シナリオ詳細
たのしいクジラのお友達
オープニング
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「うーん……どうしよう……?」
とある研究所にて、瓶底メガネの女が唸る。
彼女の目の前にあるのは小さな培養槽だ。その中では――デフォルメされたクジラのような生き物がぷかぷかと浮いていた。
クジラは何も分かっていなさそうな円な瞳で、じぃーっと女のことを見つめている。
この女、マッドサイエンティストのシーディは人工生命体の研究をしているのだが……前回行った実験では厄介な事件を起こしてしまった。
失敗作の薬品により生み出されてしまった無数のゾンビもどき。
その処理は異世界からやってきたイレギュラーズに任せたのだが、実際に作った命を無下にするような行動を深く反省もしていた。
だから、次の研究はもっと暖かなものを。
そう思って生み出したのが、このクジラだった。
幼い頃に読んだ絵本に出てきた、夢の世界の小さなクジラ。
それをモチーフに生み出したこのいきものは、前回のゾンビ達とは違う。
だからといって、自分一人でこの子に接するのは――いいことなのだろうか。
「……また、彼らに頼んでみようかな」
このクジラにも、きっと友達は多い方がいい。
そう願い、シーディは部屋の扉を開くのだった。
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「来てくれてありがとう。またシーディからの依頼だよ」
境界案内人・カストルが、一冊の本を片手に笑顔を向ける。
「彼女は自分の世界で好き勝手しているマッドサイエンティストで……でも、今回のお願いは事件ではなさそうだね。なんでも新しく生み出した人工生命体がいるから、その子に接して欲しい、とのお願いだよ」
勿論シーディも生み出した命の責任は取るつもりだが、それはそれとしてイレギュラーズ達の手伝いは期待している。
必要な報酬も準備してあるし、依頼も難しいものではなさそうだ。
「シーディが今回生み出したのは、小さなクジラのような生き物みたいだね。中身は生まれたばかりの子供のようで、彼と遊んで欲しいとのことだよ」
クジラは空気中を水中のようにぷかぷかと泳ぎ、のんびり過ごしているようだ。
シーディ以外の存在に触れるのは初めてだが、人見知りはしないだろうと推測されている。
この子と純粋に遊ぶも良し、何かを教えてあげるも良し。兎に角シーディは、このクジラに自分以外の友達を作って欲しいのだと言う。
「簡単な依頼だと思うから、ゆっくり楽しんできて欲しい。それじゃあ、気をつけて」
ゆるりと本を開きつつ、カストルはイレギュラーズ達へと頭を下げた。
- たのしいクジラのお友達完了
- NM名ささかまかまだ
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年05月03日 22時10分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
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シーディの研究所にて、イレギュラーズ達はクジラと向かい合っていた。
つぶらなおめめは初めてのお客様にきらきらと輝いているようだ。
「クジラと遊べる、のか。楽しみに、していた」
ぽつりと言葉を紡ぐのは『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)だ。
彼女も鉱石のように青く輝く瞳で、クジラをじっと見つめている。
これだけ小さいならば背に乗るのは難しいだろうか。けれど一緒に遊ぶことは出来るだろう。
そう考える彼女の隣では、『九本足のイカ』エルラ(p3p002895)がニコニコと笑みを向けていた。
彼の身体は大きな水泡に包まれており、クジラと同じく空中にふわふわと浮いている。
「わぁ、クジラさんだ……! 空中で泳いでるのはなんだか親近感あるな……」
同じ海の生き物で、一緒に空中をぷかぷか出来る。
そんな仲間がいるだけで自然と心も弾むもの。エルラもまた、クジラと何をして遊ぼうかをのんびりと考えていた。
「人工的に生み出された命か……だが、この子ならきっと大丈夫だな。友達を作ってあげたいということだし、もちろん協力するよ」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はクジラとシーディへと丁寧に挨拶をしていく。
「クジラも皆さんも、よろしく」
頭を下げるイズマに対し、皆も会釈を返していた。
「今回もシーディさんの依頼なんですよね? ふむ……随分可愛らしい生き物が」
『無限循環』ヨハン=レーム(p3p001117)の脳裏に浮かんだのは、前回のシーディからの依頼だ。
彼女なりに反省した結果が今回のクジラなのだろう。ぷかぷかと浮くクジラを見遣り、ヨハンの表情は思わず緩む。
「あはは、これは良いですね。空飛ぶクジラなんて初めて見ましたよ。今日は楽しんでいきましょう」
イレギュラーズ達が皆前向きなのを確認し、シーディは安堵の息を零していた。
「こちらこそ、今日はよろしく頼むよ。それじゃあ、ゆっくりしていってくれ」
シーディはイレギュラーズ達を連れ、遊戯用の部屋へと足を踏み入れる。
これから始まるのは、クジラとお友達になる時間だ。
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「それじゃあ、まずは改めて挨拶、だ。マリアは、エクスマリア、という。お前は……?」
エクスマリアはクジラを一瞥し、次にシーディへと視線を向ける。
「そういえば、この子、名前は何て言うんです? お仕事に必要な情報ですよ」
「あ、ぼくもお名前気になるなぁ。なんて呼べばいい?」
ヨハンとエルラもシーディの顔をじーっと見るが、シーディの方は申し訳無さそうに視線を逸している。
「名前、まだ決めてなくて……」
「そうだったのか。俺達でつけてあげるべきか、どうするか……」
イズマはうーんと考え込み、次にクジラをじっと見る。クジラは何も分かっていない様子でぷかぷかしていた。
「生みの親なんですから、シーディさんがつけてあげるべきですっ!」
「わ、分かった。君達が帰るまでに考えておくよ。とりあえずはクジラと呼んであげてくれ」
ヨハンにびしぃっと指を指され、シーディは目を丸くしていた。
名前の件は一旦置いておくのが良さそうだ。ならば次は何をしよう。
「さて、クジラくん……ちゃん? この子は喋ることが出来るのでしょうか?」
「それは、マリアも、気になっていた。言葉は、解しているか?」
ヨハンとエクスマリアの言葉にクジラはこてんと首を傾げる。
先程から鳴き声もあげていないところを見るに、クジラ自ら喋ることはなさそうだ。
けれど会話は何となく把握しているようで、時折笑みは浮かべている。
「もしかすると、言葉はこれから覚えていくかもしれないな」
「一緒に泳ぐだけじゃなくて、おしゃべりも出来たら楽しいよね……」
イズマとエルラもクジラの様子をまったり見つめていた。
「言葉を発するのは難しくても、声は発せられるようになるといいな。そうすれば……ほら」
そう話しつつ、イズマが取り出したのは小さな木琴とマレットだ。
そのまま木琴を叩けば――丸っこい音が周囲に響く。
「これは楽器といって、俺の好きなものの一つなんだ。それをこうして……」
ぽん、ぽん。最初は単調だった音が次第に繋がり、一つの音楽へ。
初めて聞いた軽やかな音楽に、クジラの瞳も楽しそうな笑みの形を取った。
「こうやって音を発すれば、声や振動で気持ちを伝えることもできるようになるかもしれないな」
コミュニケーションの手段だって楽しむ手段だって、一つでも多い方がいい。
そんな彼らの様子を眺めつつ、エクスマリアも懐から小さな道具を取り出していた。
「マリアも、一緒に遊ぶのに、良いものを、持ってきた。シャボン玉、という」
彼女の手に握られていたのはシャボン玉セットだ。
そのまま薬液をストローにつけて、ふーっと吹けば――ぷかぷかのシャボン玉が部屋の中を飛び交い始めた。
「大きく丈夫なシャボン玉を、作る用意も、ある。好きなだけ、ぷかぷか、させよう」
「ぼくも混ぜてほしいな。シャボン玉の中を追いかけっこしてみよう……!」
すいーっと泡の中を通り抜け、エルラがクジラとの距離を詰める。
ぷかぷか仲間同士、シャボン玉の中を駆けるというのは楽しそうだ。クジラも頷き、エルラと共に部屋の中を飛んでいく。
「へへ、潜水漁で鍛えた身のこなしを見せてあげるよ……!」
「マリアも、ついていく。シャボンが、足りなければ、いつでも、出そう」
部屋を駆け回る子供達を見遣り、イズマは穏やかな笑みを浮かべていた。
見れば彼の手元では、お茶の準備が進んでいる。ヨハンはそんな彼へと近づき、共に準備を進め始めた。
「イズマさん、手伝いますよ」
「ああ、ありがとう。お菓子は小さい方がいいかな? それからシーディさんも呼んでこようか」
暫くすれば、疲れた子供達も戻ってくる。
そうなれば、今度はまったりお茶会の時間だ。
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イレギュラーズ達は用意された椅子に腰掛け、共にお菓子を摘んでいく。
クジラの方はエクスマリアの提案によって用意された、小さなプールにてぷかぷかしていた。
そんなクジラの頭を撫でつつ、エクスマリアは小さく笑う。
「水の中も、楽しそうで、何より、だ」
「クジラさんは外に出たことがないんだよね……。外の世界にはね、海っていうところがあるんだよ……」
エルラも共にプールへと着水し、語り始めるのは大海原の話だ。
「海の中って意外と素敵なものがたくさんあるんだ……サンゴ礁とか、キレイな魚とか……」
いつか一緒に海に行って、素敵なものを沢山見たい。
そう願うエルラに対し、クジラはにっこりと笑みを向けている。
「ああ、でもね……怖いやつらもいるんだよ……。こっちを食べようとしてくるような……サメとか、そういうの……」
ふと、エルラが視線を向けたのは千切れた自分の足だった。
でも海は怖いだけじゃない。それ以上に素敵な場所なのだ。
そんな想いは、きっとクジラにも伝わっている。
一方、ヨハンとイズマはシーディと談笑していた。
「……前回はアレでしたけど、こういう生き物でしたら人工生命体も悪くないのかもしれませんね」
「ああ、やっぱり人工生命体というのは一筋縄ではいかないんだな」
二人の話を聞き、少しだけバツが悪そうな顔をするシーディ。それでも彼女は、二人が自分を責めている訳ではないということも重々理解しているようだ。
「シーディさん。この子がしっかり育つまで面倒を見てあげるのはもちろんですが、それでシーディさんが疲れちゃうのもダメですから。適度に、ですよ、コイツと同じようにシーディさんも大切な命ですから」
「また何かあれば俺達に頼ってくれても構わないよ。クジラと遊んであげるのは楽しいし」
「そう言ってくれると助かるよ」
シーディがにへら、と笑えばクジラも合わせてへらりと笑う。その様子はなんだか親子のようだ。
「クジラくんもですよ。お母さんが変なことを企んでるときは、ほっぺたに体当たりするんですよ。こう、ぶにゅっと」
「お、お母さん……」
「親というなら、間違いではないのかな?」
ヨハンの言葉に照れ笑いを返すシーディを見遣り、イズマものんびりと笑みを浮かべていた。
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お茶会が終わり、また暫く遊びの時間が続いて。
疲れてきたのか、クジラは少しウトウトしているようだった。
「そろそろぼくらも帰る時間、かな……?」
「そう、だな。よく遊び、よく食べた。となれば次は、よく眠る、だ」
エルラとエクスマリアは名残惜しそうにクジラの方を見つめつつ、別れの挨拶を交わしていく。
「なに。またそのうち、遊びに、来る。或いはお前が喚ばれることもあるかもしれない、が……そうなると、シーディが寂しがる、な」
家族なら、共にいる方がきっといい。
だからこそ次へ向ける約束は『また遊びに来る』なのだ。
「では、また、な」
「ばいばい、クジラさん」
仲間達の様子を見遣りつつ、ヨハンも小さく笑みを浮かべる。
「ふふ。良いものが見れましたね。また機会があったらお会いしましょう。……僕は好きですよ、この子も。貴方も」
「はは、ありがとう。こちらこそ、また君達と会えて嬉しかった。次があるならまた頼むよ」
そう言って笑うシーディの顔は穏やかなものだ。この様子ならもう心配はいらないだろう。
「クジラも今日は楽しかったかな? 俺は楽しかったよ。ありがとう」
イズマもクジラの頭をそっと撫で、帰る準備を進めていく。
次に来た時はクジラも喋れるようになっているかもしれない。その時は、一緒に歌ってみようか。
別れ際、シーディがイレギュラーズへ向けて言葉を紡ぐ。
「ああ、そうだ。この子の名前は『アミティエ』にするよ。何処かの言葉で友情を意味しているらしい。この子と君達と……ついでに私も。良き友人になれるようにな」
そう付け加え、シーディはクジラのアミティエと共にイレギュラーズ達を見送っていった。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは、ささかまかまだです。
クジラの夢を見る。
●目標
小さなクジラのような人工生命体と仲良くなる。
シーディの研究所にて、生み出されたクジラのような人工生命体(以下、クジラ)の遊び相手になって下さい。
クジラは柴犬くらいの大きさで、デフォルメされたまるっとした姿をしています。つぶらなおめめがチャームポイントです。
空気の中を水中のようにプカプカ浮くことが出来、部屋の中をゆるゆると泳いだりしています。
知能は小さな子供に近く、好奇心旺盛で人懐っこいです。
シーディと彼女の研究所以外の世界を知りません。これから色々なことを知っていくでしょう。
純粋に遊んであげるも良し、研究所以外の世界を教えてあげるもよしです。
危害を加えるようなことでなければ、自由に遊んであげて下さい。
舞台となる部屋には椅子やテーブルといった一般的な家具類が置かれており、他に危険なものはありません。
必要があればお茶やお菓子も出されます。クジラも飲食は可能です。
●この世界について
シーディというマッドサイエンティストの女性が好き勝手している世界です。
今後も何かトラブルがあればイレギュラーズ達に助けを乞うかもしれません。
●サンプルプレイング
クジラさんと遊ぶんだね!
自分も一緒に翼でぱたぱた飛んでみようかな。海の生き物と空の生き物が一緒にいるみたいで不思議だね。
おやつも一緒に食べようか! 君は何が好き?
だっこしてあげるのもいいかも。なんかふかふかしてる。あったかい。
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