PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>爛れた闇

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎追い詰めて行く者達
 かくて『ノーブル・レバレッジ』と呼ばれた一大作戦は大成功を納め、国王フォルデルマン三世はサーカスへの公演許可を取り消した。
 サーカスを庇護していた国王が行ったのはそこまでだが、事実上ローレットの味方の立ち位置を取る貴族達の思惑を考えれば、彼等に討伐指令が出るのは時間の問題だった。
 しかしサーカスはそれを察知し、王都を脱出した。
 現在は諸侯貴族とローレットが幻想を内外から包囲網を形成し、国内に縫い付けたサーカス達を各個撃破している状況である。
「それでも皆さんのおかげで『幻想蜂起』とは違い、今先手を取り続けているのはボク達なのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は集まったイレギュラーズを前に手帳を読みながら説明を始めた。
「以前の皆さんの頑張った成果のおかげで、今やローレットには民間からの情報が沢山舞い込んで来ているのです。
 でもそれは嬉しいばかりではありません、それだけ広範囲でサーカスが暴発している証拠なのですからね。
 それはそうと今回は都市部から離れた村でサーカスの姿が見つかったそうなのです」
 村に定期的に行商に来ていた、命からがら逃げ出す事の出来た獣種の女性と、連絡の途絶えた貴族私兵からの情報をユリーカは総合する。
 事の起こりはやはりサーカス団が絡んでいるのは間違いなく、そして村はローレットへ情報が行くのを警戒してか、一人残らず制圧されたのだという。
 しかしそれでも必ず悪事は露見する。こうしてローレットに託そうと奔走した者達のおかげで即座に対応出来るのだから。
「これから皆さんには村へ向かって貰い、速やかにサーカスを叩いて欲しいのです。情報からすると未だ村人達には救済の余地があるのかもしれません……
 原罪の呼び声に近くも、恐らく彼等サーカス団員が村人達に暗示か洗脳のような催眠をかけている可能性があるのです、
 村を占拠したサーカス団員は公演時に確認されている『猛獣を手懐ける踊り子』の皆さんらしいのです」
 猛獣と共に踊り、妖艶な舞いを見せた踊り子達。サーカスの公演を観たイレギュラーズならば記憶の隅に思い起こされるかもしれない。
 そして、ユリーカはイレギュラーズ達の目を見た。
「必要な資料はお渡しするのです。イレギュラーズの皆さん、悪者をやっつけて下さいなのです!」
 イレギュラーズ達はその言葉に頷き、そしてユリーカから渡された資料を手にして立ち上がった。

●絶え間無き息遣い
 季節の移り変わりに応じて形を変える森の中には、もう雪や枯葉は無く。あるのは枯れ木か生木の枝のみ。
 足元に注意して歩きたいのは今この時、幼い少女は裸足で森を駆けていたからだったが。
 残念ながら夜闇に閉ざされた時刻では叶わない願いであった。
「はぁっ! はっぁ、はーっ! はっ……! はあ、は、あっ! はあッ」
 少女は耳鳴りよりも大きく聴こえる自身の心臓の鼓動に怯える。
 酸素を吸い込もうとして喉奥から漏れ出る喘ぎも恐ろしかった。
 本当に今聴こえる息遣いは自分の物なのか。
 枝を踏んだのは誰の足か、自分か? それとも背後を走る者か? そもそも背後には誰が迫っている?
 数日前に現れた四人の女によって、その姿を血に飢えた獣も同然の狂気に満たされた村人達が四足で追って来ているのだ。その中には少女の父や母も混ざっていた。
 引っ掻かれても噛まれても、最後にはあの女達によって操られる生ける屍の獣と化すのを少女は知っている。
 走る方向はこのままでいいのか。最早土地勘は意味を失い崖がどの方角にあるのだったか分からない。
 沢山の木が通り過ぎ様に幼い少女の柔肌を傷つけていく。
 ギルドローレットに助けを求めに行った獣種の女性は、果たして辿り着けたのか?
 行商人の彼女は少女に村外れの廃屋で出来るだけ身を隠すように言っていたが、幼い子供に静寂は余りにも辛かった。
 見つかってしまった自分に悔しさを覚えながら、少女は溢れ出す涙と共に喉の奥から最後の声を張り上げた。喉が裂けて血の味がする程に。
「だっ……!! 誰かっ、誰かたすけて! 助けて!! ぱぱが、ママがっ、村のみんながおばけにっ……!」
 背中を何かが引っかけた。
 幼い少女は振り向く事が出来なかったが、それは狂乱と共に異様な形相で追いかけて来ていた男の手が掠めたものだった。
 少女は悲鳴を飲み込み、全力で叫んだ。
「わたしはっ! ここにいるよ!! 助けて、だれか助けてぇ!!……ッ、きゃあ!?」
 遂に少女は足がもつれたのか、勢いよく地面を滑りながら転倒してしまう。
 迫り来る狂乱の男達は当然その少女を逃がしはしない。
 まるで獲物に飛び付く猛獣の様な獰猛さで彼等は幼い少女目掛け飛び上がった。
「…………っ!!」
 反射的に目を閉じる直前、少女はかつて優しかった筈の村人の手首に奇妙な蟲が張り付いているのに気付いた。宝石のような、奇怪な甲虫の類の蟲である。
 少女は反射的に目を瞑って、自身に近付く狂気の結末に震えていた……が、いつまで経ってもそれ以上何も起きない。
 彼女は目を開けた。

 そこに立っていたのは八人の乱入者達(イレギュラーズ)だった。

GMコメント


 ちくわブレッドです。皆様よろしくお願いします。

⚫︎依頼成功条件
 サーカス団の魔術師達を撃破する

⚫︎『猛獣と踊る魔女達』
 本性を出したサーカス団の踊り子達の正体は【ネクロマンサー】と【魔術師】の類の者、絶対に逃がしてはいけません。
 王都郊外にある森に囲まれた村を襲ったサーカス団は、魔術師一人に加えてネクロマンサーが三人の構成の様です。
 情報提供者である、件の村から脱出して来た行商人の話と、村近辺で皆様が遭遇した少女の話を総合した上で本件での情報精度はBとします。
 彼女達は幻想の包囲網を突破する為に、原罪の呼び声に類似する効果を発揮する魔術を用いてネズミ算式に村人達を洗脳した可能性があります。
 詳しい効果や範囲は不明ではあるものの、サーカス公演時に得ている情報等と擦り合わせた結果『狂気と凶暴性を感染させるのと同時に操る我流魔術』だと予想されます。
 踊り子達は感染者を意図的に闘争本能を刺激して猛獣の如く振る舞う事を強要させるのでしょう。
 イレギュラーズは原罪の呼び声と同種の呪いに耐性がある為、仮に攻撃されても感染はしません。

 『魔術師』:仲間のネクロマンサーの力と凶暴化した村人を中継する役目を持っているようです。恐らく彼女さえ倒せば村人達は統率性を失って通常の狂人に戻るでしょう。

 『ネクロマンサー』三人:踊り子の様に舞いながら各種呪いや肉弾戦を挑んで来ます。また、彼女達を倒せば村人達は原罪の呼び声に上乗せされていた狂気から解放され、元に戻れる可能性があります。

 『凶暴化した村人』:魔術師達によって操られている状態の村人達、その数は村の人口約四十人と予測されます。
四方八方から襲いかかって来ますが、凶暴化しているとはいえ普通の人間種なので機動力耐久攻撃力は全体的に弱いでしょう。
 可能な限り囲まれて潰されない様に状況に応じて動きながら本命の魔術師達を倒す事を考えましょう。

 『エーテルガトリング(神近扇・高威力)』『カプリースダンス(物至単・【連】)』『格闘術式(高命中・【窒息】)』
 『かみつく(物至単・低威力)』

⚫︎ロケーション
 乱戦向きな村や森の中で戦闘になります。
 単独で突っ込み過ぎれば包囲される可能性は高くなりますが、最低でも二人一組になって上手く立ち回れば捕まる事は無いでしょう。
 深夜の村は荒れているものの建物の殆どは村人達が逃げ回った際に鍵の施錠が解かれたままです。
 サーカス団員の四人は村の奥にある噴水広場で村人達を操作しています。

 アドリブOKやヒロイックなプレイングの記載によって補正がかかります。
 イレギュラーズの皆様の健闘を祈ります。

  • <Liar Break>爛れた闇完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)
屍の死霊魔術師
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
スリー・トライザード(p3p000987)
LV10:ピシャーチャ
神宿 水卯(p3p002002)
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
オロチ(p3p004910)
悪党

リプレイ

●闇夜に駆ける
「結果は……これは、一体?」
 『ゆきのはて』ノースポール(p3p004381)が覗き込んだ先で、初老の男が荒い息を吐きながら地面で頭を押さえていた。
「こりゃあ、抑える必要も無いかもしれねぇな」
 背中に当てていた拳を収めた『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019)は男に何らかの反応があるかどうか見極めながら、いざと言う時は再び抑えられるように構えて様子を見た。
「う……うゥッ! ぁ……あ……!」
「……ダメっぽいな」
 リオネルが立ち上がって他の仲間に首を振った。
 初老の男だけでなく、その他にも『正直な嘘つき者』リュグナー(p3p000614)や『LV9:グール』スリー・トライザード(p3p000987)がリオネルと同じく「駄目だ」と答えた。
 彼らが一度倒して様子を見ていた人々は、今回サーカス団員に襲われたとされる村の住民達だった。
 村へ向かう途中、少女の悲鳴を聞いて駆けつけ。そこで凶暴化した村人達と交戦したのである。
 その最中に少女が見たと言う『蟲』を潰して様子を見た所、現在の頭を抱えて倒れるという状態になったのだった。
「人を狂わせ、操る外道の法か……速やかに消し去るのが世の為ってもんだね」
 木陰へと数人の村人を移動させ終えた神宿 水卯(p3p002002)がどこからか取り出したロープを伸ばしつつ言う。
 予想通りとはいかなかったとはいえ、少なくとも村人を気絶させたり殺害して傷付けなければならないのに比べれば格段に良い報せである。
 後は元凶となるサーカス団員を倒す事で村人を救う事ができるのは間違いない筈だとノースポールも頷いた。
 彼女は暫し村人達の様子を見つめてから、自身のマントを翻した。
「……おじさん。井戸汲みのおばさん……」
 そこからヨタヨタと出て来たのはイレギュラーズが向かう途中で運良く保護出来た少女である。
 彼女から話を聞いていなければ『蟲』について何も分からなかっただろう。
「安心しなガキンチョ。俺達がテメェも村も助けてやる。なにせ俺達は救世主らしいからな」
 強面の『悪党』オロチ(p3p004910)が屈んで少女と同じ目線になると、胸を拳でトンと叩いて見せた。
 そこへ秋空 輪廻(p3p004212)が戻って来る。
「一先ず難は去ったけど、これから私達はこの元凶を倒しに行かないといけないの。とても危険な場所だから、貴女を連れて行く事は出来ない。
 でも、元凶を倒したら村の人も正気に戻る。それまでの間、ここから離れて今度は見つからない様にじっと隠れているの。出来るわね?」
 少女は輪廻の言葉に頷くが、他の村人達を置いて離れる事に逡巡を見せた。やはり、心配なのだ。
「それならば」
 暗がりの中、灯りに照らされたウサ耳を揺らして水卯が近くの木上から飛び降りて来た。
「このロープを。上にその子が隠れられそうだよ、多分この高さならちょっと動ける程度の人間じゃ手出しできないと思う」
「かくれんぼ」というやつだな。鬼(村人)に見つからずに隠れ、頭の中で数字を数えているが良い。
 なに、数日見つからなかった貴様にとっては朝飯前であろう? ――文字通り、朝飯までにはこの騒動を終わらせてやろう」
 水卯の提案にリュグナーが不敵に笑って見せた。
 少女は不安そうにしながらも頷き、水卯にロープを体に巻き付けられると木の上へ連れられて行った。
 その際、水卯と共に登攀したノースポールが少女に近付く。
「必ず迎えに来ます。だから、待っててくださいね……これはお守り代わりに。後で返して貰いに来ますから、大事に持っててね?」
「お守り……うん! お姉ちゃんたちみんながんばってね!」
 そっと少女の肩に自身のマントを被せ、ノースポールは自身の身に着けていた茨棘を模したペンダントを握らせる。
 にっこりと微笑むノースポールに遂には勇気が湧いて来たのか、少女が初めて笑顔を見せた。
 彼女達はその場を後にし、そして揃って進み始める。
「準備はできた、後は……言うまでもないか」
 闇夜のキャンパスから抜け出して来たかのような黒い人型の影を数体、それらを背後に引き連れているのは『屍の死霊魔術師』ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)。真なるネクロマンサーである。
 彼は他の仲間の様子に頷くと、森の奥に揺れる闇を見据えて、一言。

「連中に引導を渡してやる。……行こう、諸君」
 彼に続いて、イレギュラーズ達は闇の中へと駆けて行った。

●何かの運命が大きく傾いた結果で
 サーカス団では踊り子として知られていた、黒のベールから紫煙を揺らす女。魔術師『サーペント・レディ』は自身の操る狂獣の村人との糸が切れた事に不穏な気配を感じ取っていた。

「ッッ……ぁ、がぁああッ!!?」
 しかし気付くのが遅過ぎた。
 夜闇に慣れた目をベールではない黒霧が覆った瞬間、サーペントは突如酸素が吸えなくなる程の窒息感と内臓を引っ掻くような激痛に苛まれたのだ。

 呪殺を生業とする者達が好んで使うとされる魔術。ロべリアの花。
 サーペントは咄嗟にベールで口元を覆いながら毒だけは吸わないように努め、抗魔(カウンターマジック)でダメージを抑えた。
「馬鹿な……これは、狙撃? 手駒は……くッ……やられた!!」
 付近に散らばっていた村人を約十数人呼び戻す。しかし、彼女は村人の多くが謎の人物達を複数追いかけている最中だと感覚共有で分かったのである。
 そう、これは既に『想定外(イレギュラー)』が先手を取った後だったのだ。

●妖艶なる武闘姫
 彼等、イレギュラーズの作戦は大成功だった。
 ノースポールとオロチ、リオネルを始めとした【陽動班】は村の入口まで堂々と出向いた後。まさに派手に『獲物』を演じ、挑発を繰り返す事で村の中央……サーカス団員達が居座っている噴水広場から多くの村人を引き剥がせたのだ。
 ある程度噴水広場から村人を引き剥がした彼等は次第に村から距離が開けて来たのを見計らい、互いに背中合わせとなって構えた。
「ここらだな、後は襲撃班の秋さん達に任せるか。とっとと片づけて助太刀に行くのでも格好つくけどな!」
「ここが踏ん張りどころです、頑張りましょう!」
「出てきやがれ雑魚共! 纏めて相手してやるよ!」

─────「「 ガアアアア!! 」」

 獣の如く猛然と駆け上がって来る村人達。
 そこにあるのはただの発狂とは違い、より暴力性を増した闘争本能が剥き出しになった姿である。
 いわばアドレナリンが垂れ流しになった状態の村人達は生半な攻撃では手を緩めないのだ。それに囲まれるとすれば、間違いなく長期戦は必至だった。
 だがそれは、村に来る前までの話。果たして少女の話を聞いていなければどれだけ苦戦していたのか。
(あの子が繋いでくれた好機……このまま私達が繋ぎとめて見せる!)
 間合いに入ろうとする者より半歩踏み込んだノースポールが脚を打ち付け、よろけた隙を膝蹴りで蟲を粉砕し沈める。
 その背後から襲いかかる村人をノースポールのカバーに入ったリオネルが鋭い掌底打ちで突き飛ばす。
 続く気合の声と共に手首の蟲を蹴り飛ばし、更に回し蹴りで炸裂音と共に弾丸の如き突風が後続の村人の蟲を破壊。
 その場から跳躍した彼は周囲の木々を足場として利用し、縦横無尽に駆けながら村人の蟲だけを狙って倒して行く。
「せァッ!!」
 三人の村人がオロチの剣に齧りつくのをそのまま振り抜き吹き飛ばし。数人の村人を巻き込んで転倒させる。
 半ば飛び掛かるように襲って来る敵の動きを見切った彼の剣撃が一匹、二匹、三匹と、次々に蟲を破壊して辺りに転がっていく。
 だがそれも気絶しているわけではない。
「ぐ、ゥゥア!」
「なんだッ!」
 蟲を破壊したはずの村人がいきなり襲いかかって来た事に驚愕するリオネル。それまでの野獣的な動きから拳を振り抜いてきた男に、思わずリオネルのカウンターが入りそのまま倒れた。
 その様子に、オロチが苦い顔をした。
「……なるほどな。そういうことか」
 向かい来る村人の首元に鞘が鈍い音を立ててめり込んだ直後、粉々になった蟲と共に村人の女が倒れる。
「もしかして村人の皆さんは……自分の意志で抗っている? 狂気と、戦ってる……?」
 まさか、と。ノースポールはそれまでに打ち倒した村人達を振り返った。
 どの村人達も頭を必死に押さえて、呻きながら地面をのたうち回っている。苦しいのは、それが痛いからではない。
 辛いのだ。自分を見失って暴走する事が。誰かを傷付ける事が。少女は言っていたではないか、優しい村の大人たちだと。
 だがなぜ、急に狂気に支配されて起き上がる者が現れたのか。
 ノースポールが歯噛みしたのと同時に、オロチが鞘に納められた聖剣を両手で握り締めながら構えた。
「マジで頭に来やがる……テメェらの思い通りなんざしてやらねぇぞ、サーカス!」
「いや……待てよおい、村の方には秋さん達がいたはずだぞ。どういうことだてめぇら」
 その先にいたのは、二人の橙のベール被る扇情的な衣装に身を包む踊り子達。
 視線が交差した瞬間。彼女達が何らかの術式を指先で編んだ後、彼女達の周囲で倒れていた村人達が悲痛な声を上げながら跳ね起きる。
 首元をゴキッゴキッと鳴らす踊り子。
「へーぇ。やるね、ウチらの術式ほどくなんて。でも腕っぷしは弱そう。こんなザコも殺せてないみたいだし?」
 ベールの中で凶悪に笑いながら、明らかに何らかの魔法、魔術を自身に付与していく。
 次にその手を、横でフラついていた村人へ薙ぎ払おうと……
「ッーー!!」
 まだ若い青年を反射的にオロチが蹴り飛ばして、その重い一撃を辛うじて受け止めた。
 受け止めた、その横から。もう一人の踊り子が舞踏と共に距離を詰め、瞬時に同じく拳が薙ぎ払われ、甲高い金属音が響き渡る。火花が散らなかったのはオロチ自身の武器が鞘に包まれていたからか。
「ああ! そっかそっか、手加減してるんだァ。ウチらを倒せば元に戻ると信じてるってわけね」
 二合。三合。踊り子達の連撃をオロチとリオネルの二人が受け止め、弾く。
「オツカレサマ。悪いけどこの術式は今回限りのオリジナルだからさ、どうなるか知らないんだよ……ね!!」
「……シッ!」
「っの、野郎ォ!」
 先ほどから喋り続けている踊り子とは別の。無言でいる娘からの剣筋に等しい蹴りをリオネルは間一髪で潜り抜け、返す刃の如く回し蹴りを打ち込み相殺する。
 一方でオロチが踊り子の連撃に耐えかねて攻めて出た時には距離を置かれる。
「てっきり十三騎士団かと思ってたんだけど、ちがうよね。でもこれは……」
「は、ァアアアアッ!!」
「っつゥ……!?」
 一呼吸の間に二合、数十秒の間に嵐のような踊り子達からの猛攻をリオネル達が捌き続ける。その最中、狙い澄ましたノースポールの『刺突』が踊り子の腹部に直撃し、同時に銃撃がされた。
 乾いた音と血飛沫がその場に満ちる。
「……やるね。いまので分かったよ、あんたらがローレットの特異運命座標だね?」
「だったらなんだ!」
「んっふふ、燃えて来たんだよ……!」
 怒りを隠さないノースポールが更に踏み込み、女の傷口へ蹴り込みながら連撃を加えようとした。
 彼等はこの後気付く事となる。
 もう既に、勝敗は決しているという事に───

●爛れた闇、散る
 その戦いは余りにも一方的だった。
「ごッ……がはァ……! はあっ、はァっ…………!」
 魔術師、サーペントは地に膝着き喘ぎを漏らして血反吐を出した。全身に穿たれた傷は多量の出血を許しており、最早致命的な一撃を浴びているのは一目瞭然だった。
 魔力による弾幕を突き破るスリーの一撃もさることながら、水卯と輪廻の波状攻撃に耐えられる筈も無い。途中から窒息による呼吸困難が襲い、魔術すらロクに使えなくさせられたのもある。
「私も……ここまでか……」
 周囲が悲惨な状態となっているのを、魔術師は見た。
 ジークを筆頭とした襲撃班は彼が出した式神によって噴水広場周辺の村人達の統率性を失くし、リュグナーや水卯による隠密攻撃によって魔術師を確実に消耗させたのである。
 噴水広場を利用した『隠し玉』も、彼女或いは仲間の踊り子達の操作する村人がいなければ機能せずただの『グンタイ蟲』でしかない。羽虫を蹴散らす程度なら苦戦などするものか。
「引導を渡してやる」
 眼窩から炎揺らすジークの手が魔術師の頭に乗せられる。
「……ご達者で、団長……」
 決戦に参上できない自身を恥じる様に呟いた彼女は潔く首を垂れて、直後に来る破壊を受け入れた。

───ドシャッ……
 
「……これで、村人達の洗脳が?」
 視覚だけでは何かしらの変化が起きたとは思えない、輪廻が辺りを見回して首を傾げた。
「わからないな。私の式神も既にやられたらしい、近くに村人の魂も感じられない以上は陽動班の所へ行くしかない。それに……」
「ああ、私も気付いている。報告にあった、『他の二人』がいないようです」
 スリーがノースポール達の戦っているであろう村の正面入り口方面へ目を向ける。
 そう、元々はサーカス団がここで固まっているという話だったのだが、彼等の陽動襲撃作戦が成功したと思われた時から踊り子は魔術師一人しかいなかったのである。
「外道の法を駆使する輩、逃げてもおかしくないよね」
 仲間を置いて逃げた可能性は、ある。だがここまでやって本当に逃げる人物達なのか?
 答えは敗北からの死を恐れずに最後まで足掻いた魔術師を見れば分かる。絶対に彼女達は諦めず、逃げないだろう。
「リオネルちゃ……団長の所へ急ぎましょう!」
 すぐさま駆けだした輪廻の後を彼等は追うように走り出す。
 何故だか急がねばならないような気がしたのだ。

●闇に溶け逝く者達
 状況は一変する。
 一時は踊り子達と村人達による猛攻に陽動班だった三人は追い詰められた。
 だがその最中、突如として再び村人達は糸が切れたように倒れたのだ。踊り子達の死霊術による魂の束縛、狂気の上乗せすらも掻き消される様に。
「うっそ、サーペント……死んだの!?」
「……!!」
 それらが意味するところは、伝播の中継役だった魔術師サーペントの死。
 バタバタと倒れて行く村人達を目前にして女はベールの下で目を見開いた。更に、踊り子達にとって状況が悪く傾いているのだ。
 木々の隙間を縫うように飛来する斬撃。突き立つ光の柱。
 直撃こそしなかったものの、完全に不意を打つ形で登場したスリーと水卯達援軍に踊り子達は浅くない傷を負う。
「くッそ!! ウチらが団長の所に戻る前に、こんな、こんなはずじゃ……!!」
 踵を返して遠距離攻撃の射程外へと逃れようとする踊り子達。
 瞬間。
「逃がすわけにはいかない!」
 ボロボロになった体を動かして逃走を阻止するノースポール。
 否、彼女だけではない。
「秋さん達ならやってくれると思ってたぜ! よぉサーカス! まだ笑ってられるか?」
「ッ、ちィ……!」
 合わせろ。その一呼吸の間に踊り子達は互いに示し合わせてリオネルとノースポールに挑む。
 数度打ち合い、互いに傷を負うも彼女達はどかす事叶わず。
「あなた達の仲間、あの魔術師も似た様な事を言っていたわ」
 その中へ追い付いた輪廻が切り込む。
「『こんなはずではなかった、私はまだやれたのに』ってね」
 水卯と輪廻が交互に刃を突き出し、それらを弾こうとする踊り子の足元を狙いノースポールの銃撃が、リオネルの拳が襲いかかる。
 形成の逆転された踊り子達は余りにも脆く、またあっけなく。最後まで何か喚いていた娘はスリーの波動に貫かれ、寡黙そうな娘はジークが放った怨念の一条に最後の生命線を絶たれたのだった。
 遂に踊り子達は二人そろって倒れる。
 名前すら名乗らず、分からず。果たして若き踊り子達は何を思ってサーカスに身を寄せていたのか。


 イレギュラーズ達が村の住民を探し、あの噴水広場に集め終えた頃には夜が明けていた。
 生憎の曇天にしまらないと思う者も居たが、それでも陽の光には違いない。
 そして何より喜ぶべきは闇夜を越えた事ではなく、村人の全員が生還出来ていた事だった。
「オレは村を助けに来たわけだからな、墓場の掃除にならなくて良かったぜ。外道も見過ごせなかったしな」
「結局、あの踊り子達は甘かったのだ。わざわざ生きたまま洗脳しなくとも死体を操っていればよかったのだ」
 でも、それをしなかったのは本当に幸いだった。
 ジーク達の会話に耳を傾けながらリュグナーは村人達に感謝されるノースポールの姿を眺めていた。彼女の傍にはあの木の上に待たせていた少女の姿があった。
(我は嘘は言わぬ。故に――少女に言った言葉を嘘にするわけには、いかなかったからな)
 小さく微笑んだ彼は辺りを見回した。
「しっかし、上手くいきましたね今回は」
「だから言ったろ? 全部助けてやるってな」
「私もだ。知識の蒐集が、長くを生き永らえている理由。見知らぬ知識に溢れたこの世界の事も、とても好ましく思う」
 オロチと水卯が、スリーが、それぞれ怪我人の手当てをしていた。

 得てして、あの踊り子達はこれが欲しかったのではないか。
 闇の中にある爛れた温もりより、人の温かさが欲しかったのではないか。

「我にはわからない、か」

 

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 本件の依頼を終え、お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
 完封でした。
 村人達の生存を全員が望み、そしてその為に僅かな情報にも目を向ける判断。
 相手にアドバンテージを絶対に与えない作戦。完璧な連携だったと言えます。
 サーカスとの戦いもいよいよ終わりが近づいてきました、皆様含めイレギュラーズは果たして決戦の地で何とするのか。
 どうかご健闘を祈ります。

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