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シナリオ詳細

<泡沫残響>満たされぬ器

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

■飢餓の器
「足りぬ……足りぬ……」
 荒野の戦場にて一人、戦場に似合わぬ着物の老人が愛刀の血を拭い鞘へと収める。
 鞘と鍔がぶつかった音が静寂の空間に響き渡る。
「異国の戦ならばあるいはとはるばる老いた体に鞭を打って来てみれば道具に頼るばかりでその他は見るも堪えん」
 幾度の戦を超え、それでもなお死闘に憑りつかれたこの者にとって既にこの世界は弱すぎた。
 いや、この者が強くなりすぎた。
 思えば遠くまで来たものだと空を見上げ感慨に浸る老人は突如抜刀し空間を切り裂きそのまま納刀する。
 あまりに美しく早すぎた一閃は当たるはずだった鉛玉を両断し撃った兵士は状況が理解できなかった。
「なんなんだ、お前は」
 仲間の死体に紛れ自らも瀕死の身で放った決死の一撃をまるで埃をはねのけるように切り払われた事実を認めきれず思わず口を開く。
 これで神や悪魔などといわれたならば納得ができようものだがその問いの答えは到底納得できるようなものではなかった。
「我か、我に名はなく親もいるのかどうかすらわからぬ、物心がついたころから命のやり取りが常であった。しいて言えば無名と呼ばれていたな。多くの戦で屍の山を築き国で知らぬものがおらぬほど人を斬った者の名が無名とはおかしなものであろう?」
 そういってカラカラと笑う無名に兵士はこの世の不条理というものを心の底から呪わずにはいられなかった。
「ふざけている……」
 そうして最後に生き残った兵士は息を引き取った。
「ふむ、人と話したのはいつぶりであったか忘れたが、たまにはいいものであるな。おぬしもそう思うであろう? この世はふざけている! 我を産み落としておきながら我を満たす戦がないなぞ余りにもふざけているだろう! おぬしとは気が合いそうだ。どれ、大きな戦を紹介してくれるならば生かしておかんでも……なんだもう死んだか。脆いの……」

■境界図書館にて
「ちゅーわけでこの爺さんはその天寿を全うするまであちこちの戦いに介入しては荒らして回ったんや。傍迷惑な爺さんやろ?」
 集まったイレギュラーズを前に境界案内人のウィルが面白そうに話の続きを話す。
「そんな爺さんの最後の願いをかなえてやるのが今回の依頼やね。世界中を荒らした大剣豪の戦闘狂に満足のいく戦いをさせてほしいねん」
 旅立つイレギュラーズの背中をウィルが押す。
「人の死の間際の願いが響き渡る世界でその願いを聞き届けてな、期待してるでイレギュラーズ」
「たとえその声が手遅れだとしても、うたかたの夢ぐらいは見れるかもしれんしね……」

NMコメント

命を懸けた死闘ってかっこよくて憧れますね。
どうも南瓜と申します。
<泡沫残響>の詳細はNMページを見ていただけると嬉しいです。

■場所
だだっ広い荒野で大きな岩などが所々にある程度です。

■目的
無名との戦闘で無名を満足させる。

■敵
無名
超つよい爺さんです。武器は刀一本で素早い。
反応と回避が高く時々防無がついている攻撃をしてきます。
それ以外は平均的で抵抗が少し低めです。

やりたい放題の爺さんに引導を叩きつけてやりましょう!
ではよい旅路を!




 

  • <泡沫残響>満たされぬ器完了
  • NM名南瓜
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月16日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
すずな(p3p005307)
信ず刄
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


「ふむ、死した身なれど無聊を嘆く老骨の相手をしに来てくれる酔狂なものがいたか。覚悟は……その目を見れば問うまでもないな」
 荒野に座り目を瞑っていた無名は長らく開いていなかった目を開きこちらに向かってくる四人のイレギュラーズを見据え、鯉口を切った。
 生涯を戦に捧げた者の殺気は修羅場を幾度となく超えてきたイレギュラーズを反射的に戦闘態勢に移すには十分だった。
(これが戦いに明け暮れた御老人か……この殺気を放つ者を満足させるのはなかなかに難しそうだ)
 『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は向けられた殺気に改めてこれから為そうとしている事の難しさを実感し苦笑する。
「だが、それが最後の願いというのならば叶えてやるのが人情というもの」
 ゲオルグがすぐに見方をサポートできるように空気を震わせ魔術の発動に備える。
 その横では『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が戦いに身を置くようになったからこそわかった殺気の凄まじさから只者ではない強さを手に入れるために無名が潜り抜けてきた死闘を感じ取り、体を震わせた。
「これが武者震いかな。さて、死合うとしようか」
 自らと同じ得物を振るう無名を前に『竜断ち(偽)』すずな(p3p005307)は彼の欲を理解することができた。しかし相応しき場所、相手、覚悟があってこそのものと考える彼女はいち剣士、同じ刀を振るうものとして全力で相手をしようと愛刀の柄に手をかける。
 「貴方は好敵手、強敵に恵まれなかったのでしょうね……ならば、最後に私達が好敵手となり引導を渡す、それが手向け……! 一手、お付き合い頂きましょう!」
 世界は広いと『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は刀一本でここまで来た剣豪に武神の如き強さに感嘆する。
「自己紹介は必要か? 不要なら、拳で語り合うとしよう」
 各々が自らの得物を構え、これ以上の言葉は不要とばかりに五人が駆けだす。


「シッ!」
 無名の抜刀した刃はすずなの刃と交わり開戦の狼煙代わりの火花を散らした。
 そこにジョージが懐に飛び込み、拳に青白い妖気をたなびかせながら無名の体に打ちつけんとする。
「ハァッ!」
「甘い」
 一瞬にして身を引くことによりその攻撃を躱し、すぐさまジョージの首を落とそうとする。だがそのような隙を見逃さないことはジョージらにとっても予測可能なこと。
 躱した隙を見てそこにイズマの奇襲が襲い掛かり無名を捉える。
「ヌゥ!」
 その間にジョージは身を引き体勢を立て直した。
「見事、当てられたのは久しぶりだ。だが、これで終わりではなかろう? 奇策だけでは我は倒せんぞ」
 刀を構え直し笑う無名にジョージも笑い返す。そう、これはほんの小手調べに過ぎない。
「あぁ、恐ろしいほどに洗練されたあんたにそれじゃ足りない。だから死闘を! 血湧き肉躍る戦いを! 己の全てをぶつけられる相手を! 爺さんの願いに挑ませてもらおう!」
「その意気やよし!」
 無名は今度こそその首を落とそうと恐ろしい速度でジョージ目掛けて走り刃を振るう。それは躱そうとしたジョージの体を斬り裂くが致命傷には至らず、一撃で沈まなかった姿に笑みを深めた無名はカウンターを警戒し距離を取る。
 しかし血を流しながらも離した距離を詰め、放ったジョージの瞬天三段の抜き手は確かに無名に傷を負わせる。
「オォア!」
「そこですっ!」
 そこに飛び込んだすずなの刹那を見極めた連撃が襲い掛かる。
「舐めるなァ!」
 繰り出された刃の一撃一撃が速く、恐ろしい威力を秘めているそれが捌いて見せろと言わんばかりに幾度も襲い掛かる。
 急所を的確に狙う斬撃の嵐を流していく無名だがじわじわとスタミナが削られてゆく。そしてすずなにかかるゲオルグからの支援がその連撃の消費を軽減していた。
 実際の時間としては短く、しかしとてつもなく長く感じられた攻防の均衡を破ったのは意識外からの一撃だった。
 イズマが放った予測不可の一撃は連撃に気をとられていた無名の体を穿った。
 大きくよろめいた無名は重い一撃をすずなに放ち、よろめかせると後ろに飛び体勢を整える。
 ゲオルグが傷を負ったジョージとすずなに対し即座に福音を響かせ傷を癒すことで致命傷になることを防ぐ。
 その癒しは戦線を支え無名の苛烈な攻めを耐える要となっていた。
 しかし、前衛を務めるジョージとすずなは確かに無名の体に傷をつけてはいくが明らかにこちらの方が劣勢だとわかるほどに差が出来上がっていた。二人は肩で息をし、支援をするゲオルグの顔にも疲れの色が隠しきれなくなっている。イズマの奇襲も徐々に見切られ始めていた。
 しかしイレギュラーズは倒れない。
「たとえ何度倒れようと、命を削ってでも立ち上がる! 満足する戦ができるまで、爺さんの魂にこの拳を刻むまで、倒れてなるものか!」
 全身を軽くはない痛みが襲っているはずのジョージが吼える。
「えぇ、これしきで終わるなどと思っていません。さあさ、此処からが本番! 私以外にも強者はいますからね、存分に御賞味下さいな……!」
 すずながよろめきながらもしっかりと刀を構えイズマもそれに続く。
「正直ね……惹かれるよ。その強さに。戦ってると、緊張感とか高揚とか、敬意とか、そういうのが湧いてくる。負けたくない、な……!」
「やれやれ、まだ満足しそうにないか、だがまだやれるさ……!」
 ゲオルグが周りを立て直し反撃の狼煙をあげる。
 ジョージが迫る刃を側面から弾くとともに気を打ち込むことでダメージを最小限に抑え、生まれた隙にイズマとすずなの攻撃が押し寄せる。ゲオルグは絶えることなく三人をサポートし無名の体力を削ってゆく。
 技量が無名より劣っているのはわかっている。相手は戦にすべてを費やした羅刹だ。しかし手数と耐久ならばこちらに分がありわずかだがこちらの攻撃も当たり続けている。
 いずれ、限界が訪れるはずだ。その時までいくらでも付き合ってやると言わんばかりに無名に攻撃が叩き込まれる。要となるゲオルグを狙おうとすれば拳と刃の壁が立ちふさがり、振り切ろうと動けば奇襲を受ける。なんとも面倒な布陣だと無名は感じるがそれもまた戦の楽しみであった。
「ハハッ、よいぞ! 我の命か汝らの命か! 燃え尽きるまで死合おうではないか!」


 幾億の刃と拳が打たれた後、戦闘から大きく距離を取り、乱れた呼吸を整え体に多くの傷を刻んだ無名が刃を鞘に納めた。
「見事、実に見事だ。我をここまで追い詰めたのは汝らが最初で最後よ!」
 満足そうな笑みを浮かべ無名は構える。
「なれば我も魅せねばなるまい。我が技の終を、死した身の奥義を!」
 無名からは殺気はすでに消えていた。そこにあるのは凪、しかしその先にあるものをイレギュラーズは肌で感じて構えた。
 無名が柄に手をかけ、刃を抜いた。
「――荒波吐(あらはばき)」
 その瞬間現れたのは斬撃の波、触れるものすべてを両断する絶望の一閃。
 地平線かと見紛うその波を前にジョージが拳を構えた。
「この経験、己の血肉としてこの身に刻み、爺さんに返してやろう!」
 迫りくる無名の絶技にジョージは残った己の全てを込め拳を放つ。
「海洋式格闘術、奥義が壱。――衝角ッ!」
 奥義の衝突は空間を震わせ衝突点は大きく抉れた。
 瀕死のダメージを負いジョージは吹き飛ばされる、しかしわずかに生み出した綻びは確かに希望をつなぐには十分であった。
 そこに飛び込むすずな。
「これこの一閃を持って手向けの締めといたしましょう……!」
 無名へと駆け、その刃は確かに無聊を嘆いた大剣豪の芯に届いた。
 

「天晴。この生にも意味はあったとしかと感じることができた」 
 地面に血だまりを作り五体投地で倒れながらも無名の顔は憑き物が取れたように清々しかった。
「最後の願いはかなえることができたかな? 一刀斎」
 ゲオルグがボロボロのジョージに肩を貸しながら無名に問いかける。
「一刀斎?」
「あぁ、呼び名がないというのも不便なものだからな。刀一つで生きてきたから一刀斎だ。迷惑か?」
「いや……一刀斎、か。不思議と自分の中に馴染む。これはいい、我はこれから一刀斎だ。死した後で欲を満たされ名まで与えられるとはおかしな話だがな」
 そう言って一刀斎はカラカラと笑った。
「汝らの名を教えてくれぬか?」
「ゲオルグ・レオンハートだ」
「すずなです」
「ジョージ・キングマンだ」
「イズマ・トーティス」
 自らを満たした者たちの名を聞き一刀斎は頷いた。
「うむ、満足だ。死した身が見る夢故何もおぬしらには遺せんが、我が技から得られることもあろうて。何せ死んでも闘争を求めた厄介者の大剣豪の技だからな!」
「汝らの名と貰った我の名はこの魂に刻んでおこう。もし消されそうになったら神であろうと斬ってやるわ!」
 そうして世界を騒がせ死してなお戦を求めた一刀斎は穏やかに笑い目を閉じた。

「あぁ、我が生涯に一片の悔いなし」
 

成否

成功

状態異常

なし

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