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シナリオ詳細

【日夜探偵事務所】探偵見習いの危機を救え

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星宮少年の危機

「はあ、はあ、はあっ……!」

 パーカーのフードを上下に揺らし、息を切らし、少年は野山を駆け抜けていく。土に汚れたスリッポンはください草を踏み、枝を降りながら地を蹴っていく。その表情に少年特有の無邪気さはなく、けして鬼ごっこをしている友人から逃げている訳ではない、という事は誰の目にも分かるだろう。
しばらく走ったところで疲れたのか、木の幹に身体を預け、火照った身体を少しでも冷まそうと、袖を捲くる。その手首に、彼が普段つけている『御守』はない。

 その時、ひゅ、という音と同時に、彼がもたれかかっていた大樹に一閃。そのまま、太い幹が少年を押し潰さんとする勢いで倒れてくる。

「あっ……!」

 少年は咄嗟に逃げようと動くが、しかし疲れ果てた足が縺れて、そのまま大地に転がり。ドンと倒れた木は、少年の足首を下敷きにしてしまう。
すると、急に皮肉なまでに美しい桜が、彼の視界を覆い尽くさんばかりに吹雪く。その風を巻き起こした犯人を。……更に言うなら、この大木を切り倒した者の正体も、自分を狙う怪異の名も、少年は理解していた。

「鎌鼬……!」

 キッと、花吹雪に紛れたそれを睨む少年……星宮太一。しかし怪異は、お前に何ができるのだと、ただただ狩られるばかりの弱者めと、その美味そうな血肉を寄越せ、とばかりに。

ーーーーキィィー!!!

甲高く、声を上げた。

●桜が血に染まる前に

「きみは、『日夜探偵事務所』と、そこに通ってる『星宮太一』くんって子を知ってるかな」

 あなたと既に顔見知りでも、あなたにとって初めて聞く名でも構わない。彼を助けてほしい。桃色の髪と瞳の境界案内人は、真摯にそう訴えかけてくる。

「この太一くんっていう子、どうも、自分の意志に関わらず、怪異に好かれる『匂い』を放っちゃう体質らしくってね。普段はそれを抑える『御守』をつけて、生活してるんだけど……」

 それが起きたのは、家族との行楽に訪れた山。それは花見に訪れた平和な休日。怪異を惹きつけてしまう少年の、そんな平穏な一時……の、筈だった。気まぐれに吹いた一陣の風が、彼の大切な御守を切り、壊してしまったのだ。

 太一の特殊体質のことは、太一の家族も知らず、また、この事を知る『日夜探偵事務所』の面々も、星宮一家の今回の行楽には同行していない……というより、太一本人も、半ばサプライズ的に花見に連れ出されたのだ。
家族を巻き込むわけにも行かず、かと言って助けを呼べる人物も不在である今、少年は一人山中を逃げ回っているが……それにもやがて、限界が訪れるだろう。

「誰にも頼れない今、あの子もすごく心細くって、怖い思いをしてると思うの。だから、イレギュラーズ」

あの子を、助けてあげて。

NMコメント

どうも、なななななです。
怪異探偵が不在の山奥にて、怪異に気づかれてしまった少年。
そんな彼を、皆様の手で救ってあげてください。
以下、詳細になります。

●ジアース

 今回皆様が赴く世界の名前です。要するに神秘、怪異、化物、魔術が存在する現代日本……と思っていただければ結構です。

しかし、それらの存在は公には知られておらず……何も知らない人間は、それらに貪られ、弄ばれ、真相も分からぬままに命を落とす事も珍しくありません。
それらを扱い、対処するのが【日夜探偵事務所】の裏の顔でもあります。


●目的
『鎌鼬』を倒す事。

 現在、星宮太一を追いかけ、仕留め、喰らおうとしている怪異の正体です。
その動きは非常に素早く捕らえ所がありませんが、その姿は体の一部を切れ味鋭い刃に変換させた、人間ほどのサイズの獣です。
的確に人間の急所を斬りつけることも、あえてそこを外しじわじわと傷つけることも好むようです。

そして今回は幸か不幸か、太一をじっくりいたぶり、その血肉を味わおうと、姿を表しています。

そこを思いっきり叩いてください。

●NPC

星宮 太一(ホシミヤ タイチ)

・OPで今現在、危機に陥っている少年です。年齢は小学校高学年程。目上の人を必ず『さん』付で呼ぶ等、礼儀正しい子供でもあります。
怪異の好む香りを常に放ってしまう特殊体質持ちですが、ローザの『御守』のお陰で、日常生活に支障はない……のですが、家族と訪れた山にて、それをなくしてしまいました。
大きな怪我こそしていませんが、倒木に足を挟まれ、逃げるに逃げられない状態です。

日夜 歩(ヒヨリ アユム)

・星宮少年の通う、日夜探偵事務所の所長です。太一の特殊体質に最初に気づいたのも彼でした。生真面目で身なりの良い青年で、男女問わず、他人を『君』付で呼びます。
実は『人間』ではないらしいですが……?
今回のシナリオには登場しません。

ロザリー・カンナヅキ(ローザ)

・怪異に精通しており、それに対する防衛術も心得ている占い師です。特殊体質の星宮少年が普段平和に暮らせているのも、彼女謹製の『御守』の力があるからです。
誰彼構わず『ちゃん』付したり、あだ名をつけたりと、良く言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしい人物です。
今回のシナリオには登場しません。

以上になります。
それではどうか、皆様、今は無力な彼を、助けてあげてください。

  • 【日夜探偵事務所】探偵見習いの危機を救え完了
  • NM名ななななな
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月27日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)
約束の果てへ

リプレイ

●風の道標

 それは、花揺らすそよ風が、花散らす風へと強まってきた、午後の山でのことだった。

「太一ぃ、どこに行ったんだー!?」
「いっちゃーん、いっちゃーん?」

 リュックを背負った短髪の男性と、丈夫そうなショルダーを下げたゆるい纏め髪の女性……夫婦らしき男女が、先程から声を張り上げて、ある人物の名を呼んでいる。
その名は『太一』。……即ち、イレギュラーズが今回救助すべき少年である『星宮太一』の事だ。その名前を聞きつけ、『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は、迷わず声をかけた。

「失礼、そちらのご夫妻。何方かお探しかな」
「あっ、ええ、うちの息子……太一がトイレに行ったっきり、帰ってこなくって」
「あまり遅いから、様子を見に行ったんですが……そのトイレにも居ないんです」

 なるほど、星宮少年は家族を巻き込まぬよう、そのような嘘をついてまで家族から離れ、鎌鼬から逃げる事を選んだのだろう。

「私共にも、その子の捜索を手伝わせて欲しい。太一君の特徴は?」
「す、すいません……えっと、あの子は……」

 黄緑のパーカー。迷彩柄のナップサック。母親似の、愛らしい顔立ち。
その特徴を頭に入れて、小鳥が山上を飛んでいく。

「風の音以外、何も聞こえませんね……」

 『激情のエラー』ボディ・ダクレ(p3p008384)も、しかし、だからこそ、今は遠くとも、彼の近くに来たならば。たった一人の『助けて』を、聞き逃すことは無いだろう。

「あっ……この木、幹に傷が付いています!」
「動物が引っ掻いた……にしては、切り口が一直線で、綺麗すぎるわね……と、言うことは」
「鎌鼬が、ここを通ったのかもしれません」

 『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)、『鬼看守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)は、事前に聞いていた特徴から、鎌鼬の痕跡を見出し、そこを辿っている。
さらによく見てみれば、傷つけられた木の近く……その足下の草花も、何者かに踏まれたようにクタッと倒れており、踏み折られたと見られる小枝が転がっている場所も見受けられる。その方へ、その方へと進んでいけば。

ーーやだ、やだよ、助けて……!

ボディの張り巡らせていた『人助けセンサー』に、少年の切なる叫びが届いたのだ。
ステラの耳にもそれが届いたらしく、応答を求めるように『太一さん!』と声を上げた。

「……聞こえました、太一さんの『声』が」
「じゃあ、私達が探してる方向で合ってるってことね。早く見つけなゃ!」

 それと同時に、ジョージのファミリアーの小鳥が、何かを咥えて、彼の元に舞い戻ってくる。一見組紐のように見えるそれは、他の登山客の落とし物にしては妙に小綺麗で、弱弱しいながらも、何らかの魔力を帯びている事が伺えるが……スパッと、何かの道具を使ったかのように、綺麗に切れてしまっている。

「これが、星宮さんのお守りでしょうか」
「これをどこで見つけた?」

ジョージの問に、小鳥は導くように前へと飛ぶ。四人が、それを追いかけると。

「いった、いっ……! やめてよ、やめてよ……!」

今度は、センサーを使わずとも、はっきりと聞こえるほどの、明確な叫び声だ。

 薄く血が滲む、黄緑のパーカー。風に裂かれ、中身が溢れたナップサック。鎌鼬を睨みながらも、大木に足を挟まれ、動けずにいる少年。

星宮太一が、そこに居たのだ。
鎌鼬は、その鎌を振るおうと、尻尾を不気味に揺らしている……!

●止めよ旋風

「させませんっ!」

 ステラが、鎌鼬の注意を引くために……ひいては太一を守るために、聖夜ボンバーを破裂させる。
派手な光と爆発音に、鎌鼬は毛を逆立たせ、大きく飛び上がった。
その光に紛れる形で、イサリビを携え、ジョージが先陣を切る。

「その子に、それ以上手を出すな!」

 舜天三段。少年に夢中だった鎌鼬には完全な不意打ちとなり、無防備に急所を裂かれる事となった。

「あなたは……?」
「もう大丈夫だ。よく頑張ったな。ここから先は、君に傷一つ付けさせん」
「ええ、拙達はその為に馳せ参じました」

 鎌鼬を前に、臆することなく構える、ジョージとステラ。
真剣な表情を浮かべるものもいる一方で、太一を安心させるように、セチアは笑顔を見せた。

「もう大丈夫よ! さっさと倒すから安心して笑ってなさい!」

ーーお母様も言ってたもの、自分が笑わなければ相手も安心できないでしょうって!

 そんなセチアの姿に、泣き出しそうなのをやっとの所で堪えていた、少年の表情に……ほっと、安堵の色が戻ったように見えた。

 ボディも、太一を守る壁となるよう、彼に背を向け、無機質な表情を鎌鼬に向ける。それを理解できない、不気味なものと取ったであろう鎌鼬が、威嚇とばかりに金切り声を上げる。

「私達が、貴方を守ります」
「さあ、ここから拙達が相手になります!」

 ステラの堂々たる名乗りに、逆上した鎌鼬は、尾刃を振り回し、小さな竜巻をこの場に巻き起こす。
それはイレギュラーズのみならず、星宮少年さえも傷つけかねない、怪異の嵐だが。その刃は、太一にだけは届かない。否、届けさせない。

「お、お兄さん……!」
「安心してください。恐らく、いえ、確実に私は倒れないので」

 ボディの光を跳ね返す液晶画面、その表面に細かな傷が多く見えるが、それでも屈強な身体は微塵も揺るがない。むしろ、みるみるうちに、その輝きを取り戻していく。
屈強といえば、ジョージの立ち居振る舞いもそうだ。
先程の鎌鼬が起こした竜巻により出血しながらも、彼の戦意が挫かれるような事など、全くあり得ない。
むしろ、果敢にも、その懐に潜り込み、掌打を叩き込んだのだ。

「かっこいい……」

その姿に、少年の素直な感想が、ぽろりと漏れ出る。
更に、刃の嵐を巻き起こす存在は、鎌鼬だけではなかった。刃一閃、二閃。否、それ以上の煌きが、鎌鼬の身体に傷を増やしていく。

「その子に与えた恐怖と痛み、その分をあなたも味わいなさい!」

なんとも皮肉なことに、ステラの起こした鋼の驟雨が、象徴たる鎌鼬を切り刻んだのだ。
そこに更に、畳み掛けるように、セチアが力強く踏み込んだ。

「これが私の、全力よっ!」

守りたい。そんな強い意志の持ち主だからこそ打てる、力強い一撃。それが、鎌鼬を弾き飛ばし、その長く大きな体を、べしゃりと大地へと叩きつけた。

「かっこいい……!」

少年の目は、怯えや恐怖の色などどこか遠く、輝き、憧れの色へと変わっていく。

 その目は、忌まわしき鎌鼬が討たれる、その最後の時でさえも。
自分を助けてくれた英雄たる彼らに、一心に注がれていた。

「これで、大丈夫でしょうか」
「はい、もうどこも痛くない、です……ありがとうございますっ」

 ステラの手当を受け、太一はゆっくりと立ち上がった。
鎌鼬に甘く肩口を切られ、右足を木の下敷きにされていた太一だったが、傷はすっかり治り、足などにも異常はないようだ。
倒木の撤去を終えたボディも、そっと太一へと振り返る。

「ひとまずはご家族の元に送った方が良いでしょうか?」
「は、はい……お父さん達も、ボクを待ってると思うので」
「これは、君のものか」

 そういえば、と、道中ジョージのファミリアーが拾った、魔力を帯びた組紐のようなアクセサリーを、そっと見せてみる。ジョージの肩で、小鳥が誇らしげにチュンと鳴いた。

「あっはい、ボクのですそれ!」
「大切な御守が見つかって良かった。……紐が切れた程度ならば、この場で直そうか」
「そう、ですね。お願いします。多分それ、まだ、魔法自体は残ってるから……つけてさえいれば、少しは匂いを抑えてくれると、思います」
「……代わりのものは、今は無さそうですか。なら、せめて、探偵事務所に戻るまで、それを無くされませんように」
「良い? 御守作った人に、今回の話を伝えてもっと耐久力のある御守を作って貰うのよ? 風で壊れるなんて脆すぎるんだから!」
「はい、ちゃんとモウシツケテ、おきます……」
「……よし、簡易的にだが、御守は直したぞ。両親の元までは、私達が送っていこう。先程のような事があっては大変だろう」
「……カサネガサネ、申し訳、ないです……」
「折角の家族との花見だったのに、大変だったわね。……あっでも、あそこの花とかも綺麗じゃない?」
「うわあ、本当だ……!」

 こうして、イレギュラーズにより手当を受け、彼らの護衛の元、花を楽しみながら山道を行き両親の元へ返された太一は、帰りの車内から、ぼうっと、窓の外を見つめていた。
太一があわや遭難しかけた事などもあって、今日の所は、町へ帰ることとなったのだ。
……両親には、あの山で起きた本当の事など、言えやしない。

 服やナップサックの汚れは木に引っ掛けたから、土汚れは道が分からなくなって慌てて転んだからと、言い繕ってみせた。
自分を助けてくれたイレギュラーズの正体も、勝手に口にすることは無かった。

ああ、ボクは周りを巻き込んでしまう、大変な体質を持っていて。
でも、世の中怖い事ばかりじゃなく、そんなボクを助けてくれる人もいる。日夜さんやローザさんだけじゃない。かっこよくて、強くって、凄い人達が、たくさん居る。それはすごく嬉しい事だ。だけど、だけど。

ーーボク、このままじゃだめだ、きっと。

少年の一人静かに呟く声は、誰に届くことだろう。

成否

成功

状態異常

なし

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