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シナリオ詳細

放たれしは魚雷の如く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある海洋軍艦の撃沈
 春の海は穏やかで、陽光はのどかであった。その中を、一隻の海洋軍艦が進んでいく。
 この天気のように穏やかに、海洋本土からアクエリア島への航海が終わって欲しいと言うのは、その軍艦の乗員達に共通する希望であったろう。
 だが、その希望は叶わなかった。海の中から彼らの艦を追尾する影に、彼らは惨事の直前まで気付かなかったのである。

「四時方向、海中より航跡! 数は十! 距離百!」
 水中を進む何か――殻の中に雷と炎の魔力が充填された、言わば魚雷と言うべき爆弾――が影から放たれたところで、マストに上っていた見張りはようやく影による襲撃に気付いた。だが、その時にはもう全ては遅い。
「面舵一杯、全速回避ーっ!」
 軍艦の艦長は回避行動を命じるが、爆弾の速度は軍艦が回避するにはあまりに速すぎた。軍艦の左舷後部に幾つもの爆弾が命中し、その度に水の柱が立っていく。穴の空いた艦内には大量の水が浸入し、艦は瞬く間に傾いた。
「脱出艇を出せ! 総員、退艦!」
 浸水を食い止められず、沈没は不可避と見た艦長が退艦命令を下す。乗員達はある者は脱出艇に乗り移り、ある者は直接海に飛び込んだ。飛行種の多くは、飛んで空へと逃れる。
 だが、その大半は助からなかった。脱出艇に乗った者は、脱出艇を爆弾によって破壊され海中に落とされたところを、海面近くに浮上した影に貪り食われた。直接海に飛び込んだ者は、言わずもがなである。空に逃れた飛行種達も、次々と影の放った爆弾によって海に叩き落とされ、食われていった。
 紅に染まった海から逃れ得たのは、影を振り切れるほどに泳ぎの速い海種と、空に逃れた飛行種の半分ほどしかいなかった。乗員の大半が、影に食われて死んだ。

●勘蔵の思案
 『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)と海洋軍人の老騎士アモンは、難しい顔をしながら向かい合っていた。海洋軍艦を撃沈し乗員達を貪り食った影の討伐依頼が、アモンを通じてローレットに持ち込まれたからだ。
 勘蔵はアモンから事件について聞くと、渋い顔で頭をボリボリ掻きながら故郷の戦史を思い出していた。
(このやり口、まるで潜水艦じゃないか……もうちょっと技術が進んでいればソナーとかでまだ何とかなるんだろうけど……)
 勘蔵の故郷の世界で起こった過去の戦争では、海中の潜水艦からの魚雷が猛威を振るい、多数の艦船が撃沈されていた。もっとも、それに応じて潜水艦を発見する技術も相応に発達したのであるが。
 難しい顔のまま、勘蔵は考え込む。アモンはその様子を、心配そうに見守っていた。
(問題の海域に、船でアプローチするのは危ない。空にも攻撃してきたと言うから、空も安全ではないのだろうけど……船でアプローチするよりは、マシかも知れない)
 やがて、はああ、と大きく溜息をついて、勘蔵は口を開いた。
「わかりました。受けましょう。ただし……条件として、また『彼ら』をお借りしますよ」
「おお、かたじけない。『彼ら』は、もちろんお貸ししよう!」
 勘蔵の答えに、アモンは深々と頭を下げて礼を述べた。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。今回は魚雷のような爆弾を放って海洋軍艦を撃沈した影こと、狂王種トーピード・シャークの討伐をお願いします。

●成功条件
 トーピード・シャークの全滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 アクエリア島への航路にある、OP前半で海洋軍艦が撃沈された海域です。
 依頼決行時間はイレギュラーズ側が自由に選べます。
 夜を選ぶ場合、十分な灯りがあるか暗視及びそれに相当するスキル・アイテムを保有していない場合、命中、回避にペナルティーが入ります。

 また、この海域へのアプローチには基本的に二つの手段が選べます。
 一つは、船を用意してもらって海上を進む方法。
 もう一つは、『彼ら』こと後述するオスプレイズに運んでもらって、空から進む方法。
 もしくは、これ以外にアイデアがあるようでしたらその手段を選んで頂いてもOKです。

●トーピード・シャーク ✕10
 OP前半で登場し海洋軍艦を撃沈した影こと、ホホジロザメの狂王種です。全長約10メートル。
 消化した獲物の骨などを凝縮して殻とし、その中に炎と雷の魔力を充填した爆弾を発射することが出来ます。言わば、魚雷です。OPをご覧頂いたように、この魚雷は空中に対しても放てるため、空中も安全ではありません。
 トーピード・シャークの捜索についてですが、問題の海域に船でアプローチする場合は放っておいてもその船を狙ってくるでしょうが、空からアプローチする場合は何かしらの手段で誘き出すか上手い捜索手段を講じる必要があるでしょう。
 能力傾向として、高攻撃力高生命力。動きもすばしこくはあるのですが、身体の大きさもあって回避はそれほど高くありません。
 トーピード・シャークは海中にいるため、トーピード・シャークに対する【火炎】属性を持つ攻撃、あるいはフレーバーで炎属性と判断される攻撃は、大きく威力が減少します。また、トーピード・シャークへの【火炎】属性BSは、付与自体が発生しません。
 なお、戦闘中はトーピード・シャークは海面から40メートル以下には潜らないものとします。

・攻撃手段など
 牙 物至単 【弱点】【鬼道】【出血】【流血】【失血】
 体当たり 物超単 【移】【万能】【弱点】【体勢不利】
 魚雷 神/至~超/単 【弱点】【ショック】【炎獄※】
  ※対象が海中にいない場合のみ。また、BSを付与されていても海中に入ればBSは自動的に消えるものとします。

●オスプレイズ ✕12
 海洋軍に所属する、ミサゴの飛行種で構成された輸送部隊。勘蔵とアモンの言う『彼ら』です。交代要員、あるいはイレギュラーズ達以外の何かを運ぶ場合の輸送担当を含めて、この人数となっています。
 これまで何度か依頼をアシストするために貸し出されており、今回は勘蔵がイレギュラーズ達の安全を考えた結果、海ではなく空から問題の海域にアプローチする手段を取れるようにと貸し出されることになりました。
 機動力6の運搬性能持ちで、基本的にイレギュラーズの指示には従います。また、暗視ゴーグルがあるため夜でも回避にはペナルティーを受けません。
 なお、オスプレイズに運ばれている間は、機動力と回避はオスプレイズの能力で判定されます。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • 放たれしは魚雷の如く完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月01日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メリッカ・ヘクセス(p3p006565)
大空の支配者
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●海上と空より
 晴れ渡った空の下、海洋本土からアクエリア島への航路を二隻の船が進み、その周囲を十三の飛行種が飛ぶ。この海域で海洋の軍艦を沈めた狂王種トーピード・シャークの討伐を依頼されたイレギュラーズ達が乗る船と、空からイレギュラーズを運べるようにと貸し出されたミサゴの飛行種による輸送部隊『オスプレイズ』だ。
 二隻の船のうち片方は海洋軍から貸与された軍艦であり、もう片方は『若木』秋宮・史之(p3p002233)の所有する小型船グレイスフルイザベラ号であった。
「……また厄介な狂王種が現れたものだね」
 船首に海洋女王イザベラを模った像が飾られた、青と白に彩られた愛する船の甲板の上で、史之は独り言ちた。狂王種は海洋の敵であり、海洋の敵ということは史之の敵である。
(きっちり、全員海の藻屑にしてやろうじゃないか)
 青い海を警戒を交えて見渡しながら、そう意気込む史之だった。
 グレイスフルイザベラ号の前には、海洋の軍艦がいる。その舷からは外に広がるように棒が突き出されており、棒から吊り下げられるようにして鎖で編まれた網が降ろされていた。今回の討伐対象であるトーピード・シャークが体内から魚雷のような爆弾を放ってくると聞いた『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)の提案による、魚雷対策の防雷網だ。また、この軍艦の喫水線下には増加装甲としてバルジも備え付けられている。
 いずれも簡単なものではありながら、取り付けるのは重労働だったのだが、先に沈められた軍艦の乗員のようにはなりたくないと、この艦の乗員達は必死になってバルジや防雷網の敷設に従事していた。
「海と鮫……拙の元居た世界では有名な映像作品がありましたね。最近の流行りでは、鮫は空から降ってきたりするようですが」
 防雷網を海中に降ろし終えたステラは、軍艦の甲板で一息ついてつぶやいた。空から降るのはともかく、まさか鮫が魚雷を撃って来ようとは。
「何はともあれ、厄介な相手には違いありません。気を引き締めないと、ですね」
 ふう、と大きく息を吐いてから、ステラは練達製の試作連結式バスター砲『OVER ZENITH』の砲身を撫でた。
(軍艦といえども、運用想定外の攻撃には脆いのですね……)
 そんなことを考えながら、『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)は使い魔の鳥に一帯を俯瞰させて警戒している。
 元々、船は喫水線より下への攻撃には弱い。ましてや、混沌の海戦は砲撃戦や接舷しての白兵戦が主流であり、水中からの雷撃戦などはほぼ想定されていない。そこに水中から魚雷を撃たれては、艦の性能としても乗員の対応としても、どうしようもないものがあった。
「……潜水艦、というのですか」
 珠緒は恋人である『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)から聞かされた、水中に潜って戦闘行動を行うと言う軍艦について口にした。蛍の元の世界では、過去の世界大戦において潜水艦が大暴れしており、その存在を理解した上で対策を練ってなお、多くの船が沈められたと言う。
 その蛍は潜水艦の脅威を知っていることもあってか、警戒を人任せにすることなく自ら目を凝らして海中を探っていた。
 先に沈められた軍艦の話を聞くに、船でこの海域に近付くのは確かに危険ではあった。だが、討伐依頼を受けた蛍達からすればトーピード・シャークを確実に確実に誘き寄せたいのであり、襲撃があるとはっきりわかっているのならむしろ「有効な手段」と言えた。
 トーピード・シャークが誘き寄せられれば、その攻撃を盾として受け止めて船を守りつつ、倒していくまでである。
(必ず殲滅して、海の平穏を取り戻さないと!)
 この海域から、トーピード・シャークの脅威を除く。蛍は固く意を決していた。
(聞けば聞くほどおっかないねぇ……生物兵器とかいう類のやつかい?)
 『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、口から爆弾を吐いてくると言うトーピード・シャークの能力に、苦笑いを浮かべていた。
 昔の縁なら、トーピード・シャークの話を聞いてもその実在は疑っていただろう。だが、かつて絶望の青と呼ばれた海を、そこで起こった戦いを乗り越えた今となっては、あっさり信じることが出来てしまう。
(つくづく、人生ってのは何が起こるかわからんモンだ……ま、信じられるからこそ、余計に厄介なんだがね)
 その厄介なトーピード・シャークと大号令の真っ最中に出くわさなかっただけ幸運というものであり、縁はその幸運に感謝するばかりだった。

「爆弾を発射する巨大なサメだと……? 生き物とは思い難い能力だな。まるで兵器じゃないか。
 それにまたサメか……なんて、言ってられないか。今回は真面目に危ない奴だ」
「ああ。魚雷たぁ、船乗りの天敵だからな。あんな危なっかしい生き物、退治しとかないとな! あとフカヒレ!」
 『オスプレイズ』隊員に運ばれている『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が唸るようにつぶやくと、別の『オスプレイズ』隊員に運ばれている『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)が応じるように頷いた。カイト自身も飛行種ではあるが、体力温存も兼ねて本職である『オスプレイズ』にここまでの移動を頼っていた。
 その最後にカイトが食欲を抑えきれないようにフカヒレと付け加えれば、イズマも興味津々という顔をする。味はないものの、ゼラチンのような柔らかい食感が楽しめるフカヒレは珍味であり、それが巨大なトーピード・シャークおよそ十体分ともなれば、さぞ食べ応えがありそうに思われた。
 それにしても海洋、とりわけ絶望の青と呼ばれていた海は狂王種の脅威に曝されることが多いものだとイズマは感じる。ともあれ、カイトの言うようにトーピード・シャークは退治しておかねばならなかった
「野放しにしては被害が広まる一方だね。これ以上被害が拡大する前に仕留めてしまいたいな」
 その思いは、『大空の支配者』メリッカ・ヘクセス(p3p006565)とて同様であった。『オスプレイズ』に頼らず自力での飛行を行っているメリッカは、仲間達と同様に、海中からの奇襲を警戒していた。

●発見、そして開戦
「十時方向に巨大な魚影が現れました、来ます!」
 トーピード・シャークに最初に気付いたのは、使い魔を通じて高高度から警戒している珠緒だった。ほぼ同時に、自らの目で空から警戒しているメリッカもトーピード・シャークの影を発見する。
「獲物を探しているのなら、ボクを食べるといい! もっとも、ただ食い付かれるだけで済ます程ボクは甘くないわよ!」
 討伐目標発見の報を聞いた蛍はざぶんと防雷網を越えて海中に飛び込むと、トーピード・シャーク達のど真ん中へと泳いでいった。そして、トーピード・シャーク六体を巻き込むようにして、桜吹雪の舞う結界を展開する。海の中に舞う桜の花びらを見たトーピード・シャーク四体は、ギロリ、と捕食者の目を蛍へと向けた。
 四体のトーピード・シャークは蛍を食らうべく噛みつかんとするが、守勢に長けた蛍をその牙にかけることは出来なかった。鋭い牙は、虚しく海水を噛むだけである。残り六体は、軍艦に向けて口から一斉に爆弾を吐いた。
(全部斬るのは無理、か……でも、一発二発だけでも!)
 史之はグレイスフルイザベラ号から海中へと飛び降りつつ、『不知火』を振るう。続けざまに放たれた剣閃は飛翔するが如く突き進み、爆弾二発に命中。ドォーン、ドォーンと二つの水柱が爆弾の爆発によって立った。
(ピンポイントで命中させる事は難しくとも、これで進路をずらせれば……!)
 さらにステラが、残り四発の爆弾に『OVER ZENITH』の砲口を向ける。放たれた太いビームは、そのうちの一個に命中して爆発させ、もう一本水柱を立てる。さらに、その爆発の衝撃によって別の一個の進路がずれた。
 軍艦に向かう六発の爆弾は史之とステラによって二発まで減らされた末、軍艦ではなく防雷網に触れて爆発した。防雷網によって直接の被弾は避けられたものの、爆弾の衝撃は殺しきれず、軍艦がぐらぐらと揺れた。
「ありがとな、行ってくるぜ!」
 『オスプレイズ』隊員にここまで運んでもらった礼を言うと、カイトは軍艦の甲板に降り立った。まずは、味方の景気づけだ。
「行くぞ、テメェら!」
 カイトは船上の仲間達に威勢良く号令を放つと、勢いよくトーピード・シャーク達の方へと自らの翼で飛んでいった。機運すら転じる号令は、カイトの狙いどおり仲間達を鼓舞し、勇気づけていく。
「ありがとう。ここで降ろしてくれ……お互い、魚雷には気を付けような」
 カイトと同じく『オスプレイズ』隊員に運ばれていたイズマは、軍艦に爆弾を撃ち込んできたトーピード・シャークの一体の真上に至ると、海面ギリギリで離してもらう。真っ直ぐ真下に突き出された『ノクターナルミザレア』の刀身ごと、海中に潜り込み急接近するイズマを察知するのが遅れたトーピード・シャークは、その隙だらけの背を深々と突き刺された。
「許しは請わない。貴様らの存在は僕ら海洋の民の日々を脅かす。故に、此処で終わらせる!」
 海面から約三メートル弱を飛行しているメリッカは、イズマが背を貫いたトーピード・シャークに掌を向ける。その掌には、メリッカの全身の魔力が集中していた。
「消え去ってしまえッ!」
 掌に集めた魔力を凝縮した砲弾を、叫びと共にメリッカは放った。魔力の砲弾は海面に潜り込むと、トーピード・シャークの頭に命中し、鼻をグシャリと歪ませる。
「魚雷とまではいかねぇが、俺も雷にはちっとばかり自信があってな。竜の雷、食らってみるかい?」
 軍艦から海中へと飛び降りつつ、縁は頭上に呼び寄せた雷雲からの雷を身に受けた。雷を纏ったまま傷ついたトーピード・シャークの側まで泳いでいった縁は、トーピード・シャークの下に潜り込むと青刀『ワダツミ』をその腹に突き立てる。『ワダツミ』の刀身から、雷がトーピード・シャークへと伝わっていった。
(蛍さんは大丈夫そうですね。それなら……)
 トーピード・シャークの攻撃を引き付ける蛍が負傷したら回復するつもりだった珠緒は、どうやらその必要はなさそうだと見て攻撃に転じる。軍艦に爆弾を撃ってきたもののうち、三体のトーピード・シャークに邪悪を灼く裁きの光を浴びせかけた。聖なる光がトーピード・シャークの身体を灼き、そのうち度重なる攻撃を受けているトーピード・シャークを虫の息まで追い込んでいく。

●トーピード・シャーク、全滅
 イレギュラーズ達の攻撃によって、トーピード・シャークは一体、また一体と倒されていった。特に、一体残らず蛍の展開する桜花の結界に巻き込まれてからは、史之とステラが魚雷を迎撃せずにすむようになったこともあり、そのペースが加速する。トーピード・シャーク達は幾度も蛍をその牙にかけようとするも、守りに長けた蛍の前には傷を負わせられても精々掠り傷程度であり、その傷もすぐさま珠緒によって癒やされた。
 そしてトーピード・シャークは残り二体にまでその数を減らす。

(あと少しです。蛍さんが低体温症にならないうちに、決めてしまいましょう)
 元よりその必要が少なかったこともあるが、珠緒は蛍への回復よりもトーピード・シャークへの攻撃に重きを置くようになっていた。如何に水中で行動する適性を持っていたとしても、海種以外が長時間水中にいるのは体温を奪われるのではと言う懸念があったからだ。
 珠緒は残る二体のうちの一体に、反応することさえ許さない光の如き一撃を、一度に二回叩き付ける。トーピード・シャークは自らの身に何が起こったのかわからないまま、その生命力を抉り取られていった。
(最後まで、油断はしない……絶対に、逃がさないよ!)
 間違いなく全滅させるまで、トーピード・シャークの攻撃を引き付ける。その意志を込めて、蛍は桜の結界でトーピード・シャークの意識を捕えた。蛍によって敵意を煽られ、意識を釘付けにされたトーピード・シャークは蛍に噛みつかんと迫るのだが、十体近くいた時ならまだしも二体しかいない状況では、蛍に掠り傷さえ負わせることは出来なかった。
「強くなろうと所詮は魚、漁師様にはかてねーんだよ!!!」
 トーピード・シャークが蛍に攻撃せんとする隙を衝いて、カイトが残像を発生させるほどに素早く動きつつ、『三叉蒼槍』で突きかかった。海の中でなければ、緋色がトーピード・シャークを包み込んだように見えただろう。珠緒の連撃によって弱っていたところに無数に見える刺突を受ければ、トーピード・シャークは耐えられるはずもなく、プカリと海面に浮いて仲間達の後を追った。
「残るは、貴様だけだ! 覚悟してもらおう!」
 イズマは漆黒の大顎を召ぶと、最後のトーピード・シャークへと放った。大顎は海中を猛スピードで進みトーピード・シャークの横へ回り込むと、エラの付近にガブリと食いついた。鋭い牙が、深々とトーピード・シャークの身に食い込んでいく。トーピード・シャークは大顎を振り払わんと、ジタバタと身を捩った。
「女王陛下の海を荒らしたんだ! 許してもらえると思うなよ!」
 史之にとって、海洋の海はすべからく女王イザベラの海である。その海の平穏を乱されたと言う怒りに叫びながら、史之は渾身の力を以て『不知火』に雷を纏わせると、イズマの大顎が食らいついたのとは逆のトーピード・シャークのエラに『不知火』の刀身を突き立てた。『不知火』の刀身は鍔まで深く突き刺さり、刀身を纏っていた雷がトーピード・シャークの身体を内側から灼いていく。
(最後まで嬢ちゃんが奴さんを引き寄せ続けたか。おかげで、俺は攻撃に専念出来たわけだけど)
 途中で盾役を蛍と交代するつもりだった縁は、けっきょく最後まで蛍がトーピード・シャークの攻撃を引き寄せ続けたことに、称賛と苦笑半々と言った塩梅で内心独り言ちた。何にせよそれもこれで終わりだとばかりに、縁は自らの身体に雷を落とすと、トーピード・シャークの背を『ワダツミ』で斬りつけた。
 史之の雷はトーピード・シャークの身体を内側から灼いたが、斬撃の傷跡から伝わる縁の雷はトーピード・シャークの身体を外側から灼いた。内外から身体を雷に灼かれたトーピード・シャークは、朦朧とした様子を隠すことも出来ないほど弱っていた。
「これで、とどめです」
「こいつで、とどめだ!」
 ステラは軍艦の甲板から『OVER ZENITH』を構えて、メリッカは空中でトーピード・シャークの上から掌を真下に突き出して、トーピード・シャークにとどめを刺さんと狙う。太いビームと魔力の弾丸は、同時にトーピード・シャークの身体に突き刺さった。既に弱っているトーピード・シャークが頭からビーム、背中から魔力の弾丸と言う十字砲火に耐えられるはずもなく、ぐたりと身体から力を失うと、ゆっくりと海面へと浮かび上がっていった。

●戦いの後、一仕事
 戦闘が終わっても、イレギュラーズ達、特にステラには一仕事が残っていた。防雷網の巻き上げだ。何しろ、これを降ろしたままでは水の抵抗が強くなりすぎて帰るどころか進むこともままならない。
「これ、あのサメと戦うよりもしんどいんじゃねえか……?」
 縁がそう零すくらいには重労働であったが、それも軍艦の乗員達の協力を得て如何にか終わる。
(何とか、役に立って良かったですね)
 防雷網の爆弾を受けた部分は大きく吹き飛んでおり、何度も攻撃されていては危なかったと思わせた。それでも、用意したものがこうして役に立ったのはステラにとっては嬉しいことだった。
「お疲れ様、蛍さん」
「ありがとう、珠緒さん」
 防雷網の巻き上げが終わった後、珠緒は蛍に労をねぎらうべく温かい紅茶を振る舞っていた。紅茶を飲んだ蛍は、身体の内側から暖まる感覚に、はぁ、と息を漏らす。暖かいのはきっと、ただ紅茶が温かい、恋人の珠緒が自分のために淹れてくれたからだろう。そう思い珠緒を見やる蛍に、珠緒はにこりと微笑みを返した。
(ある程度の損害は覚悟してたけど、何事もなくて良かったよ)
 軍艦の方もそうであるが、愛船グレイスフルイザベラ号に被害がなかったことに、史之は胸を撫で下ろした。相手が相手だけにある程度の損害は覚悟していたが、やはり被害がないに越したことはない。
「これだけあれば、きっと腹一杯フカヒレを食えるぜ」
「ああ、楽しみで仕方ないな」
「何かやってると思ったら、これ、食う気だったのか」
 カイトとイズマは、トーピード・シャークから回収してきた鰭を前にしてわくわくとした様子を見せている。その会話を聞いていたメリッカは、こんなものが食えるのか? と物珍しさと疑問半々でトーピード・シャークの鰭を見やった。そんなメリッカに、カイトとイズマはフカヒレについて滔々と語るのだった。

成否

成功

MVP

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護

状態異常

なし

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。リプレイ返却が遅れまして、大変申し訳ございません。
 さて、水中から魚雷のような爆弾を放ってくる狂王種トーピード・シャークは、皆さんの活躍によって見事に討伐されました。お疲れ様でした。

 MVPは、トーピード・シャークの攻撃を最後まで引き付け耐え抜き続けた蛍さんにお送りします。

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