PandoraPartyProject

シナリオ詳細

優心プラシーボ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「メルは私のお友達だもんね」
 岩本しずくは5歳の少女である。
 生まれつき難病で、ずっと病院に入院していた。学校にも行けず、友達と呼べるのは母親がせめて寂しくない様にと手作りした熊のぬいぐるみだけ。
 しずくはこのぬいぐるみに『メル』と名づけ毎日話しかけ、大層大事にしていた。
 とある日の事だった
『しずくちゃん!』
「! メル喋れたの!?」
 突然メルが話して動くようになった。
 大人に話しても誰も信じてくれなかったが、確かにメルは動いて喋った。
 しずくにとっては夢の様だった。
 お喋り、しりとり、お絵かきにトランプ。
 遊びの数こそ少ないが、遊び相手が出来てしずくはとっても幸せだった。
「……っ、痛い。痛い!」
『しずくちゃん! 痛いの? 待ってて』
 持病の発作に苦しみ痛みを訴えるしずくにメルは何処からか布を取り出した。
 それをしずくの胸に押し当てると、不思議なことにスーッと痛みが引いていった。
「あれ、痛くない……メルが治してくれたの?」
『うん! 大丈夫? しずくちゃん』
「平気! メルは凄いお医者さんなんだね!」
 こんな日々が緩やかだが穏やかに繰り返されていった。 
 
 しかし、幸せは続かなかった。
 メルと出会って数か月後、しずくは僅か五年の生涯に幕を下ろした。
 しずくの身体に縋り、泣き崩れる母親に、彼女の肩を支えながらも同じく涙を零す父親の姿。その姿にその場に居た病院関係者すら嗚咽を堪えきれなかった。
 その場に居る殆どが岩本しずくという少女が死んだことを理解していた。

『しずくちゃん、ママとパパだよ。起きないと、おはようって言わないと』
 ――いつもと同じように、しずくを起こそうとするメル以外は。l
『しずくちゃん? まだ寝ているの?』
 もしかしてまだどこか痛くて起きられないのかもしれない。
 ボクが直さないと。ママもパパも悲しんじゃう。
 お医者さんとパパとママが何か話してる。
「……しずく、明日。おうちに帰ろうね、頑張ったね」
 ダメだよ! ママ、しずくちゃんはまだ直ってないんだ。
 痛いの直ってないんだよ。
 おかしい、布をあててもちっともしずくちゃんの顔が変わらない。
 
 どうして? ボクが下手だから?
 だって今までこれで直っていたのに。
 痛くなくなったよって笑ってくれていたのに。
 抱き上げて、撫でてくれたのに。

「どうして?」
 やめて、しずくちゃんを連れて行かないで。

 しずくちゃんは、ぼくが、マモル、ナオス。
 ――ツレテ、イカナイデ。

 何処からともなく聞こえた幼い声を最後に、その場に居た全員が意識を失った。


「討伐依頼だ」
 淡々と朧は告げた。その声色には僅かに哀しみの色が滲んでいる。
「舞台はとある病室、そこで怪異になっちまったぬいぐるみがいる。それを倒してきてくれ」
 背景はこうだ。
 とある少女の唯一の友達だったそのぬいぐるみは自身に少女を直す力があると信じていた。
 だって、実際に彼女は痛みがなくなったと笑っていたから。
「――プラシーボ効果って、聞いたことがあるかい」
 嗚呼、とあなた方は溜息を洩らした。
 きっと、本当に痛みはなくなったのだ。だが、ただのぬいぐるみに病を治す力など無い。
 ――直せる訳が、無いのだ。
「ぬいぐるみは懸命に治療をしているつもりなんだ、怪異になってその子の大切な人たちを危険な目に遭わせていることに気づかないままで」
 どうか、心優しいぬいぐるみを救ってやってくれ。
 朧はそう言い、あなたたちを送り出した。

NMコメント

 初めましての方は初めまして。
 そうでない方は今回もよろしくお願い致します。白です。
 心優しいぬいぐるみを救ってあげてください。

●目標
 メルの討伐もしくは沈静化
 意識不明者の救出

●舞台
 現代日本の某病院の一室です。
 中央にベッドがあり、ベッドの傍でメルが懸命に治療しようとしています。床には意識を失ったしずくの両親、看護師、医者が倒れています。ベッドにはすでに亡くなっているしずくが横たわっています。

●敵
 メル
 しずくの友達だった優しい30cmほどの熊のぬいぐるみです。
 しずくを直せると信じており彼女を直すまで連れていかないでと強く願った結果、怪異に変化。今回の事態を巻き起こしました。
 しずくを守り、直すためにあなた方に刃を向けます。
 鋏、綿や布での目隠しで攻撃をしてきます。
 身体が小さく攻撃をあてづらいですが、しずくに危険が及ぶと判断した際はその小さな身を躊躇いなく盾と使うでしょう。
 会話は可能ですが、人間の年齢にして五歳くらいの小さな子くらいの理解力や判断力と思ってください。


●NPC
 両親
 メルの力により意識不明の状態で床に倒れています。
 しずくのお葬式の時にメルを一緒に棺桶に入れてあげるつもりでした。
 
 医者
 メルの力により意識不明の状態で床に倒れています。
 しずくに心を砕き接していた人格者です。
 懸命に治療しましたが、彼女を救えませんでした。
 
 看護師
 メルの力により意識不明の状態で床に倒れています。
 明るい性格で、しずくをずっと見守っていました。
 NPCはメルが無力化すればやがて目が覚めます。 

●サンプルプレイング
 そう、そうね。
 解るわけないわよね。もう、頑張らなくていいのよ。
 メルちゃん。いま、助けてあげるから。
 マリオネットダンスで行動を阻害できないか試してみるわ。

 こんな感じです。それではいってらっしゃい。

  • 優心プラシーボ完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月05日 22時20分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海武闘
饗世 日澄(p3p009571)
紡ぐ者
ハク(p3p009806)
魔眼王

リプレイ


「シズクチャン、シズクチャン」
 病室へ降り立った四人の特異運命座標はその光景に思わず言葉を失った。
 意識を失い床に倒れている人々、その中心の無機質な白いベッドで永遠の眠りについた少女。
 そして彼女の名前を壊れたスピーカーの様に繰り返し、布をしずくの瘦せ細った腕へ押し当て続ける一つのくまのぬいぐるみ。
 今回の依頼の討伐対象のメルだ。
 その姿を認めてハク(p3p009806)は唇を嚙みしめた。ジワリと鉄の味が口の中へ広がったが気していられなかった。
(……メル様は勿論、ご両親様もお医者様も看護師様も皆しずく様のことが大切で……しずく様もそんな皆様の事が大好きだったはずで……想い合ってたはずなのです)
 それが、こんな。悲しいことに。鼻の奥がツンとしかけるもぶんぶんと頭を振り、魔女見習いとして、初めての仕事に取り組まねばとハクは思い直す。
(まずは床で倒れてる皆様を避難させないとです……!)
 仮にメルを説得できたとして、自分の所為で大切な人を傷つけたと知ったら屹度優しいメルは悲しんでしまうから。
(いささか、損な役回りになりそうだな)
 ジョージ・キングマン(p3p007332)は眉根を寄せ、スクエアレンズの奥の瞳に影を落とす。死別は嫌でも訪れるものだ。それが、小さな子供でも、平等に。
 裏社会に通じているジョージは、より一層その概念を理解していた。
 だが死という概念を理解するにはメルは余りにも幼すぎる。
 ましてや『死』を教えてくれる存在も、元がぬいぐるみではいないのも当然の話であった。
 そんな目の前の幼子に今から残酷な真実を告げねばならない。『死』という概念を教えてやらねばならないのだ。
「こういう事は、あまり得意じゃないんだが。やれるだけ、やるとしよう」
「そうね。それにメルに、しずくを治療する力はなかったとしても、しずくの心を癒したのは事実よ」
 リア・クォーツ(p3p004937)は首から下げたクォーツのロザリオを手に取り見つめた。
 ずっと昔のことだ。当時自分は身体が弱くクオリアの力を制御できず、絶えず頭の中に旋律が鳴り響いていた。耳を塞いでも容赦なく突き刺さる旋律に怯え、ベッドの上から動けず只管窓の外を眺めては溜息を吐いていた日々。
 ――また泣いていたのかい?
 そんなリアにシスターは心を砕き彼女に手を伸ばし続けた。
 リアが怯える度にその手を包んで抱きしめてくれたシスターの旋律は温かく。
 その旋律に抱かれている間はとても安心できたのだ。
「あたしを一人にしないでいてくれたからこそ、今のあたしはここにいる。だから、必ず、この二人は救って見せるわ」
 リアはロザリオを力強く握りしめた。

「ねぇ、メル。聞こえる?」
 リアがメルへ声を掛けてみる。はっと気づいたようにメルはベッドの上によじ登り、その小さな腕をめいいっぱい広げた。まるでしずくを護るように。
「ダレ!? シズクチャンナオッテナイ! ツレテイカナイデ!」
 メルが叫ぶと同時に鋏が一人でに宙へ浮かび、リアへと刃先が向けられる。飛んできたそれを躱した先には意識を失った母親を安全な場所へ退避させようとしていたハクが居た。
「わっ!?」
「――ッ! 危ない!」
 ジョージが刃から守る様にその身をハクと母親の前に晒した。
 ざくりと品の良いスーツの腕が切り裂かれ、マスタードのワイシャツに血が滲む。
「ジョージ様!」
「かすり傷だ」
「ア……」
 その赤に、メルの体が怯えたように強張った。からん、と音を立て鋏が床に落ちた。
 だってそれはしずくが苦しそうに吐いていたソレと同じ色だったから。
 頭を抱え、ふるふると震えだしたメルに饗世 日澄(p3p009571)は、そっと糸を繰る為に構えた指を降ろす。
(……動きを縛る必要はなさそうですね)
 万が一メルが攻撃を続けるようであれば動きを封じてしまおうと、病室の隅で集中力を高め待機していたがその必要はなさそうだった。背中のライフルケースに目を遣り、使わずに済んだことに胸を撫でおろす。病院の薬臭いのは苦手と言えど、血なまぐさい火薬の匂いでこの場を満たし、穢したくなかったのだ。
 攻撃が止んだ隙に、ひとまず意識を失った者たちの避難が完了した。
 ふぅ、と一息ついた後でハクは周囲を見渡した。
「きっと、きっとまだ傍に居るはず……」
 腕を組み膝を着いてハクは目を閉じた。しずくが亡くなってまだ時間が然程立っていないなら彼女の魂はまだこの場にいるのではないかと考えたのだ。
 閉じた瞼の裏に、ハクは純白の光を視た。穢れの無い、純真な魂。
(……あなたが、しずく様ですか?)
 ――おねえちゃん、だれ?
「ハクと申します、急に申し訳ありません。しずく様にお願いしたいことがありお話をさせていただいております」
 ――お願い?
「はい、実はメル様が――」
 ハクが二言、三言としずくと言葉を交わす。数秒後、流れてきた旋律にリアは耳を澄ました。
 温かく穏やかで、まるで陽だまりの様に居心地がいいその旋律はあまりにも優しい。
 その旋律に少しだけ、悲しみが混ざっている。
「……きっと、メルと過ごせて幸せだったのね。楽しかったのよね」
 目尻に浮かんだ涙をさっと拭い、リアはそのまま指を構えた。
 現像的な青白い光がリアの周囲に集まりヴァイオリンを顕現させ音色を紡ぎだす。
(あたしは演奏のエキスパートだもの)
 たった一人の為のメロディ。
 世界のどこにもない、少女から友達への想いを載せて。
「メルに救われた貴女の思い出を完璧に音楽として再現してみせるわ」
 時に儚く、時に強く。すべてを包み込むようにゆっくりと。
 音色が病室を満たした。
 ぴたりと動きが止めたメルの瘴気が徐々に収まっていく。
『シズクチャン、シズクちゃ……』
「奴さん、落ち着いたみてぇだな」
「ええ、もう攻撃はしてこなさそうです」
 リアの演奏に耳を傾けて壁際に居た日澄とハクが互いに目配せする。
 様子を見ていたジョージが歩み寄りメルの視線に合わせる様に片膝を着いた。

「なぁ、メル。しずくは、彼女は、もう直せない。なぜか分かるか?」
『……しずくちゃん、直せないの? どうして?』
 ぎゅっと布を握りしめた小さな手を優しく握ってやりながらジョージは続けた。
「大事な、しずくの魂。心が、もうここにはないからだ」
『……?』
「痛いのは、もう感じないんだ。神様が、もう十分頑張ったんだな、と、迎えに来てるんだよ」
『……しずくちゃん、もう痛くないの?』
「ああ。もう、痛いと感じる必要がない世界へ行くんだ。だから、ここにいる人達とお別れする。だから、みんな悲しんでいるんだよ」
 心なしかメルがふわりと笑った様にジョージは思えた。
 ヴァイオリンを降ろしたリアがジョージと同じように視線を合わせる。
 役目を終えた青白い光が霧散し宙へ融けていった。
「メル、しずくはね病気で死んでしまったのよ」
『……!』
 大好きなしずくが死んでしまった。直してあげられなかった。
 その事実が小さな体に重く圧し掛かる。それでも、この子なら受け止め切れるとリアは感じていた。そっとメルを抱き上げてやり、ゆるりと頭を撫でてやる。かつてしずくがメルにしていた時の様に。少し安心したのかリアの胸へメルはすり寄った。
「ジョージさんの言う通り、もうとっても頑張ったから、優しい神様が迎えに来てくれたのね。そしてね、メルこの世界では、死者を弔う時にその人の大切な思い出も一緒に天国に連れて行くと言うわ。きっと、しずくのご両親は、彼女を火葬する時に、一番の友達であったメルの事も一緒に連れていきたいと思っているわ」
『パパとママが? ボクもいっしょにしずくちゃんのところに連れていってもらえるの?』
 ゆっくりと顔を上げたメルにリアは頷く。
「……ええ、ただ、メルも一緒に灰になってしまうわ。それでも、しずくといつまでも一緒に居られるのはあなただけなの。どうか、天国でも彼女の事を守ってあげてくれないかしら」
『うん! しずくちゃんのところボクも行く!』
 無邪気に弾んだ声は本当に嬉しくて堪らないという風であった。
 主よ、どうか穢れなき彼らを御許へとお導きください――。
 リアは祈った。
 苦しそうに歪められたしずくの顔を只、眠っているかのように日澄は整えていく。
 たった一人の友達の為に尽くしたメルの献身と治療の先に、苦しみも、痛みもあってはならないものだから。
「傍に居てあげてくださいね、メル様はしずく様の一番のお友達ですから」
『うん、しずくちゃんの傍にボク居るよ』
 幾分か和らいだその表情にメルはそっと手を伸ばした。
(誰かに語ろうとは思わねえが、ぬいぐるみには思うところがあるのよね)
 もし、自分のぬいぐるみが意思を持って暴れだしたら屹度大変に決まっているけれど。
 何故か無性に、日澄は帰ったらぬいぐるみを抱きしめて眠りにつきたいと漠然と思った。

『……あのね、ごめんなさい』
「ん?」
 メルがおずおずとジョージの腕に布を添える。
 傷が塞がる訳はない。
 だが、きっとしずくはこんな気持ちで『直して』貰っていたのだろう。
 心の内にほんのり灯る温かさにジョージは目元を緩めた。
「ああ、ありがとう。とっても楽になったよ。メル。ここまで彼女ががんばれたのは、お前のおかけだ。お前も、もう休んでいいんだ」
『……えへへ』
 心底安心したのか最後に可愛らしい笑顔を見せて、メルは動かなくなった。
「きっと、二人なら寂しくないだろう」
 しずくの腕にジョージはそっとメルを抱かせてやった。
 
 ――後日、岩本しずくの葬儀が執り行われたと四人は朧から聞いた。
 そしてメルも共に天の国へ昇ったのだと。
 
 優しい心のプラシーボ。
 きっと向こうでで、しずくとメルは楽しく遊ぶのだろう。
 四人が見上げた青空は雲一つなく。
 何処までも清く澄んでいた。 


成否

成功

状態異常

なし

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