PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ぬるりと出づる顔なき影

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ぬらりひょんが家にいる。
 その家の客人だと思いこむ。
 ぬらりひょんが家にいる。
 その家の主人と思い込む。
 ぬらりひょんが家から出る。
 その家は最初から空き家であった。
 ――出処不明の逸話

「あ? 空き家? そんなもんこの村じゃ珍しくもねえだろう平助! つまんねえ話もってくるんじゃねえよ!」
「へヱ、でもォ……」
「またそれか。“屁でもねぇ返事”をするなっていつも言ってるだろ! お前が何かいうとロクなコトが起こんねえんだよ!」
 カムイグラ北部の農村にて、平助と呼ばれた青年はいまひとつ合点がいかぬ顔でどやしてきた魚屋の主人に頭を下げた。理由はなんてことはない、「今日はあの空き家に魚を届けなくていいのかい」、という彼の頓狂な問いかけに対してである。
 彼は決して広くはないが高低差と足場に難のあるこの村で、老人がいる家々の買い物を買って出ることで日銭を稼いでいる。
 そんな簡単な仕事なら誰だってやるのでは、と疑問に思うだろうか? 血気盛んな若者達が挑戦しては一日もたずに競合することをやめるほどにハードで割りに合わない、と言えばその疑問も吹き飛ぶだろう。
 平助は幼いころから「自分がそうしないと誰もやらない」と言い出してそれを始め、次第に老人がふえつつあるこの村のライフラインとまで言うべき立場となっていた。
 ……話を戻そう。なぜ、平助がどやされることになったかについてだ。
 彼は魚屋の店主の言うとおり、相槌にはかならず「へぇ、でも……」と反論を挟んでくる。そして(殆どの人間は忘れているが)、その反論が誤っていた試しがない。
 ただ、やはり憤っているときに「でも」「しかし」「だって」というのは誰だって快くは思わない。結局、彼はその口癖をとられ「屁でもねぇ事を言う男」という、大変不名誉な異名を得ていたわけだ。
「分かりやした。じゃあ、今日はこれで全部っすね」
「おう、明日もキリキリ働けよ! お前の根性だけは買ってやってるんだからな!」
 じゃあ少しくらいは話を聞いてくれてもいいじゃないか、と平助は思ったが、言わないことにした。そして彼は、主人の顔、その顎の辺りをしばし凝視してから不安げな声で問いかける。
「そういえばご主人、最近お宅に客人は来ちゃいやせんか?」
「なんだよ気色悪ぃな。どこで聞いた?」
「いえ。……いいんす。失礼しやす」
 頓狂なことを聞く、というような顔をした魚屋の主人に一礼すると、平助は踵を返して家路についた。
 そして、平助はその日村を出て、二度と戻ることはなかった。
 数日後、高天京に現れた彼の口から調査依頼が出された村が、そもそもどこの記録にも残っていなかったのだから。


 ことは平助と魚屋の主人との会話の3日ほど前に遡る。
 「空き家」と呼ばれていた家は、村一番の長老・杉作とその孫娘の冬(ふゆ)とが2人で住んでいた。
 のだが、その日はたまたま人が来ていた。……人、なのだろう。しわくちゃの顔によぼよぼのなりで、しかしやや頭でっかちの姿は、杉作以上に老いているようにみえた。
 誰ですかィ――そんな彼の問に、杉作は「仲のいい客人だよ」と応じる。いい人なのよ、とお冬。何故かその日は、ずっと後ろをむいたままで顔を見せてくれなかった。ちらりと見せた顔、その顎元にひらひらとした紙のようなものが見え、平助は黄泉津から伝来したという「パック」なる顔に貼る濡れ紙を剥がしそこねたのだろうと得心した。
 翌日、彼はいまいちど■■の家に行った。そこには家の主人と____がいた。
 ____は前からこの家は『おじいちゃん』の家だったじゃないと言っていた。その日も、彼女は顔を見せてくれなかった。剥げかけの紙はもう顎に張り付いていなかった。
 その翌日、平助は足癖のように訪れたその家で、「この家は空き家ではなかったか?」という疑問が去来し、引き返――そうとして、思考の隅に浮き上がった驚愕とともに扉を開けた。
 驚いたように振り返ったお冬の顔は、のっぺりとした、つるりとした顔になっていた。
 要は、顔がなかったのである。
 なぜ彼がそこでお冬の名前を、杉作の家という情報を思い出したのかは定かではなく。その後、どのような流れで魚屋の主人と会ったのかを覚えていない。ただ。
「なんだよ気色悪ぃな」
 そういった主人の顎元に、『まるで手をかけたら顔ごと剥がれそうな』めくれ上がった皮膚が見えたのだ。
 何か、得体のしれないものがこの村にいる。
 そういえば、そもそもが杉作の家の『客人』に帰結する。そもそもアレの名前を彼は知らない。
 なにごともなかったかのように村を出て、しかし馬一頭潰す勢いで(実際に潰してまで)高天京に訪れた彼は生まれ故郷を失っていた、というわけだ。
 神使(あなたたち)は役人の前で膝から崩れ落ちる彼を介抱し、ことの次第を聞き出した。
 それから、ローレットの協力の下調べ上げた情報をもとに出た結論。
 平助の村に現れた「それ」は『マガツ妖怪』――羅刹十鬼衆『大叫喚地獄』豪徳寺 英雄により凶悪化の道を辿った妖怪であるという結論に至る。
 便宜名称『ぬらり坊』。
 文字通り地図から消えたその村へ、一同は平助の案内のもと向かうこととなる。

GMコメント

 シリアスを書くのに消費するカロリー量が最近一気に増えた気がする。

●成功条件
・『ぬらり坊』の撃破
・『のっぺらぼう』撃破
・(オプション)『のっぺらぼう(白)』の可能な限りの不殺フィニッシュ
・(オプションB)平助の生存

●そもそも『マガツ妖怪』とは?
 黒筆墨汁SD『<神逐>四神結界緊急防衛作戦』( https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4495 )が初出となります。
 『羅刹十鬼衆・大叫喚地獄』豪徳寺 英雄が率いていた凶暴化した妖怪達を指します。
 現在はカムイグラ各地で散発的に出現が報告されている模様。

●エネミーデータ
 ぬらり坊:ぬらりひょんとのっぺらぼうの特性を併せ持つ特殊なマガツ妖怪。
 家々に入り込んでは家の客人となり、いつのまにか主人となり変わり、住人の顔と情報を喰らって居座り、出ていくと同時に「家というコミュニティの情報」を食い尽くすとんでもない妖怪です。
 これが村全体に及ぶか村長の家の『情報』を食うことでその村は情報として認識できなくなる……トカまあそういうものだと思ってください。
 これによって地図とかで確認できない村が発生していても、現状認識できません。もとからない、ということになりますので。
 イレギュラーズが『名食いの村』到着時点でのっぺらぼうを従え現れます。
 HPはボス相応にあり、神秘攻撃力と命中が特に高いです。
・存在の揺らぎ(P):2種の妖怪の特性を持ち、常に不安定な存在です。ターン毎に『神無・物理耐性大幅低下(ぬらりひょん)』『物神両面そこそこの耐性(混じり)』『物無・神秘耐性大幅低下(のっぺらぼう)』の3パターンランダムに切り替わります。攻撃パターンは変わりません。
・客人の記憶(A):神近単・【魅了】【混乱】【狂気】のうちどれか1つ、【攻勢BS回復】【AP吸収(中)】
・亡失(A):神超ラ・【万能】【封印】
・顔剥ぎ(A):神至単・【暗闇】【呪殺】【必殺】

●のっぺらぼう(黒・白)×各10
 ぬらり坊の術中に嵌った被害者たちの成れの果てです。
 『黒』は救出不可能、『白』は不殺フィニッシュ後戦闘終了まで生きていればもとに戻る余地はあります。
 なお、OPに登場した杉作とお冬は『黒』です。
 能力共通、通常攻撃【レンジ2】【Mアタック(小)】【喪失】

●平助
 なんの変哲もない、ただ勘の良いだけの普通の男です。
 彼を同行させないと位置情報がわかっていても村に辿り着けません。
 彼を伴って村に入ることが必須となりますのでご注意ください(入ってからの処遇は成功条件に含まれません)。

●戦場
 忘れられた農村(名食いの村)。
 住宅どうしの距離もあり、家どうしの屋根伝いに、とかの戦術は使えません。ただし全体的に平面的で、戦闘でなにか支障になる要素はないでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ぬるりと出づる顔なき影完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月22日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)
鬼子母神
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
豪徳寺・芹奈(p3p008798)
任侠道
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


「顔を奪い情報を喰らう……ぬらり坊。概念に影響を及ぼす能力、妖怪らしいけれど影響力が強過ぎる」
「顔と情報を喰らい、入れ替わる妖怪か。ぬらり坊ってのは、全くもっておっかねえ妖怪だぜ」
 名食いの村へと向かう途上、『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)と『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は改めて平助から聞いた話を整理し、その厄介さに溜息をついた。存在を存在たらしめる要素は、主に顔(外見)、そして名前の2つ。ぬらり坊は乗っ取り、奪うことで両方をこの世にないものとして上書きする。
「認知できないとなれば、知らぬ間に被害が広がるし、大変なことになるだろう」
「平助君が村を見出せたのは幸い……と、言わざるを得ないよね」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が揃って平助の側を見ると、彼は肩を小さく震わせながら「申し訳ねえ」と呟いた。
「あれが何なのかは知らねえけど、杉作の爺様もお冬も、俺の知ってる奴はもう居ねえ。……そもそも、そんな名前だったか?」
 『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)は平助の背を軽く叩き、「私達が知らないうちに、そんなのが暴れてたんだね」と険しい顔で呟いた。恐らく、彼女の思考の裡では平助の無念が如何程ばかりか、そんな思考が巡っている。
「でも、居るのが分かってるなら退治できるもの。倒すよ。なかったことには、もうさせてあげないから」
「……それでも、残されてるものもあるのなら。救える者は全部救います!」
 『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)はティスルの言葉に応じるようにそう口にすると、静かに拳を握る。豊穣に生まれた新たな脅威は、なんとしても取り除かねばならない。国のためにも、その国を支える者の為にも。彼女にはその念が一際強いように思われた。
「……『マガツ妖怪』ね……正直、複雑よ。けど、不肖の息子の仕出かした事は親の責任でもあるわ」
「……これも『大叫喚地獄』が起した企ての一つと言う事か」
 『鬼子母神』豪徳寺・美鬼帝(p3p008725)と『任侠道』豪徳寺・芹奈(p3p008798)の感情には複雑なものが見え隠れしていた。『大叫喚地獄』こと豪徳寺 英雄は美鬼帝の息子であり、芹奈の兄にあたる。身内の不祥事、というには……『神逐』の戦乱も今回のことも、規模が大きすぎる。
 だからこそ2人は、豪徳寺の名を持つ者として敵を殲滅せねばならない。それが唯一の供養になると知るが故に。
「……見えるだか。あれが、……村だァ」
 平助は村の名前を口にしたように見えた。だが、その場にいる者達はその名を知覚することができなかった。これがマガツ妖怪の能力だとすれば、脅威で済まされるものではない。
 そして村の入口に辿り着いた一同は、寂れた囲いをまたいだ途端に現れた『村』に絶句する。先程までは認識していなかったはずのそれが、『踏み入った』のを機に認識できるようになったのだ。……成程、平助なしでは到底見つけようがない。
「それじゃあ平助君、村に入る前にこれを。……これをしっかり留めて、空き家に隠れたらあとは一歩も動かないで」
「あとは私達の役目です。ありがとうございました」
カインからマントとアーベントロート領の猫を預けられた平助は、何度も繰り返しイレギュラーズに礼をしながら空き家へと駆けていく。
 舞花はその背に一言告げ、身構える。村の奥から、或いは直ぐ側からずるりずるりとはいでてきたのっぺらぼう達は村に入ってきた『異物』に顔を向け、不思議そうに首を傾げた。
「怪態なこともあるものだ。儂がここに在るのに、気付くような輩がいるとは」
「お前は絶対にぶっ殺す」
「それ以上の狼藉は許しません。――マガツ妖怪、此処で我らが討ち果たしましょう」
 のっぺらぼう達の奥から現れたそれ――顔半分がつるんとした無貌、もう片方が老いさらばえた老人のような奇怪なモノ、マガツ妖怪『ぬらり坊』――は、思わぬ来襲に興味深げに目を細めた。ジェイクと舞花の啖呵にも些か程の動揺がないところを見れば、この邂逅をも察していたようだ。
「はて。儂が命を狙われる悪事を働いたかね。儂はここにいる為にこうした。呼吸を咎められ燃やされる植物がどこにある?」
「そこにいるだけで『私達』には理由になるのよ」
「そうだ、豪徳寺の者として、お前を殲滅し責任を取る」
 豪徳寺親子が険しい表情で見てくるのを、ぬらり坊は心から心地よいと感じた。悪意がよい、と喜んだ。
 尤も、彼の感情をより激しく揺さぶったのはジェイクの『餓狼』から放たれた初撃であったのだが。

●顔亡き者の円舞曲
「犠牲者を配下にする類の奴、か……いいや、まだ救える人は居る。迅速に仕掛けるよ!」
「此方で引きつけている間に、お願いします……早く!」
 カインは舞花に引きつけられ襲いかかるのっぺらぼう達目掛け、神気閃光を見舞う。威力は十分、されど殺さぬよう慈悲を以て叩きつけられたそれは、彼等に苛烈な手傷を負わせる。
「俺に皆さんを助ける力はない。だから、助けられない相手は確実に倒すしかないな」
「まだ帰ってこれるなら、なんとかしてみせましょう!」
 イズマは近づくのっぺらぼう達を次々と巻き込みながら、暴力的な戦いを展開する。すわ、白の個体をも殺してしまうかと思われた刹那、ティスルの振るった銀の太刀が割って入るように白のうち一体を切り裂き、その死をすんでのところで遮った。
「何処にも行かせませんよ! 貴方達の相手は私達です!」
 朝顔は『夜明刀・向日葵』から放たれた衝撃刃で以て群れから逸れた白のっぺらぼうを引きつけると、続けざまに振るった不殺の刃で斬りつける。それでも倒れるには浅いか、伸ばされた手が朝顔の肩を強く掴むと、僅かな虚脱感が駆け上がる。
「倒せる個体から確実にいきましょう。数が多いですから」
 舞花は近付いてくるのっぺらぼう達から伸び上がる手を次々と切り払い、苛烈な攻勢を仕掛けていく。こと、傷つけられた黒の個体は優先して攻めこみ、白の個体は仲間が狙いやすいよう誘導する足取りは華麗の一言。
「村人だった人達と僕達が戦う姿は見せなくてよかった……んだろうね」
「平助さんの身の安全が第一よ。そのうえで、見なくて済む悲劇があるならそうすべきね」
 カインは倒れていくのっぺらぼうを視線で追うと、鎮痛な面持ちでぽつりと零す。ティスルはその辺りを割り切っているようで、太刀を振るう動きには些かの躊躇も感じられない。……或いは、黒の個体を両断する際の太刀筋に揺れる雷の華こそが、彼女なりの手向けなのかもしれないが。
「おのれ……儂の同胞を……!」
「ハハッ、勝手に寄生して顔と名前を奪って自分を頼らざるを得ないようにした人間の成れの果てを『同胞』と呼ぶとは笑い話だぜ! なあ芹奈!」
 ぬらり坊は膨れ上がった怒気を叩きつけるようにジェイクへと向け、激しい攻撃を繰り返す。当のジェイクはといえば、十分な距離を取りつつぬらり坊の足を自分へと向けさせ、のっぺらぼうと交戦する仲間へといかせまいとする。ぬらり坊の何度目かの攻撃は、しかし先程までと同じく芹奈の刃に阻まれた。
「拙は退かぬぞ、マガツ妖怪。お前がどのような技を持とうと、怒りに身を任せた姿で何ができる」
「そうよ、私が手塩にかけて育てた娘が簡単に倒れてたまるもんですか!」
 芹奈が前に出て攻め手を阻み、ジェイクが後方から銃弾を打ち込み、そして傷ついた芹奈を美鬼帝が癒やす。ぬらり坊の特性は(特に『のっぺらぼう』の姿は)ジェイクの攻勢にとって鬼門であったが、さりとて任意で切り替えられぬところが鬼門であった。攻撃が通用せぬなら感情を揺さぶることに腐心し、銃弾を遮らぬ『ぬらりひょん』になったのなら徹底的に攻めに回る。世辞にも回避や、不調を制御する力を持っていると言い難いぬらり坊は、まんまとイレギュラーズの手の内に嵌った格好と言えた。
 ……尤も、彼を止める代価として5人で20の大群を相手取るのは簡単ではないが、それも熟練の者達であれば無理ではなかろう。
 状況は刻一刻と変化する。戦力的な不利を覆した次に襲いかかる命題は――より多くを救うための天秤への干渉だ。


「倒れた白いヤツが巻き込まれたら意味がない。助けられるなら、そうすべきだが」
 イズマは何体目かの黒いのっぺらぼうを仕留めると、今しがた一緒に転がった白い個体に目を向ける。かろうじて息はある。仲間が殺さぬよう手を尽くしたのだ。……吹けば散る命が戦場にある焦燥感は、彼のみならず重い感情だ。
「早いところ黒を倒す、手が空いてる人はどこかに引っ張る、巻き込まない攻撃で倒す! 思いつく限りだとそれくらいかな」
「家の裏とか、戸が開いてるならその中に放り込みたいけど……」
 カインはその焦燥感を理解しつつ、対処法を指折り数えて列挙する。数を相手にした戦いでは簡単な提案ではないが、既にティスルは数名ほどを物陰に隠している。
「白い人達は巻き込まないように……絶対に、救える人は救いたいんですから……!」
「ええ、その為に……まずは黒を殺さなければ」
 朝顔の祈るような声と共に苛烈な斬撃が渦を巻く。舞花はその強烈な戦いぶりを見つつ、自らへと尚もすがりつくのっぺらぼう達を斬り伏せた。
「黒はもう2体くらいね。……ごめんなさいね、ちゃんと殺してあげるから」
「白いのは絶対に殺さない、殺させない……僕達を信頼してくれてる平助君のためにも!」
 ティスルは黒の個体を切り伏せると、もう1体へと斬りかかる。奇しくもイズマの邪剣と折り重なる格好になったその一手は、確実に最後の黒を討ち果たす。
 カインの視界は、彼等に増して目まぐるしい。攻め立て、殺さずに倒せる者にとどめを引き継ぐ戦術は、見立てを誤るとあっという間に『殺してしまう』。そのための知識、そして神気閃光による殺さずの範囲攻撃。
 戦力差は単純にして4倍、そして殺さぬ為の対応を迫られる状況。決して簡単な戦いではない筈だが、それを為したのは舞花の引きつけとカインの神気閃光によるところが大きく、それを軸に個人技がうまく噛み合った結果といえた。
 畢竟、彼等はジェイク等の消耗が然程激しくない段階でぬらり坊への対処に回ることに成功する。
 それがもたらす影響の大きさは、語るまでもないだろう。

「ハッ! 少しは効いただろう、マガツ妖怪。貴様に殺されて者達への痛みの幾分かは感じてもらおう……何より拙の怒りを当てさせてもらう」
「マガツ妖怪、などという雑な括りで儂を語るな小娘! 儂には確かな名があるのだ! 賜った名が!」
「それが『ぬらり坊』なんて中途半端な名前か、笑わせるぜ」
「小僧ォ……!」
 芹奈の一撃がぬらり坊の身を打ち、怯んだ一瞬目掛けジェイクが放った一撃が叩き込まれる。魔種を倒すべく練り上げられた射撃術は、翻って、悪意ある個体を仕留めるのに十分すぎる力を持ち合わせていた。
 だが敵もさるもの。イレギュラーズ3名を向こうに回し、苛烈な攻勢に晒されてなお暴力の限りを尽くしていた。……それまでは。
「残念だったな、ぬらり坊。お前の大事なお仲間は全て俺達が倒した」
「…………ッ!」
 イズマが不意打ち気味に放った物神一体の一撃は、ぬらりひょんの姿をした相手に鋭く突き刺さる。相手にもっとも効果的な一撃を、最大効率を見込めるタイミングで放つ。これもまた、不意打ちとして正しい選択だ。
「判断が鈍ったわね。一気に叩き込んであげるわ」
 続けざまに放たれたのは、ティスルの鋭い3連撃。最後の突きの姿勢そのままに螺旋を描いた太刀は、雷を帯びて大きく薙ぎ払われる。一気呵成と叩き込まれた攻撃は、守りを固めてなお深く響く。
「ここで逃したら元の木阿弥だね、確実に仕留めないと!」
「ええ、絶対に逃しません」
「この一撃では殺せないかもしれないけど……それでも、殺す手助けはできますから」
 カインと舞花の攻め手が折り重なり、一歩も動けぬ状態のぬらり坊に叩き込まれたのは朝顔の一撃だ。重いが殺せぬその剣は、しかし『次で殺す』という意思表示でもある。
 ぬらり坊の姿が揺らぐ。仲間達の傷を癒やし、母なる感情を以て戦場をコントロールしてきた美鬼帝は、そのタイミングを逃さずに雷撃を叩き込む。
「どう? 結構効くでしょ、この雷。……これでも結構怒ってるのよ、私……だからちょっとだけ八つ当たりさせてね」
「な――」
 まるで先読みされたかのような一撃は、不意を打って深く響いた。だが、それで終わるだろうか?
「……死に晒せぇ、このドアホウが!」
 答えは否。
 2度にわたる雷撃、そして神秘の技巧に長けた者の総攻撃を受け、ぬらり坊は惨たらしくその屍を晒すこととなった。

「あの…酷だとは分かっていますが……遺体を見て、誰なのか教えて頂けませんか?」
「こいつァ俺の息子だ」
「あれはあっしのおっかあでさァ。……ああ、変な男を引き込んだなんて聞いたらこんなことになるなんてなァ……」
 朝顔は、気絶状態から立ち直った白ののっぺらぼう『だった』人々と平助を交え、命を絶たれた者の身元の照会にあたっていた。「顔のない誰か」のまま埋葬するのは、余りに悲惨であるという判断からだ。そして、それは正しかった。余りに多い被害は、しかし顔がなくとも姿で分かる農村の人々のあり方を映し出す。
「ごめんなさい……私の愚息の所為で貴方達に迷惑を掛けてしまって。……この償いは必ずさせるし……私も償うわ。だから今はもう少しだけ時間を頂戴」
「申し訳ない。豪徳寺の者として謝罪する。……いつか貴方達の為に仇は取る……必ず」
 豪徳寺親子は墓を掘り、弔いつつも謝罪の言葉を絶やさない。息子であり、兄であり。2人にとって重い相手が為した凶事は、今ここで最悪の形で花開いたといえる。
「助けられなくてすまねえ」
「へェ……でも、あんたはなんも悪くねェです旦那。この村は、まだ生きていやす」
 ジェイクの謝罪の言葉に、平助は首を振った。いつものように、『屁でもない』言葉で。

成否

成功

MVP

カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者

状態異常

なし

あとがき

 ぬらり坊に対する対処は(こういう表現が適切かはともかく)最適解に近かったと思います。役割分担も自分たちの強み、弱みをしっかり把握していた感じがあり良かったと思います。
 MVPはのっぺらぼう側の「生存者」の増加に寄与したあなたへ。ぶっちゃけ複数名の候補から選ぶのとても大変でした。

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