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シナリオ詳細

花冠の魔女

完了

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オープニング

●花冠の魔女

 淀みを運ぶ風が少女の頬を撫でた。
 ピンと先端が尖った帽子に、片手には箒を持って西の空を睨む少女の名はファラウェイ。号は「花冠」。
 ファラウェイは植物と心を交わし、力を賜る魔女である。
 常ならば号の通り魔女帽のふちに友となった植物達から賜った花冠を乗せているのだが今それはない。
 すべては災いを撒く獣、グロッソラリア討伐の為である。

 グロッソラリアについて分かっている事は少ない。
 夜の淀と地の毒が交わり生まれたのだとか、邪神の堕とし仔であるとか言われている。
 しかし、一つだけはっきりしているのは、奴が大地を汚す事である。
 吐き出す息は草木を枯らし、踏み締めた大地には毒が回り、存在するだけであらゆる生命の生存圏を奪い去った。
 グロッソラリアの進行は遅々としたものであったが、放置し続ければいずれ世界は草木の育たぬ大地になる事は間違いない。
 人々が脅威に怯える中、大地の女神がグロッソラリア討伐に指名したのがファラウェイであったのだ。

 グロッソラリアは大地を汚し、植物を枯らす。それはファラウェイの朋友を殺すという事に等しい。
 大地の女神の指名に一も二もなく頷くとファラウェイは旅に出た。
 植物を力とするファラウェイの魔法と、植物を枯らすグロッソラリアではあまりに分が悪い。
 なにがしかの対抗策を講じねば犬死するのは明白。
 しかし、自らは女神が指名した勇者である。
 探せばきっと奴を倒す手掛かりが見つかるはず。そう信じての当て所ない旅であった。
 山を越え、海を越え、やがてファラウェイは幾人もの師を得た。
 彼らの力添えがファラウェイを世界を侵す禍々しき獣の前に立たせていた。
 戦いを目前にしてファラウェイは帽子のつばを持ち上げる。
 そこには昔から乗せていた花冠はない。
 旅の中で出会った師から賜った練技の結晶が花冠となって輝いていた。


●英雄の師となりて

「帰還なされたか。この度はお疲れ様でありました」

 ファラウェイに修行をつけた貴方を境界案内人のヱリカが出迎えた。
 わざわざ異世界に赴いて少女の修行に付き合ったのも彼女の頼みによるものだった。

「修行だけ付けさせて、肝心の決戦には手出しできぬとは何とも歯がゆい事であるな」

 信徒を死地に送り出すのが心苦しいと泣きついてきた女神に、ヱリカは最初は決戦時に応援としてイレギュラーズを送り込もうと提案したのだが女神は頑として頷かなかった。
 英雄は一騎打ちで決着をつけるべき、というのがその世界の通例にして法則の一つであるらしい。
 面倒な事だと苦笑しながらヱリカは境界図書館の中に作られた視聴覚室のような場所に貴方を案内する。

「我らに出来る事は見守る事と、後はせめて応援する事だけ」

 映写機がスクリーンに映し出した世界では、貴方の教え子である少女が不定形の怪物の前に立ちふさがっている。
 魔女帽の上の花冠の中には貴方の与えた花が輝いていた。

NMコメント

お久しぶりです!言子です!
今回は皆様に英雄の師匠になっていただきます!

描写する場面はファラウェイとグロッソラリアの一騎打ちのシーンですが、
皆さんの活躍(修行風景とか)がガンガン回想などで差し込まれる形になります。
戦いの最中に急に師匠の声が聞こえてくるアレです。

●どんなせかいなの
西洋ファンタジーな世界です。
神様がいて神様の敵が居て、後は何かごちゃごちゃいます。

今回、皆さんが関わるファラウェイは大地の女神の信徒で人間の魔女。
グロッソラリアは謎多き神の敵です。

●目標
 ・ファラウェイをグロッソラリアが倒せるように鍛える
 貴方の得意な事を教えてあげましょう。
 必殺技を授けるのもいいですし、命中させるコツや、空中での身の捌き方など……。
 どんなことでもファラウェイは力に変えてくれるはずです。多分きっと。
 極論、美味しい料理の作り方とかでもいいと思います。食べ物は体を作る!

 教えた技術は結晶の花となってファラウェイの帽子に飾られます。

●その他
 イレギュラーズの皆さんはファラウェイが戦っている所を中継で見ています。
 応援すると思いが届くかもしれません。

●登場人物
 ・ファラウェイ
 「花冠」という号を持つ魔女です。
 植物と心を交わして力を授かる魔法を使いますが、今回は使うと力を貸してくれる植物に悪影響がある為使いません。
 イレギュラーズが教えてくれた技術でグロッソラリアと戦います。
 少し奔放な所がある性格ですが、事態が事態なので皆さんとの修行は真面目に真摯に貪欲に食らいついていきます。
 大地の女神に選ばれるだけあってポテンシャルが高く、魔女ですが物理神秘両面いけます。
「私はファラウェイ!よろしくね、師匠」
「植物は友達なの。本当はこんな役目、逃げちゃいたいけど、私の友達は逃げられないから……だから戦わなきゃ」

 ・グロッソラリア
 正体不明の神の敵です。
 息は植物を枯らして、大地を踏み締めれば毒が回り二度と生命が生まれない大地になります。
 不定形で基本的に何でもアリです。
 火を吐くかもしれませんし、触手があるかもしれませんし、鱗があるかもしれません。
 ただし、プレイングに「こういう形態をとるはず!」と指定があれば必ずその形態を取りますし、そういう攻撃方法をします。

●その他
 修行シーンは基本的に何でもアリです。
 後方師匠面お待ちしております。

  • 花冠の魔女完了
  • NM名七志野言子
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年06月20日 14時50分
  • 章数1章
  • 総採用数4人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

 ファラウェイは遠くに見える異形の獣を睨みつけた。
 周囲は既にグロッソラリアの影響を受けて枯れた荒野となり果て、空気は淀み、濁っている。

(植物を枯らす毒の獣にそのまま打ち勝つというのは無理だろうよ)

 思い出すのは黒衣の師『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)の言葉だ。

(分かってるよ、師匠)

 箒に跨って空中に浮かび上がったファラウェイは、真っすぐにグロッソラリアへと飛んだ。
 いつの日が打倒せんと目標にしてきた獣は近づけば近づくほどに大きい。そして。

(私の事、何とも思ってないんだ)

 圧倒的な強者の余裕か、それとも傲慢か。ファラウェイを一瞥たりともしようとしない。
 しかし彼女にも鍛錬を積んだものとしての矜持がある。数々の技を託してくれた師匠への尊敬がある。
 それをどうでも良いものとして扱われれば怒りがこみあげてくる。

(あたしが教えるのは、まず耐えること)

 しかし、諫めるように『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)の教えが胸に浮かび上がる。
 耳の長い小さな師匠。最初ファラウェイはフランを師と呼ぶことに小さな抵抗を覚えていた。
 フランの幼げな様子を師匠と言うよりもいたずらっ子の妹の様に感じていたからだ。
 だが、ある時ファラウェイが身の上を話すと、大きな紫色の瞳を一杯に見開いて「あたしが傍にいたらいっぱい支えてあげられるのに……!」と嘆げき、しかし次の瞬間には「ファルカウの樹から落ちた種が次の命を生むように、あたしもファラウェイさんに、何かを託す!」と決意に満ちた瞳を向けてきたのだ。
 その瞳を見た瞬間から師匠と呼ぶことに戸惑いはなくなった。

(そして、自分の中の力と向き合うこと)

 彼女の決意に賭けて、無様な勝負は出来ない。
 矢の魔法を2、3当ててやるとグロッソラリアの顔がファラウェイの方を向いた。
 ついでに熱線も飛んでくるが落ち着いて発射位置を見極めてこれを回避する。そして魔法を当てる。
 大したダメージにはなっていないのだろうが、繰り返せば鬱陶しい事に変わりはない。
 所詮獣か、一向に落ちない羽虫に焦れたのだろう、大きな体を震わせてファラウェイとの距離を猛然と詰める。

(来た!)

 それがファラウェイの狙いであった。
 グロッソラリアの踏み抜いた地点に仕込んだ魔法陣は足を地面へと吸い寄せて固定するもの。
 真正面から戦って勝てないのなら相手の力を利用して罠に嵌めればいい。
 「友の為に命懸けで歩む者の支えになれるのであれば」と本来は秘するべき忍びの定石を鬼灯は惜しげもなく教えてくれた。
 それは冷酷ともいえるやり口が含まれていたが、師匠と呼ぶ度に紫の瞳を細めてくすぐったそうにする鬼灯自身の事は最後までそう思う事は出来なかった。

(やったのだわ!ファラウェイさん!)

 どこかから、いつも黒衣の師の腕の中で声援を送ってくれた小さな少女の声が聞こえたような気がした。

成否

成功


第1章 第2節

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

──‬ファラウェイ、Far away? ふふふ、何か親近感を覚える名だね──‬

 海風の匂いの染みついた帽子を被った師はそう言って笑ったものだ。
 Within your arm.
 『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は燃えるような愛を体現する人だった。

 ファラウェイは眼下に捉えたグロッソラリアのへと神経を研ぎ澄ませた。
 予てより使っていた植物の力を借りる魔法を封じているファラウェイが使える呪文は少ない。
 使えて当然の初歩の呪文しか使えないと肩を落としたファラウェイに師は何と言ったのか。

──‬ほら、通常〈ふつうの〉攻撃だって、こんな風に……貫けないものは無くなるんだ──‬

 ナイフのような武器で岩を貫いて見せた師が弟子に授けたのは技術ではなかった。
 毒の息を吐く悪しき獣、緩慢な行進を続ける滅びの化身、それに睨みつけられても絶望せずに睨み返せる胆力の源。

「私は『花冠』のファラウェイだ!
 女神の慈愛により大勢の師を得て、戦えない友のために箒を握った!」

 魔法を練り上げながら、掌が白くなるほどに箒を握りしめる。
 親愛なる友を想う、敬愛する師達の教えを胸の中で繰り返す。信じる。
 自分がどれ程ちっぽけであろうとも、この思いは誰にも負けてはいないと叫ぶ。

「私は負けない!『花冠』を被せてくれた皆のために!」

 吠えながら放った魔法はさながら咆哮にも似て不定形の獣を抉った。

成否

成功


第1章 第3節

エル・エ・ルーエ(p3p008216)
小さな願い

 片や相手の攻撃をいなし、攻め立てているように見えるが決定打はなく。
 片や一方的にやられているかのように見えて、いまだ体力は潤沢にありその一撃一撃が致死。
 ファラウェイとグロッソラリアの決闘は終わりの見えない膠着状態に陥っていた。
 じとりと、嫌な汗が頬をつたう。
 集中力が切れたその時こそが自分の寿命だ。
 振り払ったはずの死の恐怖に指先が震える。呪文を唱えそこない、熱線の衝撃を捌けずに固い地面へと叩きつけられる。
 文字通り、絶望と言う顎がファラウェイの目前に開いて。

 ――どうかどうか、無事に、勝てますように。

 その時、帽子を彩る結晶の花が瞬いた。淡雪の如き儚い輝き。
 だがそれは絶望(諦め)に引きずられるファラウェイを引き戻すのに十分な力だった。

「初めまして。エルです」
 雪の妖精のような少女だった。
「エルは、しっかりと、攻撃を当てる、お手伝いをします」
 たどたどしい言葉遣いで、しかし、降り積もる雪のように根気よく修行に付き合ってくれた。
「エルが教えられる事、全部、ファラウェイさんに、教えます」
 真剣に、持てる力の全てを教えてくれた。
 その力の本質とは、諦めない事だと、ファラウェイは理解していた。

 止まりかける足を叱咤して寸前で猛毒のブレスを回避する。
 居ないはずなのに聞こえた『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)の声援に導かれてファラウェイは再び魔法を紡ぎ始めた。

成否

成功


第1章 第4節

 果たしてどれほどの時間が経過しただろうか。
 ファラウェイの少女らしい、愛らしい顔立ちは血や汗交じりの泥にまみれている。
 長年の相棒だった箒は既に折れてしまって、今はもう残骸がどこに散らばっているのか分からない有様だった。
 だが、それでも立っていた。
 目前には闇色をした粘性の生き物――グロッソラリアの伏せている。
 数秒前まではこの世に対する憎しみばかりを吐き出し、世界を侵さんとしていたものだが、もう動かない。

 勝ったのだ。

 その思いが浮かび上がった瞬間、ファラウェイの胸に去来したのは喜びよりも虚脱感だった。
 やっと休める。
 疲労に震える足がもつれて……しかし、今一度踏ん張って天を仰いだ。
 この戦いを見守ってくれている誰かが居る事は戦いの中でファラウェイも気づいていた。
 だから、彼らに誇れるように精一杯の笑顔を天に向けて手を振る。

 美しい青空の下でファラウェイの花冠が日差しを受けて輝いていた。

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