PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<フィンブルの春>石の乙女に鉄槌を。物理的意味で。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 それは、古き怨念からいづる者。
 今を生きる者が憎くて憎くてたまらない。
 怨念が物言わぬ像を動かす。
 ずるりずるりと足を引きずりながら、しかし、その歩みは存外早い。
 すたすたと歩きだし、やがて五体の石の乙女が走り出した。

「おい、帰るぞ。日が暮れたら母さんにしかられちゃう」
 少年が妹を急かすが、妹の方はまだ地面にぺったりと座り込んでいる。手は動いているが幼い手で花冠を編むにはぎこちない。。
「待って、待って。もうすぐ冠がね」
 どう考えてもできないのはもうすぐ日が沈むくらい明らかだが、妹自身はもうすぐできると信じて疑わない。
「そんなの、花を適当にとって、うちで編めばいいだろ」
 母さんが手伝ってくれる。と、言わない辺り、少年は妹の扱いになれていた。
「でもね、でもね、どのくらいいるかわからないんだもの。足りなくなったらどうするの?」
 必要なだけを分別するには幼い。
「腕輪にすればいいだろ。帰るぞ」
 さすがにもう危ないと妹の手を取った兄は、あらぬ方向を見ている妹の視線の先を追う。

 石でできた乙女の像が、はるか上から兄弟をのぞき込んでいる。
 すげえ、瞳の奥まで彫ってある。と、そんなことを考えたのだ。
 妹ごと握りしめられて、二人分の肉の塊に帰られる三秒前に。


「――なんてことが予測されております」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、渋い顔をしている。
「何でだかわからないけど」最近、巨人がウロウロしている地域が拡散中なのだ。
「どこを起点にしてるかとか考えるな。地図を開くな。その辺りは王家の私有地だ。察しろ。空気を読め」
と、矢継ぎ早の高速言い聞かせを駆使する情報屋。
「好奇心で国家機密に片足突っ込んで概念的首輪をつけられたいってんなら話は別だが? まあ、そういう人生がお望みなら、勇者選挙に邁進するのがおすすめだ」
 メダルを集めろ。と、情報屋は言う。
「聞いた人もいるんじゃないかとは思うけど、改めて――幻想王国には、策謀の影があるってのは、お分かりと思うんだよね。ここ最近だけでも、奴隷市、レガリアの盗難、それから魔物の大量発生だ」
 情報屋の指が三つ折れている。
「この事情を鑑み、恐れ多くも勇者王アイオンの直系子孫にして幻想国王であるフォルデルマン三世陛下は、現代の英雄を決める『勇者選挙』を開始すると宣言あそばされた。大量発生した魔物討伐に功績をあげた者にブレイブメダリオンを与え、多く集めた者を勇者とする――いや、誰も唐突な『思いつき』とか言ってないから」
 げふんげふん。と、情報による露骨な咳払い。
「ンでさ。これ、そもそもローレット・イレギュラーズを鼓舞するっていう限定企画だった訳」
 だって、勇者って、要するにイレギュラーズだから。
「んでもさ、こう、勇者ってなれるものならなってみたいっていうか。独自に勇者パーティーを組んで、魔物退治してメダルが欲しいって主張する人たちが出てきまして。それが王様の胸を打っちゃったんだよな。自国の若者が国家のために立ち上がったら嬉しいわな。いろんな意味で。ローレットは完全中立が旨だしな。有力な貴族が擁立したならばローレット・イレギュラーズ以外の勇者候補生にもメダリオン・ランキングへの参入を認めるおふれを出したのは知ってるよ、な」
 情報屋は、乾いた笑い声をあげた。
「という訳で、怨念あふれる石の乙女がですね。森の中を徘徊しておりまして。5メートルくらいの石の塑像が生命あるモノは皆殺しモードで。この辺りは件の土地からまあまあ離れてましてね。子供が夕方くらいまでは遊べる、のどかな土地」
 惨劇の芽が育っている。
「5メートルって言うと、小さいようだけど、芯まで石だから。一発当たったら吹っ飛ぶからね。そんで結構早いよ。石だから動きも鈍いという先入観は捨ててね。こっちの方が大体小さいから、小回り効かせて蓄積ダメージ威を与えて倒すのがお勧めかな。足から潰せってやつ? 別の案件で足にまとわりついてくる魔物扱ってんだけど、地味に堪えるみたいだから。なんだっけ。『天国と地獄が同時に脳に入ってきて気持ち悪い!』だったかな」
 情報屋は、ぐびりと茶を飲み込んだ。
「現地は少々めんどくさい。こう、原っぱから巨大な石がゴロゴロ突き出した――鍾乳洞が多いとこにありがちな――カルスト台地なんだよ」
 だから、と、情報屋は真顔で言った。
「石の乙女がしゃがんだり丸まると、石と区別がつかなくなる。石だし」
 忍法でいうと、ウズラ隠れの術。
「――君ら、かくれんぼに自信ある? その辺りも相談してね」
 真っ白い石の乙女の手が幼気な子供の血で染まる前に石くれに変えなくてはならない。憎悪に駆られた乙女をせめて無垢なまま、無力化しなくては。

GMコメント


 田奈です。
 グニグニ動く石の乙女(5メートル)が相手です。ときには隠れ、時には向こうが隠れたのを見つけ、遮蔽物満載の野原でごんごん殴り合っていただきます。

●敵
 石の乙女×5
 身長五メートル。元は柱の装飾。安定のAライン。平均的イレギュラーズと同程度の速度です。お察しの通り、膂力はすさまじいです。手足を振り回し、殴ってきます。はしたないので足技は使いませんが、重心が安定していますので、転倒無効です。彫刻できる程度にはやわらかい石なので、いい感じに攻撃すれば砕けます。失った部位は再生しません。

●状況
 うららかな昼下がり。天気、曇り。雨の心配はありません。
 地形は起伏に富んだ野原に1メートルから4メートルほどの自然の石柱が乱立するカルスト台地。
 日暮れまで戦闘が伸びるとOP冒頭のような惨劇が起きかねません。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <フィンブルの春>石の乙女に鉄槌を。物理的意味で。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月29日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
エクレア(p3p009016)
影の女
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方

リプレイ


「んもー、概念的とか国家機密とか察しろとかメクレオさんは難しいことばっか言う!」
『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は、プンプンである。
「1年くらい前は初めてだからやさしくしてとか言ってたかわいい後輩だったのに、今日はお留守番だし!」
 というか、あらかた留守番だ。ほぼ専業情報屋だからして。
 少なからず、件の情報屋と関わりを持つローレット・イレギュラーズに言わせれば、話は秘匿するか暴露するかの二択で、総じて身もふたもない。かわいい所があるなら一歩譲って顔の造作くらいしかない。もっとも表情がいかんともしがたく胡散臭いのだが。
 逆にかわいかったというなら詳しく聞かせてもらいたいくらいだ。
「八つ当たりも込めて思いっきり巨人さんをぶっとばーす!」
 フランは、ぶんと杖を振り上げられた。
「……主に皆が」
 主業ヒーラーであるからして。回復は任せて、ね?
 まだ日はかげる気配はない。
うららかな春だ、少し動いたら汗ばみそうな陽気。萌え出でる草から浦々と陽炎と緑の香気が漂う。
 ローレット・イレギュラーズ達は、先ほど立ち寄った崩れかけた神殿の奇妙にえぐれた柱を思い出していた。
 件の石の乙女は、そもそもあの柱の装飾だったのだろう。
「動く石像、いや…女性像かね。他者から無機物に生命を宿されたか、元々そういう魔物だったのか。ふふふふふ、考察が捗るよ」
『影の女』エクレア(p3p009016)が、えぐれた部分を思い出しながら言う。
 有事の際のストーンゴーレムを装飾に偽装したのか、装飾が長い時を経て魔物化したのかは定かではない。
「――乙女っていうのは、あたいみたいな純真な性格のことだよぉ……?」
『ゴールデンラバール』矢都花 リリー(p3p006541)の声は、地を這っていた。
 リリー自身、「都合よく殻にこもったりバール投げたりする口から出る台詞?」とふっと内心よぎったが、とりあえず棚に置く。
「石になったり走り回ったり、都合よくコロコロ立場変えるのに……? 乙女じゃなくてあざとい系っしょ……」
 乙女とは、不可逆的なものである。わかります。
「一体何が原因でそうなっちゃったのか」
『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)は、足跡を見つめながら言う。
 花を踏みしだいて野に出たのは地面に残る足跡で確実だ。
 突然消えてしまった幼馴染。あのこは足跡も残さずに。ふとよぎる追憶に舌の上に少し苦みを感じた。
「もーいーかい……?」
『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)は、そっと呟いた。
 返事はない。悪意が原因の雑音も聞こえない。
「……うん、さすがに「もーいーよ」って言ってくれないよね。言われても怖いけど」
 虚ろな熱をはらんだ風に膨らむ銀髪を押さえて辺りを見回す。
「石がいっぱいで変わった場所だね」
 花咲き乱れる野原に見上げるばかりの巨岩が点在している。
「奇襲されても慌てない心構えだけはしてるよ!」
 サクラは答えた。
「じっとしてたらパッと見ても岩と区別がつかないだろうから」
「勇者は別に興味ないけど、アラギタさんが予測したみたいなことにならないようにはやく石の乙女見付けてやっつけちゃおう」
「うむ。囮はワシに任せるがいい……」
『英雄的振る舞い』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が請け合った。
「重量も相応でしょうから、必ず足音や足跡は残るはず――と思っていたけど、案の定ね」
「動きは軽くても、重いのに間違いはないから動けば足跡は残るからね」
『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)へ、にこりとほほ笑むと、ぴたりと動きを止め、ごくごくわずかな空気のブレに意識を集中し始めた。
「動けば音がするものよ。私、この足跡を追うわ」
 フランは小さなお友達に助力を頼んだ。
「お願い、本物の石柱じゃない巨人を教えて!」
 フランが目星をつけたとおり、植物や風、大地の精霊がいた。
 ぺしゃんこにされた植物の精霊が青息吐息で、とある方向を指さした。幸い根っこは無事のようだ。枯れることはないだろう。
「僕が囮を請け負おう、その間に準備したまえ」
 エクレアが身体強化の秘薬の小瓶の数を確認しながらそう言った。
「わかった。じゃ、エクレアさんに」
 フランはエクレアのすぐそばに来て、『犯されざるべき聖なるかな』を降ろした。
「準備。気を付けて巨人をぶっ飛ばしてね!」
 オウェードさんも。と、髭男の方に走っていくフランの背を見送りながら、確かにそれも準備だ。と、エクレアは笑った。


「危ないぞおおっ! ここはワシらに任せてはよう逃げるんじゃああああああっ!!」
 オウェードは、のども裂けよと叫んだ。
 圧倒的に春のうららかさがぶち壊しである。最悪、妙なおっさんがいると逃げてくれるに越したことはない。
「ふむ。引き寄せられたようだよ。挟撃か不意打ちかに持ち込みたいね」
 ポーションを腹に流し込んで、エクレアは乙女の前に躍り出る。
 フランは、手にした太陽の種を握りしめた。仲間が倒してくれると計算できるから出来る囮役だ。だからフランは頑張れという気持ちを込めて、この戦闘領域で戦う仲間を、愛する森の属性を重ねて祝福する。
「こんな石ぐらい、簡単に砕いてやるワイッ!」
 角をへし折る重たい一撃が石像のアキレス腱を襲う。
 風を切る剣呑な音が迫っている。
 ごっき~~~~~~~んっ!
 反射で飛び退ったアルテミアの眼前にゴンゴロリンと石の乙女の頭部が転がり落ちてきた。
「おう」
 一緒に落ちてきたそれは、世間で言うところのかなてこ――カタカナで言えば、バールという。
「あたいサーチ系能力とか無いから……」
 リリーは、少しばかり高い岩の上によじ登り、仲間の動きを追っていた。
 オウェードが像の足首を砕いたのを好機と読んだ。
「作られた存在だからって性格まで作ってるとか完全ギルティなんだよねぇ……前衛芸術にしてガブっちの美術館送りの刑だよぉ……」
 客観的に言えば、性格まで作っているというのはリリー個人の解釈だ。しかし、その結果の逆ギレが敵をせん滅するのなら、それはそれでいいんじゃないか? 
「覚悟……」
 血染めのバールに春の昼下がりのとろりとした重たい光が反射する。
 でたらめな軌道でぶん投げられる金属棒が、石の乙女の盆の脊椎を穿ち、へし折り、叩き割り、前傾していた姿勢のままに首を落としたのだ。


 常人をはるかに超える聴覚を持つものは気が付いた。遠く遠くから、子供の声がする。
 剣戟にさえぎられる声だ。石の乙女の足がいくら長くてもすぐにはつかない程度の距離だ。でも、そう、日暮れまでにはつくだろう距離だ。
 情報屋のたとえ話が急に現実味を帯びてくる。
 石の乙女には聞こえていないようだ。
(近くなら声を掛けて安全にこの野原から出ていける様に護衛するけれど、声につられて石乙女が襲い掛かる可能性が高い――)
 アルテミアは覚悟を決めた。同じく聞こえたサクラを視線を交わし頷きあう。今は、気取られぬように倒しきってしまう方が速い。二手に分かれた。
(この手が届く距離の命は護る)
「――だから、貴方達に奪わせやしない!!」
 一歩、二歩。今とまった。さっきまで通り抜けていた風が何かにさえぎられた音がする。
 ごくごくわずかな気配にアルテミアは、石の乙女がいることを確信した。
 みぞおちの辺りで詰められた息を意識してひそやかに吐き出しながら、自分の幻影をイメージする。青い刀身の細い剣、瀟洒な短剣、動きやすく軽い特注の戦衣――結果、とある性質がどうしても付きまとって――
(そんなに翻らなくてもいいのにっ!)
――自分の触覚から精密に再現した幻影だ。つまり、現実にそこまでめくれあがっているということだ。客観的に自分の有様を見ると、ヒトは往々にして天を仰ぎたくなる瞬間に遭遇する。
 石の乙女が、その裾に反応して手を伸ばす。たおやかな造形の指が裾をつかもうとして――宙を切る。
「残念だったわね、それはただの幻影よ!」
 細剣と担当の所業とは思えない、無機物を粉砕することに特化された技によって石の乙女の足首は断裁された。


 足跡が途切れたところに巨岩――いや、石の乙女だ。よく見れば、規則的なでこぼこは脊椎。縦に走っているのはひび割れではなく衣装のプリーツとしてほられた痕だ。
 サクラの手が栄光をつかみ取るための手となり、指先が使に触れたときには抜刀されている。
 あまりにもなめらかに刃が徹っていったので、石の乙女はそのまま桜目掛けて掌底を叩きつけンと振り上げられ――その衝撃に切断面がずるりと滑る。
「貴方達が生ある者を害さずにいたなら見逃したけど、誰かを傷つけるなら容赦しないよ!」
 桜に触れた巨大な手は重力に引かれて、地面に落ちた。
「手数で一気に相手を倒すように出し惜しみしない」
 刀を鞘から抜刀する間に、魔法使いで言うところの詠唱は終わっているのだ。先ほどのごくかすかな声が悲鳴に変わる前に。
「悲劇が起きる可能性を確実に排除する!」
 抜き放たれれば、石の乙女は舞い散る桜の花弁を五体が切り裂かれるまで見上げるしかないのだ。
「走って飛んでどこにだって行くから――」
 誰も及ばず、影も踏ませずの絶影。ついてこれるかとほほ笑む生き物。その力をヒーローとして使うと決めた。
「――大人しく出てきなさい!」
 ルビーは高らかに吠えた。その正々堂々さに胸をかきむしる程の怒りを覚える者が、ルビーの敵だ。
 額を飾る花冠、波打つ長い髪。あどけない顔立ち、すんなりした肢体。リリーの言う通りあざとい存在ながら、見目だけは可憐な乙女だ。身長5メートル。神殿の柱で下から見上げられるための存在だ。
 ルビーを抱え上げて抱きつぶすなど、石の乙女にとっては花束を抱える程度に造作もないことだ。
 美しい花を摘むようにルビーへと伸ばされた乙女の手に、機械式の大鎌がガチャリとひっかけられた。
 鎌の刃で石が切れるとはルビーは思っていない。勢いと石と乙女の動きとその侍従で自滅させるのが狙いだ。足を崩せば動けず、手を砕けば攻撃力は下がり、首を砕けばバランスを崩す。そこに感覚器の機能があればさらに儲けものだ。
前のめりの手を引っ張るような形。地面ついていた爪先からかかとに体重移動。不可に悲鳴を上げる関節をねじ伏せ、自分のギアをあり得ない高みに叩き込む。
 打ち据えるのは刃にあらず。純然たる速度だ。
 コゼットに見つかった石の乙女は少し可哀想になる程、翻弄されていた。
「かくれんぼの次は、おにごっこだね」
 黒い兎のたれ耳が、ゆらりゆらりと揺れる。柔らかくて、とても触り心地がよさそうだ。かわいくてかわいくて食べてしまいたいという嗜虐心を煽る魅惑の耳。ただの石だったら惑わされることもなかったろうに。
「つかまえてみなよ」
 ぴょんぴょんと跳ねる靴と手にしたモフモフの盾がコゼットの武器だ。
「どこまで壊せば、もう動かなくなるのかな。とりあえず壊しながら考えよう。たぶん、どこかに核とかあるのかも……? 取り出せたら、エクレアさん、喜ぶかな――」
 石の乙女を蹴り、高質化された毛で削っていくコゼットの残像が、全長5メートルの石の乙女の全身くまなく取りすがっているように見える。ガリガリと粗く削ってもろくなったところを蹴り崩す。経年劣化や風化させるような攻撃を驚異的な速度が解決する。
「いたいた、コゼットちゃ~ん!」
 戦場を俯瞰してみられるフランが、精霊に導いてもらいながら戦闘領域を移動させる。何しろ一発のダメージが大きいから、当たりそこねでも十分骨身に響くのだ。治療をしながらの移動。太陽が赤みを帯びてきた
「は~い。ここだよ~ぉ」
 コゼットが答えた。
 まだ大声を出すのは得意ではないが、手助けが欲しいのを察知して呉れるオウェードとルビーには届いたようだ。
「みんなきてくれたんだね。コアっぽいのがあるかなぁと思って、ここまで削ったんだけど、見つけられなくてね。ないのかなぁ」
 神殿から最も遠くにいた石の乙女を一目散に追ってきたから、一人だけ孤立してしまったのだ。
「メカ子ロリババア、おいてけぼり~ぃ」
 リリーの限定・ドカンと一発パンツァーファウスト型クラッカーがぶっ放されることはなかった。
 それぞれ身動き取れないようにして各個撃破してきた仲間がコゼットと合流した時、石の乙女は四肢どころか目鼻立ちなどのディテールを失って石筍のようになっていた。
 これが最後の一体。後は、ひと思いに割ってしまえば終わりだった。


 エクレアは、石像の一部を回収した。
「君達が憎悪ではなく悲哀の感情を持っていたのなら、平和的に話し合えたかもしれないのにね」
 ごろりと転がった原形をとどめていない乙女の首に向かって呟く。
 あえかな微笑を口に浮かべたまま、石の乙女は無言だった。今までも、そしてこれからも。
 夕風に乗って、子供の声が聞こえる。
 日暮れの空を見上げつつ出発前に情報屋が語ったたとえ話を思い浮かべる――それほど遠くなかった、今はあり得ない未来だ。
「子供が隠れんぼで負けすぎて喧嘩をしていたのう……」
 オウェードは、髭だらけの顔に笑みを浮かべた。
 その喧嘩も、夕飯のテーブルをにぎやかにするスパイスになるだろう。
 喧嘩していた声が、笑い声にかわり、どんどん遠ざかっていく。
 その声が助けを呼ぶ声だったら、抱き上げておのが身を挺して守ろうとしていた。
 声の主達は、自分達が守られたことを知らないだろう。
 それでいいのだ。
 巨大な石像に襲われる恐怖から守ったのが、ローレット・イレギュラーズの奮闘の証なのだから。

成否

成功

MVP

フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。みなさんの入念な追い込みにより、夕暮れに泣き叫ぶ子供は一人もいませんでした。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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