PandoraPartyProject

シナリオ詳細

咲き誇れ、約束の桜

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●二人の少女
 春野日向と桜宮美夜という二人の少女がいた。
 日向は両家の御令嬢、美夜は病弱だったがとても賢い古本屋の娘だった。
 出逢いは偶々日向が女学校の帰りに立ち寄った大きな桜の木の下だった。根元に腰掛け静かに本を読んでいる美夜に日向が声をかけたのだ。
 美夜は様々なことを知っていた。
 歴史はもちろん異国の物語、空の星々の神話など。挙げれば枚挙にいとまがないが、本当に沢山のことを楽しそうに話してくれるのだ。
 その時の笑顔に日向は強く惹かれたのかもしれない。美夜は身体が弱く、学校に行きたくても行けないのだと言った。だから代わりに、日向が学校での話をした。こんなことを習っただとか、あの先生はどうだとか。教科書を貸してやった日にはとても喜び読み耽っていたほどだ。二人はやがて親友となり、そしてそれを超えた想いを抱く様になった。
 言葉にせずとも、互いに分かっていた。

 平穏な日常が変わったのはとある冬の日のことであった。
「日向ちゃん、私ね来年の春に死んじゃうかもしれないんだって」
「えっ……」
 なんでもないことの様に美夜が口にしたものだから、日向は若干反応が遅れてしまった。
「病気がね、いよいよ悪化してね。もうお薬や注射じゃダメなんだって」
「そんな、なんとかならないの」
今にも泣き出しそうな日向に美夜はただ微笑むだけだった。
「らいねんの、はるなんだよね」
「うん」
 一呼吸置いて、日向はきっと真っ直ぐ美夜を見つめた。
「美夜、結婚しよう。私、来年学校卒業するから。それまで待ってて。その夜、あの桜の下に私急いで行くから。式は二人でするの、あの桜の下で二人だけで」
「……嬉しい」
 じわりと美夜の目尻に涙が浮かんだ。透明な雫が伝い落ちていく。数秒後、二人の影が重なった。

●桜の下には
 そして春がきた。
 先生、後輩から沢山の祝辞を受けていた日向だが彼女の頭の中は愛おしい婚約者のことでいっぱいだった。もしかしたらこれが最期の別れになるかもしれない。それでも、きっと世界で一番大切な日になることには違いなかった。

「は……結婚?」
「そうだ、お前の嫁入りが決まった」
 春野日向は己が耳を疑った。
 目の前で腕を組んだ父親は何か続けているが耳に入ってこない。暖かな陽だまりから暗く冷たい谷底へ突き落とされた様な気分だった。
 相手は何度か顔を合わせただけの歳もずっと上の男だった。とある財閥の次期当主らしい、なるほどそこに嫁げば我が家は安泰という訳だ。
「そんな急に」
「お前が学校を卒業したらと、決まったことだ」
 日向は口を真一文字に結んだ。昔からそうだ、習い事、お友達、学校だって自身で選ばせてもらったことなんかない。全部全部お父様のお眼鏡に叶ったものしか与えられなかった。
 私にだって好きな人はいるのに。
 想いあっている人がいるのに。

「……そうですか」
 名前とは正反対の冷たくどす黒い怨嗟を乗せた声。思わずこちらを見た父の顔面に日向は置いてあった湯呑みの茶をぶちまけた。
 熱さに顔を覆う父親と慌てて拭くものを持ってくる侍女を見下ろしながら、日向は呟いた。
「こんな世の中に未練なんてないわ」
 家紋が刻まれた簪を床に叩きつけ、思い切り踏んだ。繊細な細工が哀れな断末魔を挙げて事切れる。
 背中にかけられる怒声を無視して日向は走った。
 家の者が追いかけてくる気配がする、知ったことではない。只直走る。
 約束の桜の下へ。

 ――二人だけの、綺麗な世界へ行きましょう。

●最期の約束
「よう、今回の依頼は追われてるお嬢さんの護衛だぜ」
 桜の花の栞を本に挟んで、朧はあなた方に向き合った。
 追われているのは名家の御令嬢。父親に反発し家を飛び出したとのこと。だがどうやら、ただ単に反抗期を起こした訳では無いらしい。
「お嬢さんは余命幾ばくもない同じ年のお嬢さんと結婚の約束をしてたんだが……よりによってその日に父親が勝手に結婚の約束を取り付けちまったのさ」
 そして今までの事も重なり怒りが爆発した上で、この世界自体に嫌気がさしたらしい。
 そして二人だけの世界に行きたいのだそうだ。

「……多分だが、お嬢さんはお相手さんと一緒に死ぬ気だね。それが望みなんだろうさ」
「それを知った上でお前さん達がどうするのかは任せる。そんじゃ、頼んだぜ」
 朧はあなた方を送り出した。

NMコメント

 初めましての方は初めまして。
 そうでない方は今回もよろしくお願い致します。白です。
 今回は少女を追ってから守って下さい。
 その後どうするかは、お任せします。

●目標
・日向を追手から守り約束の桜へ到着させる

●舞台
 明治~大正を混ぜたような異世界の日本です。
 和洋折衷の世界観となっております。

●場所
 スタートは日向が飛び出してから10分ほどたった頃です。
 かなりの数の追手が連れ戻そうと追いかけてきています。
 ただし一人一人はそこまで強くありません。
 桜の木までの時間は日向の脚で走り続けて一時間ほどです。

●NPC
・春野日向(17)
 両家のご令嬢。それまでなんでも父親の言いなりになっていました。
 後述の美夜と互いに惹かれあい結婚の約束をしましたが父親に結婚まで決められこの世界との別れを選びました。
 美夜と合流し約束を果たした後彼女と共に逝くつもりです。

・桜宮美夜(17)
 余命いくばくもない病弱な少女です。
 病の所為で学校に行けず本に囲まれ育ちました。
 桜の下で婚約者の日向を待っています。
 彼女が世界を旅立つ運命は変えられません。

●サンプルプレイング
 ふたりだけの世界、きっと綺麗なところなんでしょうね。
 わかった、二人の式をじゃまするモブは全員吹っ飛ばしちゃう!

 こんな感じです。それではいってらっしゃい。

  • 咲き誇れ、約束の桜完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年04月15日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

リプレイ


 もし、愛しい彼女が同じ状況だったら自分はどうするだろうか。
 左手の薬指に光る狼と青い蝶のモチーフをあしらった結婚指輪を見つめ、ジェイク・夜乃(p3p001103)は静かに溜息を吐いた。
 結婚を約束した相手が余命幾ばくもない。
 それを知ってか知らずか、父親は追い打ちをかけるように娘の意思とは関係なく無理やりの婚姻。
「……まあ、事情はだいたい飲み込めたがよ」
 それでも一箇所だけ納得が出来ない点がある。
「愛する者と一緒に命を断つってのがな。美夜も、そんな事を日向に望んでいるかも疑問だぜ」
「わたしは父親に後悔させるために自殺を完遂して欲しいんだけどね」
 鈴を転がしたような可愛らしい声色で紡がれたのは残酷な言葉。
 メリー・フローラ・アベル(p3p007440)だ。
「親の都合で子供に我慢させようってのが気に入らないわ。親は子供の奴隷であるべきよ」
 清々しいほどの暴君っぷりに若干空気がぴりつくもののメリーは素っ気なく言う。
「止めたい人は好きにすればいいわ」
 ふいと顔を背けたメリーに困った様に笑いながらジョージ・キングマン(p3p007332)は二人だけの世界、か。と零す。
「それは、実に素晴らしい世界なのだろうな。ただ、それが相手の望む未来なのか。それは、測りかねるところだ」
 美夜は本当に日向に死んでほしいのか?
 事前の情報から伺うにジョージにはどうもその様には思えなかった。
 思考はそこで中断される。此方に駆けてくる足音が迫ってきていたからだ。


 ――走り続けて途中転んですぐ立ち上がってまた走る。
 制服も靴も泥だらけで、嗚呼もうすぐ結婚式なのにと日向の涙に目尻が浮かぶ。お化粧だって出来ていないが此処で脚を止めれば連れ戻される。約束を果たせなくなる。それだけは、嫌だった。
「――ッ!」
 突如面前に現れた四人の人影。先回りされていたのだろうかと必死に視線を巡らせ逃げ道を探す日向に大きな手が差し出される。きょとんと見上げれば柔和に微笑む紳士が一人。ジョージだ。
「安心してほしい。私達は君の味方だ」
 手を取ってよいものか悩んでいる日向だったが、約束があるのだろうという言葉にはっと顔を上げた。恐る恐る触れた掌は温かく、初対面の筈なのに真心が伝わってくる様でとても安心できた。
「そうそう、どーも、通りすがりの恋する乙女の味方です」
 リア・クォーツ(p3p004937)が茶目っ気を交えながら言う。
 但しそのサファイアのような蒼穹の瞳は真剣に日向を見つめていた。
「ここは任せて、先に行っていて」
「でも」
 ちらりと後ろを見た日向の視線の先にはざっと見ただけでも二、三十は居るであろう追手が日向を連れ戻さんと此方に向かって来ている所であった。
 不安げな日向の瞳にリアはひとつウインクをする。
「大丈夫よ、絶対に邪魔をさせないから」
 もし、自分に姉が居たらこんな感じなのだろうか。
 こんなに、安心できるというのか。
 思わず零れそうになる涙をぐっと堪え、震える声でお願いしますと小さく呟き一礼した後日向は再度駆け出した。
 「さて、邪魔者はさっさとお帰り頂きましょうか?」
 結婚式の招待状、持ってないでしょ?
 にっと口角を引き上げたリアの挑戦的な笑みが戦闘開始の合図となった。


「くそ、さっさと其処を退け!」
 スーツ姿の男がジェイクに掴みかからんとする。が、その手は届かず男は地面の中へ真っ逆さま。
「はは、悪いな」
 拳銃から放たれる網は決して命を奪うことはしない。
 網から皮膚を伝い流れた電流は人一人を気絶させるには十分だった。
「二度は同じ手は喰らわねえぞ!」
 落とし穴を避けた革靴の先にはまた別の罠。
「スネアトラップって知ってるか?」
「はへ?」
 途端に宙へ持ち上がる男の身体。ぶらんぶらんと木に吊るされてしまえばもう何もできなかった。
 その姿を嗤いながらメリーはその呪いを口ずさむ。可憐な少女が歌う様に
「あ、あれ……? 力が、抜け」
「私的には父親と同罪だと思うし、死んでいいと思うんだけど。ま、お優しい仲間と足並みを揃えるのも大事よね」
 メリーの口から言葉が紡がれる度に、男たちは一人また一人と心地よい脱力感に襲われ膝を折った。
 その奥ではジョージの叩きつけた拳が大地を割り、抗うことが叶わぬ大波の如く男たちを薙ぎ払っていた。極められた身体から放たれる闘気と衝撃波の前にへたりと男の一人が尻餅を着く。戦意喪失した相手にまで、ジョージは拳を振るわない。
「お前達の主に伝言を頼むとしよう」
 ジャケットの襟を正し、僅かに袖口に着いた埃を払いながらジョージは続けた。
「娘の言葉を今一度、気に掛けるといい。さもなくば、再び俺たちが立ちはだかる事になるだろう」
 言葉こそ丁寧だが眼鏡の奥に光る瞳の中の静かな怒りを感じ取り、男は首を縦に動かすことしかできなかった。
「それは五線譜が織りなす奇跡。星々の煌めきよ、精霊たちよ我に力を与え給え」
 銀に輝く魔法の五線譜。心のみを捉える美しい軌跡を描きリアは戦場を駆ける。風に靡いたシスターヴェールは宛ら銀河の様であった。
「……?」
 縛られている訳ではないのに身体が動かず男たちは困惑する。
 何故か涙が溢れてくる。心が洗われる、とはこのことを云うのであろうか。

 ――そして特異運命座標に抗うものは居なくなった。

● 
 幽玄の桜の下で美夜は日向を待っていた。
 ごほごほと咳き込めば真っ赤な鮮血が口から溢れ出る。
 ハンカチでそれを拭って美夜は赤が染みた布をじっと見つめていた。
「美夜!」
「日向!」
 大好きな彼女の声が聞こえて美夜は後ろを振り返った。
 あんまりにも彼女の服が汚れていたので美夜は驚愕した。どうしたのかと聞けば色々あってと笑う日向に釣られて美夜も笑う。
 やがて少し後ろから現れた四人にこの人達は? と美夜は日向に問う。
 助けてくれたんだよと日向が返せば美夜は礼儀正しく一礼をし、感謝を述べた。
「言ったでしょ? 恋する乙女の味方ですって」
 にっと笑った後にリアは慈愛に満ちた瞳で少女達の前に立つ。
「日向……もし、貴女がここで愛する人と一緒に命を断とうとしているのだとしても……とりあえず、あたしのお願いを聞いてくれないかしら?」
 見透かされていたのか、という表情で日向はリアを見上げた。
 静かに頷いてリアは続けた。
「あたしに、二人の新しい「始まり」を祝福させてください。あたしは神に仕える聖職者……あたしには、あなた達にしてあげられる事がひとつあるの」
 桜を見上げながらリアは両腕を広げた。
 頭上から降り注ぐ花弁はライスシャワーにぴったりだ。
「そう、ここで結婚式をしましょう。神にふたりの永遠を誓い合うの。そうすれば、例え肉体が滅びても、想いと魂は決して分かたれる事はない」
 ウエディングドレスもブーケも用意してあげられなかったけれど。
 この依頼を受けると決めリアはすぐに朧にとあるものを頼んでいた。
 二人の前に差し出した小箱を開くと、少女達は瞳を輝かせた。
 桜の意匠が施されたシンプルながら清廉な輝きを放つ一対の指輪が並んで小箱の中に収められていたのだ。

「綺麗……あ、でもお金……」
 途端に眉根を寄せた日向の眉間を軽くリアは突っつく。
「いらないわよ、私が勝手に用意したんだから」
 その代わり、とリアは日向の手を取りもう一度真直ぐに彼女の瞳を見つめた。
「日向がこれから生きていく限り、美夜の魂は……彼女の生きた証は決して失われることはないわ……だから、生きて、日向。これから先、愛する人が居ない生活を送るのは、辛く苦しいかもしれない。でも、貴女達二人の共に歩んできた大切な時間を、ここですべてなかった事にしないで。」
 勿論、美夜が日向に一緒に来て欲しいのだったらとリアは寂し気に括った。

 誓いの言葉を紡ぎ、擽ったそうに笑いあう二人の少女を離れた場所からジョージは見守っていた。あの聖域にずかずかと踏み入るべきではないと感じたからだ。
(未来がどうなるかは知らん。だが、この時、この一瞬は、二人だけの世界なのだから)
 幸あれかしと、ジョージは小さく祈った。
 ジェイクは思い出していた。たくさんの仲間たちに祝福され、愛する人と一緒になれたあの瞬間を。それに対して、彼女達の式は二人だけ、そこに偶々居合わせた自分たちだけが離れた場所から見守っているだけ。
 なのに、彼女達は心から幸せなのだろうと、その表情から読み取ることが出来た。故に出来れば日向には生きていてほしいと強く願っていた。
 
 日向は美夜の手を取り、指輪を左手の薬指に嵌める。
 緊張で少し手間取ったが、しっかりと指輪は収まった。
 続いて美夜から日向に指輪が贈られる。
 二人の永遠の愛の証、二人を繋ぐ絆の証。

「――それでは、誓いのキスを」
 リアの言葉に少し恥ずかしそうに数秒見つめあった後、日向と美夜の唇が重なった。
「ね、日向ちゃん。私達本当に結婚できたんだね」
「うん、うん。私達夫婦になったんだよ美夜」
 額を突き合せ、幸せの涙がとめどなく溢れる。
「私ね、今、一番幸せだよ」
 再度咳き込み美夜はまた血を吐いた。
 慌てて抱き抱える日向にごめんねと美夜は謝った。日向は何度も首を振る。
 美夜は朧月に左手を翳す。
 月の光に煌めいて結婚指輪が燦然と輝いていた。
「日向ちゃん、私と夫婦になってくれてありがとう。愛してくれてありがとう」
「いっぱい、いっぱい愛するよ。これからも」
「日向ちゃん、あのね――」
 美夜の唇が何かの言葉を形作る。
 同時に日向の瞳が大きく見開かれる。
 とても幸せそうに微笑んで数秒後。美夜は瞳を閉じた。
 するり、と白く細い手が地に落ちた。
「美夜……?」
 喪われていく体温にゆっくり頭を振り日向は慟哭する。
 それでも、彼女が胸に仕舞っていた小刀を自身に突き立てることはしなかった。
 約束の桜は今、満開に咲き誇ったのだ。
 


成否

成功

状態異常

なし

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