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シナリオ詳細

<豊来期>円環の地を求めて

完了

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オープニング

⚫︎末永く、栄えあれ

 ふかき白に埋もれておおくの生命がねむる、ゆきの季節。
 あたたかい季節とはうってかわって、森は色をなくしてしずまり返ります。
 それはのんびりやのコノコノたちもそうです。
 コノハナコノコノも、イワナガコノコノも、こごえないようにかくれて過ごします。
 岩の下で、木の根のなかで、身をよせ合ってゆめを見るのです。
 やわらかな巡りの風ふく、もえの季節を。
 その先にまつ、はなの季節を。


 そして、雪どけにめざめた森のなかを、コノコノたちが動きはじめます。
 番をえたコノコノは、愛をおうかするために。
 番のいないコノコノは、彼らへのはなむけに。
 年老いたコノコノは、最期をいろどるために。
 めざすは一路、森のおく。
 こいの季節のように、この旅路に天てきはいません。
 道あんないもいりません。なぜなら——

 ——ずうっとつづく桃色のなみき道が目印になるからです。
 バージンロードのようにおごそかに。
 ウィニングランのようにはなばなしく。
 ハイキングのようにかろやかに。
 めざすは一路、コノコノのはじまりとおわりの地へ。

 すすめ、すすめ。いっせいに薄紅とさきほこる、はなの季節。



⚫︎初お目見えにはお日柄も良く

「ねえねえ、そこのおにーさんおねーさん!」
 弾む声とそっくりに、本棚の間からぬいぐるみのような猫耳が躍り出た。
「今年のお花見はもう済んじゃった? 見納めしちゃった?」
 おいでおいで、と呼ぶ手袋に包まれた手は小さい。続いて姿を現したのは柔らかそうなピンク色の髪、孔雀石のような緑の瞳、それからにんまり笑顔。何故か横向きに首から上だけである。
「ぼくさあ、実はすっごくイイ場所知ってるんだ! まだまだ見頃だから一緒に遊びに行こう?」
 子供らしく可愛げのあるお誘いだ。首から下がなかなか出てこない以外は。
「お花見ってどうしても人混みが気になったりするじゃん? なんとこの世界、ニンゲンが見当たらないんだって! ぼくは騒がしいのも大歓迎だけどね!」
 あははっ、と少年(の生首)の元気な笑い声が静かな図書館に響いた。それに気づいた途端、慌てた様子で両手は口を塞ぎ、まんまるの目がきょろきょろとまるで誰かを探すような動きをする。
「……セーフかな?またにいちゃんに怒られるところだった……それでね、それでね?」
 いくらかボリュームを下げた声で説明は続いた。

 曰く、自然豊かなその世界の中でも、彼の案内する『イイ場所』は秘境中の秘境らしい。
 季節の移り変わりによって様々な姿を見せる森の奥の奥。崖を背にした行き止まりに、桜や椿、桃の花が爛漫と咲き乱れる絶景スポットがあるというのだ。
 至るまでの道中にはそれらの樹々が並ぶ一本道まであり、花見にはお誂え向きなシュチュエーションだ。
 コノコノという蝸牛達が住んでいる森、と聞けば案内人に送り出された経験のある者もいるかもしれない。

「これね、お花見がしたいって言ったらにいちゃんが貸してくれたんだ! いいでしょ!」
 カラフルで目を惹く児童書をにょっきり生えた腕で掲げた少年が言う。
「ただお花見をするもよし。コノコノ達と遊ぶもよし。なんか、こう……物思いにふけるもよし。一緒にって誘ってはみたけど1人で行くのも全然オーケー! 春はなにかと忙しないし、派手なイベントをパスして、特に目的もなくのんびり散策なんてのもいいんじゃないかな?」
 ほんの少しの緊張と心配がちらちらと見え隠れするにんまり顔は、イレギュラーズが頷いたならきっと桜よりも満開に輝くだろう。
「ぼくはLächeln(レッヘン)! 境界案内人としてどうぞ、ごひーきに!」
 本棚の陰から跳ねるように転がり出た少年の頭上に、巨大なライオンぬいぐるみが降ってくるのも時間の問題だった。

NMコメント

どうも、氷雀です。
毎年出向いていた桜祭りの屋台でたこ焼きを焼いていた、甚平姿のかっこいいお爺ちゃんが元気にしているか気になる今日この頃……

さて、ラリーは四本目となります。
季節を追うシリーズとして意地でもやりたかった花見。
特に桜は、和の文化や死生観を感じられるので好きなモチーフであります。

⚫︎目標
案内人の説明の通りです。お好きなようにお楽しみください。
飲食物は持ち込んでも構いません。ゴミは持ち帰りましょう。
やれることの例はシュチュエーション説明と共に。

他PCとの絡み・アドリブの可不可について、特に記載がなければ発生する場合がございます。
ペアやグループでのご参加は【タグ】や同行者のIDなどの目印をお願いいたします。
同行者様の呼び方もあれば嬉しいです。


⚫︎世界
不思議な生き物達が暮らしている、自然豊かなところ。
少なくともコノコノ達の生息する地域には人が存在していないようです。

https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4024
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4335
時系列的には上記の二作の続編にあたりますが、読まなくとも問題無く参加可能だと思われます。
ご新規様大歓迎。
以下にざっくりと設定を載せますので、これを機に是非<豊来期>シリーズならびにコノコノ達の物語に触れていただけると幸いです。


⚫︎コノハナコノコノ
イレギュラーズ達が二度救った蝸牛。
背中の殻の上に小さな盆栽のような木を背負い、今は桜などの春の花が見頃。
イワナガと番えなければそれが散るのと同時に死ぬ短命種。
好奇心旺盛な性格だが、動作はとてもゆっくり。
日向ぼっこと水浴びが大好きで、人間には懐くようになりました。

⚫︎イワナガコノコノ
コノハナの対となる蝸牛。
背中に石の殻を背負い、暗い森の中で小石に擬態している。
殻の中にたくさん栄養を蓄えており、数週間まったく動かないこともある。
そして臆病で慎重な性格も相まっての長命種。
危険を察知するアンテナがとても敏感ですが、優しい人間からは逃げません。
住処としても、食事としても、湿った落ち葉が大好きです。

⚫︎境界案内人ズ
呼ばれれば同行します。
Lächelnは勝手に散策してそうですが……


⚫︎シュチュエーション
よく晴れた日、若葉生い茂る森の中。
鳥の鳴き声や小動物の気配がそこかしこにあります。しかし他に餌が多いのか、コノコノ達を狙う様子はありません。
コノコノ達が冬眠していた、イワナガの生息地(前回のゴール地点)から更に奥へ。

春の花の並木道は、少し小石は多いですが散歩に最適。
番になったコノコノ達が多い中、独り身のコノハナも僅かに存在するようです。
のんびり進む彼らと一緒に歩いてみたり、追い越しながら観察してみたり、お年を召して遅れている番を手助けしたり、花を見上げながらお喋りしたり、飛行をお持ちなら空から見下ろしてみるのも良いかもしれません。

行き止まりの秘境は、カーブを描いた崖に囲まれたU字の空間。
たくさんの桜や桃の花が咲いており、木の根には時々石が絡まっています。
座ってピクニックをしたり、無事に辿り着いたコノコノ達と遊んだり、お昼寝をしたり、以下の情報を踏まえた行動を取るもの良いでしょう。

(※ここからは準PL情報。
状況から察することは可能であり、案内人に聞けば教えてくれるため知っていても構いません)

この秘境はコノコノ達の生と死が交差する地。
仲良く冬を越した番達が子育てをし、番えなかったり死期を悟ったものが眠るための(都市伝説ではありますが、象の墓場のような)場所。
つまり、ここまでに見た樹々と小石は彼らの一部だったもの。
途中で力尽きたものが並木道を作る。
木の根に石が絡んだものは番の終の姿で、片方が死ぬと側に寄り添って後を追う。

それを知って彼らに関わるも、自分や誰かの死を思うも、気にせず花見を楽しむのも、自由です。

  • <豊来期>円環の地を求めて完了
  • NM名氷雀
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月02日 21時45分
  • 章数1章
  • 総採用数3人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

 と、と、と。桃色の並木道を抜けた足音は踊るように駆け出して笑う。
 転んでしまうぞ。心配の声と追う影もまた、開けた視界いっぱいに揺れる花々には唯一感情の窺える目元に驚きを浮かべた。

 自我持つ人形の妻・章姫が掌に乗せた蝸牛とお喋りする姿を『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)はまさに目に焼き付けんとする。
 あの小さな手で、花を見に行きたいと脚に抱きつかれて逆らえる者などおるかよ。思い出す、可愛らしいお誘い。これに否と答える腑抜けは忍集団『暦』にはいない。頭領たる鬼灯などそもそも断る気がない。
 それでも小さな我儘だとて必死に訴える彼女だからこそ愛されるのだ、と鬼灯は回想を締めた。
「コノコノ、というのだったか? 存外人懐こくて可愛いな」
 細い触覚でちょこんと挨拶するコノハナコノコノ。
「鬼灯くん、この子パートナーを探しているみたいなのだわ! 一緒に探してあげたいのだわ!」
 声なき声を汲んだ章姫が見回す周囲には連れ立つ番達。難航する予感を切り捨て二つ返事で視線を走らせた鬼灯は、咲き誇る樹々の根に寄り添う石に目を留め、この地で巡る生と死の匂いを察した。
 考える。もし、俺が地獄に堕ちる時が来たとして——
「鬼灯くん! 今日は連れてきてくれて、ありがとうなのだわ!」
 ——章殿は、俺の後を着いてきてしまうのだろうか。この、変わらぬ笑顔で。
 憂いを払う晴空の瞳は、花々よりも瑞々しく煌めいていた。

成否

成功


第1章 第2節

トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ

「すごい、壮観だね!」
 淡く春色に染まる木漏れ日のなか、『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)は眩しそうに目元を綻ばせる。穏やかながらいつもより弾んだ声が彼の機嫌をよく表していた。
 ふと、薄紅色の視界に映った小さなふたつに思い出す案内人・Lächelnの言葉。コノコノの番だ。周りを見るにどうやら彼らが最後のようだった。
 遅れているのなら、と何気なく差し出しかけた助け舟が宙を泳いだのは、寄り添いながらゆっくりでも前へ進む姿とこの手とを比べたからだ。
「……おれは彼らのように、一生懸命生きようとしたことがあったかな」
 ぬるま湯に揺蕩うような日々を振り返る。あるのは停滞、それを当然だと享受する幸せ——そうだ、いままでは流されてすらない。まるで自分も、あの住み慣れた地底湖そのものだった。
「……でもきっと、そればかりじゃいけないよね」
 少なくとも今はこうして、地上で立っているのだもの。はらはらと舞い落ちる花弁が積もっていく地面を2本の足で踏み出した。今度こそ、怖がらせないように、怖がらずに、手を伸ばそう。彼らの緩やかな歩みに置いて行かれないように。

「お供をさせてもらってもいいかな?」
 振り返った番は嬉しそうに触覚を揺らした。
 水流よりも軽やかな風を頬に、掌にはなんだかよく知った肌触りを感じながら、トストは樹々のトンネルを抜けていった。

成否

成功


第1章 第3節

御子神・天狐(p3p009798)
鉄帝神輿祭り2023最優秀料理人

 花吹雪に髪を靡かせる少女がひとり。後ろに付き従うリヤカー屋台が、遠くを見遣るその背中に哀愁を漂わせている。
「こちらに飛ばされてからはや数日……とりあえず拵えた屋台と調理セット……」
 いきなり世界の為に戦うのだと言われても私、普通の元学生ですしおすし。自作の屋台を引く学生が普通かはさておき、旅人として呼ばれたばかりの『幸せを掴みたいガール』御子神・天狐(p3p009798)が混乱するのも——
「アレですか、最近流行りの異世界転生というヤツ! まぁうどんの神様が見えるようになったので一向に構わないのですが……」
 ——なるほど、これは相当に混乱しているようだ。
「ハッ……もしやこれは私にうどんを布教せよというお告げですか! そうですね!」
 天啓を得たようにクワッと顔を振り上げて叫んだ時、春霞の向こうで明らかにこの世界のものではないナマステなターバン頭の神様的サムシングが頷いた。それを是と受け取った天狐は腕捲りをして包丁を手に取る。

「それでは、折角ですから花見うどんといきましょうか!」
 よく捏ねられた白い生地にたっぷりの打ち粉。丁寧に包丁を入れたそれをお湯の中で泳がせながら見上げた薄紅色は、全てを包み込む悠然さで揺れていた。
「お花を見ながら茹でるというのも良いものですねぇ……こう、ワビ・サビというやつでしょうか」
 麺の香りに釣られたコノコノ達がわらわらと集まってくるのは、もう間もなく。

成否

成功


第1章 第4節

 やがて地面をも覆い尽くす花々。
 ひと片ひと片をあたたかく包むよう舞い上げる風に霞がかる光景に、背を向ける賓へ触覚を振って挨拶する番のコノコノ達。
 そして、大樹の根元で安らかに眠るもの達。
 音は少なく、揺れる枝葉のざわめきといずれ地へ還る薄紅に閉ざされた、ここがまさに彼らの桃源郷だった。
 出会いの喜びと別れの切なさを孕む、はなの季節ももうすぐ終わる。
 季節は巡り、命も繁栄と衰退を繰り返す。
 また、いつか——そんな言葉が聞こえた気がした。

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