘が続くにつれ、黒い靄は次第に薄くなっていくのがイレギュラーズ達にもわかった。イズマが推察したとおり、亡霊達と『エターナル』とは力を共有しており、イレギュラーズ達の攻撃によってその力は削がれていたのだ。薄くなった靄からその事を察したイレギュラーズ達はさらに亡霊達を攻め立て、時間こそ要したものの、おそらくシレーナであろう、階級の高そうな飛行種の女性の亡霊を維持するのがやっとという所まで追い込んでいた。

「珠緒さんは、ボクが守るんだ!」
 シレーナは円陣の隙間を狙って、部下達にまとめて破邪の光を浴びせかけてきた珠緒に長剣を突き立てようとする。だが当然蛍がそれを許すはずがなく、蛍は自らの身体でシレーナの刺突を受け止めた。
「アモンさんは、貴女を天国へ送ってあげたいと仰いました。積もり積もった沢山の想いを乗せて、頭を下げられました……。
 どちらの涙も、もう十分でしょう。どうか笑顔で、送られてください」
 蛍に守られた珠緒はシレーナにそう呼びかけたが、シレーナはアモンの名前に微かに反応は示すも、戦闘を止める気配は見せなかった。仕方なく珠緒は、邪悪を灼く聖光をシレーナに浴びせかけていく。すっかり薄くなった黒い靄が、聖光に灼かれたシレーナの身体をやはり元どおりに修復していった。
(やはり、言葉では戦いは止められぬのかのう)
 珠緒の言葉へのシレーナの反応に、潮は臍を咬むようなもどかしさを感じつつも、治癒魔術を構築して蛍を癒やす。潮の癒やしによって、蛍の傷は完全に塞がった。
「この海に懸けた気持ちはわかるけど、もう終わったんだよ!」
 だから、もう永遠に、安らかに眠って欲しい。その想いを込めて、イズマは黒き大顎を召ぶと、シレーナへと放った。大顎はシレーナの脇腹に食らいつくと、牙を深々と突き立てる。その傷は黒い靄によって癒やされたが、完全には癒えきらず、わずかではあるが牙の痕が残った。ついに、『エターナル』がシレーナの身体も元に戻せなくなったのだ。
(――そろそろ、終わりかねぇ)
 縁はシレーナとの距離を詰めつつ、『ワダツミ』を大上段に振り上げる。そして、シレーナを刀の間合いに収めると、一息に振り下ろした。『ワダツミ』の刀身が、シレーナの肩から太股までを、ズバッ、と深く斬る。もはや霞のように薄くなった靄が甲板からシレーナに流れ込んである程度までの傷を塞ぐと、『エターナル』の船体はボロボロに朽ち果てた姿を曝け出した。
「アモンさんの、シレーネさんへの想い! この一撃に込めて、放つっ!!」
 心臓に宿した恋人の魔力を、ウィズィは爆発させ、全身に駆け巡らせた。二人分の力が、身体中に漲っていく。
「唯刀‪──‬連理」
 絆によって導かれた、ウィズィすらも如何してそう振るったのかわからない無意識の剣閃が、横薙ぎにシレーナの胴を払う。その一閃は、シレーナの腹部を深く斬り裂いた。シレーナは苦しげに斬り裂かれた傷を押さえるが、どう見ても終わりであった。
「――ア、モン」
「ごめんね。アモンさんに会わせてあげるわけには、いかないんだ。その代わり――」
「渡したい物があるのなら、俺達が責任を持ってアモンへ届けよう」
 ウィズィの一閃を受けたシレーナは、半ば正気を取り戻したかの様子で、恋人の名を口にした。それにすまなそうに史之が答え、ジョージが続ける。
 同時に、史之は戦乙女による戦士への聖なる福音を響かせ、ジョージは傷を抑えているシレーナの手の上から自らの掌を押し当てた。破邪の福音の響きと、シレーナの手を徹して送り込まれた気が、シレーナの身体を灰と化して消滅させた。
「――さようなら、アモン」
 消滅の瞬間、シレーナが微かにそう口にしたのを、イレギュラーズ達は確かに聞いた。あとには、鈍く光る古ぼけた指輪が残るばかりであった。

 シレーナの遺した指輪を確保したイレギュラーズ達は、沈みゆく『エターナル』から脱出し、迎えに来た『シーガイア』に回収された。そして何とも言えない表情で出迎え、労を労うアモンに、シレーナが遺した指輪を差し出す。アモンは目を見張り、半ばひったくるようにその指輪を手に取るとギュッと掌の中に握りしめ、力が抜けたようにその場に膝を突いて、人目も憚らずにボロボロと涙を流して泣き崩れた。
「シレーナ、シレーナぁ……ううっ、うおおおおおお…………!」
 いつ果てるともない慟哭に、イレギュラーズ達は何を言うこともできず、ただその姿を見守るしかなかった――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

十夜 縁(p3p000099)[重傷]
幻蒼海龍

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって『エターナル』は海の底に沈み、シレーナと乗員達はこの世から解き放たれて天国へと赴きました。
 それでは、お疲れ様でした。

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