PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>染まれ、赤き闇夜に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カウントダウン・マイナス
 時間に追いかけられている。『魔種』の一体、ヴァルサミーナ・ルピナスは常に渇望し、絶えず求め続ける女である。
 求めることそれ自体が難しいと思ったことはない。『原罪の呼び声』によって狂わせた者達はいつも彼女の求めに応じてくれた。いつも彼女の思い通りに狂ってくれた。
 ただ足りないのはいつだって時間。彼女は貪欲であるゆえに、自身が満足するほどの『狂気』が撒き散らされるその時まで待ちきれた試しがない。
 ……大体において自分で壊してしまうから。彼女は求める者であると同時に、極度の破滅主義者である。
 狂気による叫び声という名の歓声を待ちきれず、死に際の悲鳴を以て己への叱責として受け容れてしまう。正直なところ、彼女は自分さえ見てくれるなら。
 誰が死のうが生きようがどうでも良かったのだ。どうでもよかったから、たまさか遭遇した『それ』が杖を掲げる動作を見て笑みを深めたのだ。
「アナタも、時間ガ惜しいのネ? 素敵、ステキ。ワタシとアナタ、求めるモノが同じなのに、やり方が全然、違ウ」
 ヴァルサミーナの指先が膨れ上がり、崩れ去り、砂のように消えていく。その化物――『色黒天』は彼女の時間をも奪い去ろうとし。
 しかし、灰となった腕が自らの首を締め上げた時、その女が今まで食い散らかしてきた世界とは全く違うものであることを認識する。
 崩れていく、崩れていく、加速する時間に再生が追いつかない。
 女の優美な笑みを見て、色黒天は涙した。……こんな相手に奪われるなんて、己はいかに幸福であるのか。そんな恍惚を飲み込んだ。

●加速する世界で週末の鐘を
 幻想蜂起を鎮圧したことから連なる、『ノーブル・レバレッジ』。大成功を収めたそれは国王を、三大貴族を、そして多くの人々の心を動かした。
 公演取り消しを受けたサーカスが王都から逃走しようと、もう遅い。『幻想』は彼らの狩場から一転、巨大な檻と化したわけだ。
 狭まる包囲網を脱する術は多くない。座せば死ぬこの状況に対し、サーカスは乾坤一擲の反撃に出る。……要は、彼らはバラバラに事件を起こすことで混乱を広げ、一部だけでも国外へ脱出左遷としているのだ。
「魔種(デモニア)、<終焉(ラスト・ラスト)>とかいう連中であることは隠す気ありません、ってコトだな。さんざ騒がせてくれたサーカスらしい面白いフィナーレってとこか」
 『博愛声義』垂水 公直(p3n000021)は笑っている。だが、常以上に攻撃的な、毒のある笑みだった。世界を渡って幾ばくか。本来の身分では立つこともないだろう大舞台に、興奮しているのだろうか?
「ま、奴さんも本気ってワケで、そこいらで混乱が起きてる。輪をかけて面倒なのは、そのうちの1人が厄介なモンを抱え込んじまってる、ってトコか」
 公直が取り出した人相書きには、1人の女性が記されている。『空駆けのヴァルサミーナ』。空中ブランコを始めとするパルクールに長けた女性、ということらしい。
 もしかしたら、サーカス公演で目にした者がいてもおかしくはあるまい。
「ヴァルサミーナって嬢ちゃんがな、どうやら生粋の魔種らしいんだわ。で、幻想の辺境くんだり、貴族領で楽しく狂人を生み出してショウタイム、大暴れしておいでだ。
 輪をかけて最悪なのは、どうやら嬢ちゃんはとある化物を取り込んでる。『色黒天』って聞いたこと、あるかい? 一度君らを苦しめた、『死にかけの時間泥棒』さ」
 名前を聞いたことがある者もいるかもしれない。かつて自らが生き永らえるために、多くの人やモノの時間を削り、奪い去った大物だ。消息は不明だったが、ヴァルサミーナがその所持品である『鈴鳴りの杖』を手にしていることから、彼女がその能力を奪い去った、という見方が適切であろう。
「俺も資料だけは読んだけど、能力を常に開きっぱなしじゃあ多分狂気を伝播出来ない。能力に制限がある、と見たほうがいい。……つっても相手は魔種だ。ヴァルサミーナは欲深で鳴らしてたらしいから、そういう系の能力も気をつけなきゃあいけないだろうな」
 そこまで公直が話したところで、イレギュラーズから問いが飛んでくる。『原罪の呼び声』について、対処できるのか、と。「無理だ」、と彼は即答する。
「ヴァルサミーナはサーカス連中の中でも特級の曲者……『原罪の呼び声』もかなり強力だと思っていい。君達の作戦のおかげで、これでもマシなんだぜ? せめて、穏やかな最期を与えてきてやってくれ」
 そう言って笑う彼は、先程よりいくばくか、力ない笑みを浮かべているように見えた。

GMコメント

 サーカス死すべし、慈悲はない。
 というわけでサーカスをボコしつつ後顧の憂いを断つお仕事です。
※『色黒天』については拙作『時よ、儚き世を刻め』のエネミーですが、読まなくても必要情報は記載しますのでご安心ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●達成条件
・『空駆け』ヴァルサミーナ・ルピナスの撃破
・狂気市民の制圧

●ヴァルサミーナ・ルピナス
 サーカス団員、『空駆けのヴァルサミーナ』。非常に身軽。
 魔種であり、『原罪の呼び声』により市民を重篤な狂気に陥れる。欲深く情念に拘り、つねに急いている印象を受ける、とはサーカス鑑賞者の言。
 『色黒天』を取り込み、その能力の一部と『鈴鳴りの杖』を所有している。
 非常に魔力が潤沢であり、魔術防御力の高さは折り紙付き。一方で物理防御は『少し』苦手。膂力は常人以上のため、攻撃力は高い。
 EXA値も高く、2回行動以上を警戒すべき。

・ヴァルサミーナの戦闘圏内で『敵』と見なされた者は、副行動における移動で固定ダメージを受ける。
・戦闘時のレンジが近いほど、イレギュラーズ側のEXA値増加。レンジの短い相手を攻撃する際、ヴァルサミーナのCT増。
・ヴァルサミーナから2レンジ圏内のイレギュラーズ及び『狂化市民』の数に応じ再生・充填付与(ブレイク不可)。

スキル
・空駆け(至近物単・溜1。ブロック状態を無視して「機動力/2」分移動する)
・鈴鳴りの杖/TypeV(超遠神域・万能・狂気/不吉/乱れ 高威力)
・時空障壁改(近神ラ・Mアタック中・飛・呪縛 中威力)
・昇ル欲得(至近神単・連・恍惚/致命 大~特大威力)
・アンタッチャブル・デザイア(中神範・魅了・必殺・封印・呪殺)

●『狂化市民』×複数
 『原罪の呼び声』により狂ってしまった市民。数は相当数いるが、ヴァルサミーナおよびイレギュラーズの戦闘に極端に邪魔にならない程度。
 彼らの残存数でヴァルサミーナの性能に変動が発生する。
 なお、彼らをもとの精神状態に戻すのは不可能だろうと分析される。

●戦場
 貴族領・市街地内。
 戦うに不都合ない環境ですが、建物や道路がネックになることもあるでしょう。油断禁物です。

  • <Liar Break>染まれ、赤き闇夜に完了
  • GM名三白累
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)
夢は現に
セララ(p3p000273)
魔法騎士
オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
楔 アカツキ(p3p001209)
踏み出す一歩
プティ エ ミニョン(p3p001913)
chérie
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に

リプレイ

●絶望インサイト
 鮮やかな衣装に朗らかな笑み。
 不吉なほどに朗々と響く美声は二重に重なり人々の耳朶を揺らす。女の声と、『杖』の声。時間の果てを追い続けた魔種と、時間から逃げ続けた化物の残滓。
 人々は狂気に染まり、四方八方で奪い合い殺し合い貪り合う、ここはこの世の地獄の一遍にほかならない。
「永劫に意味はなく、ただ苦しいだけ、限りあるこそヒトは美しい。後悔も伴わぬ欲望など無残で醜悪なだけだ」
 『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は視界に魔種・ヴァルサミーナを収めると、その『醜悪さ』に顔をしかめた。
 見目はよい部類なのだろう。他者を引き寄せる魅力は、相応に備わっているように見える。だが醜悪だ。外見ではなくその内面に、何にも代え難い臭気が凝っているように見えた。
「この辺りの市民全員狂化されてて、元には戻せない、っと……そっかぁ……」
 『cherie』プティ エ ミニョン(p3p001913)は周囲の状況を見渡し、次の瞬間には興味を失ったようにヴァルサミーナへ視線を移す。狂戦士たる彼女に、助けられない相手を慮る思考はない。助けられないなら死んでしまえ、とすら思っているのだろう。それはなんらおかしな思考でもない。為すべき任務の前では瑣末事なのだから。
「オ客さン、かしラ? 退屈しテいたカラ丁度イイワ」
「魔種だか何だか知らないけど、これ以上好きにはさせないわよ!」
 イレギュラーズの姿を見咎めたヴァルサミーナに、『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)は魔剣『ズィーガー』を突きつけ、堂々と宣言する。
 一同はすでに魔種を中心として放射状に布陣しており、包囲状態からわずかばかりも逃さぬ姿勢を固めている。相手がそれに気付いていないとすれば滑稽の極みだが、ヴァルサミーナの表情からその兆候を読み取ることはかなわない。
(俺がこの世界を訪れ、対峙した相手の中では2番目の実力者だろう。決して油断出来るような相手ではない)
 『軋む守り人』楔 アカツキ(p3p001209)はじりじりと距離を見計らいながら、自らの身を低く構える。距離をおいてなお、心臓が潰されそうな威圧感。一歩でも踏み出せば、たちまちのうちに体力を削り取る領域を持つ相手に、軽率に踏み込むことは適わない。仲間とタイミングを合わせねば、彼女は容易にこの布陣を突破してくるだろう。何より、狂気に侵された市民達が仲間内の殺し合いだけで満足するとは信じがたい。
「サーカスとは往生際の悪い連中が多いのですね」
「派手に暴れてくれたおかげで、討伐の大義名分も出来たことだしね」
 アカツキの懸念をよそに、『主無き侍従』オフェリア(p3p000641)と『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の言葉はそれぞれが強い挑発の色をもって魔種に突き刺さる。無論、ヴァルサミーナ自身はそれらの言葉に対し薄く笑みを散らすのみで、自ら襲いかかろうとはしない……今は、まだ。
「私は楽シミたい。『演者』は誰カを楽しまセて、自分も楽しマなケレば。楽しみマショウ、皆で?」
「道化師風情が、時空を統べし魔王の前に立ちはだかるか。下賤な貴様とボクとが価値観を共有できるとでも思ったのか?!」
 『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)は彼女の言葉を挑発のひとつとして捉えた。魔種が、自分と同じ価値観で『楽しむ』などと。許されていいはずがない……過剰なまでの自信があればこそ、その冒涜はゆるされないものとして映ったはずである。
「面白みもない狂人の真似事に付き合ってやるつもりもない。市民ともども片付けてしまおうではないか」
 ラルフはため息とともに義手に指を添え、魔種へ向けて構える。息を合わせるようにイレギュラーズは得物を構え、相手をその視線で射抜く。心地よいものを受け止めるようにヴァルサミーナは笑みを深め……一同の行動よりも一拍、否、半拍ほど早く踏み込んだ『その姿』に表情を歪めた。
「リベンジの時間だよ、色黒天! ここで絶対に止める……いや、殺す!」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)は2本の聖剣を携えて間合いに入り、しかしその剣を振り下ろすことをしなかった。意表をついて踏み込んでなお、かの魔種には隙がない。雪辱を誓った己を強いて先手を打って、なお相手を逃さぬように押し止める役割を忘れない。言葉と心と決意は溶鉄を超えて熱く、しかし思考は冷静に保ったまま、彼女は体ごと魔種の杖を押さえ込み、押し込みにいく。
 相手が反応する暇を与えず、仲間は彼女の意を汲んで動き出す。恐らくは誰も理知的な撤退は求めぬだろう。誰もが敵を逃すまいと固く誓っている。
 あるのはただ、死闘の気配のみ。

●不可逆クレッシェンド
「人違いハ嫌イよ、私」
 魔種は、2本の聖剣を押し込むように杖に魔力を籠め、斥力を時間で加速させてセララを吹き飛ばす。過去に受けた攻撃よりは重く、しかし実力差はかの敵よりも絶望的な隔絶ではない。背後に迫った壁を『ラグナロク』で弾き、牽制するように『イチゴショート』を前に突き出した彼女の視界の先で、結が、次いでアカツキが相手と間合いを詰め、逃すまいと構えるのが見えている。
 わずかに狭まった包囲に目を細める彼女の肩を撃ち抜いたのは、ラルフの錬金銃から放たれた術式弾。打ち込まれた位置が変色していることから、速度や機動力は未知数ながらも、回避力が然程高くないことを窺わせた。とはいえ、毒の色合いほどには傷が深刻、とはとても思えないのだが。
「キミの守りの硬さにカラクリがないか、確かめてやる」
 ディエが両手斧を思い切り振り上げ、力の限りに叩きつける。対魔術の護りの硬さは、ヴァルサミーナがなんらかの能力を隠し持っていることの示唆ではないか。彼女はそう考え、どうにか弱体化できないかを検討した末に、その一撃に賭けたのだ。
「私ノ『空駆け』はもハや本能。私の狂気ハ等しク自由。何かノ『定義』で縛ろウなんて、不自由じゃなイ?」
「つまりは小難しく考えなくても、君を倒せるってことだよね? いい事聞いちゃったなあ」
 自慢げに語る魔種の頭部を狙ったのは、プティの『天凱光弩弓』による一射。その矮躯に見合わぬ弩弓の一射、その衝撃は間違いなく頭部を穿つ衝撃だったはずだが……いかなるカラクリか、頭蓋の中心ではなく側頭部を抉る軌道を残し、禍々しい矢は後逸する。
「傷は間違いなく負っていますし、軽減されたわけでもない……ますますもって不可解ですね」
 オフェリアはセララの異常を察知し、浄化の光を彼女へと放つ。一連の攻防を見るに、間違いなく一定量の手傷は負っている。その傷が偽りである可能性も否。
 それでも余裕そうな態度が崩れないのは、その体力の残量と狂気に陥った市民たちの数からくる優位性を信じて疑わぬからであろう。
「ありがとう、壁際に飛ばされたのはびっくりしたけどもう大丈夫!」
 指先の感覚が確かなことを再確認し、セララは不敵な笑みを浮かべた。過去に戦った異形への憤りは忘れていない。だが、魔種である相手を侮ってもいない。ただ、かの異形に比べれば何ほどでもない、というだけで。
「縛れると分かったなら好都合、一気に畳み掛けるよ!」
 『宝晶箋エフェメラ』を携えたルーキスは、不可視の糸を張り巡らせて魔種を縛り上げんとする。ラルフの一射は重大な示唆であった。硬かろうが魔力に強かろうが、不利益を跳ね返すほどの守りではない。狙いを据えて放てば、相手の行動を制限できる。一瞬でも足止めできればいい。確信に輝いた目には、近付いた勝利の可能性が確かに見えていた。
「素敵ね、希望ヲ捨てナいソノ笑顔、とッても素敵。素敵スギて、壊シたい」
 魔種の笑みが深まるのと、肩口の毒の色が失せ、不可視の糸が引きちぎられるのとはほぼ同時。それに伴い、顔をなでつけただけで弩弓の傷は失せ、ディエの渾身の一撃から放たれた斬撃の傷すらも癒えている。
 ラルフの銃が穿った跡がある時点で、無尽蔵の治癒力ではないことが救いか。
 ヴァルサミーナはいきおい、アカツキと結に苛烈な連打を叩きこみ、両者の体力を大きく削り取る。結は幸いにして軌道を読み、僅かに躱して傷を抑えた。アカツキも傷は深いが、立てぬほどでもなし。
「お嬢さん、こんな中年は嫌いかな?」
「私好ミには少し、惜シイわね」
 ラルフは魔種に組み付き、不敵な笑みを浮かべる。すげなく断られてしまっても、気にしたふうには見えなかった。……組み付いて離さぬ、という不退転の決意は、その身から溢れんばかりだ。
「キミは色黒天のオマケでしょ? サーカスでも目立って無かったしね」
 セララはわざとらしく魔種を取り込んだ化物の名で呼び、鼻で笑ってみせた。
 彼女にとって、『杖』の所有者は『色黒天』に他ならない。かの存在に対する雪辱を果たすことが彼女にとっての本懐である。故に、サーカスの中の魔種1人、最初から眼中にないのである。挑発として彼女が口にできうる最大限の罵倒であった。
「悪いけど、あなたに付き合ってる暇はないのよ。少し速いくらいで勝てると思わないでくれる?」
 結はズィーガーに光を灯し、加速する。ギアを1段階上げた上でなお止まらない。舞うように斬り付け、その切断面から大量の血を噴き上げさせる。正面切っての果たし合いは、血風吹き荒れる修羅場と化す。
「……安ヰ、挑発」
「声に動揺が混じっている。怒りを切り捨てられないのなら、堪えるだけ無駄ではないのか」
 熱の籠もったヴァルサミーナの声に、心底不思議そうにアカツキは問う。その拳は寸暇をおかず乱打を打ち込み、ラルフによって鈍らされた動きの先に置くように叩き込まれていく。肉体の不調を瞬時に巻き戻すなら、最初から足を止めようなどと考えない。最大火力をつぎ込むしかないのだ。
 その考えは、ルーキスにせよプティにせよ同じである。
 降り注ぐ石礫。精密な狙いから放たれる弩弓の矢。破壊力のみならず、狙いが正確であるからこそ、重い打撃となってかの魔種を苛むに至る。
 加えて、ディエの大斧が闇を纏って振り下ろされ、深々と傷を刻むのだ。先の倍以上の傷を受けて、ヴァルサミーナが無事であろうはずもない。
 ……しかしそれでも、笑っている。
 喉奥からひねり出すような奇怪な笑いを浮かべている。
「あナタが大好きナ……『色黒天』? この杖のコが、私に教えテくれタワ」
 あなたには何があっても、救いを与えぬように、と。ヴァルサミーナはセララを指差して笑う。杖を振り上げ、自らを的にかける『あの自爆行為』を一度仕掛けて、杖に寄りかかるようにして、魔種は叫んだ。
 もット私を楽シませテ、と。……果たしてそれは誰に対する呼びかけであったのだろう?

●終幕レクイエム
 イレギュラーズ達は、命より重いものを奪うかのような不快感に見舞われた。狂気に訴えかけ、魂を揺さぶり、、内心の罪を暴くかのような声。戦意に猛った彼らにとっては、踏ん張れば耐えられる強風のようなもの。だが、周囲の市民たちにとっては全く違った結果をもたらした。
 つんざくような悲鳴を上げて殺し合っていた両者がルーキスへと飛びかかる。
 注意せねば目で追えぬはずのプティの細かな空中機動に合わせるように、数名の市民が取り囲む。それのみならず、市民達は着々と包囲を狭め、今や遅しとイレギュラーズへ襲いかからんと待ち構えていた。
 魔種の肉体の回復が、たちまちのうちに加速する……などという出鱈目は起きぬにせよ、放置しておけば総攻撃にすら完治で応じかねない。
「滅びを語るには些か弱いと感じましたが、なるほど。その声で私達を狙うつもりはないのですね」
 オフェリアは、狂気の声に容易く抗うと同時に、その真意を理解した。大袈裟に振る舞って見せつつも、この女は……どこまでも現実的かつ破滅的。
「まだ……まだ終わるわけにはいかないのよ! 力を寄こしなさいズィーガー!」
「力を寄越せ、運命を切り開く力をな!!」
 結とディエは、脳内に響く杖の声を一蹴し、狂気の呼びかけに叫ぶ返すように吠えた。肉体は運命に頼らねば立つことすら危ういはずだった両者は、驚くべきことに『運命に頼らずに』命の縁に指をかけたのだ。
「時間を食らうにしては欲求が足りぬ。命を奪うにしては覚悟が足りぬ。君はどこまでも、芸人の域をこえないのだな」
 ラルフは心底残念そうに溜息をつくと、歩くような自然さで義手を展開し、市民を焼き払った。
「……ア?」
「助けられないんだろう、邪魔なんだろう、そんなモノに慈悲をかけてなんになるんだい? せめて、自分たちが挑んだ相手がどれほどのものか学んでから死んだほうが私は慈悲深いと思うけどな!」
 プティは包囲されたことこそが好都合とでも言わんばかりに、死体の山を築き上げる。その矮躯からすれば信じられぬほどの殺意の暴風は、間違いなく彼我の間の人垣を取り払うために吹き荒れている。……踏み込む気なのた、この修羅場でなお。
 殺し、殺し、殺して殺す。
 周囲の市民を巻き込むことも、己の命が削れることも、イレギュラーズはもはや顧みるつもりはなかった。
 血を吐き肉を断たれ、魔種と市民と仲間の猛攻に晒されてなお彼らに撤退の二文字はなかった。
「これしきの責め苦で倒れるほど、無様な鍛錬は積んでいない!!」
 運命をつぎ込んで、魔力を拳に乗せて、アカツキは吼える。
 拳を賭してなお、強敵を屠る価値があると信じて疑わぬ目だ。
「ァ、あ、アゝ……?!」
 魔種は、ことここに至って初めて後退した。怯えたのだ。
「正義が悪に、負けるもんかあっ!!」
 信念をこめてセララの双剣が唸りを上げる。
 咆哮とともに吸い込まれた剣閃をもって、しかしヴァルサミーナは倒れない。……だが、その首にルーキスの放った獣が食いついた。
 悲鳴、肉の音、杖の落ちる音。
 砕け散ったそれは、幕引きの合図であったのか。

 市民は誰ひとりとして狂気から逃れられなかったが。
 一人の魔種はその犠牲をもって、イレギュラーズに文字通り屠られたのだ。

成否

成功

MVP

琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 なんやかんや色々あったのですが、大体「気合い」で押し返された感じです。いや、それに限らず数値的なところもかなりウェイトが重かったのですが。
 何はともあれ、皆さんの被害は私の想定の半分ほどです。これは素晴らしいことと思います。
 MVPはドラマチックでも良かったのですが、まさかの根性補正に度肝を抜かれたのであなたに差し上げます。
 ……立てるんですねえ。

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