PandoraPartyProject

シナリオ詳細

雛鳥の止まり木亭、手伝い募集

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 子供ってのは面白い。
 夜。月明かりの差す大部屋で。
 寄り添うように集まって寝ている子供達を見て、バウは思った。
(食べさせたら食べさせた分、おっきくなるんだもんなぁ)
 引き取った最初の頃、ガリガリだった身体つきは子供らしく張りが見えるようになっていた。
(でもまだまだ細いからなぁ。腹一杯食えるようにしてやらねぇと)
 バウが子供達を引き取ったのは、もう2か月以上前になる。
 スラムの孤児だった子供達はゴロツキ達に掏りや置き引きを強要され、それを嫌った商店街の主達に排除されそうになった時、横から関わって子供達を捕まえて貰ったのだ。
 実際に行動して貰ったのはイレギュラーズ達だが、そのあとバウは子供達を引き取った。
 子供達の境遇に、自分を重ねていたからだ。
 バウも子供の頃、大人達に命令されて掏りや置き引きをさせられていた。
 その上で、大人達に気に食わないと殴り殺されそうになったので、仲間を置いて逃げ出した。
 今でも、その時のことは心に突き刺さっている。だから――
(そうならないように、してやらねぇと) 
 子供達を見ながら想っていると――
「……帰ってたのかよ」
 眠そうな声で、子供の1人が起き上がり声を掛けてきた。
 バウは笑いながら返す。
「起こしちまったか? 寝とけ寝とけ。明日は早いからな」
「……オッサンは寝ないのかよ」
 不機嫌そうな声で10才ほどの女の子、イリヤは言った。
「最近帰って来るの、おっせぇじゃんか」
「ひひ、心配してくれんのか?」
「しねーよ、ばーか」
 ぷいっと視線を逸らしイリヤは返す。
 彼女の様子に、くすくすとバウは笑う。
「笑うな、バカ」
 さらに不機嫌そうに言うイリヤ。
(人に慣れない野良ネコみたいだな)
 バウは思うも、さすがに口には出さない。
 イリヤは子供達の中では年長組なので、小さい子達を気に掛けることが多いのだが、それをバウに向けて来ることもある。
 ここ数日、バウの帰りが遅くなっているのを気にしているのだ。
(かわいいもんだ)
 そう思うものの口には出さず、違うことを口にする。
「明日、任される宿屋に行くことになった。だからここに住むのは、今日で終いだ」
 今バウ達が居るのは、商家の倉庫を借りた場所だ。
 ちょうど荷物が無い時期だったので、格安で借りて住んでいた。
 バウの話を聞いて、イリヤは言った。
「……ホントに、俺達で宿屋すんのかよ」
「ああ」
「……騙されてんじゃねぇよな」
 強がっているが不安を滲ませ、イリヤは言った。
 少し前、とある商人達に声を掛けられ、バウと子供達に宿屋を経営しないかという話が舞い込んできた。
 イレギュラーズに依頼を頼んだことのあるその商人達は、子供達を連れていたバウに興味を示し提案して来たのだ。
 その申し出をバウは受け、ここ最近は夜遅くまで話し合いに出て行くことが多かった。
「心配すんな。信頼できる人達だからな」
 バウは、イリヤを安心させるように言った。
「それを確かめるために、何日もかけて出向いたんだ。こっちを騙すような人達じゃねぇよ」
(まぁ、商売に関しちゃ甘くない人らだけどな)
 言葉の後半を、バウは口にしない。
 宿屋の経営を持ちかけられたバウだが、同時に出資も求められた。
 こちらの本気を試す物だとは思うが、今まで溜め込んだ金の大半を使うことになってしまったのは、正直痛い。
(悪ぃな。ガイ、オド)
 昔、自分が逃げ出したせいで離れ離れになってしまった友人に心の中で謝る。
 今まで溜め込んでいた金は、1人で逃げ出した罪滅ぼしに、いつか再会できた時に渡そうと思っていた金だ。
(子供らを、どうにかしてやりてぇんだ)
 誰も助けてくれなかった、昔の自分達。
 その代償行為だとは自覚しているが、せずにはおれない。
「心配すんな。大丈夫だからよ」
 わざと軽い口調で言うバウに、イリヤは視線を逸らしたまま返す。
「……なら、いいけどさ。でも、なんかあるんじゃねぇのか……」
 イリヤは、寝ている子供達を見詰めながら言った。
 彼女にとっては仲間で、家族のような物だ。
 だから心配せずにはいられない。
 それが分かっているから、バウは明るい声で言った。
「確かに条件を出されたけど、問題ねぇよ」
「条件って、なんだよ」
「子供を引き取って、一緒に宿屋で働いてくれってさ。その子らの面倒を見るのも、宿屋を任される条件だ」
「子供って、他のヤツらも来んのかよ」
「ああ。5才ぐらいの子が10人、来るらしい」
「はぁ? チビ達と同じぐらいじゃねぇか。なんだよ子守りさせようってのかよ」
 イリヤは口では嫌そうに言うものの、どこか安堵するような響きを滲ませる。
 無償の善意は不気味過ぎて信じられないようだが、条件付きなら納得できるらしい。
 そういう所は、まだまだ子供だとは思うものの、口には出さない。
「まぁ、最初の何年かは大変だろうけど、みんな大きくなれば仕事も沢山出来るようになる。それまでは、頼りにしてるぜ」
「……ん、いいけどさ、別に」
 拗ねるように言いながら、どこか嬉しそうな声に、苦笑するバウだった。

 そして翌日。
 馬車で宿屋のある街に訪れ、そこで子供達とメイドさんに出会う。

「そちらの人は、誰なんで?」
 バウが尋ねると、宿屋経営を提案してきた商人2人が説明する。
「鉄帝の遺跡で発掘したメイドロボで、イオと言います。宿屋経営の手伝いをして貰うために連れてきたので、仲良くしてください」
「人間じゃないけど、私の娘みたいなものだから、そのつもりで相手してね」
 商人2人、ヴァンとリリスに言われ、バウはイオに視線を向ける。
 するとイオは挨拶してきた。
「イオと言います。よろしくお願いします」
「ひひ、こちらこそ。特に、子供達のこと、頼みやす」
 そう言いながらバウは、子供達に視線を向ける。
 奴隷にするためスラムで浚われたという子供達は、バウの所の子供達と境遇が似ているせいか、すでに馴染んでいる。
 特に、イリヤを始めとした年長組が巧く相手をしてくれているので、少なくともすぐに問題が発生することは無いだろう。
 なので問題は、宿屋の大きさだ。
「思ってたより大きいですね」
 バウが任される宿屋は、1階部分が食堂兼酒場。
 2階と3階が泊まり部屋。
 しかも真新しい施設が増築されている。
「あっちは、なんなんですかねぇ?」
「銭湯よ」
「水を浄化した後に循環させる仕組みとか作るのが大変でした」
 話を聞くと、練達の一部で広まっている風習らしいのだが、幻想でも実験的に試してみたいらしい。
「あれはデータを取るのが一番の目的だから、費用とかは全部こちらで持つわ。ただ、人手は欲しいから手伝ってね」 
「それと銭湯に隣接して、新規に宿泊場所の増築もしてます。常に満室になることはありえないので、空いてる所は寝場所として使って下さい」
 ひと通り話を聞いたあと、バウは言った。
「話は分かったんですが、まともに始めるには、少し時間をいただけると助かりますねぇ」
 宿屋は1か月以上放置されていたらしく、色々と掃除や準備をしないと難しい。
 しかも、問題なのは宿屋だけでなく、宿場街全体だ。
 つい最近、魔物の襲撃を受け、一時的に避難して放置していたらしい。
 幸い、イレギュラーズ達の活躍で魔物は倒され、街の被害も最小限に抑えてくれたので、建物の補修はしなくても良いが、それでも諸々の準備で街全体が大忙しだ。
「街の人らに挨拶回りもしなといけないでしょうし、宿屋から離れないといけないことも多くなりそうですし」
「それは大丈夫。人手を頼んできたから」
 リリスは言った。
「ローレットに、宿場街の手伝いを依頼したわ。貴方に任せる宿屋、雛鳥の止まり木亭の手伝いを一番に頼んでるけど、宿場街の他の店にも手伝いに行って貰えるように頼んでるから。頼りになるわよ。そろそろ来てくれる頃だと思うんだけど――」
 そう言ってリリスが街の入り口の方角を見ていると、依頼を受けたイレギュラーズがやって来るのが見えるのだった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
14本目のシナリオは日常系になります。
今回舞台にしている宿場街は、今後も幻想での日常系シナリオの舞台にしたり、場合によっては魔種が襲撃して来たりする舞台にする予定です。

そして、以下が詳細になります。

●成功条件

宿屋、雛鳥の止まり木亭の手伝いをする。
もしくは、宿場街の手伝いをする。

●宿屋

1階が食堂兼酒場。2階と3階が宿泊所な大きめの宿屋。
離れに銭湯と、追加の宿泊所が増築されている。

1か月以上放置されている状況です。
なので掃除をしたり、食堂や酒場の準備をしたりする必要があります。

離れの銭湯は、練達の技術を導入されており、水とお湯が蛇口をひねれば出る状態です。
シナリオ開始時は、お湯は張られていません。
こちらも1か月近く放置されてました。

追加の宿泊所は3階建て。
1階部分に小さなフロントがあります。
こちらも1か月近く放置されてました。

宿屋や銭湯の掃除をしたり準備が出来れば成功以上になります。

自由度は高めなので、掃除とかだけでなく、食堂や酒場のメニューを作ってみたりも可能です。
終わった後に、ご飯食べたりお酒を飲んだり銭湯に入って風呂上がりの冷えたコーヒー牛乳を飲んだり自由に出来ます。

宿屋の設定は大雑把にしか決めてないので、プレイングで何か書いていただけると、それに沿った宿屋になります。

●宿場街

交易の中継地点として出来た宿場街です。
そのため、貨物を一時的に預かったり、仕事を終わらせた商人達が一息つくような施設があります。

具体的にどんな施設があるのか決めていませんので、プレイングで書いていただければ、それに沿った施設が出ます。
そこそこ大きめの宿場街ならあってもおかしくないものであれば、出てきて描写されます。

魔物に襲われてしばらく放置していた状況なので、施設の掃除や手伝いを募集してます。
どんな施設で、何をどう手伝うのか? 自由にプレイングにお書きください。

何かしら手伝いをしてあげた、と判断できるプレイングでしたら成功以上になります。

●NPC

関わっても良いですし、関わらなくても良いです。

宿屋関連

バウ

宿屋の主人。20代半ばの男性。子供達を引き取って一緒に宿屋経営をすることになった。

子供達

5才ぐらいの子供が13人。11才から8才までの子供達が8人の、計23人。
イレギュラーズに助けて貰ったり、関わったりしたことのある子供達です。
そのため、イレギュラーズ達に対する好感度は高く、基本的には指示に従います。

メイドロボ

鉄帝の遺跡で発掘された。所有権は依頼人が取得済み。
イレギュラーズに色々と教えて貰い、メイドとして成長中。少し表情が豊かになった。
お茶やコーヒーを淹れる練習をしたり、剣舞の練習をしている。
イレギュラーズ達に対する好感度は高いので、基本指示に従います。

依頼人

リリス&ヴァン

ウォーカー。外見は幻想種。

上記以外では、宿場街の住人と関わるプレイングを書かれた場合、プレイングに基づいて街の住人が新規に生えます。

●その他

今回のシナリオは、私がこれまで出してきました幾つかのシナリオの後日談的な物になりますが、内容を知らなくても別段ご参加いただくのに問題は一切ありません。

●情報精度

このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。

説明は以上になります。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • 雛鳥の止まり木亭、手伝い募集完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年04月29日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
箕島 つつじ(p3p008266)
砂原で咲う花
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
寿 鶴(p3p009461)
白髪の老婆

リプレイ

●お手伝いに行こう
「ふむ、宿場街でのお手伝いですか」
 現地に馬車で向う道中、皆の話を聞いた『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)は興味深げに言った。
「宿場街って、地理や歴史の教科書辺りで言葉や知識としては知っていても、拙の元居た世界の国では過去の事、と言いますか……実際にそういう場所に行けるのは、楽しみです」
 ステラは好奇心を浮かべながら、仕事のことも忘れない。
「街は魔物に襲われてしまったみたいですが、幸い被害は少なかったようですし、復興のお手伝いをしないといけませんね」
「うん、頑張ろう」
 ステラに同意する様に返したのは、『若木』秋宮・史之(p3p002233)。
「街の人達は無事みたいだから良かったけど、生活の拠点がほこりまみれだなんて困るだろうからね。復興を目指してお手伝いするよ」
 史之の言葉に、『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)も賛同する様に続ける。
「宿場町のお掃除と、宿屋の準備と……ニルも精一杯お手伝いしますね」
 ニルの言葉に、皆も頷いた。
 みんなは、街に着いたら何をするか話していたが、その中で子供達のことも話題に上がる。
「前に、一緒にバーベーキューをした子らもおるみたいやし、手伝えることがあればしてやりたいわ」
 子供らの顔を思い浮かべながら言うのは『白髪の老婆』寿 鶴(p3p009461)。
 とあるギルドに所属する子と一緒に生活するぐらい面倒見が良いので、子供達のことを気にしているようだ。
 同じように気にしているのは、他にも何人かいる。
 今回の依頼で関わる子供達は、奴隷にされそうになった所を助けたり、ゴロツキに犯罪をさせられていた所を保護した子達だ。
 直接、依頼で関わった者もいるので、気になっている。

 そうして馬車に揺られ現地に到着し、笑顔を浮かべた子供達に迎え入れられた。

「おはよー!」
 子供達が嬉しそうに出迎えてくれる。
 自分達を助けてくれたイレギュラーズ達がいて喜んでいるのもあるが、今の生活が楽しいというのが一番の理由なのだろう。
「ふふっ。子供達も見違えたね……」
 子供達の様子に、『新兵達の姉御』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の顔に笑顔が浮かぶ。
 そこにメイドロボなイオが挨拶。
「今日は、子供達のためにも、よろしくお願いします」
「うん、あんな事があったんだしこの子達にはこれから幸せになるといいな」
 ミルヴィはイオに応えると、宿屋を見上げ意気込むように言った。
「『雛鳥の止まり木亭』、か。そうだね、ここはやっと見つけられたあの子達の止まり木。必ずここを守らないと……よっし、またお手伝い頑張るよ!」
「がんばるー!」
 ミルヴィの言葉に、子供達が笑顔で応えた。
 和やかな空気が漂う中、宿屋の主人で子供達の保護者なバウが、皆に頼む。
「ひひ、今日は、よろしく頼みやす」
「任しとき!」
 力強く返すのは、『砂原で咲う花』箕島 つつじ(p3p008266)。
 以前の依頼で、子供達やバウ、それにイオとも顔見知りなこともあり、気安い声で言った。
「子供らもイオもバウも元気そうで何よりやな! 元気になったらこれからの生活のことも考えなあかんし……宿屋も宿場街も気になるし、色々手伝うわ!」
 嬉しそうに歓声をあげる子供達。

 そして、それぞれ分担して進めることに。

「オーッホッホッホッ!」
 高らかな笑い声を上げ、『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)は提案する。
「お掃除の類ならばお任せを! きらめくお部屋をお求めならば、この! わたくし!」
 指を鳴らしギフト発動。

  \きらめけ!/
  \ぼくらの!/
\\\タント様!///

「──‬に! お任せですわーー!」
 ラブリークリーンきらきらりんポーズ! を華麗に決めてアピール。
 それを見ていた子供達は、目を輝かせ指を鳴らそうとする。
 けれど巧く鳴らず、もちろん歓声も響かないので、余計にタントに期待の眼差しが向かう。
 それに応えるように指パッチン。
 子供達、特に小さい子達のキラキラした視線を向けられた。

 子供達が盛り上がる中、分担を決めていく。

「えっとね、炊き出しをやらない?」
 申し出たのはミルヴィ。
「これからこの子達は宿屋の従業員として働くんだし、炊き出しとそれの配達。それに接客経験の下地と街の人達への顔見せと紹介をやってしまうのも良いかなって思うんだ」
「街の人達にも、おすそわけ、ですか?」
 軽く小首を傾げ尋ねるイオに、ミルヴィは笑顔で応える。
「そう。あと、面子はまだ体力に自信がない子や女の子達、それとイオ、が良いカナ?」
 ミルヴィの提案に、子供達のリーダー格であるイリヤが返す。
「好いぜ。だったらオレ達は掃除とかの力仕事するから、チビ達よろしくな」
 背伸びをするように言う彼女に、ミルヴィは苦笑を飲み込み言った。
「お掃除してくる子達はイリヤの言う事ちゃんと聞いて、タント達の言う事もよーく聞くんだよ♪」
「はーい!」
 元気良く返す子供達に、ミルヴィは笑顔で続ける。
「帰ってきたら美味しいごはんとお風呂があるから楽しみにしてるんだよ!」
 笑顔が増す子供達。
 子供達にミルヴィは笑顔を返しながら、仲間にも声を掛ける。
「アタシは炊き出しをするけど、一緒に手伝ってくれる人、いるカナ?」
 これに『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)が応える。
「それなら、あとで手伝いに行っても良い? 先に掃除をして、その後に、お菓子を作ろうと思うんだ」
 ウィリアムに快諾するミルヴィ。
 分担を決めた所で、お手伝いをすることにした。

●花壇作り
「よろしゅう頼んます」
 宿屋の主人であるバウに、鶴は改めて挨拶。
 これにバウは腰を低くして応える。
「ひひ、こちらこそ。必要な物があれば言って下さいな」
「やったら、宿屋の入り口に花壇作ろう思うんや。花とか、用意出来るやろか?」
 バウは快諾。材料を用意して貰うと、鶴は花壇作りに勤しむ。
「ああ、ここ花植えんのにちょうどええな」
 人目に付き易い入口に作ることに。
 用意して貰った煉瓦を敷き詰めて作っていると子供達が集まってくる。
「お手伝い、するー」
「手伝ってくれておおきんな。やったら、土入れて花植えよか」
「うん!」
 子供達と一緒に花壇作り。
「この花はちゃんと世話したら来年もまた咲くでな」
「ずっと、咲くの?」
「せやで。お客さんを花でお出迎えすんのええやろ?」
「うん!」
「その意気や。あとは、野菜植えるんもありやな。食堂で使えるかもな」
 わいわいと、お喋りしながら作っていった。

●宿屋担当
「へぇ、良い宿だね。埃とかすごいけど、これは磨きがいがありそうだ」
 宿屋の中を確認しながらウィリアムは言った。
「子供達がこの場所で新しい一歩を踏み出せるように準備を頑張らせてもらうよ」
 という訳で、掃除開始。
(まずは水を用意して)
 ギフトを使い清潔な水球を出現させるとバケツに入れていく。
「大きい建物だし、水汲みで行ったり来たりは大変だから、これで時間短縮になれば良いな」
 ウィリアムが水を用意してくれたのを見て子供達は目を輝かせる。
「すごいねー! すごいねー!」
 飲食がままならない生活をしていた子供達にとって、ウィリアムのギフトは羨ましいのだ。
 子供達の様子に、ウィリアムは小さく笑みを浮かべ。
「さぁ、始めようか」
「うん!」
 子供達と一緒に掃除を開始。

 それはタントも同じ。

「掃除は上からですわ!」
 箒に跨り汚れを箒でパタパタ。
 それを見ていた子供達は目をキラキラ。
「あら!? 皆様も乗りたいのですの!?」
 こくこく、と頷く子供達。
「うぬぬ、二人乗りはできましたかしら? 試してみましょうか!」
 乗せてみると、掃除ぐらいならばなんとか大丈夫。
 わらわらと、乗せてとねだる子供達。
「順番ですわー!」
 賑やかに掃除をしていった。

 掃除が進む中、宿屋の内装運びに精を出すのは、つつじ。

 テキパキと小柄な身体つきからは想像も出来ない手際の良さで、つつじは仕事をこなす。
「ベットとキャビネット動かしてきたで。あと、酒場で要るもんがあったら言ってな。足りんもんや壊れたもんがあったら買い出しに行って来るわ」
「ひひ、助かりやす。それじゃ――」
 バウは地図で場所を示し必要な物を頼む。
 そこにちょうど、花壇作りを終わらせた鶴が2人のやり取りを聞いて提案する。
「宿場街にはいろいろな施設があるみたいやから、地図作ったらどうやろ? ようあるやん、道に立っとるやつ」
「良いですねぇ。そういうことなら村長さんに話をつけに――」
「やったら、ウチが話つけに行くわ」
 つつじが引き受ける。
「ご近所付き合いは大事やからな。宿屋のことも言ってくるで」
 つつじは買い出しと共に向かう。
 それを見ていた鶴も外に。
「医者や薬屋さんはあるやろか? いざという時、大事やし。顔つなぎ代わりに掃除のひとつでもしに行くわ」
 バウから場所を聞き向かう。

 こうした提案は他にも。

「バウ様がよかったら、お片付けやお掃除の他にも、壁やドアのペンキを塗り直したりとか、皆様とちょっと手を加えられたらいいなって思うのです」
 ひと通り掃除を終わらせたニルが、やわらかな笑顔を浮かべ提案すると、バウは聞き返す。
「塗り直しですか?」
「自分たちでやったんだった思うと、この場所がもっともっと好きになりませんか? やり過ぎにならないように気をつけながら、皆様の好きな色にできたらなって思うのです」
「良いですね。となると、どこを塗りやしょう」
「ニルはお風呂に絵が描いてあるのを見たことがあるので、ここのお風呂にも絵を描けたらいいなって思います」
 2人のやり取りが聞こえて来た子供達が集まってくる。
「絵、かくの?」
「はい。皆様は、どんな絵が好きですか?」
 ニルに訊かれ次々に応えた子供達は、ニルにも訊いてくる。
「どんな絵が、好き?」
「そうですね。ニルが最近見たきれいな風景は、雨に濡れたお花畑……でも晴れてる空のほうが気持ちいいでしょうか」
 話していく内に、アイデアが溢れて来る。
 異国の街並みや、お花畑。時には想像の世界も広がって。
「一緒に、お絵描きしましょうか」
「うん!」
 やる気な子供達を連れて、ニルはペンキを貰いに行った。

 宿屋の掃除が進む中、街全体の復興に向け史之は動いていた。

●街の復興
「建物の被害は少なくて済んだんだね」
「ああ。魔物を倒してくれたイレギュラーズの人達のお蔭さ」
 街の状況を聞く史之に、三十路半ばの女性が応える。
 気風の好い彼女は街のまとめ役。
 史之もイレギュラーズということで、最初から歓迎してくれ、話も良く聞いてくれた。
(これなら話が巧く進みそうだ……欲を言えば、ローレットの支部を建てられると良かったんだけど)
 それに関しては厳しい。
 依頼人のリリスが、街を治める領主にも話を付け交渉に動いたが無理だった。
(仕方ない。それならそれで、やれることをしないと)
 前向きに気持ちを切り替え話をしていく。
「この街って、住宅地区と商業地区って分かれてるの?」
「一緒くただね。ウチって宿場街だから、店の中に住んでるようなもんさ」
 住み込みのような形が一般的らしい。
「だったらなおのこと、掃除をして綺麗にしないと。綺麗な方が、お客さんを呼び込み易いし、住んでて気持ちが良いからね」
 とはいえ場所によっては人手が足りない所もある。
 効率的に街全体をきれいにするべく、統率が得意な史之が街の人達と話をして振り分けていく。

 そこに、つつじがやって来た。

「街の案内用の看板作ろう思うんよ」
「なら、それはこっちで人を手配してやって貰えるようにするよ」
「ほんまに? ありがと! やったらそっちは任せるわ。ウチは、他にも手が足らん人おらんか聞いて来るわ」

 史之とやり取りしたつつじは、走って他の場所に向かう。
 2人と同じように、鶴も街の住人の元に訪れている。

「あった、あった。掃除手伝いますわ」
 簡単な診察も出来るという薬屋に挨拶し掃除を手伝いながら話をしていく。
「宿屋に小さい子がいっぱいおるんで、よろしく頼みますわ――
 いや、わたいは今のとこ病気知らずですわ」
 宿屋のことも話し、伝手を作っていった。

 人付き合いの好いイレギュラーズに街の住人は好印象を抱き、史之の提案にも大いに乗っていく。

「うん。これなら売れそうだね」
 史之の提案で、それぞれ不要な物や余裕のある物を持ち出し合い、土産物を作っている。
 売り上げを復興資金に回そうというのだ。
 提案は他にも。
「馬車の駅舎に力を入れた方が良いと思うんだ」
 宿場街が商業の中継地として、より発展する様に。
「纏めて管理して、手入れや、荷物を預かったりとかが出来るようにすると良いと思う。あと、ここに留めておくと、ちょっとしたサービスが受けられるような……宿屋の銭湯に格安で入れるチケットとか、あると良いかも」
 史之のアイデアに、街の住人は具体的に話を詰めていく。
 皆の懸命な様子に――
(一日で街が復興するとは思わないけれど、小さな一歩になれたらいいなあ)
 心の中で呟く史之だった。

 街が盛り上がる中、宿屋の手伝いも進む。

●銭湯は良い文化
「これで、大丈夫」
「助かります」
 銭湯回りのメンテナンスを終わらせたステラにバウが礼を言う。
 工業技術と改造スキルを持ったステラのお蔭で、いつでも使えるようになる。
 使う際の注意事項などを話し、その中でステラは提案した。
「……そういえば銭湯といえば、此方はサウナや水風呂等あるのでしょうか?」
「あると良いですかね?」
「いえ、拙の元居た所だと銭湯や温泉施設には付き物でしたので。目玉という程ではないですが、お客さんの興味をひけるかもしれませんし……興味をひくなら、お湯の種類を変えてみるのもアリでしょうか」
「というと」
「入浴剤、は無いかもですが柚子湯みたく果物等や花を浮かべたり、薬湯や生姜湯みたく身体によさそうな物とか? 毎日は難しいでしょうし、月に何回か位であると楽しそうかな、と」
 ステラの提案にバウは乗り気に。
 街の住人に湯船に入れる物は無いか聞きに行こうとしたので、ステラが代わりに向かう。
 その途中、馬車の駅舎に訪れ整備を手伝った。

 銭湯の設備が使えるようになったので掃除も開始。

「ああっ、あまり走ると危ないですわよ!」
 タント率いる子供掃除部隊がデッキでごしごし。けれど勢いあり過ぎて――
「滑ってすってん……ころりーん!?」
 子供達を止めようとしたタントは、おでこからごつーん!
「うう、『ギャグキャラ』でなければ致命傷でしたわ……」
 タントの様子を見て、自重し始める子供達だった。

 掃除が終われば壁にお絵描き。

「うん。好きに描いて良いんだよ」
 ニルに優しく言われ、子供達は思い思いに描いていく。
 本塗りは難しいので、下書きを。
 残りは本職に任せることにするが、ニルもお花畑を描いていき、子供達と一緒に笑顔になった。

 手伝いが進む中、料理の支度も進む。

●料理作り
「包丁や火を使う時はアタシやバウさんが監督するからまだ無暗に使っちゃダメだよ。イオもしっかり見といてね。そこそこ料理にも自信あんだから!」
 ミルヴィは出前をしやすい、サンドイッチや生地に包んで食べられるトルティーヤををたくさん作る。
 彼女以外にはウィリアムも。
 最初は簡単な物を考えたが――
「お腹いっぱいになる方が嬉しいかな?」
 子供達のことを考え、1つ1つが大きくてさっくりほろほろした食感の田舎風のスコーンを作る。
「密閉容器に入れておけば常温でも3日くらいはもつからね」
 喜ぶ子供達。
 時間が余ったのでミルヴィの手伝いを。
 ステラも加わり呈茶のスキルを活かし美味しいお茶を用意する。

 出来あがれば、街の人達にもお裾分け。
 それが終れば皆で楽しく食事会。

「がんばったあとのごはんは『おいしい』です」
 皆の笑顔に、ニルは笑顔を浮かべる。
「みんなで食べると『おいしい』ですね」

 おいしい食事を楽しんで。
 あとは銭湯に浸かって帰る。

「んーっ、自分で洗えるから良いよーっ」
「ほら、照れないの、わしゃわしゃわしゃー♪」
 ミルヴィがイリヤの頭を洗ってやるように、皆も子供達の面倒を見る。

「最後にはやはり自分がきらめかねば! ですわーー!」
 タントは子供達の面倒を見ながら、自分磨きも怠らない。
 そして女湯に入っていたが――
「わたくしの性別? 内緒ですわー! オーッホッホッホッ!」
 それは湯気の向こうの謎のまま。

 お風呂上りに、つつじが用意していたコーヒー牛乳を。

「風呂上がりにはやっぱり酒……と言いたいところやけど、子供らの手前や。今日はコーヒー牛乳やな!」
 子供達は両手で掴みゴクゴクと。
 つつじは、腰に手を当て一気飲み。
「悪い遊びを教えてしもたな……ふふふ」
 子供達に、風呂上がりの一杯の楽しみを教える、つつじだった。

 かくして依頼は完遂される。
 子供達の笑顔と、街の住人達との伝手が生まれた、好き依頼の終わりだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!

ちょっと書き過ぎて二千字ぐらい削るのに時間が掛かって遅くなりましたが、皆さまの素敵なプレングのお蔭で楽しくリプレイを書くことが出来ました。ありがとうございます!

今回の結果で、銭湯にサウナや水風呂が増設されたり、馬車の駅舎に訪れた滞在客が銭湯に訪れるようになったり、銭湯の壁の絵が好評に成ったりすることになります。

街の住人との交流もされるようになりますし、子供達はトルティーヤなどの出前で走り回ったり、宿屋や銭湯の手伝いを出来るようになりました。

賑やかで活気のある宿場街として、これから少しずつ発展していくことでしょう。
この宿場街は、場合によっては今後も舞台のひとつとして出していく予定です。

ではでは、これにて。
重ねて、皆さま、お疲れ様でした。ご参加いただき、ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM